詠里庵ぶろぐ

詠里庵

2022年の墓碑銘(4ヶ月遅れゴメン)

2023-04-29 08:35:43 | 日々のこと(一般)
年の瀬にこのブログ恒例の「今年の墓碑銘」です。主に科学分野と芸術分野から合計10人(今回は11人)、独断で書いています。昨年末から4ヶ月も経った今頃この記事をupするのは、たまにはパスワードを変えようという余計なことを考えたところ、それに必要なワンタイムパスワードが以前のパソコンでしか受からないアドレスに来ていて手間取ったというわけです。

[0]島岡譲((しまおか・ゆずる、2021年9月30日。日本の作曲家、音楽学者、音楽理論家。享年95歳)
今回、番号を[1]からでなく[0]から始めるのには理由がある。島岡氏が亡くなったのは2021年9月なのに、訃報の報道があったのが2022年2月になってからだった(たとえば2月4日朝日新聞<https://www.asahi.com/articles/DA3S15194138.html>2月5日日経新聞<https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE050S50V00C22A2000000/>)ので、本来2021年の訃報で記すべきところ今回とりあげる他なかったからである。そこで番号も[1]でなく[0]とした。
 さて、どういう人だったかというと、詳しくは窮理第5号に書いた音楽談話室(五)「和声学と量子力学」を見ていただくとして、およそ1964年から約半世紀もの間、藝大に限らず日本で和声学を学んだ作曲家・演奏家・音楽家の大半は、島岡謙が著した「和声 理論と実習」のお世話になっているはずだ。2017年から藝大では気鋭の林達夫が著した新しい和声学の教科書を使っているが、その前の長い時代、現代音楽からポップスに至る日本の作曲家・編曲家のレベルの高さを見るにつけ、島岡謙の貢献は大きいと言わなければならない。門下生には池辺晋一郎、大島ミチル、野田暉行(本稿[8]参照)、八村義夫、久石譲、廣瀬量平などがいる。なお、島岡本にとって変わった上記の新しい教科書についても窮理第5号を参照されたいが、島岡版に比べ楽譜の掲載例が一新されたこと、フォーレ終止など新しい題材が収められていることなど、よい点も多々あるが、和音を数字(バロック音楽の通奏低音で用いられる)で表記しているのをどう思うか知り合いの藝大生や若手にインタビューしたところ「それがイマイチなんですよ」とのこと。つまり和声の機能(カデンツ終止であるとかナポリ6の和音の役割など)が数字表記では瞬時にわからないという意見だ。この点は島岡流の独特の記号表記の方が優れている。(ただしこれはこれで、日本以外で通用しないとか、フォントがないので楽譜ソフトで扱えないという不便さはある。最近はフィナーレなどでフォントが出回り始めたとも聞くが。)


[1]リュック・アントワーヌ・モンタニエ(Luc Antoine Montagnier、2月8日。フランスのウイルス学者。享年89歳)
これは曰く付きの人だ。前世紀末にエイズウィルス発見の先陣争いでモンタニエ博士とアメリカのギャロ博士が熾烈な争いを展開したが、これはノーベル賞争いより先にワクチンの利権争いを起こした。結局レーガンとシラクの両大統領にまで達した争いは、高度な政治的決着の結果、引き分けとなった。しかしその後の2008年のノーベル医学・生理学賞ではモンタニエが受賞するに及び、ノーベル賞の争いはモンタニエに軍配が上がった。当時見た感じは柔和で理知的なモンタニエに対し攻撃的なギャロという印象だった。
 その後、モンタニエは、なぜかわからないが似非科学の世界に浸りこんで目立つ活動を展開したようで、ノーベル賞の権威も地に落ち、どこからも声がかからなくなってしまった。世に晩節を汚す例を見るたびにこうはなるまいと思うが、まさかモンタニエがそうなるとは思わなかった。


[2](やまもと・けい、3月31日。日本の俳優。享年81歳)
芝居好きでもない私が若いころ山本圭の名を耳にしていたほどの俳優だったので、相当有名だったのだと思われる。芝居好きの友人に誘われて俳優座の「お気に召すまま」を見に行ったとき、配役達の中で知っていた唯一の俳優だった。俳優座主催のこの芝居は4人の女性役をすべて男優が演ずるという、なんでもシェークスピアの時代を模したやり方だという。歌舞伎みたいですね。主役のロザリンド役は堀越という、ただの一度も噛まずにものすごい早口で喋りまくる(しかし話す内容は明確に聞き取れる)若手(当時)の切れ者で、驚くばかりだったが、準主役のシーリアを演じたのが山本圭だった。とても味のあるユーモラスな掛け合いで応じていた。芝居は面白いんだなぁ、また見たいなぁと思いつつ、何十年も見ていない。


[3]見田宗介(みた・むねすけ、4月1日。日本の社会学者。享年84歳)
珍しく理系でない学者をとりあげるが、これまた私の若いころの思い出だが、私が入学した頃からカリスマ的存在だった。先輩学年からガリ版刷りでオススメ授業の一覧が配られたが、「見田宗佑を見たか? 見たぞ。見田だぞ!」という謎のコピーと共に絶賛されていた。ためしに1回聴きに行った授業の印象は良かった。内容は覚えていないが、柔和なものごしと理路整然とした解説ぶりが記憶に残った。ご本人は真っ当な学者なのに学生達が騒ぎすぎて却って足を引っ張っているのではないか、と若干思ったことを妙に覚えている。


[4]尾身幸次(おみ・こうじ、4月14日。日本の政治家。享年89歳)
尾身さんはいろいろ重要な役に就いておられるが、第2代科学技術政策担当大臣が印象に残っている。日本経済新聞社の年末の懇談会(今でもやっているのかな?)に数回出席したことがあるが、そのひとつで冒頭の挨拶をされていた。科学技術政策をとても真摯に掘り下げておられる様子が伝わって来た。
 尾身さんはOIST(沖縄科学技術大学院大学)の立ち上げにも尽力し、設立メンバーの写真に入っている。この大学院大学は日本としては類を見ない、事務職員まですべて英語ペラペラ、研究者が書く事務書類もすべて英語書式。だから実績ある外国人も抵抗なく応募してくる。


