石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

現地紙記事転載:「イラン製ドローン兵器はどのようにしてイエメン、ウクライナそしてイスラエルに向かったのか?」(抄訳)

2024-04-16 | 中東諸国の動向

以下は英国人ジャーナリストJonathan Gornall が2024年4月14日付けArab Newsに寄稿した論文の抄訳です。(原文https://www.arabnews.com/node/2493191/middle-east参照)

 

イラン航空・航空技術産業開発本部のマヌーチェル・マンテキ所長は、イスラム共和国は現在、ドローンを自給自足で生産できるようになったと語っている。

 

イランは、イラン・イラク戦争中に初めて監視用ドローンの開発に着手した。イラン初の無人航空機は、イラン航空機製造工業会社が 1980 年代に製造したローテク監視無人機アバビルであった。このドローンは 1985 年に初飛行し、すぐにクッズ航空工業会社が開発したモハジャーが加わった。

 

2022年4月のイラン陸軍記念日に公開されたアバビル5号の射程は約480キロで、最大6発のスマート爆弾またはミサイルを搭載できる。昨年8月22日に打ち上げられたモハジャー10は、見た目も機能もアメリカのMQ-9リーパーによく似た、さらに高性能なハイテク無人航空機である。同機は複数のミサイルを装備し、最大高度 7,000メートルで 24 時間飛行することができ、射程距離は 2,000 km であるとされる。これが事実であれば、中東のほぼどこの標的も攻撃できることを意味する。

 

2022年7月にイラン議会国家安全保障・外交政策委員会のメンバーであるジャワド・カリミ・コドゥーシは国営通信社IRNAに「シオニスト政権に立ち向かういかなる個人、集団、国も、イスラム共和国は全力で彼等を支援し、ドローンの分野で知識を提供することができる」と述べている。この地域では襲撃事件が相次ぎ、2021年までにイランの無人機技術が中東全域の非国家主体や民兵の手に渡っていることが明らかとなった。米中央軍司令官フランク・マッケンジー海兵隊大将は、2021年5月のイラク訪問中に講演し、「イランの無人機技術の広範な拡散により、誰がこの地域で致命的な無人機攻撃を行ったのか、したがって誰が責任を負うべきなのかを知ることはほぼ不可能になっている。」と語っている。

 

イランは安価なクラスのUAV、いわゆる「徘徊兵器」、または自爆用ドローンを開発し、革命防衛隊と連携したシャヘド航空産業研究センターによって大量に製造している。2019年9月、イエメンの反政府勢力フーシ派は、サウジアラビア東部のアブカイクとクライスにあるサウジアラムコの石油施設に対する25機のドローンやその他のミサイルによる攻撃の犯行声明を出している。サウジに向けて発射された兵器の中にはデルタ翼のシャヘド136無人機が含まれている。2021年には、4機のドローンがサウジアラビア南部のアブハにある民間空港を標的にし、2022年1月には、アブダビにある国際空港と石油貯蔵施設の2か所をドローンが攻撃し、作業員3名が死亡した。

 

さらにワシントン近東政策研究所は、イランが「特攻無人機の製造をベネズエラにアウトソーシングしている可能性がある」と結論づけており、ボリビアもイランの無人機技術の取得に関心を示している。

南米でこうした兵器の市場を開拓しているのはイランだけではない。 2022年12月、軍事諜報・分析組織ジェーンズは、アルゼンチンがイスラエルの兵器会社ユーヴィジョン社が製造する人間携帯型の対人兵器および対戦車ドローン兵器を購入する契約をイスラエル国防省と結んだとしている。

 

 イランにとってドローン技術の最も重要な顧客はロシアである。2022年9月、ウクライナで撃墜された無人機がイラン製であることが判明した。ゼレンスキー大統領は「我々は撃墜したイラン製無人機を多数保有しており、これらは国民を殺害するためにロシアに売却され、民間インフラや平和的な民間人に対して使用されている」と語っている。また英国は国連安全保障理事会で「ロシアは数千機のイラン製シャヒド無人機を調達し、ウクライナの電力インフラに対するキャンペーンに使用してきた。電力インフラを奪うことでウクライナを屈服させることを目的としている」と述べている。

 

 イランが4月13日土曜日の夜、イスラエルに対して初めて公然と直接攻撃を行い、一度に170機の無人機の群れを発射して何を達成しようとしたのかは不明である。 イスラエルに向けて発射された無人機の大部分と巡航ミサイル30及び弾道ミサイル120発は、アメリカ軍或いはイスラエルによって撃墜された。失敗に終わったと伝えられている攻撃は、低速のドローンが高度な防空システムに対して極めて脆弱であることを証明しただけである。

 

