2024年4月に見たい展覧会【板倉鼎・須美子/青山悟/ダリ】

今年は関東でも桜の開花がずれ込み、久しぶりに4月に入ってから見頃を迎えました。



4月は主に中旬から下旬にかけて多くの展覧会がスタートします。気になる展覧会をピップアップしてみました。

展覧会

・『生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真』 東京ステーションギャラリー(2/23~4/14)
・『生誕150年 池上秀畝—高精細画人—』 練馬区立美術館(3/16~4/21)
・『須藤玲子:NUNOの布づくり』 水戸芸術館(2/17~5/6)
・『花・flower・華 2024 —奥村土牛の桜・福田平八郎の牡丹・梅原龍三郎のばら』 山種美術館(3/9~5/6)
・『没後50年 福田平八郎』 大阪中之島美術館(3/9~5/6)
・『旧朝香宮邸を読み解く A to Z』 東京都庭園美術館(2/17~5/12)
・『ライトアップ木島櫻谷—四季連作大屏風と沁みる「生写し」』 泉屋博古館東京(3/16~5/12)
・『没後50年 木村伊兵衛 写真に生きる』 東京都写真美術館(3/16〜5/12)
・『国宝・燕子花図屏風 デザインの日本美術』 根津美術館(4/13~5/12)
・『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2024』 京都市内各所(4/13〜5/12)
・『大吉原展』 東京藝術大学大学美術館(3/26~5/19)
・『HELLO! コレクション ZOZO×千葉県立美術館』 千葉県立美術館(4/6~5/19)
・『出光美術館の軌跡 ここから、さきへⅠ 復刻 開館記念展—仙厓・古唐津・中国陶磁・オリエント』 出光美術館(4/23~5/19)
・『歌舞音曲鑑 北斎と楽しむ江戸の芸能』 すみだ北斎美術館(3/19~5/26)
・『没後100年 富岡鉄斎』 京都国立近代美術館(4/2~5/26)
・『月岡芳年 月百姿』 太田記念美術館(4/3~5/26)
・『雪舟伝説 —「画聖(カリスマ)」の誕生』 京都国立博物館(4/13~5/26)
・『古染付と中国工芸』 日本民藝館(3/30~6/2)
・『遠距離現在 Universal / Remote』 国立新美術館(3/6~6/3)
・『第8回横浜トリエンナーレ 野草:いま、ここで⽣きてる』 ヨコハマトリエンナーレ(3/15~6/9)
・『フランシス真悟 Exploring Color and Space─色と空間を冒険する』 茅ヶ崎市美術館(3/30~6/9)
・『テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本』 パナソニック汐留美術館(4/6~6/9)
・『画鬼 河鍋暁斎×鬼才 松浦武四郎 —「地獄極楽めぐり図」からリアル武四郎涅槃図まで』 静嘉堂文庫美術館(4/13~6/9)
・『空海 KŪKAI —密教のルーツとマンダラ世界』 奈良国立博物館(4/13~6/9)
・『青山悟 刺繍少年フォーエバー』目黒区美術館(4/20〜6/9)
・『板倉鼎・須美子展』 千葉市美術館(4/6~6/16)
・『宇野亞喜良展 AQUIRAX UNO』 東京オペラシティ アートギャラリー(4/11~6/16)
・『サントリー美術館コレクション展 名品ときたま迷品』 サントリー美術館(4/17~6/16)
・『茶の湯の美学 —利休・織部・遠州の茶道具』 三井記念美術館(4/18~6/16)
・『驚異の細密表現展—江戸・明治の工芸から現代アートまで』 横須賀美術館(4/20~6/23)
・『どうぶつ百景 江戸東京博物館コレクションより』 東京ステーションギャラリー(4/27~6/23)
・『カール・アンドレ 彫刻と詩、その間』 DIC川村記念美術館(3/9~6/30)
・『マツオヒロミ展 レトロモダンファンタジア』 弥生美術館(4/6~6/30)
・『民藝 MINGEI―美は暮らしのなかにある』 世田谷美術館(4/24~6/30)
・『ブランクーシ 本質を象る』 アーティゾン美術館(3/30~7/7)
・『ホー・ツーニェン エージェントのA』 東京都現代美術館(4/6~7/7)
・『翻訳できない わたしの言葉』 東京都現代美術館(4/18~7/7)
・『ふたり 矢部太郎展』 PLAY! MUSEUM(4/24~7/7)
・『未来のかけら: 科学とデザインの実験室』 21_21 DESIGN SIGHT(3/29~8/12)
・『デ・キリコ展』 東京都美術館(4/27~8/29)
・『生誕120周年 サルバドール・ダリー天才の秘密ー』 諸橋近代美術館(4/20~9/1)
・『シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝』 森美術館(4/24~9/1)
・『伊藤潤二展 誘惑』 世田谷文学館(4/27~9/1)

