今日も口福 明日も口福 (きょうもこうふく あしたもこうふく)

外食率ほぼ100%、エンゲル係数は優に60%(半分はアルコール代)。そんな私の美味しい話。(おもに大阪の美味しい店)

塩と素材と「焼きの腕」と

2012-12-19 | Weblog
私が最近お気に入りの焼き鳥屋がある。
福島の路地裏でひっそりとたたずむ「」がそれだ。

こちらは夫婦お二人ですべてを切り盛りしている店。
なので、最初に訪れる客には
「うちは料理をお出しするのに時間がかかりますが、よろしいでしょうか」
と念押しされる。

だがここでひるんではならない。
確かに料理が供されるのを待たねばならないが、待ちさえすれば極上の品々に出会えるからだ。


仕事帰りの土曜日、まず目の前に並べられたの付きだしの盛り合わせ。
ちぢみほうれん草の白和え、堀川ゴボウの甘辛煮、乾燥枝豆のポタージュ。
どれもこれも手が込んでいて、素材の味が濃い。
特にポタージュの自然な甘みと言ったら。温かい液体が胃を悦ばせる。
私の経験上、旨い付きだしを出す店にハズレなどない。


ここで頼むドリンクは、1人で来るときでもいつもボトルワインと決まっている。
お代わりを頼んで、ただでさえ忙しい彼らの手を取らせたくないからだ。
手酌で、ゆっくりと次の品を待つ。

まずやってきたのは「ソリレス」。
股関節部分近くの肉で、モモ肉に似ているのだが、それとは非なる繊維の太さと味の濃さが持ち味だ。
その太い繊維を奥歯で噛みしだくと、肉汁があふれ出す。
そして、その肉汁のうまみを引き出すのにまったく過不足ない塩が、表面に施されているのだ。

次に出てきたのは「松葉」。
鎖骨のことで、ささみの付け根の肉がたっぷりとついている。
肉を食べ終わった時の骨の形からその名がついたものだ。
ごく淡白な肉をパサつかせないよう、絶妙な火加減で焼かれている。
もちろん塩加減は申し分ない。

そして「背肝」。
腎臓のことだが、肝に似ている食感からこう名付けられたものの、肝よりもずっと脂がのっている。
しかし臭みがまるでない。
ここの店の素材の良さがしれようというものだ。

串の最後は「玉ひも」。
とろりと半熟に仕上げられた「玉」の部分と歯ごたえがうれしい「ヒモ」の部分のコントラストの見事さ。
美味くないわけがない。


ここの串は他もどれも美味いのだが、この日はここでぐっと我慢。
なぜなら「今日のイチオシ一品」だという「蝦夷鹿モモ肉のロースト」を頼んでいるからだ。

かくして供されたのは、一流フレンチはだしの美しすぎるロゼに仕上げられたモモ肉。
ほぼ生でありながら、中までちゃんと火が通った理想的な焼き加減だ。

その肉を塩とわさび漬けで食す。
もう、めまいがしそうに旨い。
新鮮で上質な素材の味が、待ったなしのストレートに襲い掛かってくる。
それを邪魔することなく素直に持ち上げるのは、焼き加減と塩加減。

なんというシンプルさ。
故に、なんというごまかしのきかなさ。


これまた特選素材のジャンボマッシュルームもぺろりと平らげて、この日の幸せな夕食は終わった。
こんな口福を味わえるのならば、待つことなどいかほどの苦痛だろう。
更なる再訪を心に誓った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

本日のお店の予算(一人分・あくまでだいたいの目安)
約3500~5000円


一流の矜持

2012-10-05 | Weblog
気づくと1年近くこのブログを放置してしまった。
心機一転、となるか。

************************************


「フランスレストランウィーク」というイベントが今開催されている。

堅苦しい・高いと敬遠されがちなフレンチレストランを気軽に楽しんでもらって
敷居を低くしようという試みだそうで、企画に賛同したビストロやレストランでは
ランチ2012円、ディナー5000円という均一価格でコース料理が提供されるという、
客にとってはお得極まりない企画。
ラ・ベガスといった超のつく一流店も参加していることも驚きだ。

私はたいていの店には一人でもへっちゃらで入るけれど、高級フレンチの
ディナーにさすがにひとりでは行けない。
しかし幸い喰いしん坊仲間の一人がつきあってくれるというので、
北浜にある高級レストラン「ル・ポンド・シェル」というお店に
イベントディナーを予約することができた。

