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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第21回)

2024-04-16 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

三 汎アメリカ‐カリブ域圏

(7)キューバ

(ア)成立経緯
主権国家キューバ共和国を継承する統合領域圏。20世紀初頭以来の米国租借地だったグアンタナモ米軍基地は、北アメリカ領域圏との協約に基づき、撤去・返還される。環カリブ合同領域圏(後述)の招聘領域圏となる。

(イ)社会経済状況
主権国家時代末期には、共産党一党支配下で市場経済化が進められ、資本主義的な階級格差が広がり始めるが、「共産党に対抗する共産主義革命」によって、貨幣経済に基づかない真の共産主義社会が実現する。旧共産党体制時代の社会主義的な生産体制が脱構築的に継承され、汎アメリカ‐カリブ域圏内でのモデルとなる。

(ウ)政治制度
共産党体制時代の人民権力全国会議は、一院制の全土民衆会議に転換される。「共産党に対抗する共産主義革命」により一党支配は終焉し、旧支配機構であった共産党及びその傘下組織は解体される。

(エ)特記
キューバ革命の歴史的意義が自由に論議されるようになり、その暗黒面の調査研究が進展する。

☆別の可能性
共産党の支配力が強力なため、共産党支配体制が遷延し、世界共同体に包摂されない可能性もある。

 

(8)ハイチ

(ア)成立経緯
主権国家ハイチを継承する統合領域圏。合衆国領有小離島だったナヴァッサ島も編入される。環カリブ合同領域圏の招聘領域圏となる。

(イ)社会経済状況
資本主義時代は、西半球でも最貧レベルにして、ギャング支配などの混乱にも見舞われていたが、貨幣経済のない世界では、経済が再建される。元来主流的であった自給農業が成り立つようになり、環境的に持続可能な農業のモデルともなる。

(ウ)政治制度
主権国家時代は連邦国家ではないにもかかわらず、二院制であったが、革命後は全土民衆会議の一院制に転換する。

(エ)特記
ハイチの社会混乱を防止するため、世界共同体平和維持巡視隊が暫定的に駐留する可能性がある。

☆別の可能性
現状のハイチの政治社会混乱が進行して将来完全に破綻した場合、世界共同体の直轄自治圏として再建される可能性もある。

 

(9)ドミニカ・リコ

(ア)成立経緯
主権国家ドミニカ共和国と、モナ海峡を挟んで隣接するアメリカ合衆国自治連邦区プエルト・リコがアメリカから分離したうえ、合併して成立する統合領域圏。環カリブ合同領域圏の招聘領域圏となる。

(イ)社会経済
資本主義時代にカリブ海域では最大規模に発展していたドミニカ経済と、アメリカ領時代に発達した経済を基盤に統合された持続可能的計画経済が発展する。特に医薬品産業を軸とする。持続可能的農業は主にドミニカ地域が担う。

(ウ)政治制度
主権国家時代のドミニカ共和国と米自治領時代のプエルト・リコはともに二院制であったが、統合領域圏となるため、全土民衆会議の一院制に転換される。

(エ)特記
主権国家時代、ハイチからの密入国を阻止するためにイスパニョーラ島内で隣接するドミニカ共和国が設置していた国境壁は撤去され、ドミニカ・リコ領域圏との境界線は原則的に開放される。

☆別の可能性
プエルト・リコがドミニカと合併せず、単立の領域圏となる可能性、またはドミニカと緩やかな合同領域圏を形成する可能性もある。

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弁証法の再生(連載第9回)

2024-04-13 | 弁証法の再生

Ⅲ 唯物弁証法の台頭と変形

(8)エンゲルスの唯物弁証法
 マルクスの共同研究者にして終生の友でもあったエンゲルスは、マルクスとの死別後も20年近くにわたって活動し、その多くが未完ないし未出版に終わっていたマルクスの遺稿の整理と解説に当たり、マルクス思想の継承と普及に貢献した。
 おそらくエンゲルスの存在なくしては、マルクスは没後、完全に埋もれた思想家に終わったのではないかと思えるほどであるが、そうしたエンゲルスの思想史的貢献の一つに唯物弁証法の定式化がある。その点、マルクスは、彼が批判的に継承したヘーゲルに似て、弁証法の定式化はあえて試みず、それを思考の前提として扱っていた。
 これに対して、エンゲルスは唯物弁証法の定式化に踏み込んでいる。それによれば、唯物弁証法定式は①量より質への転化②対立物の相互浸透③否定の否定の三項にまとめられる。エンゲルス自身、この定式に逐条的な解説を施しているわけではないが、いくらか私見をまじえて解釈すれば、次のようである。
 「第一項:量より質への転化」とは、量的な変化が質的な変化をもたらすという一見すると矛盾律であるが、これは例えば生体の細胞をはじめ、分子の量的な集積が質的に新たな物質を生み出すような例を想起すれば、判明する。
 「第二項:対立物の相互浸透」は、およそ対立物は相互に相対立する関係性によってその存在が規定される相関関係にあり、実体的に対立するのではないという関係論的存在論である。
 「第三項:否定の否定」は形式論理学における二重否定—それは消極的な肯定である—とは似て非なるもので、あるものを全否定することなく、対立物の止揚により高次の措定に至るというヘーゲルにおける止揚の簡明な定式化である。
 これら三項は、各々別個独立の定式なのではなく、第一項の量より質の転換の過程に対立物の相互浸透があり、その結果として対立物の止揚による新たな境地が拓かれるという動的なプロセスが表現されているとみることができるだろう。
 ただ、これだけのことなら特段の独創性は認められないが、エンゲルスは唯物弁証法の適用範囲を自然界も対象に含めた一般法則として拡大しようとした—未完書『自然の弁証法』がその綱領である—ところに独創性がある。このような一般法則化は、マルクスがあえて試みなかったことである。
 この点で、エンゲルスはマルクスよりも教条主義的な傾向が強く、後に弁証法の代名詞のごとくなった「マルクス主義」はマルクス自身ではなく、エンゲルスによって最初に体系化されたと言い得るのである。このことは唯物弁証法の普及に寄与するとともに、その教条化にも力を貸したであろう。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第20回)