 「ドローン」という言葉は、第二次世界大戦中にイギリスがタイガーモス複葉機を改造して、対空砲撃訓練用の無人ラジコン標的として運用するために初めて使われた。世界初の近代的な軍事監視無人機と考えられるプロペラ駆動のマスティフを開発したのはイスラエルで、1973年に初飛行した。マスティフは米軍に買収されたため、米国の航空宇宙会社であるAAIと政府所有のイスラエル航空宇宙産業との提携が始まった。戦場兵器としてのドローンの進歩は、1970 年代後半に米国に移住したイスラエル空軍の元設計者、アブラハム カレムのおかげで実現した。 彼の GNAT 750 無人機はゼネラル アトミックス社に買収され、1993 年と 1994 年にボスニア ヘルツェゴビナ上空で CIA によって広範囲に運用され、これは衛星にリンクされた RQ-1 プレデターに進化した。

 

2001年11月14日、ウズベキスタンの米空軍基地から離陸したプレデターが、カブール近郊の建物にヘルファイア・ミサイル2発を発射し、オサマ・ビン・ラディンの義理の息子であるモハメド・アテフ他数人のアル・カーイダ幹部が死亡した。それ以来遠隔操作兵器システムのおかげで、空からの静かな死はアメリカの軍事力の象徴となった。 このことは、2020年1月3日にバグダッド空港でドローン攻撃によってイスラム革命防衛隊コッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官が殺害されたことよって明らかになった。彼を殺害した無人機MQ-9リーパーは、12,000キロ以上離れたネバダ州の米空軍基地のオペレーターによって制御されていたのである。

 

ジョナサン・ゴーノール

 

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(142)

2024-04-16 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第5章:二つのこよみ(西暦とヒジュラ暦)(28

 

142二つの予言:「歴史の終わり」と「文明の衝突」(2/5)

フクヤマは、21世紀の世界は民主主義と市場経済が定着したグローバル社会となり、もはやイデオロギーなどの大きな歴史的対立がなくなる「歴史の終わり」の時代になろう、と予言している。一方、ハンチントンは21世紀の世界は地球規模の一体化という方向ではなく、むしろ数多くの文明の単位に分裂してゆき、相互に対立・衝突する流れが新しい世界秩序の基調になる、というものである。

 

ハンチントンは現代の主要文明として西欧文明、イスラム文明、中華文明、ヒンズー文明のほか東方正教会文明、ラテンアメリカ文明及び日本文明の7つを挙げている。通常民俗学、地政学的には極東アジアの範疇に入る日本をハンチントンは独立した文明と捉えていることは興味深い。これら7つの文明の中で西欧文明が最も新しく18世紀の産業革命から始まったものであり、自由主義、資本主義といったイデオロギー(智)を中核としている。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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中東と石油のニュース(4月15日)

2024-04-15 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

 

(中東関連ニュース)

・イスラエル:イランのドローン、ミサイル 99%迎撃

・国連安保理:イランのイスラエル攻撃問題で非難の応酬

・G7オンライン会合:イランを非難、自制呼びかけ

・ハマスとイスラエル共に譲らず、ガザ停戦交渉行き詰まる

・米はイスラエルの報復攻撃に加わらない:電話協議でバイデン大統領

・ヨルダン、イラク、レバノン:領空封鎖解除

・イラク首相、米国訪問。駐留米軍問題など協議

 

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石油と中東のニュース(4月13日)ーイラン攻撃特報

2024-04-14 | 今日のニュース

(イラン、イスラエル攻撃関連ニュース)

・イラン、史上初のイスラエル直接攻撃。100発以上の無人爆撃機使用

・イラン政府声明発表:400-500機の無人機がイスラエルに向け飛行中

・ヨルダンと米軍、無人機多数を迎撃

・ヨルダン、領空閉鎖して民間航空機離発着停止

・イラン、ヨルダンに警告。イスラエルに協力すれば次の目標になる

・サウジアラビア、関係国に自制を要請

・イラン革命防衛隊、ホルムズ海峡近くでコンテナ船拿捕

・イスラエル、レバノン国境地帯を空爆、ヒズボッラーとの戦闘激化

・国連緊急安保理、14日(日)に開催

 

 

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(141)

2024-04-13 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第5章:二つのこよみ(西暦とヒジュラ暦)(27

 

141二つの予言:「歴史の終わり」と「文明の衝突」(1/5)

 20世紀も残すところ10年となった1990年代、米国の二人の政治学者が相次いで発表した著書が大きな評判を呼んだ。1992年に出版されたフランシス・フクヤマの「歴史の終わり」と1996年に出版されたサミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」である。世紀末が近づくと「ハルマゲドン」或いは「ノストラダムスの大予言」など世界の終末をおどろおどろしく語るキワモノが出回るが、「歴史の終わり」と「文明の衝突」は高名な学者による文明論である。但し二人の論調は対照的である。

 

 二つの著書は中東アラブ・イスラム世界だけ取り上げたものではないが、中東は有史以来東西文明の交叉点として歴史に翻弄されてきた。その意味では中東の歴史を見るうえで両書が示唆するところは大きい。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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今週の各社プレスリリースから(4/7-4/13)

