厚ロー⑩

2009-05-08 04:23:54 | Weblog
「何枚、お切りいたしましょう・・」

「・・・かしこまりました。」

低音な美声、ダンディーな笑みで会話する

ローストビーフコーナーのシェフ。

口数は少ないが、そのふくよかな顔立ち、表情からは

ビッグダディ、もしくは北斗の拳「山のフドウ」を連想させる。


そのフドウシェフが巨大な肉塊から、

極薄ローストビーフを2枚切り分けてくれた。

仕上げは、すりニンニクを添え、グレービーソースを走らせる。

これは、自分でやらなくてはならない。


余談だが、私は2周目にコレらの存在に気づいた。

よって1周目のローストビーフは味付け無しで食べている。



ようやく席に戻り、食事を始める。

みんな各々でチョイスした料理を見せ合ったり、交換したりと、

バイキング定番トークが弾む。


「あーそれ美味しそー! どこにあんの?」

「でもソレ、パクチー入ってない。」

「マーヤさん、ケーキ行くの早くない?!」


和やかな時間が続く。

と、長テーブルの端から、一人の男が席を立つ。

そういえば、みんなが歓談してる中、この男だけは会話に入ってこなかった。

「食」の一点に集中していたからだ。

男は、口をモゴモゴさせながら席を立ち、慣れた足取りで

ローストビーフへと向かう。

彼が、席を立つと同時に反応し、ダンディーな笑みで手元のローストビーフを

切り始めるフドウシェフ。

「阿吽の呼吸」だ。

出会って数分のしんごろうとフドウシェフ。

彼らの間には、我々には見えない、聞こえない何かがある。

そうして、二人の達人が相対する。

しんごろうが、ローストビーフコーナーに着くころには

数枚の肉が仕上がっている。

「肉を切る人」と「肉を食べる人」

この辺の段取りの良さが二人のレベルの高さを物語っている。


通常、3ミリに満たない厚さに切られる肉だが、

しんごろうのは、異例の厚さ1㎝ほどはあったと思う。



これは、名門ホテルにあるレストランで起きた実話である。


    つづく
              前川玄次郎












厚ロー⑨

2009-04-15 05:25:05 | Weblog
バイキングの料理を盛り込んでいくうちに、自分のお皿が

みるみる彩り豊かになっていく。

美しい・・・。

もう少し、赤が欲しいな・・。

などと、気づくと色彩優先に料理を選んでいる。

何を食べたいのか。ではなくなっている。



何故か私は、バイキングの時、無駄に作り手の心境になる。

仕上げに、食べもしないクレソンを添えるのはその証拠だ。



そんなこんなで、バイキングの料理コーナーもいよいよ終盤。

メイン料理。

例のローストビーフだ。

私はすでに、お皿一枚分の料理を持っていた。

その皿に盛ってあるのは、様々な失敗を経験し、

細心の注意をはらい、よくよく考えられた末に選ばれた、

いわゆる少数精鋭部隊。

軍隊で例えるならば、「SWAT」のような渾身の一皿である。



たしか・・

ポテトサラダ、ナポリタン、鶏肉をカレー風味、

平目刺し、ミニ茶碗蒸し。

などが選ばれたと思う。



メインコーナーのカウンターには、

巨大なローストビーフの肉塊を切り分ける専用のコックさんが立っていた。

巨大な肉塊を切るに相応しい、恰幅の良いコックさんだった。

そして、カウンターの前には、お皿を2枚~3枚持っている男が。

そのお皿は、私のお皿と違い、単色だった。

それは、ローストビーフのみで敷き詰められたお皿だった。

そのお皿の持ち主は、しんごろう。

165㎝、90キロ、体脂肪率38%。


ローストビーフを切り分けるコックさんは、満面の笑みで

彼の要望に応えていた。


肉を受け取り、しんごろうは一礼、コックさんは笑みで応える。

二人の間にもはや言葉はいらない。


コックさんは、しんごろうが席に戻ってからも、視線はしんごろうと

手元のローストビーフを交互にみるばかりだった。


どっちがドッチだかを確認する為なんだと思う。


         つづく

              前川玄次郎
















厚ロー⑧

2009-04-08 03:48:41 | Weblog
