非国民通信

ノーモア・コイズミ

定期昇給とはなんぞや

2024-03-24 22:20:20 | 雇用・経済

春闘の賃上げ率、2回目集計も5・25%と高水準…中小は4・50%(読売新聞)

 連合が22日発表した2024年春闘の第2回集計結果(21日午後5時時点)によると、平均賃上げ率は前年同期比1・49ポイント増の5・25%だった。15日に公表した初回集計の5・28%とほぼ同じで高い水準を維持している。

 賃上げ率は、基本給を底上げするベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせた額で集計した。回答数は1446組合で、初回から倍増した。ベア分は3・64%となる。賃上げ額は4825円増の1万6379円で、ベアは4668円増の1万1262円だった。

 大手に続き、中小企業の交渉が始まっている。組合員数300人未満の企業の賃上げ率は1・11ポイント増の4・50%だった。初回集計の4・42%よりもわずかに上昇している。

 

 さて春闘も結果が揃いつつありますが、これまでに比べれば随分と良い数値が並んでいるようです。大企業であればベースアップと定期昇給を合わせて平均5.25%、中小企業でも4.5%とのことですので、このペースが続けば多少は希望も見えてくるでしょうか。私の勤務先の親会社グループも今年は業界平均を上回る賃上げを行ったらしく、その企業名が紙面を賑わせたりもしていました。しかるに組合から渡された資料に記載の賃上げ額とメディア報道で伝えられている賃上げ率がどう一致しているのか、今ひとつ私には分からなかったりします。

 私の勤務する企業グループの場合、純粋にベアと呼べる基本給部分については数百円程度の増に止まり、比率としては「ほぼ0」でした。一方で評価に応じて支払われる成果給については8000円超のアップだそうで、これをベースアップに含めて良いのかどうか疑問に思うところですが、平均的な評価であれば恩恵にあずかれるとは言えます。これに家族構成に応じた扶養手当の増額を含めると総額で1万円に到達する計算になり、大幅な賃上げを勝ち取ったと、組合はそう誇っているところです。

 単身者も今は珍しくないだけに、扶養手当を満額で計算して成果をアピールする組合の姿勢には疑問を感じないでもありません。でもパワハラ上等で接待漬けの古い体質が抜けない御用組合からすれば、結婚して世帯を持ち家族を養う、それが「普通」なのでしょう。ともあれ組合の公表するモデルケースでは1万円の賃上げ、一応は私が入社して以来の最大幅ではあります。しかしメディアの報道によると、勤務先グループの賃上げ率は組合の誇るよりもずっと大きいらしいのです。

 冒頭の引用のように、賃上げ率はベアと定期昇給の合算で発表されるのが通例です。私の勤め先の場合も、組合の発表額に「定期昇給」を追加すれば新聞やテレビで報じられているような賃上げ率に合致するものと推測されます。ただ定期昇給の「定期」とは、「誰でも定期的に」という意味ではありません。社員としての等級が一つ上がった場合の昇給分と組合のアピールする賃上げ分を合算すれば、だいたいメディアで伝えられている賃上げ率に近い計算結果が得られます。しかし昇進しなければ「定期昇給」分などないわけで、この場合はどういう計算になるのでしょうか?

 近年、初任給ばかりを大きく引き上げようとする会社も見られるようになりましたが、それまでも初任給は横ばいが基本で少なくとも下がっては来ませんでした。ただ初任給が維持されてきたにも拘わらず、日本で働く人は30年前よりも貧しくなってしまったわけです。それは結局のところ入社した後の賃上げがなかったからで、昔は入社10年もすれば給料は倍になった、一方で氷河期の採用ともなれば入社10年でも新人時代と大差ない給与のまま据え置かれているケースが珍しくありません。定期昇給が重なっていれば親世代と同じ程度の賃金を得られたはずの人が、定期昇給とは無縁で入社当時と変わらない賃金で働き続けている、日本が貧しくなった原因はそこにあるように思います。

参考、年功序列でないことだけは確かだ

 もちろん私の勤務先でも昇進を重ねる人はいます。そういう「定期昇給」を重ねる人であれば、報道にあるような大幅な賃上げと矛盾しないのでしょう。しかし、長く働いていても昇給の機会から遠ざけられている人もまた少なくありません。その場合はメディア上で流布される華々しい賃上げ率とは大きくかけ離れた給与しか得られないわけです。長く真面目に働いていれば定期的に昇給する、そんな仕組みがあれば社員も希望がもてる、仕事へのモチベーションも上がるのでしょうけれど、現実は真逆です。人件費を減らして内部留保を積み上げる上では効果的であったのかも知れませんが、その結果として日本社会はどうなったのか、日本の経済的地位はどうなったのか、顧みられるべきものは少なくないと言えます。

