救急一直線 特別ブログ Happy保存の法則 ーUnitedー for the Patient ー

HP「救急一直線〜Happy保存の法則〜」は,2002年に開始され,現在はブログとして継続されています。

救急・集中治療 人食いバクテリアの診断と治療

2024年01月04日 21時39分44秒 | 講義録・講演記録4

劇症型溶血性レンサ球菌感染症

人喰バクテリア(人食いバクテリア)の診断と治療

 

名古屋大学医学系研究科 救急・集中治療医学分野 教授

Global Sepsis Alliance 理事

松田直之

 

 はじめに 

劇症型溶血性レンサ球菌(連鎖球菌)感染症(Streptococcal Toxic Shock Syndrome:STSS),また毒素性ショック様症候群(Toxic Shock Like Syndrome:TSLS)は,本邦では2015年の年間415例を超えて,2019年には年間894例,コロナパンデミックでは年間622例まで減少傾向でしたが,コロナ後に再び増加してきています(統計データ参照:NIID全数把握)。此の治療に関しても,日本の皆が協力していく必要があります。劇症型溶血性レンサ球菌は,菌体成分(Mタンパク質,Tタンパク質,またDNA/RNAなどの細胞含有分子)による炎症性反応(内毒素反応)だけではなく,外に分泌される分子(外毒素)による炎症と細胞死の反応(外毒素反応)により,急激に炎症,組織壊死,そしてショックとなります。65歳以上の発症リスクが高いですが,20歳から50歳代の働き盛りの成人,また小児にも発症します。その急激な筋肉などの細胞死,そして壊死の進行から,「人喰バクテリア(killer bug,flesh-eating bacteria)」などとも呼ばれています。発症してから3日以内に敗血症性ショックとして死に至る可能性の高い病態ですので,早く発見し,必要に応じて集中治療に持ち込む工夫が必要となります。一般の敗血症(sepsis:セプシス)と異なるのは,筋肉が急激に壊死するため,壊死した筋肉から放出される分子によるdamage-associated molecular patterns(DAMPs)反応が2次性侵害刺激として強い生体侵襲となることです。

 

 劇症型溶血性レンサ球菌感染症の定義 

定義:β溶血を示すレンサ球菌を原因として突発的に発症して急激に進行する敗血症性ショックを,劇症型溶血性連鎖球菌感染症と定義する。

※ 解説:β溶血とは:連鎖球菌属などは,ヒツジなどの血液を含む血液寒天培地において培養すると,赤血球を分解する溶血性によりα溶血,β溶血,非溶血(γ溶血)の3つに分類できます。α溶血は,不完全溶血として菌のまわりに緑色帯(メトヘモグロビン)を作る溶血パターンです。α溶血性のレンサ球菌は,このため,緑色連鎖球菌とも呼ばれています。一方で,β溶血は,菌株の周囲の血液を完全に溶血させて赤血球を分解してしまうパターンです。血液寒天培地における菌株の周囲の赤色が薄くなり,透明となります。溶血性連鎖球菌感染症では,β溶血などとして,赤血球が破壊されやすくなることにも注意します。

症状:初発症状は咽頭痛,発熱,消化管症状(食欲不振,吐き気,嘔吐,下痢),全身倦怠感,低血圧などの敗血症症状,筋痛などであるが,明らかな前駆症状がない場合もある。後発症状は,軟部組織病変,循環不全,呼吸不全,血液凝固異常(DIC),肝腎症状など多臓器不全であり,日常生活を営む状態から24時間以内に多臓器不全が完結する程度の進行を示す。A群レンサ球菌などによる軟部組織炎,壊死性筋膜炎,上気道炎・肺炎,産褥熱は現在でも致命的となる疾患である。

参考引用:WEB:厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-06.html

※ 解説:Lancefield分類

 溶血性連鎖球菌の分類に,細胞壁の糖鎖の抗原性によるLancefield分類があります。この分類のA群(Streptococcus pyogenes),B群(Streptococcus agalactiae),C/G群(Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis)がβ溶血作用を持ちます。

 

 人喰バクテリアで理解しておくこと 

1.流行する可能性がある:災害後,集団免疫機能低下時など

 ※ 震災が起きた後には,直前の感染症情報を確認することが大切です。例えば,日本では12月に溶血性溶連鎖球菌感染症が流行していたことに1月などに注意することとなります。

2.ヒトにおける原因微生物:A群溶血性連鎖球菌(group A streptococcus:GAS),B群溶血性連鎖球菌(group B streptococcus:GBS),C群/G群溶血性連鎖球菌  S. dysgalactiae subsp. equisimilis SDSE

 ※ Streptococcus dysgalactiae は,ヒトではC群またはG群抗原をもつS. dysgalactiae subsp. equisimilis(SDSD)動物ではC群またはL群抗原のあるS. dysgalactiae subsp. dysgalactiae(SDSD) の2つの亜種に分けられます。(参考: 国立感染症研究所 IASR

3.感染症法:5類感染症(1週間以内での保健所への届出義務あり):届出表

 ※ 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)は,1998年10月2日に制定され,1999年4月1日から施行され,その後2003年10月16日に改正され,2003年11月5日から改正後の感染症法が施行されています。この過程で,A群溶血性連鎖球菌咽頭炎が2003年までは第4類として管理されていました。その後,2003年11月5日移行は,新分類として第5類で管理されるようになりました。感染症法は,その後も2007年4月,2008年5月,2021年5月に改正されています。

4.罹患リスク:糖尿病,免疫抑制剤使用中,免疫低下状態

 ※ 集団ワクチン:コロナウイルスやインフルエンザウイルスに対する集団ワクチン後に,溶血性連鎖球菌咽頭炎などに対する免疫が低下する可能性について,私共や医療従事者は経過の評価を継続中です。劇症型溶血性連鎖球菌感染症は,一般的に致死的病態ですので,留意と注意が必要です。

5.エピソード:怪我(擦過創,挫創など),鍼治療,針刺し,メス(海外での美容形成など),上気道炎症状など

 ※ 鍼治療:鍼の清潔管理には,厳格に注意されてください。

 ※ 上気道炎症状(喉の痛みと咳):上気道炎のある方は,マスクを着用することをお勧めします。環境への飛沫に注意が必要です。

 ※ 溶連菌感染症:溶血性レンサ球菌による感染症(咽頭炎,猩紅熱など)では,傷口などからのレンサ球菌の侵入に注意します。

6.特徴:受傷部の筋肉痛

7.遺伝子を破壊する酵素産生株に注意

 

 ****************************************************

 参考:震災などの自然災害と感染症

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 ◯ 空気感染(□ 結核,□ 麻しん(はしか))

 ◯ 致死的皮膚感染(□ 破傷風菌,□ 人喰いバクテリア,□ セレウス菌

 ◯ 肺炎(□ 肺炎球菌,□ インフルエンザウイルス,□ コロナウイルス)

 ◯ 消化器症状(□ ノロウイルス,□ ウエルシュ菌(Clostridium perfringens),□ エロモナス ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila

 ◯ 全身が変:発熱,悪寒,頭痛,筋肉痛,消化器症状,黄疸(白目が黄色)(□ レプトスピラ Leptospira interrogansなど)

