Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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植物観察)キバナヤセウツボ

2024-04-22 15:33:23 | 植物観察記録

キバナヤセウツボ(黄花痩靫)
Orobanche minor Sm. var. flava Regel
ハマウツボ科ハマウツボ属

ヤセウツボ(痩靫、Orobanche minor Sm.)の色違いの変種。ヤセウツボは、地中海沿岸を原産地とする無緑葉、一年草の寄生植物で、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、オセアニア、南北アメリカに広く移入分布、アフリカなどではマメ科作物に寄生して大きな被害を与えることがある。原産地では変異が大きく分類が確立していない。茎は直立して高さ15~40cm、上部にややまばらに花をつける。萼は左右2片に分かれ、左右それぞれも2裂、裂片の先端は尾状。花弁は唇形花冠を形成し、縁は不規則に切れ込む。おもにマメ科シャジクソウ属に寄生し、シロツメクサやムラサキツメクサの群生地に発生する。日本では、明治期以降に牧草として輸入されたシロツメクサやムラサキツメクサに紛れ込んで導入されたと考えられる。外来生物法で要注意外来生物に指定されている。

ヤセウツボは私の散歩道でもしばしば見かけるが、キバナヤセウツボは観音崎トンネル近くのある場所でのみ見られる。「神奈川県植物誌2018」には、横須賀市観音崎での採集報告が記録されていた。この場所ではヤセウツボも生育しており、いずれもムラサキツメクサに寄生している。Web上での写真投稿を見ると、キバナヤセウツボは、千葉県、茨城県、栃木県でも見られるようだ。Web投稿写真での神奈川県内撮影のものは、全てこの観音崎の個体群を写したのものと思われる。

ヤセウツボが宿主植物の認識に用いているストリゴラクトン受容体は、2023年に明治大学のグループによって同定された。
https://doi.org/10.1093/pcp/pcad026

 

2024年4月20日 神奈川県横須賀市観音崎公園

お詫び:
以前、本ブログのバイケイソウ以外の「植物観察記録」についてはFacebookに投稿するとしましたが、Facebookのアカウントを持っていない方にも見て頂けるように、同一内容の投稿をブログとFacebookの両方に出すことにしました。混乱させてしまい、申し訳ありません。

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論文)TCP13による避陰反応に類似した応答

2024-04-21 12:53:52 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis transcription factor TCP13 promotes shade avoidance syndrome-like responses by directly targeting a subset of shade-responsive gene promoters
Hur et al.  Journal of Experimental Botany (2024) 75:241–257.

doi:10.1093/jxb/erad402

TCP転写因子は、植物器官の発達だけでなく、環境シグナルに対する応答も制御している。シロイヌナズナには24のTCPファミリー遺伝子があり、大きく2つのクラスに分かれている。TCP5、TCP13、TCP17は1つのサブグループを構成しており、これらを過剰発現させた形質転換体は、通常は日陰で生育する芽生えで観察される長い胚軸と下偏生長した葉が生じる。これらの表現型から、このサブグループのTCPタンパク質は避陰反応(SAS)を活性化することが示唆される。これまでの研究で、TCP17はPHYTOCHROME-INTERACTING FACTOR(PIF)-オーキシン経路を制御することでSASを促進すること、TCP5はPIF4を含む他のPIFタンパク質と相互作用をしてPIFの安定化と転写活性を高めることが知られている。しかしながら、TCP13がSASの制御に関与しているかは明らかではない。韓国 淑明女子大学校のCheonらは、CaMV 35Sプロモーターの制御下でTCP13 を過剰発現する形質転換体は、葉が野生型植物よりも小さく、恒常的に下偏生長を示すこと、芽生えの胚軸は高R:FR比光下でも野生型植物よりも長くなることを見出した。TCP5TCP13TCP17 の単独変異体や二重変異体に大きな表現型の変化は見られなかったが、tcp5/13/17 三重変異株は、低R:FR光下で野生型植物よりも胚軸が短かくなった。TCP5 またはTCP17 の過剰発現系統も、恒常的に胚軸が伸長することから、TCP5、TCP13、TCP17は冗長的に作用して胚軸伸長を促進しており、TCP13はSASまたはSAS様の応答を促進していることが示唆される。TCP13 の発現は日陰処理をしても変化しなかったが、TCP13タンパク質は日陰処理や暗処理によって安定性が低下した。TCP5とTCP17タンパク質も暗処理で不安定化したが、日陰処理では安定性に変化は見られなかった。PIF4は、光条件下で不安定化するが、TCP13 過剰発現系統では光条件による安定性の変化が見られなかった。これらの結果から、TCP13は過剰な光応答を緩和する非干渉性のフィード・フォワード・ループの構成要素であることが示唆される。TCP13 過剰発現系統および日陰処理植物のRNA-seq解析から、TCP13によって発現制御を受ける1370遺伝子、日陰処理により発現量が変化する2503遺伝子が見出された。TCP13によって制御される遺伝子のうち477遺伝子は、日陰処理によっても制御されており、そのほとんどはTCP13と日陰処理によって同じ方向に制御されていた。日陰処理はPIFタンパク質を安定化してオーキシン生合成を活性化し、胚軸伸長や下偏生長を促進している。遺伝子オントロジー(GO)解析を行なったところ、TCP13が制御する遺伝子と日陰処理が制御する遺伝子は、いくつかのGO用語が共通して増加したが、オーキシン関連のGO用語は、日陰処理で活性化された遺伝子でのみ増加しており、TCP13によって制御される遺伝子にはオーキシン関連のGO用語は見られなかった。また、エンリッチメント解析(GSEA)から、TCP13によって制御される遺伝子にはオーキシンが発現を制御している遺伝子が見られないが、オーキシンシグナル伝達遺伝子は日陰処理によって活性化されることが確認された。これらの結果から、TCP13は、日陰処理とは異なり、オーキシンシグナル伝達を活性化しないことが示唆される。また、TCP13が制御する遺伝子の中には、PIFによって発現が制御される遺伝子も見られなかった。これらのことから、TCP13は日陰処理のようにPIF-オーキシンシグナル伝達を活性化するのではなく、むしろSAS様の応答を促進していることが示唆される。一方で、SAUR19 を含む幾つかののSAUR 遺伝子がTCP13によって優先的に活性化され、日陰処理は多くのSAUR 遺伝子の発現を活性化していることが判った。SAUR 遺伝子は、オーキシンシグナル伝達の下流または独立に細胞伸長を促進することが知られている。TCP13によって活性化される3つのSAUR 遺伝子(SAUR19SAUR21SAUR66)のプロモーター領域には、TCP結合配列と推定される配列があり、TCP13は光条件に関係なくこれらのSAUR 遺伝子プロモーターに直接結合することが確認された。これらのSAUR 遺伝子の活性化がTCP13 過剰発現系統での胚軸伸長の唯一の原因であると結論づけることはできないが、TCP13は、日陰処理のようにPIF-オーキシンシグナル伝達経路を活性化することなく、SAS様応答を引き起こしていることが示唆さる。トランスクリプトーム解析からは、TCP13と日陰処理がフラボノイド生合成遺伝子の発現を抑制することが示されており、野生型植物では日陰処理によってアントシアニン量が減少すること、TCP13 過剰発現系統では高R:FR比光下でもアントシアニン量が低い状態にあることが確認された。フラボノイド生合成遺伝子プロモーター領域にはPIFタンパク質やTCPタンパク質の結合部位がみられ、TCP13とPIF4はこれらの配列をターゲットして遺伝子発現を抑制しいていることが判った。以上の結果から、TCP13は、PIF-オーキシンシグナル伝達経路を活性化してはおらず、日陰応答遺伝子の一部を直接標的とすることで避陰反応に類似した応答を促進していると考えられる。

