真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「恍惚アパート 悶々時代」(昭和52/製作・企画:幻児プロダクション/配給:ミリオンフィルム/監督:中村幻児/脚本:才賀忍/撮影:フランク倉田/照明:磯貝一/編集:中山治/音楽:山崎箱夫/助監督:今村一平/監督助手:旦雄二/制作進行:平川弘喜/効果:秋山サウンドプロ/録音:東音スタジオ/現像:ハイラボ・センター/出演:小川恵・楠正通・橘雪子・北斗レミカ・谷口ちひろ・館山夏代・笹川由加利・吉岡一郎・大島祐二・丸山恵介・岩手弘二・山口音也・団十郎・矢野健二・大久保良三)。脚本の才賀忍は、中村幻児の変名。
 何処ぞの駅前、女とぶつかつた浪人生の大神研一(楠)が手荷物を落とす。この、研一が何かと物を落とす所作が、以後も都合三度蒸し返される。よもや、今年も研一が受験に落ちる工夫がなければ潤ひも欠いた、無体なオチに落とし込む布石かと、思ひきや。布石もクソもない、中盤以降、その造形は綺麗に忘れ去られる。ついでで、アバンを通り過ぎるアウトレンジから抜かれるだけの女も、クレジットされてゐないと女優部の名前が一人分余る。閑話休題、代ゼミ外景に劇伴起動。一転、赤々とした画面。二人の女が合はせたお乳首に、煽情的に叩き込むタイトル・イン。北斗レミカと、後述する山田夫人と大森の妹、便宜上の。三人の裸女に群がられ、研一が悶々通り越して悶絶するタイトルバック。画面一杯のオッパイ―多分コンビニ妹―に刻む、監督クレジットが清々しい。あるいは、クレジットが流れてゐる間さへ、女の裸を疎かにしはしない。観客の劣情と真摯に向き合ふその貪欲な姿勢は、量産型裸映画の本義に跪いた、真(まこと)の至誠にさうゐない。
 研一が風呂なしアパート「清風荘」に帰宅すると、隣室のホステス(北斗)が共用の洗面所にて、ほゞ半裸で歯を磨いてゐる。そこに血相を変へ飛び込んで来た、未亡人大家(橘)が破廉恥な店子を罵つて曰く“淫売ホステス”。昭和よ、竹を割るにも限度があるぞ。研一は五号室で、北斗レミカは六号室。清風荘が忌避しない、四号室の住人は山田夫妻(谷口ちひろ?と旦那は判らん)。淫売ホステスがヒモの大森シンペイ(吉岡)と、それ以外にも連れ込む男達。仲睦まじい山田さん家も、連夜お盛んな夫婦生活。薄い壁越しに受験勉強を妨げる、要は挟撃して来る形の嬌声に研一は日々悩まされてゐた。
 配役残り、最初は往来で研一と偶さか交錯するに止(とゞ)まる小川恵は、山田夫婦が越したのち、四号室に新しく入つて来るアラキあやこ。親の跡を継ぐ流れの、獣医学クラスタ。あやこに一目惚れした研一が呆然とするのが、劇中最後に物を落とすタイミング。こゝからが問題なんだな、あやこを妊娠させておいて、堕胎費用を無理からトレンチのポケットに捻じ込む腐れ彼氏。ヒモのゐぬ間に北斗レミカが自分の部屋に入れる、大森にとつては弟分でもあるパンチ。研一の友人で、一足先に大学合格してゐる角帽。大森と普通に脱いで絡む、見咎める大家に口から出任せた便宜上の妹は、山田夫人のアケミが谷口ちひろなら館山夏代かなあ。純然たる端役を除いても登場人物が結構盛沢山出て来る割に、この時代の俳優部がまあ難攻不落。jmdbとnfajはおろか、切札の別館検索にもまるで引つかゝらないと来た日には、大人しくシャッポを脱ぐほかない。あと、極めて重要な点が、研一にへべれけな色目を使ひこそすれ、橘雪子がビリング二番手の位置に座りながら不脱。果たして、ポスターでは如何に扱はれてゐたのか。
 サブスクリプションでしか映画を売らない、逆からいふとバラ売りしやがらない動画配信が、当サイトは憎々しくて憎々しくて仕方がない。当該サービスでないと見られない一本から数本を拾ふために、一々登録して用が済んだら解約するのも、月額の元が取れる本数見るのも面倒臭いんぢや、ボケ。そこで一本づつ好きな時に好きなやうに見られる、素晴らしい楽天TVで中村幻児昭和52年第一作。これで支払にデビットカードも通すか、Edy決済を復活させて呉れたら最高なんだけど。
 乳尻に特化したありがちな浪人生残酷物語が、途中までは軽快に走らなくもない、途中までなら。所詮はモラトリアムな寂寥に燻る研一に対し、何をトチ狂ふたか半裸の淫売ホステスに性的興奮―と満たされない欲求不満―を覚えたのかと、家賃の催促に現れた大家こと橘雪子が素頓狂に曲解。要はスッキリ抜いて勉学に励めるやう、「あたし協力する」だなどと脱ぎ始めるやギョッと身の危険を感じた研一が、冗談ぢやねえとでもいふ風情で後退りするのが爆発的に可笑しい。2020伊豆映画を最後に、沙汰のとんと聞こえて来ないのが本格的に気懸りな、今上御大・小川欽也が得意とする、熟―しすぎた―女が若い色男を前に、「あゝ、暑いはあ」とか宣ひながら胸元を緩めるどころか、ガンッガン裸になつて行く。神々しいほど馬鹿馬鹿しいシークエンスに、勝るとも劣らない破壊力。底を抜くなら抜くで、そのくらゐ派手にブチ抜いてみせればグルッと一周した、一種の興も生まれて来ようといふもの。話を真面目な方向に戻すと、あやこと研一が初めてコンタクトする並木道の、凄まじく映画的なロングは今や世界中の誰一人、この画を撮り得ないのではなからうかとさへ思へる超絶のクオリティ。小屋の35mm主砲で映写したそのエクストリームを、暗がりの中浴びられた時代を渾身の力を込めて偲ぶ。大森と便宜上妹が致してゐる風情にアテられた研一が、TENGA(2005年発売)なんて未だ遥か遠く存在しなかつた時代。用に供した蒟蒻で、田楽を作りあやこに振る舞ふ。下らなく且つ類型的でなほ、微笑ましい一幕は琴線を生温かく撫でる。
 と、ころが。角帽が絡みの恩恵に与る間もなく、無造作に非業の死を遂げる辺りから、映画が錯綜し始める。研一を苛む呵責、一応のコンテクストもなくはないにせよ、挙句化けて出て来る角帽は藪蛇の火に油を注ぎ、二つ目の死が木に入水を接ぐラストは、あやこと研一が何となく波に揉まれる漫然と間延びしたカットで完全に失速する。締めの濡れ場がどうにも盛り上がらない要因は、主に男優部の下手糞にあると見た。勝手に拝借してゐる筈の、その癖堂々とフルコーラス使用してのける、いはずと知れた森田公一とトップギャランの「青春時代」(昭和51)がある意味象徴的。“道にまよつてゐるばかり”、まるで青春時代特有の迷走が、映画にも伝染つてしまつたかのやうな一作ではある。
 そんな中、それでも一際輝くのは、実は童貞である旨吐露した研一に対し、あやこが「あたしを好きなやうにしていゝは」。フィクションに於いてのみ許された、美しい大嘘がやさぐれたか薄汚れた魂を慰撫する、薄くでなく汚れてるだろ。

 隙あらば俯瞰で撮りたがる、馬鹿と煙より高いところが好きなフランク倉田の正体に辿り着けはせぬかと、試みたものの。倉田姓の撮影部が思ひのほか大勢ゐて、てんで手も足も出なかつた。


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 「若妻官能クラブ 絶頂遊戯」(昭和55/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:伊藤秀裕/脚本:那須真知子/プロデューサー:林功/撮影:森勝/照明:直井勝正/録音:伊藤晴康/美術:柳生一夫/編集:鍋島惇/音楽:本多信介/助監督:中原俊弘/色彩計測:森島章雄/現像:東洋現像所/製作担当者:沖野晴久/出演:日向明子・マリア茉莉・林理恵・鶴岡修・今井久・宇南山宏・八代康二・大川まり・秋山百絵・野末直裕・北川レミ・小見山玉樹)。出演者中マリア茉莉に、ポスターがしのざき・さとみ的な要らん中点を入れる。
 カメラマンの朝倉浩一郎(鶴岡)と、朝倉の婚約者の姉で、偶さか東京に来てゐたみどり(林)のロング、上京の目的は等閑視。朝倉の結婚が、次で三回目。一回目は十六歳の処女と結婚したところ、北海道でのハネムーン中トラピスト修道院に逃げられる。話は続き、二人は大正義イースタンの車を拾ふ。二回目は四十一の女盛りと結婚してみると、箍の外れた多淫に今度は朝倉が死にかける。さうかう話してゐるうちに、多分女子大の表でタクシーは停車。一人目で落胆、二人目で払拭しきれぬ不満を抱へ、三人目で男を悟る。朝倉があれこれ考へ抜いた結果達した、男を三人体験してゐる女が、最もよき妻になれるとかいふ適当な結論まで開陳した流れで、テニスの練習場に到着。バッセン的な機械が、テニスボールを吐いてタイトル・イン。こゝまで五分を跨ぐアバン、朝倉の婚約者にしてみどりの妹・小夜子(日向)が、タイトルバックで満を持しての大登場。翻つたスコートの下に覗く、おパンティのストップモーションでクレジットが俳優部に入る、勘所の突き具合が麗しい。
 名なしモデル(大川)と、アシスタントの広瀬(今井)。スタイリスト(北川)に、もう一人カメアシ(野末)まで俳優部がほゞ出揃ふ撮影風景を経て。婚約指輪―と花束―を携へ小夜子のマンションを訪ねた朝倉は、いはゆる社会の窓も開けたまゝ、小夜子の部屋からそゝくさ出て来た小見山玉樹と交錯する。
 配役が、残らないのが問題。医者役とされる八代康二と、少女役とされる秋山百絵が何処にも見当たらない。もしも仮に、万が一。テニスコートのロングにでも紛れ込まれたとて、秋山百絵は兎も角、八代康二ならば見つけられさうな気がしなくもない。
 出演作を順にぼちぼち見進める、マリア茉莉映画祭。デビュー作から二本連続してゐた、伊藤秀裕第二作。マリア茉莉自身の初陣を撮つた林功にとつては、初のプロデュース作にあたる。小夜子・朝倉のペアと、みどりと夫の水原(宇南山)が対戦。審判を広瀬が務める、夫婦混合ダブルスの試合、小夜子と朝倉には(予)がつくけれど。コートの傍ら、テニス審判台の隣にマリア茉莉が立つてゐる画の、遠近法をも軽く狂はせるタッパがヤベえ。
 みどりは東京から“帰る”と称してゐるゆゑ、別荘の類でなく、其処に常住してゐると思しき山の中に、小夜子と朝倉が招かれる。デルモを大川まりからルナ(マリア)に変更した撮影も兼ね、スタイリストと野末直裕まで引き連れ総勢六人で、馬鹿デカい左ハンドルのオープンカーと、広瀬が駆るサイドカーで景勝地に繰り出す中盤が今作の本丸。外車は野末直裕が運転し、側車には小夜子が乗る。北川レミはまだしも、マリア茉莉の場合足が長すぎて入らなかつたのかも知れない。女優としての資質と反比例するかのやうな、途方もない股下に関してはさて措き。北川レミと野末直裕は大人しく蚊帳の外、あと要は小夜子と朝倉以外全ての組み合はせを摸索する勢ひの、ひたすらに濡れ場を連ねる遮二無二連ね倒す、腰の据わつた裸映画ぶりが清々しい。とりわけ、パーティーを離脱した小夜子を水原が追ひ、開戦するサシテニス。劣勢の小夜子が、動き辛い方便でドレスを脱ぎ―端からヒールは脱いでゐる―下着だけの半裸に。そこまでは、まだ千歩譲つて徳俵一杯蓋然性の範疇にせよ。なほも攻撃の手を緩めない、水原のスマッシュで小夜子のブラが弾け飛ぶ。グルッと一周した馬鹿馬鹿しさが、一種のスペクタクルに昇華するカットが一撃必殺。観るなり見るなり、兎に角触れた者の心に鮮烈な記憶を焼きつけるにさうゐない、伊藤秀裕一世一代のシークエンスが素晴らしい、ピークそこ?そのまゝ、物語ないし主題なんぞシネフィルにでも喰わせてしまへと、女の裸の一点突破で走り抜いてみせたとて。にしては六十八分は些か長いかなあ、程度の生温かい不満で納まつたものを。帰京後、小夜子に焦がれ朝倉が半ば以上に錯乱する件で明確に失速、しつつ。真実の愛に辿り着いた朝倉と小夜子の二人は、目出度く結ばれました、的な。適当な導入で締めの婚前交渉に突入、流石にそのまゝ駆け抜ける心ないラストで、それなりに持ち直す。
 散発的に火を噴く側面的な見所が、朝倉が軽口を舌先三寸で結構な長尺転がし続ける、何気な長回し。如何にもらしい鮮やかな一幕・アンド・アウェイで、こゝにありぶりを叩き込む小見山玉樹共々、高いスキルを事もなげに披露してのける、鶴岡修クラスタも必見の一作。などと明後日か一昨日なレコメンドをしてみせて、別に罰もあたらぬのではなからうか。


