夢日記 061122 夜

2006-11-23 | 夢日記
 車のなかを覗くと、死体が一個置いてあった。運転席に、若い女のものだ。ふいに「僕がやったんだ」という声が聞こえた。視線を車の外にやると、若い、すくなくとも自分より若く見える青年が立っている。あれはピストルだろうか。右手に握られている何かに注意を引かれ、訝しげに目を凝らしたときだった。彼は回れ右をする要領で、こちらへ背を向けたすぐあと、あ、と思う暇も与えてくれずに、右手のものでそのこめかみを撃ち抜いた。なぜかしら、響いた音に驚くよりも、やはりピストルだったのだ、と納得する気持ちのほうが強くあった。いずれにせよ、これで死体が二個だ。倒れたまま動かなくなった青年の靴が、まるで泥水に浸かったあとみたいにひどく汚れているのを気にかけながら、そう呟く。

 先に見つけた女の死体は、しかしピストルで撃たれたようではなかった。車の外から眺めてみるかぎりでは、どこにも血の流れた様子がうかがえなかったからだ。では、なぜ自分はこれがすでに死んでいると思ったのだろう。いやじっさい、こうしてじっくり観察してみても、まったく生きているとは感じられない。それでも名前を呼んで、生存を確認してみようとして、……と、声をかけた瞬間に、戸惑う。どうしてその女の名を知っていたのか。今さっきはじめて見たばかりの他人だというのに、……、……、……、幾度となく口に出してみれば、それが疑いようもなく彼女のものであることが、実感され、にわかに背筋が震えた。

 とにかくこの状況に自分の理解が及んでいないのだ。説明が欲しかった。そうだ。テレビ、テレビならば、車のなかにあって、それを見たら、何かがわかる気がしたので、ドアを開け、助手席に乗り込み、まずはエンジンをかけなければ電源は作動しないみたいだったから、用心深く女の死体に触れないよう、ハンドルの向こうへ手を伸ばし、キーを回す。と、エンジンがかかった。さっそくテレビにスイッチを入れ、画面のなかに目をやった。旧い旅館だ。映像はすぐさま廊下へと切り替わる。歩く人影はなく、やがて階段を昇り、ある部屋の前で止まる。扉が開く。突然、灰色に濁った煙が立ちこめる。その向こうに赤く、火だ。

 気づくのが早いか、轟と噴き出した炎が目の前を覆い、思わず息を呑む。そのときだった。たしかに誰かが肩を叩き、冷静な声でこう言ったのだ。「おいおい、こんなところで死体を焼かれちゃあ困るよ」。思わず息を呑み、いや違う、俺がやったんじゃないんだ、せめてそう言い返そうと振り返れってみれば、辺りはすっかりと火に取り囲まれており、勢いよく燃え盛るそれ以外には、もう何も見えない。