ギャラリー

・『ピート・アウドルフのナチュラリスティックガーデン —いのちがめぐる庭』 ギャラリー エー クワッド(4/19~7/11)
・『大木裕之 アブストラクト権化』 ANOMALY(3/16~4/13)
・『第17回 shiseido art egg  野村在展』 資生堂ギャラリー(3/12~4/14)
・『高木由利子 写真展 カオスコスモス 弐 - 桜 -』 GYRE GALLERY(3/1~4/29)
・『TDC 2024 (TOKYO TYPE DIRECTORS CLUB EXHIBITION 2024)』 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(4/1~5/15)
・『アピチャッポン・ウィーラセタクン「Solarium」』 SCAI THE BATHHOUSE(3/16~5/25)
・『第17回 shiseido art egg  岩崎宏俊展』 資生堂ギャラリー(4/23~5/26)
・『久保寛子展「鉄骨のゴッデス」』 ポーラ ミュージアム アネックス(4/26〜6/9)
・『開発の再開発 vol. 5 奥村雄樹』 gallery αM(4/13~6/15)
・『MARK LECKEY』 エスパス ルイ・ヴィトン 東京(2/22~8/18)

まずは1920年代のパリで才能を見出されものの、早世した画家夫妻を紹介する展覧会です。千葉市美術館にて『板倉鼎・須美子展』が開かれます。



『板倉鼎・須美子展』@千葉市美術館(4/6~6/16)

1901年に生まれた板倉鼎は、東京美術学校西洋画科に進んだのち、ロシア文学者である昇曙夢の長女須美子と結婚すると、ハワイを経由してパリへと留学しました。そこで夫妻とも油彩画を手がけると、サロン・ドートンヌに入選するなどして評価を得るものの、鼎はわずか28歳という若さにて客死し、さらに須美子もふたりの娘とともに亡くなってしまいました。


この板倉鼎・須美子の画業を顕彰するのが今回の展覧会で、須美子の代表作ともいえる「ベル・ホノルル」シリーズなど、実に約240点もの作品にてパリに生きた洋画家夫妻の軌跡をたどります。

続いては現代美術作家、青山悟の個展です。目黒区美術館にて『青山悟 刺繍少年フォーエバー』が行われます。



『青山悟 刺繍少年フォーエバー』@目黒区美術館(4/20〜6/9)

主に工業用ミシンを用いて作品を制作する青山は、これまで国内外の美術館での展覧会などに参加すると、人間や労働のあり方などを批評的に問いながら、刺繍の枠を超えた作品を発表してきました。

その青山の美術館での初個展が『青山悟 刺繍少年フォーエバー』で、出身地でいまも在住する目黒区内の出身校を描写した初期の作品から新作までが公開されます。

最後は日本で随一のダリ・コレクションを有する美術館からスタートするダリの展覧会です。諸橋近代美術館にて『生誕120周年 サルバドール・ダリー天才の秘密ー』が開かれます。



『生誕120周年 サルバドール・ダリー天才の秘密ー』@諸橋近代美術館(4/20~9/1)


これは1「ダリのペルソナの形成」、2「パリのシュルレアリストとダリ」、3「進化する芸術家 ダリ」の3章構成にて、ダリの生涯を初期から時間を追って紹介するもので、昨年のクラウドファンティングによって修復された『キャバレーの情景』といった2作品も公開(予定)されます。


*諸橋近代美術館(2021年11月に撮影)