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論文)葉で発現するmRNAによる花分裂組織の分化

2024-04-18 11:13:30 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis leaf-expressed AGAMOUS-LIKE 24 mRNA systemically specifies floral meristem differentiation
Huang et al.  New Phytologist (2024) 241:504-515.

doi: 10.1111/nph.19293

シロイヌナズナのMADS-box転写因子 AGAMOUS-LIKE 24(AGL24)は、花序分裂組織の分化に関与していることが知られている。AGL24 mRNAは、栄養生長組織、生殖生長組織の何れにおいても蓄積しているが、葉で発現したAGL24 mRNAが茎頂に移動して分裂組織の分化を制御していると考えられている。しかしながら、このような移動性mRNAが、発現組織ではなく受容組織特異的に機能する機構については明らかとなっていない。台湾 中央研究院植物暨微生物學研究所Yuらは、AGL24 プロモーター制御下でGUS を発現する形質転換シロイヌナズナの組織化学的解析から、GUS活性は胚軸や子葉維管束、葉、根などの栄養生長組織で検出され、芽生えから成熟個体までの全ての発生段階において観察されることを見出した。また、花成期には、GUS活性は葉の維管束で観察された。これらの結果は、葉で発現したAGL24 mRNAが茎頂に輸送され、分裂組織の分化を規定するという仮説と一致している。葉で発現するAGL24 が花分裂組織形成に関与しているのかを明らかにするために、人工miRNA(amiRNA)を組織特異的に発現させた形質転換体を用いて解析を行なった。agl24 変異体はわずかに花成が遅れ、soc1 svp 二重変異体は正常な花をつけるが、agl24 soc1 svp 三重変異体は花器官に異常が見られる。soc1 svp 二重変異体において、AGL24 amiRNA(AGL24-amiR)をGALACTINOL SYNTHASE 1GAS1)プロモーター制御下で成熟葉の葉脈特異的に発現(GAS1pro:AGL24-amiR)、もしくはSUCROSE TRANSPORTER 2SUC2)プロモーター制御下でコンパニオン細胞特異的に発現(SUC2pro:AGL24-amiR)させると、agl24 soc1 svp 三重変異体と類似した花構造となることが判った。このことから、葉で発現するAGL24 が花器官形成に必要であることが示唆される。AGL2435S プロモーター制御下で過剰発現(35S:AGL24)させると、花成が促進され、花器官に異常が生じる。SUC2pro:AGL24 またはGAS1pro:AGL24 を導入して、葉特異的にAGL24 を発現させた形質転換体は、35S:AGL24 形質転換体と同様に早期花成と花器官の異常を示した。AGL24は、茎頂においてMADS-box転写因子遺伝子SEPALLATA3SEP3)の発現を抑制しており、AGL24-amiR を発現させた形質転換体の茎頂ではSEP3 転写産物量が増加し、SUC2pro:AGL24GAS1pro:AGL24 を導入した形質転換体では減少していた。萼片の表皮細胞を走査型電子顕微鏡で観察すると、巨大細胞が小さな細胞の間に点在する特徴的なパターンが観察され、巨大細胞と小細胞の表面は微細な隆起で覆われている。しかし、35S:AGL24 形質転換体の萼片表皮には、微細隆起がなく、葉の表皮で観察されるようなジグソーパズル状の細胞が観察され、細胞運命が転換していた。そして、SUC2pro:AGL24 およびGAS1pro:AGL24 形質転換体の萼片表皮は、微細隆起に覆われた巨大細胞と隆起のないジグソーパズル状の細胞の両方が観察され、細胞運命が部分的に変化していた。これらの結果から、葉で発現するAGL24 は、非細胞自律的に作用して花器官の細胞運命に影響していることが示唆される。AGL24 mRNAが移動しうるのかを接ぎ木試験によって調査した結果、野生型植物の台木にagl24 変異体の穂木を接ぐと穂木でAGL24 mRNAが検出されること、非移動性のGFP mRNAを付加したAGL24GFP-AGL24)を発現するコンストラクト(35S:GFP-AGL24SUC2pro:GFP-AGL24)の台木に野生型植物の穂木を接ぐと穂木でGFP-AGL24 mRNA化検出されることが確認された。予想外なことに、35S:GFP-AGL24 形質転換体、SUC2pro:GFP-AGL24 形質転換体の葉でGFP-AGL24 mRNAが高蓄積していることが確認されたが、GFP蛍光は検出できなかった。しかし、SUC2pro:GFPAGL24 形質転換体の花茎頂ではGFP蛍光を検出した。したがって、AGL24タンパク質は茎頂で選択的に蓄積し、葉では蓄積しないことが示唆される。35S:GFP-AGL24 形質転換体の切り葉を26Sプロテアソーム阻害剤MG132で処理したところ、GFP蛍光が検出された。したがって、葉で翻訳されたAGL24はプロテアソーム系によって直ちに分解されると考えられる。このことを確認するためにベンサミアナタバコを用いた一過的発現解析を行なったところ、35S:GFP を発現させた際にはGFP蛍光が検出されたが、35S:GFP-AGL24 を発現させた際には検出されなかった。AGL24タンパク質はMIKC型MADS-box転写因子であり、N末端MADSドメイン、中間ドメイン、ケラチン様ドメイン、C末端ドメインから構成されている。GFPを融合させたAGL24タンパク質断片をベンサミアナタバコで発現させてGFP蛍光を観察した結果、葉におけるAGL24タンパク質の速やかな分解にMADSドメインが関与していることが判った。以上の結果から、葉で発現したAGL24 mRNAが茎頂に移動して花の形成を制御していること、葉で翻訳されたAGL24タンパク質は26Sプロテアソーム系によって速やかに分解されるとこが判った。AGL24 の発現は、光、植物ホルモン、春化の影響を受けるので、葉から茎頂へのAGL24 mRNAの移動は、花分裂組織の発達を調整するために葉が感知する様々な環境シグナルを統合している可能性がある。