ミシュラン二つ星、本来の予算は一人あたま2~3万と言われると身構えてしまいがちだが、
予約の電話の応対から非常に気持ちよく、礼儀正しくありながら親近感の持てるそれは
私の少ない経験で語ると、「本当の意味での一流店」が必ず備えている要素である。


果たして実際来店してみると、やはりすべてが心地よい。
ウェイティングルームからテーブルに通されるときのスタッフの所作、
室内の装飾、テーブル間隔、テーブルウェア、椅子の高さと柔らかさ。

すべてが「ハレの日」の食事を盛り上げ、かつ客がリラックスして食事を
最大限に楽しめるように計算されている。


ウェルカムドリンクのスパークリングを楽しんでいると、
一皿目のアミューズ(付きだし)が供された。

温かいカボチャのポタージュと、ピンチョス(串ものになったおつまみ的料理)の形での
小さなクロケット(コロッケ)。

クロケットはウォッシュチーズであるエポワズを使ったもので、
串には生ハムが一緒に刺さっている。
「一口でどうぞ」と言われるままに頂くと、これがもう絶妙。
口の中でトロリと溶け、上質極まりないチーズの発酵香が鼻に抜ける。
まるで極上のチーズフォンデュをいただいているような感覚だ。

カボチャのポタージュはこれまたカボチャの味が濃い。
温かいスープは、次の料理を切望する起爆剤となる。


前菜はアカザ海老。
カダイフ(トウモロコシの粉を薄く焼き上げた皮を細く切ったもの)をまとわせた
ソテーだ。
ワインなどで酸味を効かせたソースに入っているのは、なんとバニラビーンズだという。
このソースが驚くほどに海老に合う。
プリッとした海老の優しい甘みとバニラの芳香が、全く奇をてらわずにすんなりと
混ざり合うのだ。


メインは鴨のロースト。
当然のように理想的なロゼ(ミディアムレア)に焼き上げられたロース肉は、
スライスでなく塊で供される。
それ単品だけでも塩加減が絶妙で素晴らしいのだが、この皿には他にも
いろんな仕掛けがある。

肉の横には一見ソーセージのようなものが置いてあったのだが、
腸詰の袋を破るとそれはトマト味のカスレ(白インゲン豆の煮込み)だったのだ。
カスレそのものも味わえるし、鴨肉との相性も抜群だからソースとしても味わえる。

その横には、プチトマトのファルシ(詰め物をしたトマト)が添えてある。
詰め物の中身は、スパイスで香りよく味付けされた鴨モモ肉のミンチだ。
そしてさらに、小さなトーストの上に乗せた鴨のレバーペーストまで
添えられているのだ。

鴨の様々な部位を味わい尽くすこのひと皿。
口福で延髄がしびれそうだ。


ワインは、前菜が海老でメインは鴨ということで悩んだが、
ソムリエ氏に相談してしっかり目のロゼを1本頼むことにした。

最初は冷やして白の風合いで、鴨に向けて温度を上げて赤の風味を楽しみたいと
リクエストすると、その通りにしてくれた上、グラスまで変えてくれた。
赤の風味を出すときに、シャルドネでよく使うという、底広のグラスに
してくれたのだ。

温度を上げ、グラスもそれにふさわしく変えられたロゼは、
目隠ししていたなら軽い赤だと思っただろう。


デセール(デザート)代わりに頼んだチーズも、どれも熟成が完璧で、
サービスメニューとはいえこれが5000円とは信じがたいほど
完成度の高いディナーを楽しめた。


それは、料理の質だけではない。
ギャルソンやソムリエたちといったフロアの質もなくては成り立たぬものだ。

「たとえサービスメニューであっても、サーブするからにはうちのレストランとして」。
そんな、一流としての矜持がひしひしと伝わって来る、いい店であった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

本日のお店の予算(一人分・あくまでだいたいの目安)
約20000~30000円
※今回はイベントのため料理代は5000円

冬は肉の季節

2011-12-27 | Weblog
12月は、あいさつ回りをする月のような気がする。
仕事とかの話ではない。料理屋の話だ。

一年間、私の舌を楽しませてくれたお店をできるだけまわり、また来年も口福をよろしく、とお願いする。
昨日も、そんな日だった。

寒空の下を小走りで向かった行きつけのイタリアン「ボナ・フォルケッタ」はこの日も盛況。
前菜の盛り合わせをつまみながらワインで暖を取りつつ、男性ばかりのスタッフさんたちにおすすめ食材について情報をもらう。