また開館25周年を記念する本展は、同館史上初めて開催後に秋田、大分、神奈川、広島などの全国の美術館を巡回します。中世の馬小屋というイメージした美術館の建物をはじめ、磐梯高原の美しいロケーションを誇る同館ならではのダリ展となるかもしれません。

ブログはしばらく不定期での更新となります。それでは今月もよろしくお願いします。
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『第27回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)』 川崎市岡本太郎美術館

川崎市岡本太郎美術館
『第27回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)』
2024/2/17~4/14


村上力『學校』 特別賞

今年で27回目を迎える『岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)』が、川崎市岡本太郎美術館にて開かれています。

今回は621点の応募のうち22組の作家が入選し、専門家諸氏の選考を受け、岡本太郎賞以下、岡本敏子賞、そして過去最多の10組の特別賞が決まりました。


つん『今日も「あなぐまち」で生きていく』 岡本太郎賞

まず岡本太郎賞を受賞したのは1981年生まれのつんで、ダンボールで作られた巨大な団地のような立体作品、『今日も「あなぐまち」で生きていく』を展示していました。


つん『今日も「あなぐまち」で生きていく』 岡本太郎賞

ここでは団地の下の各部屋に付属された名簿を手に取ることができて、もうふやにくまん、それにプリンターなどと名付けられた、さながら住人と思しきキャラクターたちの紡ぐ物語を読むことができました。


三角瞳『This is a life. This is our life.』 岡本敏子賞

続く岡本敏子賞を受賞したのは1988年生まれの三角瞳で、ポリエステルの薄く白い布に人の顔を刺繍した『This is a life. This is our life.』を公開していました。


三角瞳『This is a life. This is our life.』 岡本敏子賞

4平方メートル四方に連なる布には、男女を問わずにさまざまな表情をした千人以上もの人の顔が象られていて、赤い糸で表現された遺伝子に束ねられた存在である人間と、そこから抗えない生命の設計図を示していました。


フロリアン・ガデン『Anomalies-poétiques/詩的異常』 特別賞

空間を大胆に用いた大掛かりなインスタレーションが目立つ中、日常に潜む異世界などを幻視的に表現したフロリアン・ガデンの『詩的異常』も魅惑的だったのではないでしょうか。


フロリアン・ガデン『Anomalies-poétiques/詩的異常』 特別賞

一見何気ない都市や郊外の風景を描きつつ、そこへ現実には存在し得ない巨大な昆虫やカエル、それにかっぱなどを描きこんでいて、中には駅のホームで待つ人々が皆、植木鉢を持っているシュールな光景なども表されていました。


野村絵梨『垢も身のうち』

また同じく日常を舞台にした作品といえば、野村絵梨の『垢も身のうち』も印象に深かったかもしれません。


野村絵梨『垢も身のうち』

ここでは作家本人が暮らす部屋をモデルに、3DCGで人形遊びのおもちゃのようなかたちにデフォルメし、そのデザインをもとにスタイロフォームで彫刻として表現していて、家具や洋服といった造形そのものにも魅力を感じました。


クレメンタイン・ナット『POT-PLANTS』 特別賞

なお会期中、3月17日までは「お気に入りを選ぼう!」と題し、お気に入りの作品を投票するコーナーが設置されています。投票の結果は3月22日(予定)に同館のWEBサイト上にて発表されるそうです。


会場内の撮影も可能です。4月14日まで開かれています。

『第27回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)』 川崎市岡本太郎美術館@taromuseum
会期:2024年2月17日(土)~4月14日(日)
休館:月曜日。3月21日(木)。
時間:9:30~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般700(560)円、大・高生・65歳以上500(400)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *常設展も観覧可。
住所:川崎市多摩区枡形7-1-5
交通:小田急線向ヶ丘遊園駅から徒歩約20分。向ヶ丘遊園駅南口ターミナルより「溝口駅南口行」バス(5番のりば・溝19系統)で「生田緑地入口」で下車。徒歩5分。
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『進撃の巨匠 竹内栖鳳と弟子たち』 福田美術館

