Dying Message

僕が最期に伝えたかったこと……

某事件について体験したこと・考えたこと Part4

2023-06-24 02:38:04 | Weblog

 最後にAと顔を合わせたのは2020年11月2日。「辞めさせてほしい」と申し出ると、翌日が祝日ということもあり、終業後にサシ飲みすることになった。雨降る西麻布にひっそり佇む、鯛茶漬けのおいしい小料理屋だった。

 残念ながら実りある話し合いとはならず、一度は袂を分かつ決心をしたが、フルリモートを提案されたので迷った末に受け入れた。

 帰り際、六本木駅付近まで送ってくれたAは満面の笑みで手を振っていた。
 あんな男でもさすがに良心が痛んだのだろうか。踵を返し、彼の視線を背中に感じながら、ふとそんなことを思った。

 奇しくも2年後のちょうど同じ日、Aは逮捕された。

 俺が思うに、彼は警察のお世話にならないよう細心の注意を払っていた。
 メールのやり取りのみで仕事を受ける会社も多いなか、相談者との面談は欠かさなかったし、報告書もきちんと作成していた。報じられたエグい手口は会社が軌道に乗りきる前だったのが大きい。

 にも関わらず、警察の標的とされ、大手メディアにこぞって報じられたのは不運だった。もう同じ仕事はできないし、前の奥さんや娘との関係もより難しくなるに違いない。

 率直に言って、Aの裁判の戦い方はだいぶ不器用だったように思う。公判途中で否認から自白に転じたが、裁判官の心証をよくするためには最初から素直に罪を認めるべきだったはずだ。
 しかし、いち社員ならいざ知らず、一国一城の主たる社長にとって自らの仕事を否定されるのは耐え難きことだったのだろうとも思う。会社を興したことのない人間なので想像でしかないけれど。

 そんな戦い方が災いしてか、Aへの求刑はかなり際どいものとなったが、結果的には執行猶予付きの判決が下された。
 実刑を回避できた一番の理由は公訴事実が3件しかなかったことだろうが、すでに書いたとおり、彼が丁寧に相談者と向き合ってきたからこその結果だと思う。
 実際、調査後にお礼を持ってくる相談者もたくさんいた。どうでもいい土産物(面白い恋人とか)は俺らに回ってくるのに、千疋屋のゼリーをAが独り占めしたことは未だに根に持っているけど(笑)。

 振り返ってみると、あの会社で任された仕事自体はとてもやりがいがあった。
 体験談メインにしたのは俺が勝手に始めたことだが、問い合わせに繋げるだけでなく、読み物として成立させることを強く意識していた。駄作も量産してしまったけれど、何本かは名刺代わりになる記事も書けたと思う。
 Aには「htmlタグの勉強をしろ」と口を酸っぱくして言われたが、彼のアドバイスがスキルアップに繋がった実感もある。

 もちろん自分の頑張りが被害を招いたことは真摯に受け止めなくてはならない。
 俺は「おふざけしかできないライター」と見倣されがちで、ずっとコンプレックスでもあった。自分としては「こう書けば集客に繋がる」という感覚は持っているつもりだし、どの仕事でも一定の成果は出してきたが、特にマーケティングを一生懸命勉強している人からは「再現性がない」と評されることも多かった。どうすれば自分の価値を証明できるか散々考えてきたが、必ずしも上手くいっているとは言い難かった。
 そんな事情もあり、とにかく数字を伸ばそうと必死になった結果、あらぬ方向にアクセル全開で進んでしまった。特にリモートワークを始めて、被害者に取材する機会を失くしてからは歯止めが効かなくなった気がする。大いに反省しなければならない。

 今回の事件を受けて、一時はライター業から足を洗うことも考えた。
 正月、母に強く諭されたこともあるが、今後の人生を考えたとき、この道の先に明るい未来が待っているとは思えなかったからだ。もう少し具体的に言うと、合法の仕事という縛りで収入を維持する自信が持てなかった。
 俺が燻っている原因は「行動力がない」「人付き合いが苦手」などいくつも浮かぶが、どれも改善が難しい部分ではある。弱点を補って余りあるスキルでも身に付けない限り、ここからの逆転はきっと容易ならざることなのだろう。