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トランプよ、これがアメリカ第一主義だ

2024-03-24 21:29:24 | 編集雑記・小ネタ

岸田首相「日本がアメリカをサポートする時代に入った」 4月訪米を前に意気込み示す(FNNプライムオンライン)

岸田首相は22日夜、東京都内で行った会食で、4月に控えた訪米について、「今までの日米関係は、いろいろ助けられていたが、日本がアメリカをサポートしていく時代に入ったことを考えたい」と意気込みを強調した。

同席した日枝久フジサンケイグループ代表が明かした。

2人の会食は、東京・港区のホテル内の日本料理店で約2時間行われた。

日枝氏によると、岸田首相は、自民党が派閥の政治資金問題で収支報告書に不記載のある議員の処分を検討していることについて、「党に任せてある」と述べた。

また、4月は、訪米のほかに、衆院の補欠選挙などもあり、「大変だ」との認識を示した。

そして、「やはり一つ一つを丁寧にやっていかないと仕方がない」と述べたという。

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目次

2024-03-24 00:00:00 | 目次


なんだかもう、このカテゴリ分けが全く無意味になりつつあります……

社会       最終更新  2024/ 3/10

雇用・経済    最終更新  2024/ 3/24

政治・国際    最終更新  2024/ 3/ 3

文芸欄      最終更新  2024/ 2/23

編集雑記・小ネタ 最終更新  2024/ 3/24

 

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これを機に悪法を撤廃してはどうか

2024-03-17 21:59:41 | 雇用・経済

アマゾン、ふるさと納税に来春にも参入へ 仲介競争さらなる過熱か(朝日新聞)

 ネット通販大手のアマゾンが来年春にも、ふるさと納税の仲介事業へ参入することを調整していることがわかった。仲介市場は現在、楽天など国内4社がほぼ占めており、自治体向けに設定する手数料も高止まりしている。外資系の巨大プラットフォームが参入すれば、競争環境に変化が起きそうだ。

 今年に入りアマゾンから提案を受けたという複数自治体の関係者によると、同社は「アマゾンふるさと」というサービス名で専用ページをサイト内に開設すると説明しているという。2025年3月にサイトをオープンする予定とし、「早割プラン」など他社よりも低い手数料や独自の配送サービスをアピールしている。

 

 これまでふるさと納税の仲介市場は楽天など国内4社がほぼ占めていたそうですが、アマゾンが参入予定とのことで局所的に話題になっています。早くもアマゾンには勝ち目がないとみられているのか競合する国内の仲介事業者の株価が軒並み下がっているとも言われるところ、高止まりしていた仲介手数料が引き下げられることに繋がれば自治体の支出は減るでしょうか。国民の納税額は変わらないのに仲介手数料と返礼品の費用の分だけ自治体の税収を減らすのがふるさと納税の仕組みでしたけれど、これを機に見直しが図られれば、少しは世の中がマトモになるのかも知れません。

 アマゾンが儲かっても日本社会が豊かになるかと言えば微妙ではあります。ただ、筆頭に挙げられている楽天など国内の仲介事業者が儲かれば(アマゾンの場合とは違って)国民の生活が楽になるかと言えば、決してそんなことはなかったわけです。どうしても外資であるとそれだけで反感や警戒感も生まれますけれど、国内企業であっても中抜きビジネスにはもう少し厳しい目が向けられても良いのではないでしょうかね。

 

ふるさと納税厳格化のその後 仲介サイトはノーダメージ、憤る自治体(朝日新聞)

 ふるさと納税の経費ルールが昨年10月に厳格化され、自治体が返礼品や人件費の費用削減に追われている。手数料の引き下げを仲介サイトに働きかける動きもあるが十分に進んでいない。仲介サイト事業者の間では、返礼品を提供する企業からも手数料をとる「二重取り」の仕組みが新たに広がるなど、規制側とはいたちごっこの状態だ。

 「仲介サイトへお金が流出する割合が増えただけ。『サイト栄えて地域滅びる』だ」

 

 こちらはアマゾン参入が話題になる1ヶ月ほど前の記事ですが、仲介者が「日本の会社」であっても問題は大きいことが伝えられています。根本的には、ふるさと納税という制度に救済の余地がない、ふるさと納税という悪法を続けている限り歪みは大きくなるだけで、そこに外資の参入を阻んだところで救いはありません。まぁアマゾンという外資への反感が導火線になって制度そのものに疑問が持たれるようになることが、最も世の中を好転させるルートになるような気がします。