福田美術館
『進撃の巨匠 竹内栖鳳と弟子たち』
2024/1/18~4/7


竹内栖鳳『南支風光』 1938年

1864年に京都に生まれた竹内栖鳳は、先人たちの日本画の技に西洋の技法などを取り入れた自らの芸術を確立すると、京都画壇を代表する画家として活躍しました。

その竹内栖鳳と弟子たちに着目したのが『進撃の巨匠 竹内栖鳳と弟子たち』で、栖鳳をはじめ、上村松園、西村五雲、また小野竹喬、土田麦僊といった後進の画家とともに、戦後の小野竹喬、福田平八郎らの作品が展示されていました。


竹内栖鳳『水風清』 1935年頃

まず冒頭に並ぶのが栖鳳の作品で、若き栖鳳の描いた『秋夕図』や、群青や緑青を用いて波の打ち寄せる浜辺を描いた『春の海』、それに鶺鴒が可愛らしい姿を見せる『水風清』などに目が止まりました。


竹内栖鳳『春郊方牛図』 1902年頃

一際目立つのは、春の野に放たれた牛たちをモチーフとした『春郊方牛図』で、右に手前を見やる大きな牛を表しつつ、左には牛が群れる光景を俯瞰するようにして描いていました。


上村松園『しぐれ』 1940年頃

こうした栖鳳に続くのが弟子たちの作品で、筆墨は栖鳳を凌ぐとも評価された西村五雲の『高原之鷲』をはじめ、凛とした佇まいが美しい上村松園の『しぐれ』、はたまた赤い鶏頭に蔓を伸ばして咲く朝顔を描いた土田麦僊の『鶏頭花』などが印象に残りました。


土田麦僊『ヴェトイユ風景』 1922年

この土田麦僊が西洋絵画の流れを日本画の世界に取り込もうとしたのが『ヴェトイユ風景』で、単純化した家並みなどを岩絵具を用いつつ色鮮やかに描いていました。


『進撃の巨匠 竹内栖鳳と弟子たち』展示作品

戦後に活動した小野竹喬、福田平八郎、池田遙邨らの作品にも優品が目立っていたかもしれません。


池田遙邨『旭譜』 1982年

電線に止まる鳥たち朝日に浮かぶ様子を描き、それを五線譜に見立てたという池田遙邨の『旭譜』にも心惹かれました。


土田麦僊『鶏頭花』 1915年頃

展示替えの情報です。3月5日の休館日を挟み、一部の作品が入れ替わります。(本エントリは前期期間中の展示作品です。)

『進撃の巨匠 竹内栖鳳と弟子たち』作品リスト(PDF)
前期:1月18日(木)~3月4日(月)
後期:3月6日(水)~4月7日(日)
*作品点数:前期32/後期35/通期31


なお同館では先日、伊藤若冲が晩年に描いたとされる「果蔬図巻」が新たに発見されたことを発表し、美術ファンの中で注目を集めました。

「世界新発見の伊藤若冲の巻物『果蔬図巻(かそずかん)』が福田美術館のコレクションに加わり、同館で記者発表会を実施」福田美術館プレスリリース(PDF)

『果蔬図巻』は10月から開かれる展覧会にて公開されます。詳しくは上記リンク先リリースをご覧ください。


竹内栖鳳『海光清和』 1926年頃

4月7日まで開催されています。

『進撃の巨匠 竹内栖鳳と弟子たち』 福田美術館@ArtFukuda
会期:2024年1月18日(木)~4月7日(日)
 *前期:1月18日(木)~3月4日(月)、後期:3月6日(水)~4月7日(日)
休館:3月5日(火)
時間:10:00~17:00。最終入館は16時半まで。
料金:一般・大学生1500(1400)円、高校生900(800)円、小中学生500(400)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *嵯峨嵐山文華館両館共通券あり。
住所:京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3-16
交通:嵐電(京福電鉄)嵐山駅下車、徒歩4分。阪急嵐山線嵐山駅下車、徒歩11分。JR山陰本線(嵯峨野線)嵯峨嵐山駅下車、徒歩12分。
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『須藤康花―光と闇の記憶―』 松本市美術館