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  「箱の中の女2」(昭和63/製作:にっかつ撮影所/提供:にっかつ/監督:小沼勝/脚本:ガイラ・清水喜美子/プロデューサー:半沢浩/企画:塩浦茂/撮影:福沢正典/照明:内田勝成/録音:福島信雅/美術:渡辺平八郎/編集:鍋島惇/選曲:林大輔/助監督:金沢克次/色彩計測::佐藤徹・栗山修司/製作担当:江島進/現像:IMAGICA/協力:渋峠ホテル・横手山リフト/出演:長坂しほり・中西良太・河村みゆき・小川真実・浅井夏巳・小原孝士・大場政則・皆川衆)。共同脚本のガイラは、小水一男の変名。提供に関しては、事実上エクセス。
 裸電球から下にティルトした地下室、市川崑式に、矩手のタイトル・イン。視点が無造作に寄る鎖の先では、繋がれた裸の女が、与へられた食事を食べてゐる。囚はれの人妻・石井洋子(淺井)がおまるで用を足してゐると、足音が。女が逃げ隠れた、大人が入る大きさの箱に小沼勝のクレジット。現れた男が箱に入れた爪先を洋子は従順に舐め、男はそんな女の陰部を、口から離した足で弄ぶ。一転、スッコーンと晴れた志賀高原の観光地、ごつた返すスキー客に適当もしくは勝手にカメラを向ける。ペンション「白峰館」を一人で切り盛りする小西邦彦(中西)が、到着する客を待つ四駆の窓ガラスに、義妹の大谷かずみ(河村)が雪玉を投げる。邦彦の妻でかずみの姉(固有名詞すら口頭に上らず)は、男を作り出奔してゐた。こゝで改名後に田原政人となる大場政則が、かずみと三河屋的な職場で働いてゐるらしき工藤修。各種資料には工藤修介とあるものの、オサムちやんとかずみからは呼ばれてゐる。後述する坂口夫妻が白峰館を辞したのち、小西は嬲り飽きた洋子を薬で昏倒させると、段ボールに入れ緩衝材をどばどば振る丸きり荷物感覚の梱包。ドライバーらが車を離れた、ヤマトの配送車(実名大登場)に放り込む乱暴極まりない形で、元ゐた住所に送り返す。も、もしかして着払ひなのか。幾ら昭和の所業とはいへ、流石に大雑把すぎる。
 配役残り、ビリング順に小川真実と皆川衆が、件の小西が待つてゐた良枝と幸司の坂口夫妻。酔ひ潰した幸司の傍ら、小西が良枝を手篭めにするのが小川真実の濡れ場。大会に出るレベルで剣道に打ち込むかずみの、師範役は防具をつけてゐて手も足も出ない。坂口夫妻の帰りを小西は送らない、タクシーの運転手はヒムセルフかな。長坂しほりと小原孝士が、白峰館の次なる客にして多分最後の犠牲者、博子と純の山岸夫妻。洋子を放逐しての帰途、雪の中で遊ぶ博子の姿に目を留めた小西が純の車をナイフでパンクさせ、助ける素振りで白峰館まで連れて来る。展開の大らかさも実に昭和、寧ろ、このくらゐ無頓着な方が、何事も楽になるのかも知れない。再起不能の重傷を負ひ、ミイラ男状態でプラグドの山岸に付き添ふ、看護婦は引きの距離以前に背後からしか抜かれず当然不明。
 死に体のロマポがビデオ撮り×本番撮影とかいふ、みすみす相手―アダルトビデオ―の土俵に乗り目出度くなく傷口を致命傷にまで広げた、徒花あるいは断末魔企画「ロマンX」。の、同じく小沼勝と小水一男による第一弾「箱の中の女 処女いけにへ」(昭和60/主演:木築沙絵子)と、女を箱に入れて甚振る以外、何もかも全然関係ないナンバリング第二作。小沼勝的には、昭和63年第二作にあたる。日活での最後の仕事かと思ひきや、のちにVシネがもう一本あるのね。不思議なのが、日活公式サイトが今作をロマンXシリーズとしてゐる反面、いざ蓋を開けてみると綺麗なフィルム撮りで、ポスターにもロマンXのロゴは見当たらない。本番云々に関しては、元々往時の粗いモザイク越しに、当サイトの節穴では凡そ判別不能。他方、ロマンXとしてゐないロマポ単独の公式サイトも窺ふに、恐らく日活公式が仕出かしたのだらう。仕出かさないで、混乱するから。
 博子から気違ひと詰られた小西が、狂つちやゐないと抗弁して曰く、「俺は人妻の本当の貞淑が見たいだけだ」。小西が妻に逃げられてゐる、一応最低限の方便も設けられてゐなくはない、箱の中に女を入れる男の物語。劇中に限定するとデフォルトの洋子しか出て来ない、常習者かと博子を絶望の淵に叩き落す、小西いふところの“今までの奥さん”。監禁され凌辱の限りを尽された被害者が、何時の間にか被虐の快楽を覚え加害者の強ひる邪淫に溺れる。所詮は大概か出鱈目な絵空事に立脚した、到底元号を超え得ない底の抜けた基本設定である、のみならず。助からないだ最後だと、終盤藪から棒に小西が匂はせる重病?フラグも、ものの見事に一切回収せず事済ます、へべれけな作劇が火に油を注ぐ。イントロダクションを担当する四番手と、三番手も繋ぎ役に徹するのはまだしも、木に竹刀を接ぐ二番手すら、甚だぞんざいな扱ひに無駄遣ひ感ばかりバーストさせる始末。とかく素面の劇映画としては、全く以て覚束ない、ながらに。博子に対する最初の強姦を浴室にて行つた小西が、一発事済ますや晴れ晴れと風呂に浸かる、大笑必至の盛大な開放感。博子を入れた木箱をチェーンソーで切り刻み、四角く開けた穴から尻を引つ張り出し、箱を抱へ後背位で捻じ込む。即ち、箱ごと責めて犯す、これぞ文字通り箱の中の女なエクストリーム。そして雪山で燦然と輝く、些末なコンテクストを易々と超越、最早博子の感情を推し量り難いほどの、次元の異なる領域に突入した長坂しほりの壮絶な美しさ。明後日にせよ一昨日にせよ、ベクトルが何処を向いてゐようとこの際どうでもいゝ。絶対値の無闇に馬鹿デカい、しかも手数に富んだ一撃必殺を随所で果敢ないし苛烈に撃ち込んで来る。平板な面白い詰まらないはさて措き無類の見応へ煌めく、三ヶ月後完全に力尽きるロマポが偶さか狂ひ咲かせた、正に灯滅せんとして光増す一作。一旦解放後、どうやら山岸に止めを刺した上で小西の下に戻つて来た博子が、「私をまたスキーに連れてつて」。本家「私をスキーに連れてつて」(昭和62/監督:馬場康夫/脚本:一色伸幸/主演:原田知世)の翌年どころか、封切りの間隔でいふと実は僅か三ヶ月しか矢張り空いてゐない、如何にも量産型娯楽映画的な臆面、もとい節操のなさも清々しい。

 一点激しく気になつたのが、山岸夫妻の白峰館逗留初日、純は翌日から病院に固定されるんだけど。小西が振舞つた本格的なディナーの、丸ごとのメロンを刳り抜き中に何か詰めるデザート。明確な好意を小西に寄せ、白峰館に入り浸るかずみが手伝ふつもりで中身を入れようか、としたところ。「いゝよ!これはいゝよ」と小西が何故か声を荒げるのは、てつきり具材の中に何か仕込んであるのかと思ひきや、別にさういふ訳でもなく。そこで小西がキレる理由が最終的に見当たらない、何気にちぐはぐな一幕。


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 「⦅超⦆淫力絶頂女」(昭和54/製作:幻児プロダクション作品 昭54.7/配給:ミリオンフィルム/監督:中村幻児/脚本:水越啓二/撮影:久我剛/照明:森久保雪一/助監督:岡孝通/編集:竹村編集室/音楽:山崎憲男/記録:平侑子/演出助手:広木隆一/撮影助手:倉本和一/照明助手:西池彰/効果:ムービー・エイジ/録音:ニューメグロスタジオ/現像:ハイラボセンター/出演:日野繭子・笹木ルミ・青山涼子・野上正義・吉田純・竜谷誠・水瀬勇・土屋信二・山口正・楠正通)。
 御馬様の発走で開巻、双眼鏡を覗くa.k.a.喜多川拓郎を一拍挿む。同棲相手でスーパー店員のサチコ(日野)を伴ひ、今日も今日とて競馬に負けた工員の長尾ヒロシ(楠)は、さりとて性懲りもなく、あるいは臆面もなく。最終レースを前に、サチコを女子手洗に連れ込んだヒロシが、「これでツキが呼べるんだ」とか無理矢理及ぶ後背立位にタイトル・イン、往時の便所が汚い。そのまゝタイトルバックを賄つての佳境、サチコは競走風景のカットバックに、劇伴もキラキラ鳴らす正体不明の予兆に囚はれる。結局12レースも外したヒロシに対し、「何となく1-5がいゝと思つたのよね」、漠然と馬券を買つてゐたサチコが的中。後日、5レースに2-8が入るとのサチコが再び得た予兆に従ひ、ヒロシは一万突つ込む可処分所得的には十分大博打。幸か不幸か、諸経費サッ引いて二十万四千四百円の純利益を得たヒロシは、忽ち調子に乗る。
 配役残り、組んづほぐれつのキャットファイトで飛び込んで来る笹木ルミと青山涼子(ex.青山涼子で愛染恭子)は、亭主を寝取られたスナック(屋号不詳)のママ・ユミと、寝取つたホステス・ミドリ。野上正義が、劇中仕事をしてゐる風の一切窺へない、よしんば籍を入れてゐたにせよユミの多分ヒモ。後述する、役柄の全く読めなかつた読める訳がない、吉田純からは一度だけタケ?と呼ばれる。こゝからが、登場する頭数と、クレジット俳優部の人数が五つも合はない壮絶な藪の中。ヒロシの同僚・木村と、嬉しさうな顔をするのは無理な、薄い給料袋を手渡す社長。ユミの店に興味を示した、サチコの願望を叶へようと秘かに物件を探すヒロシに、居抜きを紹介する和田不動産の男がまづ不明。売店舗代四百万を狙ふ、軍資金にヒロシが三十万借りる―正確には借りさせられる―サラ金の、若い衆は水瀬勇で竜谷誠が社長、そこはどうにかなる。スナックカウンター席のベレー帽と、サチコの同僚とスーパーの客はノンクレで別に事済むとして、改めて吉田純が、棹に埋め込んだタケ(仮名)の真珠に惹かれたヒロシに零式鉄球、し損ねる真珠師。これで腕はよかつたらしい、ものの、今や完全に酒浸りのへべれけ、妙にリアルに映るのは気の所為かいな。どの映画が最終作となるのかは知らないが、吉田純にとつてこの頃がキャリアの最後期。閑話休題、紹介したタケも呆れる元名人から派手に仕出かされたヒロシに、苦言を呈しながらも手術して呉れる泌尿器科の中山先生と、ヒロシが何処からか連れて来る、謎の買春紳士の二人がまた判らん。整理すると辿り着けないのが順に木村と社長に和田(仮名)、中山先生と謎紳士の―三人無視してなほ―計五名。ところが特定不能のクレジット俳優部が、土屋信二と山口正の二人分しか残らないんだな、これが。この中で、jmdb検索してみたところ土屋信二には美術部の項目が出て来る、昭和43年に、何の参考にもならぬ。かたや五名中、女優部の恩恵に与るのは謎紳士たゞ一人、その他台詞の多さで比較的大きな役だと中山先生。土台この辺り、別作で邂逅するラックに頼るほかない出たとこ勝負の運任せ。
 封切られたのが九月初頭ゆゑ、七月撮影といふのは末と思しき、中村幻児昭和54年第十作。以前に軽く首を傾げた、山崎箱夫なる人を喰つた名義に関しては、単に山崎憲男の他愛ない戯れであるまいかといふ気もしなくはない。
 ガミさん―と堺勝朗―が力の主となる「セミドキュメント オカルトSEX」(昭和49/監督・脚本:山本晋也)の“ポルノパシー”同様、今回は“超淫力”と銘打つた、要は腰から下で司る超能力を題材とした一作。ESP乃至PKの発動条件に、濡れ場を必須とする点が実に裸映画的で麗しい。尤も、所詮自堕落なギャンブル狂である上に、ユミから膳を据ゑられるやホイホイ浮気しようとする。端的にクソ男でしかないヒロシに、エクストリームに可憐なサチコが健気に添ひ遂げる。感情移入に甚だ難い類型的な物語に、匙を投げるのも億劫になりかね、なかつたところが。パチンコ屋の表にて、タケに―ユミと寝かけた―ヒロシが捕獲。すは痛い目に遭ふのかと、小躍りしてゐたら。ユミとタケが致すのを、タケの希望でヒロシが見させられる。木に竹を接ぐのも大概にせえよ、かと思はせた素頓狂な一幕を起点に。一旦失効した超淫力、真珠、見られての情事。そして、そもそも端からキナ臭かつた、ドラゴンバレー金融(仮称)から貸しつけられた三十万。気づくと重層的に張り巡らされてゐた、布石の数々が見事に収斂。絶体絶命の危機を豪快に蹴散らかす、鮮やかな一発大逆転劇への道筋は整つた整へてみせた!これは結構な名作にお目にかゝつたのかと、思ひきやー。娯楽映画に殉ずるもとい準ずる気さへあれば幾らでも力技で捻じ込めた、にも関らず大団円を事もなげに放棄。虚無と紙一重のストイシズム吹き荒ぶ、全てを打ち捨てる途轍もなく乾いた結末を、最早アナーキーなほどの、昭和の大雑把さよ。令和の目には治安の崩壊した騒乱状態とすら映る、レース後の競馬場に底の抜けた量ゴミの舞ふ、盛大な紙吹雪のラスト・カットが徹底的な突き放しぶりで締め括る。
 備忘録<スケコマすばかりの、ヒロシの「地獄だなあ」から間髪入れず紙吹雪エンド