 ※ 留意事項:避難所でねずみを見かけたら報告してもらうこと(レプトスピラ予防)

 

 診断のポイント 

1.感染症所見:▢ 筋肉痛,▢ 発熱,▢ 頻脈,▢ 消化器症状

2.皮膚の特徴:発赤・水疱形成・表皮剥脱

3.敗血症所見:▢ 呼吸数増加,▢ 意識がいつもよりパッとしない,▢ 収縮期血圧低下(※ このうち,2つ以上を満たす:qSOFAスコア)

 参考書籍 

 書籍紹介

 敗血症-感染症と臓器障害への対応 

救急・集中治療アドバンス
専門編集:松田直之(Global Sepsis Alliance
 
 
 
 重症感染症のすべて 
救急・集中治療
特別編集:松田直之(Global Sepsis Alliance
 

 治療のポイント 

1.培養検体採取(直ちに):血液培養検体2セット,創部

2.抗菌薬:例:1)ペニシリン系抗菌薬(タゾバクタム/ピペラシリン 6時間毎 4.5 g 1日4回 静脈内投与),2)クリンダマイシン 1,200 mg 12時間毎 1日2回 静脈内投与。ペニシリン系抗菌薬を中心とした投与設計。

※ 抗菌薬:2剤併用療法としています。

※ クリンダマイシン耐性が生じている可能性(約30%)(ermB遺伝子などの発現)に注意します。

※ 薬剤感受性検査の結果を確認し,適正化します。

3.敗血症の治療(参考:中山書店 敗血症-感染症と臓器障害への対応)

▢ ショック対策

▢ 急性腎障害対策:横紋筋融解症(CK上昇)の管理を含む

※ 留意:フロセミドは横紋筋融解における急性腎障害を増悪させる可能性があります。

▢ 発熱管理:異常炎症および熱中症類似状態への対応

▢ 疼痛管理:適切な鎮痛と鎮静:交感神経緊張の適正緩和

▢ 電解質管理:低ナトリウム血症の進行に注意

▢ 血糖コントロール:耐糖能異常が生じやすいことに注意

▢ 播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)の対策

 重症患者における炎症と凝固・線溶系反応 
救急・集中治療アドバンス
専門編集:松田直之(Global Sepsis Alliance

※ 主治医および病棟医長などとして,2010年までに5例の劇症型溶血性連鎖球菌感染症の診断と治療を担当しました。2003年の日本救急医学会雑誌に掲載していただいた症例報告(難治性ショック,急性腎障害,播種性血管内凝固)なども参考とされてください。

症例報告:久保田信彦,松田直之,近井佳奈子,他. 症型A群β溶連菌感染症の救命にMRIと術中迅速病理 診断を用いた1症例. 日救急医会誌 2004;15:563- 568.

本症例報告の現在の修正事項

 血液浄化法の方法の変更:1)持続血液濾過透析(CHDF)→ 持続血液濾過(CHF),2)膜の変更:セルロース トリアセテー ト膜 → PMMA膜

 抗菌薬の使用方法:クリンダマイシン 1,200 mg 12時間毎 1日2回 静脈内投与:1日量の2分割投与

 免疫グロブリン投与:効能/効果:重症感染症における抗生物質との併用 静注用免疫グロブリン 5 g DIV (ヴェノグロビンIHなど)

 カテコラミンの選択:第1選択 ノルアドレナリン 0.05 〜 0.25 μg/kg/分

 早期経腸栄養:持続経腸栄養法

4.スーパー抗原および外毒素への対応:抗原PCR検査・スーパー抗原対策

 Streptococcal pyrogenic extoxin(Spe -A,-B,-C,-F,-G,-H,-J)

 Streptococcal mitogenic exotoxin Z (SMEZ)

 Streptococcal superantigen(SSA)

 DNase:MF2,MF3

参考文献

Spe-Aは黄色ブドウ球菌腸管毒素と高い相同性がある/黄色ブドウ球菌と連鎖球菌の連動性

 Schlievert P, Kilgore S, Leung D. Agr Regulation of Streptococcal Pyrogenic Exotoxin A in Staphylococcus aureus. MicroPubl Biol. 10.17912, 2023.

Spe-Aによる単球刺激/CD4陽性T細胞のアポトーシス誘導/CD4陽性Foxp3陽性Tregの誘導

 Giesbrecht K, Förmer S, Sähr A, et al. Streptococcal Pyrogenic Exotoxin A-Stimulated Monocytes Mediate Regulatory T-Cell Accumulation through PD-L1 and Kynurenine. Int J Mol Sci. 20:3933, 2019.

Spe-Bによるパイロトーシス/制御性ネクローシス

 Deng W, Bai Y, Deng F, et al. Streptococcal pyrogenic exotoxin B cleaves GSDMA and triggers pyroptosis. Nature. 602:496-502, 2022.

Spe-Cについての理解を深める

 Rasooly R, Do P, Hernlem B. T-cell receptor Vβ8 for detection of biologically active streptococcal pyrogenic exotoxin type C. J Dairy Sci. 106:6723-6730, 2023.

SMEZの炎症性サイトカイン誘導について

 Unnikrishnan M, Altmann DM, Proft T, Wahid F, Cohen J, Fraser JD, Sriskandan S. The bacterial superantigen streptococcal mitogenic exotoxin Z is the major immunoactive agent of Streptococcus pyogenes. J Immunol. 169:2561-259, 2002.

SSAの同定

 Reda KB, Kapur V, Mollick JA, et al. Molecular characterization and phylogenetic distribution of the streptococcal superantigen gene (ssa) from Streptococcus pyogenes. Infect Immun. 62:1867-1874, 1994.

DNase:MF2,MF3

 Hasegawa T, Torii K, Hashikawa S, Iinuma Y, Ohta M. Cloning and characterization of two novel DNases from Streptococcus pyogenes. Arch Microbiol. 177:451-456, 2002.

 

 おわりに 

劇症型溶血性レンサ球菌感染症に限らず,感染症が重篤化し,血圧が低下し,ショックとなり,命を落としてしまう状態として「敗血症:sepsis」に対する早期発見と早期治療が必要です。その上で,劇症型溶血性レンサ球菌感染症が急激に恐ろしい敗血症となるのは,DNAを障害するDNA分解酵素(DNase)などのスーパー毒素・スーパー抗原を産生するからです。「劇症型溶血性連鎖球菌感染症」は,四肢などの筋肉痛で始まり,突然,敗血症や敗血症性ショックに移行しやすいことに注意します。もちろん,げが,鍼治療などでは,普段から破傷風菌や「人食いバクテリア」に気をつけて頂きます。擦れ傷でも,「劇症型溶血性連鎖球菌感染症」に気をつけて頂きます。傷,そして筋肉痛,そこに皮膚の「腫脹:はれ」,「水疱形成」,「表皮剥脱」では,溶血性連鎖球菌感染症に留意して対応しています。

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 紹介 敗血症の診断/治療の流れ 

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敗血症/敗血症性ショックの診断治療バンドル 簡略版 2023 (オリジナル)

