スタージョンの短編タイトルのごとく、ある日、地球の空は、巨大な宇宙船でいっぱいになります。
世界中の人々が恐れおののく一方で、白髪白髭で白服をまとった老人たちが各地に出没します。
彼らは、みな同じセリフを口にします。
「わしらは神じゃ。この世界を創造した労に報いると思って、食べものを少し分けてくれんかのう―」
いったい何が始まるのだろうと読み進めると、人類の起源に関わる大変 . . . 本文を読む
「まぶたをとじると、はじめて出会ったときの彼女の姿が目に浮かんでくる。小さくて、きゃしゃで、異様なまでに血の気のない肌と、目じりのつりあがったチョコレート色の目をしていて。髪は、雲のない晩に見る月のように白かった。」
月に建造されたコロニー同士の激しい抗争により、コロニーは破壊され、地球からの支援物資を奪い合う荒廃したありさまとなってしまっています。
取り残され悲惨な生活を送る居留者たち . . . 本文を読む
19世紀末のイスラム世界にあるまち、ブーダインのラマダン明けの祭礼の夜、貧民街の暗がりの薄汚れた路地に、12歳の少女ジハーンが誰かを待っています。
この夜からのジハーンの運命は、どのように展開していくのか、彼女にもわかりません。
一つの物語は、ジハーンがレイプされてしまい、婚資を当てにしていた父親や男兄弟から家を追い出され、街の女となり、次第に色香も失せて、ついには、この路地で野垂れ死ん . . . 本文を読む
マングローブに一面覆われたユカタン半島の未開の地。
観光旅行の途中、小型飛行機の相席となったドンと、ルース、アリシアの母・娘、そしてパイロットのエステバンは、エンジン不調により、周囲から途絶したこの地に不時着する羽目となります。
しばらくは、救助が期待できない中で、飲料水の確保のため、怪我をしたエステバンと、アリシアを残して、ドンとルーシーはマングローブの奥地へと探査を試みますが、ドンが . . . 本文を読む
人類は、太陽系を手中にしようという昆虫型宇宙人との闘いを続けており、木星から土星にかけての防衛線で、熾烈な攻防を繰り広げています。総力戦、消耗戦のなかで勝利をつかむために、人員の確保は必須となっており、「繁殖法」が制定され、「産めよ増やせよ」政策が強力に推進されていますが、なお人員は不足しています。
そこで、兵士供給の方法として、戦死者を材料とする「再生人間」の製造が、国家プロジェクトとして . . . 本文を読む
「<苦痛の王>は、喜びと悲しみの両方を、涙と笑いの両方を、成功と失敗の両方を、正気と狂気の両方を知っている者でなくてはならない。人間であるということがどういうものなのかを正確に知っている人物でなければならない。どんなに恐ろしくてどんなにすばらしいものであるかを知っている人物でなければならない。きみのような人物だよ、フィンセント」
未来の人類は、知恵と技術の発展による恵みを享受していましたが、一 . . . 本文を読む
何でもない、いつもどおりの朝の食卓を囲んでいたティム一家。
その場へ、ドアを蹴破り、ものものしい雰囲気の兵士たちが踏み込んできます。
驚くティムですが、兵士たちは、家族が平穏にいっしょに暮らしていること、コーヒーを飲み、豊かな食事をし、冷蔵庫やバンケットには食材がたっぷりと詰まっていること、兵士たちが生きる荒廃した世界からは考えられないティムたちの姿に仰天します。
尋問を受けたティムは、こ . . . 本文を読む
あらゆる抗生物質に耐性ができた細菌が蔓延。唯一、「エンドジン」だけが、かろうじてまだ効果があるものの、細菌が耐性を獲得することを防止するために、「エンドジン」による治療をさせまいと、過激な集団が、病院の爆破を繰り返し実行するという、暗澹とした物騒な社会が物語の舞台です。
主人公のエリザベスは、ブルーカラー・ワーカーである夫のジャックと、息子のショーン、娘のジャッキーの4人家族で暮らしています . . . 本文を読む
ニール・ゲイマンの短篇集「壊れやすいもの」は、ゲイマンの多才さ、多彩さを味わえ、また、ヒューゴー賞、ローカス賞を受賞した作品が多く含まれる高品質の作品集です。
いくつかの作品をご紹介します。
「翠色の習作」(2004年ヒューゴー賞、ローカス賞受賞)
シャーロック・ホームズの「クトゥルー」ものという、下手するとせっかくのキャラクターを台無しにしてしまいそうな、リスキーな企画ものですが、稀代の . . . 本文を読む
宇宙への植民による人口減少や、バイオテクノロジーの進展によって「光合成」で自足できる人々の出現などにより、農業経営が成り立たなくなり、農村が徐々に崩壊していく中で、放棄された農地と取り残された廃屋に、いつしか、過剰なテクノロジーとストレスやトラウマに苛まれ、逃れてきた人々が住み着くようになっていました。
そんな一人であるジョーは、パートナーのマディ、知能増進犬のボブとともに、何とか、農畜により . . . 本文を読む
「時間」を超える物語は、SFの定番・鉄板の分野で、膨大な作品とともに、数多のアンソロジーが編まれています。
このアンソロジーは、SFマガジンなどに掲載されたきりで埋もれていたワンヒットワンダーの名作にスポットをあてた、オールドファンにとって、嬉しい企画ものです。 . . . 本文を読む
「要約: レムの小説観は非常に狭苦しくとんちんかんであり、おそらくそれはかれの社会性の欠如からきている。レムの作品に一貫するのは人間嫌いと社会の不在であり、それはかれのぶっとんだ小説のおもしろさの源泉であると同時に一つの限界でもある。
感情なき宇宙的必然の中で:スタニスワフ・レムを読む(季刊『InterCommunication』2006年夏号)山形浩生」
スタニスワフ・レムは、知能指数がえ . . . 本文を読む
「わたしは醜い石と肉の子であり、それを否定することはできない。母のことは覚えていない。わたしが生まれてすぐに蒸発したのかもしれない。どうせ死んでいるのだろう。わたしは父の姿も―息子と似ているとすれば、くちばしがあり、翼もどきのものがついた醜い代物のはずだ―見たことがない。」
77年前にモルデュー(神死)が起こり、あらゆる存在がぐらつき、世界は、混沌に飲み込まれてしまいます。妄想が実体あるものの . . . 本文を読む
『改良人類』
「「どのぐらい寝てたんだい?」
「六一七年と三か月になります」
「は?600年?なんで起こしてくれなかったんだよ!」
ALSを患っていた主人公の劉海南は、治療法が確立されているであろう未来に希望を託して冷凍睡眠に入っていました。彼が、600年後に目覚めたとき、遺伝子改変の技術が極度に進み、遺伝子に関わる病気はもちろんのこと、性格や容姿に至るまでコントロールできるようになり . . . 本文を読む
「(おれの息子を返してくれ。)と叫びたかった。(おれを愛してくれる息子を。あの子はどこにいるんだ。あの子になにをした。この不機嫌そうな生き物は、どこのどいつだ。)眼下に張りめぐらされた、クアナークの二百万におよぶ命をささえている鋼鉄の格子を通して、黒いグリーンランドの水が、われらが洋上都市の水門に打ち寄せていた。」
環境破壊と地球温暖化が進み、居住できる土地、工作できる土地が水没し、激減した近 . . . 本文を読む