大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部)006・ああ演劇部!!・1

2024-04-20 06:50:34 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)

006・ああ演劇部!!・1                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです




 なんと掲示板に貼り出されていた。


 以下のクラブは部員数を5月12日までに規定の5人以上にならない場合同好会に編入する。

 演劇部 新聞部 社会問題研究部 上方文化研究部 園芸部 薙刀部 ワンダーフォーゲル部

 生徒会規約により、同好会に編入された場合、予算の執行を停止し部室を明け渡すものとする。

              空堀高校生徒会(担当 副会長:瀬戸内美晴)


「ハ~~~~(´Д`) 」

 演劇部部長の小山内啓介は、盛大にため息をついた。

 このため息が図書室にいた沢村千歳とシンクロしたのだが、この物語における自分の役割を認識していない二人に自覚は無い。

「そら大変やなあ……」

 セーヤンは頭の後ろで手を組み、脚を突っ張って椅子をギシギシ言わせながらのけ反った。セーヤンが気乗りしない時の癖である。

「名前貸してくれるだけでええねん、頼むわ」

 啓介は、のけ反ったセーやんの顔を覗き込むようにして食い下がった。

「ちょっと、ツバかかるやんけ!」

「ああ、すまんすまん」

 啓介はハンカチを出してセーヤンの顔を拭く。

「ちょっと、止めてくれ。男のハンカチで顔拭かれたない!」

「すまん、そやからさあ……」

「ケースケ、ちょっとミットモナイわよ」


 訛のある標準語が降ってきた。振り向くとミリーが腕組みして立っている。


「え……」

「ケースケの演劇部って部室が欲しいだけでしょ。たった一人で広い部屋独占して、演劇なんてちっともしてないじゃん。生徒会が言うことのほうが正しいよ。みんな知ってるから、誘いにのらないんだよ。ケースケ見ていると日本男子の値打ちが下がるぞ」

 ブロンドの留学生は手厳しい。

「俺は目覚めたんや! これからは伝統ある空堀演劇部の灯を守るために精進するんや!」

「ショージン?」

 むつかしい日本語は分からないミリー。

「えと、Do my best!や!」

「ケースケ、窓から飛んでみるといいよ」

 ガラガラガラ!

 ミリーは傍の窓を目いっぱいに開いた。

「飛べるわけないやろ」

「ケースケ軽いから飛んでいくと思うよ」

「グヌヌヌ……」

 ククク(* ´艸`) ムフフフ(〃艸〃) プププ(*`艸´) ブフフ( ´艸`)

 休み時間の教室に堪えきれない失笑が湧いた。

「ミリーも辛らつやなあ……啓介も突然部室の明け渡し言われてトチ狂とんねんで。まあ、これが刺激になって部活に励みよるかもしれへんやろ」

「トラヤン、おまえこそ心の友や! やっぱり演劇部入るべきや!」

「それとこれは違う。お手軽な身内から声かけるんと違て、せめて中庭とかで基礎練習してアピールしてみろよ」

「え、あの意味不明な『あめんぼ赤いなアイウエオ』とかお腹ペコペコの腹式呼吸とかか?」

「そや、そういう地道な努力こそ大事やと思うで」

「そうだね『隗より始めよ』だね」

「なにそれ、ミリー?」

「ことを始めるには、つべこべ言わないで自分からやってみろって、中国の格言だよ」

「……ミリーの日本語の知識は偏りがあるなあ」

「なに言ってんの、古文で習ったでしょ?」

「え、習ろた?」

 墓穴を掘りっぱなしの啓介であった。


 いいかもしれないなあ――掲示板を見て千歳は思った。


 学校を辞めるにしろ、なにか口実が欲しかった。

 入学して一カ月余りで辞めるには、致し方なかったという理由が欲しかった。それはもう仕方がない、千歳はよくやったという状況で辞めるのがいい。

 演劇部が、それにうってつけだと千歳は思った。



☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生
  • ミリー         交換留学生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜
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やくもあやかし物語2・042『ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿・1』

2024-04-19 17:35:18 | カントリーロード
くもやかし物語 2
042『ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿・1』 



