石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(145)

2024-04-23 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第5章:二つのこよみ(西暦とヒジュラ暦)(31

 

145二つの予言:「歴史の終わり」と「文明の衝突」(5/5)

 1981年のレーガン大統領から1993年のブッシュ(父)大統領まで続いた共和党政権は、米国が自国の正しさを確認し、自分たちが神に選ばれ世界平和の使命を与えられたと確信した時代であった。米国はアフガニスタンからソ連を撤退させ、東西ドイツ統一を推進し、イラン・イラク戦争で世俗政権のイラクを支援した。そして経済の分野では自由貿易による単一市場化(グローバリゼーション)を押し付け、世界経済における米国の力を不動のものにしたのである。

 

 このシナリオはまさにフクヤマの「歴史の終わり」そのものである。フクヤマは決して歴史が終わると言っているのではない。彼は冷戦が終わった後の世界は民主主義と市場経済が唯一のイデオロギーへと収れんする歴史の最終章の始まりだ、と説いたのである。20世紀末にこのような一種の歴史終末論を主張したことが「歴史の終わり」をベストセラーたらしめたのである。

 

米国は独裁者フセインを湾岸戦争で力づくで封じ込めてアラブ・イスラム諸国の為政者たちを震え上がらせ、フクヤマの「歴史の終わり」を中東に実現させて21世紀を迎えるつもりであった。しかしフクヤマの思想に異議を唱えたのがハンチントンの「文明の衝突」であった。不幸にして21世紀はハンチントンの予言を裏付けるような9.11同時多発テロ事件で幕を開けたのであった。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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IMF世界経済見通し(2024年4月):低成長続く先進国、高成長続くインド(3)

2024-04-23 | その他

(トップは米国、日本は中国ドイツに次いで世界4位!)

3.世界の名目GDP(表http://menadabase.maeda1.jp/1-B-2-12.pdf参照) 

 2024年の全世界のGDP総額は109兆5,292億ドルと見通されている。トップは米国の28兆7,811億ドルであり、2位は中国の18兆5,326億ドルである。全世界のGDPに占める割合はそれぞれ26%及び17%、両国だけで世界のGDPの4割強を占め、3位のドイツ以下を大きく引き離している。

 

 GDP世界第3位はドイツ(4兆5,911億ドル)、4位日本(4兆1,105億ドル)、5位インド(3兆9,370億ドル)であり、上位5カ国の合計GDPは世界全体の55%を占めている。日本とインドのGDPの差はわずか1,735億ドルに過ぎず、前章で触れた通り両者の成長率に大きな開きがあるため、インドが日本を追い抜くのは時間の問題である(次項参照)。

 

 6位から10位までは英国、フランス、ブラジル、イタリア及びカナダである。因みに上位10カ国の合計GDPは全世界の67%を占め、世界の富の3分の2は世界200カ国強のわずか5%の国が生み出しているのが現状である。

 

 11位のロシア以下20位スイスまでにはオーストラリア(13位)、韓国(14位)の他、中東のトルコ(18位)及びサウジアラビア(19位)が入っており、世界20位までの国々の合計GDPは世界全体の8割強を占めている。

 

 上記トルコ、サウジアラビア以外の中東各国を見ると、イスラエルとUAEが5兆3千億ドルで世界29位及び30位であり、イランは世界35位、エジプトは同43位である。

 

 経済圏で見るとG7構成国の合計GDPは49兆ドルで全世界の44%を占め、EUは同19兆ドルでほぼ中国一国と肩を並べる水準である。また東南アジアのASEAN5か国のGDP総額は3兆5千億ドルであり、中東・中央アジア圏のGDP総額は5兆ドル弱である。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

     前田 高行     〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

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中東と石油のニュース(4月22日)

2024-04-22 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

 

(中東関連ニュース)

・イラン、イスラエル攻撃抑え更なる報復控える論調

・ハメネイ師、軍幹部に訓示。イスラエル攻撃を称賛、イスファハンには言及せず

・イスラエル、ガザのRafah空爆続行、市民22人死亡。西岸地区でも衝突

・トルコ大統領、ハマストップと会談。仲介役目指すも内政に難問

・カタール首長、フィリピン、バングラデシュなどアジア3カ国歴訪へ

・クウェイト:皇太子未定のため首相を副首長に任命

 

 

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IMF世界経済見通し(2024年4月):低成長続く先進国、高成長続くインド(2)

2024-04-22 | その他

(高度成長を続けるインド、成長率5%前後に収斂しつつある中国!)