そうして決めたパスタが、「イノシシのラグーソース」。
麺は自家製手打ちの、ホウレンソウを練りこんだタリアテッレだ。

けっこう大きめにカットされたイノシシのバラ肉は、脂の性が素晴らしい。
豚肉と似て非なる食感とコクが、トマトの効いた野菜たっぷりのソースの中で、ひときわ存在感を放つ。
それでいて、意外なほどさっぱりとした後味なのがまた嬉しい。
もちもちとしたタリアテッレと一緒に奥歯で噛みしめると、あまりの口福にうっとりしてしまう。

ああ、冬はジビエの季節。肉の季節。
自然の恵みが、こんなにも芳醇に舌を悦ばせる。

この店は魚介の石釜焼きなんかもうまいのだが、イノシシですっかり口の中が肉モードになってしまった。
まだ食べたことのない「ホロホロ鶏の温製スモーク」とやらをいただくことにする。

こいつがまたすごかった。

ただでさえ味わいの濃いホロホロ鶏が、スモークされることでより旨みを凝縮されている。
しっかりとした肉の線維がプチプチと口の中ではじける快感。
もちろん噛みしめた中からは肉汁がほとばしる。
皮目もパリッと焼かれ、食感のアクセントとなっている。

極上のハムステーキを頬ばっている感覚。
こんなものが通常メニューだなんて、普通ありえないだろう?

おなかいっぱいのはずなのに、口が旨いものとの名残を惜しみ、ほんの少しだけ、とチーズをいただく。
白カビのサントモールと、塩水ウォッシュのタレッジオ。
どちらも素晴らしい熟成具合だ。

最後にエスプレッソをドッピオ(ダブル)でいただいて、至福のディナーは幕を閉じた。
来年は、どんなふうに私を驚かせ、幸福にしてくれるのだろう。この店は。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

本日のお店の予算(一人分・あくまでだいたいの目安)
約4000~6000円




苦笑するほど悩ましい

2011-11-16 | Weblog
先日、それぞれが異業種の女性四人とご飯を食べに行った。

ひょんなことから知り合い、何度か食事会をしているメンバーだが、今回訪れたのは私の大好きな東三国にある割烹「漁菜克献」。
実は結婚するまで住んでいた場所と目と鼻の先なのだが、こんな店があるとは目にとまらず、コラムニスト・勝谷誠彦氏の食べ物に関する本で知った店だ。

メンバーはみんなスリムだが、美味しいものには目がなく、よく食べる。
さっそくお目当ての、名物「しめ鯖サンド」と「生湯葉せいろ蒸し」を2人前ずつオーダーした。

それらを待つ間、付きだしが供される。
この店は、付きだしがもう立派な一品だ。
少しずつさまざまな肴が七種、皿の上に並べられ、器も愛らしい。

いずれも出色の出来だが、中でも私が気に入ったのは、蒸し蟹の肴だ。
下に何か複雑な味の、コリコリとした歯ごたえのものが敷かれているのでこれは何かと尋ねたら、イカの軟骨のわさび和えだという。

その旨みと小気味よい歯ごたえ。
それに、絶妙な蒸し加減でしっとり仕上げられた蟹の甘味が加わると、たまらなくオツな味となる。

さて、早速お待ちかねのしめ鯖サンド。
これがいかに美味いかを、散々私から聞かされていた同行者たちの目が光る。

しめ鯖は、ほとんど刺身ではないかというくらいのレアな状態に仕上げられている。
それが、トーストされたパンにはさまれているのだ。
一見まるで合わないような両者をこの上ない美味につなげてくれるのが、一緒にはさまれた大葉にマヨネーズ、そしてマスタードだ。

これらが混然一体となると、何とも悩ましい美味となる。
このまったりとし、かつ香ばしいサンドは、やはり生すれすれのしめ鯖でないと成立しないのだ。
連れたちが夢中になってほおばっている。
まるでビデオの早回しのように、あっという間に皿が空っぽになった。