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論文)シュート由来マイクロRNAによる側根形成の制御

2024-04-14 12:24:12 | 読んだ論文備忘録

A micro RNA mediates shoot control of root branching
Sexauer et al.  Nature Communications (2023) 14:8083.

doi:10.1038/s41467-023-43738-6

ドイツ エバーハルト・カール大学テュービンゲンMarkmann(現所属 ユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルク)らは、以前に、ミヤコグサ(Lotus japonicus)のシュート由来篩部移動性マイクロRNA miR2111が根粒菌の共生感染と根粒形成を制御していることを明らかにした。 miR2111は、根で発現して根粒菌との共生を抑制しているF-Box Kelch- repeat遺伝子TOO MUCH LOVETML)を標的としている。今回は、miR2111の機能について、根系構築の制御における可能性について解析を行なった。pUBQ1::MIR2111-3 を導入することにより成熟miR2111を恒常的に過剰発現させた形質転換ミヤコグサの表現型を解析したところ、野生型植物よりも側根の発生が少ないことが判った。pUBQ1::MIR2111-3 を発現させたシュートを野生型植物の根に接いだところ、根のmiR2111量が増加し、側根発生量が減少した。よって、シュートのmiR2111が根に移行して側根の数を制御していると考えられる。また、この接ぎ木植物では対照よりもTML 転写産物量が減少していた。tml 変異体は、野生型植物よりも側根の発生が少なく、pUBQ1::MIR2111-3 導入系統と同等の表現型を示すことから、側根制御におけるmiR2111活性の主な標的はTML であることが示唆される。Crispr-CAS9で作出したmir2111-3-1 変異体は、野生型植物と比較してmiR2111量が少なく、TML 転写産物量が多く、側根数が増加していた。また、野生型植物の根にmir2111-3-1 変異体のシュートを接いだ場合も、対照と比べて側根発生が促進された。したがって、シュート由来のmiR2111は、TML を介した側根誘導の制御において十分かつ必要であることが示唆される。ミヤコグサは、何れのエコタイプにおいても、窒素飢餓によって側根数が増加した。一方、側根原基数は、硝酸塩が十分な条件下で多くなっていった。また、成熟miR2111量は、シュートと根の両方において硝酸量と負の相関を示し、全身的な窒素応答シグナルの関与が示唆される。根のTML 転写産物量は、miR2111量とは逆のパターンを示し、窒素飢餓の際にはmiR2111によってTML が抑制されると考えられる。この窒素飢餓応答性は、エコタイプで異なり、Gifu B-129系統よりもMG-20系統で強く現れた。miR2111過剰発現形質転換体およびtml 変異体は、野生型植物と比較して側根数が一貫して少なく、硝酸塩の影響を受けなかった。MIR2111-3 を過剰発現させたシュートをMG-20系統の根に接いだところ、硝酸塩に応答した側根形成が喪失した。このことは、シュート由来のmiR2111がこの応答を効率的に抑制していることを示唆している。Gifu B-129系統では、硝酸塩に応答したTML 転写産物量の減少が見られず、このことがGifu B-129系統の窒素飢餓応答性の低さをもたらしていると考えられる。これらの結果から、miR2111-TMLレギュロンは、硝酸塩に応答した側根の誘導と出現に関与しており、miR2111は側根原基形成の抑制因子として機能し、TMLは活性化因子として機能すると考えられる。また、硝酸に依存した側根原基出現の制御にTML は必要ではあるが、TML 転写産物量とは相関してはおらず、硝酸に応答した側根原基出現の制御にはさらなる因子が関与していることが示唆される。植物体の根を2つに分けて硝酸を添加したした培地と添加していない培地で生育すると、窒素飢餓培地上で生育している根のmiR2111量も低下した。このことは、miR2111の蓄積は、硝酸飢餓ではなく、硝酸充足によって全身的に抑制されることを示唆している。この時、両者の根のTML 転写産物量は相補的ではあるが中間的であることから、TML 量はさらなる調節因子の影響を受けている可能性がある。興味深いことに、野生型植物とtml 変異体は根粒菌共生感染によって側根発生が減少する。よって、共生条件下ではmiR2111-TML依存的な側根原基制御に、TML非依存的な制御が重なっていることが示唆される。シロイヌナズナには、ミヤコグサLjmiR2111a と同じアイソフォームを生成する2つのMIR2111 前駆体遺伝子座(MIR2111a/b)がある。また、TML オルソログと推定される遺伝子が1つ見つかり、コード配列中にmiR2111相補部位を持つことから、これをHOMOLOGUE OF LEGUME TMLHOLT)と命名した。ミヤコグサと同様に、シロイヌナズナの側根発生数は窒素供給量に依存しており、1 mM 硝酸塩付近で最大となり、飢餓または飽和条件下で生育すると側根発生数が減少した。miR2111 を35Sプロモーター制御下で過剰発現させた形質転換シロイヌナズナ(2111ox)は、HOLT 転写産物量が減少した。holt 変異体および2111ox は、野生型植物と比較して、低濃度(0.1 mM)および中濃度(1 mM)の硝酸塩条件下での側根の発生が有意に減少した。野生型植物のmiR2111量は硝酸塩濃度と正の相関があり、硝酸塩供給量が多いときにHOLT 量は低下した。また、HOLT 量は側根発生数と正の相関があった。2111ox と野生型植物の接ぎ木試験から、miR2111は側根形成の制御因子として作用し、移動可能であることが確認された。以上の結果から、シュート由来のマイクロRNA miR2111は、根系の構築と側根数の制御における重要な因子であると考えられる。

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論文)新たに見出された細胞外オーキシン受容体

2024-04-07 10:27:13 | 読んだ論文備忘録

ABLs and TMKs are co-receptors for extracellular auxin
Yu et al.  Cell (2023) 186:5457-5471.

