二次元が好きだ!!

SSなどの二次創作作品の連載、気に入ったSSの紹介をします。
現在ストパン憑依物「ヴァルハラの乙女」を連載中。

令月余話 乾有彦ノ章

2021-08-29 17:41:03 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編

遠野志貴はオレと同類の「壊れた」奴だが、
アイツの壊れっぷりはそれ以上の筋金入りだ。

「命」の実感なんて羽毛以下の重みしかなく、死体が動いているような奴だ。
今はマシになったけど、大昔のガギの頃なんざ「死」の気配マシマシのヤベー空気を纏っていた。

どうしてそうなったかなんて分かんねーが、
確かに言えることはアイツは昔から体が極端に弱かった。
小学生のガキの頃なんて軽く運動しただけでも救急車で運ばれた時もあったくらいだ。

思えばいわゆる日常を過ごすだけでもアイツにとっては多分、命懸けだった。
常に死ぬかもしれない可能性が日常生活に潜んでいる・・・となれば、まあ「壊れて」当然だな。

で、そんな奴の一番ダチがこの乾有彦様であり、
オレも色々あって同じく「壊れた」奴だけど、幸いと言うべきか身体は健康そのもの。
お陰様で今日まで日々好きな事をしたり、愛を囁いたりと自由気ままなナンパ人生を謳歌していけている。

だが、どうも最近風向きが変わってきたようだ。
ナンパは失敗続きで、上手く行っていないし、悪い運ばっか引き寄せている。

対してダチの方は本家とやら戻ってから急に華やかになりやがった。
枯れ木も山の賑わい、どころかここ最近は満開の桜が咲き誇ってやがる!

しかも、しかもだ――――。

「弓塚、お前、マジで遠野のとこでメイドしてたんだな・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

メイドがいた。
弓塚さつきがメイドをしていた。

久々だけど何だが以前より女性の色気が増して美人になっていた。
いや、元々顔立ちは可愛い系だし、黙っていれば上玉だし、ビックリだぜ。

現代の吸血鬼騒動とか言われている殺人事件で一時期行方不明になり、
無事保護されてるも、家庭の事情で遠野の屋敷で働くようになったと聞いたけどさ・・・。

それよりも髪型が変わっていた、ポニーテールだ!
オレはストレートの方が結構好きだけど、メイド服とセットなポニーテールも悪くないなっ!
安直な「萌え~」なメイド服ではなく、実用的かつ機能美と装飾美のバランスが取れているのが良い!

メイド服!同級生!ポニーテール・・・そしてボクっ娘!
今、オレは声を大にして言いたい、性癖のハッピーセットや!

って・・・落ち着け、オレ。
思考が馬鹿をしている志貴レベルに堕ちている。
文章で状況を纏めて落ち着くんだ・・・よしっ!

『同級生にして中学生からの腐れ縁である弓塚さつきが親友である遠野志貴の家でメイドをしていた』

・・・やべー、文章に変換するとますます意味が分かんなくなる。
常識とか良識に喧嘩を売り過ぎだろ、現実にあっちゃ駄目な奴だろ?

エロいゲームの世界だろ?18禁設定だろ?
なんでさ♪なんでさ♪なんでさ♪なんでさ♪

いや、なんでさ♪って何だよ。
嗚呼、ビックリしすぎて脳みその理解が追い付いていない。
つーか、よもやオカルトよりも怖い現実がまさかあるなんて・・・。

くっそ、これが深淵って奴か。
だとしたら聞かなきゃならない事が1つあるな――――。

「その。なんだ、えっと・・・。
 『志貴様』って事はそういうプレイなのか?
 もしかして、まさか、もう既に調教済みなのか!夜の御奉仕的な――――!!!」

「んなわけあるかーーーーー!!?」

「ちょ、おわああああああ!!!」

胸元を掴まれたけど・・・足が地面から浮いているぅぅうう!?
いくら女子の中でも体力がある方だとはいえ、ここまでの馬鹿力はなかったはずだ!
しかも、オレが足をバタつかせても弓塚の方はまったく影響を受けていない、どんな筋力してんだよ!?

「あ・・・あぁあぁあ――――!ご、ごめん!大丈夫?」

顔を青くした弓塚がオレを慌てて下ろす。

「ゆ、弓塚――――」

痛くはなかったけど、腰が抜けたぞ。
という言葉を言おうとしたが弓塚の顔を見て撤回する。

――――なんだって、そんな泣きそうな顔をしてんだよ、オイ?

「おいおい、服が伸びちまったじゃないかよ、わははは!」
「・・・・・・・・・」

弓塚は驚いた顔でこっちを見ている。
だけど、まだ心配そうに、怯えるようにオレを見ていた。

「心配すんなって、
 オレは不良だけど筋を通す良い不良で、
 弓塚がどんな事になってもダチだし、嫌う事なんてないぜ」

「・・・っぷ、あははは!
『良』の字に否定の『不』を書き足した『不良』
 だから良い不良なんて矛盾の極みじゃん、有彦!
 でも、うん、有彦のそーいう真っ直ぐな所、助かる・・・ありがとう」

オレの言葉を聞いた弓塚はひとしきり笑ってから、微笑んだ。
色気を帯びたその仕草にオレは一瞬、表現し難い違和感を覚えた。

「有彦?」

「いや、弓塚。
 なんでもねー。
 へへへ、どーいたしまして」

己の馬鹿さ加減にオレは笑う。
あほ臭い、色気は色気でも、女性ではなく美しい獣の色気
なんて詩的でオカルトな言葉、どうしてオレの中で浮かんできたんだろう?

「2人ともじゃれ合いはさて置き、
 久々に3人で集まれたんだから乾杯しよっか?」

「お、そうだな!そうしようぜ!
 気を取り直してメイドっちんのコーヒーを飲もうか!」

「メイドっちん、って何やねん」という小言を受けつつ、
あの忌々しい連続猟奇殺人事件以来、ようやく揃った3人で久方ぶりの祝杯を挙げた。

「――――うめぇな!喫茶店の味じゃん!」

銅製のマグカップには氷が浮かんだアイス珈琲。
対してオレが知る珈琲とは「コーヒー」でしかない。
ファミレスとか、缶とか、インスタントの物しか知らない。

だから断言してもいい。
これは間違いなく喫茶店に出てくる本当に美味い珈琲、って奴だ。

「早朝屋敷でボクが焙煎したばかりの、良い珈琲豆だからね、
 紅茶は琥珀さん、翡翠さんには及ばないけど珈琲なら何とか勝負できるよ」

「屋敷で焙煎って・・・流石金持ち。
 というか弓塚が焙煎したのか、すげぇ!
 そーいや、弓塚は小学生の頃から珈琲飲めたと言ってたな」

弓塚は昔から珈琲が飲めるし、好んで飲んで、自分で作っていた。
小遣いを貯めては珈琲の器具を揃え、わざわざ豆を買いに行っていた。
なんというか趣味嗜好、それと思考の全てが他の誰よりも一歩どころか三歩以上進んでいた気がする。

「焙煎機材は今は亡き親父のコレクション。
 ・・・もとい、ガラクタとして放置してた奴をさつきが再利用したんだ。
 顔なんて録に覚えてないけど、今こうして美味しい珈琲が飲めるんだから親父殿には感謝だな」

わざとらしく黙祷する志貴。
ガキの頃から人畜無害な顔をして結構な毒舌を吐く奴である。


「ん、でも台所で金網で焙煎するのと仕組みが違うし、
 秋葉様・・・秋葉さんからは味についてアレコレ小言を言われているからまだまだ精進しないと」

「あははは、兄貴の俺が言うのもあれだけど、
 秋葉は根っこからの女王様気質で言い方がキツイからな。
 でも、なんだかんだで琥珀さん、翡翠も含めて皆で珈琲を美味しく飲んでいるし」

2人にしか実感できない内輪の話。
だけど、弓塚がこの屋敷で居場所を作れたのと、穏やかに過ごせている事だけは理解できた。

「上手くやっているから安心したぜ。
 でも弓塚はスゲーよな、住込みでメイドとして働いているだろ?
 その上でもうすぐ夜間高校に通うなんてオレ、本気で尊敬するな」

弓塚は不良街道を爆走するオレと違って、
根っこの部分は勉強を頑張れるし、家族だってちゃんとある。
にも拘らず何で「お〇ん」の真似事をする羽目になったんだが・・・本当、カミサマって奴は。