2024-04-08 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

三 汎アメリカ‐カリブ域圏

(5)メキシコ

(ア)成立経緯
 メキシコ合衆国を継承する連合領域圏

(イ)社会経済状況
メキシコ合衆国時代の宿疾であった麻薬組織犯罪とそれに絡む暴力、政治腐敗は共産主義革命による貨幣経済の廃止に伴い、消滅する。また構造的な貧困問題も解消し、かつては貧困最下層を形成した先住民の地位が向上し、連合民衆会議代議員としても進出する。

(ウ)政治制度
北アメリカ連合領域圏に類似し、各準領域圏から抽選された代議員で構成される連合民衆会議が設置されるが、先住民との混血人口が多いため、特に先住民自治体代表制度は設けられない。

(エ)特記
マヤ文明人の末裔民族が多い南東部のチアパス準領域圏には、革命前のチアパス州時代からサパティスタ民族解放軍によって組織された事実上の自治的革命解放区が成立していたが、連合領域圏の成立に際して発展的に解消される。

☆別の可能性
可能性は低いが、アメリカのメキシコ国境四州が分離して、独自の連合領域圏(ボーダーズアメリカ)となるのではなく、メキシコ連合領域圏に編入される可能性もある。

 

(6)中央アメリカ

(ア)成立経緯
南北両大陸の間をつなぐいわゆる中央アメリカに位置するグアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカ、パナマの6つの主権国家が連合し、それぞれを準領域圏とする一つの領域圏に発展する連合領域圏。ただし、この地域で唯一英語を公用語とするベリーズは連合せず、後述の環カリブ合同領域圏に加入する。

(イ)社会経済状況
世界共同体創設前は、先住民層を中心に貧困が構造化し、白人系富裕層が経済的権益を独占する階級構造が支配的で、北米への大量移民送出地域でもあったが、共産主義革命による貨幣経済の廃止により、そうした不平等な構造は解消される。それに伴い、大量移民も過去のものとなる。また麻薬取引の消滅に伴い、南米方面からの麻薬密輸中継地としての役割も過去のものとなる。

(ウ)政治制度
連合民衆会議は6つの準領域圏から同数ずつ抽選された代議員で構成され、各準領域圏代議員団長が連合代表者会議を構成する。政治代表都市は、コスタリカのサンホセ。なお、かつてはこの地域の各国で白人支配層と結んで政治的な発言力を持ち、しばしばクーデターで軍事独裁政権を樹立しては時に先住民殺戮を伴う凄惨な内戦を主導した軍は、常備軍の廃止を規定する世界共同体憲章に基づきすべて解体される。

(エ)特記
当領域圏の形成に当たっては、かねてより常備軍を廃止し、比較的安定した政情にあったコスタリカが大きな役割を果たす。

☆別の可能性
6つの主権国家がそれぞれ単立の領域圏となったうえで、緩やかな合同領域圏を形成する可能性もある。また、その場合、ベリーズが合同に参加する可能性もある。

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弁証法の再生(連載第8回)

2024-04-02 | 弁証法の再生

Ⅲ 唯物弁証法の台頭と変形

(7)マルクスの唯物弁証法
 ヘーゲル弁証法へのヘーゲル学派内部からの内在的な反発を示したフォイエルバッハに代表されるいわゆる青年ヘーゲル派は、その影響下の学徒のうちから、ヘーゲル弁証法をいっそう深層的に批判・超克しようとする急進的な思潮を生む。その代表者がマルクスであった。
 マルクスはフォイエルバッハを通じて、初めから内在批判的なヘーゲル弁証法を摂取していた。そのため、その出発点はフォイエルバッハと同様、ヘーゲル弁証法の精神優位的な観念論的性質を批判的にとらえることに置かれた。
 そのうえで、フォイエルバッハと同様に物質の優位性を認めていたが、フォイエルバッハの唯物論にも、物質の把握がなお観念論的かつ無時間的であるという難点を見出す。言わば、「観念論的唯物論」である。これを超克し、より純粋な唯物論—言わば、唯物論的唯物論—を抽出しようとしたのがマルクスであったと言える。
 マルクスがこのように思考したのは、フォイエルバッハの弁証法はへーゲル的な思考の方法論としての域を出ておらず、弁証法をより動的な歴史論に適用することを躊躇していると考えたからであった。そこから、マルクスは弁証法を唯物史観へと昇華させた。
 実のところ、ヘーゲルも弁証法を歴史に適用して独自の史観を示していた。ヘーゲルによれば、世界の全展開は精神の営みとして生じる葛藤、さらに葛藤を克服し完成を目指していく総合の弁証法的運動の中で形成される。
 より具体的には、歴史は奴隷制という自己疎外に始まり、労働を通じて自由かつ平等な市民によって構成される合理的な法治国家という自己統一へと発展する「精神」が実現する大きな弁証法的運動だというわけであるが、このようなヘーゲル史観はマルクスによれば、頭でっかちの逆立ちした思考である。
 マルクスの唯物弁証法は、物質に基礎を置き、中でも生産力を歴史の動因とみなす立場から、生産力の発展に照応して歴史が展開していくことを説いた。また一つの社会の編成も、生産力をめぐる生産諸関係を土台に法律的・政治的上部構造が照応的にかぶさるという形を取る。
 その点、ヘーゲルが晩年に『法の哲学』という視座から示した家族→市民社会→国家という人類社会史も、マルクスからすれば、物質的な視座を欠き、法律的・政治的上部構造にしか目を向けない片面的な体のものである。
 こうして、マルクスにより唯物弁証法という新たな領野が開拓されたわけだが、このような物質優位の弁証法の創出は、弁証法を形式論理学より格下げしたアリストテレス以来、発達を遂げてきた諸科学—特に経済学—と弁証法を結合させる意義を持つ思想史上の革命とも言える出来事であった。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第19回)

