特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

あっしの足が・・・。

2024-04-30 06:20:41 | 遺体処置
中年男性が電車事故で死んだ。自殺ではなく、事故らしい。

検死も済んで遺体は自宅に戻ってきていて、出血がひどくて特殊清掃の依頼が入った。遺体はまだ部屋に安置されていたのだが、汚れた部屋に安置しておくのは遺族も偲びなかったのだろう。

遺体の取扱いは一応手馴れているので、作業ついでに葬儀社が用意した柩に故人を納めてあげることにした。

「ヨイショ!」と持ち上げてみたら以外と軽い。身体を柩に納めたら、遺族から

「あのぉ・・・足が・・・」と。

故人が安置されていた場所を見ると、片脚が敷布団の上に残っている。「ゲッ!片脚がとれてたのかよ!」「先に言っといてくれよ!」と内心動揺。場が場なだけに、笑ってごまかす訳にもいかず、平静を装って、再び残った片足だけうやうやしく手にとって、柩へ納めた。特殊清掃で部屋をきれいにするのが仕事の私が、余計に部屋を汚してしまった。まったく気まずかったし、格好つかなかった。

でも、その時、「所詮は人間でも動物なんだな。見た目には人肉も人骨もビーフやチキンと変わりないじゃないか。」と思った。しかも、当日は焼肉が食べたくなってしまった(さすがにこの神経はおかしい?)

そんなことがありながらも、相変わらず私は肉を好んで食べている。思い出しても気持ち悪くない。
死体を取り扱う仕事は、それだけ神経太くないと務まらないと勝手に自負している。


社会的にも認知されず、誰も誉めてくれないので、自画自賛するしかない。


トラックバック 2006/05/30 投稿分より


-1989年設立―
日本初の特殊清掃専門会社
ヒューマンケア株式会社
0120-74-4949


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香りのソムリエ 

2024-04-29 09:59:12 | 腐乱死体
  • マンションの大家さん依頼があって現場へ出掛けた。間取りは2DKで最上階の角部屋。

腐乱死体が発見・処理されたのは約一年前で、あとはそのままの状態で一年間も放置され
ていた現場だった。
一年間も手を入れずに放置しておくなんて、かなり珍しいケースである。隣近所はもちろん、大家さんもそんな物件を抱えたままで気持ち悪くなかったのだろうか、と不思議に思った。
同時に「一年経過した腐乱臭は、どんな臭いになっているだろう」と興味を覚えた。

「腐敗臭の中でも、めったに嗅げない匂いに違いない」といそいそと出掛けた自分に苦笑い。

誰もが忌み嫌う腐乱死体の発見現場に喜んで出かけて行く訳だから、我ながら、つくづく神経が麻痺してきていると思う。
現場に到着して、玄関を入ってみたら、全く期待外れ?で、いつもの腐敗臭と変わりはなかった。一年間熟成された腐敗臭がどんな臭いか期待していたのに・・・残念(バカな自分)。
逆に、一年経っても、悪臭度が全く低下しない腐乱死体のスゴさを感じた。


ただ、時間経過を思わせたのは、腐敗液を吸ったフローリング床がめくれ上がっていたことと、原因不明の木グズのような粉が床にたくさんあったことくらい。
腐敗当時はウジも大量に発生したはずだが、みんなハエになって飛んで行ったのだろう、ウジ・ハエは一匹もいなかった。どこかに飛んで行ったハエは、またどこかの死体に卵を産んで、子孫を増やしていることだろう。そして、その子孫達と私はまたどこかの現場で再会するかもしれない。

「ハエさん、お手柔らかに頼むよ。」

亀や鮭が故郷に戻ってきて再会するのとは次元が違い過ぎて、自分でも可笑しい。


トラックバック 2006/05/29投稿分より


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瀬戸際の釘

2024-04-28 13:31:10 | 自殺 腐乱
  • 古いマンションの一室。事業に失敗した風の中年代男性が首を吊った。部屋の様相から、一時は羽振りのいい生活をしたことが想像できた。

私が参上した時は、首にかけた紐も外れて遺体は座りこんでうな垂れているような格好になっていた。もちろん、腐った状態で。皮膚の色は青黒く、かなりの悪臭を放ちながら腐敗液が遺体の周りに染みていた。ちょうど腐ったバナナを人間に見立てた状態に近い。

依頼者はそのマンションの管理会社とオーナー。死体そのものは警察が持って行ったので、私の仕事は腐敗液を吸った畳の処分と腐敗液の付着した部分の清掃。こんなのは、いつもの仕事として淡々とこなした。

