マダム・クニコの映画解体新書

コピーライターが、現代思想とフェミニズムの視点で分析する、ひと味違う映画評。ネタバレ注意!

リリーのすべて/他者との関係

2016-02-09 | 映画分析
2015年、イギリス、トム・フーバー監督 夫婦愛というか、人間愛というか、究極の愛というか? 夫が女性として生きたいと願った時、妻はすべてを受け入れる…。 今から80年以上前、命をかけて世界初の性別適合手術に踏み切った"リリー"という女性の実話に基づく物語。 先日、タイでニューハーフショーの鑑賞を初体験したばかり。 余りにも美しくエレガントな彼女たちに、すっかり魅せられてしまった。 興 . . . 本文を読む

ヴィオレット/光と影

2016-02-04 | 映画分析
2013年、フランス、マルタン・プロヴォ監督 観ていてしんどい。 だが、監督の狙いはそこにある。観客が共感を得られない主人公こそ、最高の華なのだ。 ゴツゴツとひっかかって、考え込ませる作品、映画好きにはたまらない。 1946年にデビューした実在の作家ヴィオレットは、私生児で不美人。もてないし、貧乏で、性格も悪い。 母を憎み、自分を嫌い、世間を恨み続けている。 対して、流行作家のポーヴォワー . . . 本文を読む

母と暮らせば/亡霊の意義

2016-01-30 | 映画分析
2015年、日本、山田洋次監督 説明過剰な山田監督作品は以前から苦手だった。今回もセリフの多用が目につく。 助産師役の吉永小百合が、仕事をしている場面は皆無。セリフを流すだけ。清く、正しく、美しい老母、伸子…。20歳の息子の母役を演じるのは、流石に無理がある。 どこが過剰なのか? 亡霊の息子、浩二は母に、「(婚約者の町子にとって)僕よりいい男はいないよ」と二度も言う。 上海のおじちゃんが . . . 本文を読む

ヤクザと憲法/善か、悪か?

2016-01-30 | 映画分析
2015年、日本、圡方宏史監督 ドキュメンタリーで実績のある東海テレビのクルーが、大阪の組事務所に密着取材100日間。モザイクなしで、ヤクザの日常を撮った貴重な作品だ。 テレビ放映で話題になり、今回、劇場用に編集。名古屋と東京で公開中。 二度と撮れないだろう、永久に残る名作、といわれている。 怖いもの観たさ以外の理由はない私。 ヤクザは今や絶滅危惧種だ。 法律や条例 . . . 本文を読む

独裁者と小さな孫/回転するダンス

2016-01-28 | 映画分析
2014年、ジョージア・フランス・イギリス・ドイツ、 モフセン・マフマルバフ監督 社会派の気骨あるイランの監督が、現代社会に蔓延しつつある独裁政権とその崩壊後を、ロードムービーの手法で、普遍的な視点から批判している。 前半は、革命後、逃げそびれた大統領が、貧しい国民を銃で脅してボロ服や食料を奪い、変装に変装を重ね、孫を連れて逃亡する様子を、皮肉たっぷりに描く。 傲慢で強欲で、ひとかけらの人情 . . . 本文を読む

完全なるチェック・メイト

2016-01-19 | 映画短評
2015年、アメリカ、エドワード・ズウィック監督  冷戦時代に実在した米国のチェスチャンピオンが、チェス最強国ソ連の王者と世紀の対局に挑む姿を描いた。  トビー・マグワイヤー主演&製作。  代理戦争として政治に利用され、政府の監視下に置かれる2人。  主人公が次第に精神的に追い詰められていく様子を、克明に映し出す。   チェスを知らなくても、十分に面白い。 大写しの表情と、駒を動かす手元 . . . 本文を読む

あの頃、エッフェル塔の下で

2016-01-19 | 映画短評
2015年、フランス、アルノー・デプレシャン監督、 マチュー・アマルリック主演。ほろ苦い青春時代の恋の思い出を描いた、いかにもフランス的な映画。 3部構成だが、それぞれの関係性は濃密ではなく、それとなく匂わせているだけ。  しかし、伏線になっているような気にさせるところが粋だ。  だらだらと遠距離恋愛が続き、眠気と戦うことになる。 自己中心的な2人なので、浮気も仕放題。 共感できない . . . 本文を読む

『ひつじ村の兄弟』 /カインとアベル?