「お褒めの言葉、感謝乙。
 でも、まさかボクがメイドするなんて想像できなかったよ。
 描いていた未来なんて精々、高卒後地方公務員で就職。
 あるいは大学進学のために上京して就職する程度だったし」

「就職かぁ・・・あー、ヤダヤダ。
 未来永劫、気楽な学生身分にいたいな――――・・・」

もはや呪い、呪詛の概念と化した言霊だ。
しかも世の中に流れる評判によれば大卒でも就職は厳しいらしく、
今が楽しければ良い、そんなオレとは正反対な概念なんて耳にするだけでも鬱になりそうだ。

「ふふん、俺には関係のない話だね。
 なんだってこう見えても遠野財閥の長男だしな」

「あぁん!働かずに食う飯はうまいか?
 最近身の回りが華やかになっているからって調子に乗るんじゃねー!」

ドヤ顔を浮かべるアイツに噛みつく。

「もちろん美味しいさ!
 毎朝翡翠が起こしに来てくれるし、
 毎朝琥珀さんが美味しいご飯を作ってくれる!
 いやー、御曹司として生まれて本当によかった、働かずに食う飯はうまいなぁ!」

「くっそ!ブルジョワめ!滅びろ!滅びてしまえ!」

忘れがちだが、コイツは金持ちな家系生まれだ。
成金とかではなく、地元三咲町では代々名士な家柄だ。

だから不良なオレと志貴がつるむの件について昔は「忠告」してきた大人がいた。
ま、単にオレの反骨精神を滾らせただけに終わったけどな!

「あははははは!!」

そんな野郎2人の漫才を見ていた弓塚が心底おかしそうに笑い声をあげている。
女性的、というより男性的な笑い方で、どこも変わっていない事が確認できて安心する。

「本当にこの関係は良いね、うん。
 ・・・やっと日常に戻った、帰ってこれたと実感できたよ」

笑いながら、安堵するように弓塚が呟いた。

「おう、だったら今日はトコトン馬鹿話しよーぜ!
 何つったて、麗しき学生時代なんて一瞬に過ぎちまう!一秒一瞬が愛しいぜ!」

オレの言葉にどうしてか弓塚は虚をつかれた顔を浮かべ、

「――――永遠なんて少しも欲しくはない、だったかな?」

そんな言葉をフレーズに乗せて口にした。
ここではないどこか遠く、懐かしそうに。
二度と戻れない場所を見るかのように、呟いた。

「――――さつき」

「あっ・・・ごめん、変な雰囲気にしちゃって!
 じゃあ、話そう!今日はもう仕事がないし、とことん話そう!」

志貴の催促に弓塚が我に返る。
オレはなんとなく2人は共通の秘密を抱えているのを察した。

たぶん、あの連続殺人事件がきっかけだ。
きっと、オレが知らぬ間に何かがあったんだろう。
おおかた、オレには関われない何かを経験したんだろう。
恐らく、オレには助ける手段もなかったのだろう。

「おうよ、望む所だぜ、さっちん!」

ま、それでもオレはオレだ。
オレが2人の友人であることに変わりないし、
2人もオレがそうであり続ける事を望んでいるに違いない。

オレは乾有彦。
遠野志貴と弓塚さつきの親友。
それ以上でもそれ以下の何者でない。

それだけさ。


 

 

 

 

 

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ACT.15「昔話」

2021-08-25 20:56:30 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編

「志貴、貴方にとって弓塚さつきはどのような存在ですか?」

いよいよタタリと対峙する道中、シオンは突然そう切り出した。
視線は先ほど俺に自分とタタリの関わりを語った時と違い、刺々しい。

「どのような存在って・・・」

シオンにしては抽象的な問いかけに俺は戸惑った。

おまけに刺々しいけど気のせいかシオンはどこかで怯え、
今までにない未知を知って感情の整理ができていない、ような・・・。

ここは、そうだな・・・緊張をほぐすために――――。


1、遠野家の新人メイドだな、うん!
2、ただの友人だよ。
3、今のところ、全然わかんないのよねー。アハハハ!
4、強敵と書いて友と呼ぶ!


「遠野家の新人メイドだな、うん!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

渾身のキメ顔でそう言った。
計算外の回答を聞いてシオンは混乱している。

こうかはばつぐんだ!

・・・だが、これは冗談ではなく本当の話であり、一応理由もある。
原因は吸血鬼になって太陽の下を歩けず、人としての日常生活を過ごせなくなったせいだ。
とてもじゃないが自宅に帰れないし、万が一の事を考えると遠野の屋敷にいた方が対応できる。

だから現在は「遠野家で保護、養われている魔」という立ち位置に落ち着き、
普段は屋敷で琥珀さん、翡翠と一緒に働く夜間限定の新人メイドとして働く日々を送っている。

なお表向きは、

「行方不明になった弓塚さつきは発見されるも、
 家庭の事情で学校は一度休学し、遠野の屋敷にて住込みで働きつつ、夜間部へ編入した」

という形で必要書類の提出や暗示、アリバイ工作をしている最中だ。
もう少しすれば夜間だが復学も夢ではない。

それで新人メイドとして働くさつきについて遠野家の反応だが、
まず秋葉は・・・ロア、もとい四季さえ殺せばさつきが吸血鬼ならずに済んだから責任を感じている。

だけど、同じ「魔性」で表の世界には出せない悩みを抱えているから、秋葉とさつきの仲は悪くない。
一時期は互いに殺し合った仲だけど、それはそれで仕方がなかった事だと納得している。

翡翠は部外者が来たことで当初は警戒していたけど、
朝に俺を起こしに行く仕事を奪わないし、力仕事で頼りになる存在と認識してくれるようになった。

それと意外だけど翡翠がメイドとしての礼儀作法をさつきに教育する役割を自分から志願した。
言い出した時は俺や秋葉だけでなく、琥珀さんまで見たことがない顔で驚いたな、あれが素なのか?

琥珀さんは「し〇じろうゲットだぜ!」とさつきに対して好意的である。
さつきの方も『面白い人』と好意を抱いているけど時々距離の取り方を図っている気がする。
理由は分からないけど、それで仲が悪いところなんてないし、ゲームとか一緒によく遊んでいる。

それにしても同級生で中学以来の女友人が自宅でメイドさんとして働いている。

なんてシチュエーション、琥珀さんが『エッチなゲームみたいですね、志貴さん!』なんて煽った通りである。

制服や私服姿には見慣れていたけど、翡翠と同じメイド服姿はなんだか新鮮だし、
仕事モードの時は翡翠とよく似た音色で『志貴様』と言われるからドキドキする。

基本活動時間は夜間だけど、
夜明けの直射日光対策に白の手袋とフードを装備してる上に、
夜にシエル先輩、アルクェイドと活動する時もあるから靴は頑丈な編み上げブーツ。
などなど、と露出度がかなり低いから翡翠より清楚感が1割程増している。

しかもメイド服を着用している時の髪型は、俺はわりと好きだけど最近みかけないポニーテール!
館の主人として、友人として渾身丁寧な土下座を以てお願いしたらさつきはドン引きしたな。
だけど髪が伸びてたからポニーテールにしてくれたし、最後は写真撮影まで同意してくれた。

メイド服!同級生!ポニーテール!
今、俺は声を大にして言いたい、性癖のバーゲンセールや!