一番嫌だったのは、首を吊る紐をかけるために故人本人が柱に打ったネジ釘を抜く作業だった。自分が首を吊ったとき、その体重で抜け落ちないようにするためだろう(確実に死ねるように)、10本位のネジ釘が一箇所にまとまるようにねじ込まれていた。
それを、一本一本ドライバーで回し抜いていく作業が、何とも言えない気持ち悪さを覚えた。全部の釘を抜くのに10分くらい要しただろうか、逆算すると、打つときもそのくらいの時間を要したと思われる。
「死んだ故人は、一体何を考えながら、このネジ釘を一本一本打っていったのだろうか」と、考えたくなくても頭に浮かんでしまった。

自殺には色んな方法がある。ビルからの飛び降りや電車への飛び込みは、一気に事が運べるが、首吊りのように下準備が必要な方法の場合、本人はどういう心境で準備をすすめていくのだろうかと複雑な思いがする。

そんな私も、「何でこんな仕事やってるのか神経が理解できない」「よくそんな仕事ができるな」と思われている方々も少なくないと思う(苦笑)。

決して陽の当たる仕事ではないが、これでも少しは他人様・世の中の役に立っていると思っている今日この頃である。


トラックバック 2006/05/28 投稿分より


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家庭内別居

2024-04-27 16:07:01 | 腐乱死体
閑静な住宅街の大きな家。豪邸といってもいいくらい。腐乱死体は離れの小部屋にあった。


依頼者は故人の夫。広い敷地内の大きな家で、家庭内別居でもしていたのだろうか、妻が腐乱死体で発見されるまで異変に気づかなかったなんて。

依頼者はとにかく近隣への世間体を気にしていた。私が行ったときは、まだ妻の死を近所には知らせていないようだった。とにかく「近隣へ悪臭が漏れないように。」「清掃業者が入って作業していることを気づかれないように。」ということを重々念押しされて作業。
したがって、いつも使っている業務用車輌ではなく自家用車風の車で、機材の持ち運びも回りの目を気にしながらコソコソと。ユニフォームもスーツにネクタイ姿での作業になった。非常にやりにくかったし、自前のスーツに腐敗臭と腐敗液が付着するなんて我慢ならなかった。それでも、依頼者のたっての願いだから仕方がない。

更には、悪臭が外に漏れるのを防ぐために、戸や窓も締め切ったまま。
鼻が壊れそうになりながら、密室で清掃作業をすすめた。身体はもちろん、自前のスーツもタップリ腐敗臭が付着して、悲しかった。
決して高いブランドスーツではないけど、量販店で数万円するスーツだ。まさか、
この特殊清掃作業で着ることになるとは・・・

料金にスーツ代もプラスすればよかった。


トラックバック 2006/05/27 投稿分より


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どうすりゃいいんだよぉ

2024-04-26 09:38:56 | 腐乱死体
小規模の賃貸マンション。依頼者はマンションオーナー。いつもの調子で現場検証・見積りへ出掛けた。


玄関ドアを開けるといつもの悪臭。豊富な現場経験を自負していた私は、いつものノリで室内へ。「マスクとかしなくて大丈夫ですか?」とオーナーは気遣ってくれたが、「現場見積でいちいちマスクしててもきりがないんで・・」と余裕をかましていた。

故人はトイレで亡くなっていたと聞いていたので、トイレのドアを開けてみた。
そこで仰天!ユニットトイレだから、腐敗液が床に染み込んだり隙間から漏れたりしていないものだから、人間の容積がそのまま液体になったくらいの量の腐敗液が便器と床に溜まっていたのである。これにはさすかに驚いた!正直「どうすりゃいいんだよぉ」と思った。いつものように、作業手順が即座に組み立てられなかったのである。
私は、吐きそうになる現場は少ないのだが、ここではいきなり「オエッ」ときた。

この現場は、トイレユニットごと入れ替え必要があったが、まずは、その腐敗液を何とかしなければならなかった。
通常は、吸収剤+拭き取りで処理できるのだが、ここはそうはいかなかった。そんなレベルではなく、汲み出す必要があった。この汲み出し作業が辛かった!小さい容器を使ってトイレ床の腐敗液を少しずつ汲み出していくのだが、汲んでも汲んでもなかなか終わらなず、気持ち悪くて気持ち悪くて仕方がない。なにせ、液体人間を汲み出してる訳だから。腐敗液の中に落ちていたメガネが人間的なものを感じさせ、余計に不気味さを増長させた。

これが腐敗液だと思うと、直ちに「オエッ!」とくるので、何も考えないように、心を無にしてやるのがこの仕事のコツである。


この仕事は、死体の腐乱臭が身体や衣服をはじめ、鼻にもばっちりついてしまうのは言うまでもない。もちろん、そのまま家にも帰れないし、どこかの店に立ち寄るのもはばかられる。そんな仕事なのである。


トラックバック  2006/05/26 投稿分より

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助けて!クラシア~ン!