バイキングの料理は、和洋折衷様々なジャンルの料理が並んでいて

豪華絢爛である。

私は、興奮しすぎて何から食べようか中々決められない。

サラダだけでも4~5種類はある。





バイキングの経験は、もちろん私にもある。

そして私は、バイキングで数々の失敗をしている。


一つ代表的な失敗をあげてみると

それは「取り過ぎ」である。



自分の皿に、自分の気に入った料理を、自分が食べたい分よそう。

一周して、自分の卓に着くころには膨大な量になっているケース。

これは、誰しもが経験していると思う。




こんな時もあった・・・

律儀に、食事は前菜に始まり徐々にメインに行く組み立てを

バイキング料理の中で、自分で勝手に考え

メイン手前でお腹いっぱいにしてしまうケース。


たぶん、付け合わせに位置する「マカロニサラダ」あたりを

取り過ぎてしまっているはずだ。





・・・ゆえに、今宵のバイキング

いかに攻略しようか、まさにサラダ場の前から料理コーナー全体を

目測する。

それは、石川遼くんのバーディーパット前のシバを見る行為に似ている。



そして私は、ゆっくりとトングを掴んだ。

           

       つづく
              前川玄次郎








厚ロー⑦

2009-03-27 04:36:31 | Weblog
スキー旅行2日目の夜。

みんなと新潟で過ごす最後の夜。

我々は、立派な宴会場にいた。


昨晩は和。今宵は洋食である。

長ーいテーブルに一同着席。

乾杯、最後の晩餐が始まる。


そこは、バイキングになっていた。

よって、場内の周りを様々な料理が囲う。

中でも目を引いたのは、ローストビーフコーナーであった。

巨大な肉塊が、まな板に置かれている。

普段、目にすることの無い巨大な肉塊に誰もが驚く。


中でもこの肉塊に興味を抱いた・・・いや、親近感を抱いた男。

他のどんな料理もそっちのけで、この肉塊の前から動こうとしない男がいた。

身長164センチ、体重90㎏の男。

通常、お皿を1枚持って並ぶ所を、お皿を2枚もって並ぶ男。



彼はこの晩、このローストビーフコーナーと自分の席とを5往復はしている。

男の名は、しんごろう。





     つづく

                前川玄次郎

 
    お詫び
  
⑥話に書いたカラオケルームでの宴会の様子は、書いてしまうと

たくさんの人にご迷惑がかかるので、カットさせて頂きました。






厚切りのローストビーフ ~フォーユー~⑥

2009-02-25 03:44:41 | Weblog
コギミのいい微震動と同時に、竿が美しい流線型を描く。

グググ・・・



こいつは大物だ!

戦闘態勢に入る。


見えない獲物と、私の一騎打ちがここから始まる。

それは静かに行われる。


うりゃあ!

一気に釣り上げ、獲物が空に舞う。

水しぶきが降り注ぐ。


かなり冷たい、て言うか氷が入っている。

そこで目が覚めた。

羽賀さんが居眠りしてる私の頭上からウーロンハイを垂らしていた。


・・・はうあ!? 寝てしまった!

ここは、ホテル内のカラオケルーム。

通常カラオケを楽しむ場だが、我々の場合はそれだけではない。

疲労は全員ピークに達していた。

しかし、誰も眠らない潰れない。

それが出来ずに眠ろうものなら、先の私のような制裁がくだる。

ウーロンハイなら、まだマシだ。

私は運がよかった。


去年、この2次会カラオケ大会において

私としんごろうは、顔中生クリーム アンド 浴衣のビール漬け

他のメンバーも女子数名を残し、全員がビールまみれ。


この後、去年を上回る悲惨な宴会へと展開する。

そして、この時点ですでにしんごろうは裸である。


      続く
              前川玄次郎

厚切りのローストビーフ ~フォーユー~⑤

2009-02-14 05:31:32 | Weblog
19時。

風呂上がりの火照った体のまま、宴会場へ。



疲労はピーク、寝不足、風呂上がり、

ビールを美味しくする最高のスパイスだと思う。

そして、幸せを感じる瞬間だ。

「生まれてきてから、一番幸せです。」を言うなら今だ!