 地方の財源をどうにかしたいのであれば、地方交付税を拡充すれば済む話です。しかし自己責任を奉じる我が国は、ふるさと納税という制度を作り、各自治体の自己責任で税金の獲得競争を行わせています。そんな税金の奪い合いの勝者にばかり光が当てられている現状ですけれど、ふるさと納税を集めるためのコストは決して小さいものではない、積極財政派の自分から見てもムダ以外の何物でもない支出が増えていると言わざるを得ません。

 そしてふるさと納税で「選ばれなかった」自治体の税収は当然ながら減ってしまうわけです。これに限らず市場競争における敗者の存在を無視しがちな我が国ですけれど、いくら無視したところでその存在が消え去ることはありません。日本社会全体の底上げを図るためには自己責任と自由競争ではなく、対象を選別しない分配こそが必要であって、それはふるさと納税とは対極に位置するものです。もちろん対象を選別しない分配ならば事務的なコストも安く済む、仲介事業者を介在させる必要もない、何もかもがメリットと言えます。

 しかるに国民に歓迎されるのは自己責任と自由競争による格差であり、敗者を救済「しない」ことの方でした。ならば楽天その他の仲介事業者がアマゾンとの競争に敗れて衰退していくとしても、それは自業自得として受け入れるのが筋なのだと言えます。結果としてアマゾンが市場を独占し、その後に仲介手数料が大きく引き上げられる可能性もあるわけですが、そうなったときには改めてふるさと納税の全廃を議論したら良いのではないでしょうか。

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それから

2024-03-10 21:58:37 | 社会

店に「大量のナメクジ」SNSで虚偽投稿した罪、飲食店元従業員起訴(朝日新聞)

 仙台市太白区の飲食店について虚偽の内容をSNSに投稿し、業務を妨害したとして、仙台地検は5日、住居不定の無職円谷晴臣容疑者(25)を偽計業務妨害の罪で起訴した。地検は認否を明らかにしていない。

 起訴状などによると、円谷容疑者は2022年7月24日、「大阪王将仙台中田店」(仙台市太白区、閉店)にナメクジが大量に発生したなどと、虚偽の内容をツイッター(現X)に投稿。店を一時休業に陥らせて、運営会社(若林区)の業務を妨害したとされる。

 円谷容疑者は店の元従業員で、「ナメクジ大量にいる」などと投稿していた。地検はナメクジが大量に発生したり、料理に混入したりした事実はなかったと認定。動機は店の待遇への不満で、休業による財産的損害が生じているなど悪質だと判断した。

 

 先月取り上げた報道の続編となりますが、どうなのでしょうか。とうとう問題の告発が「虚偽」と認定されているわけです。以前の報道よりも逮捕から起訴に至る理由が多少は伝えられているものの、まだまだ納得がいかないところはあります。元従業員による告発があった当初は保健所も衛生面での問題を認定した他、フランチャイザーである大阪王将も当該店舗の運営会社との契約を解除しました。第三者が告発の内容を概ね認めた結果であったはずですが……

 その他にも当該店舗と運営会社では「猫を飼っていた(衛生検査時には隠していた)」「食品衛生管理者の変更届を出していなかった」「雇用調整助成金を不正に受給していた」ことを伝えられています。告発の核心であるナメクジの数とは別の問題かも知れませんけれど、これまでの報道が事実ならば社会的な信頼を損ねるだけの行為を同社は繰り返していた、決して潔白な店舗ではなかったというのが客観的な評価になりそうです。

 もちろん店舗側の言い分も考慮されるべき、運営会社が告発者を訴える権利はあるでしょう。その先は司法の判断となるところですが、今回は仙台地検が告発を虚偽と認定していることが伝えられています。繰り返しになりますが告発当時、保健所と大阪王将は衛生面で問題があることまでは認めているわけです。しかるに地検は「ナメクジが大量に発生したり、料理に混入したりした事実はなかったと認定」したとのこと、では保健所とフランチャイザーの調査結果は何だったのか、という疑問がないでもありません。

 痴漢「していない」ことを証明することが困難であるように、「ない」ものを証明するハードルは高いです。地検がどのようにして告発されたような状況が「なかった」と断定したのか、そこは疑問に思うところでしょうか。あれこれと追及されている国会議員などを見ていると不正の一つや二つでは逮捕・起訴には至らないかに見える我が国ですけれど、今回の告発者に関しては随分とスムーズに起訴まで進んでいる印象を受けます。疑わしきは罰せず、本当に告発が虚偽と立証されているかは問われるべきでしょう。