doi:10.1016/j.cell.2023.10.017

Auxin-binding protein 1(ABP1)は、膜貫通型キナーゼ(TMK)の細胞外ドメインとオーキシン依存的に物理的に相互作用し、細胞外オーキシン受容体として働くことが知られている。しかしながら、シングルコピーのABP1 遺伝子をノックアウトしたシロイヌナズナに明らかな形態異常が見られないことから、その役割については論争が続いていた。一方で、機能的に冗長な4つのTMK 遺伝子をすべてノックアウトすると、シロイヌナズナの胚や芽生えの致死を含む様々な表現型が誘導される。中国 福建農林大学のYangらは、TMKとともに細胞外オーキシンを感知するABP1以外の細胞外ABPが存在すのではないかと考えた。そこで、TMKと相互作用する他のABPの存在を確認するために、まず、オーキシン結合とオーキシンによるTMK1との相互作用を低下させるH94Y変異を持つABP1-5abp1 変異体で発現させ、その影響を調べた。その結果、ABP1-5;abp1 は、ABP1;abp1 や野生型植物とは異なり、tmk1;tmk2;tmk3;tmk4 四重変異体と類似した様々な生長・発達異常表現型を示し、オーキシン応答性が損なわれていることが判った。このことから、ABP1-5タンパク質の蓄積は、TMKが調節するオーキシン応答に影響を与え、おそらくABP1の欠損を機能的に補う他のABPに対してドミナントネガティブな効果をもたらすことが示唆された。アミノ酸配列のホモロジー検索からはABP1 遺伝子ホモログは見出されなかったので、免疫沈降解析によりTMK1と相互作用するタンパク質の探索を行なったところ、ABP1が属するGLPファミリーのメンバーが見出され、これをABP1-like protein 1(ABL1)と名付けた。ABL1AT1G72610)とその近縁ホモログABL2AT5G20630)は、それぞれ208残基と211残基のポリペプチドをコードしており、互いに高いアミノ酸配列類似性(64.42%の同一性)があった。ABL1とABL2は、ABP1との類似性は低い(それぞれ26.26 %と18.44 %)が、オーキシン結合に関与すると予測されるアミノ酸残基を持つ保存された金属イオン結合モチーフを有していた。また、ABL1とABL2のAlphaFoldによるタンパク質立体構造シミュレーションでは、ABP1に非常に類似した立体構造が予測された。さらに、ABL1およびABL2タンパク質の構造に基づくブラインド・ドッキングにより、ABP1と同様にオーキシン結合モチーフが保存されていることが予測され、ABL1およびABL2が新たなABPとして機能する可能性が示唆された。免疫電顕観察により、ABL1はアポプラストに局在することが確認され、共免疫沈降(coIP)アッセイや蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)解析により、TMK1の細胞外ドメインとABL1/ABL2は植物細胞において複合体を形成し、この相互作用はオーキシン濃度に依存して高まることが判った。ABL1/2の機能喪失による表現型の変化を観察したところ、abl1 変異体、abl2 変異体では、生長・発達において明確な異常は見られなかったが、abl1/2 二重変異体では、芽生えが矮化し、葉の湾曲、敷石細胞の形状の変化など、明らかな形態異常がみられ、ABL1とABL2の機能重複が示唆された。abp1;abl1 二重変異体は明らかな表現型の変化を示さなかったが、abp1;abl2 二重変異体の芽生えはわずかな生長低下を示した。abp1;abl1/2 三重変異体は、abl1/2abp1;abl1abp1;abl2 の各二重変異体のいずれよりも重篤な生長・発達障害を示し、ABP1がABL1/2を介する過程に寄与していることが示唆された。三重変異体の生長障害は、pABL1::ABL1 を導入することでほぼ完全に相補されたが、pABP1::ABP1 またはpABL1::ABP1 の導入では部分的に相補された。さらに、葉の湾曲などのいくつかの表現型は、pABP1::ABP1 でもpABL1::ABP1 でも相補されなかったが、pABL1::ABL1 では完全に相補された。これらの結果から、冗長的に作用するABL1とABL2は、ABP1と機能重複してはいるが、ABP1とは独立した生理機能も持っていることが示唆される。abp1;abl1/2 三重変異体は、ABP1-5;abp1tmk1;tmk2;tmk3;tmk4 四重変異体に類似したオーキシン応答性の欠損を示し、ABL1/2は植物の生長・発達とオーキシンシグナル伝達においてABP1と機能重複していると考えられる。abp1 変異体、abl1 変異体、abp1;abl1 二重変異体と、軽度の生長障害を示すtmk1-/+;tmk4 ヘテロ接合二重変異体をそれぞれ交配して変異を集積した変異体の表現型を解析し、ABP1、ABL1が、植物の発達とオーキシン応答の制御においてTMK1、TMK4と遺伝的に相互作用することが確認された。よって、ABLs/ABP1とTMKは、オーキシン応答の制御において同じ経路で作用していると考えられる。オーキシン結合アッセイから、ABL1タンパク質はIAAやNAAと結合し、オーキシン結合モチーフが変異したABL1-M2は結合しないことが確認された。ABP1-5やABL1-M2をabp1;abl1/2 三重変異体で発現させても生長障害が相補されないことから、ABP1、ABL1がオーキシンと結合することは生理機能にとって必要であることが示唆される。TMK1タンパク質細胞外ドメイン(TMK1-ex)もオーキシンと直接結合し、TMK1-exとABP1またはABL1の混合物は、ABP1/APL1またはTMK1-ex単体と比較してオーキシン親和性が高く、TMK1とABP1/APL1は相乗的なオーキシン結合を示した。このことから、ABL1/ABP1とTMKは、アポプラストのオーキシンコレセプターとして作用していると考えられる。以上の結果から、今回新たに見出されたABL1とABL2は、ABP1と重複するが異なる機能を持ち、TMKとともに細胞外オーキシンのコレセプターとして機能していると考えられる。

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論文)オーキシンによる胚軸伸長制御におけるアブシジン酸の関与

2024-04-02 14:54:01 | 読んだ論文備忘録

Abscisic acid biosynthesis is necessary for full auxin effects on hypocotyl elongation
Emenecker et al.  Development (2023) 150:dev202106.