2016-01-19 | 映画分析
2015年 アイスランド、デンマーク/グリームル・ハゥコーナルソン監督 昨年度カンヌ映画祭、ある視点部門グランプリ受賞作品。 最近、本作の舞台であるアイスランドを訪れた知人は「日出ずる国、日本に帰ります。極夜は沢山です」と、SNSに書き込んだ。 神話の世界のようなロケーション。まさに地の果て。無限に広がる灰色の空間…。 1年中雪や氷が身近にあり、夏には昼が、冬には夜が長くなる。 広 . . . 本文を読む

海街diary/反復可能性

2015-07-12 | 映画分析
2015年 日本 是枝裕和監督 小津作品を彷彿させる美しい姉妹の物語。 3人姉妹の中に突然飛び込んできた異母妹によって、不在の両親をめぐる愛憎が次第に鮮明にる。 そのプロセスが、鎌倉の古い屋敷と四季の風物詩を舞台に、俯瞰の多いカットで緩やかに描かれる。 葬儀に始まり、葬儀で終わる。 途中にも法要があり、極楽寺のアジサイや、サクラのトンネルが死者からのメッセージを伝えている。 「死を意識 . . . 本文を読む

アリスのままで/「死」と「詩」

2015-07-11 | 映画分析
2014年 アメリカ リチャード・グラッツアー&ウォッシュ・ウェストモアランド監督 主人公である50歳の言語学者アリスは、若年性アルツハイマー患者だ。 この病気は、早期で知性的な人ほど進行が速いという。 他方、75歳以上の認知症患者は3.5人に1人の割合。そのほとんどが アルツハイマーである。 他人事ではない。 言語の研究を生業としている人が、徐々に言語を失い、ついには人間の尊厳 . . . 本文を読む

沖縄 うりずんの雨/差別の構造

2015-07-06 | 映画分析
2015年 日本 ジャン・ユンカーマン監督 まさに沖縄の近現代史! この1本を観れば、その全てが分かる。 内容の重さに、うなってしまった。 数々の本を読み、映画を観、現地を訪れ、少しは分かっていたはずの沖縄。 本作は、私の貧弱な沖縄観を何倍も深化させてくれた。 『映画 日本国憲法』『チョムスキー9.11』などで知られるアメリカ人監督、ジャン・ユンカーマンが、戦後70年の私たちに問 . . . 本文を読む

サンドラの週末/引き裂かれた感覚

2015-06-29 | 映画分析
2014年 ベルギー・フランス・イタリア  ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督 車道、玄関扉、車のドア、窓、フェンス…。 障壁物の多用が、他者との関係性の難しさを表している。 本作は、自己と他者との関わりを徹底的に抉り出し、人はどうあるべきかを考えさせてくれる。 長期の鬱病から復帰した金曜日、「社員の投票で貴女の解雇が決まった」と告げられたサンドラ。 生活のために働き続け . . . 本文を読む

日本の保健婦さん/事実は小説よりも奇なり

2014-12-05 | 映画分析
2014年 日本 武重邦夫監督 *友人の映画監督・武重邦夫(故今村昌平監督の愛弟子)が、素敵な記録映画を作った。名古屋市在住の96歳の女性が主人公である。   まるでドラマのような、波瀾万丈の人世。  こんなに面白いとは・・・。タイトルから想像していた内容とは大違いだ。  大正7(1918)年生まれ。昭和17(1942)年、名古屋市初の保健婦(現在の呼称は保健師)になり、96歳の今も、専 . . . 本文を読む

物置のピアノ/喪失~再生へ

2014-10-02 | 映画分析
 2014年 日本 似内千晶監督  友人の映画監督・武重邦夫が3.11後の福島をテーマにした骨太のドラマを作った。 福島県北部、宮城県に近い中通りに位置する宿場町、桑折(こおり)の桃農家の話である。原作者は同町出身で、自分の家族と故郷をモデルに書き上げた。  単なるご当地映画ではない。東日本大震災や原発事故災害の悲惨さを前面に出すのではなく、背景にそれらの影響が垣間見える青春映画である。 . . . 本文を読む

燦々/生き切るためのヒント 

2013-12-21 | 映画分析
2013年、日本、外山文治 監督  高齢者が主人公の作品が目白押しである。本作は老いや死を背景にした、少しシリアスなラブコメディ。脚本・監督は高齢化社会をテーマにした短編部門で数々の賞に輝いた32歳の外山文治、長編デビュー作だ。吉行和子、山本学、宝田明らが熱演している。 私事になるが、より多くの同世代の考え方や行動が知りたいと思い、6年前、シニア対象の市民大学に2年間在籍した。そこで体験 . . . 本文を読む