 学生時代、一番仲のよかった友達に「お前は自分の好きなことしかやろうとしない」とガチ説教を受けたことがある。
 当時は反発してしまったが、アラフォーの大人になれば、いかに彼の指摘が正しかったかよく分かる。とにかく努力が嫌いで、天性のセンスだけでこなせる仕事に逃げた結果、俺は警察に捕まりかけた。
 あのとき耳を傾けていれば違う人生が待っていたはずだし、年齢的にも堅気の道に戻るためのタイムリミットは迫っている。引き返すなら今しかないのは確かだ。

 しかし正直言って、今はライターのキャリアを終えるのが怖い。この仕事をしていて楽しいと思ったことはないが、一方でいい文章を書くことでしか多幸感を得られない因果な性格でもある。
 劣等感の強い俺が何とか自我を保っていられるのは、実力勝負の世界で戦えている自負があるからだ。
 実際、紙媒体に軸足を置いているライターなら俺よりすごい人はいると思うが、webライターという括りで見れば、自分が圧倒的に劣っていると感じたことはない。
 たとえそれが勘違いだったとしても、そう信じているうちはペンを置くべきではないのかもしれないし、キャリアを終えるなら誰かに技術を継承してからにしたい気持ちもある。

 とはいえ、俺はいかにしてキャリアを立て直せばいいのだろうか。
 例えば「この人を倒せばトップに立てる」という明確な目標がある状況だったらどれだけ楽かと思う。俺は全力でそいつを打ち負かそうとするし、負けたら負けたで自分の力量不足を憂えればいいんだから。
 ところが今の自分は何を目指せばいいのかさえ分からない。目の前の仕事をこなしたところで何の反響もない。自分の評価が上がっているのかも分からない。それでいて1通のメールもなく首を刎ねられることもある。頑張っても、頑張っても、チェーンの切れた自転車を漕いでいるようで、前に進んでいる実感がない。生きている実感さえ得られないままに、ただ疲労感が募るだけ。
 今回のように、被疑者になるくらいのイベントが起きて初めてリアルを感じられる。目標もない、仮想敵もいない、喜びも悲しみもない、そんな世界を過ごしているようなのだ。

 最後に、今回の事件から得た教訓を書いておこう。

 神経の図太い人は悪いことしてもいいけど、そうじゃない人間は真面目に生きなきゃダメ!

 ここまで気取った書き方で振り返ってきたけれど、一時は捕まることにマジでビビりまくっていた。例えば自分が殺人犯だったら腹括るなり逃げるなり作戦は立てやすいが、どちらに転ぶか分からない状況は本当にしんどかった。
 ずばり連行される夢も見たし、なぜか逃走中のハンターに追われる夢も見た。ある日、窓の外にワンボックスカーを見つけた時は「ついに来たか!」と身構えた。
 ネット上の逮捕経験者のブログはあらかた読ませてもらったが、警察は朝6時や7時ぴったりに来ることが多いそうで、毎朝心臓バクバクだった。

 一方で、マスコミに逮捕映像を撮られたらどうやってボケようか、みたいなことも考えた。トムジェリのパーカー(フードがトムの顔になってる)を着ていこうかな、とか。
 冷静に考えれば、悪目立ちするような行為は慎むべきだが、とにかく普通の精神状態ではなかったのだろう。

 今回俺が命拾いしたのは、ほとんどまぐれのようなものだったと思っている。家宅捜索にビビったAが記事を隠したのは大きかったし、他にもいくつかのラッキーが重なった。
 またとない僥倖に恵まれただけと心得つつ、今後は自分の能力を適切に使っていこうと思う。

 そうは言いつつも、元々さほど遵法意識の高い方ではないので、喉元過ぎれば熱さを忘れてしまうのかもしれないけれど……。


某事件について体験したこと・考えたこと Part3

2023-06-23 23:52:49 | Weblog

 竹下通りでの取調べの数日後、担当の刑事さんから電話があり、検察庁に行くよう指示を受けた。あらかじめ「検察の取調べがあるかも」と聞いていたので驚きはなかったが、いわゆる書類送検!?と思うと若干へこんだ。

 当日は乗り換えをミスってしまい、約束の16時ギリギリで霞ヶ関駅に到着。ま、東京地検のホームページに「B1a出口から徒歩3分」と書いてあるし、どうにか間に合うでしょ……と思いきや、歩けど歩けど建物に辿り着かず。賃貸物件の駅徒歩とかなら珍しくもないが、君らが詐欺るのはどうなのさ、と我が身を棚に上げて腹を立てる。

