読書天国~ぷみのゆるゆる文学生活

この一冊が運命を変えるような、そんな本を求めて目下奮闘中。

帰還せず~残留日本兵、60年目の証言

2006-12-24 02:29:34 | ルポ・ノンフィクション
:青沼陽一郎著、新潮社
というわけで、ひさしぶりにブログを再興したい!と思ったのも、そもそもこの本に出会えたからなんです 
題名で大体のあらすじは感じるでしょうけど、まさに太平洋戦争モノ(いま「硫黄島からの手紙」もヒットしてますしね)、過酷な戦争を生き抜いた方たちの証言モノです。でもどっちかというと、戦争中の証言ではなくって、戦争後の証言なんですね。戦争後に、なぜそのような行き方を選んだのか、そしてその選択について今どのように感じているのか、そういうことを聞き集めた証言集です。

これも題名からわかるように、証言者はみな、戦後も日本に帰らなかった方たちなんです。派遣されたタイやベトナムやインドネシアに、戦後も居残り、そこに生活を構築していった方たち。彼らにむかって、著者は執拗に、「どうして日本に帰らなかったのか」と問いただしていきます。でも、その質問は時に残酷でもあり。。
「どうして帰らなかったのか」という問いに対する、彼らの、困惑、悔恨、怒り、達観、、そのような反応を著者はつぶさに感じ、誇張なくルポとしてまとめてくださいました。

日本に帰らなかった理由は人それぞれ。家族ができたからとか、軍人としての仕事を全うしたかったからとか、日本に居場所がなかったからとか、もともと自分に祖国なんかなかったからだとか。いろいろな理由があるんだけれど、その理由云々よりも、「日本に帰らない」と選んだ後の生き様にロマンと力を感じました。人間ってどこでも、ある程度は生きていけるもんだよなぁ~と、お気楽な気持ちにもなれます

本当に皆さま申し訳ありません!!

2006-12-24 02:07:19 | その他(かんがえる・旅する・食べる)
ご無沙汰しておりました。そして、投稿がぷっつり途切れてしまっておりましたことに、深く深くお詫びいたします。とくに心配してくださった方、ぐうたらでスミマセン、ありがとうございました!
なかなか読書をする時間が取れなくなり、1年間ほど開店休業状態でしたが、今日からもう一度再興していこうと思います! 気張らず気負わずがんばります

実はここ1年ほど、ちょっとした悩みと問題があり、あまり本を読めませんでした。。でも、数日前にすべては解決というか、終了し、今後はココロ落ち着けて読書していけそうです。
これからも、私のワガママで偏った感想文を、ヒマヒマにでも頭の箸休めにでも、読んでいただけたらうれしいです

よぅし!がんばるぞ!

永遠の仔4 抱擁

2005-02-04 12:28:22 | 小説(いま)
「永遠の仔4 抱擁」(天童荒太 幻冬舎文庫)を読む。

やっと読んだー。ひさしく本から遠ざかってました。。
この4巻は、まさに、5巻へと突っ走るツナギの巻ですね。
次から次へと、ストーリー展開かけてきます。なので、心理描写が軽くなっている感もありました。
それにしても、ここまで読んでもまだ、(ヒロイン優希の心にはやや近づけても)、主役陣(笙一郎と梁平)の気持ちには近づけないです。聡志にいたっては、もうお手上げ。
なんか、何でもアリ、みたいにぶちまけられているのが、心理描写を混乱させているようにも思います。

でも、4巻はあくまで、つなぎ、ですからね。
さて、ラストの5巻どうなることやら。。
このカオス状態を、どうやってまとめて終着をみせるのか、楽しみです。

幸福な遊戯

2005-01-29 16:24:40 | 小説(いま)
「幸福な遊戯」(角田光代 角川書店 2003/11)を読む。

これは、今まで読んできた角田作品とは、ちょっと違う。
言ってしまえば、かなりたどたどしいのだ。
で、プロフィールみると、これってデビュー作だったんですね、道理で。。
この「幸福な遊戯」を読んで、後に角田さんが今のような作風に開花するという将来性を見出した編集者や作家の方たちってスゴイですね。
今につながるところもあるけど、正直、読むのがしんどいところもありました。。

表題作「幸福な遊戯」をはじめ、「無愁天使」、「銭湯」からなる短編集。
この3編に共通するのが、社会的モラトリアムを生きる女性であるということ。
彼女たちがモラトリアムを脱却しないのは、何かに束縛されたいがためであり、何かから解放されることを怯えているからでもある。
たとえば、「幸福な遊戯」では男女3人の共同生活に、「無愁天使」では買いためたモノと買うという行為に、「銭湯」では劇団員という架空の自分に、彼女たちはそれぞれ固執している。
固執することで、現実社会とは別の、自分だけのリアリティーを形作ることができるとでもいうように。。

…と書いてみると、題材としては、後の角田作品とそんなに遜色ないですね。
となると、決定的な違いはやはり、他者との関係性が薄いところでしょうか。
一応、主人公を取り巻く脇役陣がいるにしても、どれも決定打には欠けるキャラクター設定。
しかも、角田さんが得意とする、テンポのよい会話がぜんぜん盛り込まれていない。
ユーモア感が全く無く、鬱々とした女性の一人語りが続く感じなんです。ね、つらいでしょ。