答えは得た。
大丈夫だよ、先生。
俺もこれから頑張って――――。

「志、貴」

むらさきいろの、おにがいた。
めらめらと、ほのおをまとっている。

「怒ってないので、真面目に、考えた上で、答えて下さいね、ね?」

シオンが優しく微笑む。
うん、こうしてじっくり見るとなかなかの美人さんだ。

だけど米神に青筋を浮かべていなければ、
それと頭部に拳銃を押し付けられてなければ、よかったんだけどな――――・・・。

「ははははは、
 ごめん、ごめんシオン。
 ちょっと緊張を解そうと思った冗談だよ、冗談」

「ほう、確かに緊張は解れましたが、
 私の中で怒りという名の感情が上昇しているのを報告します」

・・・・・・おうぅ、ゴット。どうやらお気に召さないようだ。

「そもそも――――私は一度弓塚さつきに対して殺意を以て攻撃した。
 弓塚さつきは貴方にとって大切な人間では?にも拘わらず、
 何故貴方は私と共にタタリの討伐に同行しているのですか?理解できない」

・・・どうやら、さつきだけでなく、
俺もシオンからすれば理解できない存在だったらしい。

だけど、安心する。
シオンの悩みはこの程度の話だったのだから。

「や、シオン。
 それを言い出したら俺はアルクェイドを17分割したし、
 シエル先輩は対吸血鬼装備でさつきを殺そうとしたし、
 秋葉なんかは全身から体温を奪って殺そうとしたりと、
 両腕を切り落としたシオンよりもっと本気で、確実にさつきを殺しに来たぞ」

今は遊びに行ったり、デートするような関係だけど。
出会ったきっかけは常に殺し合いだ。

シエル先輩はさつきを吸血鬼として討伐しようとした。
さつきはシエル先輩の足をフライドチキンの感覚で食べた。
秋葉はさつきを即身仏にするつもりで殺そうとした。
俺は、と言えばアルクェイドを一度バラバラ死体にした。

それでいて、今は互いを信頼、信用している。
因果関係を思い返せば色んな意味で無茶苦茶な関係である。
俺たちの人物関係を『殺し愛な関係』とボヤいたさつきの理屈も頷ける。

「・・・・・・・・・すみません、知れば知るほど意味が分かりません」

シオンが頭痛に堪えるように頭を抱えた。
まるで深淵でも覗き込んだみたいだ。

「もう、見ました。ええ、見ましたとも。
 自分の在り方、矛盾点をよもや弓塚さつきを介して知り、
 知らない方が幸せだった事実、厄介な事実を知ることになるとは・・・本当に」

ハァ、とため息をシオンが吐く。

「え、そんなに凄いのか?さつきって?」

俺なんかよりも遥かに頭が良いシオンの口から、
よもやさつきが厄介な存在と評価するなんて予想外である。
魔女や代行者、魔術師、吸血鬼が蔓延るこの街のヒエラルキー的にまちがいなく最下位だと言うのに。

「規格外筆頭の貴方が言う台詞ですか!
 第一・・・話がそれましたね、もう一度質問します。
 志貴、貴方から見て弓塚さつきはどのような存在ですか?」

理性を伴った鋭利な視線でシオンが問う。

「別に、さつきは今でこそ吸血鬼、死徒だけど、
 俺からすれば中学からの友人、腐れ縁な仲に変わらないけど・・・。
 うん、俺は壊れた存在でお互い「普通」じゃなかったから、気づいたら一緒にいた感じかな?」

「壊れた存在・・・?」

我々魔術師の方がよっぽど壊れている。
と、言いたげで疑問を抱いていそうなシオンに対し、
目の前の相手に対してではなく、自分自身へ自分を語るように語る。

幼少期、俺は俺のルーツ。
七夜という名、それと四季とあの事件を忘却した事。

そして臨死体験をした挙げ句この「眼」を手にいれた事。
「先生」と出会って、生き方を覚えた事。

しかも俺には本当の家族、血縁上の父親母親を知らない事。
まったく記憶にないし挙げ句、一度遠野の家から追い出された事。

分家の有馬の家で育った事。
そして再度遠野家で暮らすことになった事。

その全てをシオンに語った上で綴る。

「そんな感じで俺は世間一般の人とはあり方が少し特殊なんだ。
 俺は死を理解しすぎているし、悟り過ぎている、壊れたヤツなんだよ」

しかも俺は人より体が弱い、脆い。
それを悪意を以て、または善意で以て指摘され、劣等感を覚えた事だってある。

それに「眼」を手にいれてからは信じている世界はこんなに脆く。
容易く死ぬことを理解してしまった。

だから俺は達観していた、俺自身を。
俺は傍観していた、この世界を。

そんな中、俺は同類である乾有彦と出会った。
同じ壊れた者同士、アイツがいなかったら遠野志貴はかけがえのない幼年期を無駄にした筈だ。

さらに中学に上がった時。
似たようなお仲間ともう1人巡り合えた。

「さつきは俺と同類、ああ見て似た者同士なんだ。
 今でこそ、自分の立ち位置や振る舞い方に妥協を見出したけど、
 出会った当時のさつきは、心と肉体に折り合いがつかなくて苦労していたんだ」

中学時代、不機嫌そうにしていた彼女の顔はよく覚えている。
漏れ聞こえていた小学校時代の武勇伝やら迷勇伝で名前だけは知っていた。
女の子だけど男だと主張している変な奴がいる、という噂だけは耳にしていた。

そして、子供とは善悪の区別が未完成で、物語に出てくる妖精みたいな存在だ。
感情の制御ができていないから簡単に喧嘩になるし、【異物】に対して悪意なく暴力を振るう。
だから苛めがあったし、さつきは苛めた相手に対しては割と同じ暴力で対応したようだ。

それでいて苛めの証拠をガッチリ押さえて裁判沙汰を目論んだだの、
何というか・・・可愛い顔をしていて、小学生らしからぬ可愛げのない話ばかり聞こえていた。

「・・・・・・魂と肉体の不一致、もしくは――――」
「シオン?」

ボソッとシオンが呟いた。

「いえ、志貴。
 話を続けてください。
 貴方が語る貴方自身の在り方。
 それと弓塚さつきの人物像はとても興味深い、続けて下さい」

「うん、分かった続けよう」

シオンに催促されたので語りを再開する。

中学時代。
相変わらず体が弱い俺はよく保健室でお世話になった。
酷い時は自力で保健室へ行けないからそんな時はクラスの保健委員が付添人として、
保健室まで案内する事になっていけど――――その担当が弓塚さつきだった。

『ふぅん・・・三次元だとこんな感じなんだ、遠野君は』

始めて会話した内容はたしかこんな感じだった。
失礼、というよりも不思議な物言いだった。
純粋な好奇心、そんな気がした。

『そういう弓塚さんだって、同じ三次元じゃないか』
『ボクは異次元からの来訪者なんだよ』

意味不明なやり取りだった。
まだ親しくなかったが一人称がボクと言い、噂通りの変人だと思った。

男子とは喧嘩し、女子とは話が合わず孤立。
その癖、しっかり勉強していたから成績は上位をキープしてた自称心は男な問題児。

だけど、小学生以来。
誰もが臨死体験を得て纏った俺の「死」の気配に怯え、
隣の席に座るのを嫌がられる中、彼女は平気な顔をしていた。

『ほら、手を出して。
 あるいはボクの肩に手を添えるんだ。
 どうせ自分で歩くのも辛い、違うか?』

『うん、そうだけど・・・。
 弓塚さんは良いの?噂になるよ?。
 それに俺、遠野の家だけど今は有馬の家にいるんだよ?』

今でこそ馬鹿みたいな話だと言えるが、
中学校では男女が触れただけで付き合っているだの揶揄された。

加えて遠野家と言えば表向きは財閥の名士として三咲町では有名な家だ。
そこから表向き長男にも関わらず放り出された『訳あり』な俺と好んで関わろうとする同級生は稀だった。

『噂の伝播速度は音速並、
 プライバシーなんて基本ない存在、地方あるあるだな。
 そもそも、本当の意味で『訳あり』なら遠野君は今頃『有馬君』と呼ばれていたはずなのに、
 未だ『遠野君』とボクから呼ばれている辺り、我々子供がそこまで心配する話じゃないと思うけどね?』

さつきはそう言うと鼻で笑った。
思い返せばさつきは年齢と知性が一致していない頭の良さがあった気がする。

うん、そうだ、シオンと話している内に思い出して来た。
さらに、さつきは言ったんだ。

『それに、ここで遠野君に胡麻を擦っておけば、
 将来の就職的に有利になるだろうしね、源氏バンザイ!
 遠野グループバンザイ!ビバ、親方遠野グループ!なんちゃって・・・』

あははは、これには思わず噴き出したな。
普通は玉の輿狙いだろ!と突っ込みそうになったよ。

それで俺は確信した。
弓塚さつきは俺や乾有彦と同じく「普通」じゃない仲間なんだと。

『変わっているね、弓塚さんは。
 いや、故障しているね、弓塚さんは』

『割と笑顔でキツイ事言うね、君。
 しかし、故障、故障かぁ・・・まっ、そうかもね今後とも、ヨロシク』

それが俺と弓塚さつきの出会いだった。

「と、まあ。
 そんな感じで有彦と3人でつるんできたんだ。
 俺が言うのも何だけど・・・一般人の生活なんて、その・・・。
 シオンみたいな頭が良い人間が聞いても面白い話じゃなかったと思うぞ?」

「そんな事はありません。
 志貴の昔話を聞いて私は優越感を得てますし、
 主観を介して語られる弓塚さつきの人物像はデータ収集の一環として貴重です」

ドヤ顔でシオンは胸を張った。
何で俺の昔話を聞けて優越感を得ているのか謎だけど、
悲壮な覚悟を抱いていたシオンの緊張が解れているので、それで良いか。 
でも「データ収集の一環」と言うあたり、シオンらしくてうん、好きだな。

