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「ザンバ」-石川球太·作画 1962~64年-

 もう、このブログの中では何度も何度も書いていることだが、僕が漫画というものを読み始めたのは1962年の晩秋から冬の初め、11月の半ば過ぎくらいから12月初め頃からだと思う。そして当時の少年月刊漫画雑誌を読み始めたのは、62年12月初旬発行の63年新年1月号からだと思う。

 僕の記憶でははっきり覚えているのは、市販本屋さんで月刊少年誌を買って来たのは、当時の「少年」3月号と「ぼくら」3月号で、はっきりした記憶はないのだが、「まんが王」2月号と「少年画報」2月号を本屋で買って来てるのかも知れない。これは記憶があやふやだ。よく覚えてない。「少年画報」2月号はウチの兄貴が買って来たものかも知れない。

 僕の年齢6歳の終わり頃の話で、小1二学期の終わり~小1三学期の初め頃の話だ。僕が漫画本を読んだのは、市販の本屋さんで購入したものよりも、当時の住み家の近所の貸本屋さんで借りて来た本の方が早かった。幼稚園や保育園に行っていない僕がひらがなが読めるようになるのが、多分、小1二学期の11月頃だったんじゃないかと思う。小1の僕に両親も兄貴も「字」を教えてくれなかった。多分、小1二学期半ばまで自分の名前さえ書けなかったんじゃないかな。

 多分、家の近所の貸本屋に通い始めたのも1962年11月頃からじゃないかなぁ。そこから66年4月いっぱいくらいまで、ほぼ毎日、この貸本屋に通った。最初は兄貴の使いだったけど、僕自身が字は読めなくとも漫画の絵そのものが好きだったし、その内、漫画に熱中して何よりも漫画大好き少年になった。漫画超大好き少年。

 62年12月初旬発行の各少年月刊誌63年1月号は貸本屋で借りて来て読んだ。2月号の「まんが王」を買ったんじゃないかなぁ。「少年」と「ぼくら」3月号は市販本屋で買って来た。

 当時の少年月刊誌は「ぼくら」「まんが王」「少年」「少年画報」「冒険王」「少年ブック」の六誌があって、六誌とも貸本屋で借りて読めた。この当時、講談社の「少年クラブ」が62年12月号が最終刊で休刊し、集英社の「日の丸」が63年2月号で休刊した。どちらもそれが事実上の廃刊だった。「少年クラブ」は全く記憶にないけど、「日の丸」の1月号~2月号は貸本屋で借りて読んでるかも知れない。

 

 僕は子供雑誌が大好きだったので、本当はできれば少年誌を買って来て自分のものとしてずっと手元に置いておきたかった。でも、子供の小遣いの金額上、漫画雑誌はせいぜい月に2~3冊しか買えなかった。だからあとは漫画本は貸本屋で一泊二日で借りて読んだ。

 そんな小一、6歳の終わり頃、初めて少年漫画雑誌を読み始めた頃、秋田書店発行の月刊少年誌は二冊あり、一つは「まんが王」もう一つは「冒険王」だった。当時の「まんが王」は僕はよく市販本屋で購読してたが、「冒険王」はほとんど貸本屋で借りて読んでた。僕が「冒険王」を購読するのは中学生になってからで、小学生時代は全冊と言っていいくらい貸本屋で借りて読んだ。

 僕が「冒険王」を初めて読んだのは多分、1963年新年1月号で、この本に「ザンバ」が掲載されてた。別冊ふろくにも「ザンバ」は着いてた。当時の少年雑誌はペーパークラフトの紙製組み立てふろくやすごろくみたいなゲームなどの紙製の遊びふろくと、B6判32ページ、48ページ、たまに厚い64ページの別冊ふろくが3~5冊着いてた。それ以前は少年雑誌の別冊ふろく合戦で8~10冊着いてたが、僕が読み始めた頃はだいたい4冊程度に落ち着いてた。

 

 当時の「冒険王」連載の漫画、「ザンバ」は石川球太先生のジャングル-サバイバル·冒険漫画で、まだアフリカが暗黒大陸と呼ばれていた時代背景の、和製ターザンものの少年版だ。「冒険王」誌上連載期間は1962年3月号から64年8月号まで、この時代の連載漫画としては長期間の長編漫画だ。

 同じ石川球太先生作画で1961年に週刊少年サンデー誌上で「少年ケニヤ」が連載されている。サンデーの1961年4月から62年4月までの調度1年間で、実写ドラマがテレビ放送されたのが61年5月から62年2月までなので、それに合わせたコミカライズですね。「少年ケニヤ」は作家·山川惣治氏の、新聞連載された大ヒット絵物語で、山川惣治氏の原作の初出は1951年10月から55年10月まで、当時の新聞に絵物語として連載されている。

 僕が週刊少年サンデーを読み始めたのは1963年5月からなので、漫画版「少年ケニヤ」は当然読んでいないし絵も見た覚えがないですね。

 

 「少年ケニヤ」は、暗黒大陸アフリカ-ケニヤに取り残されて孤児となったワタル少年が、マサイ族他部族たちや猛獣などと絡み合いながら、ジャングルでサバイバルする少年冒険活劇。まだアフリカの数多くの原住民の黒人たちを“土人”と読んでいた時代ですね。

 山川惣治氏は戦後直ぐに作画した「少年王者」が巷で大評判となり、紙芝居、単行本、雑誌連載と続けて人気を博した。続いて「少年ケニヤ」も大人気となる訳ですが、どちらも暗黒大陸-アフリカ舞台の日本人少年サバイバル冒険もの絵物語ですね。

 山川惣治氏は絵物語作家ですが、僕は文章を書いてるのが山川惣治氏で“絵”の方は別に作画者がいるものと思い込んでました。山川惣治氏は絵物語作家だから文章も絵も書いてたんですね。

 戦後直ぐの時代は絵物語が児童紙媒体娯楽のメインで、漫画が絵物語に打って変わって主座に着くのは昭和30年くらいかなぁ。昭和20年代末くらいからだろうか。それまでは児童向け雑誌のメインを張っているのは絵物語でしたね。

 「少年ケニヤ」の新聞連載が終わったとき、僕はまだ生まれてません。テレビドラマ版が大人気放送されてたとき、僕はまだ5歳ですね。僕の6、7歳当時「少年ケニヤ」は何度か再放送されて見ているのでよく覚えています。

 「少年ケニヤ」は1984年、東映の角川映画で長編アニメ映画化されて劇場公開されてますが、僕はこれは見ていません。 

 石川球太氏オリジナル漫画の「ザンバ」も物語設定は「少年ケニヤ」とよく似ています。同じように日本人少年がアフリカのジャングルで原住民-部族や猛獣と絡んでサバイバルする、冒険活劇漫画です。

 僕が初めて「冒険王」を読んだときまだ6歳で、「冒険王」この年の3月号を読んだときから7歳になる訳だけど、子供の頃の僕はあんまり利口な子供じゃなくてデキの悪い子、ま、要するにバカ領域の子供でいわゆる劣等生で頭悪くて、漫画も子供向けでもあんまり難しいのは駄目で、内容が濃かったり深いのは駄目で、単純に正義の味方が悪い奴らをやっつける勧善懲悪ものが大好きで、6歳~7歳の僕には暗黒大陸アフリカのジャングルが舞台の少年冒険譚「ザンバ」は少々難しかったのか、当時はちゃんと読んでなかったですね。

 

 「ザンバ」も10歳くらいになってたら、バカガキだった僕でもちゃんと読んだんだろうけど。6歳7歳時の僕は脳たりん度がひどかった。当時の「ザンバ」は漫画絵をパラパラ見てたくらいでちゃんと読んでなかったですね。だから「ザンバ」の物語のストーリーの流れを咀嚼してちゃんと理解してない。パラパラ見て雰囲気味わった程度かな。

 僕が石川球太先生の漫画作品をきちんとちゃんと読み始めたのって、9歳以上か、10歳になった頃からだろうか。

 石川球太さんの漫画で僕が面白いと割りと熱中して読み始めた漫画は、1963年の「まんが王」6月号から始まったSFロボット漫画「巨人ロロ」からだな。僕はまだ7歳だけれども、この作品は正義の巨人ロボットが悪のロボットたちと戦う、SF漫画だからな。子供時分の僕は「鉄人28号」「鉄腕アトム」に代表されるロボットSF漫画が大好きだった。

 石川球太先生というと、狼や闘犬、野生サバイバルで苦闘する大型犬、野生の猛獣、ジャングル、大自然と闘う少年、などの大自然や動物を描いた作品が多く、そういったテーマ·ジャンルの漫画作品の専門家みたいに思われ勝ちですが、50年代末から60年代通しての漫画家-石川球太氏はさまざまなジャンルの漫画を描いてますね。

 石川球太氏は50年代後半は少女漫画も描いてたし、SF漫画、怪奇スリラーもの、野球漫画など熱血スポーツものも多い。代表的な作品は大自然が舞台とか、野生動物や大型犬の苦闘を描いたものが多いですけど。

 50年代後半~60年代は、少年誌の男性漫画家はさまざまなジャンルの漫画を描き分けてましたね。SF、熱血スポーツ、探偵·スパイアクション、ゼロ戦-太平洋戦争活劇…。少女漫画を描いてる男性漫画家も多かった。

 僕も10歳を越える年齢になると、石川球太さんの漫画もきちんとちゃんと読んでました。1966年の少年サンデー連載の、マンモスとかとも戦う原始時代が舞台の「原人ビビ」とか、「少年画報」の「魔山マウジンガ」、1967年「少年画報」のテレビ特撮-怪獣もののコミカライズ「怪獣王子」、1968年の少年マガジン連載「野生犬ザボ」とか。

 そういえば1965年の少年マガジン連載、「牙王」は読んでたと思う。僕はまだ9歳だけど。内容は忘れてるけど、狼と犬の混血種の大型犬の苦闘の物語ですね。北海道の大自然が舞台。日本の動物文学の第一人者、戸川幸夫氏の小説「牙王物語」が原作の漫画作品ですね。

 石川球太氏の漫画作品には「野生犬ザボ」「人喰い鉄道」など、戸川幸夫氏を原作に迎えた作品も多いですね。

 60年代通して石川球太先生は少年雑誌に引っ張りだこの売れっ子漫画家で、さまざまな少年誌で連載や読み切り短編を見掛けましたね。

 ただ僕は、こういう言い方は大変失礼だけど石川球太先生の作品はそんなに大好きな漫画でもなかったので、雑誌連載のものは9歳10歳頃からちゃんと読んではいたけど、後にコミックス単行本で読み返したものはないと思います。無論、石川球太先生は僕が漫画を読み始めた時代から抜群に絵が上手く、ストーリーもしっかりしてて名作揃いなのですが、僕の漫画趣味の問題ですね。

 戸川幸夫氏の動物文学を原作に持って来てたり、脳たりん子供の頭には難しかったのかなぁ。石川球太先生の作品で僕が面白いとけっこう熱中して読んだのはSFロボット漫画「巨人ロロ」くらいかなぁ。あとは、恐竜と侵略宇宙人の出て来る「怪獣王子」とか。

 「ザンバ」はひょっとしたら貸本単行本にはなってるかも知れないけど、新書判コミックスの単行本化はされてないと思う。90年代にアップルボックスクリエイトからB6単行本が発刊されてるけど。

    

少年ケニヤ (上) (マンガショップシリーズ 32)

魔犬ムサシ キリマンジャロの風

石川球太短編集 魔山マウジンガ (マンガショップシリーズ 136)

シートン動物記 石川球太の野生シリーズ (1)

少年ケニヤ (下) (マンガショップシリーズ 32)

原人ビビ (上)

人喰鉄道〔完全版〕 (マンガショップシリーズ 158)

ツンドラ狼物語黒チビちゃん 2 (KCデラックス)

原人ビビ (下) (マンガショップシリーズ 20)

狼ジンギス汗 2 (講談社漫画文庫 い 12-2)

巨人獣 第1話

巨人獣 第2話

ヤマケイ文庫 野性伝説 羆風/飴色角と三本指

 石川球太さんの短編漫画でなぜか印象深く、記憶に残り続けてる漫画があって、この短編漫画は多分、わずか16ページくらいだったと思うのだけど、ひょっとしたら20ページあったかも知れない、でも多分16ページくらいで間違いないと思う、その短編は、1966年の講談社·月刊「ぼくら」の5月号に掲載された読み切り短編でタイトルは「ヘンナ君のヘンナ物語」。

 この「ぼくら」5月号は本屋さんで購入した雑誌で手元にあったので何度も何度も読み返して、お話もだいたい記憶している。何か好きなお話だった。病院内が舞台で主人公·ヘンナ君は入院してる子供なんだけど…。まぁ、ホラーっちゃホラーかな。オチでホラーでなくなるけど。一応、ホラー短編なんだろうな。ユーモア漫画ぽくもあるけど。今の時代ではあんまり詳しく書くとさしさわりがあるような。まぁ、ヘンナ君ですね。

 石川球太先生の「ザンバ」は子供のときから知ってたけど「少年ケニヤ」を石川球太さんが描いてたのは知らなかったなぁ。多分、大人になるまで知らなかったと思う。山川惣治氏の絵物語、オリジナル「少年ケニヤ」の存在は、多分、子供時代から知ってたと思う。読んだことはないけど。

 勿論、石川球太さんの「少年ケニヤ」は、テレビドラマ版「少年ケニヤ」の放送に当たってのコミカライズ版だけど。当時のドラマ「少年ケニヤ」は大人気-高視聴率のテレビドラマだった。一応、子供向けだったけど、たくさんの大人も見ていたと思う。大人の視聴者の評判も良かったと思う。