 たしかにナメクジが「大量に」発生した云々は、話を盛っていたのかも知れません。そして最終的に告発場所がSNSとなっていたのも問題視はされるかも知れません。ただ告発当初は、まず店長に相談していたとも伝えられています。告発者が店長に送信したというSNSの画像も出回っていたものですが、そのあたりは考慮されているのでしょうか。しかるべき手続きを踏んでも無視された結果としてSNSで告発した、それを不適切と認定されて有罪となるのであれば、事態はこの一件だけでは済まないように思います。

 例えば、芸能界の大御所が長らく性加害を続けていたとしましょう。被害者が事務所に相談したけれど、何ら事態の改善が見られなかったとします。思いあまった被害者が次は週刊誌に何もかも暴露、その結果として大物芸能人が活動休止を余儀なくされたとしたらどうでしょうか? 週刊誌に訴えた被害内容は、少しばかり大げさに語られていたかも知れません。今回のナメクジ事件の結果に準えるなら、地検が「言われているほど頻繁な性加害の事実はなかったと認定」し、告発者を起訴することだってあり得るわけです。

 日本では、定められた要件を満たせば社員を解雇することが出来ます。そして日本では、定められた要件を満たす内部告発者を保護する法律があります。今回の告発者は公益通報者保護法の対象には該当しないのだと、したり顔で解説してくれる人もいるのですが、どうしたものでしょうか。要件を満たさぬ解雇は横行していますが、それで事業者側が逮捕・起訴されたケースは皆無であるはずです。しかし公益通報者保護法の要件を満たさない内部告発の結果が逮捕・起訴であるとしたらどうなのでしょう?

 日本が大いに肩入れしている「同志国」のウクライナでは、体制に批判的な政治家やジャーナリストが拘束され、捕虜交換の弾にされたり獄中死したりしています。ロシアにおける獄中死は体制による殺害として非難される一方、ウクライナの獄中死は黙殺される、そして日本国内の獄中や入管での死亡は自業自得のごとく扱われてきました。我々の社会は、他国を居丈高に断罪できるほどに公正なのでしょうか。今回のナメクジ云々を巡る逮捕と起訴については、本当にそれだけの「悪」であることが立証されているのか、問われるべきものであるように思います。

 また今回の一件で店舗側の信頼が損なわれたのは、単にSNSでの拡散によるものだけではないはずです。大手新聞社も概ね告発側の訴えに沿って報道してきた、保健所もフランチャイザーも告発の内容を否定するような発表は行いませんでした。SNSで騒いでいるだけならば「嘘かも」という疑いを持つ人はいることでしょう。しかし大手メディアも保健所も否定していないのであれば、その告発は概ね正しいものとして受け入れる人が多いように思います。

 もちろんロシアや中国など、「アメリカの敵」が絡むと戦時報道のごとくになりがち、大手メディアも大学教員も一方の体制に寄り添った偏向を見せることは多いです。社会的な権威が、国民を欺くことは珍しくありません。しかし今回の飲食店とナメクジの話に政治的な要因はない、ならばマスコミ報道も大筋では正しいだろうと、私は受け止めてきました。それを地検が容易く覆してきたのが今回の一件ですけれど、では告発者だけではなくメディアの責任は問われるのでしょうか。この問題、どうも一人の被疑者の運命だけで済む話ではないように思われます。

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ロシアとNATOがウクライナで争い、クルド人が負けた

2024-03-03 22:12:05 | 政治・国際

 さてウクライナを舞台に膠着が続いていた代理戦争ですが、先般はアブデーフカが解放され少しずつ事態が動き出しています。アメリカでは次期大統領にトランプが再選される可能性が高く、NATO陣営では今のうちに事態を不可逆的にエスカレートさせる試みが幾つか見られるところです。その一つはフランスによるNATOからの派兵発言ですが、これはブラフであってあくまでウクライナ人を傭兵として使い潰す方針には変わりないと思われます。

 この代理戦争の最大の敗者は「ウクライナ人」であると私は当初より述べてきました。ウクライナ政府の長がNATOの後ろ盾で権力を維持し「勝者」になったとしてもウクライナ人の犠牲は変わらない、それは早期停戦以外では決して回避することの出来ないものだった言えます。日本のメディアではなんとかの一つ覚えのようにウクライナ人に「勝利、勝利、勝利」と連呼させてきたわけですが、政府の圧力やメディアによる選別を除いたウクライナ人の本心はどうなのでしょうね。