 四時間目の魔法史の時間が終わると全員講堂に集められた。


「グ……校長が来てんぞぉ」

 ハイジが地声で呟いた。

 本人は呟いたつもりでも、ハイジの声はよく通る。とたんに集会指揮のメグ・キャリバーン教頭先生が睨む。

 あ、気持ちは分かる。

 校長はめったに顔を見せないし、いかつくってとっつきにくい。

 なんでも、学校を立ち上げるについて、各方面に気を使ったり抑えが聞くようにしたそうで、それは総裁にヨリコ王女を頂いていることでも分かる。

 でも、議会や貴族たちの抑えとしてはヨリコ王女は若すぎるし、日系でもあることから軽んじられることも無きにしも非ず。それで、直接のファイアーウォールとして長老的貴族であるカーナボン卿を校長に戴いているんだとか。

 ハイジが睨まれたので、その後は静かになって、教頭先生が演壇の下に居たままマイクを握る。

「授業終了後の全校集会で申し訳ない。でも、とても大事な話だから、しっかり聞くように。校長先生、どうぞ」

「うむ」

 鷹揚に頷くと、猛禽類が鬚を付けたような校長のカーナボン卿がゆっくりと演壇に上がった。

「諸君らも承知している通り、ヤマセンブルグを含む全ヨーロッパは東からの脅威にさらされている」

 みんなの顔が上がる。

 日本で東といえば単なる方角だけど、ヨーロッパで東というと、あの巨大すぎる国の事を指す。じっさい戦争やってる真っ最中だしね。

「かの国の脅威は実弾飛び交う戦場ばかりではない。様々な妖や精霊による侵攻は少しずつ、ヨーロッパ全域に広がりつつある。その脅威に備えるために、本校を含む王宮全域に結界を張ることになった」

「校長先生、すでに王宮には結界が張られているのではないんですか?」

 英国貴族でもある優等生のメイソン・ヒルが口を挟む。

「いかにも。ヤマセンブルグ最高の結界が張られてはいる。だが、それでは心もとないという状況になりつつある。そこで、結界と防御魔法の第一人者を本校に招へいし、結界の補強と防御、それに防御魔法の指導の為に北の国より特別講師をお呼びした。ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿であーる!」

 こういう場合、礼儀として拍手が起こるものだけど、奥のドアからものすごい圧がして、みんな声も無かった。

 だって、ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿は立派な耳を持ったエルフ!

 そのうえ、なんとなくうちのネルに似たおっさんだ。

 え?

「うん、うちのクソジジイだ(-_-;)」

 ええ、ネルのお祖父さんが来るって、こういうことだったの!?

 チラ見すると、ネルは赤い顔して俯いて、でも耳だけはピンと立ってる。

 これは、ネルがブチギレてる時の特徴だよ……たぶん。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部) 005・大きなため息が重なった

2024-04-19 06:53:12 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)

005・大きなため息が重なった                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです





 目的があったわけではない。


 本さえ広げていれば格好がつく。

 図書室というのはシェルターだ。

 でもシェルターというのは一時避難するところで住みつくところではない。

 だのに千歳は放課後になると図書室に来てしまい、姉が迎えに来るまでの90分ほどを過ごすことが日課になってきている。

 いっそ辞めてしまおうかとも思い始めている。

 空堀高校を選んだのは、完全バリアフリーということと姉が惣堀高校の近所に住んでいるという2つの理由からだ。

 横浜からわざわざ来るほどの理由じゃない。

 千歳は両親から逃げたかった。逃げるために大阪の高校を選んだのだ。

 父も母も千歳の足が動かなくなったのは自分たちのせいだと思っている。口に出すことこそ少なってきたが、どうしても態度に出てしまう。

 近所のコンビニに行くときでも「どこへ?」と声がかかる。明るく言ってくれるのだが、声の裏に過剰な気遣いを感じてしまう。

「コンビニ、直ぐ帰って来るから」

 そう返事すると「あ、そう」と返ってくる。「あ、そう」なんだけれど、大丈夫なんだろうか? 無理してがんばってるんじゃないだろうか? がんばらせているのは自分たちのせいだ、というような思いが潜んでいるのでやりきれない。

 ちょっと夕方にかかったり雨とかが降っていると、こっそりと着いてくる。千歳の車いすにはミラーとドライブレコーダーが付いているので着いてこられると直ぐに分かる。父も母も、自分が電柱の幅よりも太いということが分かっていない。