[5]野島稔(のじま・みのる、5月9日。日本のピアニスト、享年76歳)
大変なテクニシャンである。しかし技巧一辺倒でなく、音楽を奏でる。この人の演奏するラヴェルやリストやロシアものの協奏曲はとても味があって納得が行く。それを支える安定したピアノ技巧とその炸裂が素晴らしい。


[6]オリビア・ニュートン=ジョン(2022年8月8日。イギリス生まれでオーストラリア育ちのポピュラー歌手、実業家。享年73歳)
私がポップス歌手をここで取り上げるのは珍しいが、彼女の持ち歌「Xanadu」(ザナドゥ)は結構好きな曲である。
Xanaduといえば、光を用いた量子コンピューターを開発しクラウドサービスも提供している企業だが、オリビア・ニュートン=ジョンを検索すると、母方の祖父はアインシュタインとも親しかったマックス・ボルン (Max Bornドイツ出身のユダヤ系でノーベル賞受賞物理学者)と出る。何かと量子力学に関係がある歌手だ。


[7]レフ・ピタエフスキー(8月23日。ロシアの理論物理学者。享年89歳。イタリアのロヴェレートで死去)
ボース=アインシュタイン凝縮におけるグロス=ピタエフスキー方程式、および、液体ヘリウム3の超流動の研究で有名。まずグロス=ピタエフスキー方程式であるが、これは通常の3次元空間中の「時間に依存するシュレーディンガー方程式」のハミルトニアンに波動関数ψ自身の絶対値の二乗に比例する項が加わったもので、その結果、通常のシュレーディンガー方程式の中に(ψ*ψ)ψという三次の非線形項が入ることになる。その意味で非線形シュレーディンガー方程式と言ってもよい。実際そう呼ばれる場合もあるが、どちらかというと「非線形シュレーディンガー方程式」と言った場合、1次元空間における波動の伝搬(たとえば光Kerr効果すなわち三次の非線形性を有する光ファイバーを伝搬する強い光パルス)がソリトンになるという文脈で使われることが多い。3次元ではグロス=ピタエフスキー方程式と呼ばれることが多いが。
 もう一つの液体ヘリウム3の超流動だが、これはピタエフスキーがギンツブルクと成した成果で、液体ヘリウムで超流動が起こるのはヘリウム4がボース粒子だからだと思われていたところ、液体ヘリウム3(これはフェルミ粒子)でも起こることを示したものである。


[8] 野田暉行(のだ・てるゆき、9月18日。日本の現代音楽作曲家。享年82歳)
矢代秋雄に師事し西村朗を指導したという経歴が、なるほどねえと思える作曲家だ。この人のピアノ協奏曲は普通と違った意味で面白い。というのは、協奏曲というと普通は独奏とオケが対峙するものだ。対峙の仕方は、交互に入れ替わって互いに目立たせる対峙の仕方と、同時に拮抗して盛り上がって行く対峙の仕方がある。ラフマニノフなど両方を使う。しかし野田暉行のピアノ協奏曲は、なんとなくそよ風が行き交うように開始するオケに、すぐさまピアノが入って来るのだが、いつ入って来たのかわからないほど自己主張のない入り方だ。そのことが却って「今までに無いでしょ?こんなの」という自己主張に聞こえたりする。終始調性希薄な現代音楽にもかかわらず、聴いていて心地よい。次第に盛り上がったり沈静化したりはするのだが、必然的というよりは混沌としている。そこにはオケとピアノが交互に名乗り合う緊張感も、スクラムを組んで盛り上がる高揚感もない。あるのは自然の移ろいだけ。そう、山や谷や海に行って自然の美しさを味わっている気分だ。なかなか画期的なピアノ協奏曲かもしれない。よく聴くと独奏もオケも相当に演奏技巧を要する曲である。12分ほどの1楽章から成る短い曲だが、もっと長い曲を聴いたような充実感が残る。安川加寿子の名演に拍手。
 ところで野田暉行の曲の題の付け方は、副題を付けず「交響曲第1番」といった「絶対音楽」の題の付け方をする。師の矢代秋雄もそういう傾向がある。その点、今回[10]に書く一柳慧は対照的で、一柳は一曲一曲実験をしており、何の実験かを示唆するように「表題音楽」のような副題を付けている。


[9]ヴォルフガング・ハーケン(Wolfgang Haken、10月2日。1928年6月21日ベルリン出身、シャンペーン/イリノイに没した数学者。享年94歳)
1976年、同僚のアペルと共に四色問題を解決したことで有名。しかし解決したことそのものよりは、そのユニークな証明法の方が学問的には有名かもしれない。すなわち「あらゆる平面地図を大型コンピューター(IBMの、今はなきシステム370)で不可避集合と呼ばれる『これらの地図さえ四色で塗り分けられれば後はOK』という2000種類の地図に分類し、それらを片っ端から塗り分けて行った」という力技だ。エレガントな証明からほど遠いので「エレファントな証明」と呼ばれたことは半世紀経った今でも記憶に鮮明である。Wolfgang Hakenは子供達も科学者という科学者一家だ。従兄弟にあたる Hermann Haken(Max Planck研究所)は私も研究分野の一つであった「レーザー物理」で有名で、Hermannはその後「バラバラだった位相が揃って強いレーザー発振となる」現象をレーザー以外にも拡げ、Synergetics(協力現象の理論)に一般化した。