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 「隠密濡物帳 熟れごろ嫁さがし」(2023/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:筆鬼一/撮影監督:創優和/助監督:小関裕次郎/録音・整音:大塚学/選曲:友愛学園音楽部/編集:蛭田智子/スチール:本田あきら/監督助手:河野宗彦/撮影応援:夏之夢庭・髙木翔/演出部応援:広瀬寛巳/協力:植田浩行・郡司博史/出演:加藤あやの・なかみつせいじ・杉本まこと・天馬ゆい・安藤ヒロキオ・大浦真奈美)。何故か東ラボのクレジットが抜けてゐるのは、本篇ママ。
 タイトル開巻、何処ぞの深い山の中。外界と隔絶したまゝ数百年続く、忍者の霧ならぬ塵隠一族の里。忍び装束のカクゾウ(なかみつ)が、多分ポップな内容の淫夢に畳の上を七転八倒見悶える。別の間ではカクゾウの父親で、一族の頭領(杉本)がくノ一・ヒメコ(大浦)と睦事。忍者一族を束ねる御頭様の屋敷にしては、部屋の調度が思ひきりそこら辺の民家にしか見えない、ヤル気の欠片も感じられないプアな美術と、まるでドンキで買つて来たかのやうな、頭領のチンケな白髭に関してはこの際通り過ぎてしまへ。ヒメコが頭領に身を任せる条件は、次期頭領を目されるカクゾウとの祝言。ところが意外と開明的な部分も持ち合はせてゐるのか、一族に新しい血を入れる変革も摸索する頭領が、遂に決断。カクゾウに軍資金を与へ、嫁を連れて来るまで帰ること罷り成らん旨厳命した上で、里の外に出る許可を与へる。Ninja Goes Tokyo、喜び勇んでカクゾウが発つ一方、指を咥へて見てゐられないヒメコは、密使のイチカ(天馬)を放つ。
 花の都にひとまづ辿り着いた、はいゝものの。立ちんぼの要領でイチカのハニートラップに篭絡されたカクゾウは、忽ち所持金を巻き上げられ一文無しに、大丈夫なのか塵隠。腹を空かせたカクゾウは香ばしい匂ひに誘はれ、終に一軒の店の表で行き倒れる。配役残り、先にカクゾウを発見する安藤ヒロキオが、固有名詞も口頭に上らない夫が借金を残し女と出奔して以降、女手ひとつでカレー店を切り盛りするサユリ(加藤)の息子・ミツオ、幾星霜系の浪人生。正直前作の印象は既に覚えてゐない、加藤あやのは2017伊豆映画「湯けむりおつぱい注意報」(監督:小川欽也/脚本:水谷一二三=小川欽也/主演:篠田ゆう/二番手)以来、六年ぶりとなる二戦目。主演女優がトリを飾る形で俳優部が出揃つた、ビリングの彼方にエキストラ。カクゾウが撒くチラシを受け取る、KSUとひろぽん以下、カレー客要員で若干名が投入される。店内を一望する画の中で、男女が確かに向かひ合はせで座つてゐながら、銘々別個のタイミングで食事してゐる風の、地味なちぐはぐの真相や果たして如何に。観客ないし視聴者を、そんなにそはそはさせたい?
 昭和62年に本名でデビューした中満誠治が、1990年に改名した杉本まことと、2000年に再び改名したなかみつせいじが同一フレームに―生身で―納まる共演を果たすのは、流石に初めての気がする加藤義一2023年第一作。これも簡便に合成可能な、デジタルの果実を享受してのマジック、ないしミラクル。加藤義一的には当年ピンクは今作きりではあれ、歳末に薔薇族がもう一本ある。以前のなかみつせいじと杉本まことの共演作でいふと、なかみつせいじが支配人を務めるテアトル石和(山梨県笛吹市/2018年閉館)に、杉本まこと出演の劇中映画「北の梅守」のポスターが貼つてある加藤義一2017年第三作「悶絶上映 銀幕の巨乳」(脚本:筆鬼一・加藤義一/主演:神咲詩織)くらゐしか、ザッと見渡してみたところ見当たらない。共演してこそゐないけれど矢張り加藤義一で、記憶に新しくはない反面想ひ起こすのは容易いのが、代表作「野良犬地獄」の映画スター・杉本まことになかみつせいじが扮した、通算と同義の2002年第三作「スチュワーデス 腰振り逆噴射」(脚本:岡輝男/主演:沢木まゆみ)と、妹作たる2004年第一作「尻ふりスッチー 突き抜け淫乱気流」(脚本:岡輝男/主演:山口玲子)。その他、なかみつせいじがポスターではすぎもとまことにされてゐる工藤雅典の「痴漢電車 女が牝になる時」(2009/主演:鈴木杏里)や、デジエク第二弾と名義を違へるAV版「愛する貴方の目の前で… 女教師と教へ子」(2014/制作・販売・著作:アタッカーズ/脚本・監督:清水大敬/主演:香西咲)、とかいふバリエーションもなくはない。
 無闇にハイスペックな田舎者が、配偶者捜しで大都会にやつて来る。主人公が長の子息である点まで踏まへ、加藤義一とはタメの当サイトが世代的に脊髄で折り返すと「星の王子 ニューヨークへ行く」と、「ミラクル・ワールド ブッシュマン」を足して二で割つて、乳尻をてんこ盛りにした類の一篇。尤も、サユリの店にカクゾウが転がり込むまでは、全く以て順調であつた、とはいへ。塵隠一族跡継ぎの嫁騒動なんて、気がつくと何処吹く風。閑古鳥の鳴くカレー屋を盛り立てるべくサユリ母子とカクゾウが奮闘する、いはゆる細腕繁盛記的な下町家族劇に前半が完全にシフトする大胆といふか、大らかな構成に軽く驚、くのは実は全然早い。商売が軌道に乗り始めるや否や、ちやうど前後半の境目辺りでカクゾウがサクッとサユリに求婚。サユリもサユリでケロッと首を縦に振る、結部と見紛ふ起承転結の転部には本格的に度肝を抜かれた。この映画、こゝで終る訳でも終れる筈があるまいし、全体後ろ半分どうするのよ、と引つ繰り返りかけたのが、ベクトルはさて措き惹起された感興の最大値。
 心配しなくていゝ、信頼もしなくていゝ。サユリを塵隠の里に連れ帰るどころか、忍びの道すら捨てた要は町人の人生をカクゾウが選ぶ。事態の正しく急展開を受け、話の流れがカクゾウの嫁捜しからカクゾウ自身の強制帰郷へと華麗か豪快に移行。イチカがミツオも篭絡する、くびれが素晴らしい三番手の第二戦は天馬ゆい―と安藤ヒロキオ―クラスタ以外恐らく喜ばない、分水嶺を明白に跨ぐ冗長さで遮二無二尺を稼ぎつつ、背景に大星雲の広がる壮大か盛大な、兎に角クライマックスに足るカクゾウとヒメコの、忍術といふか淫術の大激突を経て。元々デキてゐたカクゾウとサユリに、頭領は案外簡単に倅を諦め、ヒメコとの間に後継者を新たに設けるフレキシブルな方針転換。単に、色香に負けたともいふ。そんなこんなの正しくどさくさに紛れ、イチカとミツオも何時の間にかくつゝいてゐたり。三者三様のカットバックが火花を散らす、締めの濡れ場・ストリーム・アタックで桃色に煮染めた大団円に捻じ込む、力尽くのラストは鉄板といへば鉄板。そもそもカクゾウとサユリの間に、ラブアフェアといふほどの付かず離れずも特に発生してをらず。カレーを旨くするのに忍術の使用を諫める以外、実はヒロインが進行上ほとんど全く何もしてゐないへべれけな作劇と、少しは録音部でどうにかしてやれなかつたのかとさへ思へかねない、力強く心許ない二番手の発声。と、更に。一欠片たりとて面白くも何ともない、派手な肩の力の抜け具合さへさて措くならば、鉄板といへば鉄板。何かもう、針の穴にモンケン通すみたいな無理難題に突入して来た。
 たゞし、素面の劇映画はいつそ捨ててしまひ、女の裸に、潔く全てを賭けるにせよ。いざ絡みの火蓋を切つた途端文字通り白々とした、なほかつ馬鹿の一つ覚えな一本調子でメリハリを欠く、徒にハイキーな画は些かならず考へもの。

 最後に、蛇に足を生やす与太を吹くと。密命を下す主君も別にゐなささうな現代の塵隠一族に、“濡物帳”と下の句は兎も角、“隠密”もへつたくれもないやうな野暮か根本的な疑問。


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 「痴漢バス2 三十路の火照り」(2002/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督:荒木太郎/脚本:内藤忠司/撮影:前井一作・横田彰司/編集:金子尚樹⦅フィルムクラフト⦆/制作:小林徹哉/助監督:下垣外純・井上久美子・斉藤ます美/スチール:縄文人/音楽:YAMA/パンフレット:堀内満里子/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:佐藤選人/出演:佐々木麻由子・佐倉萌⦅二役⦆・鈴木ぬりえ・縄文人・山咲小春・螢雪次朗/エキストラ:西川方啓・内藤忠司・ヒロ・大町孝三・森山茂雄・染屋冬香とその仲間たち・松岡誠・瀬戸嶋勝)。出演者中佐倉萌の二役特記と、エキストラのうち内藤忠司から瀬戸嶋勝までは本篇クレジットのみ。エキストラの正確な位置は、縄文人と山咲小春の間に入る。そして影も形も出て来ない太田始が、何故かポスターに載せられてゐるありがちなフリーダム。
 女の喘ぐ口元、音声による睦言の代りに、原文は珍かなで“こゝが感じるのを君に教へたのは誰かな?”、“アア・・・・さあ、誰だつたかしらアア・・・・”。露悪的に下品な筆致の手書スーパーで画面を汚す、全く以て余計な意匠の極みでしかない、木に竹も接ぎ損なふクソ以下の無声映画演出で開巻即、逆の意味で見事に映画を詰んでみせる。それはそれ、これはこれの精神で断ずるが矢張り荒木太郎は、底抜けの粗忽者にさうゐない。勿体ぶつて小出しする関係性を、最初に整理しておくに如くはない気も否み難いのはさて措き。互ひに結婚を一度失敗した者同士、各々の仕事優先、束縛し合はない付き合ひを旨とする、家具デザイナーの由紀みどり(佐々木)と弁護士・佐藤繁(螢)の逢瀬。事後、仕事を方便にみどりをバス停で降ろした佐藤は、何故か「肉体の門」に出て来るパン女みたいなカッ飛んだ造形の、天野早紀子(佐倉萌の一役目)を拾ふ。交差点に存する、結構あり得ないロケーションの停留所からみどりが乗車したバスに、助手席が早紀子に代つた佐藤の車を揶揄つて来たばかりの、拓人(山咲)も乗り込みみどりに痴漢する。ところで拓人とあるやうに、今回山咲小春(ex.山崎瞳)は男装の類でなく純然たる男子設定。女を責めこそすれ、自らの擬装を解除して乳尻を拝ませはしない。暫し観た覚えがないのは単に忘れてゐるだけかも知れないが、女優部に男を演じさせる派手な力技がかつては松岡邦彦2009年第二作「男で愛して 女でも愛して -盗まれた情火-」(脚本:今西守=黒川幸則/主演:MIZUKI)や、下元哲名義での最終作「養老ホームの生態 肉欲ヘルパー」(2008/脚本:関根和美/主演:Asami=亜紗美)。片山圭太最終作「私が愛した下唇」(2000/脚本:関根和美/主演:里見瑤子)等々、探せばちらほら見当たる。と、いふか。一本思ひだした、荒木太郎の現状最終作「日本夜伽話 パコつてめでたし」(2017/主演:麻里梨夏)にて、端役ながら淡島小鞠(a.k.a.三上紗恵子)が荒木太郎を配下に従へ、Ave Maria少年総統に扮してゐた。
 配役残り、エキストラは潤沢な痴漢バスの乗客要員。何時ものマイクロバスでなく、車体に小田急とか書いてある本格的な車輛も用立てる、妙に気合の入つたプロダクションが何気に謎、何処からそんな金が出て来たのか。縄文人は、みどりが図面を引いたインテリアの、製作を担当する家具職人・小山内多呂。小山内の作業場とみどりの自宅は、a.k.a.比賀健二の縄文人が本当に自力でオッ建てた、道志村のpejiteで撮影される。のは兎も角、多呂が行く末に気を揉む、高校を中退した倅が拓人であつたりするのが、まゝある劇中世間の器用な狭さ。一言で結論を先走ると、要は藪の蛇を突いてばかりの一作にあつて、佐倉萌の二役目は職場に於けるセクハラ被害を―人権派を自認する―佐藤に相談してみたところ、モラハラ紛ひの半ば叱責を喰らふ依頼人。視点が正面に回り込む際には、距離と照明とで上手いこと誤魔化して、ゐるけれど。当該件が物語の本筋に1mmたりとて掠るでなく、何でまた何がしたくて、デュアルロールをわざわざ仕出かしたのかは知らん。拓人に心―と体―を移したみどりから電話で別れを告げられ、愕然とする佐藤に背後から歩み寄り声をかける荒木太郎は、佐藤が訴訟の応援に入る法学部の同級生。見るから走らなさうなジオメトリのビーチクルーザーが調度された、拓人がみどりに羞恥プレイを仕掛けるレストランのテラス席。離れたテーブルから二人を訝しむ男女のうち、男の方は佐藤選人。大胆にもエピローグまで三番手を温存する、鈴木ぬりえはみどりに捨てられた拓人が、バス痴漢に及ぶ女子高生、エモいオッパイ。
 サブスクの中に未消化の荒木太郎旧作を残してゐた、虱潰しも遂に完了する荒木太郎2002年第一作。実は荒木太郎の梯子を手酷く外して以降も、大蔵は旧作の新規配信を行つてをり、先に軽く触れた「日本夜伽話」に至つては、「ハレ君」事件から実に三年後の2021年に配信されてゐる。目下、未配信の旧作が指折り数へて計八本。せめてもの罪滅ぼしに、随時投入して呉れて別に罰はあたらないんだぜ、つか滅ぼせてねえ。
 結果的に引退なんてしなかつた、佐々木麻由子の引退作といふ側面に関しては、この期に採り上げる要も特に陽極酸化処理、もといあるまい。大人の男との、双方向に便利な間柄に草臥れかけた大人の女が、偶さか邂逅した魔少年との色恋に溺れる。所謂よくある話を、無駄にトッ散らかしてのけるのが荒木太郎。既にあれこれ論(あげつら)つておいた、ツッコミ処で全てだなどと早とちりする勿れ。闇雲なテンションで見開いた大きな瞳でみどりを見詰め続ける、拓人は魔性を頓珍漢に強調か誇張したのが諸刃の剣、限りなくたゞの壊れものと紙一重。聾唖をも思はせる反面、女の扱ひには異常に長け、徒走で路線バスに追ひ着く、大概な剛脚も誇る。みどりと、後を尾けて行く拓人が画面奥に通り過ぎた歩道から、カメラが街路樹を跨ぐと遠目にバスがやつて来る。気の利いた映画的な構図にも一見映りかけつつ、もう少しぎこちなくなく視点を動かせないのか。といふか無理か横着して手持ちで撮るからだ、大人しくフィックスにすればいゝのに。みどりが気づくと、男がペジテの庭に入つて来てゐた。のを拓人の一発目はまだしも、佐藤で二番茶を煎じてのけるのも如何なものか。重要度の高いみどりの台詞を、旧い功夫映画ばりに三度反復する三連撃と双璧を成す手数の欠如以前に、女の一人暮らしであるにも関らず、由紀家の防犯意識に不安さへ覚えかねない。佐藤がみどりに愛を叫ぶ、締めの濡れ場に雪崩れ込む大事な導入に及んで、腐れ字幕こそ持ち出さないものの、螢雪次朗の発声を切除。観客ないし視聴者のリップリーディングに頼らせる、最終的な疑問手で完全にチェックメイト。技法の革新でも起こり得ない限り、肝心要のシークエンスで読唇カットを繰り出すのは、悦に入つた横好きか悪癖にすぎぬ気がする。といふのは何も当サイトの低リテラシーを棚に上げてゐる訳では必ずしもなく、そもそも未だ、人類全体ですら高い精度の読話には到達してゐない。作る側は、自分等で書くなり口にしてゐるゆゑ内容を読み取るのでなく、端から所与といふだけである。
 「ホントに信じてるのかなあ」、「信じてなんかゐないはよ」の切れ味鋭くキマる繋ぎと、出し抜けとはいへ、一方的に年齢差の限界に到達したみどりが、畳みかけた激情を拓人に叩きつける件。佐々木麻由子らしい案外ソリッドな突進力が活きる、見せ場も一つ二つ煌めくにせよ。詰まるところ親爺が危惧した通り、要は成熟した女の色香に迷つた未成年の小僧が、ヒャッハーに片足突つ込んだ暴力的な破滅を迎へる割と実も蓋もない物語。あと、今更辿り着く話でもないが螢雪次朗は大して、絡みが上手くはない印象も受けた。そこはピンク映画の引退作である以上、ピンク女優の花道を本気で飾るつもりならば、地味でなく重要な点かと立ち止まらなくもない。

