ASAKA通信

ノンジャンル。2006年6月6日スタート。

「展開の空」20240522

2024-05-22 | Weblog

 

 


「あなたはわたしの興味をひかない」という言葉には、
ある残酷な行為をおかし正義を傷つけることなくしては、
ある人間が他の人間に話しかけることができないようなものがある。

    (シモーヌ・ヴェイユ「人格と聖なるもの」田辺・杉山訳)


意識的にか、無意識的にか、混じりあうようにか
予測できない展開の空には意味のクラウドが浮かび
かぞえきれないメッセージが舞っている

そしてそのままで終わることはまれである
人間の文法、関係のレシピに従えば必ず句点読点が入る

展開を決する底を打つことばがあって
そこだけ切り取って受け取れば完結へ向かう

そうするたしかな理由がある
内的必然、そのことを疑うことはできない

そしてこの疑えなさをふたたび
人間の文法をほどくように、展開の空へ返す

なぜか

そこにはもう一つ
完結のレシピをしりぞける内的必然がある

 

 

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「こども」20240521(20240310)

2024-05-21 | Weblog

 

 


 子供たちは、我々以上に、表層の生活と深層の生活とを合わせ持っているものだ。
 表層の生活はごく単純だ。なにがしかの規律で片がつく。
 だが、この世に送り出された子供の深層の生活は、
 創られたばかりの世界が奏でる不協和音の調べだ。
 子供は一日また一日と、地上の悲しさ美しさをひとつ残らず、
 その世界に納めていかねばならぬ。それは内なる生命が払う巨大な労苦なのだ。

         (L=F・セリーヌ『ゼンメルヴァイスの生涯と業績』菅谷暁訳)

         *

知らないことを罪(恥)の意識で満たしてはならない
知らないことを「ウィ Oui」のシグナルで迎える
少しだけ多く知をもったオトナが負う務めがある

ことばにすれば一つ
どんなかたちでもいい

ヴェイユが〝聖〟を帯びたものとして語ったもの
だれもがそれを求め糧として生きているもの

le hommage 敬意

未だそれを与えることを知らない存在へ
みずから一番受け取りたいものでもてなす

 

 

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「シモーヌ・ヴェイユ、1909~1943」

2024-05-21 | 参照

 

 


試験は学齢期の青少年にたいして、小銭が出来高払いの労働者に植えつけるのと
おなじ強迫観念を植えつける。自分は小学校教師になれる頭がなかったから
農民でいるという思いを胸に農民が大地をたがやすとき、
社会の組織は深いところで病んでいる。
             (『根をもつこと』1943年/冨原訳)


この痛ましい事態の原因はあきらかだ。
われわれはなにもかもが人間の尺度にあわない世界に生きている。
人間の肉体、人間の精神、現実に人間の生の基本要因を構成する事物、
これら三者のあいだにおぞましい不釣り合いが介在する。いっさいが均衡を欠く。
より原始的な生をいとなむ孤立した小集団ならともかく、
互いを食らいつくすこの不均衡をまぬかれるような、
人間の範疇(カテゴリー)や集団や階級は存在しない。
そして、このような世界で育った若者や育ちつつある若者は、
他の人びと以上に周囲の混沌をおのれの内部に反映する。
             (『自由と社会的抑圧』1934年/冨原訳)

 

 

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「外の光」20240520

2024-05-20 | Weblog

 

 

ちがい、ずれ、異和、矛盾、齟齬、対立

そうではないものに出会って
はじめて照らし出される

みずから輪郭を定めることはできない
そうする動機も生まれない

それはちがうということを示され
はじめて明らかになる

ただ訪れる外の光に触発されるかぎりにおいて
そうではなく生きているおのれの姿が照らし出される

 

 

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「詩人の肖像」20240519(20240122)

2024-05-19 | Weblog

 

 

真理と真理、正義と正義、善と善、現実と現実
せめぎあい、呪いあい、殺しあう、惨劇のふるさと
現世、涙の谷(マルクス)にあって

どんな職業のリストにも載らない仕事の人
涙の谷を目撃したかなしみを糧として
橋を架けるようにことばを紡ぐ人

詩人と呼ばれるまえに一つの意志が励起する
此岸と彼岸、滅ぼしあう両岸をブリッジする
橋を架ける理由は一つのことばで示される

 すべてがわたくしの中のみんなであるやうに
 みんなのおのおののなかのすべてですから (『春と修羅』)