2024-03-30 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

三 汎アメリカ‐カリブ域圏

(3)北アメリカ

(ア)成立経緯
アメリカ合衆国における革命の結果、カナダとの連合協議を経て成立する連合領域圏。その領域は、アメリカ合衆国本土48州のうち、メキシコに接する南西部4州(カリフォルニア、アリゾナ、ニューメキシコ、テキサス)がボーダーズアメリカ(後述)として自立化したうえ、アメリカの飛地州だったアラスカ、現デンマーク領グリーンランドとともに極北領域圏として分離するカナダの準州及び単立領域圏として分離するケベック州を除いたカナダの領域を新たに加えて構成される。なお、ハワイ州を含む旧アメリカ合衆国海外領土は、すべて分離される。

(イ)社会経済状況
連合の持続可能的計画経済は、アメリカとカナダの産業基盤をもとに構築される。情報工学や各種学術に関しては、アメリカ及びカナダの先進性を継承し、世界共同体のリーディングな地位を持つ。リベラルなカナダと連合することで、アメリカ合衆国の保守性が緩和され、宿弊であった人種差別問題は解消に向かう。先住民保留地も解体され、先住民の統合も進む。また、カナダと連合することで、旧カナダ領域への人口移動が生じる。

(ウ)政治制度
連合民衆会議は、アメリカ合衆国本土州のうち上掲4州を除いた44州と、ケベックを除いたカナダの9州を継承する準領域圏、さらに準領域圏と同等の地位を付与される先住民族自治体から同数ずつ抽選された代議員で構成される。各準領域圏の代議員団長は連合代表者会議を構成し、連合全体に関わる重要議題の討議及び連合民衆会議が制定した連合共通法の施行を監督する。先住民族自治体を含む準領域圏は、独自の法体系を含む高度の自治権を持つ。連合代表都市はワシントンD.C.とオタワで4年おき交互に入れ替わる。

(エ)特記
革命前、世界最強を誇ったアメリカ合衆国軍隊は、常備軍の廃止を定める世界共同体憲章に基づき解体される。ただし、北アメリカは世界共同体平和維持巡視隊の主要な部隊を提供し、要員訓練センターも設置される。また、アメリカ合衆国の旧弊であった銃器の個人所有慣習は貨幣経済廃止を軸とする共産主義化に伴う治安の劇的な向上により、自然に消滅する。

☆別の可能性
カナダと連合せず、アメリカ合衆国の本土48州がそのまま連合領域圏に移行する可能性(その場合、カナダも別立ての連合領域園となる)、逆に、より確率は低いが、現行50州がすべて個別の領域圏として自立化し、合衆国が完全に解体される可能性もなくはない。

 

(4)ボーダーズアメリカ

(ア)成立経緯
アメリカ合衆国のメキシコに接する南西部4州(カリフォルニア、アリゾナ、ニューメキシコ、テキサス)が分離し、それぞれを準領域圏として成立する連合領域圏

(イ)社会経済状況
ボーダーズアメリカでは中南米にルーツを持つヒスパニック系人口が過半数を占め、準スペイン語圏となる。連合を構成する4つの準領域圏中、最大規模のカリフォルニアを中心に情報産業が集約されるほか、ハリウッドの映画産業も継承される。二番目に大きな準領域圏テキサスの石油産業は共産主義革命後、世界共同体の管理下に移行する一方、環境的に持続可能な集約的農業・牧畜業のモデル地域となる。また、当領域圏は北アメリカとメキシコの両隣接領域圏と経済協力協定を締結し、経済的に両者をつなぐ役割を果たす。

(ウ)政治制度
連合民衆会議の構成は北アメリカ領域圏と類似し、4つの準領域圏及び準領域圏と同等の地位を付与された先住民族自治体から同数ずつ抽選された代議員で構成される。英語とスペイン語の双方を対等な公用語とする。政治代表都市は、4つの準領域圏の主要都市で4年ごとに回り持つ。

(エ)特記
当領域圏のメキシコとの境界線は完全に開放されることはないが、警備は緩和され、原則として往来自由となる。

☆別の可能性
上述のように、4州を含むアメリカ合衆国本土48州がそのまま連合領域圏に移行する可能性もある。一方、より確率は低いが、4州は歴史的にメキシコの旧領土であった経緯から、南で隣接するメキシコと連合して、メキシコ領域圏に包摂される可能性もなくはない。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第18回)

2024-03-26 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

三 汎アメリカ‐カリブ域圏

汎アメリカ‐カリブ域圏は、現在デンマーク領のグリーンランドを含めた北極圏に、今日の南北アメリカ両大陸、さらに中央アメリカ地域、カリブ海域の島嶼を加えた領圏域を包摂する汎域圏。カリブ海域に残存していた西欧諸国領土はすべて独立する。また、メキシコとの国境四州を除いたアメリカ本土と極北地域及びケベック州(ニューブランズウィック州の一部を含む)を除いたカナダが統合されて新たな領域圏を形成する。汎域圏全体の政治代表都市は北アメリカ領域圏のマイアミに置かれる。

包摂領域圏:
極北、ケベック、北アメリカ、ボーダーズアメリカメキシコ、中央アメリカキューバ、ハイチ、ドミニカ・リコ、環カリブ合同、ベネズエラ、ブラジル、パラグアイ、アンデス合同、チリ、ラプラタの各領域圏から成る。

 

(1)極北

(ア)成立経緯
カナダ北部のノースウェスト、ユーコン、ヌナブートの各準州が準領域圏となり、現アメリカのアラスカ州、現デンマーク領のグリーンランド(カラーリットヌナート)が加わって形成される連合領域圏

(イ)社会経済状況
イヌイットをはじめとする先住民族が主体となる人口構成で、伝統的な生活様式が維持される。持続可的な漁業が主産業となる。他方、アラスカを含む北米極北地域に豊富であった天然資源の管理は世界共同体に移される。温暖化の指標となる北極圏の氷床及び氷河を常時観測するため、世界共同体地球環境観測センターの北極圏観測所が設置される。

