実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

会社法改正ー株式報酬(6)

2020-04-01 10:08:25 | 会社法
 以上は、あくまでも会社法の改正に限っての問題である。

 何を言いたいかというと、会社法上は以上のような方法で発行できるようになるとしても、上場会社が募集株式を発行する場合、金融商品取引法上の「募集」に該当する可能性があり、有価証券届出書の届出の必要性が生じる可能性がある。税制上の問題も当然残る。なので、会社法のみを意識したのでは、片手落ちになってしまうのである。
 現状でいうと、例えば、取締役の報酬として上場株式そのものを何の条件もなく付与しようとすると、付与総額が1億円を超える限り、有価証券届出書の届出が必要になってくるはずである。届出が免除されるためには、一定の期間、市場で売却できないような措置をとる必要があるらしい。なので、その仕組みを構築するのに結構工夫がいる。課税の繰り延べについても、今のところ従前通り要件は厳しい。
 今後、これらも改正されるのか否かについても、注意する必要があるのかもしれない。

会社法改正ー取締役の株式報酬(5)

2020-03-18 12:37:44 | 会社法
 ストックオプションの発行方法については、費用計上することにより問題点はクリアされてきたが、さらなる問題は、実務において1円ストックオプションと呼ばれるような、権利行使価格を1円とするストックオプションが登場したのである。
 なぜこのようなストックオプションが登場したかは必ずしもはっきりとはしないが、権利行使期間を取締役退任後数日間とすることにより、いわばインセンティブ退職慰労金とする趣旨で発行されたのが最初のようである。退職慰労金の代わりとして発行するとすれば、権利行使価格を、発行時の時価相当額とするわけにはいかないのは確かであろう。そうでないと、退任時に株価が払込価格より下落していると、何の退職金も得られないこととなってしまうからである。そして、仮に払込価格をほぼ発行時の時価とし、株価が値上がりするか値下がりするかがともに5割の確率だとすると、このような内容のストックオプションが発行されても、利益を得られる確率は5割となってしまう。いくらインセンティブ退職慰労金といっても、利益ゼロになる可能性が五割あるのでは、退職慰労金として納得できるものではないだろう。だから、得られる利益に変動はあり得るとしても、必ず退職慰労金が得られるようにするために、権利行使価格を1円として発行するのである。

 改正法は、こうした発行時の問題、権利行使時の問題を事実上追認した。つまり、上場会社が取締役の報酬として新株予約権を付与する場合は、発行時の払込も権利行使時の払込も要しないものとして新株予約権の内容及び発行事項を定めるべきこととされたのである。

会社法改正ー取締役の株式報酬(4)

2020-03-04 10:21:39 | 会社法
 ストックオプションに関しては、従前、発行方法そのものにも問題があった。
 どういうことかというと、ストックオプションを取締役に対して無償で付与する場合、有利発行とされる可能性が高いとされたため、実際上は、無償で発行しようとする場合は株主総会特別決議を経なければならなかったのである。
 そこで、取締役会限りでストックオプションを発行するために、ストックオプションの時価相当額を費用として計上するという方法が行われるようになったようである。費用計上するということは、ストックオプションの時価相当額の金銭を取締役に支払ったものとみなすことを意味する。この、いわば「見なし金銭報酬」をストックオプションの払込に充てたとみなすのである。

 以上のように、ストックオプションの発行方法については、発行時の払込金額相当額を費用計上することにより、実務上問題点はクリアされてきたといってよい。

会社法改正ー株式報酬(3)

2020-02-26 09:45:51 | 会社法
 この取締役の報酬としての募集株式の発行方法は、当然、取締役会限りで発行事項の決定ができなければおかしいのだが、改正法はこの点が非常に分かりにくく、募集株式の発行事項の決定機関を株主総会としている199条2項の規定の適用をすべきことを前提とした規定ぶりとなっており、取締役の報酬として発行する場合には取締役会限りで決定できることが必ずしも明示されていないのである。
 おそらく公開会社の特則として取締役会決議事項としている201条の適用を排除していないことから、当然、201条も適用すべしということなのだろうと思っている。

 株主総会決議事項としている199条2項の適用があり得る点については、おそらく、次のようなことを想定しているのではないかと思う。
 つまり、払込を要しない募集株式の発行だとしても、新株を発行する場合は資本金・準備金に関する事項を定めなければならないものとされており、定め方については法務省令で規定することが予定されている。そして、時価発行とみなそうと思えば、時価相当額を資本金・準備金に計上することになろうと思われ、この場合は、取締役会限りで発行できる。もし、資本金・準備金に計上する額が時価より著しく低い場合は、有利発行とみなして、株主総会特別決議を求めるという形になるのではないかと推測する。
 この点は、資本金・準備金について法務省令でどのように定められるかの問題となりそうである。

会社法改正-取締役の報酬(2)

2020-02-19 11:14:08 | 会社法
 まず、株式そのものを取締役の報酬として付与する方法については、取締役の報酬である以上、株主総会で付与する株式の上限等を定めることになり、その範囲で付与することになる。この点については、これまでも金銭以外の財産の報酬ということで不可能ではなかったと思われるが、会社法上も明示する形になった。

 もっとも、株主総会で株式報酬を定めれば、取締役会の判断で直ちに付与できるわけではなく、募集株式の発行の手続きを踏む必要がある。株式報酬の改正の最大のポイントは、上場会社が取締役に対する報酬として株式を付与する場合の募集株式発行の手続きにおいて、払込を要しない発行方法を定めた点にあると言ってよい。
 つまり、上場会社が取締役に対する報酬として募集株式を発行する場合は、発行事項として、取締役の報酬として発行するものであって払込を要しない旨、及び割当日を特別に定めることになる。

 通常の募集株式の発行の場合は、払込期日(払込期間を定めた場合は払込をした日)に株主となるが、払込は行わないので、割当日を定め、その日に株主となる、ということである。
 また、この募集株式発行の特則は、上場会社だけが利用できる仕組みとなっている。実質的に、インセンティブ報酬として株式を付与することの意味は、市場で株式を売却して換価できるからこそのインセンティブ報酬であり、株式を上場していない会社にとっては、株式報酬はあまり関係がないといえるからなのだろう。