 やっぱり、日本人の未知の世界、暗黒大陸アフリカのジャングルが舞台というのが大きかった。昭和30年代の日本人って、そんなにアフリカだのジャングルだの知らなかったと思うし。70年代くらいまでは、今はアウトな呼び方だけどいわゆる“土人”という、アフリカの裸で槍とか持って猛獣を含めた野生動物を狩って原始生活をする、アフリカのジャングルの直ぐ近くのサバンナとかで暮らす黒人の部族、というのに興味津々だった。昭和30年代はみんな、南米のアマゾンのジャングルとかもほとんど知らなかったし。

 ジャングル冒険ものが流行した一番大きな要因は、日本のテレビ放送黎明期にアメリカ輸入ドラマ「ターザン」が大人気放送されたのが強いですね。後にアニメで「狼少年ケン」というジャングル冒険-少年ターザンものが、長期間連続放送されるし。

 アニメ「狼少年ケン」は一つのジャングルに狼の集団とライオンやサイ、ゾウ、トラなど世界中の野生動物が混在するというムチャクチャ設定でしたが。

 石川球太氏オリジナルの「ザンバ」は、石川球太版の山川惣治「少年ケニヤ」ですね。月刊「冒険王」連載当時の「ザンバ」は、雑誌連載されてた2年半の期間ほとんど常に別冊ふろくで着いてたし、だいたい本誌カラーページ掲載から別冊ふろくへと続くスタイルで連載されてた。当時の月刊誌の看板漫画は本誌カラーページ掲載から別冊ふろくへと続く形で連載されてた。「ザンバ」は「冒険王」の大人気漫画でしたね。

 テレビドラマ「少年ケニヤ」はSFヒーローもの「ナショナルキッド」の放送が終了した直ぐあとの、同時間帯の番組だったんですね。やはり、ナショナル=松下電器の一社提供で。僕は「ナショナルキッド」が大好きで毎週欠かさず放送を見てたと思うし、多分「少年ケニヤ」も毎週見てたと思う。「少年ケニヤ」が放送された61年5月から62年2月は、僕は5歳ですね。勿論、「ナショナルキッド」も「少年ケニヤ」も後の再放送でも見てるけど。再放送時は7歳くらいで見てるんだろうな。「ナショナルキッド」オリジナル初放送時は僕は4歳ということになるな。「ナショナルキッド」の記憶は再放送ではっきりしたものになったんだろうな。

 1961~62年の「少年ケニヤ」TV放送の冒頭タイトルバックの主題歌は子供の頃、好きな歌で、よく口ずさんでいたと思うが、歌詞の中の♪ナーダが味方だ という歌詞は、僕は最近までずーっと♪ガーナが味方だ と歌ってて、主人公ワタル少年を助けてくれる、マサイ族の酋長ゼガの名前がガーナだと思い込んでいた。完璧間違ってた。♪ナーダが味方だ と歌っていて“ナーダ”とはワタルが吹く笛の音が大好きでワタルの笛の音でワタルの味方をしてくれる、ワタルが危機に陥るといつも助けてくれる密林の大蛇だった。マサイ族の酋長-ゼガもワタルの味方だったよな。

 当時の僕は5~7歳くらいのまだまだ幼児域の子供だったが、何か「少年ケニヤ」のヒロイン、ケイトの魅力に参っていたように思う。まだ子供だったのにケイトにセクシーさを感じ取っていたんじゃなかろうか、と思う。

 ケイトもワタルのような身の上で外国人の少女ながらアフリカ部族の預言者に祭り上げられていて、一人二役でアメメ姫という少女もいたよな。同一人物か双子の生き別れか別人か、もう全く記憶してないけど。

 関みどりさんという女優がケイトをやっていて、僕は何か生まれて初めての異性への憧れをほのかに感じていたような気がする。初恋とまでは行かないけど。

 僕のまだまだ幼児域の時代の、初恋とまでは行かないけれど、生まれて初めての異性への憧れを感じた、当時のモノクロ·テレビの中の女性は、歌手の森山加代子さんと、「ナショナルキッド」の志村妙子=後の太地喜和子さん、それからケイト=アメメ姫役の関みどりさんかな。

 80年代後半の「テレビ探偵団」の放送回の中で、ある週のゲストが「少年ケニヤ」をリクエストして、もう1人のゲストとして、多分、そうだったと思う、「少年ケニヤ」でマサイ族の酋長-ゼガ役の当時の俳優さんが出て、当時の撮影の苦労話などをしていた。

 実際にアフリカまで行って撮影したのは背景だけで、役者の演じる物語のほとんどは日本で撮影されてて、ジャングル場面は日本の山中の森林で撮影したらしい。

 ゼガ役の方が、冬場に山の中で裸で撮影したのでとにかく寒くて堪らなかったと話していた。このとき、長野の山林の中と聞いたように僕は記憶してたが、ネットで「少年ケニヤ」の撮影場所を調べて見ると、神奈川県内の山林だったと書かれてますね。

 おもしろいのは、登場人物にアフリカ原住民の部族が多いのに、役者は全部日本人で、腰布以外裸だからみんな顔も身体も黒塗りして黒人感を出してる。

 幼少期はそんなこと何も解らないから毎週、興奮して見てましたね。多分、実際にアフリカでロケしてるとか思って見てたんだろうな。ほとんどの出演者が日本人でほとんどのロケ地が日本の中だとは。子供だから部族が全員、黒塗りした日本人だとか気付かなかった(考えなかった)かな。

 5歳の僕が心惹かれた美少女、関みどりさんは「少年ケニヤ」以外にもさまざまなテレビドラマに出演しているようです。僕が唯一記憶しているのは1965年のドラマ「空手三四郎」のヒロイン役だけですね。他にもドラマ「柔道一代」とか、当時の刑事ものドラマの1話脇役とかに出ていたみたいですね。ドラマ「隠密剣士」の1話の姫様役とか。当時のいろんなドラマの脇役·端役で出演してるみたい。劇場映画の出演もあるようですね。

 関みどりさんは何でも1947年生まれらしくて1970年には俳優業を引退してるのだとか。1961年放映の「少年ケニヤ」当時は14歳くらいだった訳か。

 

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●小説・・「じじごろう伝Ⅰ」狼病編..(25)

25.

 昔ながらの田畑が敷き詰められた盆地から、都市部へ向かう県道は、深い峠に登って行く。その峠は幾つもの連山を掻い潜って続いている。山々はいずれもそこまで高さがある訳ではないが、とにかく山と谷が幾つも連なっている。谷々にはメインの県道の他にも小さな道が幾つか走っていた。

 連山の中の一つの山から下るけもの道も、谷を走るどれかの舗装された道路に降りる。そろそろ深夜に差し掛かろうかという、山地の闇の中の舗装路の端に、一台の乗用車が止まっていた。ステーションワゴンだ。

 「もうそろそろだよ、浩司お兄さん」

 ステーションワゴンの後部座席から和也が言った。

 「そうかい。早くしないと、もう夜も遅いからなぁ」

 運転席の岡石浩司が応える。浩司は腕時計を見た。

 「何しろ、もう10時が近いよ」

 岡石青年は少し不機嫌そうだ。

 「ごめんなさい。浩司お兄さん、もう直ぐだから」

 「済みません」

 後部座席で和也の隣に座る愛子が、和也の言葉に被せるように、少々声を張って申し訳なさそうに、運転席の岡石青年に詫びた。

 岡石浩司は黙ったまま、フロントガラス越しに、ヘッドライトに照らされた山の中の舗装路を見ている。

 岡石浩司青年は、吉川愛子·和也姉弟の住む地域の郊外に立つ、総合大学の理系学部の大学院生である。かつて和也が所属していた地域の小学生までの子供の草野球チームのコーチを、ボランティアで行っている。自分の乗用車でチームの子供たちの送迎などもやっているので、和也や愛子とも親しい間柄だ。

 停めたままエンジンを掛けて内部をエアコンで冷やしている、乗用車の側面の窓から、山の方をじっと見ていた和也が一言、言った。

 「来た」

 「えっ?」と言って愛子が和也の方に乗り出し、窓から外を見た。闇の中で何も見えない。運転席の岡石青年も和也の見ている方向を見る。勿論、闇で何も見えない。

 ドアを開けて和也が車から降りた。愛子が身体をずらせて窓に寄る。岡石が自動車の窓を降ろして開けた。

 ガサガサと草を分ける音がして、闇の中に二つの小さな光が見える。

 「ハチさん!」

 和也が小さく叫ぶ。二つの光は目が光って見えたのだ。

 愛子が車の中からハンドライトで照らすと、小柄な犬がいた。茶色い体毛の中型犬よりもやや小さな犬。ハチだ。

 「あのお姉ちゃんは?」

 和也が犬に向かって喋ると、ハチは首を曲げて山の方を振り返った。

 やがてガサガサとさっきより大きな、草々を掻き分ける音がして、真っ暗い中に人の影が現れた。愛子がハンドライトで照らす。

 人の影は女性の姿をしている。小柄な女性で、そして何と、裸のようだ。ハンドライトで照らしていた愛子は驚いて車から降りた。岡石も窓から首を出して驚いて見ている。

 和也も愛子も普段着で、和也はボタンの半袖シャツに長ズボン、愛子は黄色い半袖ブラウスにブルージーンズの格好だ。

 裸の小柄な女性は、草むらの山の斜面から降り着いて、道路のアスファルト面を踏むと、力尽きたようにへなへなと倒れてアスファルトに両手を突いた。

 愛子がハンドライトで照らしながら、四つん這いの女性に寄り添った。

 「大丈夫ですか!?」

 愛子の叫びに、四つん這いの女性は息が荒い。女性は素っ裸だ。ライトで照らし出された裸の身体はあちこち汚れて、草の葉で切ったのか血が滲んでいる。

 「大佐渡さんですよね?」

 愛子がしゃがみこんで裸の背中に手を置いて、強い言葉で訊いた。女性はこくりと頷いて見せた。和也も横に立って心配そうに女性の顔を覗き込んでる。

 いつの間にか岡石浩司が車から降りていた。

 「とにかく、彼女を車の中へ」

 岡石が指図する。和也が愛子のハンドライトを受け取り、愛子が力を貸して大佐渡の身体を起こして立たせた。

 愛子が大佐渡を後部座席に乗せた。和也は助手席に乗る。岡石が運転席に戻ると、いつの間にか小型犬が和也の膝に乗って座っていた。

 岡石浩司が首を回し、驚いた顔で後部座席の二人を代わる代わる見る。

 「大丈夫なの?」

 大佐渡真理は両腕を組んで胸を隠し、うつむいている。小さな声で「大丈夫です」と応えた。愛子は真理の身体を抱きかかえるように両腕を回し、真理の顔を覗き込んでいる。

 和也も後ろを振り返り、黙って真理を見ている。

 「浩司お兄さん、何かないですか?着るものとか、身体にまとうようなものとか」

 愛子が訊ねると、浩司は、後ろの荷台に毛布がある、と応えて一度車を降りてステーションワゴンの後ろへ向かった。和也がハンドル横のエアコン操作板をいじってエアコンの冷風を止めた。

 岡石浩司は、まだ初秋の季節で、半袖の白っぽいポロシャツを着て紺色チノパンの長ズボンを穿いていた。

 浩司が後部座席のドアを開けて、愛子に毛布を手渡した。浩司自身も裸の女性が相手なので戸惑っていて、直接何もできないでいる。愛子は毛布を拡げて真理をくるむように身体に掛けた。真理はうつむいたままだ。

 「ありがとう」

 消え入るような声で真理が礼を言った。

 助手席の和也が岡石青年に話し掛ける。

 「浩司お兄さん、車を出して。とにかくこの山から降りて街に戻って」

 「ああ。しかし彼女は病院に連れてった方がいいんじゃないか。裸だし、あちこち傷着いてるみたいだし。この時間なら救急になりそうだけど」

 「病院はやめてください。身体は大丈夫ですから」

 岡石の提案に、真理が頭を上げて強い調子で応えた。真理の言葉があまりにはっきりしていたので、浩司はちょっと驚いた。

 岡石青年は、全裸の真理の状況を山林の中でレイプ犯罪に合ったのではないか、と推測したようだ。

 真理がもう一度懇願するように浩司に向かって言った。

 「本当に大丈夫ですから。だから私の家まで送ってください。お願いします」

 しっかりした一言だ。重ねて和也も言う。

 「浩司お兄さん、お姉さんの言うとおりにしてあげて。とにかくもう降りようよ」

 「ああ、解った」と応えて浩司は自動車を進めた。道幅のふくらみのあるところまで行くと車を切り返して、山に登って来た舗装道路を戻って降りて行った。

 山間の少し離れた山の頂きで火の手が見える。遠くで消防車のサイレンが鳴っている。

 「警察には行かなくていいのかい?」

 「大丈夫です」

 浩司の問い掛けに真理は小さな声で応える。

 浩司はフロントガラス越しに、少し遠くの山火事の火の手を見上げながら、この全裸で山から降りて来た若い女性と、あの山火事は関係があるんだろうか?と考えた。だが、後部座席の娘があまり事情を話したがらない様子なので、問い掛けるのは控えた。

 しばらく誰も喋らなかった。車の中は静かになった。ふだん、車を運転するとき、岡石浩二はラジオを点けるか何か音楽を掛けてるのだが、このときは忘れていた。

 浩司は、今から一時間ちょっと前のことを思い返していた。

 陽が落ちてだいぶ経って夜も更けて来ようかというときに、吉川姉弟が訪ねて来た。浩司は調度、風呂に入ろうかとしていたときだった。大学院生の浩司は二階建てアパートの2DKの部屋で独り暮らしをしている。

 学校の友人とファミレスで夕食がてらダベリをして、友達と別れ、先ほど帰って来たところだ。吉川姉弟は、姉の愛子も弟の和也も何か緊張した様子で、いつもの、小学生草野球チームのコーチのお兄さん、浩司と接するときと態度が違う。そして、思い切ったように、今から山間部の峠まで車で連れて行ってくれと、突飛なことを言い出した。