 冒頭の手書スーパーを改めて難ずると、佐藤に対し逆襲に転じたみどりが、“あなたもこゝを誰かに引つ掛かれては歓んでゐた・・・・・”といふのは、そこは“掛く”より“掻く”ではないかなあ。eが脱けてゐるやうにしか思へない、本篇ラストを飾り損ねる“good by again”―八島順一の“I'ts so Friday”か―といひ、如何せんこの御仁はそんなところから逐一不自由。勢ひに任せ我が田に水を引くと、ものの弾みか何かの間違ひで荒木調だの下手に称揚され、他愛ない我流に固執したあまり、荒木太郎は却つて自由を失つてしまつたのではなからうか。


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 「超過激本番失神」(1992/製作・配給:新東宝映画/監督・脚本:中野貴雄/プロデューサー:プレジャー後藤/撮影:下元哲/照明:多摩新町/音楽:藪中博章/編集:フィルムクラフト/助監督:高田宝重/監督助手:山西勝/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:林信一/メイク:木下浩美/スチール:つくね二郎/現像:東映化学/録音:銀座サウンド/効果:鴇泉宗正/出演:水鳥川彩・風見怜香・伊藤舞・中村京子・三上ルカ・ジャンク斉藤・西条承太郎・ラッキイ鈴木・ダーティー工藤・ブラボー川上・大橋竜太郎・藤木TDC・松隈健・サトウトシキ・平賀勘一・山本竜二)。出演者中、ジャンク斉藤がポスターにはジャンク斎藤で、ダーティー工藤からサトウトシキまでは本篇クレジットのみ。公開題の、煽情的な単語を適当に繋げた結果、却つて何もかも喪失してしまふニュートラルさが清々しい。
 タイトル開巻、そのまゝクレジット起動。社名に“映画”がつかない方の新東宝が昭和三十年代に狂ひ咲かせた、エログロ映画のポスターでタイトルバックをおどろおどろしく飾る。その毒々しい絵巻で、この映画のコンセプトはほゞ完成してゐる感もそこはかとなく漂ふ。本篇蛇足かよ、せめて惰走といへ。閑話休題、いゝ機会にザックリ振り返ると、オーピーの正確には親会社たる、大蔵映画(ex.富士映画/昭和37年設立)を興した大蔵貢が旧・新東宝(昭和36年倒産)を事実上潰したのち、関西の残党が旗揚げしたのが、細々と現存する新東宝映画(昭和39年に社名変更)の前身、新東宝興業(昭和36年設立)といふ沿革。
 ど頭にスーパーで片付けもとい掲げられる、“帝都の一角に出現した東洋の魔窟”こと“女体渦巻地帯”。雰囲気的には昭和中期の港湾都市、女レスリングのショーが売り物のキャバレー「カスパ」。まづマダムの星影銀子(風見)が、妖艶な踊りを披露する。全盛期を思はせる風見怜香の、パキッとした美貌のみならず、正しくグラマラスな肢体はやゝもすると抜けかねない、劇中世界の底を柔肌一枚繋ぎ止める命綱。店に顔を出した銀子の情夫で、周囲からはボスと呼ばれるカスパの経営者・蛇沼耀一(平賀)を、手下のテツ(西条)とラッキイ鈴木が出迎へる。こゝで西条承太郎といふのは二村ヒトシが男優部時代に使つてゐた名義で、ラッキイ鈴木を適当に譬へると、禿げた中根徹、あるいはうじきつよし。
 配役残り、主人公残すのかよ。水鳥川彩は「カスパ」の新人レスラー・赤城マリ、銛を得物に海女造形。中村京子がこちらははじめ人間造形の、マリの対戦相手・モガンボお千代。伊藤舞はマリと仲良くなる、三ヶ月パイセンの歌川鈴子。そして山本竜二の一役目は、二人の楽屋に何時も通りのメソッドでワチャワチャ闖入する、呆けた雑用係その名もアラカンさん。ところが強い衝撃を加へられるや、アラカンさんは明治天皇にフォームチェンジ、何て自由な映画なんだ。三上ルカは、鈴子と女相撲を取るネームレスレスラー。二人の取組中「カスパ」に現れる、山本竜二の三役目はペン回し感覚で自動式拳銃を回転させるマドロス・ハリケーンの政。どうスッ転んでも山本竜二が小林旭には見えないけれど、一応もしくは無理矢理、ギターを持つた渡り鳥的なキャラクター。それをいふてはアラカンにも見えないが、そこは親族特権―ないし免責―といふ奴だ。ジャンク斉藤は大物の取引を蛇沼に持ちかける、謎の東洋人密輸業者・玄海竜。平賀勘一の戯画的な悪党ぶりと、ジャンク斉藤の絶妙な胡散臭さ。羽目の外し具合が上手いことハマッたのか、この二人の2ショットが見た覚えのない強度で画になる。風見怜香同様、とかく不安定な一作の安全装置として機能する。玄海竜のアジトにて、テツに撃たれて死ぬ照明助手は、林信一のヒムセルフ?そしてまんま多羅尾伴内式に、ハリケーンの政からアラカンさん、明治天皇と三段変身の末行き着く山本竜二の四役目が、正直正体不明の鞍馬天狗。この際いはずもがなながら触れておくと、明治天皇にせよ鞍馬天狗にせよ山本竜二の叔父で、アラカンの愛称で親しまれた嵐寛寿郎の当たり役。といふか、山本竜二が嵐寛寿郎の甥である以外に、アラカンさんとハリ政はまだしも、この物語に明治天皇や鞍馬天狗が出て来る意味なり理由は特にも何も全くない。忘れてた、本クレのみ隊は「カスパ」の客その他、蛇沼と玄海竜それぞれの配下、第三世界のバイヤー等々。カスパの客席に、女が一人ゐるのは誰なのか本当に謎。
 五十音順に上野俊哉・サトウトシキとのオムニバス作「ザッツ変態テインメント 異常SEX大全集」(1991)を経ての、中野貴雄単独第一回監督作品。何時の間にか、あの中野貴雄が―どの中野貴雄だ―ウルトラシリーズでメインライター格を務めてゐる、何気に界隈トップ級の大出世を窺ふに。全体中野貴雄と、恐らく資質的にはより優れてゐた筈と思しき、友松直之は何処で差がついたのか。明後日か一昨日な感慨が、脊髄で折り返して胸を過(よぎ)るきのふけふ。放り投げるだけ放り投げてみた与太はさて措き、第五回ピンク大賞に於ける三人連名での新人監督賞受賞は兎も角、“1996年度リール国際トラッシュ映画祭グランプリ受賞作品”である旨、新版ポスターでは賑々しく謳はれる。と、はいへ。さりげなく疑問なのが、件のリール国際トラッシュ映画祭。試しにググッてみたところで出て来るのは今作と、「恋はシリアルキラー」(1994)のフライヤー画像くらゐしか見当たらない。掴み処を欠いたミステリーの真相や、果たして如何に。
 暗黒街を彩る、女達の死闘。潜伏したアンダーカバー、ソビエトから流出した核弾頭。威勢よくオッ広げてはみせた大風呂敷を、満足に畳む気なんぞどうせ端からない風情は、茶を濁し続けるメタ的な小ネタと、木に竹を接ぎ続ける山本竜二の四変化で白状してゐるも同然。マリが出し抜けに平塚らいてうを持ち出す真意は、流石に測りかねるものの。尤も、一見チンケな活劇をへべれけに垂れ流してゐるかに見せ、実際その通りにほかならない気もしつつ、案外さうでなくもない。とりあへず考証的に配慮したのか、キャットファイトの用語は使はれない女の裸的には疑似百合を除き、ビリング頭は拘束された状態で犯される平勘と、締めの山竜。二番手は当然平勘、三番手は藪から棒も厭はずカット跨ぎで檻の中、二村ヒトシに競り落とされてゐる。三本柱には各々男女の絡みが設けられる上、女同士の取つ組み合ひに関しても、主演女優は四番手と戦はされる三番手に、女優部ラスボスの二番手と激突する三戦。三番手は五番手とビリング頭の二戦に、二番手はビリング頭と、コンタクト程度の初戦を半分に扱ふと計1.5戦。ビリング頭が下位を優先する点まで含め実は完璧な濡れ場の配分に加へ、テツに凌辱された鈴子をマリが鼓舞する流れで、共闘関係が成立する地味に堅実な展開。裸映画として全体の構成は、思ひのほかしつかりしてゐる。さうは、いふてもだな。児戯じみた争奪戦と、コント以下―何せ片方は鞍馬天狗―の起爆解除サスペンスが大人の娯楽映画、のしかも佳境には些かどころでなく割と全力でキツいものもある。いつそ思ひ切つて、DEAD OR ALIVEなオチでボガーンと振り逃げてみせれば。作家性未満の他愛ない趣味性が、観客を呆然とさせるか奈落に突き落とす、抜ける抜けない以前に元々底なしの虚無に、グルッと一周してゐたかも知れないものを。

 何れにしても、それともそもそも。天皇だ原爆だ、斯くもセンシティブ且つキナ臭い題材を、無造作にブン回す映画が小屋で普通に上映されてゐる状況こそ、ある意味一番興が深いともいへようか。だから「ハレ君」も、シレッと封切つてのける訳には行かなかつたのかだなどと、この期に及んで性懲りもなくか往生際の悪く、ジャンクされた映画の尺を数へてみたり。