(ウ)政治制度
上掲5つの準領域圏から均等に抽選された代議員から成る連合民衆会議が設置される。それ以外に、各先住民族の代表も代議員に加わり、先住民族が主体性を持った政治制度となる。エスペラント語のほか、英語、デンマーク語が公用語となる。政治代表都市は、ノースウェスト州のイエローナイフ。

(エ)特記
旧版では、北米極北地域も北アメリカ領域圏に包摂していたが、北極圏としての特性に加え、長く迫害されてきた先住民族の主体性を回復する目的からも、北アメリカから分離して、独立の領域圏とした。

☆別の可能性
グリーンランドが独立したうえ、汎ヨーロッパ‐シベリア域圏のノルディック‐バルティック合同領域圏に参加する可能性もある。

(2)ケベック

(ア)成立経緯
カナダのケベック州時代からのフランス語圏として、総体的に英語圏に属する連邦国家カナダから分離したうえ、隣接するニューブランズウィック州のフランス語圏地域を編入して成立する統合領域圏

(イ)経済社会状況
カナダ領時代から発達したが、独立領域圏となった後も継承される。一方で、メープルシロップに代表される農業も盛んで、ハイテク産業と農業が組み合わさったユニークな複合経済が継続される。隣接する極北領域圏及び北アメリカ領域圏とは経済協力協定を締結し、緊密な経済関係を保持する。

(ウ)政治制度
民衆会議には、先住民自治体も代議員を送る。政治代表都市は、現州都ケベックシティから最大都市モントリオールに移転。なお、北アメリカとの密接な関わりからも、北アメリカ連合民衆会議に議決権を持たないオブザーバーを送る。

(エ)特記
編入される旧ニューブランズウィック州の地域では、少数派となる英語系住民のため、英語も公用語とされる。

☆別の可能性
かねてからのケベック州の独立運動がやや低調化してきているため、自立化することなく、上掲北アメリカ領域圏に包摂される可能性、あるいは、カナダがアメリカと統合されない場合にはカナダ領域圏に留まる可能性もある。

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弁証法の再生(連載第7回)

2024-03-23 | 弁証法の再生

Ⅱ 弁証法の再発見

(6)ヘーゲル弁証法への反発
 ヘーゲル弁証法は、アリストテレス以降2000年近く忘却されていた弁証法を観念論的に蘇生させたものと言えるが、これに対しては反発も現れた。そうしたアンチテーゼはヘーゲルを継承するヘーゲル学派とヘーゲルを否定する反ヘーゲル学派の双方から出現する。まさに、弁証法的展開である。
 反ヘーゲル学派の代表者は、キェルケゴールである。彼はヘーゲルの抽象的思考に対して反発した。ヘーゲルは現実世界において常に自らの否定性の契機に直面する有限者たる人間は、その否定性を弁証法的論理において止揚する方法で超克し、より真理に近い存在として自らを昇華していくことができるとしたが、キェルケゴールにとって、こうしたとらえ方は量的な抽象論にすぎない。
 彼によれば、有限なる人間存在が直面する否定性とそれに由来する葛藤や矛盾は、ヘーゲル的な抽象論によって解決されるものではない。有限的主体が自らの否定性に直面したとき、それを抽象的に止揚しようとするのではなく、その否定性とあえて向き合い、それを自らの実存的生において真摯に受け止め、対峙していかねばならないのである。
 このような思考をキェルケゴールはヘーゲルの抽象的思考に対立する具体的思考として提示し、「逆説的弁証法」(質的弁証法)と名づけた。言わばヘーゲル弁証法を逆立ちさせたわけであるが、そこから、一般的・抽象的な観念としての人間ではなく、個別的・具体的な事実存在としての人間を哲学の対象とする実存主義の祖となるのであった。
 このような個別的実存と弁証法との関係性については後にサルトルがより洗練された弁証法的解決法を示すことになるが、ここでは踏み込まず、さしあたりキェルケゴールをヘーゲル弁証法への実存主義的アンチテーゼとみなしておく。
 他方、ヘーゲルを継承する立場からも、内在的な批判が現れる。その代表者は、ルートヴィヒ・フォイエルバッハである。彼もまた部分的にはキェルケゴールと共有し、ヘーゲルが抽象的な精神を主体とみなし、そうした観念的主体の自己展開の過程を通して歴史や世界をとらえる方法に疑念を抱いた。
 しかし、彼はキェルケゴールのように、有限的な存在が避けられない「死に至る病」=絶望の超克を自己放棄的な信仰に求めるのではなく、むしろそのように自身の内部の苦悩を疎遠な外部の絶対者たる神に委ね、投影するような所為を自己疎外として退け、現世的な幸福論を対置したのであった。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第17回)

2024-03-19 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

二 汎東方アジア‐オセアニア域圏

(15)統一コリア
 
(ア)成立経緯
主権国家の大韓民国及び朝鮮民主主義人民共和国が並立する南北朝鮮分断を止揚して成立する統合領域圏
 
(イ)社会経済状況
主権国家時代に資本主義的発展を遂げた韓国と社会主義的低開発状態にあった朝鮮の経済格差は通常の主権国家統合がほぼ不可能なまでに開いていたが、世界共同体内の領域圏としての統合と持続可能的計画経済の導入により、両者の止揚的統合が可能となる。
 
(ウ)政治制度
集権性の強い統合領域圏として統一されるが、南北ともに主権国家時代の広域行政区分である「道」を地方圏として継承しつつ、地方自治を推進する。旧北朝鮮領域では、民衆会議体制への移行に伴い、支配政党・朝鮮労働党は解散する。政治代表都市は分断時代の旧軍事境界線周辺を開発して造成される板門店特別市に置かれる。
 
(エ)特記
長年にわたる分断状況からの一挙的な統合は社会経済的な混乱を引き起こす恐れがあるため、さしあたりは南北コリアの両領域圏が単立したうえで暫定的な合同領域圏を形成し、準備期間を経て完全統合化するプロセスを辿る。
 