2024-04-25 20:34:16 | 特殊清掃
  • 古い小さな一戸建て。故人はトイレでなくなって腐乱していた。用を足していた最中なのか、その前なのか、その後なのか・・・考えても仕方がないことだが、考えてしまった。

床は腐敗液でベトベト・ヌルヌル、大量のウジが這い回っていた。
床の汚染はある程度拭き取って、クロスを剥がして完了(簡単なようで難しい)。
そして、問題が便器。便器自体の汚染も根気強く拭けば何とかなったが、一番往生したのがその詰まり。

腐敗が進み液化した人肉・脂肪等が便器内にタップリ溜まっていたと思われ、今度は、更に時間が経過したため、それが乾燥して凝固し、トイレが完全に詰まっていたのである。
糞尿で詰まることはあっても、人間そのものだったもので詰まるなんて・・・。
素人の方にも分かりやすく表現すると、茶色で固めのとてもクサーイ!粘土が、便器の奥から半分位までギュウギュウに詰められているような状態である。
まず、その塊を少しずつ除去。
機材の届く奥まで除去できたので「ヨッシャ!これで流れるぞ!」と勢い込んで水洗レバーを引いた。それが失敗だった。
トイレの詰まりは解消されてなく、流れでた水洗タンクの水は便器からオーバーフロー。

しかも!その水ときたら、黒緑色の腐った水(当然、臭い!)で、たくさんのウジも一緒にでてきた。タンク内の水を事前に確認する基本的なことを忘れてしまっていた。
タンクの水がなくなるまで汚水は流れ続け、私はなす術もなく呆然と見ているしかなかった。思わず、心の中で「助けて!クラシア~ン。」と呼んだ。
ただの詰まりとは違うけど、トイレの詰まりには違いないから、クラシアンなら「トイレのトラブル8000円」でやるのだろうか(やるはずないか)。

その後の作業をどうしたかは、この場では省略。ユニフォームを汚しながらも、頑張って綺麗にして遺族も喜んでくれた。もちろん、トイレの詰まりも解消。


トラックバック 2006/05/25 投稿分より

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ゴミ山の亡骸

2024-04-24 05:55:33 | ゴミ部屋 ゴミ屋敷
ある公営団地の一室。私を呼んだのは中年男性。「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン」(古い?)ではないが、玄関を開けてビックリ!いきなり真っ暗、よくよく見るとゴミの山。


亡くなったのはその中年男性の父親らしく、亡骸はまだ部屋の中にあるとのこと。
土足で中に入ったところ、ゴミ山の中に一畳弱のくぼみがあり、汚れた布団らしきものが見えた。
恐る恐る掛け布団をめくってみると、冷たくなった老人が横たわっていた。
部屋の様子に反して遺体は若干の汚れはあったものの通常だったので、とりあえず安堵。特に腐敗が進んでいる様子もなく、警察の検死も済んでいるらしかった。
故人は、4年前、奥さん(中年男性の母親)が亡くなった時のまま、家の中の物には一切手を触れさせなかったとのこと。心配した身内が頻繁に出入りしていたにも関わらず、誰にも掃除もさせず汚れた洗濯物と食物ゴミが蓄積されていって、このゴミ屋敷が完成したらしい。

故人は、奥さんと二人で暮らした部屋をその当時のままにしておきたかったのだ知り、臭くて汚い部屋にいながらも、ちょっとした感動を覚えた。
それから、遺体処置からゴミ屋敷の特殊清掃撤去へと作業は進んでいくことになるのだが、いつもの現場と違って汚いゴミもそんなに汚く感じない仕事だった。

トラックバック 2006/05/24投稿分より


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いい湯だな~

2024-04-23 08:19:35 | 浴室腐乱
浴室で発見される腐乱死体も珍しくない。いい気分で湯に浸かってそのままあの世に行くのも本人にとっては悪くない話かもしれない。
ただ、残された者のとっては災難だ。
持家ならまだマシなのだが、賃貸物件ともなると近隣や大家に対する社会的責任を追求されたり、水回り工事に莫大は費用負担を強いられるからだ。
では、我々業者はどうか。これがまた難しい。
湯(水)の色は濃いコーヒー色に染まり、脂や皮が浮いている。もちろん、強烈は悪臭はどの現場も共通。水は濁っていて浴槽の中がどうなっているか分からない。下手に栓を抜いて配管を詰まらせでもしたら、もっと大変なことになる。
不安と憶測が渦巻く中、水の中に何かないかをまさぐる。何が出てくるか分からないところを探るというのは、結構緊張するものである。露天の金魚すくいで、紙網が破れないかどうか心配するのとは訳が違う。
ほとんどの場合、皮・髪・小骨だが、時にはビックリ!するようなものがでてくることがある(内緒)。
配管を詰まらせないように汚染水を抜くには経験が要るが、汚染水を処理できれば仕事の8割は成功したようなもの。
あとは、頑張って我慢して、我慢して頑張って、お掃除お掃除。

トラックバック 2006/05/23 投稿分より


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ロープはどうする?