[10]一柳慧(いちやなぎ・とし、10月7日。日本の現代音楽作曲家。享年89歳)
現代音楽の作曲家として有名。ピアノ仲間の間では「ピアノ・メディア」(1972年)「タイム・シークェンス」(1976年)等の演奏至難なピアノ曲が有名。しかし決してミニマル・ミュージック風の音楽だけでなく、あらゆるジャンルで一つ一つ実験を試みるようなところがあり、何の実験かを示唆するような副題が大半の曲に付されている。たとえば交響曲「ベルリン連詩」(1989年)など。前出の「ピアノ・メディア」の楽譜にも「東京大学でモーツァルトのピアノ曲を説明抜きで聴かされた時、それがコンピューターによる演奏と見抜くことができなかった経験に基づく。コンピューター時代に人間が演奏することの意味を問うために作曲した」という前書きがある。それしか書いてないが、コンピューターが得意としそうなメカニックなこの曲をブラインドで聴いたに「それが人間による演奏と見抜くことができなかった」と言わせたいのだろうか。なんとなく昨今のChatGPT騒ぎを予見したようにも・・・高橋アキ(高橋悠治の妹)の名演に拍手。
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本家「詠里庵」を更新しました。

2022-05-28 05:18:20 | 詠里庵・新着案内
5月25日発売したばかりの日経サイエンス7月号の翻訳記事「量子もつれ実験の難題を解くAI物理学者」の監修を務めました。

本家「詠里庵」はここ
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2021年の墓碑銘

2021-12-31 19:10:18 | 日々のこと(一般)
年の瀬にこのブログ恒例の「今年の墓碑銘」です。主に科学分野と芸術分野から合計10人、独断で書いています。
今年は思い出に残る人が多かった・・・

[1]チック・コリア(Chick Corea、2月9日。アメリカのジャズピアニスト作曲家。享年79才)
 オールラウンドピアニスト兼作曲家。ピアノはアコースティックもエレクトリックも、ジャンルはジャズ、ラテン、フュージョンからクラシックまで、編成はソロ、トリオからバンドまでと幅広い。しかし何といってもデュオだ。ハービー・ハンコックとのピアノ・デュオやゲイリー・バートン(ヴァイブラフォン)とのデュオがすばらしい。作曲家としては「ラ・フィエスタ」「スペイン」や「セニョール・マウス」など。それにしてもフィエスタのサビの部分はショパンワルツ第五番作品64の129節目からのパッセージに似ている。

{2}濱田滋郎(はまだ じろう、3月21日。日本の音楽評論家、スペイン文化研究家。享年86才)
 続いてまたスペイン音楽の大家。亡くなるまで日本フラメンコ協会会長。こう言うと狭いジャンルの人と思われるかもしれないが、とんでもない。クラシック全般に信頼のおける評を書かれ、評論でありながら音楽のように品格が漂う。たまたま当ブログのブックマークの「Moments musicaux」の執筆者であるピアニスト内藤晃氏のファーストアルバム「プリマヴェーラ」に寄せて、濱田滋郎氏が音楽芸術誌に寄稿した文章があるが、こんな感じである。

[3]スティーヴン・ワインバーグ(Steven Weinberg, 7月23日。アメリカ合衆国出身の物理学者。享年88才)
 重力・電磁気力・弱い力・強い力。この四種の力のうち弱い力の定式化を行ったことによりノーベル賞を受賞したのがグラショー、ワインバーグ、サラムの3人。このうちワインバーグは有名な一般向け書籍「宇宙創成はじめの3分間」を書いた。

[4]益川敏英(ますかわ としひで、7月23日。日本の理論物理学者。専門は素粒子理論。享年81才)
 続いてまた素粒子の分野。小林・益川理論により小林誠とともにノーベル賞を受賞したことで有名。京都大学から京都産業大学に移り、数年後京都産業大学の益川塾の塾頭となる。その益川塾に呼ばれて講演をしたことがある。益川先生も来られているのだろうかと思ったが、おられず、若い先生がたが仕切っていた。

[5]スティーヴン・ウィーズナー(Stephen J. Wiesner, 8月12日。アメリカおよびイスラエルの理論物理学者。享年78才)
 1970年という早い時期に「共役コーディング」を提唱し、その応用として「原理的に偽造や複製ができない通貨」を提案した人。歴史上最初の量子情報の社会実装の提案だが、投稿論文はreject続きで、1983年にやっとpublishされた。これを元に1984年の量子暗号(BB84)が生まれた。量子情報処理(量子コンピューター・量子通信・量子暗号などの実現や使い方の研究をする分野)は前世紀から今世紀にかけての第1次ブームが廃れたあと現在は第2次ブームであるが、第1次ブームの担い手の間では知らぬ者のなかった有名人だった。現在の第2次ブームの担い手の間では必ずしも有名ではない。直接話をすると特に変わったところはないが、こちらから話題を振らないと会話が続かないところがある。

[6]斎藤雅広(さいとう まさひろ、8月8日。日本のピアニスト。享年62才)
 芸大在学中から颯爽と現れたこの人の演奏は衝撃的だった。筆者がテレビで見たのはプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番。その頃から芸大のホロヴィッツと呼ばれていた。それからだいぶ経ってやはりテレビで見たときは、オヤジギャグを発するユニークキャラとしてピアノの指導をやっていた。腕前は相変わらずだったが、ややイメージに戸惑いを感じた。そして今年62才で亡くなったと聞き、非常に惜しい人を亡くしたと思った。