 子供の願いごとだとは思えぬ、ただならぬ様子に浩司は、一度は脱いで掛けた上着を被りなおして、とにかく外に出た。アパートの下には小柄な犬がいた。中型犬としては少し小さな茶色い犬だ。多分、洋犬の雑種だろう。

 二人の子供の切羽詰まった様子に圧倒されて、浩司は自分のステーションワゴンを駐車場から出して、二人の子供と一匹の犬を乗せて県道へと出た。

 車中で浩司は、二人にどうしてそんなに慌てているのか訊ねた。二人は、これから行く峠にとても危険な目に合っている人がいるので、その人を助けるために一刻の猶予もない、というようなことを言う。

 浩司は驚き、警察に届けた方が良いのではないか、というと、それは駄目だと、弟の和也の方が強く否定した。

 最近の和也はまだ小学三年生のくせに、何だか随分しっかりしていて、まるで大人のようにはっきりと自分の主張を表現できる。このときも、とても子供だと思えない力強さがあって圧倒されてしまった。

 浩司は姉弟、特に弟の和也に言われるままに、もう深夜になろうという遅い時間に車を峠へと向かわせた。そこから小一時間、愛車を走らせ、山間部の峠を登り、今に至る。途中、脇目に、山火事らしい、連山の一つの山の山頂付近の炎を見て驚いた。

 峠道を下りながら、少し遠くに、消防車やパトカーらしきサイレンの音や山火事の警鐘の鐘の音が聞こえる。峠を下る道路では行き交う車は一台もなかった。この連山を越えて都市部へと行く峠の幹線道路は別にある。

 大佐渡真理は疲労困憊していて、力を抜けばふっと眠ってしまいそうだった。しかし、眠るまいと必死で目を開けて耐えていた。後部座席で素っ裸に毛布でくるまって、膝の上の両拳を強く握っていた。腕に入れた力を抜くと、意識を失うように眠ってしまいそうだったからだ。

 大佐渡真理は心配していた。もし病院などにこのまま連れて行かれたら、病院スタッフが事件性を心配して警察に通報するかも知れない。もし警察が関われば、折しも山火事が発生している場所から降りて来た、丸裸の傷付いた人間だ。警察の取り調べは深く追求されるだろう。

 自分を拉致して山の中まで連れて来て拘束した連中が、あの大きな山火事の中、どうなったのか解らない。蟹原智宏は焼け死んだかも知れない。人が死んでるかも知れないような事件性がある。とすれば自分は徹底的に取り調べを受ける。

 その後で、自分のおかしな能力が発覚したら大変なことになる。世間から普通の人間として扱われなくなるどころか、自分は実験材料にされるだろう。

 何しろ、人間の身体の筈なのに、肉体が信じられないような高熱を発して、これが一番の問題だ、女性器の陰部から火の玉を放つのだ。まるで人間火炎放射器みたいに、下半身の秘部から火球を飛ばしてしまう。

 普通の人間としてはとても考えられない。まるで人間兵器だ。日本国内だけの研究材料にされるだけでは済まないだろう。アメリカ·中国·ロシア他、各国のなにがしかの機関があたしを探りに来るだろう。誘拐されるかも知れない。そして何処か他所の国で実験材料だ。

 真理はそう考えると、毛布を深く被って裸の両肩を抱いて、下を向いたまま小刻みに震えた。

 隣の愛子が真理の様子に心配して声掛ける。

 「大丈夫ですか?」

 真理は声を出さずにこくりと首を垂れて返事をした。愛子が尚も心配そうに真理の顔を覗き込んだので、真理が小声で「大丈夫よ」と応えた。

 運転している岡石浩司は、本当は救急病院へ連れて行くべきなのではないだろうか、警察へ届けなくていいのだろうか、と迷いながらも黙って、真理の住まいのある地域へと幹線道路を車を飛ばしていた。深夜の幹線道路は空いていて、スピードが出せた。

 浩司はチラリと助手席の和也を見た。和也は膝の上の茶色い犬を抱いたまま、黙っている。

 浩司は思う。中学二年生の吉川愛子はしっかり者のお姉ちゃんだが、小学三年生の弟、和也の方はおとなしくてどちらかと言えば気弱な方で、甘えん坊な感じの子供だったが、この6月に小学生草野球チームをやめて、この二、三ヶ月はあまり見なかったが、まるで別人のように変わった。

 何と言うか、今の和也はとてもわずか小学三年生の子供とは思えないように落ち着いていて、何かこう威圧感を持っている。浩司は、和也をこれまでのように“可愛い子供”というふうに見れない、一目置いて大人として見てしまうような雰囲気を感じていた。

 浩司は前を向いて黙ったまま運転を続け、隣席の和也も黙ったままだ。浩司はカーステレオの音楽やラジオを点けるのも忘れていた。後部座席の二人も黙っていて、車内は静かなままで、ステーションワゴンは幹線道路から真理の住まいのある地区へと県道に入った。

 やがて住宅街に入ると、浩司の運転するステーションワゴンは一軒の二階建てアパートの前に止まった。モルタル造りの普通のアパートだ。貸し家式アパートで真理の部屋は二階だと言う。素っ裸の真理だが、合鍵をドアの端に二つ積んだブロックの下に隠してあるから大丈夫だと言った。

 自分の住むアパートの前に停まると真理は元気を取り戻し、浩司に毛布はこの次に洗濯して返すと告げ、何度も頭を下げながらお礼を言って、勢い良く車を降りた。部屋まで送るという愛子を大丈夫だからと遮って、真理はアパートの外階段を上った。

 毛布をマントのように肩に掛けた真理がドアの中に消えると、安心したように浩司のステーションワゴンはアパート前から離れた。

 「本当に大丈夫なのかな?」

 浩司が独り言のように誰にでもなく問い掛けると、隣の和也が応えた。

 「大丈夫だよ、浩司お兄さん。車から降りるときあんなに元気だったじゃない」

 大人のようにしっかりした返事をする小三の和也に、焦りのような妙な気分を覚えながら浩司は「うん」と一言応えた。後部座席から運転席の両端を掴んで身を乗り出して、愛子がはきはきした声で浩司にお礼を言う。

 「浩司お兄さん、ありがとうございます。こんな夜更けに無理を言って済みません。真理お姉さんも本当に助かったと思います。あたしも和也も助かりました。真理お姉さんが無事で良かった」

 「浩司お兄さん、どうもありがとう」

 愛子の礼の言葉に続けて、隣席の和也がお礼を言うと、和也の膝の上の犬がワンッとひと吠えした。

 岡石浩司は照れたようにはにかんで、吉川姉弟を自宅まで送って行った。

          *                

 一方、その間の宇羽階晃英たちは…。

 深夜の闇の中を先に進む事務長、吉高春美のハンドライトの灯りに、宇羽階晃秀は草藪を掻き分けながら、事務長の後を追って獣道を下る。二人とも急ぎ足で山道を降りている。前を行く事務長-吉高の息も荒くなって来ている。

 宇羽階晃英は上はシャツを着ているが、下半身は裸だ。草藪を両腕と腰で掻き分けて降りるので、草で切った小さな傷が両足にいっぱいできている。闇の中だが、チクチクと両足のあちこちが痛いのでよく解る。

 藪の葉で股間のサオの付け根近くも切った。チクッとしたので解る。股間や大腿を触ると多分、掌にベタベタと血液が着くに違いない。晃秀は、先を行く事務長は長袖シャツと長ズボンを穿いていて良いな、と羨ましく思った。

 前を行く事務長が止まった。下向きのハンドライトの光が獣道の、土が剥き出しになった地面を照らす。山道が片面が土手で片面は切り崩しの草むらだ。ハアハアと息を吐きながら、事務長-吉高春美が振り返った。遠くに山火事の炎が見える。消防車などのサイレンや鐘の音も遠くなっている。山火事の火の手はこちらには向かって来なかった。

 「ここまで降りて来れば大丈夫ね」

 荒い息を吐きながら春美が宇羽階に声掛けた。

 「はい」と宇羽階が返事した。思ったよりも運動靴が濡れている。獣道を歩いて草藪や草むらを踏んで来たからだ。靴の中で足がぬるぬるする。晃秀は裸足でなくてスニーカーを履いていて良かった、と思った。裸足だったら足を何ヵ所も切って歩けなくなっていただろう。

 吉高春美が腰を降ろして土手の土面に背中を預けた。上着が汚れても構わないほど疲れたのだろう。宇羽階も腰を降ろすが、せめてパンツでも穿いていればと思った。

 何分か沈黙して二人とも休んだが、宇羽階がおもむろに言葉を掛けた。宇羽階としては、少し思い切った質問だった。

 「事務長。事務長は僕たちがあの山の頂きに行ったことを知ってたんですか?というか、今晩の副施設長以下、僕らの行動は解ってたんですか?」

 事務長はしばし黙ってたが、何と答えようか考えてるふうだった。そして、意外にもはっきりと答えた。

 「そうよ。解ってたわ」

 「ということは、僕らは尾行されてた訳ですか?」

 「まぁ、そんなところね」

 事務長はあっさり答えて身体をラクにするように体勢を崩した。後頭部を後ろの土手の土に預ける。

 「宇羽階くん。この際だからはっきり言うけどね。副施設長は別として管理部は職員の動きは全てお見通しなのよ。管理部というか、あたしと施設長だけだけどね」

 宇羽階は驚いた様子で言葉が出ない。事務長が話を続ける。

 「あたしはね、施設長の、まぁ、何ていうか、影の実働部隊なのよ。部隊って1人だけどね」

 「実働部隊…、ですか?」

 「そうよ。施設長はとても用心深い性格でね。あなたたち職員のことは信用してないのよ。それは副施設長のこともそう」 

 「と、いうことは、僕らは常に見張られている、ということですか?」

 「見張っている、というかあなたたちも監視されてるのよ。施設内には到るところに超小型の監視カメラが仕掛けてあるわ。小型の録音機もね。それは施設長室の地下のモニター室に繋がってるの。地下の15面モニターに、あなたたちが施設内の何処で何をしているか全部、見ることができるのよ」

 宇羽階は驚きで言葉が出て来ない。その驚きは恐怖心を伴う驚きだった。宇羽階のこめかみに、山道を下って来た疲れの汗ではなく、冷や汗がたらりと垂れていた。

 事務長が吹き出すように小さく笑って、話を続ける。

 「だからね。あなたたち男子職員が男性のシンボルの大きさの競い合いをしてたことも初めの頃から知ってたわ。みんなで男子トイレで比べっこしてたでしょ。その内、リネン庫だとか裏の用具倉庫の中だとか。男子職員どおしで自分で大きくして比べっこして。あたしと施設長と二人で大笑いしながら地下モニターで見てたのよ」

 宇羽階は驚きと恥ずかしさでいっぱいだった。と、いうことは施設長と事務長は施設所属の全男子職員のチンコのことを知っているということになる。宇羽階は羞恥心から下を向き思わずあらわな股間を両手で隠した。

 「何もしょげることはないじゃないの。宇羽階くんのは立派なモノなんだし。あたしは、ただやたら大きいだけの蟹原くんのモノよりも宇羽階くんのモノの方が凄いと思うわ。あなたたち二人が全男子職員のファイナリストなんでしょ。あたしは宇羽階くんの持ち物の方が好きよ」

 事務長はそういうと、急に恥じらうように宇羽階から顔を反らして他を向いた。まだサイレンも鐘の音も鳴っている。山火事の火の手も見えている。顔を巡らせた事務長は話を変えた。

 「幸い、火の手は向こう側に流れてるみたいね。こちらには来てないわ。助かったわ、誰もこっちの方角には人は来ない」

 宇羽階が顔を上げて再び事務長の方を見て訊いた。

 「今回の副施設長の件はどうなるんですか?その、副施設長と蟹原くん山崎くんと。それから大佐渡くんと」

 「四人で自滅したことにするしかないわね。あたしも施設長も今回のことは全て解っているわ。とんでもないことよ。1人の女子職員を4人の男で襲ったんだからね。最後は未遂でも拉致や拘束は犯罪よ」

 「はい」思わず宇羽階は頷いて返事した。

 「だから、1人の女子を輪姦しようとして内輪揉めして殺し合いに発展した、とするしかないわね。どうして火事になったか知らないけど、山火事は幸いしたわ。あんな凄い火事なんだから蟹原も大佐渡も生きちゃいないでしょ。あなたは最初からあそこにいなかったことにして、施設長他全職員は明日の朝、警察の連絡を受けて知るのよ」

 宇羽階は納得した。二人とも腰を降ろしてもう充分休んでいた。宇羽階が、そろそろまた山を下るのかな、と思って事務長の方を見た。事務長の考えを探るような意味だった。

 すると事務長もこちらを見返して来た。深夜の月明かりしかない山の中で、他に明かりといえば事務長の足元の懐中電灯と遠くの山火事の炎の明かりだけだ。事務長は動かないし黙っている。顔付きが解らないので宇羽階もどうしていいのか判断に困る。宇羽階が黙ったまま顔を向けていると、事務長がおもむろに喋り出した。

 「宇羽階くん。さっきも言ったけど、あたしはね、あなたの“物”に興味があるの。勿論、あなたの性格も好きよ。でも、その、あたしもあなたの“物”をね、何度もモニターで見て非常に関心をそそられたわ」

 「は?」宇羽階は事務長が何を言いたいのか解らず、きょとんとした。

 事務長が草の上に突いた両手を使って、座ったまま腰を動かし、宇羽階に寄って来た。お互いの手が届く距離に寄り、肩を並べるような間隔になった。事務長が宇羽階に顔を寄せる。