個人的には、「幸福な遊戯」よりも、「銭湯」のほうが好きでした。
結末に、出口が見えましたので。

姉飼

2005-01-29 16:01:29 | 小説(いま)
「姉飼」(遠藤徹 角川書店)を読む。

第10回日本ホラー大賞受賞作。
乱歩の猟奇的作風、谷崎の耽美的雰囲気を、はしばしに散りばめながらも、斬新でしかもどこか懐かしいような、不思議な小説でした。
単純に読めば、不快、不気味、という声もあがるかもしれない。
でも、異世界な題材を扱いながらも、適度にリアルで、適度に切り離している、そのバランス具合は相当な力量だと思います。
「油祭り」だとか「蚊吸い豚」だとかの、ファンタジーな素材群が、まさに作品の要となる、「姉を飼う」という行為を、不自然でなくしているし。
「シブヤ」や「エビス」という地名を提示しながらも、不可思議な社会とそこに息づく人々を描いているところは、民俗学的な味わいすらあります。

残虐的に殺されるから怖い、とか、正体不明の化物が襲ってくるから怖い、とかでなく、人間の業に潜む、正体不明な残虐性を、昔話のような背景で描いた作品です。
こういうホラーがあってもいいと思う。

東京ゲストハウス

2005-01-22 00:42:21 | 小説(いま)
「東京ゲストハウス」(角田光代 河出書房新社)を読む。

東京の片隅にうまれた、アジアの場末の安宿のようなゲストハウス。
そこに、タイやネパールやインド帰りの若者たちが、つてを頼ってたどり着く。
まったく関わりのない彼らが、ゲストハウスで共同生活をしていく中で、日々生じていく綻び。
その、葛藤や焦燥感のようなものを、さらりと描いている。

さらりと、と書いたけれど、これまで読んだ2作品に比べると、ちょっとぎこちないです。
角田さん独特の魅力が、発揮しつくされてない感があります。
”旅”を終え”生活”をはじめようとしている主人公や、”生活”をそのまま”旅”にしようとし
て「ゲストハウス」を興した「倉林さん」、東京に居てもアジアの雑踏のように”ゆるく”生きようとする「フトシ」の存在は、いいと思う。
ただ、ラストに突如あらわれる「王様」の存在がわざとらしいし、主人公にとってキーパーソンである「マリコ」の台詞にいたってはぎこちなく、行動自体がこじつけすぎって感じもしました。
たぶん、登場人物が多すぎるため、バランスや配置が苦しくなってきたのかもしれませんね。勝手な憶測ですが。。

自然体なつぶやきや、リアルな日常の断片を感じることはできなかったけれど、”旅”に対する胸苦しくなるような高揚感や、いつか”旅”を終えるときの宙ぶらりんなもの寂しさを、感じさせてはくれました。

エコノミカル・パレス

2005-01-20 12:49:33 | 小説(いま)
「エコノミカル・パレス」(角田光代 講談社)を読む。

角田さんの持ち味のようなものが、存分に発揮されている作品だと思いました。
バイトをはしごして生計をたてる「雑文書き」の30代主人公と、彼女と同棲する無職ロッカー男の、うだうだとりとめのない日常が、やるせなさと一抹の閉塞感をもはらみながら描かれています。

何がいいって、日常がリアルなところ。
コンビニの買物を頼むとき、おにぎりの具まで指定する男。
わざと10円でも安いほうの、違う具を買って買える女。
クーラーが壊れるのは、設定温度を15度まで下げた男のせいだし、友人が訪れるたびにクーラーの電気料金が気になるのは女のほう。
すごく私は共感して読んでたんだけど、もしかして私がケチなだけ!? 同じようなことをしているつもりだったが、こうやって文字に書いてみると、自分が吝嗇なような気がしてきましたね。。

それから、主人公たちの部屋から覗き見る、公園で生活するホームレスたちの存在が、すごく効いています。
自分たち以上に規律正しく、社会的な法則に馴染んで生活しているホームレスたちは、主人公にとって、小さなたんこぶのような存在。
彼らを見るたびに、現状への焦りと腹立ちを感じさせられてしまう。
その辺の、小さな心の揺れのようなものが、にじみ出るような文章でした。
(確かに、都心のホームレスたちの一部は、部活動のような体制下で活動してるように見受けられますよね。私も学生の頃、妙に早起きで、きびきび働き挨拶をする、雑誌売りの商売までする、彼らを見るたびに、自分の方がぐうたらだなーと焦ったものです。。)

他にも読みながら、そうそう!、とうなずきたくなるようなシーンが色々ありました。
それにやっぱり、この書きっぷりには、「ちびまる子」を思い出します。
ダメ男と、ダメ父(ヒロシ?)が重なってしまうんでしょうか??