 だから高校進学をきっかけに横浜の家を出た。

「熱心に読んでるわね……」

 振り返ると国語の八重桜が笑みをたたえて立っていた。

「アハハ、開いているだけです」

 正直に言うが謙遜に取られてしまう。

「いやいや、これでも国語の先生やから、読んでる読んでないはすぐに分かるわよ。沢村さん、太宰を系統だって読んでるでしょ」

「あ……それはですね……(;'∀')」

 千歳は――しまった!――と思った。

 もともと読書家なので、本を前に置くと自然に目は活字を追いかけてしまう。実際は追いかけているだけで読んではいない。太宰を選んだのも、中学の時に代表作は読んでいたので、ぼんやり書架に手を伸ばすと太宰になっただけである。

「いっそ文芸部に入れへん?」

「え(゚д゚)?」

「読書仲間がいてる方が張り合いがあるわよ」

「あ、えとえとぉ……」

 とっさに上手い断り方が出てこなくて、ワタワタする。

「ま、考えといて。その気になったら、授業の終わりにでも声かけてくれたらええからね~♪」

 半ば千歳をゲットしたような気になり、お尻を振りながら八重桜は根城である司書室に戻っていった。

――好きで読んでいるのか、エスケープのためか分からないのかなあ――

 学校を辞めたい気持ちはつのってくるが、辞め方が分からない。

 辞めるにしても、致し方なかったということにしたいのだ。これ以上の心配をかけたくないし、自分が新しい環境に馴染めず負けて帰るというイメージにはしたくなかった。

「「ハ~~~~」」

 大きなため息が重なった。

 これがアニメだったら、惣堀高校の上に大きな書き文字で現れるところなのだが、図書室と演劇部の部室に別れているので、ため息の主たちは気づかないのであった……。 



☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        真中くらら
  • 先生たち        姫ちゃん(現社) 村上(千歳の担任) 隅田(世界史) 八重桜(国語)
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勇者乙の天路歴程 015『川を遡る』

2024-04-18 10:49:13 | 自己紹介
勇者路歴程

015『川を遡る』 
 ※:勇者レベル3・半歩踏み出した勇者



「これって、本当に神さまのための……そのぉ……旅なのかい?」

「そうだ」

 前を歩くビクニは振り返りもしないで、木で鼻をくくったような返事。

 プータレる新米を面倒がりながら敵地に踏み込む少佐のようだ。

「じゃあ、なんで……」

 次の文句をプータレる前に蘇ってしまう。

 さっきの栞。

―― おにいちゃん……しおりね……いっぱい夢があったんだよ。よるねるときは、おにいちゃんお母さんといっしょだったでしょ。お母さんのおなかのかわとおしてくっついていたんだよ……ままごとしたかった……おにんぎょさんごっこ……ぴあのっていうのもやってみたかった……おりょうりもしたかったし……かみしばいみたかったし、ひろばでかけっこしたかったし……きょうだいさんにんでひなたぼっことかもしたかった ――

 そうだったんだ。

―― お父さんとお母さんがそうだんして、しおりをうまないってきめたよるにね、しおり、おにいちゃんにぜんぶの夢あずけたんだ ――

 そうか……わたしは料理も他の家事も苦にならない方で、一人暮らしになってからでも、さほどには不便を感じなかった。男のくせに人形が好きだったし、子どもの頃は姉の『りぼん』は『少年』と並んで毎月の楽しみだった。高校で女子ばっかりだった演劇部に誘われた時も抵抗は無かったし、逆にサッカーや野球にはとんと興味が無かった。

―― ごめんね夢をあずけすぎて……でも、夢はちからだからね……きっとおにいちゃんのやくにたつとおもうよ……おにいちゃん…… ――

 そう言うと、オーブの妹は静かに消えて、石積みは石一個分だけ高くなっていた。


「中村、お前の人生も神が創り給うた世界の一部なんだ、不思議はないだろ。それより、もっと早く歩け。先は長いぞ」

「あ、ああ」

 それは理屈だろうが、妹に出くわしただけで、こんなに気が重い。

 この先、なにが……思っていると、岸辺の岩にロープで繋がれた小舟が見えてきた。

「あれに乗るぞ」

「あれは、和船か?」

「猪牙舟だ」

「ちょきぶね……ああ」

「……と言っても吉原に行くわけではないがな」

 猪牙舟とは、江戸の河川を走っていた小船で、一般のチョロ船よりも速く「チョロまかす」という言葉の語源になっているほどで、吉原に通う旦那衆がよく使ったと言われている。

