のすけ堂の通勤小説

携帯電話などから立ち読み感覚で小説を読む事が出来ます。あなたの通勤のお供にして頂ければと思います。

[OBLIVION] <遠雷04>

2007年02月21日 12時55分06秒 | ミステリー小説
7月22日11時49分
泰三は力の無い様相で目の前に出された食事を見つめていた。
昨夜の出来事は泰三の脳裏に大きな1つの疑念を呼び起こし、泰三はその疑念の虜となっていた。
昨夜の出来事より泰三は片手に数珠を常に携えており、片時も放すまいと心に誓っていた。
泰三には【仏像】の血の涙が神聖なものだと考える事は出来ず、忌々しい【何か】が【仏像】に乗り移ったとしか考えられなかった。
そして、泰三が【仏像】を割った時、液体が血の涙を全て洗い流したという事実に関して、泰三はあの液体の正体を知りたかった。
しかし、液体は既に庭に解き放たれており、今現在に至っては蒸発してしまっていた。
重々しい雰囲気を泰三が醸し出している所為か、周りの人間は泰三に声を掛ける事無く、黙々と目の前に出された食事を採っていた。
泰三が箸を取り、機械的に食事を採り始める頃には周りの人間の殆どが食事を終えており、各々に席を立ち始めていた。
泰三の食事は辺りの茹だる様な暑さで生温い熱を帯びており、鮮度は確実に落ちていた。
しかし、今の泰三にとって食事に対する味覚という感覚は既に失われており、昨夜の記憶だけが泰三の五感の全てを集中させていた。
食事を食べ終えても泰三は箸を絶え間なく動かし、何も挟んでいない箸を口へと運んでいた。
その光景を見ていた泰三の妻は耐えられない心境となり、泰三に声を掛けた。
しかし、泰三はその声に反応する事無く、食事の席を離れる事は無かった。
遂に食事場に1人きりとなってしまった泰三はその事に気が付く事無く、箸を置いた。
そして、徐に生温いお茶を喉に通した時、泰三は自分が小声で何かを口づさんでいる事に気が付いた。
泰三は自分の囁いている言葉が理解出来ず、自分の声に耳を傾ける事にした。
その声は自分の声ではないかの様な高音域の声であり、普通に考えると女性の声の様だった。
しかし、その声は自分の喉元を揺らして発せられている事から泰三は声が自分の中から発せられているという現実を理解せざるを得なかった。
泰三の中から響き出る囁く様な声は【Clear region A. To go to the next region】と発せられていた。
泰三は英会話の能力が長けている訳ではなく、自分が英語を発音良く話している事に驚きを隠せなかった。
繰り返し発せられているこの言葉に泰三はその意味を見出そうと考えた。