 「宇羽階くん。解るでしょ」

 事務長の掛ける言葉が変になまめかしい。ちょっと甘えたような声音だ。宇羽階の頬の直ぐ近くまで事務長の顔が来た。はっ、という事務長の吐息が宇羽階の鼻のあたりに掛かる。何ともいろっぽい吐息で、さすがに宇羽階も状況を理解した。しかし宇羽階はこころもち顔を退いた。

 事務長が『どうしたの?』と言うようにコクリと横に首を傾げた。中年の年齢なのに妙に可愛らしかった。

 宇羽階はドギマギしながらも「い、いけません、事務長」と拒否の仕草で両手の平を前に出した。焦って言葉がどもる。

 「宇羽階くん。これはね、何でもないの。ただあたしは純粋にあなたの特別なあそこに興味があるだけなの。施設内の録音機であなたの自慢する話も聞いたわ。あなたは興奮時に水のたっぷり入ったやかんをぶら下げて持ち上げるんですってね。それだけ長くて硬いって。これはあたしの好奇心と探究心なの。お願いだからあなたのモノをあたしに試させて」

 事務長は懇願しながら宇羽階ににじり寄り、左手でギュッと宇羽階の一物を掴んだ。下半身裸のまま、山火事から急ぎ足でかなりの距離下って来た宇羽階は疲れていて、いつもは自慢の自分の息子も縮こまってしまっている。

 「あら、ちいちゃくなってるわね」

 事務長が少し落胆するように言った。しかしまた明るさを取り戻すように笑顔になって、今度は力強く言う。

 「でも大丈夫よ、宇羽階くん。あたしが元気にしてあげる」

 事務長は黒っぽい色のスラックスの腰回りにポシェットを提げていた。先ほどはこれからハンドライトを出した。身体をねじるようにしてポシェットを探ると、小さなプラスチック容器を出した。

 事務長は顔を仰向けて口を開け、片手に持った小さな容器の突端を押した。シュッシュッとノズルから音がする。携帯用の口内洗浄液だろうか。その後、首を降ろして宇羽階の下腹を覗き込むような姿勢で、宇羽階の股間に小型容器の突端を三度ほど押した。ノズルから噴霧されて宇羽階は股間が冷たかった。

 「あっ」いきなりひんやりとして宇羽階は声を出した。

 事務長は笑っている。

 「緊急時の消毒よ」

 ポシェットにふだんから消毒液まで準備しているとは、事務長は用意周到な人だな、と感心した。だが宇羽階はそこでハッと気付いた。『副施設長を撃ち殺した拳銃もあのポシェットに準備していたに違いない』。そう思うと宇羽階は急に怖くなった。ちょっとぶるぶると震えが来た。深夜の山中で真っ暗だから解らないが、このとき宇羽階の顔は蒼ざめていた。

 「あたしが大きくしてあげる」

 事務長の甘い声。

 事務長がニヤニヤしながら、頭を宇羽階の股間に近付けて来た。宇羽階はドキドキして腰が退ける。宇羽階のこめかみあたりから脂汗がしたたる。

 「あんた、何お尻を引いてるのよ。こうなったら覚悟しなさい。その内気持ち良くなるんだから」

 事務長は今度は少し怒ったような調子で言った。

 宇羽階は草の上に尻餅を着いて両腿を開いた格好で固まってしまっていた。何せ事務長は先ほど、上司になる副施設長を無表情で射殺した人だ。例えこんなハレンチなことでも断ったらどういう扱いを受けるか解らない、と怖くて震えた。

 日頃、宇羽階は同じ職場の管理部門の事務長を、中年女性だが昔の若い頃はさぞ綺麗な人だったんだろうな、と思い、いわば“美魔女”認定して見ていた。だから今のこのシチュエーションはこれまでの気持ちならば、願ってもない本当に嬉しい事態なのだろうが、目の前で副施設長を冷徹に殺したことを思い返すと、ただただ怖かった。

 「宇羽階くん、大丈夫よ。緊張しなくていいんだから」

 今度はまた甘い声音になって言い、事務長は宇羽階の股間に顔を近付ける。

 恐怖心も相まって極度の緊張から、宇羽階のそれは縮こまってしまっていて陰毛の中に隠れ、まるで下腹の腹の中にめり込んでいるかのように見えなくなっていた。

 口を持って行った事務長もどうしようもなく、片手で陰毛の中を探って、宇羽階のチンチンを見つけ、小さな小さなキノコのようなそれを引っ張り上げた。

 「いてててて…」

 思わず宇羽階が声を上げた。まるでキノコを引き抜くように事務長が引っ張ったのだ。

 「あらまぁ~、しょうがないわねぇ。どうしたのよ宇羽階くん。いつもモニターで見ていた、あの立派な一物はどうしたの!」

 事務長が責めるような調子で強く言った。事務長は頭を上げて宇羽階の股間から顔を離した。が、片手は指で宇羽階のチンチンを摘まんだままだ。

 「はい。済みません…」

 宇羽階が申し訳なさそうに小声で応えた。事務長の顔から笑みが消えている。

 「もーう、時間がないのに。いろいろあって疲れているのは解るけど、どうにかならないのかしら」

 そう言いながら事務長は親指と人差し指で摘まんだ宇羽階のそれを前後に何度も擦っている。まるでキノコのシメジの株の中の小さな一本を、指に挟んで素早く上下に擦っているようだ。

 「あなた、あんなに立派なものなのに、よくこんなに小さく縮こまるものねぇ」

 事務長が力を入れて擦り続けるものだから、宇羽階の小さなキノコは摩擦熱で真っ赤になった。心持ち大きくなったようだが、宇羽階のふだんの大きさには程遠い。

 宇羽階も事務長がこれだけ一生懸命擦り続けているのだから、自分も協力して大きくしなければと思うのだが、やはり、平然と副施設長を殺した事務長に対しての恐怖心と緊張が強くて、とてもこれから女の人とエッチなことをするのだ、という気持ちが起きて来ない。

 あまりに激しく凄い速度で擦り過ぎて宇羽階のチンチンから煙が立って来た。

 「じ、事務長、痛いです!」

 宇羽階が叫ぶ。

 「あつっ、あつっ、あちちっ」

 と声を上げて事務長が宇羽階のチンチンから手を離した。事務長が指を振るう。宇羽階は「熱い熱い、痛い」と声を上げながら、自分の股間を両手で押さえている。宇羽階は歯を喰い縛り、涙が出ていた。

 「も~う、今日は駄目みたいね。また今度、落ち着いたときにしましょ」

 宇羽階は両手で股間を押さえたまま顔をしかめている。相当な熱さと痛みを堪えている。宇羽階は氷や冷水があれば、自分の一物を冷やしたかった。

 「ちょっと激しく擦り過ぎたみたいね」

 と言いながら事務長は腰のポシェットを探って小さなチューブを取り出した。

 「はい、これを塗っときなさい」 

 事務長が宇羽階にチューブを手渡した。宇羽階がチューブを目の前まで持って来たが暗闇の中でラベルの文字が見えない。

 「オロナインよ」

 事務長が言った。宇羽階は、何でも入っているポシェットに、事務長は本当に用意周到な人だな、とまた感心した。

 宇羽階は事務長に礼を言って自分の一物の根元から先端までオロナインをたっぷりと塗り込んだ。

 携帯電話のバイブの音が鳴った。事務長が慌ててポシェットを探る。スマホを取り出すとサッと立ち上がり、宇羽階から離れた。何だか神妙な様子でペコペコと頭を下げている。

 スマホを耳元から離すと宇羽階に向かって言った。

 「宇羽階くん、行くわよ」

 事務長の言い方が何だか厳しい調子になった。宇羽階がぽかんと見上げてると、事務長はさっさと歩き始めた。山道を降る。

 宇羽階が慌てて立ち上がってよろめきながら踏み出した。焦って事務長の後を追う。

 事務長が振り向いて強く言葉を投げ掛けた。

 「グズグズしないで、急ぐわよ」

 宇羽階は急ぎ足で進む事務長に追い付こうと数歩駆け足になった。宇羽階は、事務長の態度から電話の相手は施設長だろうか、と考えて事務長の背中越しに訊いた。

 「今の電話は施設長なんですか?」

 「そうよ。施設長が下で車で待ってるのよ」

 宇羽階は驚いた。施設長自ら、山の下の道路まで来てたのだ。事務長と施設長は車で一緒に来て、事務長だけが山の頂きまで登って来たのだろう。

 宇羽階は急ぎ足で降る事務長に着いて行き、事務長の背中の直ぐ後ろを進む。宇羽階は疑問を思い切って訊いて見た。

 「あの、事務長の今回の仕事は、施設長の命令なのですか?」

 宇羽階はドギマギしながら訊ねたのだが、意外にも事務長はあっさりと答えた。

 「当たり前じゃない。あたしが副施設長を始末して何のメリットがあるのよ。あたしの影の仕事は施設長が表立ってできない汚れ仕事の遂行よ。会計や経理、事務管理は表の仕事。さっきのが裏の本職ね」

 それを聞いて宇羽階は何も言えなかった。今日は一日、驚くことばっかりだ。宇羽階が黙ったまま事務長の背中を追っていると、続けて事務長が話し始めた。

 「そりゃあ、副施設長はあの性格でしょ。腹の立つことも多いわよ。あたしが副施設長を始末するなんて日常の中でも簡単なことよ。完全犯罪にする自信だってあるわ。でもね、あたしはそんなヤワな精神はしてないの。人を殺めるなんて仕事でしかやらないわ」

 事務長は前を向いたままで、後ろの宇羽階に話し掛ける。聞いている宇羽階は戦慄した。今の言葉は、事務長が『自分は殺し屋だ』とカミングアウトしたのだ。宇羽階は後ろに着いて歩きながらも、心は凍り付くような気分だった。

 宇羽階はさらに考えた。ここの施設は同族経営で、施設長と副施設長は親族関係にある。施設長は親族である副施設長を始末するように、事務長に命じたのだ。施設長も冷酷な人だ。“殺し屋”の事務長に着いて恐ろしい施設長のところまで行っていいものだろうか、と宇羽階は恐怖心でいっぱいになった。

 「あんたも山の上で副施設長に聞いたでしょ。副施設長はあの狭い施設内での自分の権力を勘違いして、いつの間にか妄想的なことを考え始めたのよ。施設の地下にまた別の娯楽施設を建造するってね。しかも一番トップの施設長を無視してね。賢明な施設長からしたら、もう副施設長の存在は要らないもの、邪魔なものになったって訳。だからあたしに副施設長の始末を命じたの」

 事務長が自分の行為の理由を話して聞かせた。

 宇羽階は今から全力で走って逃げて行きたい気分だったが、そんなことしたら即座に事務長に殺されそうで怖くて、ただただ事務長の後を着いて山を降って行くしかなかった。

 「あ、あの、事務長。事務長はこれまで施設長の命令で、その、何人を始末して来たのですか?」

 宇羽階が恐怖心の中から、つっかえながらも、後ろから事務長に訊く。

 「あんたの想像に任せるわ。それより…」

 宇羽階はもう頭の中が真っ白になっていた。自分は社会福祉施設の一現場職員として就職し、仕事を続けて来たのに、今日1日のこれは何だ?ここまでの時の流れは現実だろうか?夢でも見てるんじゃないのか?今日の夕方まで一緒に仕事をしていた職場の同僚が何人も死んだ。宇羽階はぶるぶるぶるっと頭を振った。宇羽階は訳が解らなくなっていた。

 黙って後ろを着いて来る宇羽階に、事務長が振り向いて声掛けた。

 「あんた、しっかりしなきゃ駄目よ。施設長はあんたを連れて来い、って言ってるんだから。何か良い話かも知れないわよ」

 そう言われても、自分を連れて降りる事務長は先ほど人を射殺したし、施設長はそれを命令した人だ。どちらも中年女性だが、恐ろしい人たちだ。今から、自分は車の中という閉鎖空間でその恐ろしい女性二人と一緒になるのだ。宇羽階の頭の中は真っ白だったが、恐怖心だけは宇羽階の心を支配していた。怖くてガチガチと歯がなりそうになる。

 「施設長、副施設長、今回のこと、あたし、とウチの施設の裏側のことごとをこれだけ知ったんだから、あんたもこれからの自分の身の上のことは解るでしょ。今から施設長に会うんだから、これまでの施設オーナーと一介の現場職員との関係とは行かなくなるわよ。そのへんは覚悟しなさいよ」

 事務長のこの言葉が宇羽階にトドメを差した。宇羽階はヨロヨロと足がもつれてその場にへたり込みそうになった。宇羽階はかろうじて失神せずにいた。

 その場に座り込みそうになる宇羽階の片腕を持ち、事務長が宇羽階を引っ張り起こして、強い調子で叱咤した。

 「ほらほら、しっかりしなきゃ駄目じゃないの!下の道路までもう直ぐよ。施設長が待ってるわ。急がないと施設長のカミナリが落ちるわよ!」

 甲高い声だが、事務長が怒鳴る。宇羽階はふらつきながらも立ってまた歩き始めた。

 もう、山火事の火もだいぶ遠い。消防車のサイレンや警鐘の鐘の音も小さくなった。気のせいではなく、火事の火の手の大きさも小さくなったように見える。

 宇羽階にももうそろそろ下の道路に出そうだと解った。事務長-吉高春美の背中を追って、宇羽階晃英は施設長の待つ自動車へと山道を降った。

 

「じじごろう伝Ⅰ」狼病編(25)はこれで終わります。この物語はまだ続きます。次回、狼病編(26)へ続く。

 

※この物語はフィクションであり、実在する団体·組織や個人とは全く関係がありません。また物語の登場人物に実在するモデルはいません。

 

※「じじごろう伝Ⅰ」登場人物一覧(2024-2/2)

(2013年版)「じじごろう伝Ⅰ」長いプロローグ編・狼病編-登場人物一覧 2013-5/28

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編22(2021-4/29)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編23(2022-1/14)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編24(2023-5/24)