荒廃と滅びのふるさと、死の谷に橋を架けて無力化する
無力化して新たな交歓のルートを開通する

地質、水量、風量、地震、洪水、交通量
強度、耐久、耐震、エトセトラエトセトラ
想定可能な全パラメータの集積と解析、構造計算

一切の工程に理由と意味を与える意志が励起し
どこでもない連結の気圏が見出され、歩み出す

 すべてこれらの命題は
 心象や時間それ自身の性質として
 第四次延長のなかで主張されます (『春と修羅』)

意識と意識、感情と感情
夢と夢、善と善、悪と悪
存在と存在、非在と非在
真理と真理、正義と正義

隔絶したことばとことばに糸を通し、両岸に血を通わせるように
新しいことばをあつらえて連結のルートを開く

そうして、銀河群の全時間、全方位、全波形
全停車場をつなぎ合わせる鉄道を走らせる

ことばを連結装置とする作業の目的はただ一つ
一切を用在として新たな祝祭のマテリアルに変換していく

 

 

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「一つの開口部」20240518

2024-05-18 | 参照

 

 

 強気にしろ、弱気にしろ、
 貴様がそうしている、
 それが貴様の強みじゃないか。

  ───A.ランボー『地獄の季節』小林訳

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「匿名の娘、二十歳の日記」20240518

2024-05-18 | 参照

 

 


──「いまぁじゅ/なんばあ10」より


遮断機の
右と左が交わらない
わずか身ひとつの空間
そこに
私は
私の位置を選ぶ

鉄道列車が
みるまに
鉄路を砕いて通りすぎる

待たされ
焦らされた人々が
我先にと
わきたつほこりに吸い込まれていく

それから
そろりと
私も歩き出す

  *

自分を破局に立たせることが
恐くなったら
おしまいだから

うまくやるのは
やめました

捨てて
捨てて
どうにも捨てきれないものが
あるはずだから

妥協や安逸に
卑怯な心が居すわってしまわないうちに

捨てて
みようと

うまくやるのはやめました
わかったふりはやめました

  *

愛しているか?
──生きてきた ということを
──生きている ということを

愛さなければと
思っている
なければ
と思う人間の苦しさは
言っても始まらないか
もうだいぶ生きてしまった

人に裏切られたが
その分だけは裏切った
裏切ったり裏切られたり
それが
世のあたりまえの営みだと
気づいた時は
少しまいった

だが
どうした
初々しく
喜びに満ちたはずの
この春を
どこへ
投げすてたか

愛しているか?
せめて
愛さなければと思っているか

 

 

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「第三領域」20240517

2024-05-17 | Weblog

 

 


  Il faut cultiver notre jardin.

 何はともあれ、わたしたちの畑を耕さねばなりません。
         (ボルテール『カンディード 』)

        *

せめぎあう昼と夜、夢と現実
ともにしおれて壊れてしまわないように

あれかこれか、正気と狂気
選択を迫るものをしりぞけるように

対立をほどき
ともにささえあうように

昼と夜を重ね合わせて糸を通し
新たな生地を織り上げるように

あれでもないこれでもない
どれもこれも、どいつもこいつも

全時間、全経験、全波形を結び合わせ
新たな展開のスペースを開くように

(両生類ヒト科の本質にかなう場所)

どこでもない生の地平(畑)をあつらえ
第三領域と名づけてみる

 

 

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「未決の試行」20240516

2024-05-16 | Weblog

 

 

Inanimate nature is self-contained. ──M,Polanyi
「生命をもたない存在は自己充足的(自己完結的)である」


生き物はいつも未決の形式において自らを駆り立て、自らを組織している。
外部に開かれ、結び、結びあい、対話し、シグナルを交換しながら、
そのつど新たな存在のフォームを試行し、たえざる遷移の途上を歩んでいく。

自己充足的であるとき、生き物の試行は中断と停滞の中に沈んでいる。
おなじく、自己否定的であるとき、自己完結的囲いの中に閉じていく。

 

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「集団劇」20240516

2024-05-16 | 参照

 

 

 

──冨原眞弓『シモーヌ・ヴェイユ』2024年岩波現代文庫

「家族や恋人やある種の友人、さらには同じ宗教を奉ずる人びと……
をむすびつける愛着が平和を生むのではない。
これらの愛着はあまりに甘美な一致を育むので、あらゆる争いの種となる」
(Ⅱ‐2 91‐92)

(革命幻想と正義)

