RUNEQEST1613年火の季の物語

TRPG「ルーンクエスト」のリプレイ小説です。はじまりは一番下からです。よろしく。

第五章

2009年05月07日 | 小説
 4人は言葉も交わさずに街道を歩き出した。

 クスコがルナーの隊長の名をなぜ叫んだのか、そして
 
 ルナーの隊長がなぜクスコに優しげな言葉を残したのか、

 もっとも気がかりなことではあったが、言い出せるような

 雰囲気ではなかった。ナディスですら眉をしかめ
 
 押し黙っている。

 やがて4人は街道の土の上に多くの人の足跡を見つけた。

 なかには騎馬のひづめの跡も見え、赤い矢羽根の矢も落ちていた。

 あきらかにさきほどのルナー軍が通り過ぎた跡であろう。

 「どうやらこれがせんの連中の通った跡のようだ。何を企んで

 いるのか…」ケインがつぶやくと、マーカインがおずおずと

 口を開いた。

 「あのう、『過去視』してもよろしいでしょうか?どうしても

 ひっかかることがあって…」

 クスコは答えなかった。過去視では今しがたの出来事しか

 わかるまい。それに遅かれ早かれあの男との因縁を語らねばならなく

 なるのはわかっていた。「やって。」それだけ口を開いた。


 ここを通り過ぎたのはルナー軍であること、隊長の名は

「銀月の」ファーレンであること、ヤーナファル・ターニルの

 信徒であること、ある秘密のミッションを受けて

 どこかへ行軍していること、この先おそらくパヴィスに

 移動すること、それだけがマーカインに視えたすべてだった。

 「パヴィスへ移動するのはわかる、あの街はルナー領同然だからな。

 だがミッションとかが気になる。ガーハウンド村で聞いたように

 いくさを始めようとしているのか。」ケインがつぶやく。

 「それによう、あの仮面の男は何なんだ?!うすっ気味悪い

 半分だけの仮面なんかつけやがって、おまけにクスコの名前を

 呼びやがった!おいクスコ、あのいけすかない野郎とお前は

 なんなんだ?ヤッテんのか?」ナディスがわめく。

 「ちょっとナディスさん、そんな露骨な言い方って」

 「だってよう博士、男と女が名前で呼びあってみつめあうときたら

 やることはひとつだんべ?!ちがうかクスコ、お前がルナーの

 男に抱かれて喜んでるようならおれはてめえをぶっ殺すぞ!」


 クスコの槍の柄をにぎる手の甲に血管が浮いた。もう黙っているわけには

 いかない。クスコはできるだけ簡略に、しかし明快に答えた。

 「あの男の名前は『銀髪の』ファーレン。聖堂騎士団の隊長だった

 男よ。あたしが入団したときの訓練指揮官だった。イェルムの貴族の娘と

 結婚して、太陽領のはずれの砦柵の守護隊隊長になって、ルナー軍の

 奇襲を受けて死んだ。…死んだと聞いていたのに。なぜルナーの

 隊長の姿なんかで現れたのか、わたしが知りたいわよ。生きていたなら

 なぜ…」

 「ああっ何だこれ?!」マーカインが頓狂な声を上げた。

 荷物袋がぶるぶると震えている。博士が袋に手を突っ込んでみると、

 それはガーハウンド村で手にいれた「石版」だった。細かく振動しつつ

 微妙に熱をおびているようだ。

 「これは、なにかルナーと関係あるものと共鳴してるんでしょうか?
 
 ただの石版がこんな熱くなったり震えたりしますか?こっこれは

 ぜひともパヴィスへ行って寺院で詳しく調べる必要があります!」

 「そうともよ、混沌の片棒かつぎの連中がなんかやらかそうってのを

 黙ってみてる嵐の戦士がいるかってんだ!おれも行くぜ!」

 ナディスはバトルアクスをぶん回しながらわめいた。

 「あたしも、報告しないと。」クスコは手短に言った。

 ケインは内心まいった。自分もルナー軍には知られたくない

 理由のある身だ。ルナー兵の人影は避けてきた。忍んで旅を

 続けたい。いっそここで別れるか。

 だが「女と博士と熱狂バカ」では死ににいくも同然だろう。

 「このケイン、フマクト神のしもべ。義によって同道しよう。」

 そう答えると、そっとため息をもらした。


 