[OBLIVION] <遠雷03>

2007年02月20日 23時47分44秒 | ミステリー小説
7月22日10時06分
章吾は昨夜、急患で搬送されてきた女性の手術をする為、ゴム製の手袋を嵌めていた。
手袋を嵌める傍らで常に寂しげな表情を携えた【少女】の顔が頭を霞めていた。
章吾はあの絵をどこかで見た様な気がしていた。
しかし、章吾はどこでいつ見たのかという記憶の曖昧さに苛立ちを感じずにはいられなかった。
ビニールの手袋がしっかりと装着された事を確認すると、章吾は手術室の中に身を置いた。
章吾にとって消毒液の匂いが充満するこの手術室はいつも神聖な物に思えていた。
そして、章吾が手術室内に好んで流しているゆったりとしたクラシック音楽は、この場の雰囲気をより神聖化しているかの様であった。
章吾の前で麻酔により睡眠している女性の腹部には消毒が施されており、章吾は今回の手術を行う場所の再確認をカルテと女性の体を見比べながら行った。
その後、章吾は助手医にメスを要求すると徐に女性の腹部にメスを当てた。
迅速、且つ丁寧に女性の腹部の皮膚を切り取り、章吾の目の前に女性の臓器が現れた。
その瞬間、大量の汗が章吾の額から噴出し始めた。
章吾はその汗の噴出量に驚きと戸惑いを隠せなかった。
今まで章吾は数え切れない程の手術を経験しており、その内のいくつかは危険な賭けをした手術もあった。
その時でさえ、章吾はこの様な汗をかいた事など無かった。
だが、今、章吾の額からは女性の体に滴る程の汗が排出されていた。
今までの手術内容に手落ちが無い事も章吾は分かっていたし、それを証明するかの様に心拍数等は正常時の値を示していた。
章吾は自分のこの汗の意味が分からぬままに助手医の汗を拭う事を依頼し、自分の平常心を取り戻そうとした。
しかし、この切開された女性の腹部の中にある大腸に手を掛けた瞬間、章吾は手の震えを止める事が出来ない程に動揺し始めていた。
その理由は女性の大腸と大腸の間に何かが挟まっている事を確認したからである。
章吾は指先を伸ばし、【それ】を摘むとゆっくりと指を引き戻した。
【それ】が折り畳まれた紙である事が分かった章吾は血まみれの紙の折り目を開いた。
折り目が全て開かれた時、章吾の目に有り得ない物が映り込んできた。
あまりにも不意な出来事であった為、章吾は不覚にも女性の体内から取り出された物を床に落とし、小さな甲高い金属音が手術室内を木霊した。
その紙の中には【注射針】が入っていた。

[OBLIVION] <遠雷02>

2007年02月19日 12時39分15秒 | ミステリー小説
7月22日8時24分
偽名の義明はメールで受信した数日後に進入する建物の設計図面を何度と無く見返していた。
この図面上で赤くバツ印を付けられている地点が目的となる場所であり、今回の仕事は時間との勝負である事を彼は自覚していた。
彼は目的地点までの距離を正確に分析すると自分の移動速度を考え、今回の仕事は5分以内に仕上がると算出した。
今回の仕事の猶予時間は6分であるので問題は無かった。
しかし、今回の仕事はいつも以上に不意の問題発覚の可能性があると彼は考えていた為、脱出経路も既に確保していた。
その理由は彼の本名が記載された謎の郵送物、既に死亡している本物の義明から切断された【指】、そして【GIFT】と書かれた手紙の内容。
彼にとっては想定外な出来事がここに住み着いてから起こっていた。
自分の集中力を維持する為に彼は【指】や手紙は部屋のクローゼットの奥の方に仕舞込んでいた。
本来であれば、自分の不安要素を取り除く為にこの謎を解き明かそうとしていただろう。
しかし、今の彼にとっては数日後に迫った自分の仕事への準備が最優先事項であると感じていた。
今回の仕事の依頼主は名前や身元が分かる情報を一切与えずに彼に仕事を依頼してきた。
この様な依頼主は彼にとって珍しくは無かったが、通常は彼の知人や友人を介して彼に仕事の依頼をしてきていた。
しかし、今回の依頼は特有でメールで直接、彼に仕事の依頼をしてきていた。
彼は何故、この依頼主が自分のメールアドレスを知っているのかという事に当初は恐怖心を覚えていた。
そして、依頼主と何回かのメール交換をしている内にその仕事の規模や報酬に惹かれ、彼は今回の仕事を請ける事とした。
彼はパソコン内に保存された依頼主とのメールのやり取りを見直し、依頼主に自分の遡上や名前を明かしていない事を再確認した。
その瞬間、彼は頭を左右に振り、自分の平常心を取り戻すかの様に目を瞬かせた。
彼は再び自分のパソコンの方に向き直った時、パソコンが1通のメールを受信した事を知らせるサインを発した。
件名は無記名であり、送信アドレスは依頼主のアドレスであった。
彼は今回の仕事の依頼の関係のメールであると考え、メールを開封した。
そのメールに記載された文章を読んだ時、彼は自分が仕事を請けた事を後悔せずにいられなかった。
【罪人現る時、死神舞い降り、その鋭角な鎌で人の首を欲す】