2024-04-22 08:23:16 | 特殊清掃 自殺
日本人の自殺者は一日約100人にのぼっていることは特に新しいニュースではない。
日本人の自殺方法で最も人気のあるのは、首吊りらしい。
我々が自殺現場に関わることも少なくない。

これは、ある首吊り現場での出来事である。発見が早かったらしく、部屋の汚染は軽度で、特殊清掃作業自体はライトなものだった。
ただ、遺族から受けた相談には困った。
「故人が自殺に使ったロープはどうすればいいか?」とそのロープを差し出されたのだ。
遺族は、故人が自殺したことにビビッて、ロープの取り扱いにも異常に神経質に慎重になっていたのだ。
ああでもない、こうでもない、と遺族同士が議論する中で、私が責任を負わされると困るので、「お身内の方々が決められるのが本筋では?」とうまく回避した。
結局、「本人が最後に使った物だから本人の責任ということで柩に入れよう」と言う意外な意見にまとまった。不謹慎ながら苦笑いするしかなかった。

死人に追い討ちをかけるような結論で、こんな冷たい親族じゃ自殺もしたくなる?

トラックバック 2006/05/22 投稿分より


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愛人

2024-04-21 15:39:52 | 自殺腐乱死体
神奈川県、賃貸マンション4階。20代女性が玄関ドアの内側にロープをかけ首吊り自殺。

腐乱が進み、悪臭と腐敗液が外に漏れ出して発見。
現場に参上したときは遺体はなく、汚染個所も比較的狭く玄関とその周辺だけ。
部屋は、若い女性らしくインテリアや装飾も可愛らしい雰囲気だった。
ただ、玄関だけは別世界。餌(遺体)を無くしたウジ・ハエの死骸と、故人の腐敗液を掃除。見た目にはきれいな部屋にも悪臭は充満。そこは除菌・消臭作業。
故人には身寄りがなく、不動産賃貸契約には知人の中年男性が保証人になっていた。
どうも故人は保証人男性の愛人らしい。
それなりの事情があってのことだろうが、身寄りのない20代女性の自殺には、せつなさを感じざるをえなかったが、最後にオチがついていた。

特殊清掃作業代を払うはずの保証人がトンズラしたのだ。まさにタダ働き。
事情はどうあれ、これじゃ、死んだ愛人も浮かばれまい。

トラックバック 2006/05/21より


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妙な同居人

2024-04-20 10:15:54 | 腐乱死体
現場は古い二階建の一軒家。遺体は一階の角部屋で腐乱しており、その臭いはいつもの悪臭のレベルを超えた強烈なものであった。悪臭は、鼻ではなく腹で受け止めなければならないことを始めて知らされた現場だった。
腹でも受け止められない人は吐いて退散するしかない。
しかも、そこは1~2日前とかいったものではなく、最低でも1~2週間前から悪臭を放っていたと思われるような現場だった。
しかし、家族が死体に気づいたのは2~3日前とのこと。
家族の一人がまったく部屋からでてこなくなったうえ、その部屋から悪臭が漂うようになるまで本人が死んだでいたことに気がつかなかったとは、とても信じられなかった。
しかも、その家族は、酷い悪臭の中を、金目の物がないか必死で探していた。
何はともあれ、私の仕事はその現場をきれいに片付けることで、余計な詮索は無用。
四畳半の和室の汚染度はかなり酷く、何からどう手をつけてよいやら迷うような状況。
とりあえず、大量に発生した蛆(ウジ)を始末することからスタート。
蛆というヤツは、一体どこから入り込んで死体を喰っていくのか、その増殖力の強さは不思議で仕方がない。蛆との戦いにはいつも手を焼く。
奴等は、市販のウジ殺薬でもビクともせず、早く蝿(ハエ)になって飛び去ってほしいくらいだった。
仕方なく、汚染された布団と一緒にビニール袋に入れて圧縮。手で押さえてもムニュムニュと動く感触は、鳥肌もので不気味だった。
とにかく、その現場は、家財一式はもちろん畳・床板まで全部撤去。
代金は作業前に値切りに値切られたため、どことなく損をしたような気分になった現場だった。