[7]ミシェル・コルボ(Michel Corboz, 9月2日。スイスの指揮者。享年87才)
 この指揮者の演奏はFMで放送されたフォーレのレクイエムしか聴いたことがないが、それ一つだけで強い印象に残っている。
 かつてフォーレのレクイエムと言えば、アンドレ・クリュイタンス指揮パリ音学院管弦楽団でソプラノがビクトリア・デ・ロスアンヘレス、バリトンがフィッシャー・ディースカウのEMI版が断トツの定盤だった。この演奏は全体に温かく、音場もオーソドックスなステレオで、何といってもロスアンヘレスの美声、そしてさらに何といっても全てを包み込むようなディースカウの柔らかいバリトンが印象的だった。
 これに対して彗星のように現れたミシェル・コルボ盤は、違った意味で衝撃的だった。張り詰めたような大きな無音の音場の中に、ソリスト達が分散したようなオケの空間、そして合唱やソロの歌手達も空間的に分離したような定位で音源が分離して聞こえる。ボーイソプラノは良い意味で少年っぽい声で、ロスアンヘレスのような大人のソプラノがビシッと決まった音程を出すのと対照的に少し揺れる、揺れるけど純粋な子供らしい声だ。そしてフッテンロッハーのバリトンはディースカウと対照的にクリアーなバリトン。この二つの対照的な録音演奏を思い出すだけでも気持ちが豊かになる。

[8]神谷 郁代(かみや いくよ、10月6日。日本のピアニスト。享年75才)
 この人の演奏は訃報を聞くまで聴いたことがなかったが、ショパンのマズルカが出色だというので興味を持っていた。ショパンの作品の中でも50曲ほどあるマズルカは、ポーランドの民族音楽が精神的な源になっているので、どんな世界的なピアニストであろうと、筆者はなかなか納得できない。いや筆者がマズルカ(詳しくはマズルやクヤヴィヤクやオベレクがある)の精神に精通しているわけではないが、いわゆる洋風クラシックの演奏には違和感を覚えるのだ。そんな中ではニキタ・マガロフが一番納得が行く。神谷郁代の演奏はマガロフに似ているとどこかで聞いたことがあるので、いつかは聴きたいと思っているうちに亡くなってしまったのだ。どこかに音源はないものだろうか?
 そういう検索をしているうちに、最近神谷郁代がチェルニーの前奏曲とフーガを録音したという情報に出会い、CDを買ったのだ。あの練習曲作曲家のチェルニーがバッハみたいに前奏曲とフーガ? しかしこれが、聴いてみると、何と音楽的な! これまでチェルニーで最も音楽的な作品はチェルニー30番練習曲だと思っていたが、まだまだ知らないことが世の中にはいっぱいあるものだ。

[9]ベルナルト・ハイティンク(Bernard Johan Herman Haitink, 10月21日。オランダの指揮者。享年92才)
 この指揮者は、筆者が若いころよく聴いていた。あまり目立った特徴はないのだが、癖が強くないだけに、曲を知るにはもってこいで重宝した。感謝の気持ちを込めて合掌。

[10]ネルソン・フレイレ(Nelson Freire, 10月31日。ブラジルのピアニスト。享年77才)
 この人は、筆者が学生の頃、南米の四羽ガラスの1人と言われていた。その4人とは、
・ブルーノ・レオナルド・ゲルバー 1941- (アルゼンチン)
・マルタ・アルゲリッチ          1941- (アルゼンチン)
・ダニエル・バレンボイム     1942- (アルゼンチン)
・ネルソン・フレイレ       1944-2021(ブラジル)
だ。それぞれ今も立派なピアニストだ。バレンボイムだけは指揮者としても活躍するようになったが。筆者はこの4人の活動が大変好きだ。
 この中でフレイレ(当時日本ではフレアーと呼ばれていた)は特別な思い出がある。来日リサイタルをテレビだったかFMだったかで聴いたところ、ヴィラ=ロボスの「赤ちゃんの家族 第1集」という、8曲から成る全15分ほどの組曲を演奏したのだ。これが非常に印象に残り、さっそく本郷三丁目のアカデミア(現在の位置とは若干違う場所にあった)に飛んで行って楽譜を探したら、一冊だけあるのがすぐ見つかったのだ。値段は今でも覚えている780円。即買ったのはいうまでもない。以後この組曲は筆者の第一のレパートリーになりました。
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『立体視できる星空!

2021-04-18 17:47:33 | サイエンス
地球と70億km彼方からの画像のステレオグラムが公開』
というサイトがありました。そこで展開されているNASAの視覚的演出はとても巧みなので、紹介します。
ちなみにNASAの元サイトはここです。

数年前、NASAの探査機「ニュー・ホライズンズ」が冥王星の鮮明な写真を送って来たことは記憶に新しいですが、いまニュー・ホライズンズは冥王星軌道の少し外側(地球から70億km弱のところ)にいて、太陽系から離れようとしています。そこから地球への通信速度は800bps(1秒間に800ビット)です。こんなに遅いのかとも思うし、冥王星からの通信としては速いとも思います。

さて今回送って来たデータは、ニューホライズンズからプロキシマ(太陽から4光年離れた恒星で、最も近いお隣さん)方向の宇宙を撮った画像です。
他の星たちはほぼ無限遠なので、4光年しか離れていないプロキシマを見ると、地球から見た方向からずれています。
この二枚の写真を交互に切り替えると、他の星たちは微動だにしませんが、プロキシマだけ左右に入れ替わり、まるで工事中の保安灯のようです。

これだけでも十分効果的な演出ですが、さらに感心したのは、この二枚の写真を重ねるのでなく、人間の目の間隔より少し短く離して並べてあります。これを、ひところ流行ったランダムドットステレオグラムのように、左目で左の写真を、右の写真を右目で見ると、おお! 他の星たちが無限遠に貼り付いている中、プロキシマだけ手前に見えます!