[OBLIVION] <遠雷01>

2007年02月19日 12時32分54秒 | ミステリー小説
7月22日1時18分
悠哉は懐中電灯を片手に携え、深夜に大学構内の1つの教室へ脇目も振らずに黙々と歩いていた。
この教室が【約束の場所】と呼ばれている場所であると考えた悠哉はその教室内を隈なく調べた。
しかし、悠哉は【約束の場所】と呼ばれる所以についてのヒントすら見つける事が出来なかった。
その結果により、悠哉は今回の件が誰かの悪戯として自分の中を整理し、全て忘れる事で踏ん切りを付ける事にしていた。
だが、悠哉は授業に参加していても、自分の家に帰ってテレビを見ていても、【約束の場所】への興味が薄らぐ事は無かった。
そこで悠哉は意を決して徹底的に【約束の場所】と呼ばれている場所を再調査する事にした。
悠哉は教室の扉の前に辿り着くと一呼吸置いて、ひんやりとした感触の扉の取っ手に手を掛けた。
教室内は不気味な程に暗く、懐中電灯の光の先だけが視覚として物体を捉えられるたった1つの箇所だった。
まず、悠哉は星印が書き込まれている机へと向かい、机の上の落書きや机の中、椅子の裏等、在りとあらゆる箇所を調べた。
しかし、昨日と変わらない机や椅子がそこにはあった。
結局、この教室には何の手がかりも無く、悠哉は途方に暮れていた。
星印の書いてある席に座りながら、悠哉は懐中電灯の明かりを闇雲に振り回し、外を眺めていた。
その時、仄かに窓硝子の一部が青白く彩られている事に悠哉は気がついた。
悠哉は星印の席から青白い箇所を覗き込むと、正確には窓硝子に映った対象の一部が青白く彩られているという事が分かった。
黒板が仄かな青白い色を放っている事に気が付いた悠哉は顔を黒板の方へと向けた。
その黒板は確かに仄かな青白い光を放っており、悠哉にはその光が文字を成している様な気がした。
しかし、光量が少ない為にその内容が確認できず、悠哉は懐中電灯の光をその部分に照らした。
その光の先には黒板の表面があるだけで青白い光は消えて無くなってしまった。
悠哉は慌てて光を別の場所に向けると青白い光は先程よりも強い力で光を発していた。
黒板に特殊な発光塗料で文字が書かれていると悠哉は確信し、暫く黒板に懐中電灯を当てた。
すると目視できる段階まで文字は青白い光を放つ事が出来る様になっていた。
黒板には指で示す仕草をしている手のイラストとそのイラストの上に【Destroy me !!】と青白く発色された文字で記載されていた。

筆者休載のお知らせ

2007年02月11日 21時34分11秒 | お知らせ
本サイトをいつもご愛読頂きまして誠にありがとう御座います。
筆者の本業の都合により今週中(2月11日から2月18日の期間)の更新は御座いません。
尚、来週より次章【遠雷】を掲載予定です。
ご不都合をお掛け致しますが、何卒、ご了承の程、宜しくお願い致します。
以上
のすのすけ