 そして先般はフィンランドに続いてスウェーデンのNATO加盟が決まりました。日本のメディアは挙って「ロシアは侵攻が裏目に出て自らの首を絞めることになった!」みたいに報じているところですが、実際のところはどうなのでしょうか。フィンランドやスウェーデンが本当に中立であったのならロシアにとってはマイナスになるのかも知れません。しかし中道を自称する人々が大半は極右であるように、中立を自称する国も実際はアメリカの衛星国に過ぎなかったりするわけです。スウェーデンもフィンランドも中立の装いを捨てただけで実際にやることは何も変わらないのでは、という疑問がないでもありません。

 そもそも、ロシアが何もしなかったからこそNATOは東方に拡大を続けてきたという現実があります。東欧各国に止まらずウクライナまでをNATOに取り込もうとした、そのロシアとしても妥協できないレッドラインにNATOが踏み込んできたことが今回の戦争の原因の一つであるわけです。もしロシアが何もしなかったならば、いずれスウェーデンやフィンランドはウクライナと足並みを揃えてNATO入りを果たしていた可能性もあります。ウクライナ方面だけはなんとか死守しようとしたロシアの行動は結局のところ不可避だったのではないでしょうか。

 このスウェーデンとフィンランドのNATO加盟を巡っては、トルコとハンガリーが難色を示していたと伝えられています。ハンガリーは加盟への同意と平行してスウェーデンからグリペン戦闘機の購入を契約したとのことで、かつては権威主義的な指導者として欧米諸国から非難を受けることも多かったハンガリーのオルバン首相ですが、今後は「国際社会」が公認する自由と民主主義の同志として、表だった批判を受けることはなくなることが予測されます。

 

サッカーのエジル選手、独代表を引退表明 トルコ大統領との写真めぐり(BBC NEWS)

サッカーのドイツ代表チームのメンバー、メスト・エジル選手(29)が22日、代表引退を表明した。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と一緒に撮影された写真をめぐり、議論が沸き起こっていた。

(中略)

6月24日のトルコ大統領選前に、エルドアン大統領と両選手との写真がトルコの与党・公正発展党(AKP)によって公表されると、ドイツの政治家の多くが、両選手のドイツの民主主義に対する忠誠心を疑う発言をした。

 

 そしてトルコのエルドアン首相もまた一時期は欧米からの批判が絶えなかったわけです。トルコ系移民でドイツ代表のサッカー選手がエルドアンとの写真撮影に応じたことで囂々たる非難を浴び、20代で代表引退を決断するなんてこともありました。かつてはプーチン大統領ではなくエルドアンが民主主義の敵として扱われていた、そんな時代もあったのです。ところがウクライナを舞台に代理戦争が始まり、トルコが海峡封鎖で重要な役割を果たすようになるとエルドアンへの批判は次第に減っていきました。

 トルコではクルド人の処遇を巡って弾圧やテロが続いており、これもまた欧米からのエルドアン政権批判の理由の一つでした。政権と対立するクルド人勢力は特にスウェーデンの庇護下で活動するものも多く、トルコと他のNATO諸国の間には溝があったと言えます。しかるにスウェーデンのNATO加盟を巡ってトルコの同意が必要となるや、クルド人の処遇についてはエルドアン側の言い分が全面的に受け入れられる結果となりました。この取引の結果としてトルコはスウェーデンのNATO加盟に同意することとなったのですが、ではクルド人はどうなるのでしょうか?

 ウクライナ人が第一の敗者なら、第二の敗者はクルド人なのかな、と思います。ほんの数年前までクルド人は欧米諸国が悪玉視する権威主義的な独裁者から迫害される民族として扱われ、ウイグル人あたりと似たようなカテゴリーに含まれていたわけです。しかるにNATOとトルコの取引の結果としてNATOはクルド人を切り捨てた、エルドアン側の言い分が欧米諸国の公認となってしまいました。結果として日本国内の排外主義者が嬉々としてクルド人をターゲットにするようになったり等々、NATOとロシアの対立に何ら関与していないクルド人が被害を被っている、なんとも罪深い話です。

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根拠もなければ、動機もない

2024-03-01 22:14:57 | 編集雑記・小ネタ

ロシア反体制派指導者ナワリヌイ氏 死亡直前に“囚人交換”交渉「最終段階だった」陣営側 今週末に告別式検討(TBS NEWS DIG)

北極圏の刑務所で死亡したロシアの反体制派指導者ナワリヌイ氏について、死亡直前にドイツで服役中のロシア工作員との「囚人交換」の交渉が最終段階にあったと、ナワリヌイ氏の陣営側が明らかにしました。