「・・・っ、ゴホン!
 私の計算によればまだ時間はあります、続けて下さい」

「おいおい、大丈夫なのか?」

時間はある、と断言したけど。
シオンは何だか途中から目的と手段が逆転してしまうような、
そんな頭の良さがある気がするから――――ほんの少し、ちょっと不安だ。

「問・題・あ・り・ま・せ・ん!
 後はあのビルの中に入ればいいだけではないですか!
 何ですか?戦う前に私の緊張感をほぐすつもりではなかったのですか!?」

顔を赤らめつつ、目の前にそびえ立つビル。
「シュライン」を指さしながらシオンが吠えた。

「はいはい、分かりましたよ」

どう見てもムキになっている。
なんて事は口にせず、俺は要望を了承し、
かまって委員長気質のシオンの期待に応じるべく、
戦う前の短い時間だけど、俺は俺の物語と昔話をシオンに語り続けた。

 

 

 

 

 

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幕間の魔女「芋大尉の日常」

2021-07-17 22:38:41 | ヴァルハラの乙女

◇煙草の話

「こんな光景、他の隊員には見せられないな・・・」

三条の紫煙が揺らめく中、ワタシは発言した。

「そうよね、ウィッチの喫煙は黙認されている。
 と言っても、「黙認」であって「公認」ではないし、
 ルッキーニさんとか子供が真似しそうだし、皆の前で吸うのはちょっと、ね・・・」

紫煙の主、その一人目であるミーナが頷いた。
細長いシガレットホルダーで吸う姿は「女侯爵」の二つ名らしく、どこか貴族的な余裕と優雅を感じさせる。

軍隊と煙草は切っても切り離せない関係、
しかもこの時代は煙草は喉ごしが良いなんて言われていたから、
喫煙に抵抗感が薄いのを知っていたけど・・・しっかし、まさかミーナも煙草を吸うなんて・・・。

初めて知ったときは、本当に驚いた。
それこそ例えるならばクラスのお嬢様がNTRた挙句、
ガングロ化してチャラ男の象さん(意味深)なしだと以下略)な薄い本的展開に匹敵する衝撃だったな、うん。

まあ、ミーナは1日に葉巻を20本も吸うヘビースモーカーとして有名なガランド少将の副官を勤めていたし、
指揮官としてのし掛かる心理的重圧、有力者との会談やパーティーなどの付き合いで喫煙せざるを得ない機会が多いからなぁ・・・。

というか、この時代。
喫茶店には灰皿、マッチは必ず用意されているし、
映画館で映画を上映していても、飛行機の中、列車の中でも平気で煙草を吸っている。
おまけに、ポイ捨ても平気でやるし喫煙者にとっては天国のような時代だ。

「ミーナの言うとおりだ、子供は大人に憧れる。
 ルッキーニだけでなく、宮藤もリーネも真似するだろうな」

紫煙の主、その二人目である坂本少佐が呟いた。
口にしているには前世でも有名な銘柄「ラッキーストライク」だ。
なお、ミーナも少佐と同じ銘柄をシガレットホルダーの先端に挿して吸っている。

よもや坂本少佐まで煙草の味を知っているなんて、意外すぎるが、
煙草の覚醒と鎮静作用に頼らざるを得ない戦場にずっと身を置いてきたせいなのと、
少佐もミーナと同じく付き合いで煙草を吸う機会が多く、それで煙草の味を覚えたと聞いた。

・・・JG52にいた時を思い出すな。
ヨハンナ、ラル、クルピンスキー、3人とも腕前は確かだったけど、
所詮は新米少尉に過ぎず、真の将校として人を率いるにはあと数年の歳月が必要だっただろう。

だけど、ネウロイ戦争で経験を積んだ先輩ウィッチは消耗戦の果てに次々と倒れ伏せ、
気づけば、中尉に昇進してみんな中隊長として職務を任されるようになってしまったんだ。

なおワタシとヨハンナに至っては最後は3個中隊を束ねる飛行隊司令まで昇進してしまった。
平時ならば経験豊富な大尉、あるいは少佐が受け持つ役職にも関わらず新米中尉が、である。

あの当時、人は簡単に死んでいった。

1度の出撃で発生する未帰還率は3割。
出撃する度に誰かが戦死するか、戻ってきても誰かが重症を負って飛べなくなった。

12歳どころか、場合によっては10歳程度の少女がである!

ヨハンナは両足を切断するしかなかった部下から恨み言を吐かれて精神的にかなり追い詰められたし、
ラルは「自分が嫌われ役になれば良い」と開き直ってあの図々しい鉄仮面を被ったけど、ストレスで味覚がおかしくなった。

クルピンスキーは言動、女遊びな行動こそ変わってなかったけど、
部下を庇って撃墜される回数も増えて、誰かが戦死する度に密かに大泣きし、酔いつぶれていた。

そんな中、煙草は戦地では数少ない娯楽であり、
煙草の覚醒と鎮静作用は戦場で荒んだ精神を安定させるのに必要不可欠であった。
皆で集まって煙草を吹かしながら、喧嘩したり、議論したり、泣いたり、笑ったりしたんだ。

もう5年、あるいはたった5年前の話で、
まだ15歳どころか13歳の時だけど、何もかも懐かしい青春だった――――。

「少佐、宮藤については問題ないかと。
 何せ未だ中学校に在籍しているので一度煙草を吸えば一発で退学間違いなしですから」

「む、そう言えばそうだったな。
 すっかり銃後の常識を失念していたな、いかんな」

「本当ね・・・『普通の』女の子なら10代で煙草なんて吸わない、そんな常識を忘れてしまうわ・・・」

そう、『普通』ならそうだ。
『普通』の女の子なら煙草なんて吸わないし、頼らない。
軍隊と一般社会の常識の間には、大きな溝があり、長い軍隊生活がそれを忘れてしまう。

「それにです、」

紙巻煙草を吸っている2人と違い、
こちらはパイプだから炉に火を保たせるように、一度息を吹く。

「それに、喫煙習慣があっても進んであの3人に煙草を勧めるようなウィッチはこの部隊にいませんから」

エーリカに煙草を教えたチャラ女・・・。
もとい、クルピンスキーのように「楽しい軍隊生活」を先輩として教えるウィッチはいない。

本当、501にいるウィッチはミーナが言ってたように「良い子」ばかりである。
JGG52は確かに精鋭部隊だったけど「プライベートは深く関与しない」とラルが宣言したように、
私生活において非常に癖が・・・ぶっちゃけ、問題児なウィッチが大勢所属する愚連隊な所があったな、そうそう。

だけど塹壕貴族(自分がそのあだ名をつけた)もとい、
ボニン司令はそんな部隊について頭を痛めるどころか、むしろ楽しんでいた気がする。

「えっ?喫煙習慣って・・・私達以外にいるの?」

「うん、ミーナ。
 意外かもしれないけど、いるんだよ。
 正確には「昔は喫煙習慣があった」だけどエイラ、
 シャーリー、この2人、実は煙草を吸っていたんだ」

「シャーリーならまあ無くはないが、エイラが?以外だな・・・」

それについてはワタシも同意する。
黙っていれば清楚系な美女である上に、
リアル北欧系銀髪美少女なエイラが煙草を吸っていた。
なんて事実はショッキング極まる事実なのは間違いない。

「切っ掛けは原隊にいた時、
 先輩ウィッチから喫煙を勧められてからだそうですよ、少佐」

「あーーー・・・先輩から勧められ喫煙を始めたのか、よくある話だな」

「その辺の事情はどこも変わらないのね・・・」

坂本少佐とミーナが「あるある」と頷く。
「先輩から勧められて喫煙を始めた」なんて話は【前世】からよくある話だ。

だけどこれが、ケモノ耳と尻尾を生やし、空を飛んで戦う魔法少女でも、
こうした生臭い話が絡むなんて、少し面白く、笑ってしまいそうだ。
ただし、エイラの喫煙についてそうせざるを得ない事情もあった。

「スオムスは白夜の季節になればほぼ丸1日昼間の様に明るくなり、
 殆ど寝る暇も無く戦う羽目になりますから、眠気覚ましと疲労を誤魔化すのに煙草が必要だったそうです。
 501に来て暫くは隠れて喫煙していましたけど、今はサーニャに嫌われるのが嫌で辞めた、と本人が言ってました」