生湯葉せいろ蒸しも負けずの美味だ。
素揚げした里芋の上に生湯葉が乗せられ、松の実をトッピングしてせいろ蒸しにしたもの。

これだけでも十分美味しいというのに、この店は、これを熱い葛餡につけて食べさせるという暴挙に出る。
おまけに、だしの効いたその餡には、生姜と刻みねぎを入れるのだ。
餡の熱でとろりと柔らかくなった生湯葉や、ほくほくした里芋が、だしと一緒に喉を滑り落ちる感覚は、快感としか言いようがない。

他にも、衣の中で表面がねっとりとし、かつ歯ごたえも楽しめる「上ミノのから揚げ」、様々な魚が素晴らしい包丁の技で「料理」となった刺身盛り合わせ、タコやイカなどのシーフードとアボカドが、カレーの風味とチーズで一体となった「アボカドグラタン」…

数々の料理を平らげ、「もうお腹いっぱい」といった同行者たちがそれでも言いつのったのが、
「でも、しめ鯖サンドがもう一皿食べたい」。

店の人に苦笑されつつ、再度オーダーは通されたのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

本日のお店の予算(一人分・あくまでだいたいの目安)
約4000~5000円



夏の海を食す

2011-07-22 | Weblog
和洋問わず、食べ物屋は最低でも季節に一度は訪れたいものだ。
春夏秋冬それぞれの旬を食す。
それ以上のご馳走があるはずもない。

中でも寿司はやはりその最たるものだろう。
数ヶ月もの間、ろくに休みのなかったダンナが、ようやくとれた休みに行きたい店はと聞いた時、「京極寿司」さんを挙げたのも、無理からぬ話だ。

久しぶりに訪れた店のガラスケースの魚たちは、すっかり夏の顔に変わっている。
しかし、相変わらずどれもうまそうな、いい顔をしているなあ。

付きだしの「たこの柔らか煮」をいただきながら、魚たちを目で愛でる。
この柔らか煮からして、すでに旨い。
上品に味がしみ込んでいて、ほろっと繊維がほどけるほど柔らかい。
聞くと、江戸前の仕事をしているという。

お任せで造りの盛り合わせを注文。
ノドグロ、琵琶マス、アカニシ貝、マグロの赤身、サンマ…
目にも鮮やかだ。

旬がもうすぐ終わるトリ貝は、七尾産のもの。
生だけあって、若干小ぶりながらジューシーだ。

芽ネギを巻いてあるのは、ヒラメのエンガワ。
芽ネギとエンガワがこれほどまでに相性がいいとは。

普段ならここで名物のしめ鯖をつまみでもらうのだけれど、この日はあいにくトッピングされるべき土佐酢ゼリーが品切れだとのこと。
大好きなこのゼリーが食べられないのであれば、と頭を切り替えて別のものを注文することにした。

薦めてもらったのは、捌きたてだというハモを使ったハモしゃぶ。
深い味のダシに、さっと花開く程度にくぐらせたハモは、どこまでも清冽な味だ。
最後にハモのダシが混じった汁を、飲み干さずにはいられない。

満を持して握りをいただく。
香り豊かで性のいい脂ののった琵琶マス、注文してから調理してくれる蒸しエビ、包丁で細工をしてさっと熱を通すことで、歯ごたえを残したまま素晴らしく甘くなったイカ、背の光り具合もなまめかしいアジ…

どれも秀逸の一言だったが、中でも白眉は塩水ウニだった。
通常出回っている、ミョウバンで保存したものとはまるでモノが違う。

舌を収斂するような感覚がまるでなく、どこまでも純粋な旨みと甘みが脳天を直撃する。
粒がしっかりしていることもあるだろうが、軍艦でなく握りにしてくれる、若大将の技術がまた素晴らしい。
こんなデリケートな味が海苔に少しでも消されたら、もったいないものなあ。

今夜は大阪に帰らず泊まりだというと、お土産にサバの棒寿司までいただいた。
これは翌日の朝ごはんとなる。

夏の魚たちを、極上の寿司屋で食す。
何とも贅沢な、久々の休日。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

本日のお店の予算(一人分・あくまでだいたいの目安)
約5000~8000円


評判はダテじゃない

2011-04-01 | Weblog
「たまにはいい店に行ってみよう」
食いしん坊仲間の知人に誘われ、南森町と北浜の間にあるフレンチレストラン「アキュイール」を初めて訪れた。
食べ物ブログや検索サイトで、かなり好評なお店だ。