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 「喪服妻 湿恥の香り」(2000/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/監督:荒木太郎/作・出演:快樂亭ブラック/撮影:飯岡聖英・堂前徹之・清水慎司/編集:酒井正次/助監督:田中康文/制作:小林徹哉/音樂:篠原さゆり/ポスター:木下篤弘/応援:松岡誠/めくり:春風亭昇輔/   タイトル:堀内満里子/名ビラ:春風亭昇輔/応援:松岡誠/協力:染屋冬香・吉行由実・大町孝三・快樂亭ブラ汁/録音:シネキャビン/現像:東映化学/タイミング:安斎公一/出演:時任歩・伊藤清美・前野さちこ・⦅特別出演⦆ターザン山本・岡田智宏/   出演:伊藤清美・前野さちこ⦅新人⦆・時任歩・⦅特別出演⦆ターザン山本・岡田智宏/エキストラの人々:今泉浩一・太田始・内藤忠司・小林徹哉・下ガイトジュン・田中康文・松岡誠)。複雑怪奇な表記は、アバンとエンドで情報量ないし肩書はおろか、ビリングからクレジットが異なつてゐる由。便宜上もしくは視覚的効果を狙ひ、三拍空けたスペース以降がエンド版。エンドでしかクレジットされないエキストラは、時任歩と落武者の間に入る。
 六年後、真打昇進にあたり瀧川鯉朝に改名する春風亭昇輔が、名ビラの形でクレジットを一枚一枚捲つて行くだけのアバンを経てタイトル・イン、ヒムセルフの快樂亭ブラックが高座に上る。葬式を終へたのち、「吉原に 回らぬ者は 施主ばかり」。喪服女の色気なる、無粋な当サイトがいまひとつもふたつも理解してゐない―兎に角固定されるのが苦手なのね―大定番嗜好を投げた上で、「実は私行つて来たんですよ、イメクラの未亡人喪服プレイに」。正しくモップみたいな頭の嬢・夢美(前野)と快樂亭が一戦交へるのは、風俗ライターの与田明(岡田)が記事を書く取材の一環。快樂亭と、後述するターザン山本。この二人が顔も体も汚い反面、前野さちこの柔らかみも感じさせる所謂ロケット乳はエモーショナル、つくづくぞんざいな髪型が惜しい。咥へて、もとい加へて。清々しく棒のターザン共々、口跡も商業映画に出演させるには、凡そ相応しからぬレベルで心許ない。
 配役残り、エキストラ隊は寄席の客と、中盤途轍もなく木に竹を接ぐ、往来ミュージカル要員。未亡人喪服プレイの火蓋を切る、遺影の男は手も足も出せず不明。そして時任歩が、この人も出版業界といふ設定に意味は別にない、与田の婚約者・麻里。先に浴衣で飛び込んで来る、伊藤清美が稲田の妻・泰子で、改めて振り返つておくと1996年の六月にベースボール・マガジン社を退社しただか事実上放逐された、ターザン山本は与田が仲人を乞ふ作家の稲田和弘。ちなみかついでに、劇中稲田と泰子の結婚も四年前。与田と麻里が二人ともバツイチ、麻里にはゐる息子・ショータ君役の男児も知らん。あと、カットの隙間を突くとシドニー帰りの与田を愕然とさせる、見出しと写真だけ差し替へた、稲田の死亡記事が実際には峰隆一郎の訃報。泰子の述懐によると稲田の享年は―ターザンの当時実年齢と同じ―五十五ゆゑ、峰隆一郎が六十八で亡くなつた文面と実は食ひ違つてゐる。
 荒木太郎2000年第四作は、種々雑多な名義で十数本のピンクに出演してゐる二代目快楽亭ブラックが脚本も担当した、快樂亭ブラック名義による最終作。かと、思ひきや。よくよく調べてみるに、狭義のピンクは確かに打ち止めながら、2005年に矢張り多呂プロの薔薇族「優しい愛につゝまれて」(脚本:三上紗恵子/主演:武田勝義)がもう一本あつた。量産型娯楽映画の藪は、マリアナ海溝より深い。
 快樂亭ブラックが快樂亭ブラックのまゝ高座から狂言回しを務め、何処から連れて来たのかあのターザン山本が、しかも伊藤清美相手に結構普通の絡みを敢行する、一大変化球もしくは問題もとい話題作。流石に荒木太郎も色物を自覚したか、序盤にして驚愕の十分撃ち抜く、分量のみならずテンションも完全に締めの与田と麻里の婚前交渉始め、腰を据ゑた長尺の濡れ場を三本柱各々放り込む、女の裸的には案外安定する。噺家相手に黙れといふのも何だが、快樂亭が至らぬ水を差しさへしなければ。さうは、いふてもだな。最終的に、与田の隣に誰がゐるのか最後まで判らない、見終つても釈然としない物語本体は大概へべれけ。中途半端な抒情をかなぐり捨て、泰子が仏前で与田によろめく急旋回の急展開には度肝を抜かれ、目撃した与田と、与田が部屋に呼んだ夢美との情事を体験取材で無理から不問に付す、麻里のバーホーベンならぬばか方便には呆れ返つた。そもそも、大して膨らみも深まりもしない物語をひとまづ起動させる、麻里のマリッジブルーから徹頭徹尾手前勝手か自堕落な他愛ない戯言で腹も立たない。散発的に闇雲な情感を―独力で―叩き込む伊藤清美と、前野さちこのオッパイが、映画と裸それぞれか精々のハイライト。事後そゝくさベッドを離れ服を着る麻里を追ふ、カメラは無駄か下手に動いた結果ピントを失し、終盤出し抜けに火を噴く、藪蛇な烏フィーチャは烏で何をしたいのか烏の何がそんなに好きなのか、1mmたりとて理解出来ない盛大な謎。要はそこそこ健闘してゐる筈の裸映画の足を、木端微塵の劇映画が引くやうな始末か不始末ともいへ、端からオチの顕(あらは)な小噺でなほ、一篇をひとまづ綺麗に括つてみせるのは快樂亭にとつて本業の、そこは流石に伊達ではない底力。

 春風亭昇輔が師匠の死に伴ひ移籍した結果、空白期間を挿みつつも長く荒木太郎映画で準レギュラーを務めた、ex.瀧川鯉之助(ピンクでは滝川鯉之助名義)の春風亭傳枝と同門とかいふ、意外か偶さかな世間の狭さに興を覚える。


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 「濡れた唇 しなやかに熱く」(昭和55/製作:幻児プロダクション/配給:ミリオンフィルム/監督:中村幻児/脚本:水越啓二/撮影:久我剛/出演:小川恵・楠正道・立川ぽるの・国分二郎・笹木ルミ・武藤樹一郎・豪田路世留・竜谷誠・市村譲、ほか)。衝撃的なのが何時まで経つても入つて来ない、タイトルはもう最後に入れるのかなあ、と大人しく見進めてゐたところ。結局タイトル・インはおろか、クレジットさへスッ飛ばす配信動画の豪快仕様。破壊ないし、破戒スペックともいふ。頭を抱へがてら軽く調べてみると、どうやら円盤も配信と尺は変らない模様、さうなるとフィジカルでも入つてゐない予感、それとも悪寒。とまれそのため、スタッフ僅かに久我剛まではjmdbに頼り、俳優部に関してはまづ主役の二人を頭に置いた上で、以降は判別出来ただけ、仕方ないので登場順に並べてみた。
 「俺と一緒にゐて、幸せか?」、「あたしが邪魔ぢやない?」。「邪魔になつたら何時でも」、「俺が嫌になつたら何時でも」。安アパートの狭い寝床、小川恵と楠正道が煮詰まり倒した会話を拗らせる。一転晴れやかに、「ギネスに挑戦!キッスマラソン大会」、司会者の立川ぽるのが朗らかに大登場。既に唇を離した一組が見守る中、OLの小森レイコ(小川)と脚本家志望の平野ミチヲ(楠)以下、五組のカップルが微動だにせず長時間キスを続ける。こゝで立川ぽるのといふのは、御存知二代目快楽亭ブラックの正式な改名にカウントされてゐない、順番的には六番目の立川カメレオンと、7th・レーガンの隙間に入る変名。あくまで、仮に今回が最初の使用であつた場合。ついでといつては何だが、この御仁の当サイトが確認し得る最初の量産型裸映画出演は、稲生実(=深町章)昭和53年第七作「痴漢各駅停車 おつさん何するんや」(脚本:福永二郎/主演:久保新二・野上正義)の、一ヶ月前に公開された山本晋也同年第五作、買取系ロマポの「ポルノ チャンチャカチャン」(主演:原悦子)、この時は4thの桂サンQ。恐らく最後は、快楽亭ブラック名義で2000年辺りの多呂プロ作。
 微に入り細を穿つも決して神など宿しはしない、閑話休題。「三月の初め頃だつたかなあ、あいつと初めて会つたのは」、ミチヲがレイコとの来し方を振り返る。半年足らず前、シナリオ公募の締切間近で郵便局に急ぐミチヲと、レイコが曲り角の出合頭で衝突。弾みでミチヲの手から飛び、バケツの水に浸かつた原稿用紙を茶店で一緒に書き直したのが、二人の出会ひだつた。この辺り中村幻児の、アクロバットなミーツに傾けた謎の熱量を感じる。
 配役残り、堅気のホワイトカラー役が清々しく似合はない国分二郎は、レイコの上司、兼ギリ社内恋愛相手のニシオ。尤も結婚の決まつたニシオが、手切れ金代りにネックレスを渡さうとする類の関係ではある。笹木ルミはミチヲが助監督として参加―居眠りしてゐて馘になる―する、ピンク映画撮影現場の女優部、ミチヲとは男と女の仲。おでんの屋台でミチヲと約二年ぶりに再会する武藤樹一郎が、当時同人誌を出してゐた仲間の谷村。そして竜谷誠が谷村の脚本が採用されるドラマ番組「木曜劇場」のプロデューサーで、竜谷誠に抱かれる豪田路世留は、谷村の恋人でミチヲもその存在を知るミユキ。即ち、その手のありがちな浪花節。最後に市村譲も市村譲でレイコが身を任せる、東洋テレビのP。但し、ホテルの表に谷村が迎へに来るミユキとは異なり、レイコは正真正銘の独断で動く。再びこゝで、市村譲の来歴を大どころか超雑把に振り返ると。昭和40年代前半に俳優部でキャリアをスタートさせた市村譲は、今作封切りの二日後に「女高生 いたづら」で監督デビュー。早速五本発表しつつ、この年は俳優部も並行する。翌年から演出部に専念、1995年まで百を優に超える本数粗製濫造してのけた、といつた次第。話を戻すとキスマラのその他参加者五組十名を始め、レイコの勤務先と、ピンクの現場。劇中ミチヲとレイコの二人がチョイチョイ使ふ飲食店に、総勢で三十人前後の結構な頭数投入される。その中でも比較的大きな役は、高田宝重みたいな風貌でオカマ造形の監督と、恰幅がよく座つてゐると大きく見えるけれど、立つてみれば案外背の低い同人仲間もう一人。
 『PG』誌が主催してゐたピンク大賞(1989~2019/1994年までは『NEW ZOOM-UP』誌)の前身、ズームアップ映画祭(昭和55~昭和63)の第二回で、ズームアップ映画賞といへばいゝのか映画祭作品賞が正解なのか。正確な用語が判らないが、要はピンク映画ベストテンの一位なりピンク大賞に相当する栄誉に輝いた、中村幻児昭和55年第二作。個人部門に於いても中村幻児が監督賞、豪田路世留と国分二郎は助演女優賞男優賞を貰つてゐる。
 往時大いに評価された、にしては。放送されたドラマを見てみれば、平野が実際に書いた脚本から大幅に手が加へられてゐた。それを―転がり込んだレイコの部屋で見た―ミチヲがまんまと称賛する間の抜けた粗忽も兎も角、正体不明の絶望に陥つた平野とミユキが、脊髄で踵を返す速さでガス自殺する無体な最期を知つてなほ。レイコがみすみすミユキ―と平野―の轍を踏む、一本調子か手数を欠いたドラマツルギーが兎に角顕著なアキレス腱。最後の区切りか記念感覚でキスマラに参加したレイコとミチヲが、世界新記録を達成したのち、「さよなら」、「うん、さよなら」。思ひのほかアッサリと別れの挨拶を交す、抑制されたラストはスマートな輝きを確かに放つともいへ、決定的な印象は必ずしも受けなかつた。女の裸的にも、不用意な距離から頑なに寄らうとしない―傾向の目立つ―濡れ場には、カッコつけるなよといふ底の浅いレイジを禁じ難い。
 全体的な物語の完成度はさて措き、当サイトの惰弱な琴線を激弾きしたのは、尺のちやうど折返し間際。レイコが帰宅すると、初春のコンクールに結局落ちたミチヲが、ドラスティックに狭隘な廊下で座り込んでゐた。「俺もうダメだよ」的に、どうしやうもなく燻る面倒臭くしかないミチヲに対し、レイコは「あたし何にもしてあげられないけど」、「慰めてあげようか」。ゐないよ!そんな優しい女、現実で起こり得ないよ!そんな都合のいゝシークエンス。それがどうした、半世紀も生きてゐれば、ピンクスでもそのくらゐの実も蓋もない経験則には否応なく達する。世界は素晴らしくなんてないし、人生は美しくなどない。なればこそ、映画が必要なんだらう。せめて薄汚れた小屋のションベン臭い暗がりの中にくらゐ、やさぐれた魂を穏やかに浸す、さゝやかな慰撫を求めて何が悪い。狂ほしく火を噴く、壮絶に麗しいフィクションの大嘘が一撃必殺、千古不磨のエモーション。たとへどれだけそれが、怠惰で情けないものであつたとて。