☆別の可能性
朝鮮側では金氏一族支配が強固に継続し、世界共同体に包摂されない可能性もある。さらに、望ましくない可能性ではあるが、朝鮮では民衆と支配体制の対峙が先鋭化し、民衆革命が流血事態となる可能性もなくはない。また、韓国側でも長年の強固な反共政策の影響から、連続革命の波が及ばず、世界共同体に包摂されない可能性がある。一方で、最終的に両者が完全に統合されることなく、上記の合同領域圏を形成するにとどまる可能性もある。
 
 
 
 
(16)極東ユーラシア
 
(ア)成立経緯
主権国家ロシア連邦内の極東連邦管区が分離して成立する連合領域圏。極東連邦管区サハリン州に含まれるクナシリ、エトロフ、シコタン、ハボマイの四島は日本に返還・編入される。
 
(イ)社会経済状況
ウラジオストックを含む沿海州を中心に、漁業に基盤を置く食品加工や造船のほか、自動車産業もあり、旧ロシア時代から継承した産業基盤を中心に、持続可能的計画経済が導入される。旧ロシア時代は辺境地のため、開発から取り残されがちで、人口流出にも悩まされてきたが、独立の領域圏となり、自立的な計画経済運営の可能性が開かれる。
 
(ウ)政治制度
ロシア極東連邦管区時代の連邦構成主体をすべて「州」に統一したうえ、それらを準領域圏とする連合領域圏である。連合民衆会議は、各準領域圏から人口比に応じて配分された定数抽選された代議員で構成される。政治代表都市はウラジオストック。
 
(エ)特記
当領域圏がロシアから分離されることで、ロシアは極東領土を放棄し、汎ヨーロッパ‐シベリア域圏の一員として純化されることになる。一方、旧ソ連→ロシアと日本の間での歴史的な懸案問題となっていたいわゆる北方領土問題は、係争地域がロシアから分離されることで、汎東方アジア‐オセアニア域圏内での協商による平和的な解決を見る。
 
☆別の可能性
ロシア側では極東領土の喪失につながる極東連邦管区分離への反対が強く、極東連邦管区がロシアにとどまる可能性もある。また、可能性としてはかなり低いものの、モンゴルが極東ユーラシア領域圏に加入する可能性もなくはない。
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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第16回)

2024-03-14 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

二 汎東方アジア‐オセアニア域圏

(13)沖縄諸島

(ア)成立経緯
日本の沖縄県が分離し、独立を回復して成立する統合領域圏

(イ)社会経済状況
世界共同体憲章の軍備廃止規定に基づき米軍基地が完全撤去されることにより、基地依存経済から脱却し、独自の経済計画に基づく工業が発展する。基地の撤去により農地も拡大され、独自の農業も発展する。日本領域圏とは経済協力協定を締結し、経済的な相互関係が維持される。

(ウ)政治制度
広域自治体である数個の地方圏及び単独で地方圏相当の地位を持つ政治代表都市・那覇市に区分される。南太平洋合同領域圏の招聘領域圏としても、オブザーバを送る。

(エ)特記
旧版では沖縄諸島領域圏をアジア‐太平洋諸島合同領域圏の中に包摂していたが、広汎にすぎるアジア‐太平洋諸島合同領域圏を南太平洋諸島合同領域圏に変更したことに伴い、沖縄諸島を単立の領域圏とした。

☆別の可能性
日本領域圏から分離せず、日本領域圏内の地方圏(「道」:下記参照)または高度な自治権を持つ特別地方圏(特別道)にとどまる可能性もある。

 

(14)日本

(ア)成立経緯
主権国家日本国をおおむね継承する統合領域圏。ただし、沖縄が分離する一方、北方四島が返還・編入される。

(イ)社会経済状況
主権国家時代の資本主義経済体制下で確立された工業を基盤に、持続可能的計画経済が構築される。担い手不足から縮退を続けていた農漁業も、計画経済の導入により再興され、食糧自給率が回復する。

(ウ)政治制度
主権国家時代の都道府県を整理統合した広域自治体である10数個の「道」に区分された統合領域圏として再編される。主権国家時代は連邦国家ではないにもかかわらず、二院制であったが、革命後は全土民衆会議の一院制に転換する。なお、天皇は一般公民化され、称号のみの存在となる。北方四島は北海道とは別途、ロシア系住民を含む北方特別行政区として、日本語とロシア語の双方が公用語に指定される。

(エ)特記
地震災害が繰り返される地質条件のため、全土レベルの民衆会議(全日本民衆会議)が置かれる政治代表都市は直下型地震が想定される東京ではなく、津波を含めた災害リスクが相対的に少ない内陸部に設置される。一方、東京都は現行23区部の東京特別市と市町村部に分割され、後者は神奈川県と統合された新たな「道」に編入される。

☆別の可能性
旧制固守的な政治風土ゆえ、日本には連続革命が及ばず、旧来の主権国家体制が残存する可能性もある。その場合、沖縄だけが先行的な革命により分離する可能性がある。一方で革命により日本領域圏が成立しても、沖縄が分離しない可能性は上述した。また、北方四島の返還は後述する極東ユーラシア領域圏のロシアからの分離いかんにかかる可能性が高い。

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弁証法の再生(連載第6回)