堂々と吸わずに隠れて吸っていたのも本人曰く、
「ウィッチ用の食堂や休憩所に灰皿がないので、部隊に定められた暗黙の規定を察したから」と言う辺り、
エイラは見てくれこそ二次元から飛び出たリアル美少女だけど気質は周囲の空気が読める下士官そのものだ。

傍から見ればボンヤリしているミステリアスな美少女だけど、
10歳の時からずっと戦ってきただけあって「軍隊」の気風、阿吽の呼吸を知り尽くしている。

・・・おっと。

「2人とも、どうぞ」

二服目の喫煙を始めようとする2人に対してジッポを点火する。
「あら、ありがとう」「すまないな」と感謝の言葉を受ける。

「ふぅーーーー・・・。
 成る程、エイラさんにそんな事情があったなんて」

「流石、バルクホルンだな。
 ミーナと私では知り得ぬ隊員ことを把握できるとは」

仲良く1つの火種を分かち合った2人から称賛される。
金ピカの将軍閣下よりもずっと、嬉しい称賛だ。

「何てことありませんよ、
 エイラと一緒にサウナに入って雑談する最中に知った話です」

だけど、ワタシは昔から素直に誉められた時の受け止め方が下手くそだ。
この称賛は本来あるべき「彼女」が受けるべきだと思っているからだ。
だから今日も後ろめたさ、照れ臭さを誤魔化すようにパイプを吹かした。

「シャーリーさんは?」

「シャーリーについては地方(一般社会)にいた時から吸っていたそうだ、ミーナ。
 理由は単純明確、大人から女性らしくしろだの、あーだ、こーだ、と言われて反骨精神を拗らせたからだ、と言っていたな」

この世界では歴史の節目節目にウィッチが活躍し、
「ライト姉妹」のように社会と人類の進歩を助けた経緯から「史実」より女性の地位は高い。
だけど、それでも男女の性差はあるし大人が求める「女性らしさ」は今も昔も変わっていない。

「シャーリーは機械弄りが得意で、
 自身もバイクのレースに出場できる程の腕前なので、
 絶賛も多かったですが「女性らしくない」と難癖も相応にあったんだ」

同性からも叩かれたと聞いている。
ハッキリ言って八つ当たり、それと嫉妬だろう。
何せ唯でさえウィッチ、というだけでも同性から嫉妬の対象となりうる。

しかしシャーリーからすれば努力して得た結果であり、
何も行動せず、アレコレ言う連中なんてふざけた話であり、
「女性らしさ」とやらを押し付ける大人と女性に対し怒りを覚えて当然だ。

そして反抗心を拗らせた10代の少女がやる事なんて――――まあ、喫煙一択であった。

「・・・シャーリーらしい、
 と言えばらしいが、意外と苦労しているんだな、シャーリーも」

ぽつり、と坂本少佐が呟いた。

「出る杭は打たれる、
 どこも事情は同じかもしれませんね。
 ですが、今はルッキーニの面倒を見たり、
 自由にストライカーユニットを改造できたりと、
 楽しい事、好きな事が山程あるから、喫煙する暇なんてないと笑ってました」

自分のやりたい事、好きな事を見つけ、
それに向かって努力を惜しまない――――。

本当に羨ましい。
【前世】も含めて自分のやりたい事、好きな事が分からず、
軍人になってネウロイを叩き落とす事でようやく承認欲求を満たせた自分とは大違いだ。

まあ、いい。
どうせ自分はいつか戦死する。
最近は平和になった後の世界の行く末を見てみたい欲求があるけど、その道のりは未だ遠い。

それよりも「ストライカーウィッチーズ」の主人公である宮藤芳佳を守り通す。
彼女さえ生きていれば、必ずネウロイを地上から殲滅してくれる、絶対にだ。
人類数十億の命運は彼女に掛かっていると言って良い、だから自分の命は捨てても元は十分取れる。

何も問題ない、そう何も。
それだけを生き甲斐に今日まで生きて来たのだから。

「トゥルーデ、少し顔が怖いわよ・・・?」
「ん・・・そうか、ミーナ?」

心配そうにミーナが自分を覗いている。
こんな時、どうすべきか分かっている。

「いや、隠さない方がいいか。
 シャーリーが羨ましいな、と思ったんだ、ミーナ。
 好きな事を見つけて、好きな事に邁進するシャーリーが。
 軍人になるしか道はなかったし、軍人であることにしか意義が見いだせない自分と違って」

【嘘は言っていないが、本当の事は言わず、道をずらす】これに限る。
こうして自分の気持ちを騙し、周りの人間を騙して来た、ずっとだ。

ミーナは優しい、ワタシが知る誰よりも優しく、強く、情を知る人物だ。
だから「宮藤芳佳を守り抜くために戦死しても問題ない」なんて事実を知って心配させたくない。

「幼い頃に親を亡くして、引き取られた遠縁の親戚は軍人貴族な家系だから、
 ウィッチとして軍人になるしかなかったし、将来の婚約まで周囲から言われていたから余計に、な」

気づいたら「ストライクウィッチーズ」のゲルトルート・バルクホルンに転生していた。
しかもクリスを除いて実の家族がトラックの事故で全滅していた、本当に訳が分からなかった。
おまけに引き取られた親戚が【あの】ゴトフリードなバルクホルンだったから当時気分はもう銀河猫状態だった。

そんなんだから、この世界は「ストライクウィッチーズ」ではなく、
バルクホルンをメインヒロインにしたや○夫スレか!?と昔は悩んでも仕方がない事を真剣に悩んだな。

「ごふぅ!!、げほ!げほげほ!!
 こ、婚約!?バ、ババババ・・・バルクホルン!それは本当か!!?」

坂本少佐が妙に狼狽している、解せぬ。
というか、ここまで慌てふためている姿なんて初めてかもしれない。

「けほ、けほ・・・あ、あのね、トゥルーデ。
 普通は驚くわよ、というより落ち着いている貴女の方が驚きよ」

ミーナまで言われてしまう、何故だ?

「『身寄りのないウィッチを養女として迎えて、一族の息子と結婚させる』なんてよくある話だろ、ミーナ?」

美少女で魔法が使えるウィッチには希少価値があり、社会的なステータスシンボルだ。
だから歴史上、身寄りのないウィッチを権力者が育てて一族に迎える、なんてことはよくあった。

ましてやユンカーだ。
華やかな宮殿文化で骨抜きにされた軟弱なガリア貴族と違って、
己の勇武、御恩と奉公が商売な武士の類だから強い血、太古の昔から戦場に立つウィッチの血統は絶対に必要だ。

「それに妾とか、家内労働者とかではなく周囲の扱いは正妻。
 しかも、士官学校に入れる程度に教育してくれたから、ワタシは運が良いよ」

本当に運が良かった。
いくらウィッチとして覚醒している。
と言ってもウィッチとして正しく力を制御する訓練が必要だった。

加えて社会常識、それに言語もしばらく怪しい状態だったから、
もう一度学びなおす必要があり、それら全てを丁寧に教えてくれた人たちに巡り合えたのは運が良かった。

しっかし、よもや自分が「あの」ゴトフリードのお嫁さん候補とは・・・。
おじさんは軍人貴族家系だからと言って、ワタシまで無理に軍人になる必要はないし、
ましてや「息子の結婚相手」なんて考えていなくて単に「可愛い娘が増えて嬉しい」というスタンスだったけど、

周囲の人間は尚武と勇武の一族としてウィッチになった以上、軍人になるのが当然。
そして、自分をサーベルタイガーと一緒に引き取られた某魔王の義姉のように見ていたし、そう扱おうとしていた。

昔はそう囃し立てる周囲の人間に色々思う所があったけど、
ネウロイ戦争で大半は戦死してしまったから、今は少し寂しい気持ちが勝る。

「トゥルーデ、貴女・・・・・・」
「バルクホルン・・・・・・」

等と少し回想してたけど、
何故か2人揃って泣きそうな顔でこっちを見ていた――――理由が分からない。



◇服の話

「しっかし、ゲルト。
 お前マジで自然に着こなせているな、扶桑の服」

しげしげと、ワタシを観察していたシャーリーが呟いた。

「宮藤からも言われたが、そう見えるのか?」

今の自分は少佐の銃剣道に付き合っていたので胴着と袴姿であるが、
以前からどういう訳か、異口同音に扶桑の装束が似合っていると言われている。

「見えるさ、ゲルト。
『服を着るだけ』なら誰だってできるけど、
『服に合わせた細かい仕草』なんて簡単じゃないぞ。
 おまけに慣れない服にも関わらずリラックスしているし、私には無理だぜ」