2013年2月 初版,2023年1月 改定第2版

 

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 紹介 人食いバクテリアの診断と治療の流れ 

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謹賀新年 2024年

2024年01月01日 00時00分00秒 | お知らせ 講演会・セミナー
松田直之
Naoyuki Matsuda MD, PhD
 
名古屋大学医学系研究科
救急・集中治療医学分野 教授
日本集中治療医学会   理事
日本心臓血管麻酔学会  理事
Global Sepsis Alliance    理事
 
 
新年あけましておめでとうございます。
本年,辰年,どうぞよろしくお願い申し上げます。
 
本年も救急医療,そして集中治療の発展を支えさせて頂き,
皆さまの健康を祈念する1年とさせていただきます。
 
私の専門としている救急医学および集中治療医学の領域におきましては,
より一層に,日本国内,そして世界における発展として
急性期医療の礎,そして発展をつくることが期待されます。
私も,診療・教育・研究・国際連携として,本年も尽力させて頂きます。
 
広くクリエイティブに,叶える努力としてポジティブに,
行政連携を含めて,未来や危機管理に強い日本の1年を形成して参ります。
 
本年も,御指導,どうぞよろしくお願い申し上げます。
 
 
*****************************************
セミナー・講演会のお知らせ
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▢ 1月28日(日)13:00〜 感染管理セミナー(日本集中治療医学会)(WEB開催)
テーマ:人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia:VAP)の対策
 
▢ 3月16日(土)第440回 ICD講習会「集中治療領域における黄色ブドウ球菌の検査・予防・治療」
講演:⻩⾊ブドウ球菌菌⾎症の治療〜アップデート〜
 

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【WEBセミナー】Global Sepsis Allianceからのお知らせ

2023年11月24日 07時56分41秒 | お知らせ 講演会・セミナー

Lessons From the COVID-19 Pandemic

Global Sepsis Alliance

Naoyuki Matsuda MD, PhD

 

ベルリン時間 2023年11月27日 16時〜19時30分

(日本時間11月28日(火)0時~3時30分)

Global Sepsis Alliance(GSA)によるウエブ講演会が行われます。

医療従事者に限らず,皆さんがご視聴できます(無料)(登録)。

新興感染症に対する世界的対策の講演会となります。

深夜帯となりますが,ご視聴を検討されて下さい。

 (クリック:参加登録)



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World Sepsis Day 2023 世界敗血症デー by Global Sepsis Alliance

2023年09月01日 07時33分53秒 | その他のお知らせ

  世界敗血症DAY2023のお知らせ  

Global Sepsis Alliance

Asia Pacific Sepsis Alliance

名古屋大学医学系研究科 救急・集中治療医学分野

松田直之

 

「敗血症(Sepsis)」の認知は,日本においても,世界においても高まってきました。

現在,敗血症は,「感染症により臓器機能不全が進む状態」と定義されています。

がん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病,精神疾患・・・

さまざまな病気に対して感染症は,「2次性侵害刺激」として脳や腎臓を含めてさまざまな臓器の機能を障害をします。

敗血症を早く発見し,重症化しないようにするとともに,救急医療や集中治療を介して「早期回復」を目標とします。

世界敗血症デー(World Sepsis Day)は,9月13日(水)です。

皆さん,敗血症の理解を深める1ヶ月とされてください。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

  2023年9月の活動  

1.日本医事新報

敗血症におけるGlobal Sepsis Allianceの動向を記事としてまとめさせて頂きました。

ご一読ください。

 

2. 感染症関連の編集と執筆

総合医学社「重症感染症のすべて ー研修医からの質問302ー」を編集させて頂きました。

ご一読ください。

 

3.CBCラジオ きくラジオ 健康生活 9月11日(月)〜15日(金)

敗血症特集「敗血症とはなんですか?」 松田直之 12:45〜12:55

 

内容

9月11日(月) 敗血症とは何でしょうか?
9月12日(火) 厚生労働省5疾病6事業と敗血症の関係
9月13日(水) 世界敗血症デー(World Sepsis Day:WSD)について
9月14日(木) 敗血症とリハビリテーションとの関係
9月15日(金) 敗血症の早期発見のために私たちにできること:敗血症の早期発見と早期治療
 
 
4.The Berlin Declaration on Sepsis – An Urgent Call for the Enforcement of the WHA Resolution 70.7 and Reinvigorated Global Action on Sepsis (2023年9月12日:敗血症:ベルリン宣言
 
概要:

1.2017 年の 世界保健総会(WHA70.7)で議決された「敗血症に関する緊急かつ全面的な支援」として,国連加盟国に,以下を実行する指令を宣言する。

 a. 地域社会や医療現場における国の保健システム強化に,敗血症の予防・診断・治療を含める。

 b.  標準的かつ最適なケアを開発し,実施し,健康上の緊急事態における敗血症の診断と管理のための医療対策を強化する。

 c.  感染症による敗血症への進行のリスクに対して,各国民の認識を高める。

 d.  すべての医療専門家を対象に,感染の予防と制御,患者の安全性,敗血症の予防・緊急治療としての認識、およびツールを使用して患者,親族,その他の関係者とのコミュニケーションを図る重要性に関するトレーニングを開発する。 国民の意識を高めるために,「敗血症:Sepsis」という用語を使用する。

 e.  新しい抗菌薬や代替薬,迅速診断検査,ワクチン,その他の重要な技術・介入・治療に対する研究を含み,生涯にわたる敗血症の診断と治療の革新的な手段を目的とした研究を推進する。

2. WHO事務局長に対して,敗血症(WHA70.7決議)の以下の条項の本格的な実施を監督するように要請する。

 a. 敗血症の予防と管理に関するガイドラインを含む 「WHOの敗血症ガイダンス」を開発する。

 b.  必要に応じて,敗血症の発生率,死亡率,および敗血症による長期合併症を減少させるために基準を定義し,必要なガイドライン,インフラ,検査能力,戦略,およびツールを確立するように加盟国を支援する。

 c.  国連システム内の他の組織,パートナー,国際機関,およびその他の関連する利害関係者と協力して、特に開発として敗血症に対する高品質で安全で効果的かつ手頃な価格の治療法,および予防接種を含む感染症の予防と管理へのアクセスを強化する。 関連する既存のイニシアチブを考慮する。