トラックバック 2006/05/20 より


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脂でツルッ

2024-04-19 16:41:08 | 腐乱死体
これは特定の現場での話ではない。
人間の身体は平均的に観ると約70%が水分・約25%が脂肪といわれている。
遺体は腐敗していくと、骨・歯・爪などの固形物を残して最終的には溶けて液状になる。もちろん、その過程はおぞましい光景で、強烈な悪臭を放っていく。
液状になった遺体の水分は時間の経過とともに自然と蒸発していくが、最後の最後に残るのは脂肪、つまり脂。
我々の仕事でやっかいなものはたくさんあるが、この脂もやっかいなモノのひとつである。ある程度は吸収剤を使って処理できるものの、やはり最後は手での拭き取り作業が必要。これが、拭いても拭いてもなかなかきれいに落ちない!ジョイ君に頼んでもダメでしょう。
おまけに、ヌルヌル・ツルツル滑りやすく、そんなところで転んだらアウト!
私はまだ転んだことはないが、転びそうになったことは何度もあるし、実際に転んでしまって緊急退避したスタッフもいる。
このブログを読んでくれている方々、生きているうちに、できるだけ体脂肪は減らしておいていただけるとありがたい。

トラックバック 2006-05-19 より

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残された耳

2024-04-18 16:50:10 | 特殊清掃
千葉県某所、一戸建。例によって、現場確認と見積依頼で現場へ。
故人は布団に入ったまま亡くなり、そのまま腐乱していた模様。
特殊清掃撤去では、遺体は警察(または警察に指示された葬儀社)が回収していった後に我々が訪問するケースがほとんどである。
しかし、腐乱し、溶けてバラバラになった遺体を全部拾って回収することは困難である。
現実には、頭髪付の頭皮が残されていたり、指先の小さな骨が残されているケースは珍しくない。
ただ、この現場では耳が落っこちていた。
遺族に「この耳どうしますか?」と尋ねたら、遺族も困っていた。
私も、骨などの固形化された遺体の一部は遺族に返すようにしているが、さすがに耳を返されても困るようだった。
そうは言っても、私も耳を持ち帰る訳にもいかず、半強制的に遺族に返して作業を進めた。
どうせなら、警察に耳も持って行ってほしい。遺族のためにも、我々業者のためにも。

トラックバック 2006/05/18

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哀愁のマットレス

2024-04-15 08:21:04 | 腐乱死体
時は4月下旬、晴天・春暖の心地よい季節のなか、その現場は発生した。
場所は東京都某所・分譲マンション2階の寝室。遺体の腐乱液はベッド上とベッド脇の家具・床に渡って染み広がっており、当然ながらかなりの悪臭もあり、かなり刺激的な光景だった。遺族によると故人は太った老人とのこと。
通常の作業チャートでは「現場検証見積」→「作業合意」→「代金前払い」→「作業実施」である。
しかし、この現場の遺族は、見積に行った私に「このまま作業をやってくれ!」と懇願。遺族の心情を汲むのも当社の大事な方針なので、結局、断りきれず作業用の装備がほとんどないまま作業にとりかかることに。
必要最低限の道具・備品を近くのホームセンターで調達。
ベッド脇の床の家具に溜まった腐乱液を吸い取り、拭き取るときは、場慣れした私もさすがに吐き気がして、何度も「オエッ」「オエッ」。
しかし!最も困難を極めた作業は、ベッドマットの運び出しであった。しかもダブルサイズで、タップリの腐敗液吸い込み済みの代物。
それを自分一人で一階まで降ろし、少し離れた路上にとめたトラックに積み込む作業は、体力的にも精神的にも困難を極めた(泣きたい気分)。
ただでさえ大きなベッドマットで、更に腐敗液をタップリ吸っている訳で、とても自分一人では持ち上げられるものではなかった(例え、持ち上げられても、持ち上げたくない代物)。もう、引きずって運び出すしかなかった。
一歩玄関を出たら、そこは公共の場所。
通りかかる通行人は、遠目には不思議そうに見ていたが、近づいて来た途端に強烈な悪臭パンチを浴びることとなってしまった。
人々は口々に「くせぇっ!」「何だこれ?」「キャー!」等と叫びながら逃げ去って行った。
心無い悪口を甘んじて受けざるをえない中、私は、独りの世界に入りたいような気分で、ひたすらマットを引きずった。
早々とトラックに積んで退散したいのは山々だったが、なにせその重さではズルズル・ノロノロと引きずっていくしかなく、その時間が長く感じたことは言うまでもない。
遺族は感謝してくれたが、私は作業の悲しみを背負って逃げるように現場を離れた。

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血の重荷

2024-03-28 13:39:42 | 猫屋敷
梅雨入りが迫ってきている今日この頃。
だんだんと蒸し暑くはなってきているけど、まだまだ過ごしやすい。
週末ともなると、朝は下り、夕は上り、行楽の車で高速道路は渋滞。
家族と共に楽しい時間を過ごすことは、人生の大きな幸せの一つ。
行楽に無縁の私にとっては他人事ながら、喜ばしく思える。