 

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●小説・・「じじごろう伝Ⅰ」..登場人物一覧(長いプロローグ・狼病編)

(登場人物一覧)

吉川和也: 小学三年生で地域の小学生草野球チームに所属していたが、隣町に引っ越し電車通学になった際にチームを脱退した。内気で独り遊びが好きな性格で家の中に籠りがち。吉川家の長男。スーパードッグ·ハチと仲良くなって、半テレパシーで会話付き合いをする内に、子供ながら、しっかりして存在感のある人格に変わって来た。家の近くにある広い森林公園にいる謎の老人、じじごろうとも仲の良い付き合いがある。その内にサイキックとなったが、どのような能力を出せるのかは未知数。

ヒトオオカミ: ふだんは柔和なこぶとりのアジア人。見た目は善良なサラリーマン風の中年手前くらいのおじさん。しかして実体はモンスターの1人。俗にいう狼男で、満月の夜に完全な狼男の姿になる。その能力は猛獣など及びもしない怪力や跳躍力を持つ。昼間の人間時は能力は発揮できず、くたびれたサラリーマンほどの力しかない。妖魔として二百年以上生きている。

ロバート·シルバーウルフ: 長身で体格が良く紳士然とした白人医師。東ヨーロッパの風土病である狼病の研究者で、狼病治療薬を開発し狼病感染者を救っている。実は狼男であり、アジア狼であるヒトオオカミよりも一回り大きな銀色狼化身のモンスター。妖魔としても圧倒的強さを誇る。

吉川和臣: ワカト健康機器産業営業部係長。仕事熱心な会社員で腕利きの営業マンでマイホームパパという模範的な市民だったが、蛇姫に狼病感染させられた挙げ句、妖魔の一種、使い魔のモンスター·蜘蛛男に変身させられ、蛇姫一派のアジト-ビッチハウスに籠っていた。ビッチハウス内でヒトオオカミに倒される。その後、狼病治療薬を施されたが意識が戻らないまま病院に収容されて眠っている。

大佐渡真理: 社会福祉施設の現場職員。サイキック。人体発熱·発火能力を持つが、自分でコントロールできず苦悩している。子供の頃から霊感が強く特殊な体質であるが、それを隠して生きて来た。子供時分から自分の特殊な体質に、独り悩み続けている。在吉丈哉は交際する恋人。丈哉は真理が霊感が強いところまでは知っているが、それ以上の能力に関しては知らない。

岡石浩司: 吉川和也が所属していた、地域の小学生草野球チームのコーチをボランティアでやっている、地域郊外に立つ総合大学の理系工学部の大学院生。マイカーの大型乗用車で野球チームの子供たちの送迎までやっている。

中村達男: ワカト健康機器産業社員。歓楽街遊興が大好きで、いつも会社近くの飲み屋や風俗に通っている。結婚して後、金銭の問題が大きく遊びの時間が取れず不満が多い。キャバクラのホステスにご執心。今は、先輩や同僚の懐を宛にして歓楽街に行くことを生き甲斐のようにしている。自己中な性格もあって仕事はサボりぎみだが憎めないキャラクターで、ときどき幸運に恵まれて営業成果を上げることがあり会社としても無下には扱えない。

在吉丈哉: ワカト健康機器産業社員。営業部所属の若手平社員。中村達男·藤村敏数の後輩。大佐渡真理の恋人として交際していて、悩みの多い真理を何かと気遣っている。高校生時代は甲子園を目指した球児で、仕事は真面目にこなす。割りとカタブツなところがある好青年。

藤村敏数: ワカト健康機器産業社員。中途採用で入社したので中村達男よりも1歳年上だが営業部の後輩になる。元は大佐渡真理と同じ福祉施設に勤務していて、大佐渡真理と有吉丈哉を引き合わせた。ハンサムでけっこう女にモテる。保育士の有馬悦子とは結婚を考える恋人関係だが、福祉施設勤務時代の恋人-城山まるみとは切れずにいてトラブルがある。藤村、中村、在吉の3名は吉川和臣係長の部下になる。

城山まるみ: 藤村敏数と男女の交際をしていたが、敏数が転職したのを機に疎遠になり、敏数を忘れられずにいる。狼病に感染したおタカ婆さんに噛まれて狼病感染し、病院を抜け出た後ゾンビ化する。自分の意識を失ってモンスターと化し、敏数の現恋人-有馬悦子を襲撃した後逃亡し、蛇姫一派の巣窟-ビッチハウスに潜伏していた。後日、深夜に、勤務する職場に現れ、日頃パワハラを受けていて内心恨みを抱いていた副施設長を襲撃する。超能力を発現した大佐渡真理に追い払われた後、ロバート·シルバーウルフの攻撃で失神させられ治療薬を注射されるが、意識が戻らないまま病院に収容される。

有馬悦子: 藤村敏数の結婚まで考える恋人。敏数のアパート訪問時に、ゾンビ化した敏数の元恋人-城山まるみに襲撃され殺害される。

かえで: 中村達男行き付けのキャバクラ-ギャラクシーのキャバ嬢。いつの間にか狼病に感染し、妖魔-蛇姫一派のアジト·ビッチハウスに籠っていた。中村達男をキャバクラのハッスルタイムのベロチュー(ディープキス)で狼病に感染させた。その後、狼病治療薬で回復した。

吉川愛子: 吉川和臣·智美の長女。中学二年生。二人姉弟の和也の姉。勝ち気ではっきりした性格だが心優しい面も持つ。ムチャをせず堅実なしっかり者で、内気で独り遊びが好きな弟·和也が愚鈍に見えて馬鹿にしてたが、途中から存在感の変わった弟に驚異を感じている。スーパードッグ-ジャックに助けられることが多い。スーパードッグ-ハチと仲の良い弟を羨ましく思っている。

吉川智美: 吉川和臣の妻。愛子・和也の母親。37歳。パートタイムで事務仕事をしている。細身でショートヘアにした活発な美人。見た目ボーイッシュで、おっちょこちょいな面もあるが有能でしっかり者。だんだんと人が変わり行き、人格崩壊して行っている夫・和臣を気持ち悪く思い、危険を感じて、二人の子供を連れて家を出て、実家に居住する。父母は実家で健在。

中村亜希子: 中村達男の妻。一年前に結婚し、自己中性格の達男も頭が上がらない賢妻。福祉専門学校の講師として働いている。達男がキャバクラのホステスとのディープキスによって狼病を感染させられていたことを知って、自宅の花瓶で頭を叩き大ケガをさせた。

杉山孝子: 中村達男が通い続けている歓楽街の主(ヌシ)のような、長年、水商売や売春で生きて来た老婆。通称、おタカ婆さん。高齢になってもときどき客を取る、その道の強者。歓楽街で狼病に感染し、病院に収容され、ゾンビ化して、今度は自分が院内で数人を襲い感染させた。城山まるみの感染元。

宇羽階晃英: 社会福祉施設の現場主任。典型的サラリーマン気質で会社のイエスマンだったが、施設オーナーサイドの上司-副施設長の社会人常識として異常な犯罪的命令に納得行かず、上司の副施設長に逆らい、最終的に副施設長から殺されかけるが事務長=吉高春美に救われる。

蟹原友宏: 社会福祉施設現場職員。剣道三段で高校~大学時代の大会上位入賞の常連。体格の良いスポーツマン体形で、自宅では我流で格闘技の練習を積んでいる。類い稀な巨根の持ち主で、24歳になっても成長を続け大きくなっていて興奮時はだいこんほどの大きさになる。からっとした男くさい性格ではっきりしていて女にモテる。一時期、大佐渡真理とも付き合っていたが、大学時代の恋人との二股がバレて破局した。その後、沢多田文香とも交際した。モンスター化した城山まるみが深夜の施設事務所に侵入し副施設長を襲撃した際、まるみと戦ったが負けてしまった。このとき副施設長も蟹原友宏も一度狼病に感染したが、現れたロバート·シルバーウルフの治療薬の注射で回復した。

山崎征吾: 社会福祉施設一年生のまだ新人にあたる若手現場職員。大学在学中に社会福祉系の難関資格を一発合格した秀才。見た目は真面目でおとなしそうな若者で好青年に見えるが、実は無類の好色青年で度を外れた女好き。身体は小さいが常に精液を作り出す肉体は精力絶倫。セフレの女の子、シングルマザーのおばさん、デリヘル嬢や立ちんぼと、毎日のように性交を繰り返す日々を送っていて金欠ぎみ。案外、臆病な性格で気は小さい。

坂戸善文: 社会福祉施設の若手職員の1人。職場の慰労飲み会の席で酔った副施設長に詰められ、もともとパワハラ気質の副施設長から本人の人格否定された上に両親の悪口まで言われて貶められ、その席で号泣してしまった。そのことを深く恨みに思い、後日、ファミレスで平の職場仲間ばかりで集まったとき、みんなに本物の殺し屋に依頼して副施設長を亡き者にしてしまうことを提案する。みんなが真に受けず笑って済ませたことから、独り悶々と副施設長への復讐心を募らせている。

沢多田文香: 社会福祉施設現場女子職員。学生時代バレーボールをやっていたスポーツ女子で長身でスタイルの良い美人。男にモテるため恋愛関係が派手。蟹原友宏とも一時期付き合っていた。

吉高春美: 社会福祉施設管理部に勤める事務長。事務長は表の顔で、その実体は施設長直属の凄腕の殺し屋。施設長が事業を行っていくにあたり、障害となるような事柄の撤去のための汚れ仕事を引き受けて来た。拳銃、ナイフ、ロープ使い、毒殺などさまざまな殺人術に長ける。裏の顔を知っているのは施設長だけである。

副施設長: 社会福祉施設の副施設長。施設の管理部の長として主に現場職員の管理業務にあたる中年男性。プライドが高く劣等感が強くヒステリックな性格で、職場のパワハラの鬼であり、多くの職員に嫌われている。施設オーナーサイドに逆らう職員を許さない。自分に逆らった大佐渡真理を3名の部下を使って拉致し山に連れて行き拘束する。4名の男性での凌辱を謀るが真理の超能力の反撃に合い失敗する。最後は管理部の事務長-吉高春美に射殺された。

施設長: 大佐渡真理が勤める社会福祉施設のトップの施設長。やり手実業家の面を持つ中年女性。副施設長を自分と施設の用心棒役として使い、職員の管理を任せていたが、施設長の存在を無視して施設地下に賭博場など遊技場や成人娯楽施設など違法施設の建造を行っていたので、子飼いの殺し屋-吉高春美に副施設長を始末させた。コントロールの利かなくなった駒は排除する冷徹な面も持つ。

トカゲ男: 300年近く生きた南洋地域のオオトカゲの化身。妖魔。人間の姿で居るが、容貌は爬虫類のような顔をしており、手指は爪が鋭くトカゲに似た形なので、いつもサングラスやマスク、手袋などで露出を抑えている。牙や爪に毒を持ち、平然と人間を殺す性格で人間の子供などを食べる。蛇姫を「奥方様」と呼んで慕い、その子分。ロバート·シルバーウルフを恐れて逃げ出した蛇姫に落胆し、軽蔑して蛇姫の元を離れた。ヒトオオカミと決着を着けるべく対峙したが、現れたジャックにいとも簡単に倒された。

蛇姫(奥方様): 古代エジプトでクレオパトラを咬み殺した毒蛇の化身という伝説を持つが、実は数百年前に、アラビア半島で200年以上生きて妖魔となった有毒大蛇の化身。普段は中年女性の容姿で居る。邪悪な精神の持ち主で、いつの時代も世界の各地で東ヨーロッパの風土病である「狼病」を蔓延させて、人間社会を混乱させようとしている。人間の数倍、猛獣以上の力を有し、幾つかの超能力を使う、残忍で冷酷な性格の妖魔。銀色狼男=シルバーウルフが治療薬を使って狼病感染者を回復させて行くさまに、日本で狼病パンデミックを起こすことを断念し、シルバーウルフを恐れて大陸へ逃亡した。

ハチ: スーパードッグ。(2013年版 登場人物一覧 参照)

ジャック: スーパードッグ。(2013年版 登場人物一覧 参照)

じじごろう: 謎の超人的な老人。(2013年版 登場人物一覧 参照)

 

(2013年版)「じじごろう伝Ⅰ」長いプロローグ編・狼病編-登場人物一覧 2013-5/28

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編1(2012-8/18)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編2(2012-9/7)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編3(2012-9/18)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編9α(2013-4/9)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編9β(2013-4/9)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編12(2016-2/20)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編15(2018-2/28)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編18(2019-5/31)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編22(2021-4/29)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編23(2022-1/14)

◆じじごろう伝Ⅰ 狼病編24(2023-5/24)

◆じじごろう伝Ⅰ 長いプロローグ編1(2012-1/1)

◆じじごろう伝Ⅰ 長いプロローグ編12(2012-8/4)

※この物語はフィクションであり、実在する団体·組織や個人とは全く関係がありません。また物語の登場人物に実在するモデルはいません。

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「鉄腕マキ」-一峰大二 1962年-

 僕が物心着いた4歳頃から、テレビは「月光仮面」的な正義の超人ヒーローものが大好きで、当時は時代劇も「白馬童子」みたいな、正義の超人剣士が悪党サムライ群をバッタバッタ斬ってやっつけて行く、子供向け活劇ドラマが大好きだった。

 まぁ、僕は4歳頃から小学生時代いっぱいくらいまで、正義の超人ヒーローの勧善懲悪ドラマが大好きで、そういう番組はテレビに釘付けで見てた。

 で、ね、プロレスも子供の頃から大好きだったんだけど、僕が育った地域では、力道山~ジャイアント馬場の日本プロレス中継は放送してなかったんだよね。僕の故郷でプロレス番組が放送されるのは、1968年1月3日放送開始の通称TBSプロレス中継から。まだ僕は小学校六年生だ。