3. 世界の保健における主要な関係者に「敗血症認知」を呼びかける。

 国連加盟国,国連機関(UNDP,UNFPA,UNICEF,UN Women,WHO,世界銀行),二国間および多国間開発機関,主要な官民パートナーシップ(PPP),世界各国の慈善財団を含み,「敗血症認知」の呼びかけを行い,ビジネス部門,学術界,専門家団体,市民社会は,次のことを目的とする。

 a. 敗血症の重大な負担に関する最も重要な証拠にもかかわらず,ハイレベルのフォーラム(世界保健総会,国連総会,世界保健サミット,ダボス経済フォーラム,G7,G20)を含み,世界保健体制における「敗血症の適切な位置付け」を緊急に認知してもらうことを優先する。 敗血症と,HIV,マラリア,結核,およびその他の優先感染症による敗血症での死者数への寄与や敗血症対策基金については,世界的に政治的および財政的投資は不均衡に低いことの理解を広める。

 b. IPC,UHC,AMR,PPPRの総合的な政策の中で,世界的および国家的な敗血症戦略と行動計画の策定を緊急に優先し,政策擁護と敗血症に関連する活動の相乗効果を確保する。

 c. WHA70.7敗血症決議の施行に関して,定期的(年1回または半年)の監視および報告のメカニズムを確立し,敗血症に関するデータを収集し監視するシステムを強化する。

 d. 第78回WHA総会に提出する敗血症に関する第2次WHA決議を開始し,より具体的かつ測定可能な目標を掲げ,世界保健機関 WHOに対して敗血症のリーダーシップを取ることを優先するように求め,敗血症に対する政策と行動における相乗効果を求める。UHC,AMR,PPPR,および世界敗血症デーを 14 回目の公式 WHO 世界保健デーとして認定する方針とする。

 e. 国内予算配分,国際開発援助,世界的なPPP,民間セクター,革新的資金プラットフォームのポートフォリオを強化する医療システムに「敗血症」を統合させ,あらゆるレベルで敗血症に対する持続可能な資金増加を確保する。

 f. 各国の保健当局の指導の下,各国の敗血症戦略,行動計画,患者中心の臨床経路の設計と実施のための国主導の調整メカニズムの確立を優先する。 

 g. 実証済みおよび新たな証拠,知識,イノベーションの生成・統合・普及のために,敗血症に関する世界的な学術ネットワークを確立する。

4. 敗血症に関する内容を,G7 と G20 のリーダーに呼びかける。

 2022年のG7保健大臣ベルリン・コミュニケを例として,敗血症の検出,診断,治療を強化する取り組みを強化し,敗血症への対応と抗菌薬管理およびIPCの相乗効果を図る。参考文献:G7 Health Ministers’ Communiqué 20 May 2022, Berlin

   

 

※ その他 世界敗血症デー(World Sepsis Day)に関連する情報を,2023年9月にUPさせていただきました。


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お知らせ 第4回 世界 敗血症 会議  4th World Sepsis Congress (WEB)

2023年02月28日 06時55分21秒 | その他のお知らせ

 

敗血症(感染症における臓器機能不全の進行)という病気に対して,日本や世界の認知が,とても高まってきました。

そして,早く発見し,早く治すことで,すべての病気と同じように,普通の自身を取り戻せます。

Global Sepsis Alliance(世界敗血症連盟)により企画された

4回 世界敗血症会議(クリック)(the 4th World Sepsis Congress)が,

本年 2023年4月25日および4月26日に WEB開催されます。

誰でも参加できます。登録(REGISTER)も 無料です。

REGISTERATIONして頂き,一部でも,ご視聴ください。

さまざまな国々の皆さんのお話,英語の勉強にもなると思います。

どうぞよろしくお願いします。

Global Sepsis Allianceは,皆さんに敗血症を知って頂き,臓器機能障害を残さない健康を提案します。

 

Global Sepsis Alliance 理事/名古屋大学医学系研究科 救急・集中治療医学分野

Naoyuki Matsuda MD, PhD  2023/02/28/ 松田直之


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謹賀新年

2023年01月03日 09時26分53秒 | その他のお知らせ
令和5年 2023/01/01(金) 
謹賀新年 新年のご挨拶
 
 
救急・集中治療医学 
松田直之
 
新年あけましておめでとうございます。
本年は,ウサギ年となります。
 
皆さまの益々の発展を支えさせて頂き,
皆さまの御発展を祈念する1年とさせていただきます。
 
私の専門としている救急医学と集中治療医学の領域におきましても,
適切な「提案」と「改善」をさせて頂き,
より一層の日本や世界の急性期医療の礎,そして発展となりますよう,
診療・教育・研究として,本年も尽力させて頂きます。
 
クリエイティブに,楽しく,明るく,
未来や危機管理に強い1年を歩ませて頂きます。
 
本年も,どうぞよろしくお願い申し上げます。

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出版お知らせ 敗血症 中山書店

2023年01月01日 06時00分00秒 | その他のお知らせ

出版のお知らせ 

敗血症〜感染症と臓器障害への対応〜

Global Sepsis Alliance

名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野

松田直之

 

救急・集中治療アドバンス〜少し先を抑えた展開〜として,敗血症(Sepsis)が発刊されました。感染症学,集中治療医学,免疫学などをご専門とされる71名の著者をお迎えし,これからの「敗血症の病態と治療」を考える基盤となる書籍が完成しました。教科書は,エビデンスとしてのある程度の方向性のもとに記載されますので,最先端よりやや遅くなる傾向があります。その上で,アドバンスとつけております。診療や病態を考える上でのホットな内容について,トピックスなどとして,今後に期待される内容を盛り込ませていただいています。

この10年で,「敗血症」という病名の認知が高まりました。書籍「敗血症〜感染症と臓器障害への対応〜」,皆さまのお手元にある1冊としてお役立て下さい。


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2022年(令和4年)10月4日 医師届出票「集中治療科」追加について

2022年10月08日 06時47分45秒 | 救急医療

診療科名としての「集中治療科のお知らせ

 "Intensive Care Department/Critical Care Department" as a clinical department name

 

日本集中治療医学会 

名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野

松田直之

Naoyuki Matsuda MD, PhD

 

 医師届出票(医師法施行規則第2号書式)において,「従事する診療科名等」の欄に「集中治療科」が追加されることが,2022年10月4日付けで厚生労働省より発出されました。

2022年10月4日付の「医師法施行規則等の一部を改正する省令の公布等について(通知)」

(内容の一部抜粋)
2.改正の概要
(1)医師法施行規則の一部改正について
○ 新型コロナウイルス感染症拡大下において,集中治療に従事する医師の重要性が認識される中,地域における集中治療提供体制を適切に把握するため,「従事する診療科名等」の欄について、「集中治療科」を追加する。

(私のコメント)
 集中治療室(Intensive Care Unit:ICU)の運営と管理は,高度急性期病院また急性期病院において不可欠となっています。また,今後,欧州の高度急性期病院のようにICUの病床数が増加することにより,集中治療医や集中治療関連職種の専門性を育成することが不可欠となります。集中治療医学も,急性期管理医学として専門性の高い高度な学術として発展し,更に発展すると予想されます。

 救急科,麻酔科,多くの専門診療科の皆さんが,後に高度急性期病院で集中治療専門医として勤務される場合,「集中治療科」を運用されることになることでしょう。本邦における「集中治療科」の益々の発展に向けて,日本集中治療医学会,集中治療専門医の皆で尽力させていただきます。


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お知らせ 世界敗血症 DAY 2022 多臓器機能不全の病態像

2022年09月08日 06時30分13秒 | お知らせ 講演会・セミナー

敗血症(Sespsis)とは何でしょうか??