 それにしても霞が関という土地からは独特の威圧感を感じる。半端者の自分は明らかに群衆に溶け込めていない。カジュアルな服装で来たこともあるけれど、それだけではない気もする。

 ようやく検察庁に到着すると、入り口の門のところで守衛のおっちゃんに呼び止められた。自分や社長の名前を伝えるも、照会に手間取っているようで、大幅な時間ロス。「巨大の巨です」「大臣の臣ね」というやり取りが3回ほど繰り返された(笑)。
 中に入ってからも、手荷物検査を受けたり、空港の金属探知機のようなゲートを潜らされたり、変なバッジを付けさせられたりと、やたら段取りが多い。俺は慣れない場所で慣れないことをするのが病的に苦手だ。

 エレベーターの出口で迎えてくれた検事さんはとても朗らかで優しそうな女性だった。失礼ながら普通のおばちゃんというか、ステレオタイプの女検事とは程遠い感じ。
 事務官の女性は恐らく20代だったと思うが、お風呂上がりのような匂いがして、危うく興奮しそうになった。

 オフィスの一角のような場所で行われた取調べは、警察と同様、ショートメールに関する質問が中心。室内には担当検事と事務官以外にも数名いたが、こちらの会話に耳をそばだてている様子はなかった。
 ちょうど俺の正面に「在宅」「身柄」という紙の貼られた棚があって、透明人間になったら女湯の次に覗きたいなーと思った。

 いくら朗らかな女性検事とはいえ、さすが激ムズ試験を通ってきただけあって「○○攻撃は存在しないと分かっていたのに、被害者が病気とも思っていなかったと。矛盾してません?」とドキッとするようなことを聞かれた。
 一瞬狼狽したものの「病気でなくても猜疑心の強い人はいる。そういう人たちだと認識していました」と自分でも驚きの満点回答。

 その後は、調書の作成に苦労していたので助け舟を出すと「さすがライターさんですね」と褒めてもらうなど、和やかなムードで取調べは進んでいった。

 しかし1つだけ聞き捨てならない話を聞かされた。検察が俺を呼んだのは、Aが「サイト周りは全てMに任せていた」と供述しているからだという。
 まず断言しておくと、それはあまり正しくない。記事の些細な言い回しにまで赤ペンが入ることも珍しくなかったし、特に機嫌の悪い時は八つ当たりのように修正指示を出してきた。サイト運営の全権はAにあったというのが俺の認識だ。
 そもそもAは自分や会社への忠誠心を強めに求める人だったのだから、いざという時には自ら泥を被るのが道理ってもんじゃないのか。

 一方で「Aさんミスったな」と冷静に考える自分もいた。俺に全て任せていたというのは無理筋であって、過去のメールを漁ればすぐに嘘がバレる。俺が反証を挙げることだって容易い。
 だから自分がAの立場だったら「Mに権限を与えたら暴走した。私は窘めていた」くらいに留めたと思う。これなら反証を挙げるのは難しかったはずだし、憎きライターにかすり傷くらい付けられたかもしれない。

 ともあれ、ここが今日のハイライトだと思ったので、マスクの下で唇を噛み、1オクターブ低い声で「(サイト周りを全て任されていたというのは)事実と異なります」ときっぱり否定。我ながら姑息だと思うが、当時はとにかく必死だったのでお目こぼし願いたい。

 他で気になったのは、やたら「会社の人たちから連絡とか来てません?」と心配されたこと。そう言えば警察でも同じことを聞かれたっけ。「Aはすでに釈放されたのか?」「部下はキャッチ&リリースだったのか?」など色々想像したものの、真相は知る由もない。

 正直、べらぼうな熱量でAを追い詰めんとする警察に比べて、検察はどこか冷めているようにも感じた。少なくとも事件が大々的に報道されたことに対しては不快感を示していた。
 検事さん個人の気質などもあるにせよ、より法律に詳しい検察官にはAらの起訴が難しく感じられるのか?とこの時点では思ったりした。

 取調べが終わると調書や証拠品に押印していったが、何度押しても苗字の左半分がかすれてしまう……。
 検事さんには「ハンコが欠けてるんじゃないですか?」と言われたが、家で試すと問題なかったので、朱肉の問題か、緊張で手が震えていたかのどちらかだと思われる。