 国際プロレスは番組放送開始の当初はTBSプロレスと呼ばれ、設立タイトルはTWWA世界選手権とタッグ選手権で、僕はそれは記憶してなかったけど、番組名はTWWAプロレス中継だったらしい。プロレス団体は最初TBSプロレス、後に直ぐ国際プロレスと呼ばれた。

 だから僕は小六までプロレスを知らなかった筈なのに、プロレス大好き少年で、力道山もジャイアント馬場もよく知っていた。確か、小学校のクラスでも小四·小五時代に休み時間にプロレスごっこをしていたと思う。

 親父が、住み家の家屋の前部に併設された会社の事務所で、スポーツニッポンの新聞を取ってたのと、事務所にやって来る作業員の人たちが九州スポーツの新聞を置いて行ってたので、小学生ながらそれらを読んでいたのかも知れない。また、僕が子供の頃愛読していた何誌もの少年雑誌にはプロレス漫画の掲載も多かった。子供向けのプロレス記事も多かったね。

 

 僕が漫画を読み始めたのは多分、1962年末頃から63年初頭で、僕はまだ小一で六歳だった。62年の11月か12月初め頃から当時の住み家の近所の貸本屋に毎日通うようになった。62年末~63年初頭から当時の少年月刊誌六誌を毎月毎号読み始める。

 僕が6歳時、少年漫画を読み始めたとき、月刊誌「まんが王」に「鉄腕マキ」というプロレス漫画が連載されていた。

 でも、確か「鉄腕マキ」の連載は直ぐに終了した。秋田書店の月刊誌「まんが王」の1963年2月号まで掲載されてたのは、はっきり記憶している。「鉄腕マキ」は「まんが王」1月号の掲載分で初めて読んだんじゃないかなぁ。

 何しろ1963年初頭頃の話だし僕はまだ小一で六歳だ。「鉄腕マキ」の記憶はあやふやでぼーっとしたものだ。

 「鉄腕マキ」はどーも貸本タイプで単行本刊行されてるみたいだが、僕は「鉄腕マキ」の単行本は読んでない。当時は雑誌連載漫画を貸本タイプの単行本化したときは、ほとんどB6判ハードカバーの96~136ページ本だった。まだ新書判コミックスは出ていない。「鉄腕マキ」は後の新書判コミックスにもなってないと思う。

 「鉄腕マキ」で記憶しているシーンは、メキシコの砂漠が舞台で、主人公の若手日本人レスラー·マキが、崖の上から空飛ぶように飛び降りて、砂漠に林立する柱サボテンの一本にしがみつく場面。ギャラリーの人々が「飛んだ!」と叫ぶ。何故かこのシーンだけ印象的に覚えている。

 「まんが王」の2月号掲載分か3月号掲載か解らないけど。「鉄腕マキ」の連載は直ぐ終わった、って記憶してるんだよね。多分、3月号くらいで終わったんじゃないかなぁ?どういう物語の閉め方だったか全く記憶にないけど。僕の六歳時だから今から61年か62年くらい前の話だしな。

 「鉄腕マキ」は一峰大二さんのプロレス漫画です。日本プロレス界の父-力道山の弟子の少年レスラーの海外武者修行ストーリーですね。だいたい物語は主に1962年の雑誌連載中で、僕が漫画を読み始めたのが62年の暮れからですから、僕は「鉄腕マキ」ストーリーの主な部分は全く読んでいません。物語の終盤しか読んでないですね。でも何か「鉄腕マキ」は懐かしい思いがある。

 日本で初めてプロレス興行を始めた人とか、日本からのプロレスラー第1号と言っても過言ではないような、日本プロレス界の父-力道山。海外、特にアメリカでプロレスをやっていた日本人プロレスラーは、力道山以前に何人か存在したでしょうけど、日本国内で初めて日本人にプロレスを認知させた人は力道山だったでしょう。力道山も大相撲力士を廃業して、プロレスラーとしてやって行くにあたって、アメリカに渡って武者修行した期間もあったと思いますけど。

 日本プロレスの父-力道山は、1963年12月にナイトクラブ内でヤクザ者と揉めて刃物で刺され、その一週間後、病院で死去した。それまでは、少年漫画の人気ジャンルの一つであったプロレス漫画は、ほとんどの作品が力道山の活躍を描いたものだった。

 

 1960~63年頃のプロレス漫画は、偉大なプロレス師匠-力道山の元で育つ少年プロレスラーを描いた漫画作品が多かったですね。代表作が、梶原一騎原作で吉田竜夫作画で、当時の週刊少年マガジンの看板漫画だった「チャンピオン太」。「チャンピオン太」は当時のテレビの子供向け実写連続ドラマになりました。

 プロレス漫画でジャイアント馬場がクローズアップされるのは1964~65年以降ですね。力道山亡き後の日本のプロレス興行そのものの主役はジャイアント馬場になりましたね。一時期、豊登選手がエース扱いされてましたけど。豊登選手は68年以降は国際プロレスで活躍したけど。

 1964年になるのかなぁ、割りと短期連載だったと思うけど、週刊少年マガジンに力道山亡き後の日本プロレスの豊登選手を主人公にしたプロレス漫画が連載された。タイトル忘れた。

 1964年のマガジン1号から10号までの短期連載に、高森朝雄(梶原一騎)原作で水島朗作画のプロレス漫画「二刀流力道山」が掲載されてるんだけど、多分、同じ作者コンビの作品で豊登選手を扱ったプロレス漫画が、64年のマガジンに短期連載されたと思う。はっきりしなくて済みません。タイトルは「潜艦豊登」じゃなかったかなぁ?はっきり記憶してません。作画者は水島朗さんだと思う。

 「二刀流力道山」の漫画は、63年12月15日に力道山が亡くなった後の週刊少年マガジンに連載されたんですね。週刊漫画誌の新年1号から4号くらいまでは前年の12月発売ではありますが。

 

 秋田書店の月刊誌「まんが王」でプロレス漫画「鉄腕マキ」が連載されていた期間がよく解らないのですが、主な連載期間は1962年中で連載終了したのが63年の早い時期、遅くとも春先には終わったと思います。連載開始が61年の終盤か62年に入ってからなのかよく解りませんが。

 「鉄腕マキ」の作者-一峰大二先生は、その後「まんが王」では「忍三四郎」という柔道漫画を連載します。「忍三四郎」の連載期間も済みません、よく解らないのですが、僕は「忍三四郎」は連載リアルタイムで読んでいます。この時代、僕は月刊「まんが王」を毎月購読してました。「忍三四郎」の主な連載期間は1964年中ですが、連載開始が63年の終盤なのか64年に入ってからなのか解らないですね。65年に入って早い時期には連載終了してたと思います。

 一峰大二先生は漫画家デビューは1956年で、58年59年頃からは、どの少年雑誌にも連載·短編読み切りを載せるような、超売れっ子漫画家でした。60年代いっぱいは数多少年雑誌に連載を持ち、連載漫画を次々と継続して行く、超多忙漫画家生活を送っていたと思います。

 後に“コミカライズの王様”と称される一峰大二先生はテレビや映画の、SFヒーロー特撮や怪獣映画の漫画化の作品が多いのですが、正義の超人ヒーローものから、忍者漫画、時代劇、野球·プロレスなどのスポーツ根性もの、ギャグ漫画まで、幅広いジャンルで漫画を描いていました。

 70年代以降も「スペクトルマン」や「怪傑ライオン丸」など精力的に仕事をこなされてましたね。

 「忍三四郎」はアメリカの大都会が舞台で、柔道漫画なのにギャングを相手に戦ったりしてたよーな、かすかな記憶がある。主人公の柔道家-三四郎は忍者の末裔で忍者の体力(体術)を持っている。柔道の試合場面もあって、怪人柔道選手と戦ってたよーな。

 「忍三四郎」も連載時は全編読んでると思いますが、その後、単行本で再読はしてないので、ストーリーはよく記憶してません。

 そもそも「忍三四郎」はその後のコミックスで単行本化されてるのかなぁ?どうなんだろう?貸本タイプでもされてないのかな?コミックスにはなっていない気がする。

 僕が「忍三四郎」を読んだのも今から60年くらい前の8歳時9歳時だし。

 僕の小学生時代、格闘技というか武術というか武道というか、そのジャンルの漫画はヒーローがほとんど全部、柔道家でしたね。空手使いは敵役の方。柔道を修練する少年が人格者の柔道の師の元で、格闘家としても人間としても成長して行くドラマ。

 柔道を修行する少年~青年が、悪質な柔術家、プロレスラー、プロボクサー、空手家と決死の戦いを繰り広げる格闘アクション漫画。空手がクローズアップされるのは僕が中学生になってからで1968年以降くらいからかな。

 正義の柔道少年~柔道家が悪の空手使いをやっつける物語ばっかりだった。代表的な作品が映画·テレビドラマの「姿三四郎」ですね。他にも柔道ものの映画やテレビドラマはいっぱいあった。

 

 1965年9月から66年2月まで「空手三四郎」という30分の実写ドラマが毎週放映されたけど、そこまでの人気番組にはならなかったなぁ。

 やはり空手がクローズアップされるのは梶原一騎が原作で漫画「虹をよぶ拳」が雑誌連載されて人気漫画となり、その後同じ原作-作画コンビで漫画「空手バカ一代」が連載されて爆発的人気を得てからだなぁ。

 正義の最強格闘技は柔道から空手へ移り、そして最強格闘技はムエタイ&キックボクシングへ。そしてその後、ブルース·リー映画の大ヒットと雁屋哲原作漫画「男組」の人気連載で最強格闘技は中国拳法へと移る。

 

 と、まぁ、「鉄腕マキ」のことはあんまり書けませんでしたけど。割りと印象深く記憶に残ってるものの、6歳7歳当時、わずか3回くらいの連載分を読んだ記憶だけですからね。60年以上前のかすかな記憶だし。

 当時は子供の僕に取って、大好きだった勧善懲悪の等身大仮面ヒーローのテレビドラマとそのコミカライズ漫画と、プロレス漫画は同じ地平線上にあった物語だったですからね。

 当時のプロレスは、正義の日本人レスラーが悪のアメリカ-怪物レスラーをやっつける構図だったし。力道山やジャイアント馬場の日本のプロレスマットにやって来る外国人レスラーとは、日本を襲撃する“悪”の怪物たちだったんですね。テレビでやってる、悪の怪人犯罪者どもを退治する仮面ヒーローの活躍、と同じ気持ちでプロレスを意識してた。

 子供からすればプロレスラーも“超人”だったしなぁ。やって来る外国人レスラーは不気味な“怪物”だった。

 子供の頃って、何かプロレスに対してゾクゾク·ワクワクする興味津々な気持ちがあったなぁ。小学生の頃は、僕らの地域はプロレスのテレビ放送がなくて、知り得る情報は少年漫画雑誌のプロレス漫画とプロレス記事、スポーツ新聞のプロレス記事、本屋の立ち読みで見るプロレス専門雑誌からだけだったからなぁ。そこから得た情報で、子供の想像力でワクワク興奮してたんだろうなぁ。

 子供の頃は、ウチの親父が社宅となる住み家の前面に隣接する、会社の事務所で読売新聞と西日本新聞を取っていて、両新聞にも友達の家で見る朝日新聞や毎日新聞にも、野球や大相撲や他のスポーツの記事は詳しく載ってるのに、どうしてプロレスの記事が載らないんだろう?と不思議に思ってた。スポーツ新聞には載ったたけど。でもスポーツニッポンのプロレス記事は一紙面の隅だけで、そんなに詳しくは載ってなかった。九州スポーツは最初の一面から大きく載ってたけど。

 プロレスが、八百長とまでは言わないけど、出来レースというか、シナリオのある、お互いに承知した試合を戦っているんだ、と解ったのは大人になってからだな。

 子供の頃は、プロレスも他のスポーツと同じように真剣に一生懸命戦っている、普通のスポーツだと思い込んでいた。確かに真剣に一生懸命仕事をしているんだろうけど、最初からシナリオ込みでだいたいのあらすじをお互い解った上で試合していた。お互いの派手な技々をお互いが協力して掛かっていた。プロレスは派手な戦いを見せる興行だった。

 僕が中三のときにテレビで見た、アントニオ猪木vsドリー·ファンク·ジュニアのNWA世界選手権の60分フルタイム引き分けの試合など、手に汗握ってハラハラ·ワクワクしながら見ていた。僕はまだ14歳だったなぁ。

 大人になって、ボクシングの試合はほとんどの選手が3ヶ月から半年くらいの間を開けて試合してるのに、プロレスラーは毎日のように試合を行っている、身体が持つんだろうか?とかイロイロと考え、子供のとき周囲の大人たちが言ってたように、ヤラセの出来レースで演じてるのかも、と思い始めた。

 決定的だったのは村松友視さんの「私、プロレスの味方です」シリーズを読んでからだな。

 プロレスラーは真剣そのもので大真面目に一生懸命、仕事をしている。真剣に試合運びをやらないと大ケガをする。それも死に繋がるような大ケガをするかも知れない。本番試合で事故を起こさないように、毎日毎日厳しい訓練をして身体を鍛え上げ、超人的な肉体を作り上げている。そうしないと大ケガをするから。

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力道山の真実 (祥伝社文庫)

力道山:人生は体当たり、ぶつかるだけだ (ミネルヴァ日本評伝選)

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(上) (新潮文庫)

もう一人の力道山(小学館文庫)

KIMURA vol.2~木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか~ KIMURA~木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか~ (アクションコミックス)