つまり、左右の目が地球と冥王星くらい離れた超巨大な巨人がいたら、その巨人は「あの星だけ手前にあるじゃないか」と実感することでしょう。それを我々も体験できるわけです。

さらに、プロキシマの倍近く離れたウォルフ359のステレオ写真もあります。これも確かに手前に見えますが、プロキシマより奥まって見えます。もちろんウォルフ359とプロキシマは天球上で離れていますので、1つのステレオ写真の中に両方の恒星が視野に入っているわけではなく、別々のステレオ写真ですが、明らかに「さっきの星とは浮き出し方が違うな」とわかります。

ところでステレオ写真を裸眼で見るのは、人によって得意不得意があると思います。私は目の間隔が広い方ではないので、二枚の写真が離れていると、どうやっても立体視できないことがあります。そういうときは縮小コピーすれば楽に見えるようになります。もちろん交差法の方が手軽にできますが、それだと遠近が逆に見えてしまいます。

縮小コピーしてもうまく見えない場合は、思い切り接近すれば、左の目は左の画像しか見えないし右の目は右の画像しか見えないので、真ん中に第3の画像がちゃんと見えます。しかしこれでは近すぎて目のレンズの焦点が合わせられないので、徐々に離して行けば成功します。このときメガネの人はメガネをきちんとかけて、シャープな画像で見ないと効果が得られません。
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今日はタピオカなるものを

2021-02-11 18:47:36 | ぐるめ
生まれて初めて飲みました。
おいしかった。モチモチして食感がよかった。
これで一応世間の話題から脱落せずに済むと思うと、200円ほどで効率よく幸せを味わえました。
家族に聞くと、2回ブームがあって、1回目は盛り上がらずに終わったけど2回目は大いに盛り上がったとのこと。
それなら量子コンピューターブームに似ている。
ただし違いは、タピオカは2回目のブームが既に去っているらしい。
それは真似しないで欲しいですね、量子コンピューターは。
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2020年の墓碑銘

2020-12-31 11:58:09 | 日々のこと(一般)
年の瀬にこのブログ恒例の「今年の墓碑銘」です。主に科学分野と芸術分野から10人、独断で書いています。

[1]無量塔蔵六(むらた ぞうろく、1月30日。日本のヴァイオリン制作者。享年92才)
 この名は村田蔵六にあやかった名前で、本名は村田昭一郎。日本人で初めてのヴァイオリン製作マイスター。今は絶版となった「ヴァイオリン」(1975年岩波新書)は、今でもときどき読み返すことがあります。ピアノに比べるとべらぼうな値段が付くことがあるヴァイオリンですが、あとがきに興味深い記述があります。「ヴァイオリン関係の書物の多くは楽器商と結びついています。楽器商と直接関係のない岩波新書の中で自分の考えるところを自由に書ける機会が与えられたことは非常に幸せでした。」

{2}ピーター・ゼルキン(Peter Adolf Serkin、2月1日。アメリカのピアニスト。享年72才)
 父親はボヘミア出身ユダヤ系ピアニストで、こちらも非常に高名なルドルフ・ゼルキン。ルドルフはベートーヴェンを中心とするドイツ音楽の大家であるのに対し、ピーターは現代音楽まで手掛けています。ピーターの弾くバッハも好きですが、現代音楽は一層精緻かつ知的な演奏で、とても相性がいいと思います。アンサンブル・タッシで室内楽でも活動していました。

[3]フリーマン・ジョン・ダイソン(Freeman John Dyson、2月28日。イギリス生まれのアメリカの理論物理学者。享年96才)
 ダイソンは、1965年に朝永振一郎がくりこみ理論でファインマンやシュヴィンガーと共にノーベル賞を受賞した「量子電気力学」に大きな貢献をしたほか、多様な貢献があります。2014年の来日インタビュー記事は実に興味深いものです。また幼少よりピアノを弾き、「窮理」でも物理と文学と科学史の合奏――窮理サロン協奏曲第1番でも話題にさせてもらいました。

[4]クシシュトフ・ペンデレツキ(Krzysztof Eugeniusz Penderecki、3月29日。ポーランドの作曲家。享年86才)
 オーケストラ作品が有名。興業の才で成功した作曲家という第一印象を持ってしまったため、あまり熱心に聴いてこなかったのですが、音楽そのものもいいなと思うようになって来ました。もう少し聴いてみようと思います。最近は演奏や録音がいいからかもしれません。やはり現代音楽はいい演奏で聴かなくては。

[5]藪崎努(やぶざき つとむ、4月10日。日本の物理学者、京都大学名誉教授。享年79歳)
 直接の指導を受けたわけではありませんが、学会でよくお会いして示唆に富むお話を拝聴しました。飲みに行っても面白いかたで、そういうときに間接的指導を受けた関係、という感じです。印象的だったのは飲みに行ったとき原子のトラッピング実験の話になって「そこで原子をほかすんですよ」とおっしゃったこと。「ほかす」という動詞(に違いない)はどういう意味だろう、と思ったのですが、拝聴しているうちに「トラッピングから自由にする」つまり捕獲ポテンシャルをoffにして原子を「捨てる」ことだとわかりました。

[6]長倉三郎(ながくら さぶろう、4月16日。日本の化学者、東京大学・岡崎国立共同研究機構分子科学研究所名誉教授。享年99才)
 このブログでも訃報をお伝えしました。長倉先生は総合研究大学院大学の初代学長なんですが、そのことに触れた訃報はなかなか見つからず、やっとひとつ見つけました

[7]皆川達夫(みながわ たつお、4月19日。日本の音楽学者、合唱指揮者。享年92才)
 中世・ルネサンス音楽の研究で知られています。NHK「音楽の泉」のパーソナリティ、同「バロック音楽の楽しみ」のパーソナリティを務めました。氏の著書「キリシタン音楽入門」のあとがきに、あまり知られていない話だと思いますがちょっと興味を引くことが書いてありますので、引用しましょう。
——— わたくしの先祖が仕えた水戸藩は、キリスト教徒を厳しく弾圧しました。(中略)その負い目、贖罪の思いが、わたくしをしてこの研究に導いているように思われてならないのです。 ———