[OBLIVION] <流転07>

2007年02月08日 12時55分14秒 | ミステリー小説
7月21日20時15分
泰三は禍々しい物を封印から開放するかの様な表情で【仏像】が包まれている風呂敷の結び目を解いていた。
昨夜の泰三は驚きの余り、自分の部屋にあった風呂敷で【仏像】を包み隠していた。
泰三はその驚愕の出来事から平常心を保つのに丸一日を費やし、今ようやく【仏像】に何が起こっているのかを確認する意志を持つ事が出来た。
風呂敷の包みを解くと昨夜と変わらない【仏像】がそこにあった。
双方の瞳から血の涙を流し、その姿は尊重というよりも寧ろ悲壮感を漂わせていた。
泰三は両手で【仏像】を抱え上げ、【仏像】の表情に着目した。
その表情は自分が常日頃から敬愛している物と然程変わらなかった。
しかし、見続けていると泰三は吐き気を催し、【仏像】から視線を外した。
泰三は【仏像】から流れ出た血の涙には意味がある様な気がしていた。
泰三に信仰心はあったが、心霊現象や超常現象という物には全くの無関心だった。
今回のこの事象も誰かの悪戯であると泰三は考えていた。
しかし、見た限りではこの血は【仏像】から流れ出た物であると今は確信していた。
その理由は血は【仏像】の瞳の下に近づく程、赤黒く変色していた。
つまり、この血は時間の経過と共に流し出された事が証拠として残っていた。
更に顎に近い程、その血液の凝固量が少なくなっている事からも【仏像】が流したとしか泰三には思い様が無かった。
泰三は勇気を振り絞り、念入りに【仏像】を調べる事にした。
【仏像】は自分に何かを伝える為に昨夜、自分の部屋に現れたと泰三は考えずにいられなかった。
泰三は【仏像】を色々な角度から眺め、不審な点が無いかを調べた。
【仏像】の外観には特に気になる部分は無かったが、両手で回しながら見ていた時に【仏像】自身の重心は自分が【仏像】の角度を変えてから、少しの時間を置いて変わっている事に気が付いた。
泰三は【仏像】に耳を当てながら上下に少し揺すってみると、泰三の鼓膜を微かな音が刺激した。
泰三は【仏像】を片手で持ち、慌てて庭先に飛び出した。
そして、軽く経を読み上げた後、泰三は庭にある踏み石に【仏像】を叩き付けた。
勢いの良い音と共に【仏像】の頭部が砕かれ、透明な液体が溢れ出した。
その透明な液体は【仏像】の顔にあった血の涙を洗い流し、【仏像】からその液体が出きった頃には血の涙は跡形も無く消え去っていた。

[OBLIVION] <流転06>

2007年02月07日 12時57分41秒 | ミステリー小説
7月21日19時13分
海人は夕食を採り終えると自室に戻り、テレビゲームを始める為の準備をしていた。
海人の宝物であるゲーム機を大切そうに両手でテレビの前まで運び出すと、テレビとゲーム機の配線を慣れた手つきで行った。
その配線作業終了後、海人は今から遊ぶゲームを選び始めた。
銀色や金色に輝くゲームのDVDロム以上に海人の瞳は輝いていた。
ゲームを選ぶと海人はテレビとゲーム機の電源を入れた。
高い周波数帯域の音が室内に木霊した。
その音は一昨日に海人が学校の校庭で聞いた奇妙な音を連想させたが、海人は小さく首を左右に振り、これから遊ぶゲームに集中しようとした。
テレビはまだ外部入力の設定にはなっておらず、民営放送が表示されていた。
その民営放送はコマーシャルの最中であり、そのコマーシャルの内容は旅行の懸賞であった。
海人はこの旅行の懸賞が如何わしい物である様に思えて仕方が無かった。
何故ならば、応募をしなくても全国民の情報をこのスポンサーは保有している為、その中で選ばれた人達に旅行券が渡されると伝えていた。
更にその旅行券が送られてくる日がコマーシャル内で指定されており、その日にちは今日から考えると丁度1週間後の7月28日であるとコマーシャル上に表示されていた。
そして、最も如何わしいと海人が感じている点はこのスポンサーが無名の企業であり、このコマーシャル上で自社製品に関するPRが一切無かった事であった。
しかも、このコマーシャルはかなりの頻度で流されていた為、海人はこのコマーシャル費用や懸賞に掛かる費用をこの企業はどの様に捻出するのかと考えていた。
そのコマーシャルが終わると同時に海人は我に返り、テレビのチャンネルを民営放送から外部入力に画面へと切り替えた。
しかし、通常であればゲーム機のデモンストレーション画面が表示されるはずなのに、テレビの画面は黒い画面を表示させたまま一向に変わる気配が無かった。
その時、海人はテレビとゲーム機間の配線を確認し、次にテレビゲーム機の電源を何度か入切した。
全てに異常が無い事を確認すると海人は宝物であるゲーム機が壊れてしまったと思い、落胆の表情を隠せずにいた。
そして、ゲーム機の電源を落とす為にスイッチに手を掛けた時、突如、テレビの画面に何かが映った。
海人がそのテレビの画面を振り返り見ると先程の懸賞のコマーシャルが画面上に表示されていた。