「フフ、乗らぬ授業で生徒を振り向かせる小話だな、効果は一瞬だがな」

 少佐になってからのビクニは人が悪い。

「でも、船頭の姿が見えないようだが」

「船頭はお前だ、しっかり漕げよ」

 ええ!?

 わたしの驚きなどものともせずに、艪ベソにガチャリと艪をはめると「ほれ」と顎をしゃくって渡すビクニ。

「わたしが漕ぐのかぁ?」

「船頭のスキルはインストールしてある。励め」

「あ、ああ……」

 舫いを解くと、舟は流れに乗って岸を離れる。

 まあ、流れもあることだし、ゆっくり漕いでも間に合うだろう。

「勘違いするな、川下ではない、川をさかのぼるんだ」

「ええ( ゚Д゚)!?」

「流れは5ノット、10ノットも出せば余裕だ」

「じゅ、10ノットぉ……」

 時速18キロ、めちゃくちゃ苦しい……と悲鳴が出かけたが、いざ、漕ぎだすと、それほど力がいるものでもない。

 舟は猪牙舟らしく、すいすいと進んで行く。

 インタフェイスを広げると相対速度で11ノットと出ていた。



 
☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
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REオフステージ(惣堀高校演劇部) 004・がんばり系リア充認定の千歳

2024-04-18 07:10:10 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)

004・がんばり系リア充認定の千歳                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです





 惣堀高校は、見かけの割に充実したバリアフリーである。


 各フロアーごとに身障者用のトイレが完備、校内のドアの半分は車いすでの通行が可能で、そのいくつかには点字以外に音声案内まで付いている。エレベーターも早くから導入され、去年からは新型への更新も始まって、今では、バリアフリーのモデル校指定を受けるほどになっている。

 この充実ぶりには訳がある。

 大正の末にできた空堀高校は、第一次大戦の好景気や教育熱心な時代の空気を受け、敷地は広く校舎も間隔をあけて建ててあり、増改築が容易であった。
 それで全く新規に学校を建てるよりも、一ケタ少ない予算でほぼ完全なバリアフリーができるのである。慢性的に財政難な大阪府にはうってつけな実験校であったのだ。

 沢村千歳は、そんな情報をもとに空堀高校に入学した。

「なんだかなあ……」

 入学して4週間、すっかり口癖になった「なんだかなあ……」をため息とともに吐き出した。

 車いすの千歳にも申し分のない設備で、先生もクラスメートも親切に接してくれる。

「沢村さん、入る部活とか決まった?」

 今日も担任の村上先生が聞いてくる。

「いろいろ目移りして、なかなかです(^_^;)」

 もう100回目くらいになる答えをリピートした。

「あ、そう。なにか決まればいいわね」

 そう言って、村上先生は職員室に引き上げて行った。


「えと……部活とかもがんばりたいと思います」


 自己紹介で、うっかり言ってしまった。村上先生に指定された1分間の持ち時間を持て余していたからだ。

 その気になればいくらでも喋れたが、ピカピカの同級生たちは反応が薄かった。入学したてで緊張してもいるんだろうけど、これは元からこうなんだろうと思った。

 人への興味が薄く、薄い割には簡単に人をカテゴライズしてしまう。リア充、ツンデレ、ヤンデレ、オタク、モブ子、マジキチ、帰宅部、その他色々……。

 カテゴライズされてしまえば、それ以外の属性ではなかなか見られない。

 千歳は――足が不自由だけど頑張るリア充――とカカテゴライズされてきている。

 車いすという他にも、小柄で整った顔立ち、特に眉毛の頭が上がったところなど、微妙な困り顔。緊張すると潤んだ瞳と相まって――この子は頑張ってる!――応援しなくちゃ!――助けてあげなきゃ!――と人に思わせる。