ナワリヌイ氏が設立した「反汚職基金」のマリヤ・ペフチフ氏は26日、新たな公開した動画でナワリヌイ氏について、殺人罪で終身刑の判決を受けドイツで服役中のロシア連邦保安局の元大佐との「囚人交換」の交渉が進められていたと明らかにしました。

交渉はナワリヌイ氏以外にも2人のアメリカ人が対象になっていたとされ、オリガルヒと呼ばれるロシアの新興財閥の一人、アブラモビッチ氏らが仲介に携わり、ナワリヌイ氏が死亡する前日の15日には「最終段階にあった」としています。

 

 ウクライナの情報部門トップであるブダノフ情報総局長によると血栓のために死亡したとされるナワリヌイ氏ですが、当のウクライナよりも前のめりになりがちなNATO諸国&日本では相変わらずロシアによる殺害と根拠のない断定が続いています。ロシア国内での支持が厚いとは言いがたく、既に収監済みのナワリヌイを殺害してロシアに何の益があるのかと頭をひねるところですけれど、アメリカとその衛星国にとっては非難の材料になりさえすれば事の真偽などどうでも良いのでしょう。

 これに限らず「ロシア側に何のメリットが?」と言わざるを得ない事柄が、何度となくロシア側の犯行として日米欧から非難されてきました。そして今回の「陣営側」の主張が正しいのであればなおさら疑問は募ります。ナワリヌイが「捕虜交換の弾」に使えるのであれば、その喪失はロシア側にはマイナスにしかなりません。ウクライナでは反体制派の議員を拘束してロシアとの捕虜交換に使ってきたわけですが、それと似たような振る舞いをすることが嫌だったのでしょうか。少なくともロシア側にナワリヌイを殺害する動機がない、むしろデメリットしかなかったことは認識されるべきと言えます。

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民主主義の条件

2024-02-25 21:24:24 | 政治・国際

 さる1月11日、アメリカ人のジャーナリストであるゴンザーロ・リラ氏がウクライナの獄中で死亡しました。氏はウクライナ人と結婚して現地に移住、ゼレンスキー政権に批判的な立場で情報発信を続けていたところ、ウクライナ保安庁に身柄を拘束され、獄中にて死を迎えたわけです。ウクライナでは政府に批判的な野党の活動が禁じられ、ロシア寄りと見なされた政治家は捕虜交換の材料にされている有様ですが、ジャーナリストにとっても言論の自由が失われていることが分かります。

 そして先日はロシアの反体制派活動家として欧米で人気のあったアレクセイ・ナワリヌイが獄中で死亡しました。彼はゴルバチョフやエリツィンの系譜に連なる「西側」から支持を集めた(それとは裏腹にロシア国内で人気のない)タイプの人物であったと言えますが、ゴンザーロ・リラの死が欧米諸国の黙殺で迎えられたのとは裏腹に、ナワリヌイの死はロシアによる殺害と根拠なく断定され、アメリカの傘下にある国々の政府やメディアによって大きく取り上げられているところです。

 政府に批判的な立場を取る人間が急死する、というケースはロシアでもウクライナでも他の国でも多寡はあれ発生しています。ただロシアの場合とウクライナの場合では決定的な違いがあり、ロシアで反体制派が死亡しても、ロシア政府は一貫して関与を否定してきました。一方でウクライナの場合、反体制派が死亡した場合はウクライナ保安庁の「戦果」として堂々とアピールされることが多いです。政敵の殺害を「良くないこと」と扱うのがロシア、政敵の殺害を「勝利」として訴えるのがウクライナ、両政府の性質の違いがよく現れていると言えるでしょうか。そして我が国が「同志国」と位置づけているのは後者の方です。

 誤解されていることが多いのですが、ヒトラーも最初から危険視されていたわけではありません。どれほど東方に勢力を拡大しても「ユダヤ人」を迫害しても、欧米から見たナチスは「反共の同志」であり1940年にフランスへの侵攻が始まるまでヒトラーは西洋の味方でした。西側諸国にとって最大の敵は共産主義であり、ドイツが東方侵略とソヴィエト体制の殲滅に専念している限り英仏は宥和政策を続け、そこにアメリカが干渉することもなかったでしょう。しかしナチス政権はフランス方面にも兵を向け、ヒトラーは人類の敵となったわけです。