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 「痴漢バス いぢめて濡らす」(2000/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/監督・出演:荒木太郎/脚本:内藤忠司/撮影:清水正二・岡宮裕/編集:酒井正次/助監督:田中康文・下垣外純/制作:小林徹哉/スチール:木下篤弘/振り付け:しのざきさとみ/協力:ゆき なり/現像:東映化学/録音:シネキャビン/出演:時任歩・西藤尚・岸加奈子・杉本まこと・太田始・関口香西・星野花太郎・小林徹哉・大町孝三・内藤忠司・野上正義・港雄一)。
 富士急行線の下吉田駅前(山梨県富士吉田市)、温泉旅館の送迎バス運転手・アベ四郎(荒木)とヒデコ(西藤)の兄妹が、改札から出て来た五人連れ(恐らくスタッフ)を捕まへ損ねる。今日も今日とて送り迎へする人間の乗らぬ車を、情婦のミヤコ(岸)を連れた、地主・ダイスケ(港)が路線バス感覚で止める。四郎が大人しく二人を拾ふのは、旅館がダイスケから金を借りてゐる由。乗車するやダイスケは最後尾でオッ始め、痴漢バスが蛇行してタイトル・イン。前作に引き続きタイミングが結構唐突なのは、もしかして荒木太郎はタイトル入れるの苦手?
 四郎とヒデコが湖畔のヤサに戻ると、時任歩が桟橋でてれんてれん躍動的にでなく踊つてゐて、ガミさんが焚火に当つてゐた。二人はストリップダンサーのカルメンルーナ(時任)と、マネージャーの木戸(野上)。アベ家を民宿と勘違ひ、普通の旅館には泊まる金のない二人を、ヒデコ主導でどうぞどうぞと招き入れる。かつて営業してゐた小屋が現存するものの、興行の許可がどうしても下りず木戸は窮してゐた。と、ころで。紹介する木戸が最初から、自身もルーナと称してゐるにも関らず、ルナさんルナさん兄妹が頑なにルナで通すのは、そんなに人を困惑させるのが楽しいか。
 バスの屋根の上にて、ルーナが四郎に語るストリップに身を投じた掴み処のない顛末。元々劇団員であつたルーナは、役者稼業に漠然とした不満を覚え、偶さか草鞋を脱いだストリップに何となく生の実感を見出す、見出したらしい。てんで要領を得ないのは、兎にも角にもルーナの自分語りが漫然としかしてゐない以上、最早どうしやうもないのはさて措き配役残り。杉本まことはルーナが金の無心で東京に戻る、劇団の演出家。設定的には高級マンション辺りと思しき、四郎がバスを飛ばしルーナを迎へに行くエントランス外観を、何時もの東映化学玄関口で事済ますのは微笑ましくない御愛嬌。結構影に沈みつつ、多分ゐる太田始以下、内藤忠司までは後述する興行バスのオーディエンス要員。
 今や遠く遥か彼方に霞むリアルタイム、m@stervision大哥が矢鱈滅多に絶賛しておいでの荒木太郎2000年第二作。
 日々空のバスを転がす兄妹が矢張り八方塞がり気味の、流れ者のストリッパーと出会ふ。くどいやうだが当サイトは未だかつて一度たりとて認めてはゐないが、往時の荒木太郎を旬と看做してゐた世評ないし風潮にでもお感触れになつたのか、一刀両断に片づけると、果たしてm@ster大哥は今作を改めて再見した上で依然同様に激賞なさるのかと、畏れ多い疑問も禁じ得ないくらゐドラスティックに面白くない。ある意味荒木太郎にとつては平常運行ともいへる、煌びやかなほど酷い。ダイスケとの腐れ縁から一応助け出されはしたミヤコが、木田に何時の間にか本格的になびいてゐるのはまだしも。ルーナも兎も角四郎が微動だに何もしてをらず、当然特にイベントの発生してゐない二人が、木に竹を接いでいゝ仲になつてゐたりするへべれけさが割と画期的。一時帰京前、出し抜けにルーナが「待つてて呉れる?」とかいひだした日には、君等待つもクソもないだろ!と引つ繰り返つた。挙句の、果てに。棚からボタボタ降り注ぐミヤコの金で、あれこれ拗れた始終が目出度し目出度しに収束する、自堕落な御都合展開が作劇上のアキレス腱。尤もさうもいへ、全然それ以前の話なんだな、これが。
 三年後、第十五回ピンク大賞でベストテン一位を始め、何故か七冠に輝いた「美女濡れ酒場」(2002/脚本・監督:樫原辰郎)に於ける山咲小春(ex.山崎瞳)の歌と同じく、時任歩に踊りのセンスがカッラッカラのからきしないのが、作品世界の醸成を根本的に阻む最大の致命傷。そらさうだろ、踊れない踊り娘が、主人公の類の物語でもないんだもの。手足を鈍重にどたんばたんするばかり、基本バンザイしてゐるだけの駄メソッドが、単なる時任歩個人の資質的限界かと思ひきや、よもやまさか振付師までゐようとは。クレジットを見てゐて卒倒するかと慌てふためく体験、プライスレス。大団円を飾つたつもりの、見つからない小屋の代りに乗る客もどうせゐやしない、四郎の車を用立てる痴漢ならぬストリップバス。マイクロバスの狭い車内で、時任歩がなほ踊れないのはナッシングエルスな悪い冗談。狙つたであらうスペクタクルが、ものの見事に成立してゐない。無謀にもほどがある、インパール作戦か。ついででショバの問題と、興業の可否は大して関係ないやうな気もしなくはない。野暮を捏ねるが、中でストリップを上演してゐるバスを、公道で走らせる方が寧ろハードルが高くはあるまいか。主演女優と二番手が二人がかりでも、三番手に納まる岸加奈子に手も足も出ない。転倒通り越してビリングを爆散する、歴然とした格の違ひは否み難く、形の上では締めの濡れ場を成す、バスで道志村に戻りながらの対面座位。四郎が前を見てゐないどころか、ハンドルすら握つてゐないのはジオン驚異のメカニズムも真ッ青の完全自動運転。観客なり視聴者を馬鹿にするのも、大概にして頂きたい。ツッコみ出したら止まらないぜ、真夜中のピンクスさ。杉本まことの捌け際、「オーレィッ!」は清々しく蛇に描いた足、逆の意味で完璧かよ。
 くたばれ減点法、こゝからが、よかつた探しに全ては流石に賭けない、ポリアニストの本領発揮。覚束ない演出部と、心許ない女優部頭二人に対し、敢然と気を吐くのが撮影部。フォトジェニックな富士山のロングを、全篇通して隙あらば乱打。映画に女と銃なんて別に必要ない、富士の画があれば成立する、とさへ錯覚しかねない一撃必殺を随所で撃ち抜く。雄大にして静謐な霊山の威容が、薄雲一枚映画を救ふ。


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 「あつぱれヒールズ びつくびく除霊棒」(2022/制作:Grand Master Company/提供:オーピー映画/監督・脚本・編集:塩出太志/撮影:岩川雪依/照明・Bカメ:塩出太志/録音:横田彰文/助監督:田村専一・宮原周平/小道具:佐藤美百季/特殊メイク:懸樋杏奈/特殊メイク助手:田原美由紀/魔女衣装制作:コヤマシノブ/整音:臼井勝/音楽:宮原周平/タイトルデザイン:酒井崇/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:露木栄司・木島康博・高嶋義明・青木康至・Seisho Cinema Club・愛しあってる会《仮》/出演:きみと歩実・西山真来・手塚けだま・並木塔子・七々原瑚子・橘さり・星野ゆうき・渡辺好博・今谷フトシ・竹内ゆきの・松本高士・窪田翔・漆崎敬介・細川佳央・加藤絵莉・折笠慎也・新井秀幸・田丸大輔・矢島康美・馬場泰光・鳥居みゆき)。出演者中細川佳央と、新井秀幸から馬場泰光までは本篇クレジットのみ。
 第一作「ぞつこんヒールズ ぬらりと解決!」(2021)、第二作「まん開ヒールズ 女の魔剣と熟女のアソコ」(同)を振り返るハイライトを、enough且つten minutesの十分見せた上で、占へない占師の松ノ木あゆみ(きみと)と眠らせられない催眠術師の東山マキ(西山)に、霊の見えない霊媒師・手塚茂子(手塚)。三矢の訓よろしく、ダメ人間が三人集まつたパラノーマル系便利屋ユニット、「ヒールズ」の日常的な暴飲暴食会。あゆみの両親が事故死してゐる布石を、サラッと投げタイトル・イン。アバンには今回一切出て来ない―クレジットもなされない―俳優部も、臆することなくワシワシ登場する。折角なので名前だけ拾つておくと、香取剛と西田カリナに松岡美空、津田菜都美、成宮いろはと小滝正大。凝縮した情報戦に、女の乳尻に割く余裕は残されなかつたか。
 明けて飛び込んで来るのは、詰まるところ疲れもとい憑かれ易い体質のトシヒロ(折笠)と、この時点では本当に全く正真正銘何処の何方!?な木村(七々原)の、トシヒロがアグレッシブに責める絡み。ところでこの二人、どうやら今作がラストアクトみたい。は兎も角事の最中、トシヒロは三人にトンデモ道具を提供するマッさん(今谷)と、元々マキの元カレであつたのが、今はプラズマ体宇宙人・シースー(橘)の器に甘んじてゐる鈴木(星野)も交へたヒールズを、リポーターの谷口美希(加藤)が紹介するテレビ番組に目を留める。仕事の舞ひ込んだ茂子が、何時もの調子でマキに助太刀を仰ぐ一方、放送を見て生き別れの両親を名乗り出た、田丸大輔と矢島康美の訪問を受けあゆみはそれどころでないキャンセル。仕方なくマキ一人連れて行く茂子に、助けを求める山田ゆうこ(並木)は意識のない裡に見ず知らずの男と、所謂ワンナイトラブを営んでしまふ怪現象に悩まされてゐた。SNSも畳み、完全にフェードアウトしたかに映つた並木塔子に関しては、伝聞形式ながら、塩出太志の口から戦線復帰が報告された往く人来る人、一旦往つて、帰つて来る人。なほ、帰つて来させて貰へない、荒木太郎、と池島ゆたか。
 閑話、休題。配役残り、妖艶なお胸の谷間をエモーショナルに刻み込む竹内ゆきのは、TV収録先の倉庫的なロケーションに顔を出す死神。地味か確実に迫つた危機を、それとなく忠告して呉れる。漆崎敬介はシースーこと、本名ピロロを訪ねる同族の宇宙人。ピロロは失念してゐる、地球に来訪した目的は人類滅亡。並木塔子の相手を一応務める細川佳央は、後述する窪田翔に憑かれるゆうくん。姿を消した、美希の彼氏でもある。一応とか言葉を濁したのはその一戦、二人とも憑かれてゐるギミックを優先、色気を放棄した代物。そしてトメを飾る鳥居みゆきが、ゆうこに憑いてゐた魔女。実体を持たぬゆゑ、鳥居みゆきの容姿は二十二年前に憑いてゐた、事故死した女のものである方便。に、しては。渡辺好博は今や茂子に結構自由自在に召喚され、シースーに続く事実上ヒールズ第五のメンバーたる武士の霊・ヨシ。成仏した結果、土手腹にブッ刺さつた妖刀「黄泉息丸」は失ひ丸腰で現れる。こゝまでが、前半部。あゆみ・マキ・茂子の三人と、マキから感染(うつ)された鈴木が急激に老いる後半。マッさん所蔵の謎―あるいはエクス・マキナな―書典に従ひ、元に戻るため四人ヒールズは吸血鬼の血を探す。松本高士が、特殊生命エネルギーも検知するやう改良された、幽霊測定器「ユーレイダー」でサクッと見つかる吸血鬼。何だかんだ吸血鬼も斥けたのち、木に締めの濡れ場を接ぐ新井秀幸は、あゆみと知らん間にデキてゐた元クライアントの上野。窪田翔が、前述したゆうくんに憑く悪魔。色塗りに頼る宇宙人と悪魔の造形は、正直ほとんどリデコ感覚。万事解決後のエピローグ、てつきり一幕・アンド・アウェイかに思はせた、七々原瑚子が見事に意表を突く再登板。馬場泰光は木村の依頼を受けたヒールズが捕捉する、近隣の冷蔵庫を荒らして回る食ひしん坊な霊。クレジットに於いては、“食べ過ぎた男”とされる。
 第五作がフェス先で公開された、塩出太志第四作。その最新作が全く別のお話である点を見るに、三本目でひとまづヒールズ完結篇となる模様。
 トシヒロがまた憑かれ鈴木は憑かれぱなし、美希も以前に憑かれてゐて。ゆうこも憑かれゆうくんに至つては、要はカップルで憑かれ。思ひだしたぞ、上野も親子で憑かれてゐた。実に憑依現象のカジュアルな世界観だな!とこの期に及んでプリミティブにツッコむのは、所謂いはぬが花と等閑視するとして。正しく矢継ぎ早に現れる敵々を、バッタバタといふかバタバタやつゝけて行く。如何にも今時の血統主義含めバトル漫画的な物語が、終始キレを維持する小ネタにも支へられ、有無をいふのを封じる高速展開の力業で加速。かなりか大概 一本調子ではあれ、勢ひに任せ一息に見させる。いふほど持て囃すに足る傑作名作の類では決してないにせよ、三作中一番面白いのは面白い、とりあへず。
 尤も、実体を持たない存在の―それこそフィジカルの―血とは何ぞや、とかいふ割と根本的な疑問はさて措くにせよ、女の裸は正直お留守。激しくお留守、甚だしくお留守。ある意味綺麗に二兎を追ひ損ね、小気味よく弾ける劇映画が最後まで走り抜く反面、裸映画的には全く以て物足りない。より直截にいふと、逆に一番物足りない。第一作で豪快に火を噴いた、きみと歩実が寸暇を惜しみそこかしこで兎に角脱ぎ散らかす、無理からな眼福はアバン同様、といふかアバンに圧迫される尺的な限界に屈したか二作続いて封印。限りなく一般―映画―畑の二番手には端から多くを望めず、三番手の機能不全は既に触れた。寧ろ七々原瑚子が四番手の位置から最も気を吐く、ビリング下位がピンクのアイデンティティを担保する構図は変らず、挙句頭数手数とも減つてゐる。愉快痛快にまあまあかそれなりには楽しませつつ、「あれ?俺は何処の小屋に何を観に来たのかな」と一歩でも立ち止まると、大いなる疑問も禁じ難い一作。R15版タイトルでフォーエバーを謳つてゐる以上難しさうな気もするが、西山真来の名台詞をアレンジした、「ヒールズ再起動やで!」が聞ける日は果たして来るのや否や。