2024-04-13 | 今週のエネルギー関連新聞発表

4/8 ENEOS

国内石油業界初ENEOS石油製品のCFPを提供開始

https://www.eneos.co.jp/newsrelease/upload_pdf/20240408_01_01_1040009.pdf

 

4/9 住友商事/JX石油開発

JX 石油開発・住友商事が米国ルイジアナ州における大規模 SAF/BECCS 事業に参画

https://www.nex.jx-group.co.jp/newsrelease/upload_files/NOEX20240409JP.pdf

 

4/9 コスモエネルギーホールディングス

国内初、トラックターミナル内における燃料電池商用車向け水素ステーション 岩谷コスモ水素ステーション平和島の開所について

https://www.cosmo-energy.co.jp/ja/information/press/2024/240409-01.html

 

4/11 出光興産

SAF 原料の確保と北米でのビジネス展開を視野に全農グレインと協業

https://ssl4.eir-parts.net/doc/5019/tdnet/2419964/00.pdf

 

4/12 経済産業省

令和4年度(2022年度)エネルギー需給実績を取りまとめました(確報)

https://www.meti.go.jp/press/2024/04/20240412001/20240412001.html

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石油と中東のニュース(4月12日)

2024-04-12 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・米利下げ先送り見通しで原油価格微落。Brent$90維持。WTI $85.91

(中東関連ニュース)

・イランハメネイ最高指導者:イスラエルを懲らしめる

・米大統領:イラン報復攻撃あればイスラエルを断固支援する

・米政府:イランの攻撃あっても米国を引き込むほど大規模ではない

 

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(140)

2024-04-11 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第5章:二つのこよみ(西暦とヒジュラ暦)(26

 

140二度にわたりノーベル平和賞を受賞したイスラエルの首相(4/4)

 しかし第二次大戦後の中東の平和問題がイスラエルとパレスチナの関係に限定されてよいものであろうか。戦後の欧米の中東論は中東和平即ちイスラエルとパレスチナ(およびアラブ諸国)の和平という視点が強すぎ、そのような中でイスラエルが四度の戦争に勝った事実を事後承認する形で中東の平和が語られている。そこにはパレスチナでのユダヤ人のホームランド建設(イスラエル建国)の結果、中東に四度もの紛争を引き起こした問題を「中東和平」という形に変え、それをノーベル平和賞でオブラートに包もうとした西ヨーロッパ諸国の意図が見透かされる。また1994年の受賞のきっかけとなったのがノルウェーの調停であり、そのノルウェーがノーベル平和賞を与える立場にあったことも何やら自画自賛の匂いすら感じられる。

 

 確かに第四次中東戦争、そして二度にわたるノーベル平和賞の授与以降、イスラエルとパレスチナ及びアラブ諸国との戦争は無くなった。それでは地域に平和が訪れたかと言えば否というほかない。ラビン首相暗殺以降も中東の平和は悪化の一途をたどっていると言えよう。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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石油と中東のニュース(4月10日)

2024-04-10 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・ガザ和平交渉暗礁で石油価格上昇。Brent90ドル超える。WTIは$86.53

(中東関連ニュース)

・ラマダン明ける。イスラム諸国で4/10日からイード休暇

・カイロのガザ協議難航、早期停戦の望み薄

・米大統領:ネタニヤフはガザで間違いを引き起こした

・イラン外相、シリアでアサド大統領と会談

・イスラエル、紅海沿岸Eilat地域に艦艇型ミサイル防御網Cドーム展開

・トルコ、対イスラエル輸出制限措置。仏も禁輸を示唆

・米、イエメンから没収のイラン兵器をウクライナに供給

・イラク:中央政府、クルド自治区の締め付け強化

・カタール外貨準備金680億ドルに。純金保有高は2,675億リアル

・サウジアラムコとShell、シンガポールの天然ガス販売企業巡り争奪戦

 

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(139)

2024-04-08 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第5章:二つのこよみ(西暦とヒジュラ暦)(25

 

139二度にわたりノーベル平和賞を受賞したイスラエルの首相(3/4)

 そもそもノーベル賞の創設者アルフレッド・ノーベルは遺言で、平和賞を「国家間の友好関係、軍備の消滅・廃止、及び平和会議の開催・推進のために最大・最善の貢献をした人物・団体」に授与すべしとしている。そしてスウェーデンとノルウェー両国の和解と平和を願って「平和賞」の授与はノルウェーで行うことになっている。この結果物理学、化学、生理学・医学、文学、経済の5分野のノーベル賞はスウェーデンのストックホルムで授与されるのに対して、平和賞だけはノルウェーのオスロで授与式が行われている。

 

 イスラエルとパレスチナの中東和平に与えられたノーベル平和賞とは一体何だったのであろうか。「中東に和平を築く努力に対して」というのが彼らの受賞理由である。イスラエルの政治家3人が国内の根強い反対の中でパレスチナとの和平に大変な努力をしたことは間違いなく、それがノーベル平和賞に値するとの選考委員の判断に異論をはさむつもりは毛頭ない。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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