料理は、旬の食材満載のフル日本料理。

フグの唐揚げ、天ぷらの盛り合わせなどを追加するなど

贅の極みを尽くす。

もちろん、しんごろうはすでに裸


2次会は、別室でカラオケ。

これは、去年からの定番コース。

そしてこのカラオケが、この旅行の華となる。

一度、このカラオケルームに入ったら、

無傷で出られた者はいない・・・

私は去年の、この行事で人生初のビール掛けを経験している。


    つづく

 
           前川玄次郎

厚切りのローストビーフ ~フォーユー~④

2009-02-09 22:58:20 | Weblog
ゲレンデは、去年のスキー旅行以来か・・・1年ぶり。



目の前には、リフト乗り場の人集り。

正直ならぶのがめんどくさい。

しかし、せっかくここまで来たのだから、おもいっきり滑ろう。

と自分に活を入れた。


2,3本滑って、食堂でビール。

この時、スキーに来て良かった。と思う。



なんか、ちょっと前と違う自分だ。

ちょっと前は、ビールの時ではなく、滑ってる時に来て良かったと思っていた。


俺は一体どうしちまったんだ!

なに丸くなってんだ!?

過去に「ゲレンデ1 速い男」の異名をもっていた俺が・・・。




私は、ゲレンデでスキーを楽しむ人たちを見ながら、

とりあえずビールをおかわりした。


  つづく
           前川玄次郎





厚切りのローストビーフ ~フォーユー~③

2009-02-06 04:04:18 | Weblog
朝7時。

宿に到着。

スキーをやるには、時間が早すぎる。

我々は、ホテル内の休憩所でしばし休憩をとることにした。


休憩とはいうものの、寝るわけではない。

チェスだ。



結局、昼前くらいまでチェスに熱中。

ちょっと昔だったら・・・




はい、スキーに来ました。

はい、ゲレンデは9時オープン。

じゃ、9時1秒からリフトに乗りましょう!

くらいの勢いがあった・・・


それが今は無い。

肉体はもちろん、心、精神まで衰えている感。


余談だが、

先日歌舞伎町で、ボーリングを2ゲームやったら

2日後から約1週間、仕事がきつかった。



一体、あのころの俺はどこにいっちまったんだ!

こんな自分は嫌だ!

俺は、40になっても気持ちは18才のような大人になりたいんだ!



そんな情けない自分に対する怒りの気持ちを、

ゲレンデが目の前にあるホテル内で、

私は、とりあえず目の前にあるチェス盤にぶつけた。



     つづく

             前川玄次郎






厚切りのローストビーフ ~フォーユー~②

2009-01-28 05:42:37 | Weblog
1月11日 AM2時

新宿発

運転手  蟹 将人

助手席  蟹女房

中列 羽賀さん ツカッチ みっちゃん かおりん(今回もイーズとコラボ旅行)

後列   斉藤社長 しんごろう 前川 佐藤マーヤ


以上10名。


全員集合してどこかに遊びにいく事などこの時くらいとあって、

全員テンションは最初からハイマックス!



早々に後列4名は、各々の携帯で、チェス♪

会話など無い。

しんごろうは、携帯電話を持っていないので3人のそれぞれの対戦を見学。

何故か、しんごろうは車中、上半身裸。

途中、サービスエリアでのトイレ休憩の時は、薄手のジャケット1枚を着るのみ。



裸にジャケット。

アメリカンロックスターのような格好で用を足す。

身長163㎝  体重87㎏の彼が。


しんごろうは、この旅行中、ほとんどの時間を裸で過ごす事になろうとは

この時知るよしもなかった・・・



      つづく 

                 前川玄次郎














 

厚切りのローストビーフ ~フォーユー~①

2009-01-22 04:37:45 | Weblog
1月10日土曜日の営業後、僕たちはワクワクしながら

店の片付けをしていた。

もう1時間もするとレンタカーのハイエースが到着する。

10人乗りのハイエースで、越後湯沢に行く。

年に一度の、社員旅行だ。




・・・

この話は、その社員旅行で起きた出来事を事細かく綴ったものである。


時間にゆとりのある方に、是非読んでいただきたい。

     つづく

             前川 玄次郎