[OBLIVION] <流転05>

2007年02月06日 12時59分00秒 | ミステリー小説
7月21日16時34分
美沙は昨日の奇妙な金額を引き出した男を脳裏から切り離せずにいた。
含み笑いをした男の顔が頭の中を過ぎる度に美沙は首を軽く左右に振り、男の顔を自分の脳から振り払う様に努めていた。
美沙は何気なく時計を見やると既に今日一日の大半が終わっていた事に驚きを覚えた。
銀行のシャッターは既に下ろされ、営業社員達がハンカチで汗を拭きながら、行内に戻り始めてきていた。
美沙は慌てて受付窓口を立つと終業までの間に行わなければいけない作業に取り掛かった。
周りの人間の不審そうな視線に痛みを感じながらも、美沙は手際良く業務を遂行していった。
そして、待合広場の清掃を行っている最中、美沙は長椅子の隙間に紙切れの様な物が挟まっている事に気が付いた。
美沙は指を這わせ、長椅子の隙間の中に指を入れた。
2本の指で紙切れの様な物を挟み込んだ感触を感じると美沙はその物が切れない様に慎重に自分の指を手繰り寄せた。
その紙切れは丁寧に折り畳まれており、美沙は内容を確認するか否かを迷っていた。
そして、内容を確認しないと持ち主を判断できないと考えた美沙はその紙切れは開き始めた。
その内容を確認した時、美沙は驚きの余り、紙切れを床に落としてしまった。
床に落とされた紙切れには【2,357円】の引出額が入力されていた。
その紙切れは通帳から剥ぎ取られた紙切れであり、昨日、美沙が例の男に手渡した通帳の中の1ページ部分であった。
美沙は落としてしまった通帳の1ページを手に取り直すと内容を再確認した。
引出日として7月20日10時08分と入力されており、金額も美沙が覚えている金額である事から、その通帳の1ページの内容は美沙が入力した物という事を決定付けていた。
美沙は頭の中で男がこの1ページを長椅子の間に挟んでいた理由を考え、困惑していた。
そして、更に詳細にこの通帳の1ページを見ていくと右下にとても小さな文字で何かが書いてある様に思えた。
肉眼で確認出来ない程の小さな文字である為、美沙は通帳の1ページを握り締め、自分の机に小走りで向かった。
自分の席に座ると机の引き出しを弄り、美沙は虫眼鏡を取り出し、覗き込む様にその文字に虫眼鏡を当てた。
その文字は文章になっており、内容はこの様に記載されていた。
【汝、我成り、我、汝成り。人、変貌せし時、我、人に数を与えん。】