doi:10.1242/dev.202106

オーキシンは、状況に応じて細胞増殖を促進したり抑制したりする。細胞拡大を促進するオーキシン濃度には最適な範囲が存在し、オーキシン濃度が最適を超えると細胞拡大が抑制される。米国 デューク大学Straderらは、シロイヌナズナ変異体集団の中から、暗黒下で育成した芽生えのインドール-3-酪酸(IBA)処理による胚軸伸長阻害に対して抵抗性を示す変異体を単離した。このうちのhypocotyl resistant 12(HR12)は、IBA以外のインドール-3-酢酸(IAA)、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、2,4-ジクロロフェノキシ酪酸(2,4-DB)による胚軸伸長阻害に対しても抵抗性を示した。このことから、HR12の欠損は胚軸のオーキシン応答性に影響を与えていることが示唆される。HR12の原因変異を同定するために、変異体の戻し交雑F3世代のバルクDNAの全ゲノムシークエンスを行ない、アブシジン酸(ABA)生合成経路の最終過程を触媒するABSCISIC ALDEHYDE OXIDASE 3(AAO3)をコードするAt2g27150 に未成熟終止コドンをもたらす変異を見出した。この変異(aao3-12 と命名)がHR12に見られるオーキシン抵抗性の原因であるかどうかをさらに調査し、aao3 変異の他の複数の対立遺伝子が黄化芽生えの胚軸伸長におけるオーキシン感受性を低下させ、これらの対立遺伝子は互いに相補的でないこと、野生型AAO3 を導入することでaao3-12 変異表現型が相補されること見出した。よって、HR12(aao3-12)におけるオーキシン応答の欠損は、AAO3の機能低下に起因すると考えられる。AAO3はABA生合成経路の酵素なので、ABA生合成の阻害がaao3-12 変異体に見られるオーキシン抵抗性を引き起こすのであれば、ABA生合成経路の他の過程に欠損を持つ変異体も胚軸伸長のオーキシン抵抗性を示すはずだと考え、ABA DEFICIENT 2ABA2)とABA DEFICIENT 3ABA3)のT-DNA挿入変異体について解析を行なった。その結果、ABA2ABA3 のどちらの変異体もオーキシン抵抗性を示した。また、ABAシグナル伝達の変異体abi1-1 も部分的にオーキシン抵抗性示した。したがって、ABAの生合成と応答は、黄化芽生えの胚軸におけるオーキシンの効果に対する完全な感受性に必要であると考えられる。ABA生合成変異体は野生型植物よりも弱い程度にオーキシンに対して応答していることから、オーキシンによる胚軸伸長制御機構には、ABA依存的なものとABA非依存的なものが存在することが示唆される。黄化芽生えをオーキシン処理すると2時間後には内生ABA量の増加が確認された。また、aba2 変異体黄化芽生えのオーキシンによる胚軸伸長阻害は、ABA処理をすることで野生型植物と同等にまでに回復した。これらの結果から、ABAが黄化芽生え胚軸のオーキシン応答を調節していることが示唆される。野生型植物の芽生えを合成オーキシンpicloramで処理すると、明所で育成した芽生えでは胚軸伸長が促進され、暗黒下で育成した芽生えでは阻害される。picloram処理による明所育成芽生えの胚軸伸長促進は、aao3-12 変異体では野性型植物と同等に見られたが、ABA生合成が強く抑制されたaao3-4 変異体、aba2-3 変異体、aba3-1 変異体、gin1-3 変異体(ABA2 の変異体)では伸長促進の程度が弱くなっていた。また、aba2-3 変異体では育成温度の上昇による胚軸伸長促進が見られなかった。したがって、オーキシンによる胚軸伸長制御のABA依存性は芽生えを育成する光条件とは関係がないこと、ABA生合成変異体の胚軸伸長はオーキシンや温度上昇に対しての応答性が低いことが示唆される。芽生えの根はオーキシンによって伸長が阻害されるが、ABA生合成変異体の根のオーキシン感受性は野生型植物と同等であった。したがって、ABA生合成の変化は、胚軸伸長のオーキシン応答性のみ弱めている。RNA-seq解析の結果、黄化芽生えをオーキシン処理することによって発現量が変化する遺伝子(DEG)は、根とシュートの間で殆ど重複しておらず、オーキシンがこれら2つの組織において異なる効果を持つというモデルと一致していた。対照的に、ABA処理によって誘導されたDEGの多くは根とシュートで重複していた。ABA生合成の第一段階を制御している9-CISEPOXYCAROTENOID DIOXYGENASE(NCED)ファミリー遺伝子の転写産物の蓄積を調べたところ、NCED5 転写産物のみがオーキシン処理したシュートにおいて発現上昇しており、オーキシン処理によってシュートの内生ABA量が増加するという結果と一致していた。オーキシンとABAの転写に対する作用は、シュートでも根でもほとんど重複しておらず、多くの転写産物において相反する効果を示していた。オーキシン処理とABA処理で共通して発現量が低下している遺伝子に胚軸伸長に関連しているものは見られなかったが、発現上昇する遺伝子には胚軸伸長制御に関連するものが含まれており、例えば、胚軸伸長を抑制すると考えられているOVATE FAMILY PROTEIN 1AT5G01840OFP1)、SHI-RELATED SEQUENCE 5AT1G75520SRS5)、IAA METHYLTRANSFERASE 1AT5G55250、IAMT1)、胚軸伸長を促進すると考えられているSHORT HYPOCOTYL 1AT1G52830IAA6)、CYCLING DOF FACTOR 5AT1G69570CDF5)があった。これらの共通の標的は、ABAとオーキシンの処理による黄化芽生え胚軸伸長に対する共通のメディエーターである可能性がある。ABA生合成の欠損がオーキシンによって制御を受ける遺伝子の発現にどのように影響しているか解析するために、野生型植物とaba2-3 変異体の黄化芽生えシュートのRNA-seq解析を行なったところ、両者の間ではオーキシンの制御を受ける遺伝子の発現に顕著な違いがあり、オーキシン処理に応答して蓄積量が減少した野生型植物黄化芽生え胚軸の転写産物のうち、71 %はaba2 変異体でオーキシン応答性を示さなかった。逆に、野生型植物でオーキシン処理に応答して蓄積量が増加した転写産物のうち、aba2 変異体で応答性を示さなかった転写産物はわずか22 %であり、ABA生合成は胚軸においてオーキシンが発現を抑制している遺伝子に対して大きく影響していることが示唆される。したがって、オーキシンによる転写産物の蓄積量の制御は、野生型植物とaba2-3 変異体とでは異なっており、このことが野生型植物とaba2-3 変異体での生理作用の違いに反映されている可能性がある。aba2 変異体で特異的に発現量が変化するオーキシン誘導遺伝子には、細胞壁修飾、成長調節、細胞増殖、ホルモンへの応答、生合成過程の調節に関連するものが含まれていた。しかし、オーキシンによって蓄積量が増加する転写産物のほとんどは、aba2 変異体では変化していないので、オーキシンによる胚軸伸長の制御のある側面がABAの影響を受けており、ABAに完全に依存してはいないと考えられる。以上の結果から、オーキシンは、胚軸伸長制御のいくつかの側面においてアブシジン酸生合成に依存していると考えられる。