2.主要国の2021-2025年GDP成長率推移(図http://menadabase.maeda1.jp/2-B-2-05.pdf参照) 

 日本、米国、中国、インド及びサウジアラビア5カ国に全世界を加えた2021年から2025年まで5年間のGDP成長率の推移を見ると以下のとおりである。

 

 まず2021年の実績成長率はインドが9.7%と最も高く、これに次ぐのが中国の8.5%、米国5.8%、サウジアラビア5.1%であり、日本は5カ国の中で最も低い2.6%であった。因みに全世界の2021年GDP成長率は6.5%であり、インド、中国より低く、米国より高かった。

 

 この順位はサウジアラビアを除き5か年を通じてほぼ変わらない。インドの5年間の成長率は、9.7%(2021年)→7.0%(2022年)→7.8%(2023年)→6.8%(2024年)→6.5%(2025年)であり、年々低下する傾向にあるが、2022年を除けば5カ国の中で最も高い成長率を持続している(注、2022年はサウジアラビアが7.5%でインドより高い)。

 

 インドに次いで成長率が高いのは中国である。同国の5か年間の成長率は8.5%→3.0%→5.2%→4.6%→4.1%であり、2022年以外は世界平均を上回る成長率を示している。但しかつてのような高度成長は望めず、長期的には5%前後に落ち着きそうな気配である。

 

 サウジアラビアの成長率は5.1%(2021年)→7.5%(2022年)→▲0.8%(2023年)→2.6%(2024年)→6.0%(2025年)と変動が激しい。同国のGDPは石油が太宗を占めており、世界の石油需要と価格に左右されることが原因と考えられる。

 

 米国と日本はインド、中国よりもかなり低い成長を余儀なくされており、2022年以降は米国は2%前後、日本は1%前後の成長率にとどまっている。両国の5か年の推移を見ると、米国は5.8%(2021年)→1.9%(2022年)→2.5%(2023年)→2.7%(2024年)→1.9%(2025年)であり、日本は2.6%(2021年)→1.0%(2022年)→1.9%(2023年)→0.9%(2024年)→1.0%(2025年)である。

 

(続く)

 

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IMF世界経済見通し(2024年4月):低成長続く先進国、高成長続くインド(1)

2024-04-20 | その他

IMF(国際通貨基金)が「世界経済見通し(World Economic Outlook、April 2024)」(以下、WEO)を発表した。 また付属資料として世界各国及び地域の主要な経済指標を示した「データベース(World Economic Outlook Database)」も同時に公表した。

 

本稿では世界、主要経済圏、主要国の今年(2024年)及び来年(2025年)の成長率を比較し、また前回1月の経済見通し(World Economic Outlook Update)に対してGDP成長率がどのように見直されたかを検討する。さらに主要5カ国及び世界平均の2021年以降の5か年の成長率の推移を比較する。また今年の名目GDP(at current price)及び一人当たりGDPについても併せて検証する。

 

*WEOレポート:

https://www.imf.org/en/Publications/WEO/Issues/2024/04/16/world-economic-outlook-april-2024

*同データベース

https://www.imf.org/en/Publications/WEO/weo-database/2024/April

 

(今年と来年の世界の成長率は3.2%、中国4.6%、前回1月とほぼ変わらず!)

1.2024/25年のGDP成長率(表http://menadabase.maeda1.jp/1-B-2-08.pdf参照) 

 今回4月見通しでは今年の世界の成長率は3.2%とされており、前回1月(3.1%)とほぼ変わらない。米国の今年の成長率は2.7%であり、1月見通し(2.1%)より成長が加速すると予測している。因みに来年の成長率は1.9%とされ、今年よりも低下する見込みである。日本の今年と来年の成長率はそれぞれ0.9%及び1.0%の低成長が続くと予測される。ヨーロッパの独は、昨年のマイナス成長(▲0.3%)から今年は0.2%のプラス成長に戻り、来年は日本を上回る1.3%成長の見込みである。しかし1月見通しよりも回復の足取りは重く、依然低成長のままである。

 

 中国のGDP成長率は今年4.6%、来年4.1%であり、来年は成長率が下がる。両年とも1月見通しから変わっていない。インドの成長率は今年6.8%、来年6.5%であり、共に世界平均を2倍以上上回る高度成長が見込まれている。ASEAN5カ国は今年4.5%、来年4.6%であり、中国とほぼ同じである。

 

 ロシアはウクライナ紛争の先行きが見えないものの石油・天然ガスの生産輸出は堅調である。このため同国の今年の成長率は3.2%である。但し来年は1.8%と大幅に下落すると見込まれ、ウクライナ紛争が影を落としている。

 

中東の主要国を見ると、今年の成長率はサウジアラビア2.6%、エジプト3.0%、トルコ3.1%、イラン3.3%でありほぼ世界平均の水準である。来年については4カ国はそれぞれ6.0%、4.4%、3.2%及び3.1%であり、今年と全く逆の序列である。

 

(続く)

 

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(144)

2024-04-20 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第5章:二つのこよみ(西暦とヒジュラ暦)(30

 

144二つの予言:「歴史の終わり」と「文明の衝突」(4/5)