 ほんとうは部活なんかに興味はなかった。

 最初に担任の村上先生が言った「空堀には20あまりの部活があります。きみたちも、ぜひクラブに入って、高校生活をおう歌してもらいたいものです!」という、ちょっと前のめりなエールというか演説はプレッシャーだ。

 5分ほどの演説の中で数十回繰り返された「部活」「がんばる」という言葉が刷り込まれ、残り15秒を持て余し、先生のウンウンと笑顔で頷くプレッシャーに「えと……部活とかもがんばりたいと思います」つい出てきた言葉なのだ。

 リア充と思われると、リア充として振る舞わなければならない。

 そんなシンドクサイことは願い下げだ。

 この二日歩で千歳は、ある決心をした。

 でも、その決心は口に出してしまっては顔に出て悟られそうなので、言わない。

「クラブ見学とか行くんやったら、押していくよ」

 くららが笑顔で寄って来た。なにくれと千歳の世話を焼きたがる真中くらら。悪い子ではないけどリア充としてしか会話が成立しない。

「ありがとう、今日は図書室行くから」

「そうなんや、沢村さんて、どんな本読むんやろなあ? また話聞かせてね。あたしクラブ行ってるさかい」

「うん、またね」

 そうして、千歳はエレベーターに乗って図書室を目指した。


 エレベーターが上昇するにつれて、千歳の決心はさらに強くなっていった……。



☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        真中くらら
  • 先生たち        姫ちゃん(現社) 村上(千歳の担任) 隅田(世界史)

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勇者乙の天路歴程 014『三途の川・3・栞』

2024-04-17 10:13:56 | 自己紹介
勇者路歴程

014『三途の川・3・栞』 
 ※:勇者レベル3・半歩踏み出した勇者





 わたしは高校二年で留年した。


 留年を知った父は、わたしの顔も見ずにこんなことを言った。

「一郎、おまえは二人姉弟だけどなぁ、ほんとうは……」

 話の先は分かっているので口抗えした。

「姉貴の上に兄貴が居たんだろ」

 姉より一つ上の兄は七カ月の早産で、生まれ落ちて30分後には息を引き取った。30分でも生きていれば戸籍に載せたうえで葬儀をやってやらなければならない。
 大正時代からの産婆さんは、初産の母への影響と、あまり豊かではない家の事情を察して死産ということにしてくれた。
 憐れに思った祖父が、祖父は浄土真宗の坊主で、知らせを聞くと墨染めの衣でやってきて、法名をつけて、ほんの身内だけの葬式の真似事をやった。

――だから、一郎、しっかりしろ!――という説教の結びになる。

 また、兄貴を持ち出しての説教かと、神妙な顔をしながらもタカをくくった。

 ちがった。

「おまえには、三つ下に妹がいたんだ」

 え?

「うちは凛子とおまえでいっぱいいっぱいで、三人目を育てる余裕なんて無かった」

 そこまで言うと、母は、そっと俯いてしまった。

「女の子だったって、お医者さんがいっていた……」

 姉を幼くしたようなセーラー服が浮かんだ。生まれて生きていれば、中学二年になっている。

「さすがに法名ってわけにもいかねえから、母さん、密かに名前を付けた……」

 そこまで言うと、ちゃぶ台に手をついて立ち上がり、仏壇の前に座って手を合わせた。

「栞……て、名付けたんだ」

 あとは黙って手を合わせ、居たたまれなくなったわたしは家を飛び出し、その夜は友だちの家に泊めてもらった。

 それ以来、ふとしたきっかけで妹は現れるようになった。

 三つ違いなのだが、妹は、いつまで経っても十四歳のセーラー服姿だ。

 父が告げた時のイメージが固着している。

 ところが賽の河原に出現したオーブ。それが成した姿は、やっと四歳になったほどの幼い姿だった。

 視界の端、体育の監督のように佇立したビクニは一言も発しなかった。



☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
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REオフステージ(惣堀高校演劇部) 003・で、わたしは……

2024-04-17 07:19:17 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)

003・で、わたしは……                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです





 生徒会副会長瀬戸内美晴は、軽く姿勢を崩すと胸元で腕を組むとブレザーに隠れた胸が強調され、ルパン三世の峰不二子のような押し出しになった。

「分かってると思うけど、クラブとして認定されるためには5人以上の部員が必要なの。5人に満たない場合は同好会に格下げ。同好会は正規の予算も執行されないし、部室を持つこともできない。生徒手帳にも書いてあるわよ」

「あ、でもさ、5人以下のクラブって他にもあるやんかぁ。部室も持ってるし」

「そうよね、だからそういうクラブ全部に申し渡してるの。演劇部が最後」

「で、でもさ、すぐに出ていけ言うのんは、ちょっと横暴なんとちゃうかなあ(^_^;)」

 啓介は負けずと腕を組んでみたが、うっかり左腕を上にしてしまったので調子が狂う。啓介は、いつもなら右腕を上にしている。

「そんな対立的に受け取らないでよ。掛けていいかしら?」

「あ、ああ、どうぞ」

 啓介は、机の向こうの椅子を示した。

「どうも」

 美晴は椅子に手を掛けると、ガラガラと押して、啓介の目の前にやってきて足を組んで座った。

「あ、えと……」

「演劇部は、もう4年も5人を割っているの。それを今まで見逃してきたんだから、寛容だとは思わない?」

「え、あ……オレが聞いたのは初めてやから」

「去年の春にも申し入れてある『部員を5人以上にしてください』って。それで知らないって言うのは、そちらの問題じゃないかしら」

「いや、でも……」

「ほら、これが申し入れをしたって記録。先代部長の中沢さんに伝えてある」

 美晴はタブレットの記録を見せた。

「中沢さんて、去年の5月に転校していったしぃ……」

「そうね、5月31日。申し入れは4月の20日だったから、十分申し次はできると思うんだけど」

「え、記録残してんのん!?」

「あたりまえでしょ。ねえ、惣堀高校って伝統校だから、形骸化した決まりや施設や組織が沢山残ってるの。そういうものを整理して、ほんとうに伸ばさなきゃならないところに力を入れるべきだと思うのよ。学校の施設も予算も限りがあるんだから……でしょ?」

 美晴は微笑みながら啓介の目を見つめた。チラリと八重歯が覗く。

「……フフ、いまわたしのこと可愛いって思ったでしょ」

「え、いや……はい」

 こういうところ、啓介にも美晴にも共通の愛嬌がある。

「うん、可愛い顔したもんね。というのは、まだ余裕があるから」

「余裕?」

「連休明けまで待つわ。生徒会としても伝統ある演劇部を同好会にはしたくないもの。がんばってね。言っとくけど幽霊部員はだめだからね。兼部していても構わないから、日常的に活動する部員を集めてね。部室の明け渡しとかは、その結果を見てということで……」

「あ、ああ」

「じゃ、わたしはこれで」

 美晴はロングの髪をなびかせて立ち上がり、形よく歩いてドアに手を掛けた。

「あの……もし集められなかったら?」

「部室明け渡し。で、わたしは……こういう顔になるの」

 振り返った美晴は八重歯を二本剥き出しにして、般若堂の看板ような顔になっていた……。


☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
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REオフステージ(惣堀高校演劇部) 002・生徒会副会長瀬戸内美晴

2024-04-16 08:02:35 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)

002・生徒会副会長瀬戸内美晴                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです




 大阪府立惣堀高校は今年で創立110年になる。


 北野高校や天王寺高校ほどではないが、ナンバースクールというか伝統校というか、それなりの評判の有る学校ではある。
 
 かつては国公立大に二桁の合格者を出していたが、今は年間に数名関関同立をトップに中堅私学に合格者を出す準進学校というポジションである。

 校舎や設備は昭和どころか大正時代の趣を残し、旧制中学からの敷地は大阪市のど真ん中の割には広々としていて映画やテレビのロケに使われることも多い。

 連ドラで主人公が告白されたコクリの楓。正門から校舎にいたる緩いカーブのマッカーサーの坂。モンローの腰掛け石。太閤下水。校舎自体も吹奏楽やダンス部をテーマにしたドラマやアニメの舞台になった。