地図だと簡単な場所だが、店構えが分かりにくいので少し迷ったが、無事到着。
迎えてくれたスタッフさん達は、噂通りすこぶる感じがよい。

この日は9800円のディナーをお願いしていた。
アントレ(つきだし)はバスク地方のスープ。
白いんげんと生ハムと種々の野菜の入った、素朴なコンソメ味だ。
私の知る限り、こう言ったスープをアントレで出されるのは珍しいが、この日は夜が冷え込んだため、ありがたかった。

「冷たい前菜」はニジマスの炙り。
たたき程度に炙られたニジマスの身はしっとりとして香りがあり、適度な脂がのってそれだけで美味い。
その上に、パリパリに焼かれた皮がトッピングされ、下にはカリフラワーのブランマンジェ。
そしてサクサクとした食感の嬉しい、小さなクルトンと、赤い真珠のようなニジマスの卵がちりばめられ、目にも鮮やか。
噛みしめた時に多種多様な食感も楽しめる趣向だ。
なんて心躍る演出だろう。

次に供されたのは温かい前菜だ。
鮮やかな黄色をした味の濃いジャガイモである「インカの目覚め」の上に、リー・ド・ボーのソテーが乗っており、その上に千切りにして揚げたインカの目覚めがトッピングされている。
日本画の川のように横たわるソースはバターソースとのことだが、おそらくバルサミコ酢主体なのだろう。さわやかな酸味とほんのりした甘みが勝っており、しつこくない。

ソースの川の上に点在する岩のように盛りつけられた食材たち。
まるで日本庭園の趣だ。
もちろん食べても素晴らしい。
こんなに味が濃く、かつしつこくないリー・ド・ボーを、私は食べたことがない。
インカの目覚めの自然な甘みも、寄り添うようにそれを包み込んでいる。

次なるスープにも、また驚かされた。
まずフォアグラのソテーの上に若ゴボウが乗ったものが出されたからだ。
温かい前菜がもう一品出されたかと思いきや、その上からゴボウのコンソメがかけられたのだ。
ゴボウの土の香りのさわやかなこと。
なんというぜいたくなコンソメなのだ。

魚料理はマナガツオだ。
皮がパリパリで、まぶしいほどに白いその肉の質は、どこまでもきめ細やか。

お口直しのエルダーフラワーのグラニテでさっぱりと口を洗うと、次は肉料理。
ウズラを丸ごと焼いて、バラした後、それぞれの部位の表面を炭火であぶったものだ。
モモ、ムネ、ササミの各部位が、絶妙な火の通し具合で加熱され、表面の焦げ目がなんとも香ばしい。

ソムリエールの薦めてくれた白ワインはシャルドネ主体の樽香の効いたもので、最初は冷やしてサーブし、さわやかな酸味を満喫させてくれ、最後の肉料理には温度を上げた上、なんとデキャンタージュしてくれた。
そうすることで樽香が立ち、肉の香ばしさと素晴らしくマリアージュする。
なんとも気のきいた趣向だ。

肉料理の後はフロマージュ(チーズ)。
それもここはひと味違う。
白カビのチーズを牛乳と撹拌し、ドレッシングのようにしたものを、アンディープとドライイチジクを刻んだものの上にかけて出したのだ。
これがまたワインを呼ぶ。
とうとう1本では足りなくなって、グラスで赤を追加した。

最後に連れはデザートをいただいたが、私は甘いものが苦手なので
「少量でいいからマールに変えてもらえないか」とわがままをお願いした。
果たしてその願いはかなえられた。
しかも、少量ではなく、普通の量で。

最後の最後まで大満足のディナー。
なんとも居心地の良いその空間は、いつまでもいたくなるほどだ。
必ず再訪しよう。今度はランチもいいな。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

本日のお店の予算(一人分・あくまでだいたいの目安)
約10000~15000円


場末の新地

2011-03-23 | Weblog
阪急十三駅の西口に、「しょんべん横丁」というあまりお上品とはいえない名前の細い通りがある。
実際お上品でもない場所なのだが、最近はここがお気に入りだ。
小さな居酒屋が、所狭しと軒を並べている。
店によっては合席が当たり前の、「安くて美味いねんから文句言いな ( 大阪弁で「言うな」の意 ) !!」の場所なのだ。