多くの人が共感してくれるだろう、「家族」っていいもの。
「打算や利害はない」とまでは言えないけど、ほとんど無条件で、愛し合い、助け合い、信頼し合い、堅い絆で結びつき合える間柄。

外の世界では、そんな人間関係、そう簡単に構築できるものではない。
しかし、その反動か、揉めやすいのもまた事実。
心の距離が近い分、遠慮や尊重がしにくく、怒りや憎しみの感情を抑えにくい。
傷害や殺人についても、他人同士より血縁者同士の方が多いといったデータもあるらしく、日々において、そんなニュースを見聞きすることも少なくない。

また、「血のつながり」を重視するのが日本人の民族性なのか、古くから「家系」とか「血統」とかいったものが大事にされる。
それに裏打ちされるように、先祖崇拝の思想も根強いものがある。
それを否定する理由はない。
ただ、懸念もある。
それは、「問題を起こした者の血縁者」というだけで敵視され、誹謗中傷の的にされるケース。
とりわけ、現代の情報過多・ネット社会においては、それが顕著になりつつあるのではないだろうか。
血がつながっているというだけで、他の人間に人生を狂わされる人は、思いのほか多いのではないだろうか。
声を上げられない当事者、上げた声が届かない社会、何とも言えない理不尽さを覚えざるを得ない。




特殊清掃の相談が入った。
電話の声は女性で、歳の頃は中年。
「兄が一人で住んでいた家なんですけど・・・」
「ろくに世話をしないままネコを飼っていまして・・・」
「ゴミもたくさん溜まっていて・・・」
女性は、誰かに詫びるような口調で、現場の状況を話してくれた。


「見たらビックリすると思いますよ・・・」
女性は、私に心の準備をするチャンスを与えてくれたが、私が、これまで経験したゴミ屋敷や猫屋敷は数知れず。
天井とゴミの隙間を腹這いにならないと進めないような部屋も、ネズミやゴキブリが走り回る部屋もイヤと言うほど経験済み。
ゴーグルしないと目を開けられないような、ガスマスクをしないと息もできないようなネコ部屋に遭遇したことも幾度もある。
「大丈夫ですよ・・・慣れてますから・・・」
私は、商売っ気を悟られない程度に親切な雰囲気を醸し出し、そう返答した。


出向いた現場は、郊外の住宅地に建つ一軒家。
「新興住宅地」というようなエリアではなく、一時代前に整備された、古びた住宅地。
立ち並ぶ住宅は、築三十~四十年は経っているようなものばかり。
また、今風の住宅地にくらべて、土地も家も小さめ。
隣家との間隔も狭く、窮屈な感じもするくらい。
それでも、販売当時はバブル期で、結構な値段がしたであろうことが伺い知れた。


私は、カーナビが示すポイントが近づくにつれ、車のスピードを落とし徐行。
区画整理された地域は番地通りに家が並び、目的の家はすぐに判明。
仮に、ナビが目的の家をピンポイントに示さなくても、すぐに見つけられたはず。
それは、当家屋が異様だったから。
雑草や樹枝は伸び放題で、多くはなかったが外周には朽ちたガラクタも散乱。
荒廃した雰囲気に包まれており、そこが目的の「猫ゴミ屋敷」であることを家屋自らが訴えているように見えるくらいだった。

私が到着したのとほぼ同時に依頼者の女性も現れた。
電話で関り済みだったので、初対面のときほど回りくどい挨拶は省略。
短く言葉を交わした後、玄関へ近づき、女性がドアを開錠。
「私は入らなくていいですか?」
と訊ねる女性に、
「大丈夫ですよ」
と返し、女性と私は立ち位置を入れ替わった。

「では、お邪魔します」
私は、ゆっくり玄関ドアを引いた。
すると、覚悟していた通り、中からはネコ屋敷特有の刺激臭がプ~ン。
私は、少し離れた後方にいる女性に背中を向けたまま、正直に表情をゆがめた。
同時に、薄暗い奥に視線を送り、溜息と異臭を交換しながらの浅い呼吸を繰り返した。

とにもかくにも、そのまま嫌気に従っていても何も進まない。
女性は、
「そのまま・・・靴のままでどうぞ・・・たいぶ汚いですから・・・」
と気を使ってくれた。
言われるまでもなく、靴を脱ぐつもりはなかった私は、
「靴の上にシューズカバーを着けますので」
と説明。
もちろん、それは、家が汚れないようにするためではなく、靴が汚れないようにするため。
ただ、そんな無神経なセリフは吐かず、黙ってポケットからラテックスグローブとシューズカバーを取り出し、両手両足にそれぞれ装着した。