 多分、力道山以前にも日本国内でプロレス興行をやった人はいるんだろうと想像するけど、力道山は日本にプロレスを持ち込んだ人という印象は強い。大相撲力士を廃業してアメリカに渡ってプロレス修行をやって日本に帰り、日本プロレス協会を設立した力道山は、日本プロレス界の父と呼ばれる。アメリカでプロレスをやっていた日本人や日系人は力道山以前にもいた。

 力道山は戦後にプロレスというスポーツ的な娯楽を持ち込んで、アメリカに戦争で負けた国民に、日本人レスラー·力道山がアメリカからやって来た怪物的で卑怯な外国人レスラーを空手チョップでやっつける、という試合を見せて、戦争で負けて疲弊し悔しい思いを溜めている国民の溜飲を下げさせて、力道山は国民の英雄となった。

 力道山の死は僕の小学校二年生の二学期の終わり時で、その後も僕が高校生になる頃まで、力道山が本当は日本人じゃなくて在日朝鮮人だったとは知らなかった。力道山は大相撲力士の時代は朝鮮出身を公表してたらしいが、プロレスラーとして活動を始めてからは実は朝鮮人だということは隠していた。僕の少年時代も、周囲の大人たちで力道山が朝鮮人だと言ってる人はいなかったなぁ。知らない大人が多かったのか、薄々気が付いてたけど敢えて言わなかったのか。

 戦後のプロレスブームの時代、力道山が朝鮮人だと公表してたら、あれだけの国民的ヒーローにはならなかったろうなぁ。

 ただ、力道山はもともと朝鮮半島が日本だった時代に生まれていて、帰化説は諸説あって、長崎県の日本人養父母の間で育った少年時代に帰化していた、とか、実は朝鮮半島で育って朝鮮相撲の選手で日本の大相撲にスカウトされて日本本土に渡って来て、大相撲力士をやめたときに日本人に帰化したという説がある。いずれにしても力道山がプロレスラーとして活躍していたときは既に帰化していて、国籍は日本人だった訳ですね。

 

 力道山がプロレスで活躍して日本国中の大人気だった時代、まだまだテレビ放送が始まったばかりの頃やテレビ黎明期、力道山の映画はいっぱい制作されました。力道山の活躍を描いた漫画も多かった。

 僕が漫画を読み始めた6歳の頃は、力道山自身の活躍を描くというより、力道山が育てる愛弟子の少年レスラーの成長と活躍を描く漫画が多かったですね。

 力道山さんはプロレスラーとしても魅力溢れる選手だっただけでなく、実業家としても優秀な人で、娯楽施設やマンション経営などさまざまな経営に乗り出してますね。経営者としても成功を納めてた39歳という若さで亡くなってしまったけど。

 プロレスラーとして成功して弟子もたくさんできた30代後半頃は、プロレスよりも事業経営の方に関心が強かったみたいで、観客が力道山の試合が見たくて、まだまだメインイベントで試合に出なければならなくて、ちょっと熱意の冷めぎみなプロレス試合をこなすために、力道山は試合前に興奮剤を飲んでいた、という話がありますね。その興奮剤が覚醒剤であった、という説もあって、試合が終わった後も興奮が醒めず、試合後の酒場でよくトラブルを起こしたなどという話も出てますね。

 力道山さんが亡くなって後、1960年代後半頃から70年代頃、真実の力道山を描いた小説や伝記の書籍がいっぱい書かれた。日本の戦後の英雄-力道山は、その時代、メディアでは正義の人格者みたいに描かれていたけど、実際は暴れん坊の相当ひどい人だったと描いた本。

 僕は80年代後半頃、こうした力道山をモデルにしてモンスターとして描いた小説や、実は朝鮮人の力道山の本当の伝記、などの本を読みました。

 酒場などで暴れてトラブルを起こすことがしょっちゅうだという話とか、プロレスの弟子の育成がほとんど虐待で、ムチャクチャなシゴキを行い、猪木などは走ってる自動車から道路に突き落とされたり、猪木は師匠-力道山に殺意を抱いたこともあったんだとか。一番弟子格の馬場も実は力道山の性格を蔑んでいたとか。

 このとき、こういった本を読んで、子供の頃憧れた、メチャメチャ強い正義の超人だった力道山の真実を知ったかなぁ。

 プロレス界には在日韓国人·朝鮮人や帰化した人が多いですよね。原爆頭突き-大木金太郎とか。大木金太郎さんも猪木と戦うまではずっと日本人だと思い込んでましたね。今は人気ユーチューバーの長州力さんもそうだし、プロレスラーには歴代、いっぱいいますよね。芸能人と同じような意味合いがあるのかな。

  

 誰が書いたものだったか昔読んだ書物で、力道山が朝鮮戦争が休戦に入り、板門店の国境線まで旅行で訪れ、西側陣営で生活する力道山は北朝鮮領土へ入れず、国境線から自分の生まれ故郷、北朝鮮側の土地に向かって何か大声で叫んだらしい。同行した日本人の証言らしいが、何と言ったか聞き取れなかったとか。何かこの話は印象深く記憶しているなぁ。

 僕が漫画を読み始めたのが1962年の暮れぐらいからで、当時の少年月刊漫画誌を読み始めたのが、62年12月号か63年1月号からだと思うんだけど、秋田書店発行の「まんが王」1月号で読んだ「鉄腕マキ」をはっきり覚えていて、同時に同じ秋田書店発行の「冒険王」の別冊ふろくで着いていた「少年プロレス王」という漫画も記憶にあった。

 ただし「冒険王」新年特大号ふろくの「少年プロレス王」というタイトルは後にネットで最近知ったことで、別冊ふろくに読み切りのプロレス漫画があったというのは記憶していたが漫画のタイトルまでは覚えてなかった。

 「鉄腕マキ」とこの読み切りの「少年プロレス王」の内容がよく似ていたので、僕の記憶ではずーっとどちらも作者は一峰大二氏だと思い込んでいた。でも後々ネットで見つけて、まったく違う作者だと解った。僕の完全な記憶違い。

 「少年プロレス王」は金山明博という方だった。僕は金山明博さんという漫画家さんを知りませんでした。雑誌で描いていた方なのか貸本漫画家か、代表作は何なのか、まったく知りません。

 ただ小一·6歳の子供の記憶にぼーっと、その時の「まんが王」と「冒険王」によく似たプロレス漫画が載っていたなぁ、くらいのあやふやな記憶です。「鉄腕マキ」も「少年プロレス王」も当時のプロレスヒーロー·力道山を師匠とする愛弟子の少年プロレスラーのお話です。ただ「少年プロレス王」は別冊ふろくに着いた読み切り漫画でしたね。

 失礼しました。金山明博氏はアニメーターとして有名な方でした。最初は貸本漫画家として出発し、1964年65年頃は市販雑誌の少年誌にも漫画が掲載されてたようですが、65年に手塚治虫の虫プロに入社してアニメーターに転身したようですね。そこからはアニメーターとしてのキャリアを積んで行かれ、虫プロで数々のアニメ作品の制作に携わり、虫プロ倒産後はフリーのアニメーターとしてたくさんのアニメ制作会社の作品に関わり続け、還暦間近までアニメ制作の仕事をされてた方のようですね。

 金山明博さんの経歴を見ると「冒険王」にて「少年プロレス王」を描いたのは1964年となっています。僕の記憶する63年新年特大号ふろくの読み切り漫画と「少年プロレス王」は別作品なんだろうか?何か解らなくなって来ました。

 いや、やっぱり「少年プロレス王」は「冒険王」63年1月号の別冊ふろくですね。間違いないです。

 また同じ漫画がね、まったく同じ内容かどうかはっきり解りませんが同じタイトル「少年プロレス王」で作者も金山明博氏で、63年「冒険王」のお正月増刊号に読み切り漫画が収録されてます。「冒険王」のプロレス&ボクシング特集号という増刊号ですね。

 僕は当時の「まんが王」新年号と「冒険王」新年号を読んでいるのは間違いないですが、この「冒険王」お正月増刊号を読んだ記憶はありません。この「まんが王」は62年12月3日発売で「冒険王」は62年12月6日発売ですね。「冒険王」お正月増刊号の発売は62年12月15日になります。

 このときの「まんが王」「冒険王」共に貸本屋で借りて読んでます。僕が6~11歳まで通ってた当時の家の近くの貸本屋。

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「鉄腕アトム」-赤いネコの巻-

 「鉄腕アトム」のレギュラー登場人物、ヒゲオヤジが2000年の東京の街を歩いている。ヒゲオヤジは国木田独歩の有名な著作の「武蔵野」を暗誦しながらビルの谷間を歩いている。

 ちなみに国木田独歩が「武蔵野」を著したのは1898年、このお話、「赤いネコの巻」を手塚治虫が描いたのは1953年。このお話で、手塚治虫が描く、ビルが林立しなおもそこかしこでビル建設の工事が行われてる2000年の東京を、漫画の原稿用紙に描いているのは1953年なんですね。

 国木田独歩が「武蔵野」の著作の中で、文章で表現する、山々と谷と林と草原の武蔵野の風景と、そんなものがほとんど失われたコンクリートとアスファルトと高層ビルだらけの東京の街を、ヒゲオヤジに「武蔵野」を暗誦させて皮肉を籠めてユーモラスに描いている。

 ヒゲオヤジが子供の頃はまだ東京にもあちこち雑木林があったものだが、今の東京には山の手の方にわずかに残っているだけで、そこもやがてビル街に開拓しようとしている、とヒゲオヤジは嘆く。

 ヒゲオヤジは山の手のわずかに残る雑木林を歩くのが好きで、そこに向かって散策している。

 アトムのクラスメートのタマオ君が友達と路地でメンコをしている。描写はまだ舗装されてない土面の路地ですね。向かいの家は木造家。メンコは僕の生まれた地域ではパッチンと呼ばれてました。

 遊び続けるタマオたちに朝から何人もの子供がある住所を訊いて行く。ヒゲオヤジにもその住所の行き先を答えるタマオたち。ヒゲオヤジはアトムやタマオやシブガキのクラスの担任の先生だよな。

 ヒゲオヤジはタマオたちとその住所に行って見る。そこはたくさんの木々の繁る森の中で、古びた洋館がポツンと立っていた。タマオがヒゲオヤジに、この家はお化け屋敷と呼ばれる廃屋なんだと言う。

 暗い洋館の中には、朝からタマオたちに住所の行き先を訊いた何人もの子供たちがいた。古びた洋館は空き家のようだ。ヒゲオヤジが訊ねると、彼ら五人は都外の地方県から来ていて、各人ハガキでこの住所に呼ばれたのだという。

 五人の少年たちは、今度、山林を切り崩して都市開発する地域、笹谷に会社を作るビジネスオーナーの子息たちだった。彼らはみんな、地方の山林で不思議な“赤いネコ”を見掛けていて、ハガキの差出人も“赤いネコ”になっているのだという。

 ヒゲオヤジが空き家の部屋の中の様子を覗いている者の気配に気付くが、誰もいなくて、この場面はここで終わり、場面はパンして、その後、ヒゲオヤジがアトムと共に、カギとなる謎の“赤いネコ”捜索に山に登るシーンとなる。

 山の斜面の丘に立つ“赤いネコ”を発見する、アトムとヒゲオヤジ。崖をよじ登るヒゲオヤジは赤いネコに襲われて崖を転落する。アトムに救われるヒゲオヤジ。アトムの反撃に逃げる赤いネコを追って行くと、丘の斜面に洞窟がある。

 アトムとヒゲオヤジが洞窟に入ると、人間の白骨があった。岩の上から隠れて赤いネコが怒って見ている。白骨のちぎれた衣服に縫い付けた名前は「Y良太郎」。洞窟には菓子箱があった。

 シーンがパンして科学庁のお茶の水博士の研究所。「Y良太郎」氏はお茶の水博士の友達で高名な動物学者だった。お茶の水博士によるとY教授は「自然界を愛し、武蔵野がどんどん切り開かれて都会になって行くのをとても嘆いていた」という。

 菓子箱の中の写真には、お茶の水博士とY教授のスナップがあり、そこに赤いネコが一緒に写っている。赤いネコは“チリ”といってY教授の可愛がっていた飼い猫だった。

 自宅で眠るヒゲオヤジの元に赤いネコが現れ、ヒゲオヤジに人間の言葉で話し掛け、「洋館の立つ一帯の森林を切り崩してビル群を建てるのをやめるように」お願いする。「主人のY教授は美しい野山がビル街にされてしまうのを悔しがりながら死んでいった」から、主人のためにも「森林の都市開発をやめさせて欲しい」と続け「でないと猫の私はヒゲオヤジさん、あなたを呪い殺す」と脅迫する。

 不気味に思ったヒゲオヤジはピストルを取り出して猫を撃ちまくるが、猫は逃げてしまう。怖がるヒゲオヤジ。

 ヒゲオヤジは日比谷の建設省のビルに入り、土木課の役人に会う。土木課の担当者はY教授が亡くなったことを知らず、ヒゲオヤジにY教授が生前何度も建設省に訪れて「一帯の森林を壊してビル街にすることをやめてくれ」と懇願していたことを話す。

 一旦は教授の願いに役人は工事をしないと約束したが結局、開発工事を進めて森林を切り崩して行った。

 約束を破られた教授は怒って「この怨みは忘れないぞ、大自然が許さないぞ、呪われるがいい」と捨て台詞を吐いて去って行ったらしい。

 担当課の責任者は「Y教授が亡くなったのは気の毒だが都市開発は決定したことで仕方がない」と冷たく言い放つ。ヒゲオヤジは「Y教授の愛猫が主人を哀れに思って化け猫となって敵討ちに出るのでしょうな」と捨て台詞を吐いてビルを出る。

 とうとう廃屋の洋館のある森林、笹谷の開発工事が始まった。学校では生徒たちに森や草原には行くなと達示が出る。アトムのクラスメート、シブガキが自分らの遊び場であり自分の縄張りだからと工事に腹を立てる。