 

 

 

 
 

 

第四章

2009年05月03日 | 小説
雨雲はようやく晴れはじめ、月の光が地上にさしこんだ。

 「クスコさん!クスコさん!大丈夫ですか?!」

 マーカインに肩をつかまれ、クスコははっと我にかえった。ずぶ濡れの髪から

 しずくがきらりと光ってこぼれ落ちた。

 「あ、ああ…。」

 「よかった、私もう怖ろしくて見ていられませんでしたよ。傷は?毒は?」

 せわしなく自分の体に手をかざし安全を確かめる博士を

 クスコはぼんやりと眺めていた。

 ケインが近づいてきてクスコに低い、だがはっきりとした声で問うた。

 「クスコ、あのルナーの男と知り合いなのか?」

 「う…。」

 「お前はあの男をファーレンと呼んだな、なにやら妙な仮面を被っていたが。

 なぜ分かった?やつもお前の名前を知っていた。どういう関係なんだ。」

 クスコは答えなかった。下唇をきゅっとかみしめ、地面に視線を落としたまま

 沈黙してしまった。

 気まずい雰囲気を察したマーカインが割って入った。

 「ともかく、移動しませんか、ブルーの死体のそばにいるなんて気持ち悪いし

 危険です。行きましょう、ね。」

 「うむ。」ケインは倒れているナディスの上にかがみこみ頬に軽く平手うちを

 いれた。「おい、起きろ!混沌の狩人!夢から覚めろ!」

 「ハッ!」正気にかえったナディスはあたりをきょろきょろ見回した。

 そしてブルーの惨殺死体を見ると飛び上がって叫んだ。「ウッホー!」

 「俺すげえ!一仕事したな!ウラララララララララララララーー!」

 「もう一匹はクスコさんが仕留めたんですよ、危ない所でした。」

 「やるじゃねえかクスコ!伊達に聖堂戦士じゃないってか?え?」

 「うるさい!!」

 
 大喜びでクスコの回りを跳ね回るナディスは思わぬ一喝にとまどった。

 「何だってんだよてめえ、何怒ってるんだ?」

 子供のようにむくれ顔のナディスをかえり見もせずクスコは歩き出した。

 「行きましょう。」

 残された3人は顔を見合わせ、黙ってあとを追った。


 「ああ、見苦しいわねえ。あんなモノを私たちと同類にするなんて!

