4人は言葉も交わさずに街道を歩き出した。
クスコがルナーの隊長の名をなぜ叫んだのか、そして
ルナーの隊長がなぜクスコに優しげな言葉を残したのか、
もっとも気がかりなことではあったが、言い出せるような
雰囲気ではなかった。ナディスですら眉をしかめ
押し黙っている。
やがて4人は街道の土の上に多くの人の足跡を見つけた。
なかには騎馬のひづめの跡も見え、赤い矢羽根の矢も落ちていた。
あきらかにさきほどのルナー軍が通り過ぎた跡であろう。
「どうやらこれがせんの連中の通った跡のようだ。何を企んで
いるのか…」ケインがつぶやくと、マーカインがおずおずと
口を開いた。
「あのう、『過去視』してもよろしいでしょうか?どうしても
ひっかかることがあって…」
クスコは答えなかった。過去視では今しがたの出来事しか
わかるまい。それに遅かれ早かれあの男との因縁を語らねばならなく
なるのはわかっていた。「やって。」それだけ口を開いた。
ここを通り過ぎたのはルナー軍であること、隊長の名は
「銀月の」ファーレンであること、ヤーナファル・ターニルの
信徒であること、ある秘密のミッションを受けて
どこかへ行軍していること、この先おそらくパヴィスに
移動すること、それだけがマーカインに視えたすべてだった。
「パヴィスへ移動するのはわかる、あの街はルナー領同然だからな。
だがミッションとかが気になる。ガーハウンド村で聞いたように
いくさを始めようとしているのか。」ケインがつぶやく。
「それによう、あの仮面の男は何なんだ?!うすっ気味悪い
半分だけの仮面なんかつけやがって、おまけにクスコの名前を
呼びやがった!おいクスコ、あのいけすかない野郎とお前は
なんなんだ?ヤッテんのか?」ナディスがわめく。
「ちょっとナディスさん、そんな露骨な言い方って」
「だってよう博士、男と女が名前で呼びあってみつめあうときたら
やることはひとつだんべ?!ちがうかクスコ、お前がルナーの
男に抱かれて喜んでるようならおれはてめえをぶっ殺すぞ!」
クスコの槍の柄をにぎる手の甲に血管が浮いた。もう黙っているわけには
いかない。クスコはできるだけ簡略に、しかし明快に答えた。
「あの男の名前は『銀髪の』ファーレン。聖堂騎士団の隊長だった
男よ。あたしが入団したときの訓練指揮官だった。イェルムの貴族の娘と
結婚して、太陽領のはずれの砦柵の守護隊隊長になって、ルナー軍の
奇襲を受けて死んだ。…死んだと聞いていたのに。なぜルナーの
隊長の姿なんかで現れたのか、わたしが知りたいわよ。生きていたなら
なぜ…」
「ああっ何だこれ?!」マーカインが頓狂な声を上げた。
荷物袋がぶるぶると震えている。博士が袋に手を突っ込んでみると、
それはガーハウンド村で手にいれた「石版」だった。細かく振動しつつ
微妙に熱をおびているようだ。
「これは、なにかルナーと関係あるものと共鳴してるんでしょうか?