 シブガキが自分の宝物を埋めてあると笹谷に行くと野犬の群れが襲い掛かって来る。アトムに助けられるシブガキ。二人の前に今度はただの猫ではなく、赤いネコの顔をした人間が現れる。野犬の群れは猫人間が操っていた。

 赤いネコの猫人間は「この土地へ来るな」と警告する。

 アトムとシブガキが猫男を追って捜すが見つからず、地下へと落下する。笹谷の草原の地下には赤いネコの秘密の隠れ家があった。地下屋敷にはさまざまな動物がいっぱい飼ってある。

 一度は捕らえられたアトムとシブガキだが、アトムの力で逃げ出す。何と赤いネコの猫男はY教授だった。Y教授は生きていた。Y教授の元にはさまざまな動物たちと一緒に愛猫=チリもいる。

 Y教授逮捕に乗り出す警察に待ったを掛けて、親友だったお茶の水博士が説得に行くが、Y教授は力ずくで笹谷の都市開発をやめさせると宣言する。話し合いは決裂し、Y教授は期限を決めてこの日までに工事を止めないと恐ろしいことを起こすと犯罪予告する。

 高名な動物学者であるY教授はさまざまな動物たちを操ることができた。

 建設省は山林の切り崩し工事を続けてやめない。Y教授の予告の日が来て、犬·猫·馬·牛·豚はおろか猛獣から鳥にいたるまであらゆる動物たちが反乱を起こす。工事現場だけでなく都市のビル街にまでもの凄い数の動物たちが押し寄せて人間を襲う。

 動物の大群に襲われ、街は孤立し、ビル街に住む人たちは動けず兵糧攻めにされる。アトムが小さな子供たちだけでも逃がそうと空を運ぶが、鳥の群れに襲われて子供たちは落下し、生きてはいるが誘拐されてしまう。

 アトムも動物たちを止めようと追い払うよう尽力するが、鳥たちの撹乱によりビルに頭から突っ込み壊れてしまう。

 動物の大群は統制の取れた動きをしていて、決して動物どおしは争わず、人間のみを襲撃する。

 お茶の水博士によって修理されたアトムは超高熱を発する、電気を帯びた身体になり、動物たちが近付けない。アトムはY教授を捜す。

 高層ビルの一室に隠れていたY教授は、超短波催眠装置という大掛かりな機械で動物たちを自由に操っていた。Y教授を見つけたアトム。飛び掛かるチリもアトムの高熱にやられてしまう。

 誘拐した子供をY教授は殺そうと企むが、高熱を発するアトムには強い電気も流れていて感電したY教授は自爆してしまう。

 超短波催眠装置が壊れ、動物たちを操り誘導できなくなると、動物どおしが勝手に争い始めた。動物が動物を襲い合い自滅して行く。動物たちの暴動が納まったところで動物たちは人間に捕獲されて行く。

 建設省の笹谷一帯の森林の都市開発は、建設省土木課の担当者が自分の利益誘導のために働いていた悪事だとバレて、笹谷森林開発が取り止めになり豊かな森林は残る。

 猫のチリはアトムの高熱と共に発していた高電圧で感電死したが、Y教授はまだ命があって病院に担ぎ込まれていた。虫の息のベッドでお茶の水博士に笹谷の森林が守られて残る朗報を聞きながら「チリの元へ行ける」とY教授は亡くなった…。・・・・

 というのが手塚治虫先生の代表作の一つ「鉄腕アトム」の、光文社の雑誌「少年」に15年間に渡って長期に連載の続いた作品の中の、早期のエピソードの1作「赤いネコ」の巻のストーリーです。

 鉄腕アトムの「赤いネコ」のお話は、初出、雑誌「少年」1953年5月号から11月号まで連載。

 雑誌「少年」1952年4月号から始まった「鉄腕アトム」の第4話になります。その前の第3話が「フランケンシュタイン」の巻。アトムのエピソードの中で一番人気の高かった「地上最大のロボット」の巻は第54話目で、1964年の作品です。

 「鉄腕アトム」は、雑誌「少年」の1951年4月号から52年3月号まで連載された「アトム大使」という手塚治虫先生の漫画の中に出て来る、ロボットのアトムをピックアップして、また別個のストーリー·世界観で新たに描き始めたSF作品ですね。

 「赤いネコ」は、僕が生まれたのは1956年だから僕の生まれる3年前の作品ですね。僕が雑誌「少年」を読み始めたのは1963年初頭頃だと思うから、連載「鉄腕アトム」をリアルタイムで読み始めた10年前に描かれた作品。

 どうしてか解らないんだけど、僕の中学生頃から30代くらいまでかなぁ、もっと中年になってもかなぁ、子供の頃読んだ訳でもないのに、僕が漫画を読み始めた1962年の暮れ頃よりも以前、1962年からさかのぼる昔の児童漫画に、読んだことないのに何か“郷愁”を覚えて、ああ読みたい読みたいと思った。

 若い頃は、ムック本というのか、昔の漫画の紹介グラフィック本をよく買って来てた。昔の漫画の簡単な紹介をいっぱい収めたグラフ誌ですね。ああいう本を見て昔の漫画を知るのが楽しくて楽しくて。1970年代80年代にはそういう懐かしの漫画紹介本みたいのがけっこういっぱい出たんだよね。本屋で見つけるたび買って持ってた。B5グラフィック誌ばかりでなく、B6単行本や文庫版でも昔の懐かしの漫画1作品8~16ページくらいを何作も収録した本とか。爺さんになって引っ越したとき全部捨てちゃったけど。

 「鉄腕アトム」は僕は二十歳頃には朝日ソノラマから出てた新書判·サンコミックスの「鉄腕アトム」全21巻+別巻1冊を購入して持ってた。後々、光文社文庫版全15巻と講談社文庫版全13巻の内、何冊かは購入して持ってた。さらに後、電子書籍版から何冊か買って読み返してる。

 昔々の古い古い漫画作品ばかり取り上げてあれこれ書いてますが、古い漫画は昔々の僕の少年時代やそれからの青年時代を思い返して自分が書いてて楽しいので古漫画ばかり題材にしてます。今の新しい漫画もよく読んではいるんですけどね。別に僕が今の漫画の読後感想書き込んでも自分が楽しい訳でもないし。老齢になってそこまで感動-感激する漫画も特にない感じだし。僕の青年時代も、もう今から40年50年も前の記憶になりますが。

 小学館が新書判サイズのコミックス単行本、ゴールデンコミックスの刊行に乗り出したのは1966年5月。

 小学館ゴールデンコミックスの「手塚治虫全集」の中の「鉄腕アトム」全20巻の初刊行は1968年10月から1970年3月まででした。

 「赤いネコ」の回が収録されてるのが、ゴールデンコミックス「鉄腕アトム」全20巻の内、何巻だったのかよく解らないのですが、多分、早い巻でしょう。1巻とか2巻くらいではないでしょうか。まぁ、3巻かも知れないけど。

 ちなみに秋田書店サンデーコミックスの刊行開始は1966年7月からです。集英社がコンパクトコミックスを刊行始めたのも、何月かまでは解らなかったけど1966年ですね。コンパクトコミックスはジャンプコミックスの刊行開始のときには廃刊になりました。

 1966年67年には各出版社が、最初の新書判サイズのコミックス単行本の刊行を始めています。そのとき刊行されて21世紀(2000年代)に入った時点で残っているレーベルは希少ですけど。秋田書店のサンデーコミックスだけかも知れない。

 1966年頃は、大手出版社だけでなく、1950年代60年代の貸本専門出版社までもがA5判サイズの貸本単行本をやめて、新書判コミックスの刊行に乗り出しています。このコミックスシリーズも遅くとも80年代くらいまでには廃刊しています。

 大手出版社は60年代末や70年代初めに、自社定期刊行の漫画雑誌に沿った新書判コミックスを刊行開始してますね。小学館の少年サンデー·コミックス、集英社のジャンプ·コミックス、秋田書店の少年チャンピオン·コミックスなどなど。秋田書店はサンデーコミックスもそのままずーっと現在までレーベルを維持して発刊を続けてますけど。

 当時、毎週読んでいた週刊少年サンデーの広告ページに、ゴールデンコミックスの既刊本の紹介が載っていて、そこにゴールデンコミックス版「手塚治虫全集」があって、その中の「鉄腕アトム」も載っていた。中学生の僕はもうこのコミックス本が欲しくて欲しくてたまらなくて、かといって近所の本屋には置いてない。遠くにある貸本屋にもない。

 小学館から直接買えないか、と考えたが、中学生の僕は書留とか為替とか解らなくて、母親や兄に訊いたのか、多分訊いても知らないだろうと訊ねなかったのか、僕は1人で悩み、確か何かの雑誌に郵便切手をその本の値段分送ったら買える、と書いてたような…、と自信なかったけど、コミックスの出版社まで送って見ることにした。

 小学館も、サンデーコミックスの「鉄人28号」を買った秋田書店も、普通の白色封筒に当時はまだ存在した百円札を2枚入れてOKだったし、コミックス1冊の値段分切手を入れてもOKだった。(無論、新書判コミックス1冊の送料分の切手も同封してた。当時は1冊分送料60円だったように記憶する。)

 小学館も秋田書店もコミックスの「鉄腕アトム」「鉄人28号」を送ってくれた。コミックス単行本を手にした当時中学生の僕は本当に嬉しかったと思う。

 一度、普通の白色封筒に百円札と小銭の現金を入れて出版社へ送った。これは郵便局から送り返されて来た。法律違反とのことだった。郵便局の係員が出版社の担当者に封筒を開けて中身を見せるよう要請したが、出版社の人が拒否したため送り返した、というメモ書きが封筒に貼り付けてあった。

 それからは僕は現金書留を使ったと思う。高くついたけどしょうがなく。

 中学生のときに直接出版社から郵送して貰って手に入れたコミックス単行本は、ゴールデンコミックスの「鉄腕アトム」3冊くらいと「カムイ外伝」2冊、サンデーコミックスの「鉄人28号」2冊、「虹をよぶ拳」2冊、「のら犬の丘」1冊くらいかな。

 こういう本は近所の本屋になかったんだよね。

 後に、中三になって、歩いて行ったら30分以上掛かる、ちょっと遠くの貸本屋が新書判コミックスを扱っていると知って、そこに自転車で漫画本を借りに行くようになった。

 それからは多分、新書判コミックス単行本は買ってないと思う。高校生になると大貧乏生活に入るから漫画本購入する余裕なんてなかったし、高二からは昼飯抜いて作った小遣いでは小説の文庫本買ってたからなぁ。今から考えると高校生時代はもっと図書館利用すればよかったなぁ。学校の図書館でなくとも市の図書館でも。市の図書館なら大衆小説も豊富にあったろうになぁ。

鉄腕アトム 手塚治虫文庫全集(1)

鉄腕アトム 1

『鉄腕アトム』全21巻+別巻2巻セット(化粧箱入り)SUNDAY COMICS

鉄腕アトム 1―大人気SFコミックス (サンデー・コミックス)

図説 鉄腕アトム

【カラー版】鉄腕アトム 1

鉄腕アトム 手塚治虫文庫全集(7)

鉄腕アトム 2

鉄腕アトムと共に生きて―声優が語るアニメの世界

鉄腕アトム 《オリジナル版》 1

鉄腕アトム 初単行本版 1: 初単行本版 (河出文庫 て 3-4)

ASTROBOY 鉄腕アトム(1) (てんとう虫コミックススペシャル)

鉄腕アトム プロローグ集成 (立東舎)

 膨大な「鉄腕アトム」作品群の中でも、僕が中学生時郵送で買ったゴールデンコミックス版「鉄腕アトム」の3冊程度の中の、アトム初期作品には何か思い入れがあって、アトム第2話「気体人間の巻」や第4話「赤いネコの巻」は特に記憶に残り続けている。

 中学生時だと、中学校の図書室で借りた、少年少女ミステリ全集みたいな本の中の1冊、エドガー·アラン·ポー短編集がとても怖いのを怖いもの見たさの面白さで読んで、中でも短編「黒猫」が印象に残っていて、手塚先生の「赤いネコ」と猫繋がりで覚え続けていたのか…。

 ポーの短編集はどれも怖くて面白くて、中学生時一回読んだだけなのに大まかなあらすじをよく覚えている。「落とし穴と振り子」や「アッシャー家の崩壊」「黒猫」「黄金虫」「モルグ街の殺人」「盗まれた手紙」などを記憶に残してるなぁ。「黄金虫」は内容をちょっと忘れたかなぁ。「アッシャー家の崩壊」は中学生時にテレビで映画版の放映を見て凄く怖かったのを覚えてるから、余計に印象深い。「落とし穴と振り子」は自分がその置かれた立場になって読んだので、そのときの恐怖感でそのまま記憶し続けてる。一種のトラウマかな。

 「鉄腕アトム」で他に記憶に残り続けているお話は、小五の春に小一から通い続けた家の近くの貸本屋が店じまいして、中学生時、大通りを挟んだ隣町の貸本屋へ行って借りた、光文社B5判カッパコミックスの「鉄腕アトム」シリーズの「ホットドッグ兵団」上下巻は何故か感動して読後何かロマンチックな気分になって、「ホットドッグ兵団」の巻を印象深く覚えている。

 少年時に読んでるのだが何のレーベルで読んだのかはっきりしないけど「スリーゼット総統」や「ブラックルックス」のお話も印象深く覚えてるなぁ。でもストーリーはあやふやにしか記憶してないけど。この2作品も光文社カッパコミックスかも知れないな。

 雑誌「少年」の増刊号に掲載された読み切り短編だけど「ロボット流しの巻」と「植物人間の巻」も印象深く覚えてる。この2作品は小学館ゴールデンコミックス版で読んだんじゃないかなぁ。この2作品も何かロマンチックな気分に浸らさせられた。

 

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