「・・・仕草、か」

まさか仕草とは、ね。
【前世】から転生してから少しの間は男女の違い、
肉体の大きさが違うから体の動かし方すら違和感を覚えて大変だった。

「ゲルトは大抵の事なら何だって出来るから、マジで尊敬するぜ」

「何でもは知らないさ。
 知っていることしかできないだけだよ、シャーリー」

誉めるシャーリーに対して、
リベリオン人のようにヤレヤレと大袈裟なポーズをした。


◇髪の話

「トゥルーデ、少し伸びたよね」

エーリカの部屋で片づけを終えた後。
2人でベットに寝転がり、それぞれ好きな事をしていた最中にエーリカが言いだした。

「言われて見れば伸びたな、髪が」

Ta152のマニュアルから目を離し、
腰まで、とは行かないが相応に延びた髪を摘まむ。
色々あって切るのを後回しにしていたけど、流石に切った方がよいだろう。

長い髪は暑いし、何よりも手入れが面倒くさい。
女性の髪は繊細だから【前世】のように頭をガシガシ洗って終了!とはいかない。

しかも乾かすのにも手間隙と労力を要求されている。
まったくもって面倒なのだ、長いとアレもコレもやらなきゃならない。

「んん、でもいっそこのまま伸ばしたら?
 トゥルーデの髪質って、少佐に似て湿度を帯びているから長髪も似合うと思うけど」

エーリカがワタシの髪を撫でつつ呟いた。

「長髪は手入れが面倒だぞ、エーリカ。
 しかも、この基地は常に潮風に晒されているから、余計に手間が掛かる。
 化粧なんてしたことがない少佐でも、髪については毎日手入れを欠かせていないんだ」

坂本少佐、といえば【原作】のズレた性格と行動から、
女性らしい身だしなみについて関心がないと思っていたけど、
髪の手入れはその仕草に色気すら覚える程丁寧にしていたから、初見は心臓が止まるかと思った。

「それに髪を伸ばすなら、エーリカが伸ばせばいいじゃないか。
 エーリカの金髪は秋の麦穂、金糸みたいに繊細で綺麗だから伸ばして損はない」

転生して初めて知ったが欧米人、
中でもドイツ人と言えば金髪!のイメージが強いけど、意外とそうではない。
大半は自分のような栗毛か、金髪であっても別の色が乗算された色合いをした人が多い。
真面目な話、エーリカのような綺麗な金髪とは銀髪と同じくらい結構レアな色なのだ。

「えぇー、ヤダし。
 私の髪質は乾燥気味だから、今でも手入れが面倒なんだよねー。
 あっ、これから毎朝トゥルーデが手入れしてくれるなら、伸ばしてもいいかも」

「自分で手入れしろ」

エーリカの髪を櫛で梳かしながら答える。
吾ながら酷い矛盾である。

この子ははものぐさで、残念な言動と態度をしているが、
良いとこで育ったせいか自分で髪を手入れする時はちゃんと丁寧にする方である。

そういえばマルセイユも見かけに反して、髪の手入れは本当に丁寧だった。

性格、態度は生意気なクソガキそのもので、
煙草を一丁前に吹かそうとしてヤニクラで倒れたり、
深夜まで大騒ぎした挙げ句、飲み過ぎによる体調不良で出撃できなかったりと、兎に角問題児だった。

だけど、髪の手入れ。
その時だけは普段の唯我独尊な振る舞いは消え失せ、1人静かにゆっくりと手入れをしていた。

何せあの見た目で、あの長い髪だ。
それを静かに手入れしている姿は美しく、本当に綺麗だった――――。

「・・・今、ハンナの事、考えてたでしょ?」

過去の思い出に浸っていたらエーリカが鋭い一撃を放った。
背中しか見えないが「面白くない」という態度を全身から発している・・・なんでさ、というか。

「・・・何故、分かったんだ?」
「トゥルーデの雰囲気から『ハンナは可愛くて格好よかったなー』って感じだったし、分かるし」

顔を見ずに雰囲気だけで分かるなんてエスパーか!?
あ、そう言えば魔女か・・・。

「私、トゥルーデの事なら何でも知っているもんね~」

そう言うと、エーリカは鼻歌を歌い出した。

「かなわないなぁ・・・」

小さくても誰よりも聡い友人にワタシはお手上げするほかなかった。


 

 

 

 

 

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第41話「魔女たちの夜戦 下」

2021-07-03 20:07:50 | ヴァルハラの乙女

 「あれ、・・・?」

宮藤の意識が覚醒する。
しかし、前後の記憶がはっきりしない。
どうやら柔らかい何かに抱かれているようで、無意識に顔を埋め、再度眠りに入ろうとしたが、

「・・・気づいたかっ!宮藤、宮藤!!」

「あれ、あれ・・・?
 バルク、ホルン、さん?」

扶桑語で話しかけられ、宮藤の意識が完全に覚醒した。

「ね、ネウロイ!ネウロイは!?
 それに、私、確かサーニャちゃんを庇って撃墜されて・・・」

そして全てを思い出す。
夜間哨戒の最中に受けたネウロイの攻撃。
シールドの展開が間に合わず、視界の隅まで光線の光で満たされたところまで全てを思い出した。

「ワタシが拾ったんだ。
 宮藤のストライカーユニットは全損、今は素足で武器も紛失。
 ワタシ自身も救助を優先したからMG42を2丁放棄・・・始末書ものだな。
 ああ、それとネウロイなら背後でストーキングしている、しかも現在進行形でな」

バルクホルンの語りを聞いた宮藤が首だけ動かして背後を確認する。
僅かに月明かりで照らされる灰色の雲の中、見えるものなどない、そのはずだ。

だが、見えた。
巨大な黒い輪郭が赤い灯火を照らしつつ追従していた。
時おり、黒板を引っ掻いたような不愉快極まる音が響いている。

ネウロイに追跡されている。
宮藤が理解した時、感情が激しく揺れ動きそうになったが、

「安心しろ。
 ワタシが何が何でも守って見せるし、
 怖いなら抱きつくんだ、それなら少しは気が紛れる」

どことなく、男性的な響きを含んだ声で優しくバルクホルンが語りかけた。

「あ、はい・・・じゃあ、遠慮なく」

言われておずおずと、腰に手を回して抱きしめ、顔をバルクホルンの双丘の狭間に埋める。
弾力と張り、それと吸いこんだ甘い香りと体温が心地よい。

「気持ちいいし、何だかほっとする・・・」

宮藤は思った事をつい口走った。

「・・・そうか、まあできれば、
 あまり動かないでいてくれないか?くすぐったくなるから」

どこか陽気に語る言葉と余裕のある口ぶりに宮藤は落ち着きを取り戻すと共に、

(なんだか詩人が雲を眺めて詩の文句をねっているみたい・・・)

そう内心で思い、バルクホルンさんは私と違って本当の兵隊さん、軍人さんなんだ。
と、宮藤は改めて尊敬をする。

「あのネウロイは賢い。
 こちらが雲の中から急いで出ようとすると上から覆い被さるような機動をして来たんだ。
 どうやら『ウィッチは視界不良な雲の中での戦闘は苦手』というのを理解しているようだ。
 だから今は距離を保ち、時計回りでゆっくりと旋回しつつ上昇しているところなんだ・・・」

ネウロイに気づいた素振りは見えていない。
賢い、と言ってもワタシはもっと賢いようだ、とバルクホルンが笑いつつ言った。

(本当に、バルクホルンさんは凄い人なんだ)

宮藤が尊敬の念を更に深め、顔を見上げるが・・・。

「え・・・?」
「・・・ん、宮藤?どうした」

声は何時もと変わらない。
綺麗で流暢な扶桑語で宮藤に語りかけている。
優しくも、どことなく男性的な響きを含んだ声でバルクホルンが語っている。

だが気配はまったく違っていた。
殺気や剣気といった分かりやすい気配ではない。
顔にこれといった喜怒哀楽の感情表現が現れておらず、普通の表情のままだ。

しかし、眼だけは違う。
言語化できないある種、狂信、狂気が宿っていた。
瞳は宮藤を見ていながら、宮藤でない『誰か』を見出していた。

そこにいたのは「バルクホルンさん」ではなく、
小さい時、母親から寝物語で聞いた人の形をしていながら、人でない『化け物』のようだった。

「なんでも、ないです・・・」

誤魔化すようにバルクホルンの胸に顔を沈める。
「色よし、張りよし、バルクホルン」とエイラが評したように、
張りがある胸の感触は楽しく、嬉しいはずだが、今はそうした気分になれなかった。