その中の一軒、「えんむすび」というお店が最近一番のお気に入りだ。
恵比寿顔で迎えてくれる大将と、娘さん二人で切り盛りしている。

実はこの大将、以前は新地で店をやっていたという。
新地では最近客層が変わってしまって、それならば安くて美味い店をやりたいと、ここ十三で新たに店を構えたとの話だ。

この日は友人とダンナとの計四人。
品数を頼めるから、ご機嫌だ。

まずは「茹でホウレン草」から。
まとめてカウンター上のボウルに入れてある、いわゆる「おばんざい」だが、ちゃんと氷を入れた水が張ってある。
だから、繊維がシャキシャキと歯に心地よい。
何気なくかけてあるおかかも、かなりいいものを使っているのが分かる。
このさりげないひと品で、このクオリティーか!!

「マグロのハンバーグ」も、外せないひと品だ。
マグロのミンチはあくまでしっとりと焼き上げられ、しかもマグロの風味をしっかりと残す。
かけられたデミソースも、チープなふりしてなかなか味が濃い。

そこへ、おからがちょうど炊きあがってきた。
ホカホカと湯気の上がるそれを、すかさず注文する。
おからって、パサパサしてるか甘ったるいかのことが多いのであまり頼むことがないのだが、ここのは別物だ。
しっとりとして、滋味深い味。
一緒に炊き上げた具材のダシを、おからがすべて受け止めているのだ。

他にも、う巻き、イカのワタ焼き、スジどて焼き…
なんて美味くて酒が進むんだ。

こんな店、新地にゃもったいない。
十三の酒飲みに、寄こしやがれってんだ。

気がつけば、安焼酎のボトルが2本。
しょんべん横丁は、パラダイスだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

本日のお店の予算(一人分・あくまでだいたいの目安)
約2000~4000円

「春が待ち遠しい」のかな?

2011-03-01 | Weblog
先週の日曜日、夫婦揃って長浜にある我が家のお気に入りである「京極寿司」を訪れた。
昨年来、なかなか訪れる時間が取れず、お互いに気になっていたため、久しぶりにゆっくりとした時間が取れた日曜日、どちらからともなく「京極寿司へ行こう」という言葉が飛び出した次第だ。
普段はナマケモノな2人なのだが、こうしたときだけは8マンも真っ青の行動力を発揮する。
新大阪から電車に揺られること1時間半余り、夕方には雪の残る長浜の駅に降り立った。

夕方早い時間を選んだのには訳がある。
これは私の持論だが、本当に美味しい寿司はカウンターで、信頼できる料理人と言葉を交わしながら食べるに限る。
しかし、忙しい時間帯にのんびりと話し込むのは野暮というものだ。
となれば、夕方早い時間帯に訪れるのがベストという訳だ。

しかし、駅に降り立ったとき、少しだけ嫌な予感がした。
この時期の長浜では盆梅展が行われており、なかなかの人手となる。
さらに今年は大河ドラマにおいて小谷、長浜というのは一つの重要な舞台となるため、思った以上に街が賑わいを見せていたのだ。
「まさか・・・」と思いながら駅から歩くこと5分弱、暖簾をくぐったとき、こちらの名物である鯖の棒寿司を作っていた大将が、いつも通りの人懐っこい笑顔で迎えてくれて、私たちの不安は解消された。
他にもお客さんはいたのだが、ちょうどそちらの食事は終わりに近づいていたため、目論見通り、ゆっくりと寿司を楽しむことができた。

「ご無沙汰しています」
これまた素敵な笑顔で若大将が私たちの前に来てくれた。
この瞬間、私たちの時間は数ヶ月の無沙汰を一気に飛び越え、いつも来ているかのような気分に引き戻された。
食事そのものの味も大事だが、こうした居心地の良さを提供してくれるのも、この店が大好きな理由の一つなのだ。