2024-03-10 | 弁証法の再生

Ⅱ 弁証法の再発見

(5)ヘーゲル弁証法②
 ヘーゲル哲学を支える思考法としての「ヘーゲル弁証法」は、必ずしも主著『精神現象学』の主題ではないが、そこにおける思考の方法として大展開されているため、同書はヘーゲル弁証法の樹立書と目されている。その特徴をひとことで言うならば、二元論の超克ということに尽きる。
 ただし、対立する二項を妥協的に接合する折衷主義でも、二項の最大公約数を抽出する平均主義でもなく、かといって第三項を単純に追加するのでもない、対立する二項から内在的に新たな項を導出するような高次の思考法である。
 ある命題(定立)とその反対命題(反定立)を俗に言う「良い所取り」によって折衷するという思考法は一時的な対立の緩和には役立つが、まさに対立の一時的休戦にすぎない。そこで、より進んで対立命題の最大公約数を抽出するという平均主義は、命題が数学的に割り切れる性質のものであるならば、いちおうの解決をもたらすかもしれないが、そうでなければ、割り切れない結論として対立は未解決である。
 そこで、二項対立を超克するべく、新たな第三項を導入しようとするのは自然な思考の流れであろうが、その際に、定立/反定立命題とは異なる第三項を外部から追加するなら、最初の二項対立が三項鼎立に転化する。これで最初の二項対立は相対化されたとしても、新たに三つ巴の戦いとなりかねない。
 これらの思考法は対立命題を基本的に固定したまま対立の緩和・解消を目指す点では、「悟性的」であるが、「総合」というプロセスを欠いている点で思考法としては不全であるから、根本的な対立の解消にはつながらない。
 その点、ヘーゲルは対立する命題が互いを批判吟味する中で相互媒介によって交差しつつ、最終的に対立を止揚するという思考法を提唱する。止揚によって立ち現れるものは第三項ではあるが、最初の二項と無関係に創出された第三項ではなく、最初の二項が内部的に保存されているような第三項である。
 このような思考法は折衷主義や平均主義のように対立回避的な妥協ではなく、対立を通じて相互に結びつき、対立の最終的な止揚に至るという点では対話的であり、2000年前のソクラテス式問答法を再発見したものとも言えるかもしれない。ただ、ヘーゲルは実際に他者と問答するのではなく、自己の脳裏でこうした問答法的な思考を実践しようとする点で近代的な弁証法ではある。
 ヘーゲルは、こうした思考法を思考法そのもの、あるいは新たな「論理学」の体系として提示したのではなく、彼の言うところの「絶対知」を導出するための思考過程として実践したのである。簡単に言えば、弁証法的思考の反復継続を通じて最終的に到達する最高次の学的知こそが、哲学的な絶対知だというのである。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第15回)

2024-03-01 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

二 汎東方アジア‐オセアニア域圏

(12)南太平洋諸島合同領域圏

(ア)成立経緯
南太平洋地域に広く散在する独立国家及び独立国家の海外領土であった島嶼が独立して成立した8個の領域圏が合同して形成される合同領域圏

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の8圏である。

○メラネシア領域圏
メラネシアに属する島嶼のうち、主権国家のソロモン諸島、バヌアツ、さらにパプアニューギニアから分離するブーゲンビル、フランスから独立するニューカレドニアが合併して成立する連合領域圏。政治代表都市は、ニューカレドニアのヌメア。

○フィジー諸島領域圏
主権国家フィジーを継承する統合領域圏

ウォリス‐フツナ領域圏
フランス海外準県ウォリス‐フツナが独立のうえ成立する統合領域圏

○トンガ領域圏
主権国家トンガを継承する統合領域圏。王制は廃止されるが、王は称号のみの存在として存続。

○統一サモア領域圏
サモア諸島西側のサモア独立国と東側のアメリカ領サモアが独立のうえ統一されて成立する連合領域圏。政治代表都市は、旧サモア独立国のアピア。

○遠ポリネシア領域圏
ポリネシア地域のうち、フランス領ポリネシア、イギリス領ピトケアン諸島、チリ領の旧イースター島ラパ・ヌイが独立、さらにニュージーランドの自治領トケラウと自由連合のクック諸島、ニウエがすべて完全独立したうえで合併し、成立する連合領域圏。政治代表都市は、タヒチ島のパペーテ。

○ハワイ諸島領域圏
アメリカのハワイ州が独立を回復して成立する統合領域圏

○拡大ミクロネシア領域圏
主権国家パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島にアメリカ領の北マリアナ諸島、グアムが独立したうえで合併し、成立する連合領域圏。政治代表都市は、グアムのハガニア。

(ウ)社会経済状況
合同を構成する領域圏は各個単独では漁業依存型の狭小な島嶼領域圏であるが、合同の共通経済計画を通じて社会経済の発達が促進される。海面上昇の危機に直面する領域圏も多いことからも、共通経済計画では環境的持続可能性を最大限に追求する。また合同共通の農業計画も、持続可能的な自給農業の発展に貢献する。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、ハワイのホノルルに置かれる。最も広域に展開する海洋型合同領域圏であるため、合同海上保安センターを共同運用する。

(オ)特記
旧版では、日本から分離する沖縄諸島や東ティモールまで包括するアジア‐太平洋合同領域圏を提示していたは、合同するには広大な領域に及びすぎることから、沖縄と東ティモールは除外し、改めて南太平洋合同領域圏として提示した。

☆別の可能性
可能性は高くないが、パプアニューギニアと西パプアがニューギニアが連合領域圏として再編された場合、当合同領域圏に包摂される可能性もあり得る。また、独立気風の強いブーゲンビルはメラネシア連合領域圏に参加せず、単立の領域圏となる可能性もある。最悪の可能性として、当合同領域圏に包摂されるはずの少なからぬ島嶼が海面上昇の進行により居住困難または不能となり、独立した領域圏として成立しない可能性もある。その場合は、南太平洋直轄自治圏(後述)として世界共同体の直轄下に置かれる。

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弁証法の再生(連載第5回)