 もう一箇所、大きめのツッコミ処?「強くなつたな、あゆみ」には、「アンドロメダ終着駅かよ!」と素直に釣られるべきなのか、それとも。単なる偶然の一致に脊髄で折り返した、オッサンの早とちりに過ぎんのかいな。
 備忘録< あゆみは魔女と吸血鬼の間に生まれた娘


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 「黒下着の淫らな誘ひ」(2000/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/出演・監督:荒木太郎/脚本:内藤忠司/企画:島田英男⦅大蔵映画⦆/撮影:郷田有/編集:酒井正次/助監督:田中康文/撮影助手:西村友宏/制作:小林徹哉/ポスター:平塚音四郎⦅スタジオOTO⦆/ピアノ:篠原さゆり/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:TJPスタジオ・大町孝三・下垣外純/出演:時任歩・風間今日子・篠原さゆり・快楽亭ブラック・太田始・内藤忠司・小林徹哉・広瀬寛巳・村山裕・近藤摩郎・櫻井晃一・関口香西・奈良勉・星野花太郎・大旗憲・杉本まこと)。
 湖の8mm、女が御々足を黒いガータに通す。カット跨ぎで知らん間に履いてゐたヒールを男の手が恭しく脱がし、正常位で突かれる状態にも似た、足をプラップラ振る画から割と唐突にタイトル・イン。掴み処のない叙情性を、当サイトが理解する日は多分来なささう。
 セクシャルハラスメントを報じる新聞記事を繋いで、就職活動中の女子大生・香山美紀(時任)の履歴書。恋人との性交渉は週何回、初潮は何時、好きな下着の色は。太田始以下、小林徹哉を除く大旗憲までが性的全開の質問を臆面もなくか無防備に振り回す、破廉恥面接の数々を美紀は被弾する。オフィスで美紀が無数のセクハラゾンビに群がられるのは、清々しいほどの所謂イヤボーンもとい、イヤーガバッで片づける美紀の悪夢。荒木太郎がその時傍らで寝てゐた、ナイトメアの原因を、美希のセックス拒否に求めるクソ彼氏・徹也。ゼミ教授・森山(名前のみ)の紹介で、美紀は徹也も軽く驚く最大手である慶出版の面接に漕ぎつける。人事部次長・山形勇(杉本)から非正規入社を餌に、美紀がまんまと釣られる当日の夕食の誘ひ。再度慶出版を訪ねた美紀は、定時で全員捌ける管理部門階にて、獣性を露にした山形に犯される。趣味は社交ダンスといふ山形が、軽快なステップを踏みながら踊るやうに美紀を追ふシークエンスは、荒木太郎の奇矯な作家性が商業映画と偶さか親和した、今作ほとんど唯一のハイライト。所詮、杉本まことの独壇場ないし一人勝ち。さういふ気も、否めなくはないにせよ。
 配役残り、風間今日子と小林徹哉は、結局バッドマガジンズを作る零細出版社に就職した、美紀が取材するサファイア女王様とその奴隷、ではなく編集長のヤベ。張形に―無修正で―熱ロウを落とす、苛烈通り越して激越な責め。小林徹哉はもう少し、でなく大暴れして苦痛にのたうち回るべきではあるまいか。ウルトラ熱いだろ、それ。普段通り着物で出て来る快楽亭ブラックは、サファイアが山形の身辺調査を乞ふ、変り者の探偵。調査結果の報告も、一席ぶつ形で行ふ。そして篠原さゆりが、のちに山形がダンス教室で出会ひ、結婚した社長令嬢のアサコ。
 カザキョン女王様にコッ酷く苛められたプレイ後、翌日子供の運動会である旨自嘲する小林徹哉の台詞が、記憶の片隅に残つてゐた荒木太郎2000年第一作。気づくと再来年で閉館二十年、今はどころかとうの昔に亡き福岡オークラで観たのだらうが全体、何処の枝葉で一本の映画を思ひだすものやら。
 前半のセクハラ凌辱篇、を経ての中盤。風間今日子なる既に旦々舎で十二分にブラッシュアップされた、ピンク史上最強級の援軍を得た上で、雪崩れ込む後半のリベンジ篇。温存し抜いた三番手を、クライマックスの供に用する一見強靭な構成まで含め、起承転結を釣瓶撃つ濡れ場で紡ぐ、腰の据わつた裸映画に思へかねない、ものの。世にいふ荒木調ならぬ、荒木臭。事の最中山形と美紀が交す、黒に関するただでさへ形而上学半歩手前の漠然ともしてゐない遣り取りを、子供の筆致じみた手書スーパーで事済ます木に竹しか接がないサイレント演出。いざ女の裸に徹したら徹したで、弛緩し始めるきらひは否めない、よくいへばセンシティビティと引き換へた、荒木太郎の最終的な資質の弱さ。美紀がピアノを叩き始める―実際に弾いてゐるのは篠原さゆり―や、操り人形の如く山形が踊り始めるシークエンスは確かに一旦輝きかけつつ、その後は漫然とフレームの片隅で右往左往よろめくに終始する、矢張り詰めの甘さ。そして、アバンを拾ひこそすれ、掉尾は飾り損ねる含意の不明瞭な8mm。諸々の足枷に歩を妨げられる、要は自縄自縛の結果。観客なり視聴者の精巣を轟然と、空にしてのけるエクストリームな煽情性には果てしなく遠い。そして、もしくはそれ以前に。最大の疑問は、サファイアに感化された美紀が、他愛ないミサンドリーを振り回すのは展開の進行上必要といへば必要な、取つてつけた方便にせよ。山形とのミーツが美紀の一件と全く以て無関係であるアサコを、単に山形を完全に破滅させるためだけの目的で、箍の外れた暴虐に完膚なきまで曝す。徹頭徹尾無実で一切非のないアサコに対し、美紀―とサファイア―が欠片たりとて悪びれぬまゝ、ぞんざいな攻撃性を叩きつける無自覚な図式は懲悪のカタルシスと、見事復讐を果たしたエモーション、何れの獲得にも如何せん難い、途方もなく難い。己の品性下劣の極みを憚りもせずいふと、一人の女が、大勢の男共に嬲られ尽す。さういふ腐りきつたシチュエーションが大好物とはいへ、流石にノリきれない残念な一作であつた。


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 「スキャンティドール 脱ぎたての香り」(昭和59/製作:(株)にっかつ+ニュー・センチュリー・プロデューサーズ/配給:株式会社にっかつ/監督:水谷俊之/脚本:周防正行/プロデューサー:海野義幸/撮影:長田勇市/照明:長田達也/美術:細石照美・種田陽平/編集:鈴木歓/音楽:坂口博樹/助監督:周防正行・井上潔・冨樫森/撮影助手:滝彰志/照明助手:豊見山明長/メイク:小沼みどり/スチール:目黒祐司/製作進行:西村裕之/効果:小針誠一/録音:矢込弘明・ニューメグロスタジオ/現像:東洋現像所/車輛:富士映画/挿入歌:『いとしのスキャンティドール』作詞:周防正行 訳詩・歌:Sylvie Maritan 作曲:坂口博樹/協力:企画情報センター・女装の館『エリザベス』・ROCK HOUSE めんたんぴん'S『リンディスファン』/出演:小田かおる・麻生うさぎ・聖ミカ・MOMOKO・大杉漣・佐藤恒治・大谷一夫・瀬川哲也・上田耕一)。出演者中、聖ミカがポスターには聖みかで、瀬川哲也は本篇クレジットのみ。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 ヒャラリーと軽快な劇伴起動、短パンでランニングする男の足下に、こちらも首から上を一旦フレームの外に逃がした、下着でトランポリンする小田かおるを挿み込む、伸びやかな肢体がヤベえ。何がプリントされてゐるのか最後まで判然としない、おヒップの止め画にタイトル・イン。地に足の着かなさ具合が、割と象徴的なアバンではある。
 江戸時代から続く周吉(大杉)で十代目の「間宮下着店」と、周吉の娘・亜矢(小田)が彼氏の治(佐藤)と開業した、ランジェリー喫茶「スキャンティドール」。ノーパンならぬ、ランジェリ喫茶とは何ぞや、といふと。ウェイトレスが下着で給仕する―だけの―露出過多ではあれあくまで普通の茶店。特に語られない、料金設定のほどは不明。亜矢的には、実家の下着店込みでランジェリーの新しい在り方を摸索する、漠然とした方便が一応なくもない。たゞそのためには、客に女が来て呉れないと始まらない気も。兎も角、謎の個室で大谷一夫と本番行為に及んだソフィア(MOMOKO)を、亜矢が脊髄で折り返す激おこで放逐、したはいゝけれど。治が―周吉も―亜矢には半裸接客を許さない、スキャンティドールは新しい嬢の獲得に迫られる、嬢て。
 配役残り、スキャンティドールの客要員に、見るから内トラ臭い若干名が投入されるほか、上田耕一が入り浸る常連客の村松高梧。亜矢に株式会社タコールランジェリー企画室室長の名刺を渡す、公私とも下着漬けの御仁。瀬川哲也は、周吉がかつてジョー・ディマジオに乞はれマリリン・モンローのために制作。マリリンの急逝後一枚だけ送り返されて来た、劇中用語ママで“幻のパンティ”を披露する知人の五十嵐か五十風。ある意味での本家、永井豪の『まぼろしパンティ』はちなみに三年遡る昭和56年。大ぶりのボストンがエクストリームに麗しい麻生うさぎが、治が掻き集めた六人の新スキャンティドール候補のうち、早文の岩井小百合。遺影をキッチリ抜いて呉れないゆゑ覚束ないものの、周吉の亡妻と瓜二つらしい。その癖、亜矢は何の反応も示しはしない。聖ミカは一旦オーディションから踵を返したのち、追跡した治にカップル喫茶で篭絡されるなおみ。女衆が落選する四名と、再逮捕後の噂話で眉をひそめる、近所の主婦がもう二人。引きの横顔と目元しか映らないが、画面左パーマ頭の方が水木薫似の結構な美人。
 ポスターには日活とN·C·Pの共同製作とある、本隊作なのか買取系なのかよく判らない水谷俊之第四作。俳優部の面子と、ニューメグロで録音してゐる辺り、何となく後者―寄り―に思へなくもない。いや、待てよ、ほんでもスチールマンは日活の人間だろ。
 単に繋ぎの問題なのか、不安定な演出のトーンと画調が最も顕示的な致命傷。最初イマジンと勘違ひした、にしては中盤を支配するほど長い亜矢と村松の対峙と、亡き妻との回想かと見紛つた、麻生うさぎと大杉漣の絡みが何れも劇中現在時制であつたのには、軽くでなく面喰つた。よしんばそれが、勝手な誤読に過ぎないにせよ。日課のジョギング下着泥棒でお縄を頂戴、職を追はれ、妻子にも去られ。全てを失つてなほ、半ば以上に中毒的な女の下着に対する偏愛を迸らせる。村松の、アウトサイドに突入した筋金入りのピュアネスに、何時しか亜矢が飲み込まれて行く展開ないし本筋には、満足に血肉が通ひこそすれ。周吉が小百合に亡き妻の面影を見出す、鼻の下を伸ばしたエモーション。スキャンティを愛でるでなく、自らが穿く方向に治は転び、最終的には等閑視される、亜矢が持ち出した“幻のパンティ”の所在。そして、子供どころか大人二人が入りさうな大きさが軽く衝撃的な、パンティを模したプチ気球、世辞にも尻の形には見えんがな。何故か五十五分にも満たない短尺にも当然足を引かれ、諸々盛り込まれはする枝葉なり闇雲な意匠は逆の意味で綺麗に消化不良か機能不全。なおみに齧られ、勃つ毎に治が激痛に見舞はれる件で一々鳴らす、ピキューンピキューン馬鹿みたいな音効にはナベシネマかと呆れ返つた、渡邊元嗣ナメてんのか。止めを刺すのが、シャバでの最後の朝を迎へた村松に入る、「ドラマが無い・・・・・」の開き直つたスーパー、終に力尽きたともいふ。村松に去られた亜矢が下着を撒き散らかす、川の水面から文字通り浮上、特撮だとするとクオリティが高すぎる、見た感じどうやら本当に飛ばしたらしいスキャンティバルーン―もしかして、これの製作費で詰んだ?―が天空に消える、雄大は雄大なショットで正体不明の余韻に持ち込み、つつも。全体的には纏まりを欠き、漫然とした一作。反面、治との関係をかなぐり捨てる勢ひで亜矢が村松との逢瀬に溺れる、主演女優のアツい濡れ場をこれでもかこれでもかと叩き込み撃ち抜き続ける後半は、裸映画的には大いに充実。小田かおるを胸に焼きつけ帰途に就く分には、木戸銭の元は取れる。

 と、ころで。無闇な奇声に矢鱈と頼る、煩瑣で素頓狂なメソッドが鼻について仕方ない佐藤恒治を観てゐて、吉岡睦雄は平成の佐藤恒治なんだな、とかいふどうでもいゝ知見を得た。