 人間どもの愚かしさときたら!」

 柏の木の枝の陰、きいきい声でささやく小男がいた。

 その顔は奇妙な色に化粧され、ぶくぶくと太った体が落ちないように

 短い腕で樹の幹にしがみついていた。その肩の上には白ねずみが

 ちょこんととまっている。

 「ふん、好きなように言わせておけ。所詮人間どもには我らの恐ろしさが

 理解できぬのだ。短い寿命をながらえるのにあくせくしながら塵となる

 だけの連中よ。ふっふ。」

 樹の枝に膝をひっかけ、逆さまにぶら下がっている男がいた。その頬は

 高くはり骨太な顎は厳つくとがっていた。ふうーっと息をはくと酷薄な

 笑みをうかべ、口元に牙を光らせた。

 「ガーベラ。」くるりと一回転し枝の上に座りなおすと、男は無言の

 命令を下した。ガーベラはそっとその白い腕を差し出した。

 ダリオは柔らかな女の腕に牙を立て、肉を食いちぎった。

 すぐ目の下のブルーの存在に混沌の血が共鳴しあい、ダリオの体内で

 どくどくと沸きかえり熱い血肉への欲望を煽り立てていたのだ。

第四章

2009年05月03日 | 小説

 背中の激痛にひるんだブルーは、耳障りな悲鳴をあげのけぞった。

 瞬間クスコはブルーの下腹部に蹴りをいれ、地面に蹴倒した。そして

 心臓めがけて槍を突き立てた。雨にぬれた地面にブルーの血が広がった。

 「この野郎!」ざくざくと何度もブルーの腹を槍で刺し貫くと、クスコは

 ふらふらと後ずさり木の下にがっくりとへたりこんだ。「はあっ…」

 顔のネバネバをなんとかふき取ったケインの目前に、駆け寄ってくる

 二人のルナー兵が見えた。

 「仕留めたか?!」

 「おい、人がいるぞ、やられちまったかな?」

 そんな言葉はナディスの耳には入ってはいなかった。ナディスは

 ナメクジの頭を斧でこま切れにし、息絶えたブルーの背骨を

 叩き割るのに狂喜していた。「ぎゃはははっははっ!!」

 「おい博士、ナディスをおとなしくさせろ!このままではまずい。」

 ケインに言われるまでもなく、マーカインは『消沈』を放っていたが

 効き目はなかった。「申し訳ありません、だめみたいです。」

 業をにやしたケインはナディスのもとに駆け寄ると剣のつかで

 うなじを一撃した。急所をうたれたナディスはがっくりと膝をつき、

 失神した。痙攣した笑顔を留めたままケインに後ろ髪をつかまれ

 ずるずると柏の木の元へ引きずられていった。

 木の下に集まった4人のもとへルナーの歩兵が歩み寄ってきた。

 「おまえら、大丈夫か?食われてねえか?」

 「おい、こいつら旅人にしちゃずいぶんと重装備じゃねえか。

  ひょっとしたらサーターの残党かも知れん。…オンナまでいやがる、

  てめえら何者だ?」

 クスコはルナー兵に腕をねじ上げられ無理やり立たされた。

 「痛いいたい、ちょっとなにすんのよ!」

 「隊長ー!怪しい人物を発見しました!ひょっとしてコイツがカリル?」

 
 「カリル・スターブロウは赤っ毛だ。お前たち人相書を見てないのか。」

 馬のひづめの音とともに、張りのある声が聞こえた。クスコの耳はその声を

 よく覚えていた。

 雨に濡れた銀色の髪を垂らし、馬上にルナーの印の付いた鎧をまとい

 奇妙な仮面をつけてはいるが、半分見えるその顔はクスコが心の奥に

 隠していた思い出を激しく揺り動かした。

 「ファーレン!?」

 「クスコ!」ファーレンも不意をつかれ一瞬動揺したが、そのさまを

 見せまいと努力した。

 「隊長、この女をご存知なんですか?」「引っ立てたほうがいいのでは」

 部下たちの声を無視しファーレンはクスコを見つめた。クスコは自分の

 思い出の中の彼が目の前にいるのが信じられなかった。あまりにも

 変わってしまい、またあまりにも同じ声の響きだったからだ。

 「ブルーはどうした?」ファーレンは部下に問うた。

 「はっ、2頭とも死んでおります。私の放った矢が無駄にならずに

 嬉しいであります!」

 「そうか…その連中はほっておけ。野営地を襲ったブルーの討伐は

 すんだのだからな。食われた部下も喜ぶだろう。行くぞ!!」

 銀月のファーレンは馬の向きを変えた。そしてクスコのほうを

 振り返ると静かに言った。

 「クスコ、俺を追ったりするなよ。この先は危険だ。これは忠告だ!」

 そうして馬に鞭をくれると部下と共に走りさっていった。

 ようやく止みつつある雨のしずくを受けたまま、クスコは呆然として

 立ち尽くし彼らが去っていくのを見つめていた。

 