 オープンキャンパスの参加者の半分は、そういう校内の名所旧跡が目当てと言われるくらい。

 要するに見てくれの良い学校である。

 その見てくれの良い中でひときわ雰囲気のあるのが、旧校舎を利用した部室棟である。創立以来の二階建て木造校舎は、マシュー・オーエンという米人建築家の設計。大正時代に大阪財界からの寄付で建てられ、下手な鉄筋コンクリートよりもガッチリしている。

 東大阪の長瀬に東洋一の撮影所があったころから撮影にも使われ、昭和が平成になるころまでは現役校舎だったので、昔は鉄筋の本館よりも有名だった。


 その部室棟一階東の外れに演劇部の部室がある。


 小山内啓介は、創立以来の重厚な机の上にお握り2個と冷やし中華を並べて思案している。

「やっぱ冷やし中華がクライマックスか……でも、おにぎりを連続で2個というのんもなあ……中盤に冷やし中華……ラストが弱い……いっそ幕開きにドッカーンと冷やし中華か……ああ、悩ましい!」

 このハムレットぶりで分かるように、啓介はヒマ人なのだ。

 教室まるまる一つ分の部室には啓介一人しかいない。

 たまたま一人なのではなく、この1年間、演劇部員は啓介一人しかいないのだ。

 去年入部したときには先輩が一人いた。それも転校予定で、入部しても早晩一人ぼっちになることは目に見えていた。じっさい二学期には、たった一人の演劇部になってしまった。

 啓介はそれでよかった。

 もともと芝居がやりたくて入った演劇部ではないのだ。

 広い部室を事実上自分の個室にして、快適なキャンパスライフをエンジョイしたいというのが動機である。

「よし、やっぱ冷やし中華はクライマックスや!」

 結論を出すと啓介は冷やし中華を冷蔵庫に仕舞った。もともと昼休みに食べようと思っていたのだが、トラやんとセーやんに誘われて食堂に行ったので、放課後のお楽しみになったのである。まあ、そう決意したので冷蔵庫で冷やしておいた冷やし中華は、コンビニで買った時と同じくらいに冷えて食べごろになっていた。

 それは2個目のシャケお握りを食べ終わり、冷蔵庫を開けて冷やし中華でフィナーレにしようと思った時に現れた。

 コンコン

「ああ、開いてんで~」

 トラやんかセーやんかと思い、気楽に答えると、意外な人物が入って来た。

「演劇部部長の小山内くんやね?」

 宝塚の男役のようにキリリと現れたのは、生徒会副会長の瀬戸内美晴であった。

「あ……瀬戸内さん……なんの用やろか?」

 啓介は美晴が苦手である。

 たいていの女子は緩めているリボンを第一ボタンが隠れるほどにキッチリ締め。溢れるオーラはエルフの魔法使いの師匠のごとくで、のんびりした空堀高校では異質な押し出しがあり、関わると自分の本質的な弱点をえぐられそう。

 一年の時は同級生だったが、ほとんど口をきいたことも無い。

 で、美晴は開口一番、啓介の心をえぐってしまった。

「演劇部の部室を明け渡してほしいの」

 ウップ!?

 冷やし中華どころではなくなってしまった……。  



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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・093『お婆さんが付いてきた』

2024-04-15 11:03:24 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
093『お婆さんが付いてきた』   




 令和の時代から昭和の宮之森高校に通って一年。


 だいぶ慣れて来たけど、土日とかが、ちょっと癪。

 だって、昭和の学校は土曜日にも授業があるし、令和が日曜でも向こうはウィークデイで学校に行かなきゃならない。

 4月14日の昨日は日曜だったけど、昭和46年の宮之森は水曜だから学校に行った。

 家からは寿川に沿って100mの戻り橋を渡るんだ。

 100mだから1分ちょっと、たいてい人に合うこともなく橋を渡る。

 でもね、4月になって三軒隣に〇〇というお家が引っ越してきて、そこのお婆さんの朝の散歩とかち合うようになってきた。

 引っ越しのご挨拶は両隣だけで済まされたようで、うちには来なかった。

 まあ、それはいいんだけどね。

 ほぼ毎日出くわすもんだから、シカトもできず、コクンと目礼してすれ違う。お婆ちゃんも笑顔で「おはよう」と返してくれる。

 目礼に対して、声に出しての「おはよう」は、こっちが一点負けてる感じ。

 それで、昨日は、小声だけども「お早うございます」と挨拶した。

 すると、お婆さんは、いつもの倍くらいに笑顔になった。

『ああ、よかった』という気持ちと『あ、まずった』という二つの気持ちが湧いてきた。

 よかったと思ったのは、ご近所で挨拶もしないでいてはきまりが悪いから。まずったと思ったのは、お婆さんにボケの気配が見えたので、関わると面倒なことになるかもと思ったから。