 これと似た末路を辿ったのはサダム・フセインで、彼が台頭したのは西側諸国がイスラム革命とその震源地であるイランを脅威と見なしていた時です。このイランに軍事侵攻をする欧米諸国の尖兵としてサダム・フセインはアメリカの後援を得、イラクでの権力を万全のものとしました。しかるにイランではなくクウェートへの軍事侵攻が行われると欧米からの評価は一転、自由と民主主義の敵としてアメリカとその衛星国による一方的な侵略を受けるに至り、専らこの当時のイメージで記憶されていると言えます。

 ゼレンスキーがヒトラーやフセインと同じ末路を辿る可能性を、私は否定しません。今はアメリカの敵であるロシアと対立している「敵の敵」であるが故に自由と民主主義の同志として祭り上げられている段階ですが、このウクライナを舞台とした戦争が終わった後はどうなるでしょうか。失脚して忘れ去られれば彼にとっては幸せな未来、しかしNATOの代理人として権力を維持する未来もまたあり得ます。そうなった時にヒトラーやフセインのように、欧米からの評価を180°覆してしまうような何かが起こる可能性は、誰にも否定できないことでしょう。

 そこでロシアで死亡したナワリヌイですが、彼がどのような人物であったかは知られていない、そもそも気にされてもないように思います。しかるにナイーブな人々にとってはアメリカの敵であるロシアの反体制派、即ち「敵の敵」であると言うだけで全ては用が足りてしまうのかも知れません。極右団体の創設者であり反移民、反ムスリムを掲げ、グルジアとの紛争やクリミア半島の編入時にはロシア政府よりも強硬論を唱えるなど「右から」プーチン政権を批判してきたのがナワリヌイなのですけれど、アメリカ陣営に属する国々からの賞賛は止むことがないわけです。

 ウクライナでの戦争やガザ地区でのジェノサイドを巡って欧米諸国は二重基準であるなどと言われることもあります。ただ私が思うに日米欧は二重基準である以前に「(アメリカの)敵か味方か」という観点でしか物事を判断できていないのではないでしょうか。アメリカの敵であれば全ては悪であり、アメリカの味方であれば全ては正しい、アメリカの「敵の敵」もまたそれに準じる扱いをしていることがナワリヌイの一件からも立証されたと断言できます。まぁ移民排斥や反ムスリムはヨーロッパのトレンドですので、ある意味でナワリヌイは価値観を同じくする同志に違いないのでしょうね。

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裸の王様

2024-02-23 21:45:35 | 文芸欄

昔々、ある王国に賢明な王様がいました。この王様は美しい服に目がなく、新しいファッションを楽しむことが大好きでした。

ある日、王様のもとに一人の詐欺師が現れ、「バカには見えない服」を作ることができると言いました。この服は賢い人々には見え、愚かな人々には見えないというのです。

王様は興味津々で、詐欺師に服を作ってもらうことを決めました。詐欺師は糸を紡ぎ、不思議な布を織りました。そして完成した服を王様に見せました。

「これがバカには見えない服です、陛下。」詐欺師は自信を持って言いました。

王様は服を手に取り、鏡の前に立ちました。しかし、何も見えませんでした。詐欺師は微笑みながら言いました。「陛下、あなたは賢い方ですから、この服が見えるはずです。」

王様は少し戸惑いましたが、詐欺師の言葉を信じて服を身に着けることにしました。

 

時は流れて21世紀、ある国に立派な美術館がありました。

ある日、館長の元にもとに一人の詐欺師が現れ、最高の現代アートを披露すると言いました。この現代アートは賢い人々には理解でき、愚かな人々には理解できないというのです。

館長は興味津々で、詐欺師に現代アートを披露してもらうことを決めました。詐欺師は絵筆を取り、汚れたキャンバスを作りました。そして完成したアートを館長に見せました。

「これがバカには理解できない芸術です、館長。」美術評論家は自信を持って言いました。

館長はゴミを手に取り、しばらくキャンバスの汚れを眺めました。しかし、何も理解できませんでした。詐欺師は微笑みながら言いました。「あなたは賢い方ですから、この価値が理解できるはずです。」

館長は少し戸惑いましたが、評論家の言葉を信じてゴミを高額で購入することにしました。

その後、美術館の展示品はゴミだと言う少年も現れましたが、何かが変わることはありませんでした。

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どう考えても逮捕理由の説明が足りない

2024-02-18 21:41:54 | 社会

「ナメクジ」投稿で25歳男逮捕 仙台、飲食店営業妨害疑い(共同通信)

 交流サイト(SNS)に仙台市の飲食店が不衛生であるかのような投稿をして業務を妨害したとして、仙台南署は威力業務妨害の疑いで住所不定、無職の円谷晴臣容疑者(25)を逮捕した。逮捕は13日付。