地酒である七本槍をぬる燗でお願いして、食事のスタートだ。
運の良いことに、その日は良いネタが揃っているという。
その言葉を聞いた瞬間に、私たちの胃袋は戦闘モードに突入した。
まずはこの店に来たら欠くことのできない〆鯖のお造りをいただく。
絶妙な塩梅で〆られた鯖の上には、これまた私たちのお気に入りである土佐酢のゼリーが乗せられている。
この土佐酢ゼリーと一緒に食べると、鯖のまったりとした味わいの中に、一本キーンとした筋が通る。
そして、そこに日本酒を流し込むと、口の中が一気にリセットされ、いくらでも食べられてしまうという寸法だ。
続いてそしてさより、金目鯛、のどぐろの焼き霜造り、そして琵琶鱒のお造りも登場。
なかでも出色の味わいを見せたのが琵琶鱒だ。
見事なまでに桜色に染まったその身と、何とも深い味わいのマッチングは、正に至福の味わいとしか言いようがない。
それを京極寿司さんでは、独自の煮切りで食させてくれるのだ。
「これは握りでも食べるしかないね!」
2人とも意見は瞬時に一致した。

その後は自家製の一夜干しを戴き、その後握りへと食を進めた。

この店の若大将は、素人がいうのは失礼を承知でいうのだが、非常に良い腕を持っている。
食材に合わせ、全ての素材を最適な大きさで握ってくれるのだ。
そして、塩のものは塩、煮切りのものは煮切りといった具合に最適の味を提供してくれる。
そこも私たちがこの店を愛して止まない理由でもある。

今回はお土産に太巻きと琵琶鱒の柿の葉寿司をいただいた。
若大将曰く
「太巻きは持ち帰る頃、海苔がいい具合にしっとりとして美味しくなりますよ」

そうなんですよ。
そこを解っていただける若大将は、私たちとシンクロする筈です!
実際にこの日は京極寿司を出て、そのまま帰路についた私たちだったが、あれほど重かった胃が家につく頃には、少し余裕が出てきているのが不思議でならない。
結局、琵琶鱒の寿司も太巻きも翌日までには消費してしまった。
そして、恐ろしいことに時間を経過したこれらの寿司は、さらに旨みを増し、我が家の体重計にちょっとした恐怖を与えることになるのだが、「それはそれ」だ。
これ程美味しい食事に巡り合うなんて、私たちは本当に幸せ者であるという他はない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

本日のお店の予算(一人分・あくまでだいたいの目安)
約5000~8000円

普段着イタリアン

2011-01-21 | Weblog
仕事が半休の午後、中之島にある国立国際美術館で開催中の「ウフィッツィ美術館展 自画像コレクション」を観に行ってきた。
美術館の周りは美味しい店の多いエリアで、普段は立ち寄らないあたりだったので、せっかくだしとネットで調べて評判のいいイタリアン「ボナ・フォルケッタ」で夕食をとることにした。

狭い店内には、イタリア語のラジオ番組が流れる。
感じのいいギャルソンたちに迎えられてカウンターに通された。

「初めてなんでひと皿の量が分からないんですが、いろいろな種類の料理が食べてみたいんです」
そう言うと、さほど高くないメニューのひと品ひと品は二人前程度であること、一人ならハーフポーションにしてくれることを気どらずに話してくれる。
甘えて、三品頼むこととした。

最初の皿である前菜の前に、つきだしが供される。
この日は「猪肉のペースト」。薄切りのパケットに塗られてある。
へええ、これはまた嬉しい。
レバーペーストや豚肉のリエットならときどき巡り合うし、それはそれで好きだけれど、猪肉とは。

一口食べて、惚れてしまった。
野性味を失わず、かつ柔らかな味付け。
食前酒にとグラスのスプマンテを頼んだが、こいつは赤ワインの栓を抜きたくなるじゃないか。

しばらくすると、「前菜の盛り合わせ」の登場だ。
なるほど、かなり量を抑えてくれている。
それでも、「タコのマリネ」「牛肉のサラダ仕立て」「イタリア風ポテトサラダ」「ビーツのワイン煮」「カプレーゼ」と、種類は盛りだくさん。
しかも一つ一つが美味い。
グラスで頼んだ白ワインが進む進む。

プリモピアットには、「魚介のタリアテッレ トマトソース」をお願いした。
本来はもっと細い麺であるリングイネなのだが、私が手打ちの太麺が好きだというとタリアテッレに代えてくれたのだ。
初めての客だというのに、細やかなサービスをしてくれる。