 フクシマの「歴史の終わり」は、ベルリンの壁が崩壊し(1987年)、ソ連が解体して(1991年)世界が米国一強時代になった時代、即ち社会主義・共産主義が駆逐され、自由主義・資本主義がデファクト・スタンダード(事実上の世界標準)になった時代の申し子として生まれた。一方、ハンチントンの「文明の衝突」はイラン革命(1979年)、ソ連のアフガニスタン侵攻と撤退(1990年~1989年)、さらには湾岸戦争(1991年)と続く中東の激変の歴史に強く影響を受けたことは間違いないであろう。

 

 劇的に変化する歴史のパラダイムシフトの中でこれら2冊の思想書が世に出たが、それらと並行して実践的なイデオロギーとして米国で頭角を現わしたのが「新保守主義(Neo Conservatism)」、いわゆる「ネオコン」である。ネオコンそのものの歴史は1930年代までに遡るが、第二次大戦後の米ソ冷戦時代にソ連との緊張緩和(デタント)に反対する勢力の理論的支柱として育っていった。そしてそのネオコンを支えたのは在米ユダヤ人たちイスラエル・ロビーである。

 

 1964年の共和党大統領候補バリー・ゴールドウォーターが行った演説は保守派の熱狂的な支持を集め共和党の主流となった。

 「自由を守るための急進主義は、いかなる意味においても悪徳ではない。そして、正義を追求しようとする際の穏健主義は、いかなる意味においても美徳ではない」

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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今週の各社プレスリリースから(4/14-4/20)

2024-04-20 | 今週のエネルギー関連新聞発表

4/16 出光興産

資本業務提携に関する合意書の締結及び出光興産による富士石油株式会社(証券コード:5017)株式の買集め行為に該当する株式取得について

https://ssl4.eir-parts.net/doc/5019/tdnet/2422295/00.pdf

 

4/16 bp

bp begins oil production from major new platform offshore Azerbaijan

https://www.bp.com/en/global/corporate/news-and-insights/press-releases/bp-begins-oil-production-from-major-new-platform-offshore-azerbaijan.html

 

4/17 石油連盟

木藤 石油連盟会長定例記者会見 発言要旨・配布資料

https://www.paj.gr.jp/news/931

 

4/19 経済産業省

吉田経済産業大臣政務官がアラブ首長国連邦に出張しました

https://www.meti.go.jp/press/2024/04/20240419006/20240419006.html

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中東と石油のニュース(4月19日)

2024-04-19 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・原油下げ止まる。Brent $87.42, WTI $82.75

(中東関連ニュース)

・ネタニヤフ首相:イスラエルのことはイスラエルが決める。国際世論に強気発言

・イラン外相、米国にメッセージ:紛争の拡大は意図していない

・上川外相、イラン外相と電話会談

・イランIRGC幹部:核施設攻撃ならイスラエルにしっぺ返し

・カタール首相:政治家の点数稼ぎでガザ停戦仲介努力は台無し

・米英がイランのドローン関連企業個人に新たな制裁措置

・ドバイ、75年ぶりの洪水復旧に追われる

 

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(143)

2024-04-18 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第5章:二つのこよみ(西暦とヒジュラ暦)(29

 

143二つの予言:「歴史の終わり」と「文明の衝突」(3/5)

これに対してイスラム文明は14世紀のムハンマドに始まる宗教(心の絆)を中核とする文明であり、東方正教会文明も同じくキリスト教文化という宗教に根差した文明である。そして中華文明及びヒンズー文明は世界四大文明とされる黄河文明、インダス文明、エジプト文明、メソポタミア文明のうちの黄河文明及びインダス文明の流れを汲み、民族(血の絆)を中核とする文明と見ることができる。(エジプト文明及びメソポタミア文明は継承するものが無く、考古学上の文明として名を残すにとどまっている。)ラテンアメリカ文明や日本文明もこの民族(血の絆)の文明の範疇に入ると考えられる。ただ現在のわれわれ日本人にとっては「日本文明」という呼称に違和感を覚え、むしろ「日本文化」と言い方が一般化しているようである。

 

 「文明」と「文化」は英語ではそれぞれcivilizationとcultureであるが、一般にはほぼ同じ意味で使われている。広辞苑によれば文明(civilization)は「「宗教・道徳・学芸などの精神的所産としての文化に対し、人間の技術的・物質的所産」であり、他方、文化(culture)は「人間が自然に手を加えて形成してきた物心両面の成果」としており、文化の方が文明より意味が広いようである。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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中東と石油のニュース(4月17日)

2024-04-17 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・中東情勢不安と中国経済回復で原油価格上昇。Brent $90.30, WTI $85.62

(中東関連ニュース)

・イスラエル軍、イラン反撃を目指す。自制求める国際世論

・イラン、イスラエルの攻撃に備え原子力関連施設を閉鎖。IAEA監視員退去

・クウェイト新首相にAhmad Abdullah指名

・オマーンで豪雨。通学バス洪水に巻き込まれるなど死者17人

・IMF、世界経済見通し発表。今年の世界平均成長率3.2%

(注)世界及び中東主要国の成長見通しは追って本ブログでレポートします。

 

 

 

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