 検察庁を出たのは18時過ぎ。警察の取調べより短時間で終わり、まだ余力もあったので、ふと思い立って神宮外苑まで歩くことにした。
 しかし運動不足のアラフォーには割としんどい距離だったうえ、いちょう並木も緑強め。JKとおぼしき女の子がたくさんいて目の保養になったことだけが救いだった。


某事件について体験したこと・考えたこと Part2

2023-04-17 19:23:03 | Weblog

 迎えた取調べ当日、朝9時に竹下通り近くの某警察署にお邪魔した。
 通されたのは3帖ほどの小部屋。刑事ドラマの取調べシーンとは違って明るい部屋で、卓上ライトも置かれていない。携帯やたばこをクリアボックスに預けると、若い警官によるボディチェック。婦警さんならよかったのになーと不埒なことを考える。

 取調べの担当刑事は俺と同世代か、あるいは年下だったのかもしれない。少し話しただけで「この人、頭いいな」と分かった。

 黙秘権があると説明を受けて取調べが始まると、刑事さんは先制パンチ(?)で「私の勘ですけど、Mさんがサイト運営の中心だった気がしています」と切り出した。否定しても仕方ないので素直に認める。そもそも本当に勘で言ってるはずないもんね。

 机の上に置かれている証拠品は、面接時に提出した履歴書、俺の手の入っていない記事×3、そしてAとのショートメールのやり取り。そのうちショートメールについて「これどういう意味?」という質問が続いた。
 俺も決して記憶力が悪い方ではないはずだが、何年も前のメールについて思い出すのは意外としんどい。メールだけで完結していればまだしも、その日会社で起きた出来事を受けてのやり取りだとなおさら。
 記憶の糸を手繰りながら、同時に刑事さんが「何を知っていて、何を知らないのか」を探る。そのうえで事前の報道から「心神耗弱と知りながら」がキーワードと感じていたので、そこに関しては意図的に言及を避けた。
 とは言え、決して嘘を並べたわけではなく、自分不利になりうることまで正直に話したつもり。お姉様は「○○攻撃は実在すると思ってた」戦法で臨んだようだが、立場的に自分が同じ戦い方をするのは得策ではないだろうと。

 ただ、「Aはどういう記事を好んでいたか?」という質問は答えるのに苦労した。
 刑事さんがA不利の情状を求めていることは早々に察したので「強めの記事欲しがってた」が模範解答と分かってはいたが、それは必ずしも正しくない。
 いつか「我が社ではテレビ取材を積極的に受けています」という記事を書いたら大喜びしていたので、それを話しておく。

 あっという間にお昼の時間になると、カツ丼をご馳走になれることはなく、外で食べてくるよう言われた。食欲はなかったのでパン屋さんでマリトッツォを1つだけ購入。代々木公園で食べようとするも園内をカラスが跋扈していたので引き返す(俺は鳥類苦手)。土曜だったこともあり、外国人含めて人がとても多かった。

 休憩のはずが若干消耗しつつ警察署に戻ると、再びボディチェック。そして四方八方から全身の写真を撮られた(指紋採取はなし)。正直あまりいい気はしなかったが、当然ながら被疑者の自分に拒否権などあるはずがない。

 午後も同じ流れでメールの質問が続いたが、後半の方が返答に窮する場面は増えた。質問は古いメールから順番に行われており、午後に聞かれたのは時系列的には最近のはずなのだが、最後の半年は完全に干されていたので、頭の中で仕事の占める割合がだいぶ減っていたのだと思う。
 期待どおりの回答がないと刑事さんが若干不機嫌になるので、だんだんこちらも気が滅入ってくる。

 取調べではAの醜聞が漏れ伝わってくる場面も多かった。
 俺の入社前からパワハラで何人も退職に追い込んでいたこと、警察の取調べを受けた人たちは大体Aを嫌っていたこと、などなど。俺以上に熱烈なアンチもいたっぽい。
 あと、俺の中でAが職場に盗聴器仕掛けてる疑惑があったのだが、刑事さんから「事実の可能性が高い」とお墨付きをもらった。供述調書にも記されている。
 当時は事実を確かめるべく色々試したが、「盗聴を逆手に取ってAを無理やり褒めたらお酒に誘われた」というエピソードを披露すると、刑事さんがめっちゃウケてくれた。

 それから現場連中が相談者を「パラ(paranoiaの略)」という符牒で呼んでいたことも知った。
 報道によるとAは「相談者が精神疾患とは知らなかった」と供述していたようだし、ニュースのコメント欄にもその点から起訴できないだろうとする意見があったが、報道されていない中にも多くの情報はある。

