そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『人事変革ストーリー (光文社新書 )』 高倉千春

2024-04-15 22:14:00 | Books
著者は、農水省の官僚として社会人人生をスタートし、MBA留学からの帰国後コンサルタントに転身、外資系コンサル会社で働いていた際にファイザーの日本法人からスカウトを受けて事業会社のHR部門でのキャリアを歩むことになる。複数のグローバル企業の日本法人、そして日系グローバル企業を渡り歩き、HRを専門とする経営人財へとステップアップした。

グローバル企業と日本企業、それぞれの人事制度や考え方の違いと融合、改革を経験してきた人物だけに、示唆を得られるところも多い。

人事は戦略そのものであり、将来を洞察して人財のポートフォリオを動的にマネジメントしていくこと、組織風土を将来に向けて意図的に適切に創る動的な組織能力を育むことといった戦略性のマネジメントの重要性が語られる。
一方で、人的資源はココロを持った「厄介な」経営資源であり、現場社員の目線に立って一人一人が自身のパーパスを実現できる機会を提供することも極めて重要。
経営者には、そんなまさに「鷹の目、蟻の目」とも言うべき視点を備えるとともに、企業の行く末を多様なメンバーに腹落ちさせるコミュニケーションの力が求められる、というのが著者の主張の要点。

著者が各社で推し進めてきた人事制度改革の事例も多数紹介されているが、ジョブディスクリプションを等級も含めてオーブンにしたという味の素の事例と、目標管理制度の代わりに年に2回全社員に「自分が創出した仕事の価値」を点数カさせてそれをベースに評価を決めるというロート製薬の事例は特に興味深かった。

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『冬に子供が生まれる』 佐藤正午

2024-04-05 22:44:00 | Books
佐藤正午らしい読者を翻弄するギミックは健在だが、『鳩の撃退法』『月の満ち欠け』ほどの興味を掻き立てられなかった。

今さらUFO?という題材の新鮮味の無さにまず興醒めするし、マルユウ・マルセイとその周囲の人々の運命をもって何を描こうとしたのかが伝わりにくい。
偶然に左右される人生の不確かさという普遍のテーマを描こうとしているようにも思えるが、それと双子のような同級生、UFOという特殊な要素の食い合わせが良くない。

途中で語り部の正体が明かされるトリックも、人称が徹底されていない印象で、鮮やかさに欠ける。

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『続きと始まり』 柴崎友香

2024-03-07 20:37:00 | Books
何か特筆するような出来事が起こるわけではない。2020年3月から2022年2月にかけての期間、コロナ禍で全ての人の生活が影響と制約を受けていた期間における、ごくありふれた一般市民である男女3人の身の回りで起きたことを、それぞれが主人公となる章を交互に重ねることで描いていく。
確かに、コロナ禍の生活ってこんな感じだったよなあと、ほんのちょっと前のことなのに、時を隔てた異世界のように感じられるのが不思議だ。
あの時期の暮らしや感覚を、後に記録として残す意味でも貴重な価値を持つ小説と言えるかもしれない。

登場人物たちに、ふとしたきっかけで蘇る過去の記憶、それがこの小説のテーマである。阪神大震災や東日本大震災など多くの人が共通に体験した記憶と、両親や同級生、別れたパートナーとの間で交わした会話の断片などのプライベートな記憶。
ありふれた一般市民といっても、人に歴史ありというか、記憶を紐解くことで立ち現れる、それぞれの人生の複雑性や個別性、それを丁寧に紡いでいく筆致の確かさはさすがで、読み応えがある。

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『質問の一流、二流、三流 』 桐生稔

2024-02-12 20:48:00 | Books
人と人との会話において、話題や流れをリードするのは実は質問なのだ。よい質問を投げかけるスキルを磨けば、会話のクオリティが上がり、相手との関係性が深まって、ビジネスでもプライベートでも成果につながる。

ネタバレになってしまうので内容まで書くのは控えるが、この本で紹介される質問のスキルは以下のような類型に分類される。

・会話にスムーズに入るための質問
・会話が途切れた時に使える質問
・相手との信頼関係を築く質問
・相手へのリスペクトを伝える質問
・相手の考えや本音を引き出す質問
・こちらが望む結論に相手を導く質問
・ディスカッションをまとめるための質問
そして…
・自分自身の人生の質を高めるための自問