屋内は一般的な間取り。
1Fは、玄関土間、廊下、和室、リビング、DK、トイレ、洗面所、浴室など。
階段を上がると、和室か洋室かわからない部屋が二つと小さなトイレ。
決して豪華でもなく、広々としているわけでもなかったが、かつては、庶民的な一家が、身の丈に合った生活を平和に楽しんでいたことが伺えるような造りだった。

ただ、それは遠い 遠い昔の話。
家の中は、ありとあらゆるところ、猫の糞・尿・毛・爪跡などで汚損。
もちろん、人間用の家財生活用品はあるのだが、もう、ほとんどは酷く汚染された状態。
内装建材も著しく腐食し、糞が厚く堆積しているところも多々。
リビングのソファーをはじめ、糞に埋もれているモノも少なくなかった。
全滅・・・家自体が猫のトイレ、肥溜め・・・
もちろん、充満するニオイも強烈。
身体のことを思えばガスマスクを着けた方がいいくらい。
ただ、それでも、異臭濃度は目に滲みる程ではなく、見分も短時間で済ませるつもりだったため、私は、終始、不織布マスクで家の中を歩き回った。

「これで、よく生活できるもんだな・・・」
「フツーなら身体を壊すよな・・・」
“呆れる”というか“不思議”というか、もっと言うと“奇怪”というか・・・
こんな不衛生極まりない状況で生活するなんて、容易に信じられるものではない。
似たような現場をいくつも見てきた私だったが、ここでも同じような思いが沸々。
しかし、そういう人は現実にいるわけで、私は、そこのところに不思議さを感じざるを得なかった。

一通り見て回った私は、女性が待つ外へ。
女性は玄関を離れた駐車スペースで、私が出てくるのを待っており、開口一番、
「どうでした? ヒドイでしょ!?」
と訊いてきた。
お世辞にも「そうでもない」とは言えない状況で、私は、
「そうですね・・・かなりヒドいですね・・・」
と正直に返答。
そして、飼われていた猫が二~三匹でないことは一目瞭然ながら、
「何匹くらいの猫がいたんでしょうか」
と訊ねた。
「本人の話からすると、おそらく、二十~三十匹くらいはいたと思われます・・・」
と、一段と表情を暗くし、また、気マズそうにそう応えた。


この家は女性の実家。
もともとは女性の両親と当人(女性の兄)と女性が四人で暮らしていた。
最初に家を出たのは女性。
結婚して他に家を持ったのだ。
次はいなくなったのは父親で、それほど高齢ではなかったが病気で他界。
それからしばらくは母親と当人が二人で生活。
大きな問題はなく過ごしていたが、母親も歳には勝てず。
身体が衰え自立した生活が困難に。
そうは言っても、当人に母親の世話をする力はなし。
母親は老人施設へ入所し、それから、当人は一人暮らしに。
しばらくして母親も他界し、当人の暮らしは荒れていく一方となったようだった。

母親が家にいる頃は、時折、女性も実家に顔を出していた。
ただ、消して兄妹仲が良かったわけではなかった。
で、当人が一人暮らしになって以降は、女性は実家を訪れることもなくなった。
両親がいなくなってしまうと、当人とやりとりしなければならない用も、縁を保っておく必要もなくなり、当人とは関わらないでいる方が女性は平和に過ごせるのだった。

そんなある日、当人は体調を崩し入院。
その旨の連絡が女性に入り、とりあえず見舞いに出向いた。
久しぶりの再会だったが、懐かしさや情愛はなく、ただ、妙な不安ばかりが頭を過った。
案の定、入院に関する身元引受人や入院費用の支払いに関する保証人にならざるを得なくなった。
女性にとっては、それだけでも充分に厄介なことだった。
しかし、残念なことに、その後、もっと大きな問題に遭遇することに・・・「猫ゴミ屋敷」となった実家に肝を潰すことになるのだった。

当人が猫を飼い始めた時期やキッカケについて、疎遠だった女性は知る由もなし。
勝手な想像だが、母親がいなくなり一人暮らしとなった当人は、淋しかったのかも。
唯一、自分を必要としてくれ、自分に関心を寄せてくれた両親は亡くなり、誰からも必要とされず、誰からも関わってもらえず・・・
そんな中に現れたのが野良猫。
不憫に思って餌を与えているうちに猫も懐いてきたし、深い情も湧いてきた。
そんな猫が心の隙間を埋めてくれたのか、世話を焼いているうちに、野良猫仲間が集まり、それらが仔を産み・・・
いい歳になるまで母親が世話を焼いてくれていた中年男に家事の一切がキチンとこなせるわけもなく、ただでさえ荒れる一方だった家を、猫が更に荒らしていった・・・
そして、当人もそれに慣れていき、結果として、収拾のつかない事態に陥ってしまっていたのではないかと思われた。