 ちなみにAらが逮捕されたのは闇深い業界の中でも特に悪目立ちしていたからだという。
 俺が入社した当時、会社は脚色抜きで閑古鳥が鳴いていた。問い合わせが月数件で、当然ながらクロージングに至った件数はさらに少なかったはず。
 あれから年月が経って経営状況は大幅に好転したが、現場の顔触れはほぼ変わっていない。じゃあ会社に銭をもたらしたのは誰なのか。
 それに見合った扱いを受けていたとは到底思えないけれど、ライター陣のおかげで悪目立ちしたのだとすれば頑張った甲斐はあったのかもしれない。

 他では同フロアのC社についても情報を欲しがっていたので、自分の知っていることを話しておいた。
 警察はあちらが本丸ということも把握している。実際にそこまで踏み込めるかどうかは知らないけれど。

 取調べが終わると、最後に刑事さんが供述調書(3枚)を書き上げ、朗読した。内容は刑事さんの描くシナリオが色濃く反映されている印象だったが、物語の結末はAのバッドエンドであり、俺にとって不都合ではないので、ある程度乗っかってしまった部分はある。
 ただ、俺がやましくない記事もたくさん書いていたという視点が欠けているのが気になったので、そこだけは加筆してもらった。

 警察署を出ると、陽はすっかり西に傾いていた。後ろの予定もないので、会社の最寄りである表参道駅まで足を伸ばすことにした。
 入社当初、未知の分野のライティングに悪戦苦闘したこと。入社数週間後、Aに「採用しなければよかった」と言われたこと。実力で評価を覆したはずが今度は抗いようのないトラブルに巻き込まれたこと。同フロアの女子といい感じになりかけたのをAやその取り巻きに潰されたこと……。

 煌びやかな街でたばこをくゆらせていると、そんな日々が苦々しく甦った。


某事件について体験したこと・考えたこと Part1

2023-04-09 16:29:30 | Weblog

 コロナワクチンの副反応に苦しむ昨年11月初旬のある日、知らない番号から3件の不在着信が入っていることに気付いた。迷惑電話なんて珍しくもないが、番号の末尾が0110なのが少し引っかかる。確か警察署の下4桁がそうだったような……。
 案の定、留守電には「○○警察署○○課です。お仕事のことで話を伺いたいので折り返しお電話ください。内線は……」と入っていた。

 この段階では「○○警察署って両津勘吉かよ(厳密には違う)」くらいにしか思っていなかったし、なんなら間違い電話の可能性すら考えた。ただ、無視するわけにもいかないので一応折り返すと「株式会社○○に捜査が入った。○年○月から○年○月に在籍していた人に電話している」とのことだった。

 確かにそこは俺が勤めていた会社だ。やましいことをしているのは薄々感じていたので、この時点で恐怖心が芽生えはじめた。俺は逮捕されるのか?と。
 追い打ちをかけるように、電話口の刑事さんは強めの口調で「Mさんは被疑者の1人なので警察署で話を聞きたい」と告げてきた。
 ただ、俺がすでに退職していることは知らない様子だったので、今にして思えば踏み込んだ情報は得ていなかったのかもしれない。

 電話を切ったあと、ふと会社名で検索してみると、社長ら3人が逮捕されたとのネットニュースが出てきた。それも1本や2本ではない。A社長には散々虐げられたので恨みつらみがあるが、天網恢恢……なんて言葉を浮かべる余裕もなく、ただただ驚くばかりだった。
 動画付きのニュースもアップされていたが、Aがとても厳重に顔をガードしているのが印象に残った。ヤクザのような見てくれとは裏腹に、実はめっちゃ小心者。そんな彼の人となりが端的に現れていた。
 それだけに送検のタイミングでばっちり顔を撮られたのは、本人にとって誤算だったんじゃなかろうか。

 残りの2人については、S君がイキった感じで歩いていてダサいと思った。社内ではAの腰巾着だったのに。最初の頃は俺にもヘコヘコしていたのが、社長に気に入られていくにつれ態度が変わっていった。
 H君は目つき悪い感じで写真を撮られていたが、あれはマスコミの印象操作みたいなもの。普段は温厚で優しい男だったし、会社では「仕事できない奴」扱いで、本人のいないところでも色々言われていた。ひと口に犯罪者と言っても「捕まるべくして捕まった人間」「ボタンの掛け違えで捕まった人間」がいるのだろうが、彼は恐らく後者だと思う。
 ともあれ捕まった面子は概ね妥当というか、現場の中心メンバーといった印象ではある。