[OBLIVION] <流転04>

2007年02月05日 12時50分18秒 | ミステリー小説
7月21日13時43分
桜は署内のパソコンで1つの企業を検索していた。
昨夜、バーテンダーは自身の携帯電話から桜が以前受信したメールと同一のアドレスを探し出した。
バーテンダーの受信したメールのタイトル部には【夢幻堂】という企業名と思しき記述があった。
メールの内容は出会い系のサイトの様であり、一部には如何わしい文章の記載もあった。
桜はこの企業名を検索欄に入力し、インターネットでこの企業の調査を行っていた。
この企業名に該当するホームページは星の数程あり、桜の調査は困難を極めていた。
1つ1つのホームページを開き、内容を確認し、桜の直感的な判断から違うと思えば、次のホームページを開くという作業に桜の体は小さな悲鳴を上げるかの様に痛みを感じさせていた。
徐にディスプレイから目を離し、桜は大きく背伸びをしながら、現在追っている事件と全く関係の無い事に気を囚われている自分に対して若干の罪悪感を感じていた。
桜は充血した目を指で軽く押すと、再びディスプレイに目をやり、膨大な検索結果に対する地道な作業を再開した。
長い地道な作業の結末として、遂に送信元であると思われる1つのサイトに桜は辿り着く事ができた。
そのサイトは最初に黒い画面が表示されるとゆっくりと【夢幻堂】という企業名が白い文字で表示された。
その後、画面が突如変わり、同じ黒い画面に緑色の文字でこのサイトのメニューが表示された。
桜は初めに【お問い合わせ】の項目に注目し、この画面を開く事にした。
パソコンはカタカタと音を立て、メールの送信画面に切り替わった。
桜はこのメールの送信画面上でメールアドレスをメモ帳に書き込むと自分の携帯電話で受信したメールアドレスとの比較をした。
それら2つのメールアドレスは同一の物である事を桜は確認すると、桜は小さなガッツポーズを取っていた。
その後、桜はこのサイトの中身をゆっくりと見る事にした。
バーテンダーが受信したメールの内容と変わらず、このサイト自身は出会い系サイトの様であった。
しかしながら、奇妙な点はこのサイトの電子掲示板上には1つの書き込みも見当たらなかった。
そして、【アルバム】という項目を選んだ時、桜は自分の席で小さな悲鳴を上げてしまった。
【アルバム】の項目の中には桜が写った幾つかの隠し撮り写真が公開されており、更に1つの写真は桜の顔の左目が切り取られていた。

[OBLIVION] <流転03>

2007年02月02日 12時39分54秒 | ミステリー小説
7月21日11時27分
偽名の義明は【指】を詳細に調査していた。
その理由は【指】は本来の重み以上の重量感があった為、【指】の中に重みのある物質が詰め込まれていると彼は考えていた。
【指】の切断箇所は丁寧に縫合されており、中を確認する為には慎重にその縫合箇所を解いた後に取り出す必要があった。
彼は器用に縫いこまれている糸を指で取り除いていき、【指】の切断部分の糸が全て取り除かれた。
彼は先ず初めに【指】の中を覗き込んだ。
何かが詰め込まれている事は確認できたが、その物質が何であるかまでは目視では確認する事は出来なかった。
彼は少し考えた結果、切断箇所を下側に傾けて手を器の様にしてその物質を受け取る事にした。
【指】を傾けた瞬間、受け皿となっている片側の手に温かい感触を感じた。
彼はその物質を初めて見た瞬間に戸惑いを感じずに入られなかった。
その物質は細かい粒子で白色をした【砂】の様な物であった。
彼は中身を確認すると【指】を放り投げ、昨日から何度も熟読している【GIFT】と書かれた手紙を読み返した。
【その物の真実を見定めた時、その物は貴方の転地が逆転した事を示す】
彼は眉間に皺を寄せたまま、この一文しか書かれていない文章を何度も黙読した。
思い出したかの様に彼は自分の鞄を弄り始め、徐に薬品の入った小さなビンと刷毛を取り出した。
そして、刷毛にその薬品を浸けると壁や床などに塗り始めた。
暫くすると薬品が塗られた箇所には沢山の指紋が浮き出ていた。
この薬品は指紋を浮かび上がらせる為の薬品であり、よく鑑識官等が使用する薬品であった。
彼はその薬品で浮かび上がらせた指紋をスキャナで取り込み、自分のパソコンにその指紋の画像を取り込んだ。
次に彼は壊れ物に触れる様に慎重に切断された指の指紋をスキャナで読み込み、同じ様にその画像をパソコンに取り込んだ。
その後、手馴れた手つきで1つのソフトウェアを起動させ、指紋の照合を始めた。
カタカタと無機質に動くハードディスクの音が彼には小煩く感じられた。
【照合中】という緑色の文字が画面上に表示されている間、彼はその照合結果を爪で机を叩きながら待っていた。
数分後、ディスプレイ上の表示が変わり、2つの指紋が同一の物であるという結果をパソコンが示した。
切断された【指】は本当の義明から切断された【指】である事をパソコンは立証した。