質問力を向上させるためのヒントを期待して読んだが、思った以上に実践的な一冊だった。

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『祝福 (河出文庫)』 長嶋有

2024-02-06 20:18:00 | Books
2003年〜2010年に各誌で発表された短編を集めた一冊。それぞれに共通のテーマや関連はないが、どれをとっても長嶋節という感じ。
穏やかならぬ展開を見せる作品も中にはあるものの、日常の他愛ない場面を切り取って、誰しもが心にちょっとだけ引っかかっている感情を呼び起こすテイストが通底している。

PHS、オザケンの『LIFE』を録音したMD、木村カエラの『sakusaku』、「四角いニカクがまあるくおさめる」やつ、などスマホ前時代の風物がちょっと懐かしい。
さらには、浅香唯の『セシル』や夕方の『特捜最前線』再放送など、作者と同い年の自分からするとノスタルジーも甚だ。

高校時代の不良との甘塩っぱい思い出をクールかつエモーショナルに描く『マラソンをさぼる』と、非日常シチュエーションに似つかわしくない由無し事がつい頭に浮かんでしまう女性主人公のアンビバレントさが面白い『噛みながら』が特に印象に残った。


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『雪国 (新潮文庫)』 川端康成

2024-01-20 13:13:00 | Books
本棚の片隅にずっと潜んでいた文庫本をふと開いてみた。奥付けによると平成6年の刷版。30年「積ん読」していたようだ。

冒頭の一文ばかりがあまりに有名になっているが、満を持して読んでみると、とにかく美しい。

冬には雪に閉ざされる温泉町。俗世間の煩わしさや嫌らしさは覆い隠される異世界で、根源的な煩悩が開かれていく感じ。
凡そ人生における人との出会いや交わりなど、刹那の幻想のようなもの。
約一世紀前の小説でありながら、普遍を感じさせる。

描かれる女性2人の造形が実に魅力的。
駒子の利発さ、ころころと気分が変調する危うさ。
葉子の声の美しさに象徴される清廉さ、裏腹に儚く掴みどころのない妖しさ。

汽車が雪国へと到着する冒頭場面、雪中火事と天の河による終幕の印象深さは尋常ではない。
情念と情景が一体に、溶け込んでいく。

もともと短編の集合体とのことで、全体通すと必ずしもすっきり筋が通っていない印象もあり、けっして読みやすい小説ではない。
日本語表現も、文法や言葉遣いに違和を感じるところもところどころある。
が、それでもなお美しい。

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『定年前と定年後の働き方~サードエイジを生きる思考 (光文社新書)』 石山恒貴

2024-01-13 14:15:00 | Books
日本社会全体の少子高齢化が進む中、企業に対していわゆる「定年」を延長することが求められ、65歳までの雇用確保義務が課されるようになっている。
これを終身雇用・年功賃金という従来からの雇用慣行と整合させるために、多くの企業において役職定年・定年再雇用といった制度が採り入れられている。
これらの制度は企業の立場からは「福祉的雇用」として捉えられ、役職定年者・定年再雇用者は賃金が下げられ、技能継承のみやればよいとの低い期待が与えられることでモチベーションが低下していくケースもままある。

一方で、役職定年者・定年再雇用者の幸福感・仕事への熱意は全体として低くないという調査結果が出ている。様々な喪失や衰えがあるはずなのにも関わらず、このような全体傾向が生じる現象を「エイジング・パラドクス」と呼ぶ。
要は、定年後の境遇の変化に対する受け止め方には個人差があるのだ。
そして、その個人差を生じさせる要因は、好奇心の有無や自身のキャリアへの関心があるか否かにあり、シニア労働者には心理的要素としての「働き方の思考法」を身につけることが重要な意味を持つ。一方で、企業組織側にはそれを考慮した上でのシニア社員に対する処遇が必要である。
以上のような著者の考えが事例とともに解説されている。

自分も企業組織の管理職の立場にあり、マネジメント対象となるメンバーにはシニア層の方もいるので、彼らにモチベーションを保って年齢に相応しい活躍をしていただくやり方については日々頭を悩ませている。
また、自分個人としても、定年を意識してこの先のキャリアをどのように送っていくかを真剣に考えなければならない年齢を迎えていることもあり、この本で扱われている論点を他人事でなく関心をもって読んだ。

個人にとって必要な「働き方の思考法」とは。
まずは企業組織に蔓延るマッチョイズムへの囚われから脱却すること。
自身の情熱・動機・強みがどこにあるのかを熟考し「自己の成長と専門性の追求」にフォーカスして主体的に職務を再創造する(ジョブ・クラブティング)。
その際には、独りよがりな「周りの見えないジョブ・クラフター」にならないよう全体性とのバランスに留意して、周囲から受け入れてもらえるようにする。
そのための実践として、スキルシェアサービスを利用してのギグワークや副業フリーランスを通じて業務委託という働き方に慣れること、越境学習となる場に積極的に身を置くことでホームとアウェイを行き来し葛藤を通じた自己調整を経験することなどが推奨されている。