松本市美術館
『須藤康花―光と闇の記憶―』 
2023/12/9〜3/24


須藤康花『夢幻2』

1978年に福島県に生まれた画家の須藤康花(すどう・やすか)は、幼少期にネフローゼ症候群を発症して入退院を繰り返しながら描くことに集中すると、多摩美術大学に進学して版画を研究するも、2009年に30歳という若さにて亡くなりました。

その須藤の美術館での初の大規模回顧展が『須藤康花―光と闇の記憶―』で、父が松本市内に設立した康花美術館の全面的な協力のもと、初期から晩年までの約180点の作品が展示されていました。


左:須藤康花『ヒマワリととんぼ』

まず冒頭は幼少期から10代前半の頃に描いた作品が並んでいて、明るく伸びやかなタッチで美しい田園を描いた『ヒマワリととんぼ』などに目がとまりました。

14歳の時に母を亡くした須藤は、母と同じ慢性肝炎を発症して体調が深刻となるもののの、16歳に静岡県に転居して絵の道へ進むべく沼津美術研究所に入所し、のちに東京へ移って多摩美術大学へ進学しました。


『須藤康花―光と闇の記憶―』 展示作品

須藤の木炭やデッサンによる一連の作品を前にして印象に深いのは、暗がりの中に淡く温かみのある光が差し込みつつ、幻視とも夢想的とも呼べるようなイメージが広がっていることでした。


『須藤康花―光と闇の記憶―』 展示作品

またそこには何か特定し得ない奇異な生き物や不思議な植物などが描かれていて、時に未知の世界の洞窟を思わせる風景が幻想的に表されていました。


『須藤康花―光と闇の記憶―』 展示作品

こうした主にモノクロームによるイリュージョン的な世界を描いた作品の一方で、温かみのある色彩によりリアルな風景を表したのが長野県麻績村(おみむら)でのスケッチでした。


『須藤康花―光と闇の記憶―』 展示作品

大学で版画を研究しつつ、週末には父とともに麻績村で移った須藤は、農作業に勤しみながら地域の子どもたちに絵を教えるなどして暮らしました。人のいない光景にどことない寂しさも感じられるものの、自然の光景を素直に捉えようとした須藤の制作のありようが伺えるかもしれません。


須藤康花『白夜』

20代の半ば過ぎに描かれ、ラストの「光と闇の記憶」に並んだ『幻葬』や『崩壊前夜』、それに『白夜』などの作品にも心を惹かれました。


須藤康花『幻葬』

いずれも深い闇を伴う洞窟のような空間からわずかな光が滲み出すように灯されていて、時に人影と思しきすがたも見ることができました。また銅版の技法に由来した、画面全体に広がる繊細な質感も魅惑的だったかもしれません。


須藤康花『崩壊前夜』

展示室内の撮影も可能です。

会期末での鑑賞となりました。3月24日まで開催されています。

『須藤康花―光と闇の記憶―』 松本市美術館@MatsumotoMuseum
会期:2023年12月9日(土) 〜 2024年3月24日(日)
休館:月曜日(休日の場合翌平日)、年末年始(12/29~1/3)
時間:9:00~17:00
 *入場は16時半まで。
料金:大人1000円、大学高校生・70歳以上の松本市民700円。
住所:長野県松本市中央4-2-22
交通:JR線松本駅から徒歩約12分。JR松本駅よりタウンスニーカー(市内周遊バス)東コース「伊織霊水(美術館北)」下車。
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『マツモト建築芸術祭 2024 ANNEX』 旧松本市立博物館 (メイン会場)

旧松本市立博物館 (メイン会場) / 新松本市立博物館 / 信毎メディアガーデン
『マツモト建築芸術祭 2024 ANNEX』 
2024/2/23~3/24


旧松本市立博物館(中島崇 展示作品風景)

長野県松本市の旧松本市立博物館(メイン会場)にて、「マツモト建築芸術祭 2024 ANNEX」が開かれています。


米谷健+ジュリア 展示作品風景

これは「名建築に アートが住み着く マツモトの冬。」をコンセプトに、過去2回にわたって開催した「マツモト 建築芸術祭」の第3回に当たるもので、今回は「消えゆく名建築 アートが住み着き 記憶する」と題し、メイン会場の旧松本市立博物館を中心に国内外17組のアーティストが作品を公開していました。