それよりも、命の恩人に対して恐怖を抱いてしまった事、
一瞬でも『化け物』なんて言葉を連想してしまった自分に対して自己嫌悪に陥った。

「・・・そうか?まあ、それよりも。そろそろ頃合いか・・」

バルクホルンが上を見上げる。
つられて宮藤も顔を上げるが相変わらず視界は悪い。
時おり見える月以外は何も見えない。

「頃合いって、何ですか?」

質問を口にする。

「簡単な話だよ、宮藤。
 サーニャとエイラが脱出の援護をそろそろしてくるはずだ。
 何せ、サーニャからすれば雲による視界の障壁なんて関係ない。
 しかも側には未来予知の固有魔法を有するエイラもいる。
 だから2人なら、我々が視界不良な雲の中にいても誤射を気にせず、脱出の援護射撃することができる」

「あっ・・・!!」

言われてみれば筋道が通った理屈である。
ネウロイに追われていることで頭が一杯だった宮藤には思いつかない発想である。

「ネウロイが複雑な機動をしていたら難しかったかもしれない。
 しかし、今はワタシ達を追跡して単調な旋回機動を続けている。
 ああ見えて実戦経験が豊富な2人は必ずこの機会を逃さな――――来たな」

突然数条のミサイルが話に割り込んで来た。
正面上方から降ってきたミサイルは追跡していたネウロイに向かって直進する。

ネウロイは慌てて急旋回して回避を試みるが、
かえって「的の方から近づく」ような結果となってしまい全弾直撃してしまう。

「動くぞ、しっかり掴まっているんだ。
 何せこのTa152は零戦よりずっと速いんだ」

そう言いつつバルクホルンが宮藤をしっかり抱きしめる。
別名、究極のレシプロストライカーとも言われているTa152は固有魔法を使用しなければ、
という条件付きならばスピード自慢のシャーリーすらも上回る速度と加速性能を誇る優れたストライカーユニットであった。

最大速度は時速760キロ。
対して宮藤が使用している零式艦上戦闘脚二二型甲は時速540キロ、実に200キロも差がある。

戦局を覆すと噂されているジェットストライカーユニットは、
魔道エンジンの耐久性と信頼性でTa152のユモ213魔道エンジンに劣っており、
対抗馬となりうるノースリベリオンXP51Gは試作以前に1944年の時点では未だ影も形もない青写真に過ぎず、
マフィアのラッキー・ルチアーノがジーナ・プレディを拉致監禁し、軍に採用を推薦するよう脅迫している最中であった。

つまり1944年の時点においてTa152に匹敵するストライカーユニットはどこにもなかった。

「わぁ!?」

上昇、そして急加速。
零戦では絶対に体験できない速度の世界に宮藤が動転する。

機械駆動式過給機にたっぷり酸素を吸い込ませ、パワー・ブーストを全力全開で始動。
排気ノズルからからは炎が噴き出し、光跡が雲海から駆け上がる流星のごとく尾を引く。

ウィッチが逃げたのに気付いたネウロイがビームを放つが、
狙いすましたかのようにフリーガーハマーの斉射を追加で受けてしまう。
直撃と同時にネウロイが吠える声が轟く、それはもはやむき出しの暴力的な音声だった。

そのネウロイの声を無視する形で、宮藤を抱えたバルクホルンが上へ、上へと昇り続ける。
徐々に雲が薄くなり、月明かりが強くなる中、とうとう雲の中から飛び出した。

『大尉が出た!
 しかも、宮藤も無事だ!やったなサーニャ!』

『うん!』

バルクホルンが雲から抜け出したのを確認したエイラとサーニャが歓喜の声を挙げる。
一定以上ネウロイにダメージを与えたお陰か、無線が回復している。

だが、安堵する余韻はなかった。
バルクホルンの後を追いかけるように、ネウロイもまた雲海から飛び出してきた。

「お前はこっち来んナ!!」

撃ち尽くしたフリーガーハマーからMG42に持ち替えたエイラが罵倒と共に鉛玉の嵐を降らせる。
しかし、ネウロイは正面から銃撃を浴びせられてもひるまず、突撃を続けている。

「サーニャ!」
「エイラ!」

サーニャがエイラの腕を掴んで回避行動をする。
直後、2人がいた空域に光線が通り過ぎ、雲が蒸発する。
何をすべきか、何をなすべきか、言わなくても2人の間では全て理解できていた。

「くっそ、あのネウロイ。
 散々サーニャのフリーガーハマーの斉射を受けて、まだ動けるのカヨ・・・」

未だ撃墜に至らぬネウロイを目視したエイラが愚痴を零す。
これまでの経験からすれば、既に撃墜できる程度に打撃を与えているはずである。

「そうでもないぞ、エイラ。
 あのネウロイ、かなり損傷を受けている。
 現に先ほどまであった無線妨害が止んでいる」

「お、大尉っ・・・!?
 っう、うん、無事でよかったナ!」

「何、2人のお陰さ」

エイラ達と合流したバルクホルンが語りかける。
改めて無事を確認できたエイラが喜ぶが、見たこともない威圧感を纏ったバルクホルンに戸惑う。

「さて、サーニャ、フリーガーハマーは弾切れで間違いないな?
 間違いなければ、済まないが宮藤を代わりに預かってくれないか?
 見ての通り、ストライカーユニットがない上に武器も落してしまったんだ」

「え、あ、はい・・・分かりました」

口調こそ丁寧で柔らかい物腰だが、
眼だけはギラギラと歪な輝きを見せるバルクホルンにサーニャは胸騒ぎを感じる。

「では、頼む。
 宮藤を守るんだ、サーニャ」

バルクホルンが腋に抱えていた宮藤を差し出す。
サーニャとの会話で普段と変わらぬ態度と表情、理性を保っている。

「はい、・・・」

いや、保っているからこそ、
狂信と理性が同居しているバルクホルンに対しサーニャは動揺し、
自分よりもずっと強いウィッチが見せた心の闇を深く追求しなかった。

「あ、あの。
 バルクホルンさん、私、ずっと足を引っ張って・・・」

「心配するな、宮藤。
 年下を守るのは年長者の役割であり、
 宮藤芳佳を何が何でも守り抜くのがワタシの役割だからな」

サーニャの腕の中で小さくなっている宮藤が謝罪を口にするが、バルクホルンが安心させるように励ます。
だが、少し考えれば「何が何でも守り抜く」とまで言い切る態度に違和感を覚えたはずだ。
何故ならバルクホルンの言葉に含まれた想いは、重過ぎるほど想いが込められていたからだ。

もっとも、この事実について誰も気づいていなかったが・・・。

「さて、始めるとするか・・・エイラは援護を頼む」

「・・・んなっ!?
 大尉も武器なんて護身用の拳銃しかないんじゃな!!」

返答を待たずにバルクホルンがネウロイに突撃を開始してエイラが慌てる。
宮藤の救出を優先したため、機関銃を破棄したバルクホルンに残された武器は豆鉄砲な拳銃だけ。
それにも関わらずネウロイに突撃したバルクホルンに対しエイラが慌てている。

同じようにネウロイも慌てているのか、
即座に始めたエイラの牽制射撃もあって対応が遅い。
光線を放つ暇もなく、バルクホルンの拳が届く距離まで肉薄されてしまう。

「狩りの時間だ」

バルクホルンがある種暗示、
それと験担ぎの意味を込めて呟くと、
左手に手にした予備の銃身を渾身の力を込めてネウロイに突き刺した。

「■■■■――――!!!??」

ネウロイの悲鳴と轟音が鳴り響く。
バルクホルンの固有魔法は怪力系、
ゆえに突き刺す、というより殴り刺すような重い一撃が突き刺さる。
衝撃で全身に割れ目、裂け目が生え、破片が周囲に飛び散る。

