1年で700冊の小説を読破する男のブログ

読んで字の如くですが、1年間で700冊以上の小説を読もうと試みるブログです。あくまで『試みる』だけです(笑)。

うつくしい子ども

2006-03-02 14:39:25 | 小説批評
『うつくしい子ども』 石田衣良著 6/700冊

・批評
 ドラマにもなった『池袋ウエストゲートパーク』シリーズの著者、石田衣良氏の初の長編、という触れ込みだったらしい(1999年の刊行なので)ですが、とても読みやすく仕上がっていて、好感の持てる作品でした。
 さすがは青春小説の第1人者、中学生の心情吐露がとてもリアルです。ただ友人のキャラクタが少しぶっ飛びすぎてるかな……この辺りは舞城氏の作品との共通項と言えるかもしれません。
 作品のモデルは神戸であった酒鬼薔薇事件だそうなのですが、確かに意識して読むとそうとも受け取れます。ただあまり関連付けて読めるものではないと思います。全体としてはミステリだし。
 おそらく主人公たちの年齢(13~15歳)と同じくらいの年齢の人間が読むのが、最も感情を揺さぶられる小説です。

・評価(最高が5つ星)
 ☆ ☆ ☆

アリソンⅢ

2006-01-26 15:19:39 | 小説批評
『アリソンⅢ〈上〉―ルトニを車窓から―』
『アリソンⅢ〈下〉―陰謀という名の列車―』 時雨沢恵一著 4・5/700冊

・批評
 アリソンシリーズの完結編、上下巻で2冊あるものですが、ライトノベルと呼ばれるジャンルなので、読むのは苦ではありませんでした。
 キノの旅シリーズでもそうなのですが、時雨沢恵一さんの書く小説はライトノベルに必要な要素が全て詰め込まれていますね。魅力的なキャラクターと軽快な文章、それに黒星紅白さんという強力なパートナー(イラスト担当)。
 しかし緻密な構成、大逆転のオチと言った要素もしっかり備えており、従来の小説に対抗するには充分な内容となってます。
 エンターテイメントに特化された小説としては一読の価値あり。特に飛行機や銃器が好きな人にはオススメです。

・評価(最高が5つ星)
 ☆ ☆ ☆ ☆

僕のなかの壊れていない部分

2006-01-18 23:17:17 | 小説批評
『僕のなかの壊れていない部分』 白石一文著 3/700冊

・批評
 エンターテインメントではなく文学。久しぶりにこういうのを読んだような気がします。現代の作家では少数派になってきているタイプです。
 内容を要約すると、主人公の視点で様々な角度から「生きる」ということについて考察している、という風になります。
 他文献からの抜粋なども多く、字を追うのが苦ではない人なら繰り広げられている理論もそう難しく感じないと思いますが、読み終わったら小一時間重い余韻が残ることは覚悟してください。
 人生において「自分はなぜ生きているのだろう」と考え、まだその答えが出ていない人は、この小説を読んで改めてじっくり考え直すのもいいかも知れません。

・評価(最高が5つ星)

 ☆ ☆ ☆

世界は密室でできている。

2006-01-16 22:17:21 | 小説批評
『世界は密室でできている。』 舞城王太郎著 2/700冊

・批評
 やっぱり舞城王太郎さんの小説は非常に癖があります。おそらく地の文の書き方だけでも、ダメな人はダメだと思います。
ただそこを乗り越えればおもしろいです。ただ今回の作品はそれでも好き嫌いが分かれるかも知れません。
 理由は密室トリックが常に話の中心にあること。講談社の密室企画で刊行されたものなので当然ではあるのですが。だからミステリを読んだことのない人や苦手な人は、読むのは難しい気がします。
 ただ個人的には登場人物も魅力的だし、ミステリが好きな人は是非とも、という感じです。
 ついでに。今回の登場人物の一人もそうなのですが、舞城王太郎さんは、登場人物の両親や家庭環境を劣悪にするのが好きなのでしょうか。まだ『煙か土か食い物』しか読んだことがないので言い切ることも出来ないのですが。

・評価(最高が5つ星)

 ☆ ☆ ☆

あしたのロボット

2006-01-15 22:22:13 | 小説批評
『あしたのロボット(文庫版では『ハル』)』 瀬名秀明著 1/700冊

・批評
 一応作品の分類としてはSFですが、これは既存のSF小説とは様相が違います。
 SF小説と聞くと「遠い未来に科学が実現する夢のような世界」を描いていると考えがちなのですが、この作品では「SF小説で描かれてきた世界はすぐそこにある」ということを念頭に描かれているのです。
 事実、短編が5つ集まって出来ているこの小説は、至るところで『鉄腕アトム』や『2001年宇宙の旅』などの既存のSF物の名前が見られます。特にアトムは作品内で1つのキーワードにもなっているので、その辺りは浦沢直樹さんの『PRUTO』を好きな人などには興味深く見られる部分かも知れません。

 扱うテーマやロボットの描写の細かさなどはとても秀逸で作家のレベルの高さを思い知らせてくれるのですが、唯一気になったのが、全作品が短編にも関わらず、視点が1章ごとに変わるので読者が場面を混乱しやすいというところでしょうか。 特に1つめの『ハル』は何の前触れもなく時間軸が章ごとにずれるので、かなり読みにくいです。この作者は『ブレイン・ヴァレー』の時もそれで評価を落としていたような気がします。
 ですが、そこで挫折しなければとても読み応えのある小説です。特に実生活で科学や工学に関わっていて、そういった知識に豊富な人が読むと、かなり考えるところが出てくると思います。
 最近文春文庫から590円で発売されて手に入れやすくなったので、よければご一読をば。

・評価(最高が5つ星)

 ☆ ☆ ☆ ☆