2024-02-29 | 弁証法の再生

Ⅱ 弁証法の再発見

(4)ヘーゲル弁証法①
 アリストテレスによって弁証法が論理学より下位のいち推論法に格下げされて以来、実に2000年近くにわたって弁証法は事実上忘却されたままであった。それを2000年の眠りから覚まさせたのは、ドイツの哲学者ヘーゲルである。
 ヘーゲルはカントの観念論が隆盛であった近世ドイツで、カント哲学の研究と習得から始めて、その観念論の克服を目指していた。その過程で、彼は後に弁証法をヘーゲル流の仕方で再発見したのだと言える。その概要は彼の主著でもある『精神現象学』に収められている。
 ヘーゲルがアリストテレスによって格下げされた弁証法を再発見したのは、彼がアリストテレス流の形式論理学とその土台となっている形式主義的・概念操作主義的な「体系的知」—それは近代科学への道でもある—とは別に、事物の自然な本質規定の認識に到達するような「学的知」を導く思考過程に関心を向けたからであった。
 このような問題意識はおそらく、カント哲学における認識と「物自体」の不一致という欠点を克服し、宗教的意識にも関連する絶対知への到達を試みようとするところから生じた。大胆に言えば、ヘーゲルはアリストテレスを遡って、プラトンのイデア論を近代哲学的に改めて再解釈しようとしたのである。
 ただし、プラトンがイデアの把握の道を弁証法より以上に幾何学に求めようとしたのに対して、ヘーゲルは改めて弁証法に焦点を当て、弁証法を通じてヘーゲル流のイデア=絶対知へと到達しようとしたのである。そうしたヘーゲルの思考の道程そのものが一冊の書としてまとめられたのが『精神現象学』であるが、様々に研究されてきたこの書の内容をここで逐一紹介することはできない。
 ここで触れておきたいのは、『精神現象学』には二重の含意があるということである。一つは『精神現象学』の実質的な内容である。すなわち、そのタイトルどおり、「精神の現象」について扱った言わば精神の哲学としての内容である。
 もう一つは、この書で適用されている弁証法的思考法そのものである。これはしばしば「弁証法的論理学」とも呼ばれるが、先に述べたとおり、ヘーゲルはアリストテレス流の形式論理学に対抗する形で「学的知」への到達を目指したので、「論理学」を冠するのは妥当と思われない。
 この二つの含意のうち、ヘーゲルが主題的に扱ったのは前者であり、後者の弁証法的思考法は必ずしも主題ではないのであるが、晩年の主著『法の哲学』に至るまで、ヘーゲル哲学を支える思考法として維持されていくものを「ヘーゲル弁証法」と規定することにする。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第14回)

2024-02-19 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

二 汎東方アジア‐オセアニア域圏

(10)オーストラリア

(ア)成立経緯
主権国家オーストラリア連邦を継承する連合領域圏。ただし、インドネシアに近い飛び地(島)のクリスマス島はインドネシアに編入される。

(イ)社会経済状況
オセアニアでは最も発達した資本主義経済国であるが、天然資源の潜在価値による資本流入で補填する資源モノカルチャーの脆弱な経済構造を持っているところ、世界共同体による天然資源管理の体制が整備されると、そうした経済構造にも終止符が打たれる。持続可能的計画経済への移行により、一度は消滅していた自動車生産など、市場規模の限界ゆえに従来低調だった独自の製造業の育成も行われる。また、持続可能的な農牧業計画により、過剰取水や塩害などの生態学的諸問題も解消する。

(ウ)政治制度
主権国家時代の州に、北部準州、離島部の有人島であるココス諸島、ノーフォーク島も州に加えて、それぞれ同等の自治権を持つ準領域圏とする。また先住民も、複数の民族自治体を構成して連合民衆会議に代議員を送る。

(エ)特記
旧版では、クリスマス島を現行どおりオーストラリアに含めていたが、アジア系住民が多いことや、世界共同体の飛び地禁止原則を島嶼部にも適用して、インドネシアに編入する構成とした。

☆別の可能性
ニュージーランドとの中間点に所在し、ニュージーランドとの関係が強いノーフォーク島については、ニュージーランドに編入される可能性もある。また、飛び地に準じるココス諸島についても、より近いインドネシアに編入される可能性がなくはない。

 

(11)ニュージーランド

(ア)成立経緯
主権国家ニュージーランドを継承する統合領域圏。ただし、自治領トケラウと自由連合のクック諸島、ニウエは分離し、新設の遠ポリネシア領域圏(後述)に編入される。

(イ)社会経済状況
畜産を軸とした持続可能的計画経済が実施される。旧酪農生産者協同組合にして、最大企業体でもあるフォンテラを主要な母体とする農業畜産計画機関が主導し、温暖化に悪影響を及ぼす家畜のメタンガスを規制するための計画畜産の先進的取り組みが行なわれる。オーストラリアとは資本主義時代からの緊密な経済関係を継承し、経済協力協定を結ぶ。また、旧自治領や自由連合を含む遠ポリネシア領域圏とも経済協力協定を結ぶ。

(ウ)政治制度
主権国家時代の構成を継承する10を超える地方圏から成る統合領域圏。特別領だった離島チャタム諸島も正式に地方圏となる。先住民マオリは民族自治体を構成し、全土民衆会議に代議員を送る。

(エ)特記
法的には英領ながら、事実上ニュージーランドの保護下にあった辺境離島ピトケアン諸島も遠ポリネシア領域圏に編入される。

☆別の可能性
可能性としては高いと言えないが、オーストラリアとは経済協力協定を超えて共通経済計画を備えた合同領域圏となる可能性もなくはない。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第13回)

2024-02-13 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

二 汎東方アジア‐オセアニア域圏

(7)インドネシア

(ア)成立経緯
主権国家インドネシアを継承する複合領域圏。ただし、ニューギニア島西半部は西パプア領域圏として分離する。また、後述のように、西ティモールのうち、東ティモールとその飛び地を結ぶ回廊地帯は東ティモールに編入される。一方、ジャワ島に近く、オーストラリアの一種の飛び地(島)であるクリスマス島がインドネシアに編入される。

(イ)社会経済状況
農林業を基軸とするが、特に林業分野では森林破壊を歯止める持続可能的林業のモデル的成功例となる。また、インドネシアでは、資本主義の時代から主要産業は戦略的に国有化する混合経済体制を採っていたことから、国有企業を共産主義的な生産事業機構に移行し、これを土台として持続可能的計画経済に比較的スムーズに移行する。

(ウ)政治制度
民族的・宗教的な独自性の強いアチェ州とバリ州は準領域圏として高度な自治が認められる複合領域圏である。東南アジア最大級にして、強い政治経済力を備えていた国軍は、世界共同体憲章の常備軍禁止条項に基づき廃止される。