谷敷謙 展示作品風景

1967年に建てられた旧松本市立博物館は、松本市の最大の歴史遺産ともいえる松本城に隣接した建物で、長く地域の博物館施設として親しまれていたものの、新博物館への移転に伴い2021年に休館しました。現在は解体に向けた準備が進められています。


旧松本市立博物館(中島崇 展示作品風景)

まず建物全体を透明なフィルムでラッピングしたのが中島崇の『ケア』で、花崗岩を洗い出しにしたという外壁の記憶を残しつつ、柔らかく温かい光を新たにもたらしていました。


鬼頭健吾 展示作品風景

らせん階段の吹き抜けを用いた鬼頭健吾の『lines』も目立っていたかもしれません。ここではカラフルな蛍光色に彩られた棒状の線が何本も吊り下がっていて、階段を上下に行き来しながら変化する景色を楽しむこともできました。


磯谷博史 展示作品風景

磯谷博史の『花と蜂はち、透過する履歴』とは、2つの大きな瓶に蜂蜜を満たす中、集魚灯を落とし込んだインスタレーションで、ワイン色ともオレンジ色ともいえるような妖しく神秘的な光を辺りに放っていました。


宇佐美雅浩 展示作品風景

中心にいる人物の世界を1枚の写真で表現した宇佐美雅浩の『Manda-la 曼荼羅』も見応え十分ではなかったでしょうか。


宇佐美雅浩『早志百合子 広島』

広島の原爆ドームの近くの広場を舞台とした『早志百合子 広島』とは、被爆者の早志百合子の人生を時空を超えて表現したもので、右の原爆投下時の広島と左の明るい芝生で赤ん坊が遊ぶ空間を対比的に示していました。

左右の画面とも一見、合成写真と見間違うような光景が広がっていて、1人の人間の曼荼羅というだけでなく、広島の地域の歴史そのものを体現した世界が展開しているように思えました。


熊野寿哉 展示作品風景

自然光が取り込める半室内空間を効果的に活かしたのが、華道家で空間演出家として活動する熊野寿哉の『パンタレイ』でした。

蘭や苔、腐葉土などを用いた生け花の作品は、会期中、微生物や湿気などを発生させながら、成長しつつ、次第に劣化していって、近い将来に取り壊される建物と重なり合うような万物流転の思想を表していました。


河合政之 展示作品風景

使われなくなった地下のボイラー室を用いた、河合政之の『Three Elements 三元素』も芸術祭のハイライトを飾るような作品といえるかもしれません。


カンディダ・ヘーファー 展示作品風景

このほか、ドイツ生まれの写真家、カンディダ・ヘーファーの写真作品や、建物の片隅で小さな雑草を添えた須田悦弘の木彫なども印象に残りました。


新松本市立博物館の階段スペース(ここで映像展示が行われています)

過去2回の芸術祭では街中の建築においても作品が展開していましたが、今回は旧松本市立博物館に会場が集中しているために映像を除いてほぼありません。



しかしながら旧博物館の前の松本城をはじめ、市中に点在する蔵造りの古い建物など、松本の観光や街歩きを兼ねて楽しむのも良いのではないでしょうか。



フィルム越しに望む松本城公園など、芸術祭でしか味わえない景色そのものも魅力的に思えました。


3月24日まで開催されています。

『マツモト建築芸術祭 2024 ANNEX』@maaf_matsumoto) 旧松本市立博物館 (メイン会場) / 新松本市立博物館 / 信毎メディアガーデン
会期:2024年2月23日(金) ~ 3月24日(日)
休館:なし(新松本市立博物館のみ3/19 休館)
時間:10:00~17:00
料金:一般2000円、高校生・大学生・専門学生1500円、中学生以下無料。*メイン会場料金
住所:長野県松本市丸の内4-1 松本城公園内(旧松本市立博物館)
交通:JR線松本駅下車徒歩約20分。松本周遊バス「タウンスニーカー」北コース「松本駅お城口」発「松本城・市役所前」下車。
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