一方、企業組織側は、賃金を引き下げなければならないという認識に引っ張られて、シニアの自己評価を徒に下げるようなことがあってはならない。
シニアに対しても責任のある仕事を与えて権限委譲し、業務目標を主体的に設定してもらって支援を行い、正当な人事評価で報いることが大切である、と。

モチベーションの低下したシニアを企業が低い待遇で囲っておくというのは、誰も幸せにならない話で、社会的な損失は甚大だと思う。
まずは個人が自らのキャリアを自律的に考える素地を広げていくことが重要で、企業側にもキャリア自律を促す取り組みがもっともっと必要なのだと再認識した。

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山崎元氏死去

2024-01-06 10:08:00 | Society
経済評論家の山崎元さんの訃報を知り、少なからずショックを受けています。

山崎さんを初めて知ったのはたぶん10年以上前、オリエンタルラジオが出ていたテレビの経済バラエティみたいな番組に出演されていたのを観て。
なんとなく人柄に関心を持って、ダイヤモンドオンラインの連載を継続的に愛読していました。

生前最後の記事は、年末12月20日配信の『山崎元、最後に贈る「ウィスキー」ガイド』。ご自身の死期が近いことを予期されていたのでしょうか…

山崎元、最後に贈る「ウィスキー」ガイド

山崎元、最後に贈る「ウィスキー」ガイド

本稿は、ウィスキーの飲み方、楽しみ方を説明するための、全国の酒友にお送りする、筆者のたぶん最後のウィスキーの飲み方ガイドである。

ダイヤモンド・オンライン

 


素人の消費者の目線に寄り添ったフェアでわかりやすい投資指南や、豊富な転職経験に基づくキャリアに対する助言・提言は、参考にさせてもらうことも多くありました。

心よりお悔やみ申し上げます。

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『もう生まれたくない (講談社文庫)』 長嶋有

2024-01-03 10:40:00 | Books
事故、自殺、早逝…誰かの不慮の死の報せに触れたとき、人は全く関わりがなく関心もなかったはずの他人の人生に思いを馳せたくなる。
誰もが思い当たるこの心情に踏み込むニッチな語り口。

この小説は、2011年の大震災で多くの生命が失われたことを契機にしている。2024年の元旦、能登でまた大きな地震があり予期せず失われた生命が多くあったことを報じる様子を聴きながら、このレビューを書いている。

巻末に「本作に登場する主な死者と死因」のリストが掲載されている。殆んどは現実に起きた(2014年以前のものだが)有名・無名の人の死ではあるが、明確に憶えているものもあれば、すっかり忘れかけていたものもある。

人は自分の生き方を選ぶことはできても、自分の死に方を選ぶことは難しい。
ましてや自分の死が他者にどのような思いを抱かされるのかなど制御のしようもない。
そんな儚い普遍に改めて気づかされる。

久々に長嶋有を読んだが、登場人物の境遇や心情の機微を拾う視点のユニークさは相変わらず。
そのディテールの綿密さを、書くほうも読むほうも楽しむという面がある。
セガサターンへの偏愛は著者の趣味の反映そのものだと思うし、大学講師・布田や蕗山フキ子の造形なんかはちょっと悪ノリを感じる。

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Year of the Dragon

2024-01-03 10:06:00 | Diary
2024年、穏やかなお正月だねーなんて言っていたら、元旦からまさかの能登半島地震とその二次災害ともいえる羽田での航空機衝突大炎上事故ですっかり雰囲気も変わってしまいました。
新年早々こんなだと、今年は何か想像もできないとてつもないことが起きそうな気がしてきます。

思えば昨年は、ジャニーズ、宝塚、ビッグモーター、日大、そして年末の自民党派閥パーティー券問題まで、社会の様々なパンドラの箱が開けられた一年でした。
引きずってきた昭和の時代が完全に終わり、溜まってきた古い膿がようやく取り除かれていく時代が訪れたということでしょう。
その解体過程で露わになる歪みが今年も大きな騒動を引き起こすことと思います。

必要なのは個人も社会もアップデートを怠らないことだと思います。
自分も人生の3分の1くらいは昭和を生きた世代ですが、人生の6〜7合目を迎えている今こそ考え方や行動を見直し、能動的に変えていかなければなりません。
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