[8]ニコライ・G・カプースチン(Nikolai Girshevich Kapustin、7月2日。ウクライナ生まれのロシアのピアニスト作曲家。享年82才)
 ジャズ的なんだけれどガーシュインとはまた違った、めくるめく疾風怒濤のようなピアノの難曲を多数残しています。クラシックなので、アドリブかと思うようなところも、音符が全部書いてあります。技巧派のプロやアマチュアのピアニストに人気があります。誰も彼を知らないころ日本へ紹介したり来日を実現したのは「東大ピアノの会」のOBの人達でした。

[9]小柴昌俊(こしば まさとし、11月12日。日本の物理学者。享年94才)
 超有名なかたなので多言は無用でしょう。一昨年書いた2018年の墓碑銘の晝馬輝夫(ひるま てるお)の項をご参照ください。

[10]フー・ツォン(傅聰/FOU Ts'ong/FU Cong、12月28日。上海市出身のイギリスのピアニスト。享年86才)
 だいぶ前、テレビでショパンを弾くのを見たことがあります。以来、詩情豊かな演奏が印象に残っています。国籍はWikipedia中国語版によると、中華民国(1934〜1949年)、中華人民共和国(1949〜1965年)、英国(1965年〜本年)。1955年の第5回ショパン国際ピアノコンクールでポーランドのアダム・ハラシェヴィチが優勝したとき、アシュケナージが2位だったことに腹を立てた審査員のミケランジェリが退場した話が有名ですが、そのとき3位だったのがこのフー・ツォン。1960年からロンドンを拠点に活躍しています。その人生に大きな影響を与えた両親が文化大革命の犠牲となって1966年自死しています。最近の演奏は一層詩情に磨きがかかっていたように思います。


【番外編】
・ジュリアン・ブリーム (Julian Bream、8月14日。イギリス出身のクラシックギタリスト。享年87才)
 心地よい、質の高い演奏をするので、安心して鑑賞の身を任せられます。特にバッハやバッハ以前、それにスペインものがそうです。一方、イギリス出身だけあって、ブリテンを弾くと、魂を揺さぶられるような演奏に引き込まれます。

・森部一夫(もりべ・いつお、9月25日。ミツミ電機創業者の一人、前会長。享年88才)
 人物について情報のない人を墓碑銘に挙げるのもどうかと思いましたが、ミツミ電機と聞いて、私がラジオ工作少年だった頃「ミツミのポリバリコン」をよく買いに行って、これで共振周波数を変え、ラジオ局を選局した記憶がフワーッと蘇ったので挙げてしまいました。

・筒美京平(つつみ きょうへい、10月7日。日本のポップス作曲家。享年80才)
 私はカヨーキョクの作曲家にも興味がある、というと、たいてい驚かれます。しかしどうしてどうして、作曲技法に優れ音楽的にもクールな人でないと、永く歌い継がれる曲は作れません。
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岩手県で震度5弱

2020-12-21 03:15:34 | 日々のこと(一般)
って、昨今珍しくもない震度ですが、少々印象に残ったので。
朝2時半少し前、たまたま水飲みに起きたら、体感震度2くらいでユラユラ、ミシミシ。東京でです。
テレビを点けたら岩手県というので、すわどんなに大地震かと思ったら、震度5弱のところも1、2ヶ所あるけれども、北海道から静岡県まで広範囲に震度3や2で埋めつくされている。あまり見たことない分布なので、一応記録しておこうと。

震源は青森県東方沖で、青森県と岩手県の県境の延長と襟裳岬から南方に下ろした線の交点付近。
マグニチュード6.3、震源の深さは10km。発生時刻は午前2時23分。
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「50年実質ゼロ」法に明記

2020-12-20 10:46:37 | 日々のこと(一般)
というニュース。菅義偉首相が「2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする」と宣言したとき(10月26日)、2050年になったら「菅首相って誰」となってるかもしれない(今から30年前は海部俊樹首相でした)から、今は何とでも宣言できるね、と家族で笑ってしまいました。でも法律にするとなると縛りをかけることになるから、ま、忘れられる運命の掛け声よりは一歩踏み出すことになりますね。

 話は変わりますが、内閣府のムーンショットのホームページを見ると「2050年までに誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」と公表されています。これも実現しないといけませんね。
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今朝の「おはよう日本」の話題で

2020-10-10 16:43:59 | サイエンス
シマアオジという絶滅危惧鳥のコーナーがあった。ホオジロ科の鳥でスズメを少し太らせたような格好だが、英名をyellow-breasted buntingという通り、胸が黄色いところが違う。
 話題は北海道でシマアオジを調査している人の取材に始まったが、近年特に激減しているという。そのことが、北海道地図に示された生息地スポットが年ごとに消えて行く様子で示され、今は残り数ヶ所も消える寸前だ。
 北海道の自然は豊富だろうに、なぜ絶滅危惧?と思って見ていると、実はシマアオジは繁殖期の夏だけ北海道で過ごす渡り鳥ということだ。では冬はどこに行くかというと、中国南部あたりだと言う。スズメのような小鳥なのに、随分遠くに渡るものだ。

 そこで地図をひと跨ぎして、場面は中国南部の料理店へズーム・イン。そこではシマアオジの丸焼きが供されている。ちなみにメニューに黄胸鹀とあるのを私は見逃さなかった。意味的には英語に近い。いや、英語圏では見ない鳥だろうから、中国語から英語に訳されたのかもしれない。
 それはともかく番組では、要は、その地域でシマアオジが乱獲されていることによって絶滅に向かっているというのだ。それが北海道で観測されているのか。これは早晩絶滅を免れないな、と諦めて話題終了かと思ったら、さらに場面は料理店がシマアオジを仕入れる野生動物市場へ。

 これは何かもうひと捻りあるなと思って見ていると、今般の新型コロナで中国が野生動物の売買を禁止する措置をとったことが語られた。
 最後は野鳥保護団体による「このことによって、すんでのところでシマアオジは絶滅を免れると予想している」という嬉しそうなコメントで終わった。