 その日の夜にはテレビのニュースでも事件が取り上げられていた。アナウンサーがかつての上司らを「容疑者」と呼び、画面には見知ったオフィスが映し出される。変な言い方かもしれないけれど、非日常感に高揚する自分もいた。
 もちろん高揚してばかりはいられない。俺はあくまで被疑者の立場であり、自分の身を守ることを考えなければならない。
 しかしAたちの罪名について調べても、何せこの業界に適用されるのは異例のようで、自分に逮捕の可能性があるのか分からない。法律に詳しくない人間なりに構成要件などを調べつつ作戦を立ててみるが、果たしてそれが正しいのかどうか。そもそも警察の胸三寸という気がしないでもない。

 翌日以降も記事がたくさん上がってきて、情報収集の面で助かった。
 印象的だったのは、Aが「○○攻撃は存在しないと知っていたとは言うな」と書面で口裏合わせしたというニュース。
 周囲を巻き込んでバレバレの嘘をつくところ、そしてそれを書面に残してしまうマヌケさ。これまた実にAらしい振る舞いだと思った。
 同時に、俺としてはAらが口裏合わせで道連れにしてくるのを最も恐れていたが、警察なら秒で見抜けると分かって安心した。社内ではイエスマンを侍らせてやりたい放題だったが、それが通用したのは自分がトップの環境であればこそなのだろう。

 他では日経だけ書いていた「21年秋に家宅捜索が入った」という情報は初耳だった。初耳というか、俺は行政指導と聞いていた。
 それを聞いた日は歯医者で有休を取っていたのだが、ひどく落ち込んだ様子のAから電話があり、会社のピンチを救うべく急いで帰って修正作業を手伝った。だからよく覚えている。
 Aがなぜ嘘をついたのかは分からないが、俺の前では体裁を保ちたかったのかもしれない。彼は自分の仕事を人助けと言って憚らなかったし、いつか別れさせ工作の記事を書こうとしたら「あれは悪徳業者のやることだ」と怒られたこともあった。どの口が言うんだって話だけど。

 ネットニュースやYouTubeのコメント欄も珍しく読ませてもらったが、報道量の割に盛り上がっていない印象は受けた。メンタル壊れた人ってLGBTとかよりよっぽど弱者だと思うけど、世間はそれほど優しくない。
 あと、やっぱり的外れなコメントは多い。ちょくちょく見かけた「病院の名簿を手に入れたんじゃね」は間違い。今回はある程度答え合わせできる立場にいたが、きっと他の事件でも同様のデマが飛び交っているのだろう。みんなもっと冷静になろうね。自戒を込めて言うけれど。

 個人で情報収集をしつつ、仲のよかったライターのお姉様ともLINEでやり取りした。お姉様のところにも警察から電話があって、呼び出しを受けたそうだ。
 俺は少しでも警察の心証をよくしようと平身低頭の対応を心掛けたが、お姉様は「なんで出向かなきゃいけないのか」と文句を言いまくったらしい(笑)。
 ざっくばらんにLINEしているようで、警察にスマホを覗かれる可能性があると思ったので(実際覗かれた)、口裏合わせと取られないよう細心の注意を払った。
 例えば「Aに指示されたって言いましょう」だと口裏合わせになるから「僕らはAに指示されただけですもんね」と緩やかに誘導する感じ。もちろん嘘ではないし、お姉様もAのことは嫌いだから利害は一致している。
 そんな浅知恵が通用するのかだいぶ怪しいとは思うけれど、無駄なことを延々と考えてしまう性分なので仕方ない。だから時々ぶっ壊れそうになるのだけど。

 数日後、お姉様はひと足先に取調べを済ませたので、様子を詳しく教えてくれた。
 警察は少なくともお姉様を捕まえる意思はないとのことだ。
 そう聞いて幾らか安心したけれど、お姉様と自分では微妙に立ち位置も違うし、逮捕の不安は拭えなかったので、聞いた話を元に取調べのシミュレーションを繰り返した。
 こちらはあくまで事実を語るまでだが、同じ内容でも言葉のチョイスによって印象は変わる。決してアドリブに強い方ではないので入念に準備しておかねば。