プリプリのアサリにエビ、イカ、ムール貝の入ったそれは、魚介のジュースが余すことなく麺にからまり、秀逸。
トマトソースも酸味がとんがっていなくて、私の好みだ。

セコンドピアットには、「本日のおススメ魚介」である的鯛を、ピッツァ用の石釜でローストしてもらった。
そう、ここはナポリピッツァも評判の店らしい。
一人なのでピッツァを頼むと品数が頼めなくなるので断念したが、次回来訪時には試してみたいものだ。

高熱の石釜で、短時間に焼きあげた的鯛は、皮がパリパリのサクサク。
白身の肉はふんわりで、旨みが全部閉じ込められている。
付け合わせに焼いてくれた野菜たちも、素材そのものの甘さが出ていて素晴らしい。
もう一杯白ワインのグラスが空く。

実はこの日、ここへ来る前に献血していた。
献血当日は、かなり酒の強い人でも悪酔いしやすくなるので呑みすぎないように…そう、献血センターのお姉さんに釘をさされていなければ、食後のグラッパをいただきたいところなのだけれど。
そういうと、
「じゃあほんのちょっとだけ」
とひと口だけグラッパをサービスしてくれた。

柔らかい口当たりのそれは、普通40度ちょっとのアルコール度数がある通常のものよりも弱めの30度強だそうで、大阪は狭山市で作られているそうだ。
へええ。
ビールや日本酒が大阪で作られているのは知っているが、グラッパとは嬉しい発見だ。

幸い悪酔いもせず、ほろ酔い気分で帰途に就いた。
以前ひいきにしていたカジュアルイタリアンが閉店してしまって、安くて美味いイタリアンを探していたのだが、どうやらここに決定らしい。
ざっかけない、温かな気配りの数々に、すっかりリラックスさせてもらった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

本日のお店の予算(一人分・あくまでだいたいの目安)
約4000~6000円


魅惑のアジア

2010-12-18 | Weblog
昨日、平日にはめずらしくダンナと夕食をともにする機会を得て、西大橋にあるタイレストラン「チェディルアン」におじゃました。

ゆったりとした、落ち着く空間。
まずはタイビール「シンハ」をいただきながら、メニューを眺める。
このビールのグラスやコースターがまたかわいい。
アジアンテイスト満載なのだ。

ここはダンナのお気に入りの店なので、基本的にはダンナにおまかせ。
つきだしのエビせんべいを食べながら待つことしばし。
最初に登場したのは「プーニムパットポンカリー<蟹と玉子のカレー香り炒め>」だ。

ソフトシェルのカニを、卵と炒め、ハーブや香菜で香り高く仕上げたものだが、これがもう絶品。
殻ごと食べられるカニは香ばしく、ソースに複雑な味わい深さを与えている。
タイ版「アメリケーヌソース」のようなそれに、別注文した「チェンマイ風 篭入り餅米」を手でダンゴ状にして浸して食する。
もう、至福としか言いようがない。

次に登場したのは、「パットガッパオムーサップ<豚ロース肉とタイ産バジル炒め>」。
「ひき肉」というには荒い程度に細かく切られた豚ロースをバジルやタケノコなどと炒めている。
ブタ肉は細かく切られているのにもかかわらずジューシーで、バジルの柔らかな食感とのバランスが秀逸だ。
カレーのスパイスでまとめられたその一品。
どこまでも食欲をそそる。
こいつのソースも、もち米に浸す。
はああああああ、たまらんねえ。
追加で頼んだモンシャム(タイ香り米焼酎)がぐいぐい進む。

そして、ダンナの超おススメメニューが登場した。
「カオソイガイ <チキンカレーヌードル> 」だ。
モチモチとした茹で麺の上に、サクサクと香ばしい揚げ麺が乗る二重構造。
それらをまとめるのは、ココナッツ風味のカレーソースだ。
先ほどの豚ロースの炒め物のカレー味のシャープさと好対照な、まったりとまろやかなソース。
まるでタイ風「カルボナーラ」だ。
揚げ麺は、そのままならサクサクとしていて、ソースにからめた部分は少ししんなりする。
それらと茹で麺の、食感の違いもまた楽しい。
これまたたまらんね。

「今まで行ったタイ料理の店の中で、ここが間違いなくピカイチだと思う。」
ダンナの言葉もむべなるかな、だ。
ああ、まだあれもこれも頼みたいのに。
はち切れそうなお腹のため断念し、再訪を誓う夜だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

本日のお店の予算(一人分・あくまでだいたいの目安)
約4000~5000円