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植物観察)箱根

2024-03-28 14:14:48 | 植物観察記録

2024/03/28
箱根へバイケイソウの観察に行ってきました。今年、関東では3月後半に寒い日が続いており、その所為でしょうか、バイケイソウは地上部に出芽して葉の展開がようやく始まりだしたところでした。東京のソメイヨシノの開花予想は平年より5日遅い3/29頃となっています。これは、昨年11月から1月にかけての気温が高かったため、休眠打破が遅れたことによるものとのことなので、ひょっとしたら、バイケイソウの出芽の遅れも休眠打破の遅れが原因かもしれません。2023年に一斉開花した個体からは新しい子ラメット(わき芽)が1~3個形成されます。2023年開花個体の新規形成子ラメット数は、1個の個体から3個の個体までほぼ均等に見られました。したがって、昨年の一斉開花によって集団内の個体数が2倍に増えるクローン繁殖をしたことになります。実生が花成するまでに数十年かかるといわれているバイケイソウにとって、花成後のクローン繁殖は個体数増加の大きな手段の1つとなっています。

 

標高が高い群生地?では、出芽はしてはいるが葉の展開は見られない。

 

標高なのか、林床の明るさなのか、栄養状態の違いなのか、この群生地の個体は葉が展開し始めた。

 

こちらの群生地では葉がさらに展開。

 

左側は2023年花成個体から出芽した3つの子ラメット。右側の株は、左の個体群の親と同じ時期に形成された兄弟ラメットで、2023年には花成しなかったものと思われる。

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論文)フィールド試験で判ったMAX2の新たな機能

2024-03-26 16:10:27 | 読んだ論文備忘録

Field-work reveals a novel function for MAX2 in a native tobacco's high-light adaptions
Li et al.  Plant Cell Environ(2024)47:230–245.

doi:10.1111/pce.14728

ストリゴラトン(SL)とカリキン(KAR)のシグナル伝達は、非生物的および生物的ストレスに対する応答を媒介し、植物の形態や成長を制御していることが報告されている。しかし、それらの研究の大半は、温室や実験室環境で行われたものであり、自然環境においてSLシグナルやKARシグナルが果たす役割は明らかとなっていない。ドイツ マックス・プランク化学生態学研究所Baldwinらは、SLとKARの生態学的機能を理解するために、SL受容体のDWARF 14(D14)、KAR受容体のKARRIKIN INSENSITIVE 2(KAI2)、SLとKARのコレセプターであるMORE AXILLARY GROWTH2(MAX2)がRNAiによってサイレンシングされた野生タバコ(Nicotiana attenuata)のトランスジェニック系統(irD14、irKAI2、irMAX2)をアメリカ ユタ州 グレートベースン砂漠の圃場で4シーズン(2018~2021)栽培し、表現型を観察した。その結果、irMAX2は、対照と比較して、より小さく、より繁茂し、一次枝の数が多くなることが判った。しかも、irMAX2の葉は、クロロフィルa/b含量が有意に減少し、重度の白化を示した。しかし、irD14、irKAI2およびirD14とirKAI2の交配系統(irD14 × irKAI2)では、このような白化は見られなかった。D14およびKAI2はそれぞれSLおよびKARのレセプターであることから、MAX2はSLおよびKARシグナルとは独立して白化表現型を制御していることが示唆される。さらに、irMAX2の葉は葉食動物によってより激しく食害され、irMAX2の葉での傷害誘導ジャスモン酸(JA、JA-Ile)放出は対照葉よりも有意に低かった。一方、irD14、irKAI2、irD14 × irKAI2の草食動物抵抗性は対照と同等であった。これらの結果から、圃場育成野生タバコにおいてMAX2 をサイレンシングすると、SLシグナルやKARシグナルとは無関係に、葉の白化、植物体成長の低下、草食動物抵抗性の低下が生じることが推察される。白化したirMAX2の葉は、デンプンと可溶性糖類の含量が著しく低下し、アミノ酸含量が増加していた。各系統の葉を用いてマイクロアレイ解析を行ない、irMAX2で発現量が変化する遺伝子のGO用語の強度を計算したところ、発現上昇した遺伝子は、熱、光強度、酸化ストレスに対する応答に関連する過程のものに富み、発現低下した遺伝子は、栄養飢餓応答に関連するもの富んでいることが判った。これらの結果から、irMAX2の葉の白化表現型の原因として、熱と栄養飢餓が考えられる。そこで、irMAX2の葉の元素成分分析を行なったが、対照との差異は認められず、養分欠損がirMAX2の葉の白化の原因ではないと思われる。また、実験室環境での高温(35℃)育成で、irMAX2の葉は白化せず、クロロフィル含量も対照と同等であったことから、圃場育成irMAX2の葉の白化は、熱のみによるものではないことが示唆される。トランスクリプトームデータにおいて、irMAX2の葉では酸化ストレスと高光強度に応答する遺伝子が発現上昇しており、砂漠の光環境の特徴である高いUV-Bまたは光合成有効放射(PAR)量が、葉の白化の原因である可能性がある。そこで、植物体に照射するUV-BまたはPAR量を制御して解析した結果、UV-Bの照射量だけではirMAX2の葉の白化は起こらないこと、PAR量を温室と同程度に下げると白化した葉の緑色が戻ること、温室で育成しているirMAX2に補光して高いPAR量を照射すると葉が白化することが判った。これらのことから、高PAR光への暴露によってirMAX2の葉の白化が起こったものと思われる。白化したirMAX2の葉の光合成能力を示す指標はいずれも低かったが、温室で育成したirMAX2の光合成能力は対照と同等であった。これらの結果から、irMAX2の白化表現型と光合成能力の低下は、高PAR光が原因であると思われる。強光ストレスは一連の酸化反応を引き起こし、ルテイン、ゼアキサンチン、β-カロテンなどの抗酸化物質が光による酸化ダメージから植物細胞を守ることが知られている。圃場で育成したirMAX2の葉はルテイン含量が低く、このことがirMAX2の葉の強光ストレスに対する感受性に寄与していることが示唆される。圃場栽培したirMAX2の葉は、強光応答遺伝子(ELIP1ELIP2)、一重項酸素応答遺伝子(WRKY33WRKY40-1WRKY40-2)、H2O2触媒・応答遺伝子(SODAPX2ZAT10)の転写産物量が上昇しており、日陰処理をすることでこれらの遺伝子の転写産物量は対照と同等にまで減少した。しかし、細胞死に関連した兆候は見られなかった。以上の結果から、MAX2 をサイレンシングさせた野生タバコは、温室で育成した際にはバイオマスが増加するが、強光の圃場条件下で育成すると、温室とは真逆の表現型を示し、クロロフィル含有量と光合成能力を減少させ、ルテイン含量を減少させ、活性酸素応答を増加させることによって活力を低下させると考えられる。