我々が表で話していると、その気配に気づいたのか、近所の人らしき人が近づいてきた。
また、それを窓から覗き見していたのか、それは二人三人と増えていった。
ほとんどは「野次馬」だと思われたが、その表情と物腰は「被害者」。
女性に対して乱暴な口をきいたり横柄な態度にでたりする人はいなかったものの、皆が一様に「迷惑していた!」と言う。
対して女性は、「申し訳ありません・・・」と、泣きそうな顔になりながらペコペコと頭を下げるばかり。
悪いのは当人で女性が悪いわけではないのに、私は、ダメな船頭のように小さな助け舟さえ出せず、ただ、その場に立ち尽くすことしかできなかった。

近隣住人の中には不満を抱えていた人も多かったようだったが、当人に直接注意する者はおらず。
当人は“常軌を逸した人間”と思われていたようで、ある種、恐れられていた風でもあり、そんな人間を相手に何か言ってトラブルになっては困るし、逆恨みされて、危害を被っても損。
近隣数軒で話し合って行政に掛け合ったこともあったものの、行政が腰を上げることはなく、結局、泣き寝入ったまま今日に至っていた。

当家屋には、たくさんの猫が出入りする様子はもちろん、時折は、当人が出入りする姿も目撃されていた。
食料など生活必需品の買い出しや、その他に、外に用事もあったはずだし、仕事に出掛けるように見えたときもあった。
ただ、人と会っても視線を合わせることもせず、挨拶もせず。
誰もいないかのように黙って通り過ぎるのみ。
一方の近隣住民も同様。
遠ざかることはあっても近づくことはなく、横目で好奇の視線を送るだけで声を掛けることはなかったようだった。

長い間、猫ゴミ屋敷に我慢を続けていた近隣住民。
正直なところ、当人がいなくなってホッとしたはず。
その上、当人がいなって以降、自然と猫もいなくなっていったわけで、これも近隣にとっては何よりのことだった。
「退院したら、ここに戻って来られるんですか?」
近隣住民は女性にそう訊いたが、その心の声が“戻って来てほしくない!”“戻って来させるな!”といったものであることは、誰の耳にも明らかだった。
「まだ、何も決まってなくて・・・どちらにしろ、家がこんな状態じゃ戻りようがありませんから・・・」
と、ホトホト困った様子で言葉を濁す女性を、私は、ただただ気の毒に思うしかなかった。

そうは言っても、こんなことになってしまった家の始末をつけるのは一朝一夕にはいかない。
汚物の処分や掃除で片付くレベルはとっくに越えている。
常人が常識的な生活をしようとすれば、部分的なリフォームでは足りず、もう建て替えるしかない。
とは言え、当人がそれだけの財を持っているとは到底思えず。
かと言って、女性が負担できるものでないことも明らか。
女性は苦悶の表情を浮かべながら、涙目で宙を見つめるばかりだった。

当人が、どう生計を成り立たせていたのか、日常の付き合いがなかったものだから、詳しいところは、女性も把握しておらず。
色々な状況から推察するに、定職には就かず、派遣やアルバイトなどで生計を成り立たせていたよう。
家屋敷をはじめ、それなりの財産を親から相続したそうだったが、食費、水道光熱費、被服費、生活消耗品費等々、食べていくには相応の金がかかるし、税金や社会保険料だって負担する責任はある。
猫の餌代だってバカにならなかったはず。
消費者金融などからの危ない借金がなかったのが不幸中の幸いだったものの、当人が猫達とともにギリギリの生活をしていたことは容易に想像できた。


色々なことが検討され、色々な可能性が模索されたが、結局、再生不能の家は売却処分されることに。
状況が状況だけに、また、古びた住宅地につき、期待するような値段にはならないことは覚悟のうえだったが、それでも、まとまった金銭を得ることはできるはず。
当人は、その売却代金をもって新たな住居を探すほかなく、となると、賃貸物件になるわけで、「定職に就いていない」「安定した収入がない」ということがネックになるはずだったが、そこのところは、役所や慈善団体を頼るか、まとまった前家賃で手を打ってもらうしかない。
その上で、派遣でもアルバイトでもできるかぎり仕事をして、できりかぎり慎ましい生活を心掛けるしかない。
それで、どれだけ食いつないでいけるものかどうか、女性も測りかねていたが、思いつく策は他になかった。

「もう、それ以上は、面倒みれません・・・」
「あとは自己責任で生きてもらうしかありません・・・」
女性は、自分の肩に圧し掛かる重荷を振り払うようにそう言った。
そして、
「血がつながっているばっかりに・・・」
と、やり場のない怒りと悲しみを過去にぶつけようとするかのように深い溜息をついた。

そんな女性を気の毒に思いつつも、私は、その傍らに黙って佇むことしかできず。
生きていくことの重さを今更ながらに思い知らされる場面となったのだった。
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