 取調べ3日前、刑事さんから「両さんのいる警察署は遠いので別のハコを押さえた」という旨の連絡が入った。うう、緊張する……。あ、スマホに入っている激ヤバ画像も念のためPCに逃がしておかなくちゃ。


某事件のよくある質問

2023-02-23 10:27:42 | Weblog
Q.嫌いなAさんがパクられたと知ってどう思った?
A.テレビやネットより先に電話で事件を知ったので、ただただ驚くばかりだった。最初のうちは「会社から離れてもなお、Aに振り回されるのかよ」的な被害者意識があったことは事実。ただ、俺の立場でそういう感情を持つのは正しくなかったと、今は思っている。


Q.Aさんってどんな人?
A.見てくれとは裏腹に小心者。気の小ささがめちゃくちゃ悪い方向に作用していたイメージ。「オフィスに盗聴器仕掛けてる説」は立証されたけど、要は陰で何言われてるか不安で仕方なかったんでしょ。


Q.そんなAさんと折り合い悪かった理由は?
A.複合的な要因による結果としか言いようがない(笑)。理不尽な仕打ちに反発もしたけど、基本的には変に刺激しないよう配慮しまくっていたし、最後の最後まで好かれる努力は続けたつもり。まぁ繊細な者同士って相性悪いよね。腹の探り合いになりがちだから。人として好きなのは繊細で思慮深いタイプだけど。


Q.もう2人パクられたけど、そっちとの関係は?
A.H君は先輩で、最初の頃は相談者について色々教えてくれた恩人。S君はヤバめの虚言癖があって、意識的に距離を取っていた。Aにはめっちゃ気に入られてたけど。


Q.他に社員はいなかったの?
A.もちろんいたけど、現場の主要人物がパクられた印象かな。でもAのフィリピーナ嫁がノーダメだったのは意外っちゃ意外。


Q.あなたの会社での立ち位置は?
A.役職はなかったけど、サイト周りに関しては中心的な役割を担っていたのかも。Aのマネジメントは独特で、毎日記事を書いてるのに一切アップさせてもらえない人もいた。かく言う自分も最後の半年は干されていたけどね。


Q.干された原因は?
A.一昨年秋に家宅捜索が入ったらしい(俺は行政指導と聞いてた)けど、それがきっかけ。あの時はAがひどく落ち込んでいて、歯医者のために取った有休を返上してまで修正を手伝ったんだけどね。


Q.ところでなぜお前はパクられていない!?
A.一番大きいのは運かも。たまたま俺にとって不利益な情報が出てこなかったのかもしれないし、クビを切られたことすらプラスに作用した可能性はある。あと、あの会社で書いた記事をよそに持っていくつもりだったけど、なかなか離職票が送られてこなくて計画遅れたのもラッキーだった。移籍先で同じ仕事してたら、だいぶ心証悪かったよね。


Q.刑事さんの取調べは怖かった?
A.自分不利になりうることまで正直に喋ったので、そこまでピリつく場面はなかった。仲良かったおばちゃんは「○○攻撃は実在すると思ってた」路線で攻めた結果、こってり絞られたようだけど。


Q.検事さんの取調べは?
A.取調べ自体より、空港の金属探知機みたいなゲート潜らされたり、変なバッジ付けさせられたり、中に入るまでの段取りが多すぎて疲れた。


Q.H君に判決が出たけど、どう思う?
A.妥当かどうかは判断しかねるけど、執行猶予もらえたのはよかったんじゃないかな。出会う人間を間違えただけで、世の中には彼より悪いヤツなんてごまんといる。俺もその1人だと思う。


Q.Aさんは否認してるみたいだけど?
A.彼へのアシストになりうるので喋らなかったけど、普段から「俺の仕事は人助けだ」と言って憚らなかったのは事実。一方で、現場は相談者を「パラ(paranoiaの略)」という隠語で呼んでいたとも聞いている。AにとってH君が自白したのは大誤算だろうけど(口裏合わせできるとタカ括ってたはず)、なんにせよ今の戦法には無理があるでしょ。「部下有罪、上司無罪」とか意味分からんし。弁護士から執行猶予は難しいと言われてて、ワンチャン狙いってことなら理解できるけどさ。


Q.ところでお前、ちゃんと反省してるか?
A.もちろん反省しているし、懲りました。今思うと去年秋ごろは精神的に不安定で、変な夢もたくさん見た。これは神様からの警告だと思って、今後は自分の能力を適切に使います。