世界敗血症DAY2022のお知らせ

World Sepsis Day 2022

 

Global Sepsis Alliance/ Japanese Sepsis Alliance 

名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野

松田直之

Naoyuki Matsuda MD, PhD

 YouTube配信

敗血症は,感染症罹患後に進行する「全身性炎症」と「多臓器障害」の病態です。

さまざまな病気に感染症が併発します。

臓器障害が進行しないように,「敗血症(Sepsis)」という用語を共有する9月です。

この敗血症の「早期発見」と「早期治療」を警鐘しています。

敗血症に対する認知の向上,本年も,どうぞよろしくお願いします。

Global Sepsis Allianceによる世界イベント,YouTubeでもご覧いただけます。ご視聴ください。

 ※ 本年も,「クリーンハンドBOBO」キャンペーンを開催します。

 ※ 世界敗血症デーWSDでは,クリーンハンドキャンペーンを進化させ,本ブログを含めて「Clean Hands BOBOキャンペーン」としています。

 ※ Global Sepsis Alliance(GSA)は,敗血症に対応する2030年までの6つの到達目標を掲げています。

2022年 世界敗血症デー 敗血症関連活動の紹介

 
9月03日(土)13:00〜 日本集中治療医学会敗血症セミナー(WEB)
 
9月12日(月)〜16日(金)12:30 〜CBC radio「きくラジオ」世界敗血症デー「敗血症を知ろう!!」
 
9月16日(金)世界イベントWEB開催「MAKING SEPSIS A NATIONAL AND GLOBAL HEALTH PRIORITY 10 YEARS

 

敗血症(Sepsis)について知りましょう(YouTube)

   1.  市民講座 敗血症ってなんですか?? 松田直之

   2.  市民講座 敗血症では意識が悪くなります 松田直之

   3.  市民講座 敗血症で呼吸は早くなります 松田直之

   4.  市民講座 敗血症で血圧が低下します 松田直之

   5.  市民講座 敗血症で脈が早くなる?? 松田直之

   6.  民講座 敗血症で出血が起きます 松田直之

   7.  市民講座 敗血症で腎臓の機能が低下します 松田直之

   8.  市民講座 敗血症管理における救急外来でのモニタリング 松田直之

   9. 市民講座 世界における敗血症の救命活動〜Global Sepsis Alliance〜 松田直之

 10. 市民講座 敗血症における集中治療室の役割 松田直之

(※ 第30回日本医学会総会 2019年4月1日〜4月9日 敗血症 講演より一部転載)


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救急医療 手指衛生レベルを高めるための工夫 〜直接観察法〜

2022年09月01日 08時11分19秒 | 救急医療

手指衛生レベルを高めるための実践的工夫

~手指衛生:「直接観察法」の活用の薦め~

 

名古屋大学医学系研究科 

救急・集中治療医学分野

松田直之

 

はじめに

 救急初療室(Emergency Room:ER)や集中治療室(Intensive Care Unit:ICU)における診療では,「感染防御策」が,感染症による2nd アタックや院内感染防御としてとても大切です。通常の診療時から,適切に手指衛生を意識して活動する習慣を大切にしています。救急科専門医,集中治療専門医,そしてスタッフの皆さんには,手指衛生の適切な指導を行うようにします。ERやICUでは,普段から適切に手指衛生を行なう教育が必要です。

 手指衛生におけるキィ・ワードとしては,まず,世界保健機関(World Health Organization:WHO)の「5 moments:5つの瞬間」があります。この「5 moments:5つの瞬間」を知識として知るだけではなく,実施できる環境を目標とすることが期待されます。

 「5 moments:5つの瞬間」では,手指衛生ができているかの評価者として「直接観察法」を体得し,ERやICU内で定期的に「直接観察法」を実施し,評価者となることをお薦めします。心肺蘇生,外傷診療,心筋梗塞診療,敗血症診療,さまざまな救急・集中治療診療と同様に,手指衛生のタイミングと実技を観察し,評価してあげ,ポジティブかつ適切にフィードバックされて下さい。

 

WHOの提唱する手指衛生の5 moments(5つの瞬間)

 WHOは,2005 年にグローバル患者安全チャレンジ(Global Patient Safety Challenge)を開始し,その一貫として2009 年に「手指衛生の 5 つの瞬間」を導入しています。2009 年に5月に,「SAVE LIVES ーClean Your Hands」を公表しました。

 手指衛生は,適切な方法で行う「医療技術」です。つまり,テクニックです。まず,擦式アルコール手指消毒の適切な方法として,① 手のひら,② 指間,③ 手背,④ 母指,そして手掌はタコを含めてなど,アルコール手指消毒は感染防御のための重要な「医療技術」でした。⑤ 手首を私は含めていますが,WHO自体は手首は重視していないようです。その一方で,擦式アルコール手指消毒を行う瞬間の教育,手指消毒のタイミングに対する「確認&いいね&フィードバック教育」が,とても大切と考えられています。WHOの提唱する手指衛生の5 moments(5つの瞬間),ここをしっかりできているかどうかを,救急初療,集中治療管理の中でも確認し,評価し,より良くなるためのポジティブフィードバックとして参りましょう。 

 手指衛生の5 moments(5つの瞬間)は,私たちが「患者ゾーン」と呼ぶ,1)患者さん,2)患者さんのベッド・テーブル・周辺・物品,3)カーテン,4)移動場所において実施されます。お手洗いやリハビリ等で移動するスペースも患者ゾーンとなります。ERやICUにおいて,医療従事者の皆が「患者ゾーン」を理解していることが大切です。ICUの個室以外ではベッド入り口に70 cm幅ブルーラインを設置する工夫を私は以前に提案しました。また,床の色調替えなどは施設内での工夫となります。患者ゾーンの把握と区分けという意味として,「ゾーニング」の理解も大切となります。

※ 5 momentsは「にまえ・さんご(2つの前・3つの後)」(と私は覚えています)

 □ 1の瞬間:患者さんに接する「前」

 □ 2の瞬間:清潔/無菌操作の「前」

 □ 3の瞬間:体液暴露リスクの「後」

 □ 4の瞬間:患者さんに触れた「後」

 □ 5の瞬間:患者さんの周囲環境に触れた「後」

 

手指衛生の5 moments(5つの瞬間)の診療教育

 実際の診療において定期的に,手指衛生の5 moments(5つの瞬間)ができているかどうかを観察し,評価してあげる「直接観察」,「直接評価」を実施できるとよいです。「直接観察」のチェックシートの例(図1/図2),「直接観察」の時系列記載用チェックシートの例(図3)などをご参照下さい。ERやICUのベッドサイドにおいて,このような「評価シート」を用いて接触感染予防の適正診療をクロスモニタリングします。手指衛生のタイミングの遵守のために,重要な教育になります。

 ERやICUでは,1人の評価者は,理想は2名の診療者の評価までとしますが,最大で3名の診療者の評価までとします。評価表(図2など)の□(四角)にチェックを入れ,手指衛生の未実施においては手袋を着用したままでの診療であれば◯(丸)にチェックします。

 1~5までの瞬間の評価において,1&4,1&2&5などのように,2重,3重,4重の複数のチェックとなる場合があります。その上で,4&5の重複評価はありません。4&5については患者さんに触れる際には患者さんに先に触れたことを優先し,そこで約束事として患者さんに接触した後の「4の瞬間」のみの評価とします。