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論文)芽生え胚軸の光方向感知機構

2024-03-24 15:01:15 | 読んだ論文備忘録

Air channels create a directional light signal to regulate hypocotyl phototropism
Nawkar et al.  Science (2023) 382:935-940.

doi:10.1126/science.adh9384

スイス ローザンヌ大学Fankhauserらは、シロイヌナズナ芽生えから光屈性が低下した変異体を選抜し、胚軸が透明な変異体を単離した。この変異の原因遺伝子は、ABC-2タイプトランスポーターファミリータンパク質をコードするATP-BINDING CASETTE G5ABCG5)であることが確認された。この変異体における光屈性の低下は、光透過が促進されることで胚軸上部の光勾配が浅くなることによって引き起こされるのではないかと考え、abcg5 変異体と同じく胚軸が透明な2つのcristal 変異体(cri7cri8)と光屈性を比較した。この3つの変異体は胚軸の光透過性が高く、一方向からの青色光照射に対して、野生型植物は光屈性を示したが、3つの変異体は成長方向がバラバラで、青色光受容体が機能喪失したphot1 変異体は無反応であった。abcg5 変異体の胚軸は、重力に対する応答性は正常であった。よって、胚軸が透明であることは、光の方向に反応する能力の変化と関連していると考えられる。abcg5 変異体の光屈性の欠損は、光強度が弱くても強くても、双方向光照射のような複雑な光環境においても観察された。このような明らかな光屈性欠損があるにもかかわらず、光を感知してから数分以内に起こるphot1を介したターゲットタンパク質のリン酸化はabcg5 変異体でも観察され、青色光による胚軸伸長阻害も正常に起こった。しかし、abcg5 変異体では胚軸を横断するオーキシン勾配が形成されなかった。このことから、abcg5 変異体の光屈性欠損は、初期のフォトトロピンシグナル伝達段階ではなく、胚軸全体に光勾配を形成する能力の低下によるものであると考えられる。abcg5 変異体の透明性は胚性器官(根、胚軸、子葉)に限られ、本葉等の他の植物器官は透明ではなかった。また、abcg5 変異体の葉柄は野生型植物と同じように光屈性を示した。ABCG5 遺伝子は発達中の胚で強く発現しており、芽生えでは有意な発現は見られなかった。これらの結果から、abcg5 変異体は芽生え特異的に光屈性欠損を示し、これは胚軸の透明性に起因すると思われる。ABCG5は子葉のクチクラ形成に関与していることが報告されているが、胚軸のクチクラは野生型植物とabcg5 変異体の間で大きな差異は見られなかった。また、野生型植物とabcg5 変異体の胚軸細胞壁の厚さや、黄化芽生え可溶性粗抽出液の吸収スペクトルに差異は見られなかった。したがって、abcg5 変異体における胚軸の透明性は、クチクラや細胞壁の厚さ、可溶性色素の違いによるものではないと考えられる。明所で育成したしたabcg5 変異体芽生えや切取った根や胚軸は水に沈み、空気含有量が減少していることが示唆された。また、abcg5 変異体の胚の密度は野生型植物よりも高くなっていた。空気チャネル(air channels)は、胚や胚軸の皮層細胞間や皮層と表皮細胞の間の三細胞接合部の細胞間空隙において見られる。黄化芽生え胚軸の横断面を電子顕微鏡で観察したところ、表皮細胞と皮層細胞によって生成される三細胞接合部の空隙が、野生型植物では空いていたが、abcg5 変異体では繊維状の構造物で埋まっていた。また、野生型植物では、空隙を取り囲む細胞壁の外側に明確な電子密度の濃い層が並んでいたが、abcg5 変異体では、この層は拡散し、不均一で、時には存在していなかった。さらに、3次元非破壊X線マイクロトモグラフィーによる観察を行なったところ、野生型植物では長軸方向に空気チャネルが検出されたが、abcg5 変異体では検出されなかった。これらの結果から、野生型植物とabcg5 変異体の光透過率の違いは、細胞間隙の空気の存在の有無で説明できることが示唆される。そこで、空気チャネルの役割を明らかにするため、シロイヌナズナの胚軸、葉(葉柄と葉身)、アブラナ(Brassica rapa)の胚軸、ミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon)の葉柄に水を浸透させたところ、光透過性が向上することが判った。よって、細胞間隙の空気は組織を通過する光の透過を制限することに寄与していることが示唆される。次に、シロイヌナズナと、それよりも10倍以上大きいアブラナの芽生えを用いて実験を行なったところ、両種とも水浸潤によって光屈性は低下したが、重力屈性は低下しなかった。これらの結果から、芽生えの光屈性には細胞間隙空気チャネルが必要であると考えられる。芽生えの光学的特性を詳細に調査したところ、abcg5 変異体芽生えは野生型植物よりも多くの光を透過すること、野生型植物の空隙に水を浸潤させることでabcg5 変異体と同様の光学特性を示すことが判った。対照的に、abcg5 変異体に水を浸潤させても光学的性質に有意な変化は起こらなかった。したがって、abcg5 変異体および浸潤させた野生型植物芽生えでは、拡散透過光、反射光、拡散反射光が減少している。解析の結果、空気チャネルが光散乱に寄与し、それによって胚軸全体の光透過性を制限していることが判った。蛍光標識したPHOT1(PHOT1-GFP)を発現させた系統の解析から、PHOT1 は皮質細胞で強く発現し、野生型植物では、細胞間空隙の細胞膜に沿ってGFPシグナルのギャップが見られたが、abcg5 変異体では観察されなかった。また、胚軸の光照射側と日陰側で形成されるGFP蛍光シグナルの勾配は、abcg5 変異体や浸潤芽生えよりも野生型植物の方が有意に急であった。これらの結果から、空気チャネルは光の散乱を促進し、その結果、一方向から照射された胚軸を横切る光の勾配を強くしていることが示唆される。以上の結果から、胚で発現するABCトランスポーター遺伝子ABCG5 は、芽生えの空気チャネルの形成に必要であり、空気チャネルは芽生えの光の方向感知にとって重要であると考えられる。