 捜査関係者によると、閉店した中華料理チェーン「大阪王将仙台中田店」の元従業員で、2022年7月に「ナメクジ大量にいる」などと書き込んだ。投稿写真に写っていたのは1匹だが、大量であるかのように書いていたという。

 同店舗を巡っては、仙台市保健所が投稿の翌日に立ち入り検査を実施し、衛生面の不備が判明。大阪王将は謝罪し、店はその後閉店した。

 署によると、容疑を認めている。

 

 この件、今のところ大手メディアからは詳しい情報が見られないのですが、逮捕理由をもっと追及されるべき大きな事件であるように思います。これが事実無根の中傷であれば威力業務妨害での逮捕は珍しくないのかも知れません。しかし今回の問題になっている大阪王将仙台中田店に関しては、逮捕された元従業員による告発が概ね事実であったと認められているわけです。従業員が衛生面の不備を告発し、その結果として警察に逮捕されるというのは本来であれば大いに疑問が呈されるべきもので、これを報道機関が淡々と流してしまうのはいかがなものでしょうか?

 

大阪王将、店にナメクジ・猫の飼育も 元従業員が告発する衛生環境(朝日新聞)

 大阪王将(本店・大阪府枚方市)は、このフランチャイズ店が「ネコを飼っていたこと」「ナメクジや昆虫が侵入していた時もあったこと」などを認め、謝罪した。

雇用調整助成金など5300万円余を不正に受給(NHK)

 去年、元従業員がSNSに投稿したのをきっかけに宮城労働局が調査し、明らかになったということで、16日までに全額、国に返還されたということです。

 

 元従業員による告発当初は結構な話題にもなり、まずは店長にナメクジの発生を報告するも相手にされなかったことからSNSでの発信に踏み切ったことも伝えられていました。保健所が立ち入った時点ではナメクジの発見こそなかったものの衛生面での不備は確認されたわけで、決して虚偽の告発でなかったことは既に明らかになっています。フランチャイジーが告発者を訴えるところまでは理解できないでもありませんが、警察までが乗じて逮捕に踏み切るというのは不可解であり相応の説明が求められるはず、メディアも追求すべきところのはずです。

 

内部告発者の「誇り」と「悔い」 「事件後」の日々を追って(Yahoo!ニュース)

「不正を告発したんだから、てっきり国から感謝されるもんだと思ってたんです。営業停止は青天のへきれき。取引先が次々と逃げていったのも計算違い。(告発によって)雪印食品のライバル企業は喜ぶだろうと思ったけど、それも浅はかでした。あとから相次いで発覚しましたが、よその会社も牛肉偽装やってたわけです。畜産業界全体を敵に回してしまったんです」

 

 こちらは過去に雪印食品の不正を告発した人の言葉です。時は流れて2006年に公益通報者保護法が施行されたものの、実態はいかがなものでしょう。衛生問題は不正や偽装とは少々異なるかも知れませんが、それでも告発者が保護されるべきことは変わらないはずです。フランチャイジーにも反論する権利はありますけれど、しかし警察には当然ながら公正さが求められるわけです。事実関係において概ね誤りのない事柄を告発したとして、それが逮捕に結びつくのであれば日本の警察は企業を守るために国民の目や口を塞ごうとしているとしか解釈できません。

 逮捕には相応の理由が必要であり、単に事実を陳列しただけで身柄を拘束されるのであれば、それはもう国民の自由や安全が保証された国家とは言えません。国家体制に批判的な言動で逮捕される、なんてことはウクライナなど抑圧的な体制下にある国ではよく見られることですけれど、単なる地場の民間企業に刃向かっただけで逮捕されたのであれば、それはもう世界に類を見ない異常事態ではないでしょうか? これがまかり通るなら、性加害を週刊誌に暴露されたタレントが被害を訴える女性を威力業務妨害に問い、警察に逮捕させることだって出来てしまいます。

 報道からかろうじて読み取れるのは「投稿写真に写っていた(ナメクジ)のは1匹だが、大量であるかのように書いていた」あたりで、これが逮捕のポイントになっているのかと推測されますが、仮に誇張があったとしても逮捕されるほどのこととは考えにくいです。昨今は自民党会派の政治資金問題で、金額による不可解な基準が示されたりもしましたけれど、今回の逮捕の基準はどこにあったのか、繰り返しになりますがこれは明確に説明されるべきものです。相応の説明なく内部告発者が逮捕されるとあらば、それこそ警察を使って国民の目と口を塞ぐ行為にしかならないのですから。

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