 評価者の役割は,評価される診療者が,5 moments(5つの瞬間)を意識しているかどうかを評価することと,ポジティブにフィードバックすること,次の診療にプラスに生かされることを目標とします。

 

ERおよびICUにおける手指衛生のタイミングの5本ノック

□ 患者さんに接する直前に手指消毒をする。

□ 患者診療で体液暴露リスクがある場合は手袋を着用する。

□ 患者さんに触れた直後に手指消毒をする。

□ カーテンを閉めた後に手指消毒をする。

※ カーテンは周囲環境に含まれます。一生懸命仕事をしている時に,「カーテンをジャーとしめる」ことを慎みましょう。カーテンは丁寧にゆっくりと閉め,その後に「5の瞬間」として,手指消毒することに注意しましょう。加速度を付けてカーテンを閉めることは,患者さん,ご家族,他の医療従事者に不快な印象を与える場合がありますので,すべて「所作」に注意して診療する訓練をしましょう。一方で,カーテンを閉める前に手指衛生をし,患者さんの診療に当たるのは不適切です。5 moments(5つの瞬間)の規則では,カーテンを閉めた後に手指消毒をすることになります。

※ 患者周囲環境に触れる前の手指衛生は不要です。

□ 2名を連続で診療する場合は,1人目の患者さんへの接触前後で手指衛生し,2人目の患者さんの診察前にカーテンを触れたなどの環境接触の危険があれば手指衛生します。

 

おわりに

 ERは院外からの多剤耐性菌や新興感染症を持ち込むリスクのある部門です。そして,ICUは院内外の重症患者さんの診療部門として,院内外の薬剤耐性菌が持ち込まれ,また医療従事者を介して院内へ播種させる可能性のある部門です。この感染予防策として,手指衛生の徹底がとても大切です。WHOは,手指衛生の多角的戦略として,「5 compornants:5つの要素」と「 5 morments:5つの瞬間」を掲げています。本稿では,「 5 morments:5つの瞬間」を充実させるためのERとICUにおける工夫について解説しました。病原微生物の伝播阻止として,「5 compornants:5つの要素」という医療技術の安定を考えましょう。

※ 日本環境感染学会と日本集中治療医学会はWHOの指導下で,このような指導者養成コースをTrain the Trainers in Hand Gygiene(TTTコース)として開催しています。TTTコース,ご参加につきましても,ご検討下さい。

  図(参照) 

図1.手指衛生 直接観察 評価フォーム(ER/ICU)

 

図2.手指衛生 直接観察 評価フォーム(記入例)

 

図3.手指衛生 直接観察 連続評価フォーム


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お知らせ 日本集中治療医学会 第6回東海北陸支部 学術集会 全国そして世界への集中治療の発信

2022年06月01日 08時00分28秒 | お知らせ 講演会・セミナー

 クリック

お知らせ 日本集中治療医学会 第6回東海・北陸支部学術集会

 

テーマ : 集中治療の連携と前進

会 長 : 松田直之(名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野)

開催期間: (現地開催)2022年6月11日(土)  および(オン・ディマンド)2022年6月11日(土)〜7月10日(日

開催場所: 名古屋大学医学部(〒466-8550 名古屋市昭和区鶴舞町65)

詳細:

日程:2022年6月11日(土)

会場:名古屋大学医学部 & WEB オン・ディマンド

会長:松田 直之(名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野)

テーマ:集中治療の連携と前進

ホームページ: https://www.jsicm.org/meeting/tokai-hokuriku/2022/index.html

* 参加申込受付期間: 2022年5月11日(水)~7月10日(日)24:00

* 申込はこちら➡ https://www.jsicm.org/meeting/tokai-hokuriku/2022/application_info.htm

内容:

特別講演(5内容)、教育講演(34内容)、すべて収録動画のオン・ディマンド配信となります。支部学術集会の企画として、集中治療の学術と管理として多くの情報が盛り込まれました。ホームページをご確認ください。

シンポジウムは現地開催ののち収録動画をオン・ディマンド配信とします。

一般演題は、演者に収録動画を提出して頂き、座長2名の取りまとめとして、指定コメンテータや一般質問をチャット形式の掲示板でのオン・ディマンド配信となります。今後の一般演題を重視するため、また地域からの一般演題発表の重要性として、ご参考とされてください。

東海・北陸地区はもとより、全国より、皆さまのご参加をお待ち申し上げます。

 

そして、翌6月12日(日)〜7月10日には完全WEB方式(リアルタイムライブ配信+オン・ディマンド配信)として

集中治療セミナー「敗血症性多臓器不全の病態と集中治療」を併催します。

各エキスパートによる、集中治療における急性期全身管理ビジョンの共有となります。

併せてご参加いただきますよう、ご案内申し上げます。

 

連絡先・問い合わせ先:

 

運営事務局:〒104-0052 東京都中央区月島1-8-1-915

株式会社クレッシー

TEL:03-6231-0307/FAX:03-5546-0486

E-mail:registration2022@jsicmth.jp


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お知らせ 集中治療セミナー 主催:日本集中治療医学会 第6回東海北陸支部学術集会 

2022年02月16日 07時07分00秒 | お知らせ 講演会・セミナー

集中治療セミナー「敗血症性多臓器不全の病態と集中治療」のご案内

受講申込受付期間:2022年5月11日(水)~7月10日(日)

会期

2022年6月12日(日)〜7月10日(日)

開催方式

ウェブ配信(リアルタイムライブ配信 + オンデマンド配信(6月15日(水)~7月10日(日)24:00)

受講費

会員:5,000円/非会員:6,000円
※ ハンドアウト(PDF)を含む

主な対象

日本集中治療医学会会員(正会員/准会員)、医療従事者、医療関係者、研究者

開催目的

集中治療において、臓器障害を進行させず、臓器不全として臓器の器質化を防ぐ全身管理が期待されます。そのような中で、重症管理以前の段階で既に臓器障害を持ち、臓器障害が進展してしまう場合もあります。本セミナーは、日本集中治療医学会第6回東海・北陸支部学施術集会(2022年6月11日(土)/名古屋大学医学部)に併催するセミナーとして、敗血症管理を題材として、集中治療のノウハウを整理することを目的とします。集中治療における前向き臨床研究が積極的に行われることにより、集中治療の診療の質が整えられてきています。その蓄積をもとに、さらにこれから期待される集中治療に関与する病態生理、そして集中治療管理をリフレッシュするものとします。具体的には、模擬症例などの提示も行い、1)敗血症を題材とした集中治療における全身管理:鎮静・鎮痛・せん妄の管理の意義およびPICS(集中治療後症候群)の管理、2)敗血症を題材とした呼吸管理、3)敗血症を題材とした循環管理、4)敗血症を題材とした腎機能管理、5)敗血症を題材とした播種性血管内凝固の管理―これら5つの内容を整理することで、集中治療に関する理解をリフレッシュします。

プログラム

「敗血症性多臓器不全の病態と集中治療」

総合司会:松田 直之(日本集中治療医学会第6回東海・北陸支部学術集会会長)