 なかなか地理的スケールの大きい取材で、人間が罹る新型コロナで鳥の絶滅が止められるという因果関係も分野横断的スケールで、気持ちよく予想を裏切られ続けた内容だった。
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「富岳」世界一

2020-06-23 06:23:57 | 詠里庵・新着案内
おめでとうございます。単に速さだけを競うために開発された使いにくいスパコンでない点は「京」を引きずっていて、それ以上と言われているので、種々の困難な課題解決に向けて期待が広がりますね。

ところで本家詠里庵を久々に更新しました。
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長倉三郎氏が死去 元日本学士院長

2020-04-21 15:26:07 | サイエンス
というニュースが今日(2020年4月21日)2時間ほど前にありました。この記事より15分ほど前にあった訃報で知りました。亡くなったのは5日前の16日、享年99歳。長倉先生は総合研究大学院大学の初代学長なんですが、そのことに触れた訃報はなかなか見つからず、やっと1つ見つけました。合掌。
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私鉄最後の近鉄喫煙車運行最終日

2020-02-01 08:35:51 | 日々のこと(一般)
というニュースが昨夜ありました。新幹線も「東海道・山陽新幹線の一部に喫煙車が残っていますが、ことし3月のダイヤ改正ですべての車両が禁煙になる予定」とのこと。
 いや既にのぞみは全面禁煙なので、あまり考えずにひかりだかこだまだかの指定席に乗ったことがあるのですが、それが喫煙車でびっくり。ハンカチ越しに息をしていましたが、服に付いた臭いはしばらく取れませんでした。まぁ良く見ずに切符を買った自分が悪いのですが、これからはあまり考えずに指定席を買うことができるようになるのは助かります。
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アシュケナージ

2020-01-19 11:18:19 | 日々のこと(音楽)

が引退のニュース
・・・
一時代が終わった感が、またひとつ。
詩情、超絶技巧、構成力、安定感、レパートリーの広さなど、どれも抜きん出た上でバランスがとれている。
ナマの演奏を聴きに行った回数としては、このピアニストが一番多い。
その間、弾き間違い、弾きそびれはおろか、強弱、アーティキュレイション、繋がり、粒立ち、どれをとっても、1音のミスも不自然さも聴き取れなかった。

以前インタビュー記事で読んだことがあるが、アシュケナージは「尊敬する大先輩ピアニストが高齢になってからの演奏会を聴きに行ったことがある。しかし、やらない方がよかったと思った」と言っていた。
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久々に本家詠里庵

2020-01-10 11:42:20 | 詠里庵・新着案内
を更新しました。主眼は
① 「窮理」第14号が出たのを機にこれまでの「音楽談話室」紹介(科学の間音楽の間
② このところ量子コンピュータの講演や解説依頼が多いので、「科学の間」の大幅更新しました。フリーアクセスになっている記事もかなりあります。

ここにも紹介しておこうっと。まずは②から。
・「量子コンピュータ技術の歴史と展望」精密工学会誌 第85巻 第12号(2019年12月) 会員のみのようです.
・(公開)【特別企画「平成の飛跡」】「量子情報の黎明期から第二次ブームまで」日本物理学会誌 第74巻 第6号(2019年6月).
・(公開)「エレクトロニクス技術を変革する量子情報技術」(井元・北川)電子情報通信学会誌2017年9月号(2017年9月1日)pp.968-973.
・「[量子情報処理] 周波数領域の二光子干渉実験」【2016年 日本の光学研究】「光学」第46巻 第6号(2017年6月), pp.232-233。
・「常識を逸脱すること,それが新たな認識となること-量子情報の場合」数理科学 第54巻第5号(2016年5月号) pp.49-55.
などなど。

①に関しては
窮理第14号が出ました! ハイゼンベルクのピアノ演奏がレコードで残っていたとは!
窮理第13号アインシュタインとハイゼンベルク:来日時の演奏評
窮理第12号日本のピアノ導入の黎明期    :修復された文部省初期輸入ピアノの数奇な運命
窮理第11号日本最古のピアノ        :修復されたシーボルトのスクエアピアノを弾いて
窮理第10号お宝と贋作(2)        :自作を他人作として発表/その逆の例
窮理第9号お宝と贋作(1)        :自演を他のピアニストで発表/その逆の例
窮理第8号天体の音楽           :天体音楽/人間音楽/音として鳴る音楽
窮理第7号錯覚と音楽(2)        :知識に基づく思い込み錯覚
窮理第6号錯覚と音楽(1)        :聴覚上の(実際と違って聞こえる)錯覚
窮理第5号和声学と量子力学        :和声と推移←→状態ベクトルと演算行列
窮理第4号ショパンの青年時代       :なぜ周囲の人たちに恵まれたか
窮理第3号ショパンの少年時代       :ピアノは進化の真っただ中
窮理第2号ロシアとユダヤと科学と音楽と  :キーワードはパラドックス?
窮理第1号芸術家と社会性         :発表に社会性が必要な/不要な芸術
Youtubeによる補足説明もあります。窮理サロンの様子
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2019年の墓碑銘

2019-12-31 11:52:43 | 日々のこと(一般)
年の瀬にこのブログ恒例の「今年の墓碑銘」です。主に科学分野と芸術分野から10人、独断で書いていますが、科学と芸術以外の人もとりあげています。

[1]米沢 富美子(よねざわ ふみこ、1月17日。日本の理論物理学者、慶應義塾大学名誉教授。享年80才)
専門は物性理論、特に固体物理学。アモルファス研究で知られる。
 2016年も残り少ないころ、一般向け講演を聴いたことがある。その三年後に亡くなるとは想像できないお元気な様子だったので驚いた。しかしもっと近しい方に聞くと以前からご病気がちだったということで、お見かけする度にそんなそぶりも見せなかったことを思い出し、改めて驚いた。