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論文)リン欠乏に応答したイネの形態と栄養素利用変化の分子機構

2024-03-18 17:18:08 | 読んだ論文備忘録

Low phosphorus promotes NSP1–NSP2 heterodimerization to enhance strigolactone biosynthesis and regulate shoot and root architecture in rice
Yuan et al.  Molecular Plant (2023) 16:1811-1831.

doi:10.1016/j.molp.2023.09.022

リンは、植物の成長、発達、代謝とって重要な栄養素の一つであり、植物はリンの大部分を無機リン酸塩(Pi)として吸収する。イネは、Pi欠乏に応答して、分けつ数の減少、主根の伸長と側根数減少といった形態変化を起こす。この過程には、Pi欠乏シグナルを伝達する転写因子Oryza sativa PHOSPHATE STARVATION RESPONSE2(OsPHR2)が関与していることが知られている。また、Pi欠乏はストリゴラクトン(SL)の生合成を強く誘導する。中国科学院 遺伝与発育生物学研究所のWangらは、イネプロトプラストを用いた実験から、OsPHR2およびOsPHR1は、SL生合成を促進するGRASファミリー転写因子遺伝子のNODULATION SIGNALING PATHWAY1NSP1)およびNSP2 の転写を活性化することを見出した。CRISPR-Cas9によって作出したNSP1NSP2 の機能喪失変異体やユビキチンプロモーター制御下でNSP1NSP2 を過剰発現させた形質転換体の解析から、NSP1、NSP2はPi欠乏条件での分けつ数の減少とSLシグナル伝達の活性化(D53タンパク質の分解誘導)に関与していることが判った。NSP1NSP2 の発現は、SL生合成遺伝子(D10D17D27Os900Os1400)と同様に、Pi欠乏によって促進された。また、NSP1とNSP2は複合体を形成してSL生合成遺伝子のプロモーターに結合してその発現を活性化すること、プロモーター領域への結合と遺伝子発現の活性化においてNSP2が重要であることが判った。OsPHR2は、NSP1NSP2 に加えてD17D27Os900 のプロモーターに結合し、その発現を直接活性化した。したがって、OsPHR2は、NSP1、NSP2と協力して相乗的にSL生合成遺伝子の転写を活性化していると考えられる。nsp1 nsp2 二重変異体は、Pi欠乏条件でのSL生合成遺伝子の発現誘導と根および根滲出液中のSL量の増加が阻害されており、NSP1とNSP2は、Pi欠乏下でのSL生合成誘導にとって重要であると考えられる。NSP1/2-SLシグナル伝達モジュールによる根の発達制御について調査したところ、NSP1、NSP2はPi欠乏条件での主根の伸長促進と側根数の減少に関与していることが判った。イネの側根と冠根の発達はCROWN ROOTLESS 1(CRL1)/ADVENTITIOUS ROOTLESS 1(ARL1)によって制御されており、CRL1 の発現はSL処理によって抑制された。crl1 変異体では、SL処理やPi欠乏による側根密度の減少が見られないことから、CRL1はPi欠乏条件での側根密度の制御に関与していることが示唆される。nsp1 nsp2 二重変異体のCRL1 発現量は、野生型植物よりも高く、Pi欠乏による発現の低下が殆ど見られなかったが、SL処理により発現量は低下した。これらの結果から、Pi欠乏はNSP1NSP2 の発現を活性化してSLの生合成とシグナル伝達を促進することで、CRL1 の発現抑制と側根密度の抑制を引起していることが示唆される。Pi欠乏による冠根数の減少は、野生型植物とnsp1 nsp2 二重変異体で同等であることから、NSP1/2-SLシグナル伝達モジュールはPi欠乏による冠根数の制御に影響していないと考えられる。Pi欠乏は多くの植物種で窒素の吸収と同化を阻害することが知られている。解析の結果、Pi欠乏はイネの内生窒素濃度を低下させ、窒素の吸収と同化に関与する遺伝子(OsNRT2.1OsAMT1.1OsAMT1.2OsAMT1.3OsGS1.2OsGS2OsNRT1.1BOsNIA1OsNRT2.3aOsNAR2.1OsNIR1)の発現を抑制することが判った。Pi欠乏による窒素濃度の低下はnsp1 nsp2 二重変異体やd14 SL受容体変異体では見られなかった。また、nsp1 nsp2 二重変異体ではPi欠乏による窒素の吸収・同化関与遺伝子の発現抑制が弱くなっていた。これらの結果から、Pi欠乏は、NSP1/2-SLシグナル伝達経路の一部を通じて窒素吸収と同化を抑制していることが示唆される。次に、SLによるリン吸収の制御について調べたところ、SL処理はPiトランスポーター遺伝子の発現を誘導すること、nsp1 nsp2 二重変異体およびd14 変異体は野生型植物よりも内生Pi濃度が低いこと、d14 変異体でのPi欠乏によるPiトランスポーター遺伝子の発現誘導は野生型植物よりも弱いことが判った。したがって、NSP1/2-SLシグナル伝達モジュールはPi欠乏時にリン吸収を向上させていることが示唆される。興味深いことに、Pi欠乏条件下でSL処理をするとOsNRT1.1BOsAMT1.1OsAMT1.2OsGS1.2の転写産物量が増加し、低窒素条件下でSL処理をすることでOsAMT1.1OsAMT1.2OsGS1.2OsGS2の発現が誘導された。これらの結果から、SLによる窒素吸収・同化の制御が、環境中の窒素・リン濃度の変動に伴ってダイナミックに変化し、窒素とリンの濃度バランスをとっていることが示唆される。これらの結果から、NSP1NSP2 はイネのリン利用効率を改善する因子としての有用性が期待されるが、ユビキチンプロモーター制御下でNSP1NSP2 を過剰発現させた場合、分けつ数の減少や収量の低下を引起していた。そこで、NSP1NSP2 を自身のプロモーター制御下で発現させた形質転換体を作出したところ、これらの形質転換体は根でのSL生合成が高まり、主根の伸長とPi欠乏時のリン吸収が促進され、地上部乾物重の増加、穂長の伸長が見られ、収量が増加した。以上の結果から、イネはリン欠乏に対してNSP1、NSP2を介してストリゴラクトンの生合成とシグナル伝達を活性化し、形態や栄養素利用を変化させていると考えられる。

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