9:50~9:55
開会の挨拶
松田 直之(日本集中治療医学会第6回東海・北陸支部学術集会会長)
9:55~10:55
「鎮痛・鎮静・せん妄の管理」
松田 直之(名古屋大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学分野)
11:00~12:00
「敗血症に伴う急性呼吸不全への対応」
中根 正樹(山形大学医学部救急医学講座)
13:00~14:00
「ショックの病態から考える集中治療の循環管理」
垣花 泰之(鹿児島大学救急・集中治療医学)
14:05~15:05
「敗血症から考えるAKIの集中治療」
土井 研人(東京大学大学院医学系研究科救急科学分野)
15:10~16:10
「播種性血管内凝固の管理」
山川 一馬(大阪医科薬科大学救急医学教室)
16:10~16:15
閉会の挨拶
松田 直之(日本集中治療医学会第6回東海・北陸支部学術集会会長)
16:15~16:30
アンケート回答(必須)

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お知らせ 日本集中治療医学会 YouTubeライブ 2月13日(日)

2022年02月12日 07時59分15秒 | お知らせ 講演会・セミナー
集中治療の御紹介
 
 日本集中治療医学会は,集中治療を支える組織として1974年に設立され,2023年に50周年を迎えます。日本集中治療医学会は,2021年度に,毎年2月9日を「集中治療の日」として運営することを決定しました。2022年は2月13日(日)に,YouTubeライブ「集中治療の日」を開催します。集中治療のこれまで,そしてこれからの集中治療のビジョンを皆さまと共有できるようにいたします。2時間を予定していますが,少しでもお時間を頂戴し,楽しみにご参加下さい。深くお願い申し上げます。
 
内 容
開催名:「集中治療の日」市民公開講座 YouTubeライブ
主 催:一般社団法人 日本集中治療医学会
目 的:集中治療についての明確な知識と理解を共有すること
対 象:一般の皆さま,行政の皆さま,マスコミの皆さま,医療従事者の皆さま
手続き: 申込不要,無料
日 時:2022年2月13日 (日) 13:00~15:00(予定)
形 式:YouTubeライブ
 
 
 
司 会:松田 直之(日本集中治療医学会 広報担当理事)
 
プログラム:
1. 開会挨拶と集中治療の紹介
日本集中治療医学会 理事長 西田 修
(藤田医科大学 医学部 麻酔・侵襲制御医学講座)
2. 日本集中治療医学会の歴史
松田 直之(名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野)
3. COVID-19と集中治療
志馬 伸朗(広島大学大学院医系科学研究科 救急集中治療医学)
4. パンデミックで明らかになった日本の集中医療提供体制の課題と提言
土井 研人(東京大学大学院医学系研究科生体管理医学講座 救急・集中治療医学)
5. 集中治療と多職種連携:新しい看護師認証制度と臨床工学技士制度の紹介
黒田 泰弘(香川大学医学部 救急災害医学)
6. 集中治療とPICS(集中治療後症候群)
井上 茂亮(神戸大学大学院医学系研究科 災害・救急医学)
7. 集中治療における早期リハビリテーションの重要性
高橋 哲也(順天堂大学保健医療学部 理学療法学科)
8. 集中治療の発展に向けて
升田 好樹(札幌医科大学医学部 集中治療)
 
************************************************
To everyone in the world
Intensive Care Day JAPAN 2022
************************************************
The Japanese Society of Intensive Care Medicine has set February 9th as "Intensive Care Day" every year, and has decided to advertise the importance of intensive care from Japan to the world.
 
This year, on February 13th (Sun), the Japanese Society of Intensive Care Medicine will perform a YouTube live event for the world and Japan. First of all, please enjoy the history of intensive care in Japan this time. 
 
We ask for the participation of everyone in this YouTube lives by Japanese ICU professors from the world and Japan.
 
JSICM Executive Director Naoyuki Matsuda M.D., Ph.D.
 
 
※ 当日は,約500名の皆さまにご参加いただきましてありがとうございました。

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謹賀新年 

2022年01月01日 17時33分33秒 | COVID-19の集中治療
令和4年 2022/01/01(金) 
謹賀新年 新年のご挨拶
 
主催 救急一直線
 
救急・集中治療医学 松田直之
 
 
新年あけましておめでとうございます。
 
救急医学と集中治療医学
これはとても大切な医学領域です。
 
私の専門としているこの領域におきまして,
適切な提案と診療をさせて頂き,
より一層の日本の医療の礎
そして発展となりますよう,
本年も尽力させて頂きます。
 
皆さまの力添えをお借りしてばかりの1年となりますが,
私自身はクリエイティブに,楽しく,明るく,
皆さんの未来に貢献できる1年を歩ませてください。
 
本年も,どうぞよろしくお願い申し上げます。
 

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総説 敗血症における免疫不全とアジュバンド療法の可能性

2021年12月04日 06時00分51秒 | 論文紹介 敗血症性ショック・重症敗血症

総説 敗血症における免疫不全とアジュバンド療法の可能性

Global Sepsis Alliance

名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野

松田直之

 

はじめに

 2016年よりSepsis-31)として国際的に,敗血症(sepsis)は「感染症や感染症が疑われる状態における臓器不全の進行」と定義されています。1992年に公表されたSepsis-12)では,感染症における全身性炎症の進行として敗血症を定義することで血液中での微生物の検出としての菌血症と区分し,2003年に公表されたSepsis-23)では敗血症診断のために観察事項が24項目として整理されました。現在のSepsis-3の定義では感染症に随伴する特徴を「全身性炎症(サイトカインストーム)」から「臓器不全」に変更し,これは臓器不全の進行を阻止するための集中治療管理と関連するものとしています。

 Japanese Sepsis Alliance(JaSA)による日本のDiagnosis Procedure Combination(DPC)のデータの解析4)では,2010年から2017年の間に入院した50,490,128名の成人患者のうち,2,043,073名(約4.0%)が敗血症に罹患していました。入院患者全体に対する敗血症患者の年間割合は,敗血症の認知と診断の向上により0.30%/年の正の傾きとして大きく増加し,2017年では入院患者全体の約4.9%が敗血症に罹患したと評価されます。2017年の本邦の敗血症による院内死亡率と入院期間の中央値は,約18.3%と27日でした。

 このような敗血症において,意識障害,急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS),ショック,肝機能障害,急性腎障害(acute kidney injury:AKI),播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC),さらに消化管,末梢神経,骨格筋,耐糖能などにおけるさまざまな障害が導かれます。多臓器障害から多臓器不全に進行しやすいなかで,免疫細胞にも異常が生じています。敗血症に合併する免疫麻痺(immune paralysis)について理解を共有するものとします。

 

