『アナベル・リー(Annabel Lee)』は1849年、エドガー・アラン・ポー(Edgar Allan Poe:1809年1月19日~1849年10月7日)の死後2日後に発表された、とても美しい詩のひとつ。ポーというと『モルグ街の殺人』などのオーギュスト・デュパンもの、『アッシャー家の崩壊』『黒猫』『黄金虫』『早すぎた埋葬』...と怪奇小説、幻想ミステリーな作品を40年の短い生涯の中で残し、今日も多くの影響を与え続けているお方。ポーはアメリカ人ながら、英国での教育も受けているのでイェーツなども多大な賛辞を送っているし、フランスのボードレールやマラルメにも大変影響を与えたお方。私が最初に読んだのは『黄金虫』(怖くて最初は最後まで読めずにいた)。
ポーは小説家でもあり詩人でもある。詩は特に大好きな作品が多い。怪奇小説の名作たちとは趣きが異なり、ポーのロマンティストで繊細な部分がとてもよく表れているからだうと思う。『大鴉』もとても好きだけれど、今回は最後の詩『アナベル・リー』を。これは妻ヴァージニア・クレムに捧げられたもので、ウラジーミル・ナボコフの『ロリータ』の源流とも言えそうで、ポーのものは実話なので、さらにこの美しい詩が痛切に響く。ヴァージニアが13歳、ポー27歳の折に周囲の猛反対を押し切りお二人はご結婚された(当然、合意の下)。しかし、運命とは...この幼い愛する妻(従姉妹である)は結核を患い、僅か24歳の若さで他界。看病中からポーの絶望や苦悩は精神的にもかなり影響し、アルコールに溺れる日々が深まってゆく。ヴァージニアの死後はさらに酷く、最期は路上にて(アルコールの多量摂取によるものと言われてもいる)40歳の生涯を終えた。二人の愛は深く結ばれていたと思う。なので、この悲哀と憂愁の美しい詩は私の心を捉えて離さない。幾度も彼女の名を、幾度も麗し(美わし)の、と詠う。足りない程だったろう...。
(後半部より)
その昔 この海沿いの王領で、雲から風が吹き降りて、
麗しのアナベル・リイを冷したのは、それ故か。
高貴のやから訪れて 女を私から奪い去った。
この海沿いの王領の 墓にいれんとて。
天上の幸及ばぬ天使らは 女と私を羨んで立ち去った。
まことに、それ故であった(海沿いの王領で誰も残らず知っているが)
夜半、風が雲から吹き降りて アナベル・リイの冷たくなったのは。
しかし私達の戀は、私達より年上の人の戀よりも
私達より賢しい人の戀よりも、はるかに強かった。
み天の天使 海の底の悪魔さえ
決して私の魂を、美わしのアナベル・リイから裂き得まい。
というのは、月照ればあわれ 美わしのアナベル・リイは私の夢に入る。
また星が輝けば、私に美わしのアナベル・リイの明眸が見える。
ああ、夜、私の愛する人よ、戀人よ。
私の命、私の花嫁のそばにねぶる。
海沿いの墓のなか
海ぎわの墓のなか