(エ)特記
長く分離独立運動が継続され、インドネシア最後の紛争地域となっていたニューギニア島西半部(旧イリアンジャヤ)の平和的な独立は、世界共同体革命の主要な成果の一つとなる。それを可能とする要因は、天然資源の管理が世界共同体の直轄に移行し、この地域に豊富な石油や天然ガス資源の潜在的な権益をインドネシアが喪失することにある。

☆別の可能性
インドネシアは長く東南アジアにおける反共の砦となってきただけに、共産主義革命が不発に終わる可能性もある。より望ましくない可能性は、革命が強大な国軍勢力によって流血弾圧される可能性である。

 

(8)東ティモール

(ア)成立経緯
インドネシアから独立した東ティモール共和国を継承する統合領域圏。ただし、世界共同体の飛び地禁止原則により、インドネシアの西ティモール地方のうち、東ティモールとその飛び地オエクシ‐アンベノを結ぶ回廊地帯は東ティモールに編入される。

(イ)社会経済状況
持続可能的農業を主産業とする。独立以来、依存してきた石油採掘は世界共同体の直轄管理に移される。インドネシアとの経済協力協定により、インドネシアとの共通経済計画が適用される。

(ウ)政治制度
インドネシアと合同領域圏は組まないものの、上述の共通経済計画を共有するインドネシアの民衆会議にオブザーバを送る。

(エ)特記
旧版では、東ティモールと次項の両ニューギニアを合わせて「アジア‐太平洋諸島合同領域圏」に含めていたが、補訂版では広汎に過ぎた「アジア‐太平洋諸島合同領域圏」を「南太平洋諸島合同領域圏」に縮減したことに伴い、単立の領域圏とした。

☆別の可能性
可能性としては高くないが、飛び地のオエクシ‐アンベノがインドネシアに再編入される可能性もなくはない。


(9)ニューギニア合同

(ア)成立経緯
ニューギニア島東半部及び周辺小島から成るパプアニューギニア領域圏と、インドネシアから分離して成立する西パプア領域圏が合同して成立する合同領域圏

(イ)構成領域圏

合同を構成する領域圏は、次の2圏である。

パプアニューギニア
主権国家パプアニューギニアを継承する統合領域圏。ただし、紛争地域ブーゲンビル島は分離し、メラネシア連合領域圏に編入される。

西パプア
インドネシアのニューギニア島西半部及びその周辺小島の領土が分離し、単立の領域圏として自立して成立する統合領域圏

(ウ)社会経済状況
持続可能艇的な農業及び食品工業が主産業となる。パプアニューギニア、西パプア両領域圏ともに、山間部では自給自足の原初的共産主義経済が維持される。また、零細の協同労働グループによる手工業が発達する。

(エ)政治制度
合同領域圏は、各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、パプアニューギニアの政治代表都市ポートモレスビーと西パプアの政治代表都市ジャヤプラで交互に開催される。

(オ)特記
旧版では、東ティモールとともに、両ニューギニアを「アジア‐太平洋諸島合同領域圏」に含めていたが、補訂版では「アジア‐太平洋諸島合同領域圏」を「南太平洋諸島合同領域圏」に縮減したことに伴い、独立の合同領域圏とした。

☆別の可能性
西パプアが分立する場合、パプアニューギニアとは長く別国だった経緯からも可能性は高くないが、合併して連合領域圏となる可能性もなくはない。他方、望ましくない可能性として、インドネシアが西パプアの分離を容認せず、紛争が継続・激化する可能性もある。

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弁証法の再生(連載第4回)

2024-02-09 | 弁証法の再生

Ⅰ 問答法としての弁証法

(3)弁証法の第一次退潮期
 ソクラテスが真理に到達するための問答法として提起した弁証法は、弟子のプラトンに継受されていくが、プラトンにおいては、より緻密化され、対象を自然の本性に従って総合し、かつ解析していく「分析法」へと発展せられた。
 対象事物を微細に分割しつつ、その本性を解明しようとする分析という所為は、今日では諸科学において当然のごとくに実践されているが、プラトンにとって、こうした分析=弁証法こそが、もう一つの方法である幾何学と並び、事物の本性—イデア—に到達する思考手段であった。
 もっとも、プラトンにとってのイデアとは見られるものとしての幾何学的図形を典型としたから、弁証法より幾何学のほうに優位性が置かれていたと考えられる。このようなプラトンの分析=弁証法は、ソクラテスの問答=弁証法に比べると、問答という対話的要素が後退し、対象の本性を解明するための学術的な方法論へと一歩踏み出していることがわかる。
 このような弁証法のアカデミズム化をさらに大きく推進したのが、プラトンの弟子アリストテレスであった。彼は分析=弁証法という師の概念を弁証法自体にも適用することによって、いくつかの推論法パターンを分類したが、そのうちの一つが蓋然的な通念に基づく弁証法的推論というものであった。
 ここでの弁証法的推論とは、社会において通念となっているために真理としての蓋然性が認められる概念に基づいた推論法ということであるが、その前提的出発概念である社会通念は必ずしも絶対的に真理性のあるものではなく、社会の多数によって共通認識とされていることで蓋然的に真理性が推定されるにすぎないから、推論法の中では第二次的な地位にとどまることとなった。
 アリストテレスの分類上、弁証法的推論法は、より不確かな前提から出発する論争的推論法よりは相対的に確実性の高い推論法ではあるのだが、彼にとっては、絶対的真理である前提から出発する論証的推論法こそが、最も確実な第一次的推論法なのであった。
 このような論証的推論法は、三段論法に象徴される「形式論理学」として定式化され、アリストテレス以降、哲学的思考法の中心に据えられ、西洋中世に至ると、大学における基礎的教養課程を成す自由七科の一つにまで定着した。
 こうして、「万学の祖」を冠されるアリストテレスにより弁証法が論証法(論理学)より劣位の第二次的な思考法に後退させられたことで、弁証法は長い閉塞の時代を迎える。これを、20世紀後半以降の現代における弁証法の退潮期と対比して、「弁証法の第一次退潮期」と呼ぶことができる。

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