マルセイユのヴェイユは「カイエ」(C2Ⅲ 190)に記した。
権力の犠牲者は現在の暴力の責任者ではない。
したがって彼らの手に暴力をゆだねるならば、これを正しく行使するだろう。
この根拠なき信仰が革命幻想である。ところが事実はちがう。
たいていの犠牲者もまた加害者と同じく権力の穢れをおびている。
剣の柄でふれようと切っ先でふれようと、悪との接触であることに変わりはない。
権力の頂点に押し上げられたかつての犠牲者は、突然の情勢の変化に酔いしれて、
前任者と同じかそれ以上の悪行に手を染め、ほどなく失墜する。

 

 

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「知の用法」202405115

2024-05-15 | Weblog

 

 

 

解放の道具としての知
抑圧の道具としての知

ふたつの知の用法は混在し、対抗しながら
最後に決着をつけるように
抑圧優位の社会として構造化してきた

知の階梯と一体化した社会構造

この構造を生きる主体は、不可避的に
知的階梯の上昇と下降、優位と劣位の弁証を生きながら
深層には恥、屈辱、失墜、怨恨の感情が堆積することになる

解放としての知(の共有)への転移はいかにして可能か──
すくなくとも、この問いを保持する知の営みにおいて

 

 

 

 

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「画を描く」20240514

2024-05-14 | Weblog

 

 

 

「真理は所有にむかない」(シモーヌ・ヴェイユ)

    *

思惟、判断に頼らず、経由することなく
ただ光の通り道を空けるように

非在と存在、ふたつの方角へ腕を伸ばし
仲介し、連結し、架橋し、非在に存在を与える

キャンバスは白いまま置かれている
筆を取る意志だけがそれを果たしていく

 

 

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「展開コード」20240513

2024-05-13 | Weblog

                                                                                      Blown Away (youtube.com)

 

 

 他人のことを「理解した」と信じて疑わないのは、 
 そもそもの対人関係が萎え干乾びている者だけである。

     ──H.S.サリヴァン『精神病理学私記』阿部・須貝訳


見るかぎり、聴くかぎり、触れるかぎり
知るかぎりの世界の内部で自足するかぎり

非知、未知とつながる野蛮さは失われていく

わかることの位相に世界を収納するかぎり
わからないことのわからなさは消えていく

(飽き足らない心がみずからに告げる)

非知、未知、不確実、未規定、ランダムネス── 
それらを糧として沸き立ち、生成的に立ち上がる地平

未規定、不確実であることが不安やおそれをみちびかず
ポジティブなシグナルをまとう予期のエロス

諦念に席を譲ることをしりぞけ、既読のコードを蹴破り
新たな希望が訪れるように生きられていく人間の地平がある

 

 

 

 

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「こころの内戦と荒廃」20240512(20230705)

2024-05-12 | Weblog

 

 


  アルコール耽溺者の「プライド」は、飲酒への耽溺を自己の外側に置く。
 〝自分〟が〝飲むこと〟に〝抵抗〟するというのである。

 アルコール耽溺者の「自己」は、そのプライドゆえに、
 自分が経験するところを自分から締め出していく。
 「自己」を瘦せ細らせる、これは実に確実な方法である。

          ──G・ベイトソン『精神の生態学』佐藤良明他訳


心の内側でたたかわれる内戦がみちびく自己罪責
この罪責の構造は、そのまま他者罪責、世界罪責の構造でもある

(分割されざるものの分割)

世界の価値的分割への転用、すなわち「善/悪」「友/敵」「真/偽」
価値ありの側からの価値なしの側に浴びせられる容赦なき罪責のことば

ベイトソンのことばを借用すれば、
世界を総体として瘦せ細らせてきた歴史的方法(内戦)とも云える

分割されざる途切れなき全体。この視点に立つとき一つの仮説が浮かぶ
あらゆる戦争は内戦である──

 

 

 

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「マニフェスト」20240511

2024-05-11 | 参照

 

 

──竹田青嗣『新・哲学入門』講談社現代新書2022年


哲学は普遍的な世界説明を創り出す試みである。
だがそもそも何のために。こう考えねばならない。
人間だけが言葉によって世界を創る。
フリードリッヒ・ニーチェがいったように、
千の民族は千の「神」をもつ。
言いかえれば、千の民族が千の世界説明をもつ。
なぜ人間にとって普遍的な世界説明が必要とされるのか。
これに対する最後の答えは以下である。
「普遍暴力の縮減」のために。またそのことによって、
すべての人間の共存とエロス的共生を作り出すために、と。

哲学は、いまもう一度、普遍的な「世界説明」の創出の営みとして、
普遍洞察の方法として再生されねばならない。
つまり、全く新しい哲学の像が示されねばならないが、この課題は、
われわれの時代の人間と社会の可能性にとって必須のものである。
これを本書のマニフェストとしたい。

 

 

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