第四章

2009年05月03日 | 小説


 しのつく雨を透かして見た先には、2匹の忌まわしい獣が見えた。

 山羊のような頭をもたげ、毛むくじゃらな体をしたそれは

 死んだ魚のようなまなこを半分飛び出させている。

 もう一匹はなんだか分からない頭がひとつ半ついている。よく見ると

 かたつむりのようなのめのめした肌をしていて、目玉を伸び縮みさせている。

 2匹とも人間がそこにいるとは考えていなかったようで、少し離れたところで

 立ち止まり背中を丸めて冒険者たちと対峙するかたちになった。

 「出やがったな!ブルーのくそ野郎どもがあ!」ナディスはそう叫ぶと

 天に向かって右手を伸ばし呼ばわった。

 「ストーム・ブルよ!俺に力を!『熱狂』おおおおおお!」

 「止めて下さい!」マーカインの願いも虚しく、『熱狂』の魔力に憑依された

 ナディスは猛然とナメクジ頭のブルーに向かって襲いかかった。

 「どうやらやるしかなさそうだ、博士は隠れて!クスコ、ぬかるなよ!」

 山羊頭のブルーに剣をかまえたケインが叫んだ。クスコはケインの背後から

 槍を構えて身をひくくした。「余計なお世話よ!」

 じりじりと間合いを詰める二人に向かって、山羊頭はいきなりゲロを

 吐きかけた。ケインはそれを顔面にもろに受けてしまった。

 「うわっ!」黄色いゲロはケインの視界をふさぎ彼の手にねばついて取れない。

 ブルーはたじろいだ彼の剣先をひとっ跳びで跳び越え、クスコに襲いかかる。

 たまらない悪臭に思わず腰がひけてしまったクスコはブルーの爪を槍で受ける

 のが精一杯だった。そのまま柏の木の幹までずいずいと押し込まれ、ブルーと

 面と向かう格好になってしまった。必死で顔をそむけるクスコの目に、雌の

 臭いに刺激されたブルーの体の器官がむくむくとたちまち醜く盛り上がり、

 そそり立つのが見えた。

 「いやああああああ!」

 絶叫するクスコの頭の上をなにかがひゅっとかすめた。

 木の幹に矢が突き立った。

 続けて2本、クスコに迫るブルーの背中に矢が深々と刺さった。

 その矢羽は赤い色をしていた。


第四章

2009年05月03日 | 小説


 天にこもった熱気が、逆巻く大風に耐え切れずひとつぶのしずくをこぼした。

 そのしずくがみずからの分身を生み、やがて空の青から舞い落ちるとき、

 地上にうごめくものたちは物影をもとめ、しばしの間身を縮める。

 ここ、街道わきに生い立つ柏の木々の枝かげにもせわしげに駆け込む

 旅人たちの姿があった。

 
 「ついてないね、こんなところで足止めなんて。」とクスコがぼやいた。

 「今日はやけに蒸し暑い日でしたが、もう降ってくるとは…オーランスの

 気まぐれには困ったものです。」マーカインは木陰から手をさしのべ

 雨粒を手のひらに受けていた。「すごい大粒ですよ、痛いくらいだ。」

 「悪いけど、あたし先に行かせてもらうわ。もうちょっとで街道も

 分かれ道になるし、こんな雨くらい平気よ。短い間だったけど

 お世話になりま」

 別れの挨拶を述べるクスコの顔を、白い光がかっと照らした。同時に

 轟音がとどろき、クスコの声はかき消え、一同の背骨をびりびりと

 振るわせた。

 「うっはー、こりゃ豪気だ!ひゃっほう!」ナディスは小躍りして落雷を

 喜んだ。「もっと鳴れ鳴れ!」

 「こんな雷の中を槍をかついで歩くのか?感心しないな」ケインに諭されて

 しぶしぶクスコも樹の下に座りこんだ。「んもう、くそったれ。」

 
 雨は降り続け、黒雲は分厚く頭上に覆いかぶさり、稲妻と雷鳴は

 遠ざかるかと思えばまた激しく鳴り響き地面をふるわせた。

 「止まないな。いやな雨だ。」ケインがつぶやいた。

 「おしりが冷たい。」クスコがため息をついたそのとき、ナディスががばっと

 起き上がり斧をつかんだ。そしてわめいた。「来るぞ!!」

 「な、何ですいきなり?」マーカインは水けを絞っていた帽子を思わず

 取り落としてしまった。

 「オレが来るって言ったら決まってるだろ!混沌のヤツらだ!」

 稲妻のせいではなく、全身を総毛立たせて斧の刃を雨に光らせている

 ナディスのただならぬ様子に、ケインとクスコも武器を手に取った。

雷鳴のなか、ひづめの音とおぞましい啼き声がたしかに聞こえた。