[2]冷水 佐壽(ひやみず さとし、2月7日。日本の電子工学者。享年75才)
富士通時代に三村高志とともにHEMT(High Electron Mobility Transistor)を発明・開発したことで知られる。
大学勤めのころ、居室が隣だったことがあり、大層親切にしていただいたことがある。

[3]ドナルド・キーン(2月24日。アメリカ出身・日本に帰化した日本文学者・日本文化学者。享年96才)
流暢な日本語をテレビで耳にした人も多いだろう。日本に魅せられた学者として有名である。
 この人が西洋クラシック音楽のエッセイを書いているといったら、どのくらいの人が興味を示すだろうか? 氏の日本文化研究には到底及ばない、趣味の域だろうと思うのではないだろうか。ところがこれが尋常ではないのだ。私など録音でしか知らない往年の超一流歌手・指揮者・演奏家を悉くナマで聴いているという経験と、東洋に通じた西洋人の視点と、学者的な洞察が相俟って、並の音楽評論家では書けない数冊に仕上がっている。私は氏の専門の論文を読むことはないかもしれないが、この数冊の音楽エッセイを読んだだけで、この墓碑銘に取り上げずにいられない。

[4]ジャック・ルーシェ(Jacques Loussier、3月5日。フランスのジャズピアニスト、作曲家。享年84才)
プレイ・バッハシリーズで知られる、バッハのジャズ演奏の大家。
ジャック・ルーシェ・トリオによるエレガントな演奏は、聴いていてこの上なく心地良い。

[5]志村五郎(しむら ごろう、5月3日。1930年2月23日生まれ。数学者。享年89才)
志村五郎の名を知ったのは、1994年、ワイルズがフェルマーの最終定理を証明したことが報道されたときである(論文出版は1995年)。ワイルズが「谷山・志村予想」を証明し、それを使ってフェルマーの最終定理を証明したと表明したことで、谷山、志村とはどんな数学者だろうと思った。彼らの業績はその後暗号にも応用された。その辺については辻井重男の短い記事に触れられている。

[6]チャールズ・キッテル(5月15日。アメリカの物理学者。享年92才)
言わずと知れたロングセラー教科書「キッテル 固体物理学入門 上・中・下」(宇野他訳)の著者である。
 この教科書を初めて読んだ学生のころ、なんと経験知ばかりに立脚した、理論の段階的構築を感じにくい教科書だろうと思った。後年、この対極にあるグロッソ、パラビチニの「固体物理学 上・中・下」(安食訳)を読んだときは理論展開が大河のように繋がって納得感があった。
 しかし固体物理を教えるようになって、後者は写真や実験データが少なく、実際の物性を直感的に思い浮かべにくい面を感じた。両方必要なのだ。両方を網羅する教科書だと雑然としそうなので、相対する二種類それぞれ統一感のある現状の方がいいのかもしれない。買う方は大変だが。

[7]マレイ・ゲルマン(5月24日。アメリカの物理学者。享年89才)
クォークの概念提唱者、クォークの名称の命名者として知られる。
クォークの名称はどこから来たのかと思えば、どうも波乱の生涯を送ったジェームス・ジョイスの小説「フィネガンズ・ウェイク」に由来するようである。これもいずれ読んでみますか。

[8]アンナー・ビルスマ、オランダのチェリスト(7月25日。オランダのチェリスト。享年85才)
このチェリストで最も印象に残っているのは、バッハの無伴奏チェロ組曲集のCDである。この曲集はいろいろなチェリストで聴き比べると、表情が全然違って面白い。中でも鈴木秀美のCDに入れ込んでいるが、ビルスマは鈴木秀美の師なのである。そのビルスマは古楽器チェロと現代チェロの二種類のCDを10年の歳月越しに残している。これらを含め、名チェリストの演奏を比べたものを本家「詠里庵」の「風雅異端帳」に挙げた。


[9]佐藤しのぶ(9月29日、日本のソプラノ歌手。声楽家。享年61才)
声質、技量、情感のどれをとっても世界屈指のソプラノ歌手であることは書くまでもない。大ホールでのナマの歌唱は、CDより一層それがわかる。
 この人も米澤富美子と同じく、そんなに長いこと病魔と闘っていたのかと驚くほど、それを見せずに第一線で活躍していたのだなぁ。

[10]ジェシー・ノーマン(Jessye Norman, 9月30日。米国のソプラノ歌手。享年74才)
この高貴な黒人ソプラノはオペラやクラシックの伝統の継承だけでなく、黒人霊歌や現代音楽にも「チョット手出し」を大きく超えた本格的な活動を残している。


以下は補遺である。

・町田茂(まちだ しげる。1月16日。日本の物理学者、京都大学名誉教授。享年92才)
並木美喜雄とともに量子力学の観測の理論を研究した。観測の理論など研究すべきではないと言われていたころ、そういうことに興味を持つ者には勇気をくれた面がある。

・ジョン・ロバート・シュリーファー(7月27日。アメリカの物理学者。享年88才)
バーディーン、クーパーとともに超伝導の理論を完成させた(高温超伝導は除く)ことで知られる。

・2018年墓碑銘の追加:E. C. G. スダールシャン(Ennackal Chandy George Sudarshan、インド出身のアメリカの物理学者。享年86才)
光のコヒーレント状態の量子論をグラウバーと同時に独立に発展させたが、ノーベル賞はグラウバーに与えられた。この理論は大学院で講義していたが、光の量子状態表現にはP関数、Q関数、Wigner関数などの表現がある。SudarshanとGlauberはP関数の提唱者として貢献があるが、ひところ「Glauber P representation」ということがあったが、近年「Glauber-Sudarshan P representation」と呼ばれることが多い。
 遅ればせの訃報はPhysics Today誌の2019年4月号にSudarshanのObituaryで知った。亡くなったのは2018年5月13日というから、1年近く前である。Obituaryを書いているのはM. K. BalasubramanyaとM. D. Srinivasである。
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