しかし、それでもネウロイは未だ其処にあった。
破壊された部位の修復もできぬほど弱っていたが、
大型ネウロイだけあって、耐久力は兎に角しぶとかった。

「意外と固いな・・・まあ、いい。ゲルトルートの狩りを知るがよい」

バルクホルンが拳を振り上げ、
まるで杭打ちハンマーのような勢いで突き刺した銃身を殴った。

再度、響き渡る轟音。
ネウロイの体内に銃身が突っ込んで征く。
体内を破壊しつつ、奥の奥まで突き進む。
やがて最深部に鎮座していたコアをも破壊した。

「ネウロイの反応・・・っ消滅しました!」
「・・・素手で殴ってネウロイを仕留めるナンテ、マジで姉ちゃんみたいダナ・・・」


魔導針でネウロイが爆裂四散したのを確認したサーニャが叫び、
対して目視で確認したエイラが故郷の言葉で破天荒な身内を回想する。

「バルクホルンさん!
 バルクホルンさんは大丈夫なの!サーニャちゃん!!」

サーニャの腕の中にいる宮藤が大声で騒ぐ。
数分前に生死の境目を経験したせいで、不安定な感情を処理しきれていなかった。

「大丈夫だよ、芳佳ちゃん」

サーニャが宮藤を胸に抱き締め、
慈母のごとく心優しい笑みを浮かべる。

「バルクホルン大尉は大丈夫だから、ほら」

視線の先には五体満足、変わらぬ姿のバルクホルンがおり、

「皆、待たせたな――――ただいま」

エイラ、サーニャ、宮藤の3人に対して軽く敬礼した。



◇   ◇   ◇



「おい?・・・大尉、怪我してるじゃないか!」

勝利の余韻に浸っている最中。宮藤、サーニャ、エイラの3人の中で、
実戦経験が豊富なエイラが真っ先にバルクホルンの怪我に気づいた。

「ん、ああ。
 ネウロイを殴った時、
 飛び散った破片が切ったみたいだな」

指摘されたバルクホルンは額から血が流れていたが、何ともないように答える。

「痛く、ないのですか?」

サーニャが心底心配そうに言う。

「正直に告白すると少し痛い、
 でもまあ、墜落して骨折したり、
 焼けた銃身で無理矢理止血した時と比べればずっと痛くないな・・・うふ」

散歩でもいくような口ぶりでバルクホルンが語る。
が、語られる内容は重く、醸し出す気配は異様であった。

「・・・バルクホルンさん!
 少し、私の方に来てくれませんか?」

血に酔った獣のような気配を及びたバルクホルンに対し、宮藤が唐突に叫んだ。

「・・・構わないが?」

バルクホルンが首を傾げる。
だが、特に断る理由もないでサーニャにお姫様抱っこされている宮藤の傍に寄り――――。

「バルクホルンさん・・・えいっ」

顔を掴まれ、額の切り傷を舐められた。

「芳佳ちゃん!?」
「ふぉお、宮藤。オマエ大胆だな!」

その場に居合わせたサーニャ、エイラが驚きの反応を示す。

「・・・!!!???!!!」

バルクホルンは宮藤に何をされているのか理解するのに時間がかかった。
しかし「傷を舐められている」のを理解した時、驚愕と羞恥心が混ざった悲鳴の声を漏らし、

「いや、何故ここで傷を舐める。
 という選択肢を選ぶんだ、宮藤!
 ごく普通に治癒魔法を掛けてしまえばいいだけじゃないか!」

常識的な突っ込みを入れた。

「だって、さっきまでのバルクホルンさんを治療するなら、これが一番だと思ったんです」

「な、はあああ、いや、どういう理屈だ?
 待て、だが、、まあ・・・そう、かもな」

自信満々に言う宮藤に対してバルクホルンが赤面する。
自分でも先ほどまで冷静、とは言いがたい状態であったのを自覚していたので、反論する言葉が思い付かなかった。

「えへへ、それにバルクホルンさんみたいな優しい人なら、
 女の子同士でもちっともイヤな気持ちにはならないですよ」

「え、ちょ、まっ!?」

聞きようによっては非常に危ない内容に、バルクホルンは動揺する。
獣のような殺意や威圧感がなくなり「戻って来た」

「モテモテだなー大尉、ひゅーひゅー!」
「ワタシをそんな目で見んなぁ!!」

「普段」のバルクホルンに戻ったのを確認したエイラが早速からかう。
弄られた側の人間は大声でわめく以外で対抗手段がなかった。

「芳佳ちゃんはとっても優しいのね」
「えへへ、それほどでも」

宮藤、バルクホルンのやり取りを見届けていたサーニャが口を開く。
ほめられた宮藤は、高ぶった気持ちの後押しを受けてネウロイのせいで言えなかったことを、ようやく口にした。

「あのね、今日は、実は今日は私の誕生日なんだ!」
「!・・・そう、なの、」

神の悪戯、としか言い様のない偶然にサーニャは大きく目を見開く。

「んふふふ、サーニャと同じだな」
「え・・・え、ええ?」

「知っている」エイラはニヤニヤと笑みを浮かべる。
何を指摘しているのか話題の渦中にある宮藤は即座に気づいた。

「え、嘘!私、サーニャちゃんと誕生日が同じなの!
 す、すっごいよ!誕生日が同じ人なんて初めて、本当に凄い奇跡だよ!」

誕生日が同じことを知った宮藤が興奮してはしゃぐ。

「・・・2人とも、誕生日おめでとう」
「はい、ありがとうございます!バルクホルンさん!」
「Спасибо、バルクホルン大尉・・・」

実はあと1人、同じ誕生日なウィッチがいるのを知るバルクホルンが祝福する。

歳を重ねる事を素直に喜べる、
ウィッチとして未だ若いがゆえに享受できる恩恵。
対して自分は今年で18歳、ウィッチとして「あと2年」しか戦えず、
最早年を重ねることが時限爆弾のように感じつつあったので――――嫉妬の感情が芽生えたが完璧に隠し、祝う。

「おい、この音楽っ・・・!!」
「嘘、またサーニャちゃんの歌、もしかしてまたネウロイ!!?」

インカムからまたもやサーニャの「歌」のメロディーが聞こえてくる。
エイラと宮藤は狼狽するが
「覚えていた」サーニャは違った。

「お父様の・・・ピアノ、」

金属を擦り付け、無理やり奏でていたネウロイの音律とはまったく違う。
上品な、そして優しさを秘めたピアノの音色は間違いなく人が奏でる音楽だった。

「どうやら、サーニャの誕生日を祝ってくれる人は我々だけでないらしい・・・よかったな」

「知っていた」バルクホルンはサーニャと違って実の親兄弟姉妹、
育ててくれた義兄の両親、義姉、その悉くを亡くしたが故に黒い感情が渦巻くが、理性で抑える。

そして、皆が普段から目にして求めている役者。
「ゲルトルート・バルクホルン大尉」として
二回目となる祝福の言葉を捧げた。





 

 

 

 

 



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IFの魔女「ヴァルハラの乙女1947 その3」

2021-05-10 23:42:27 | ヴァルハラの乙女



1947年時点のゲルトルート・バルクホルン。
中佐に昇進し、原隊の第52戦闘航空団の司令官として指揮している。
首には授与された黄金柏葉剣ダイヤモンド付騎士鉄十字章を着けている。

元々第52戦闘航空団は数多の撃墜王を輩出した武勇で知られる部隊だったが、
1947年からはついに撃墜機300機超えを成し遂げ、今後も破られることがない偉大な記録を残した3人。
俗に「トリプル・スリー・ハンドレット・オーバーズ」と称賛されるウィッチが、戦闘航空団司令、飛行隊司令として指揮を執るようになった。

戦闘航空団司令はゲルトルート・バルクホルン。
第Ⅰ飛行隊司令はエーリカ・ハルトマン。
第Ⅱ飛行隊司令はハンナ・ユスティーナ・マルセイユ。

以上の3人がそれぞれ指揮をしている。
気心が知れた3人による部隊指揮能力は際立っており、
カールスラントを代表する精鋭部隊としてその名を轟かせている。

もっとも、昔を知る仲間達は先にウィッチとしての寿命を迎えてしまい、
多くは後方勤務に移動、ないし退役するなど一線から退いてしまったため、部隊にはいない・・・。

ベルリン解放後の南カールスラントの奪還とオストマルク解放において戦果を挙げており、
これまでの武功と合わせて考慮された結果、3人揃って黄金柏葉剣ダイヤモンド付騎士鉄十字章の授与が決定された。

まさか自分が「あの」ルーデルと同じくらい偉大な存在になれたことにバルクホルンは感動し、
他の仲間と違って意外とウィッチとして戦えたため、このまま部隊勤務を望んでいたが、
とうとうウィッチとしての寿命、終わりに直面し、今後の身の振り方について悩んでいた矢先に・・・。

 

 

 

 

 

 

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