ただの石版がこんな熱くなったり震えたりしますか?こっこれは
ぜひともパヴィスへ行って寺院で詳しく調べる必要があります!」
「そうともよ、混沌の片棒かつぎの連中がなんかやらかそうってのを
黙ってみてる嵐の戦士がいるかってんだ!おれも行くぜ!」
ナディスはバトルアクスをぶん回しながらわめいた。
「あたしも、報告しないと。」クスコは手短に言った。
ケインは内心まいった。自分もルナー軍には知られたくない
理由のある身だ。ルナー兵の人影は避けてきた。忍んで旅を
続けたい。いっそここで別れるか。
だが「女と博士と熱狂バカ」では死ににいくも同然だろう。
「このケイン、フマクト神のしもべ。義によって同道しよう。」
そう答えると、そっとため息をもらした。
クスコがルナーの隊長の名をなぜ叫んだのか、そして
ルナーの隊長がなぜクスコに優しげな言葉を残したのか、
もっとも気がかりなことではあったが、言い出せるような
雰囲気ではなかった。ナディスですら眉をしかめ
押し黙っている。
やがて4人は街道の土の上に多くの人の足跡を見つけた。
なかには騎馬のひづめの跡も見え、赤い矢羽根の矢も落ちていた。
あきらかにさきほどのルナー軍が通り過ぎた跡であろう。
「どうやらこれがせんの連中の通った跡のようだ。何を企んで
いるのか…」ケインがつぶやくと、マーカインがおずおずと
口を開いた。
「あのう、『過去視』してもよろしいでしょうか?どうしても
ひっかかることがあって…」
クスコは答えなかった。過去視では今しがたの出来事しか
わかるまい。それに遅かれ早かれあの男との因縁を語らねばならなく
なるのはわかっていた。「やって。」それだけ口を開いた。
ここを通り過ぎたのはルナー軍であること、隊長の名は
「銀月の」ファーレンであること、ヤーナファル・ターニルの
信徒であること、ある秘密のミッションを受けて
どこかへ行軍していること、この先おそらくパヴィスに
移動すること、それだけがマーカインに視えたすべてだった。
「パヴィスへ移動するのはわかる、あの街はルナー領同然だからな。
だがミッションとかが気になる。ガーハウンド村で聞いたように
いくさを始めようとしているのか。」ケインがつぶやく。
「それによう、あの仮面の男は何なんだ?!うすっ気味悪い
半分だけの仮面なんかつけやがって、おまけにクスコの名前を
呼びやがった!おいクスコ、あのいけすかない野郎とお前は
なんなんだ?ヤッテんのか?」ナディスがわめく。
「ちょっとナディスさん、そんな露骨な言い方って」
「だってよう博士、男と女が名前で呼びあってみつめあうときたら
やることはひとつだんべ?!ちがうかクスコ、お前がルナーの
男に抱かれて喜んでるようならおれはてめえをぶっ殺すぞ!」
クスコの槍の柄をにぎる手の甲に血管が浮いた。もう黙っているわけには
いかない。クスコはできるだけ簡略に、しかし明快に答えた。
「あの男の名前は『銀髪の』ファーレン。聖堂騎士団の隊長だった
男よ。あたしが入団したときの訓練指揮官だった。イェルムの貴族の娘と
結婚して、太陽領のはずれの砦柵の守護隊隊長になって、ルナー軍の
奇襲を受けて死んだ。…死んだと聞いていたのに。なぜルナーの
隊長の姿なんかで現れたのか、わたしが知りたいわよ。生きていたなら
なぜ…」
「ああっ何だこれ?!」マーカインが頓狂な声を上げた。
荷物袋がぶるぶると震えている。博士が袋に手を突っ込んでみると、
それはガーハウンド村で手にいれた「石版」だった。細かく振動しつつ
微妙に熱をおびているようだ。
「これは、なにかルナーと関係あるものと共鳴してるんでしょうか?
ただの石版がこんな熱くなったり震えたりしますか?こっこれは
ぜひともパヴィスへ行って寺院で詳しく調べる必要があります!」
「そうともよ、混沌の片棒かつぎの連中がなんかやらかそうってのを
黙ってみてる嵐の戦士がいるかってんだ!おれも行くぜ!」
ナディスはバトルアクスをぶん回しながらわめいた。
「あたしも、報告しないと。」クスコは手短に言った。
ケインは内心まいった。自分もルナー軍には知られたくない
理由のある身だ。ルナー兵の人影は避けてきた。忍んで旅を
続けたい。いっそここで別れるか。
だが「女と博士と熱狂バカ」では死ににいくも同然だろう。
「このケイン、フマクト神のしもべ。義によって同道しよう。」
そう答えると、そっとため息をもらした。