インディヴィジュアル・プロジェクション

2005-01-18 22:13:05 | 小説(いま)
「インディヴィジュアル・プロジェクション」(阿部和重 新潮文庫)を読む。

阿部和重さんの作品は、いままで食わず(読まず)嫌いしてました。
でも、芥川賞作家となれば、避けては通れないような気がして、ようやく読んでみました。

自由ですねー。文章を、手のひらの上でコロコロ転がして、行く末を見守っている感じ。
自由で気ままな書きっぷりなのに、恐ろしく計算されているような気もするし。
文体もストーリーも、新しいようで、古いような。やっぱり、新しいような。。
阿部公房にも、少し似てるように思います。主人公の、鬱々とした独白のあたりが、特に。
スパイ養成塾やら、ヤクザの下請やら、プルトニウム爆弾やら、非現実的な単語が羅列される一方で、主人公は特別に行動もせず”思考”し続けていますしね。
その辺りが、ラストの大オチにつながるわけなんですが、もしオチがなくっても楽しめます。
でも、ラストのオチこそが、作品全体をキリッと締め上げていますねー。わりとスキなオチ方です。

空中庭園

2005-01-16 21:45:28 | 小説(いま)
「空中庭園」(角田光代 文芸春秋)を読む。

おもしろかった。すごーくよかった。
ダンチに住む一家族、父、母、娘、息子、祖母、父の愛人、それぞれの視点から、一章ごとが成り立っているつくり。
それぞれの視点から描かれる小説、、って、やっぱり元祖は芥川の『藪の中』なんだけど、各視点から真実を追及しようとした芥川とはまったく違う流れでもある。
なぜかと言えば、それぞれの章で各語り手たちは、好き勝手に自分の現状をぼやいている。
家族がナンダ!家族ってなんだ?、、という疑問をぐるぐる周りながらも、彼らはそれを突き止めようとはしない。
そう。真実を突き止めよう、なんて、そんなウザイこと、誰も考えないわけだ。彼らは、ただ、ぼやくだけ。
まるで、中心がブラックホールで、そこに向かって四方八方から皆が自分語りを叫んでる、て感じなのだ。
なにが真実かなんてどうでもいい。だって、真実って空虚だもん、てところか。
それに、どこか不条理だ。
読みながらなぜか、「ちびまるこちゃん」を想起してしまうのは、”不条理”という共通項のせいだろうか。
それとも、”家族”というものに対する、絶対的崇拝(ちびまるこではそれが現実的であり、本作ではそれが幻想的であるにしろ)を扱っているせいだろうか。。

父の愛人”ミーナ”の章では、登場人物全員が勢ぞろいする、誕生会なるパーティが開かれる。
ミーナは、不倫相手の”父”とその妻の”母”と”娘”、ラブホに行った”息子”とそこで遭遇した”祖母”、に囲まれ誕生日を祝わわれながら、急にそこが文化祭の舞台のような気さえしてくる。
テッィシュの花で飾られた壁を背景に、安物ワインを飲み、作り物の笑顔を浮かべながら、ミーナが”家族”を”演劇”のように感じるこの章は、立体的で(そして劇画的で)とても好きだ。
この章があるだけに、その後、”母”が自分の誕生日に、ひとり部屋にたたずむシーンの、うすら寒さが活きていると思う。

本書を読んでいるときに、偶然にも、角田さんの直木賞受賞という朗報が。。
というわけでしばらくは、このブログも、直木賞&芥川章特集というテーマで読んでいこうと思ってます。

お縫い子テルミー

2005-01-14 23:44:30 | 小説(いま)
「お縫い子テルミー」(栗田有起 集英社)を読む。

心地よい、あっさり感。あっけない程の清清しさ。
主人公「テルミー」に起こった、初恋と失恋、自立、自由が、清潔な文体で書かれています。

「テルミー」は、歌舞伎町に流れ着いた”流し”のお縫い子。
お縫い子だというのは、比ゆでも何でもなくて、本当にチクチクと手縫いでドレスを仕立てちゃうようなお商売。
そんな彼女が、バーの女装歌手「シナイちゃん」に恋し、彼の部屋に居候しながら、チクチクと生活を歩み出す。
テルミーのひと縫いひと縫いが、彼女の世界をも一歩一歩広げていく。。

テルミーは、きれいな布を一枚、いつも肌身離さず持ち歩く。その布が、自分に自信を与え、自分を自分ならしめるからだ、きっと。
テルミーは、シナイちゃんの刺繍のクッションを、恋の形見に失敬する。そのクッションは、一生流れつづける自分にとっての「枕」(=還るべきイシズエ)になるべきものだから。

そんなテルミーについての小話が、パッチワークのように紡ぎ合わされ、小さな世界が作り出されていました。
この世界、あっさりとした読後感からは予想できない程、なかなかじんわりと強烈でして。。
目をつぶると、他人の部屋でひとりぽっちで、テルミーがチクチク洋服を縫っている画が浮かぶようなのでした。

同時収録作品は、『ABARE・DAICO』。
こちらは小学生男子が主人公で、はじめてのバイトと、微妙な友情についてが、ユーモラスに描かれています。
こちらも上と同じで、文章が清潔ですねー。堅いわけじゃない、清い、んです。