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 「未亡人の性 しつぽり濡れて」(1998/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/監督・出演:荒木太郎/脚本:内藤忠司/撮影:清水正二・岡宮裕/編集:酒井正次/制作:小林徹哉/演出助手:小林康宏/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:東京UT・ゆきなり/出演:西藤尚・坂本Q子⦅新人⦆・しのざきさとみ・白都翔一・内藤忠司・広瀬寛巳・今泉浩一)。
 大浴場、半身浴で律儀にオッパイを出した西藤尚が百まで数へると、湯の中から白都翔一が浮上する。白都翔一の活動は恐らく当年で終了、今作までに荒木太郎が二本撮つてゐる薔薇族にも出演してをらず、最初で最後の多呂プロ作となる筈。この辺り、最終的には全部通らないと正確なことがいへない、量産型娯楽映画ならではの盛大な藪の中。雅子(西藤)と東坊城貴麿か孝麿、それとも資麿(白都)の新婚旅行。割と庶民的な、そこら辺の温泉旅館で済ますのね。貸切つてゐるのか、単なる羽目を外した非常識か。今度は雅子が潜つての口唇性交に続き、湯船で対面座位を大敢行。二人で“天国”フラグを林立させた末、完遂後沈没。そのまゝ、貴麿は浮かんで来なかつた。正しく今際の間際を示す泡(あぶく)からカット跨いだ先が、白都翔一の遺影とかいふ未亡人ものならではの清々しいスピード感、やつゝけ仕事とかいふたら駄目だよ。喪服で悲嘆に暮れる雅子がワンマンショーをオッ始めつつ、貴麿が生前遺してゐた遺言を、白都翔一の声で語るモノローグ起動。曰く母屋を学生下宿にしてゐる、道志町―実際には村―の屋敷といふのが雅子の相続財産。雅子が離れで管理人を務めがてら、一年間は服喪期間として貞操を守れといふのが、西坊城家の従妹・ナヅナを後見人に立てた上での条件。如何にも、裸映画的な方便で真に麗しい。とまれバスに揺られ富士五湖にやつて来た雅子が、件の大原荘(山梨県道志村)に辿り着いてタイトル・イン。少なくとも、大原荘が2019年までは普通に営業してゐた形跡が見当たる反面、グーグル先生によれば現在は閉業してゐるとの諸行無常。試しにかけてみたが、電話番号も使はれてゐない。コロナ禍で力尽きたか、全く別個の理由かも知らんけど。
 配役残りしのざきさとみが、幼少期に大原荘で貴麿とお医者さんごつこもした仲のナヅナ。何故か東坊城家の財産を総取りせんと目論む、闇雲なヴィラネス。ナヅナの情夫ないしバター犬で、浅井嘉浩みたいなマスクを被つた探偵は、この時点では勿論不明。反時計回りの自己紹介、金髪の広瀬寛巳と普段通りの荒木太郎、途轍もなく名義で検索し辛い、謎の二番手が大原荘の店子。都の西北大学二年の縄早大と多摩多摩芸術大学三年の岡持太郎に、お茶汲み女子大学一年の御茶ノ水慶子。パッと見松木義方かと勘違ひした、内藤忠司はナヅナの紹介で大原荘に加はる、東京帝都大学の権俵助六、戯画的なバンカラ造形。この人が、ウルティモ探偵の中の人。どうでもいゝのがこの人等、そこから都内の大学に通ふのか、授業に出る気限りなくないだろ。ち、なみに。架空とはいへ富士村営バスの停留所が劇中美術で登場するゆゑ、富士の麓を隠す気も誤魔化しもしない模様。そして今泉浩一が、富士七里バス停に二本橋ロイドのグラサンで降り立つ謎の男。終盤―開き直つた説明台詞で―名乗る、その正体は貴麿にとつて無二の親友で、かつて雅子を巡り恋の鞘当てもした城之内か城ノ内旗三郎。ナヅナの蠢動を知り、ボスニアから緊急帰国。木に竹も接ぎ損なふ、徒なアクチュアリティではある。往時リアルタイムでキナ臭かつた、ボスニアなんて別に持ち出さなければいゝのに。最後に色情もとい式場バスに、ビリング順で坂本Q子・内藤忠司・広瀬寛巳・荒木太郎以下、総勢十名投入。二列目に小林徹哉、三列目に堀内満里子がゐる以外判らない。
 気づくとex.DMMのサブスクに、別館手つかずの荒木太郎を五本も眠らせてゐた、結構な粗忽に直面しての緊急出撃。薔薇族が一本先行しての、1998年ピンク映画第三作。なので中村幻児と、マリア茉莉は一旦お休み、荒木太郎が先。
 意図的に退行するか如き、大人の娯楽映画で児戯じみた小ふざけ悪ふざけに終始する。あの頃持て囃されてゐた荒木調ならぬ、当サイトが一貫して唾棄するところの荒木臭さへさて措けば、しのざきさとみを暫し温存してなほ、西藤尚と坂本Q子は寸暇を惜んで貪欲に脱ぎ倒し、女の裸的にはひとまづ安定する。ディルドを用ゐ尺八を無修正で見せる張尺の、弾幕ばりの乱打も大いに煽情的効果的。これ荒木太郎の自宅だつけ?離れにしては正直母屋から離れすぎてゐる掘立小屋。トタン屋根の上で西藤尚がガンッガン脱ぎ散らかしてみせるのは、後方に民家が普通に見切れ、通報されはしまいか無駄に肝を冷やす何気にスリリングなロケーション。最も素晴らしいのは、雅子の危機に旗三郎が駆けつけての、権俵の放逐後。恋と財産の何れが大事かと、一見雅子の背中をエモく押すかに思はせた慶子も、実はナヅナに買収されてゐた。ヒロインを狙ふ、姦計が二段構へで展開する巧みな構成は、荒木太郎は兎も角内藤忠司の名前は伊達ではないやうで実にお見事。同時進行する、全てを捨てる覚悟でオッ始めた雅子と旗三郎に、ナヅナと麗子が二人がかりで岡持の篭絡を試みる巴戦。女優部全軍投入で華麗に火花を散らすカットバックが、お話が最も膨らむ劇映画と、股間も膨らむ濡れ場双方のピークが連動する最大のハイライト。息するのやめてしまへ、俺。閑話休題、下手な抒情を狙ひ損ねる、その後のハチ公パートで幾分以上だか以下にモタつきながらも、ピンクで映画のピンク映画を、確かに一度はモノにした手応へのある一作。トンチキトンチキ空騒いでゐるうちに、気づくと大定番たる未亡人下宿的なテイストが極めて希薄なのは、大蔵からの御題の有無云々も兎も角、そもそも、荒木太郎にその手の志向なり嗜好が特になかつたのではなからうか。

 この年に改名した、西藤尚(ex.田中真琴)は第九回ピンク大賞に於ける新人女優賞に続き、1998年作を対象とする第十一回で遂に女優賞を受賞。しは、したものの。だらしのない口元とメソッドに、かつて大いに博してゐたアイドル的人気は、この期の未だに激しく理解に難い。一方、しのざきさとみもしのざきさとみで、終ぞ棒口跡の抜けなかつた愛染“塾長”恭子と同類の御仁につき。初顔の坂本Q子が、案外一番女優の風貌をしてゐる、変則的な力関係がそこはかとなく琴線に触れる。


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 「変態ざうさん 私の桃色指導」(2022/制作:ソフトボイルド/提供:オーピー映画/監督・脚本・編集:東盛直道/プロデューサー:澄田尚幸/音楽:荒川仁⦅東京 ClockWise⦆/撮影・照明:田中一光/録音:五十嵐猛/整音:阪口和/衣装:小栗はるひ/ヘアメイク:松森実衣/ヘアメイク応援:竹山樹蘭/衣装応援:梅川葉月/制作担当:鶴丸彩/助監督:古田七海・東海林怜水/撮影助手:大賀健護・松尾凌我・鈴木源也・梶谷裕治/音楽協力:神蔵守⦅東京 ClockWise⦆・三浦世名⦅東京 ClockWise⦆/小道具協力:小川春佳/製本協力:赤熊謙一/ロケ協力:株式会社プラネアール・HOTEL ATLAS・cafe COMADO/協力:Mine’S・アローズ・グンジ印刷株式会社/仕上げ:東映ラボ・テック⦅株⦆/出演:白桃はな・みやむ・辻芽愛里・鹿野裕介・伊神忠聡・竹本泰志・細井学・仙波恵理・成瀬義人・長沼真彦・髙橋一輝・淺田玲美)。出演者中、仙波恵理以降は本篇クレジットのみ。
 ざうさんのパンフレットで開巻、「エレファント保険」の営業職・伊藤ミナミ(白桃)の外回り。腐れ顧客・伊東(細井)の、手に触つて来るは夕食に誘ふは憚らうともしないセクハラぶりに、ミナミが溜息ひとつついてタイトル・イン。こゝとりあへず、ミナミが伊藤でクライアントも伊東、同じ音なのが不用意に紛らはしい、別にさうである理由もなからうに。
 エレファント保険営業部、今日も今日とて契約の取つて来れなかつた小森(鹿野)が、パター得物にパワハラ全開の鬼部長・権田に懲罰スクワットをさせられ、傍らではそこそこの成績らしい市原(伊神)が、その場を仕方なささうに見守つてゐる、といふか居合はせられてゐる。手ぶらで戻つたミナミがドン引きしてゐると、役職は不明ながら、市原目線でも上司らしい丸岡リョウコ(みやむ)も帰社する。権田との不倫の逢瀬後、ミナミと小森が偶さか鉢合はせたところに、飲み会帰りの丸岡と市原も上手いこと合流。四人はそのまゝ、高級ホテルばりに矢鱈ダダッ広くていゝ部屋の、丸岡宅で二次会に流れ込む。市原の粗いアルハラに潰された、ミナミが回復。怪しい気配に誘はれると四つん這ひにさせられた市原が、丸岡から菊穴を嬲られてゐた。
 配役残り辻芽愛里は、二人がかりの仕事を小森に押しつけ、「用事がある」と退社した市原が手配書を手に―刑事的にではなく―捕まへる、自転車窃盗犯・道明寺アヤコ。指名手配て、一人で何百台盗んだの。その他、本クレのみ隊は小森がミナミの桃色指導を受ける、過程に於いて随時投入される顧客要員。この中で、名義で検索して辿り着けるのは一人目ハット男の長沼真彦と、四組目夫婦の仙波恵理。消去法で、淺田玲美が二人目の仏頂面女子。問題が、三人目の劇中初めて小森が契約を取れた、若い男が実は赤熊謙一。成瀬義人と髙橋一輝の何れかは、徒な変名でも用ゐてたりするのかな、最後に残つた方が仙波恵理の配偶者役。余計な真似をと脊髄で折り返す雑なレイジを、あへて控へようとは思はない。
 予告は“『OP PICTURES』新人監督発掘プロジェクト2020審査員特別賞受賞”作である旨謳ふ、東盛直道デビュー作。みやむ以下鹿野裕介・伊神忠聡・竹本泰志続投の、第二作がフェス先行で既に封切られてゐる。ところでOPP+の2023フェスが、何気にスリリング。より正確にいふと、フェス作の本数が。全十六本中、ピンクで先に公開されてゐるのは三本、フェス先後、追ひ公開されたのが現時点で同じく三本。まだ、十本ある、十本も。乳とした、もとい遅々とした昨今の新作封切りペースで、全部消化するのに全体どれだけかゝるの、今年のフェスが始まつてまふぞ。
 閑話、休題。性感の開発によつて、女が男をコントロール。トッ散らかつた万事を、手練手管で平定する。実際出来上がつた映画を観た感じ、浜野佐知の如く頑強な思想に基づく一種の必然では必ずしもなく、事態を牽引する主体の性別に関しては所詮、最も大雑把に片づけると単なる二択、殊更喧伝する要は特にあるまい。小森の第二次資料作成残業、気づくと丸岡が其処にゐた。一番大事なカットでキレを欠くのが象徴的もしくは致命的な、劇映画としての面白味がいふほど見当たらない点―とベタな自己啓発臭―さへさて措くと、起承転結の推移を濡れ場で敷き詰めた、外様の初陣にしては下手な本隊作より余程、誠実な裸映画であるといふ印象が最も強い。とりわけ突出してゐるのが、チャリンコ専門の窃盗犯とか、木に竹を接ぐ突飛な造形としか思はせなかつた、アヤコで小森に科された咎を無効化。ミーツに際する繋ぎのぞんざいさは如何せん否めないにせよ、ピンクが構造的に強ひられる、三番手―の存在―を物語の進行に卒なく回収してみせる一見地味ながらなかなかの妙手には、さう来たか!と大いに唸らされた。表面的には力技のアクロバット且つ、案外頑丈な論理性が今作の白眉。小難しい芸術映画は知らんけど、娯楽映画といふ奴は基本理詰めで構築されるものと、当サイトは体感的に理解してゐる。反面、黙つて立つてゐるだけでどエロい妖艶な二番手に、傑出したサムシングに乏しい主演女優が喰はれ気味のビリング・キリングと、如何せん女優部三本柱と竹本泰志以外が―スタッフ含め―場数不足につき、概ね絡みが素材頼みのきらひは決して否めなくもない。逆の意味でのとりわけ、一欠片の魅力もない男主役がみやむの色香ですら隠し難い最大の難点。丸岡の下を飛び出した小森が、サクッと往来でミナミと邂逅を果たすへべれけな作劇―そこからの、インスタントな締めへの跨ぎ具合は、寧ろグルッと一周した清々しさ乃至らしさと言祝ぎたい―にも引つ繰り返つたが、それ以前に、小森が着てゐる部屋着以下のゴミみたいなボーダーは甚だ考へもの。苟も一本の商業映画の、ハイライトだぞ。衣装の小栗はるひは、誰に何を着せたといふのか。最終的に、フレームの中に入れず、何故か音効だけで事済ます自ら解除する丸岡が小森に施した限定と、タイトルバックでミナミと丸岡の手を往き来する小物、鍵?女の裸に忠実な分は大いに心強くもあれ、当然観客に対し顕示的に示しておいて然るべきものを、どういふ訳だか頑なに映さない謎の悪癖に足を引かれ、パッと見晴れやかなラストには反し、不用意な曇りも残す一作。最後に、市原とアヤコのミーツに関し再度細部をツッコんでおくと、SMT印サイモトの折り畳みミニベロなんて、いふたら何だけどプロが狙ふチャリンコでは全ッ然ない―個人的にはタダでも要らん―上、そもそもあんな公園の真中みたいな、馬鹿みたいに開けた場所でも作業しない気がする。


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