敗血症における病原体関連分子パターン

 PAMPs(pathogen-associated molecular patterns:病原体関連分子パターン)およびDAMPs(damage-associated molecular patterns:傷害関連分子パターン)という名称を用いることで,敗血症や多臓器障害を説明しやすくなりました5)。病原微生物の含有する内毒素によるPAMPs反応は,Toll-like受容体,TNF受容体,インターロイキン受容体などの受容体を介して,多臓器障害を進行させます。また,私たちの細胞障害は,DAMPsとして組織細胞障害を進行させます。このようなPAMPs/DAMPs反応は,免疫細胞や血管内皮細胞や臓器を構築する主要な細胞にも認められます6)。結果として,これらの細胞内で多くの転写因子が活性を変化させ,例えばnuclear factor-κB(NF-κB),activator protein-1(AP-1),signal transducers and activator of transcription-3(STAT-3),interferon regulatory factors(IRF)などの転写因子の活性化を介して6-10),誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)やプロスタノイドなどの炎症性分子,TNF-α,IL-1β,IL-6などの炎症性サイトカイン,ケモカイン,接着分子,C反応性蛋白(CRP)などの転写が促進され,症状として発熱,意識障害,呼吸数増加,頻脈,血圧低下,耐糖能異常,血液凝固線溶異常などの全身性炎症および急性相反応が形成されます。

 

敗血症における好中球/リンパ球比の変化

 敗血症,特に細菌敗血症において,好中球/リンパ球比(neutrophil/lymphocyte ratio:NLR)が増加し, CRPなどの炎症値と共にNLRが変動します。敗血症におけるNLRに関するシステマテックレビュー11)では,2019年3月までのものとして9件の研究より10,685例が抽出され,NLRのカットオフ値を10として敗血症の死亡率が高まり,敗血症の改善とともにNLRが低下することが確認されています。

 正常状態における好中球は,24時間以内にカスパーゼ依存性にアポトーシスを起こします12)。しかし,好中球は上述のPAMPs/DAMPs刺激下では, Myeloid Cell Leukemia-1(Mcl-1)やサイクリン依存性キナーゼなどの抗アポトーシス因子を一時的に活性化させることで,アポトーシスに抵抗性を示す傾向があります。そのような敗血症病態において,転写段階で新たにされたG-CSFとIL-8が好中球や幼若球を炎症局所へ動員し,末梢血に好中球数を増加させます10)。末梢に出現した好中球は,血管内皮上などでローリングしている過程で活性酸素種などの産生を高めるため,結果的には細胞質内でカスパーゼの活性が高まり,アポトーシスやピロトーシス(pyroptosis)13)を起こす傾向があります。

 このように敗血症の初期段階では,好中球のアポトーシスは抑制されるが,生体末梢への浸潤局所においてはアポトーシスやピロトーシスにより細胞死が加速されるとともに,細胞性免疫としての貪食能が低下しています。

 

敗血症における免疫系細胞の変化

 敗血症においては,自然免疫系では単球,樹状細胞,natural killer(NK)細胞,γδ型T細胞,獲得免疫系細胞ではCD4+T細胞,CD8+T細胞,B細胞などがPAMPs/DAMPs反応およびDeath受容体作用などによるアポトーシスとして減少することが知られています。単球,マクロファージ,樹状細胞およびNK細胞の減少や機能不全は,生体内での微生物の消去を遅延させ,敗血症を進展させます。また,制御性T細胞(Treg)の増加,ペルパーT細胞のTh2優位などの変化が,敗血症における免疫麻痺に関与することが知られています。

 まず,敗血症患者の単球に関する臨床研究では,単球細胞膜上のHLA-DRの発現低下により院内死亡率が高まることが示されています14, 15)。敗血症の成人患者79名の単球HLA-DR発現を調べた臨床研究14)では,ICU入室後0,3,7日目において生存群では単球のHLA-DRが高まる傾向がありましたが,死亡群では低下傾向にあることが確認されています。敗血症性ショック3日目に,単球のMHCクラスII関連遺伝子(CD74,HLA-DRA,HLA-DMB,HLA-DMA,CIITA)のmRNA発現を評価した臨床研究15)では,CD74 mRNAレベルの低下が敗血症性ショックの死亡と関連していました。単球において,HLA-DRの発現低下により,ヘルパーT細胞との免疫連携が障害される可能性が示唆されています。

 樹状細胞においては,classical DC(cDC),ウイルス感染などで大量のⅠ型IFNを産生するplasmacytoid DC(pDC),炎症時の末梢血液中の単球から分化する単球系樹状細胞(moDC)において,敗血症の血中で減少することが知られています。DCの生体内での寿命は約4日とされているが, 敗血症ではDCの寿命がアポトーシスとして短縮し,DCの減少は敗血症の臨床転帰の悪化と関連していることが示唆されています16, 17)

 また,NK細胞においても,敗血症でアポトーシスを加速し,減少することが知られています。CD3-NKp46+CD56+細胞として組織中に発現するヒトNK細胞はIFN-γを産生する主要な細胞ですが,敗血症では細胞膜上のCD56が減少し,NK細胞の機能が低下していることも知られています18)。一方で,NK細胞にはPD-1が発現してNK細胞の機能を抑制していますが,NK細胞の機能維持のためにPD-1阻害が有効かどうかについては敗血症の時系列におけるNK細胞膜上のPD-1発現を評価する必要があります。敗血症におけるPD-1阻害薬の効果については,CD4+T細胞での発現を含めて,臨床試験としての詳細な検討が必要な状況です。

 γδT細胞は,IFN-γ,IL-17やケモカインを放出することが知られていますが ,敗血症で減少することも示唆されています19)。さらに,CD4+T細胞,CD8+T細胞,B細胞は敗血症で減少し,Treg細胞は敗血症で増加することが示唆されています20)。敗血症におけるTreg細胞の増加は自然免疫細胞と獲得免疫細胞の両方に免疫力低下として関与し,敗血症の増悪と死亡につながるのかもしれません。Treg細胞は,敗血症におけるアポトーシスに耐性があり,またエフェクターT細胞の減少によって増加する可能性がありますが,マウスを用いた基礎研究では抗CD25モノクローナル抗体によるTreg細胞の制御ではマウスの生存率を改善しておらず,リンパ球全体のアポトーシス制御が重要なのかもしれません20, 21)。敗血症におけるリンパ球のアポトーシスの進行には,Fas/FasL経路などのDeath受容体シグナルの活性化が関与する可能性があります。私たちの研究グループでは,盲腸結紮穿孔によるマウス敗血症モデルにおいて,脾臓のB細胞などのアポトーシスにFADDの活性化が関与することを確認しています22)

 このような敗血症における免疫担当細胞の機能低下と免疫麻痺は,がん,移植後などの免疫状態と異なるものであり23),臨床では敗血症罹患後のリンパ球の変化は基礎疾患により修飾される可能性があります。抗微生物薬および臓器不全を進行させないための全身管理に加えて,免疫の改善を目的としたアジュバント療法が期待されています。敗血症におけるリンパ球の減少と機能低下の分子メカニズムについても,細胞内情報伝達や転写因子活性などを含めて,一層に解明することが期待されています。

 

おわりに

 本稿では,敗血症に合併する免疫麻痺について概説しました。敗血症では,炎症期に好中球/リンパ球比が増加すること,NK細胞およびCD4+T細胞の機能低下の可能性,Treg細胞以外のリンパ球のアポトーシスによる減少について,臨床研究などの結果を紹介しました。また,これからも多くの関連研究が期待されます24-31)。敗血症に合併する免疫麻痺について,リンパ球のアポトーシスの抑制や機能正常化などとして,免疫システムを維持・増強をするための「アジュバント療法」が期待されます。

 

文 献

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