 モヤモヤした気持ちで『M』の標石(しるべいし)を蹴る。

『M』の標石は、わたし専用の『戻り橋』を出現させるためのスイッチ。この橋を渡ると昭和の宮之森。渡り終わったら昭和側の『G』の石を蹴る。
 橋は、わたしが橋に踏み込むと令和からは見えなくなるんだけど、念のためにロックするのが『G』の標石。

 橋を渡り終えて、五六歩行ったところで『G』の石を蹴っていないことに気付いた。

 振り返ると、お婆さんがついて来ている!

「おやぁ……あら……あらぁ……」

 お婆さんは、軽いパニックを起こしてキョロキョロあたりを見回している。

 わたしは魔法少女の孫で、未登録だけどいちおう魔法少女。

 昭和の学校に通うにあたって、日に一回だけ魔法が使えるようになっている。

 日に一回じゃ足りないかもと思ったけど、じっさいに魔法を使ったのは数えるほどでしかない。魔法を使うと、前後のつじつまを合わせるのが結構たいへんだしね。

 でも今こそは魔法を使う時だ!

――お婆さんを令和に戻せ!――

 そう念ずると、お婆さんの姿は一秒もせずに掻き消えた。


 でも……なにか違和感。


 戻って確認しよう!

 そう思って『G』の石を蹴ろうとしたら、後ろで「あらぁ……」という声がして、振り返ると川筋の医院の屋上にお婆さん!

 ヤバイ、ミスった!

 どうしよう、今日の分の魔法は使ってしまった!

 これは、訳を言って医院の屋上に上がらせてもらって令和まで送り届けなきゃ……

 でも、どう説明して屋上に? 

 すみません、間違って令和からお婆さんついて来てしまってぇ、戻そうと思って魔法使ったら、ここの屋上に……(^_^;)

 なんて言えるかぁ!

 オロオロしていると、医院の向こうの通りからわたしと同じ宮之森の制服が現れた。

「こまってるみたいね(^▭^)」

「え……あ……御神楽さん!?」

「巫女服じゃ目立つから、あなたのコピーした」

「そ、そうなんだ……」

 二十代半ばって感じの御神楽さん、ちょっとJKの制服はきびしい……けど、それはおくびにも出さずに説明。

「実は……」

 屋上を指さして「付いてきちゃって……」と説明すると分かってくれて、ドンと胸を叩いた。

「まかせておいて」

 そう言うと、瞬間で屋上にテレポして、一言二言お婆さんにヒソヒソ話。

――じゃあね――と口の形で言うと、お婆さんといっしょに消えてしまった!

 
 一時間目が終わってボンヤリしてると佳奈子が「お客さんだよ」と廊下を指さす。

 あ、御神楽さん。

「お婆さんは無事に送り届けたから」

「あ、どうもすみません」

「いいわよ、式場のお仲間なんだし。久々にきたら学校も楽しそうだし」

 御神楽さんの制服は、朝よりもしっくりしてて、現役の生徒と変わらない。

 クラス章が実在しない9組なのはご愛敬。

「でもね、魔法少女でもないのにこっちに来たから、ちょっと影響が出るかも……ま、またなんかあったら言ってちょうだい」

「は、はい、お世話になりました!」

「じゃね」

 パタパタパタ……

 そう言うと、元気よく階段を下りて行く御神楽さん、降りる音は踊り場の当たりで消えた。
 


 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部) 001・ただ今四時間目

2024-04-15 07:19:57 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)

001・ただ今四時間目                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです




 世の中で一番だるいものは四時間目の授業だ。


 三時間目まででなけなしの集中力は弛み切っているし、空っぽの胃袋は昼食を欲して何を見ても食べ物をイメージしてしまう。

 小山内啓介は窓側の一番後ろに座っているので、並み居るクラスメートがコンビニの棚に整然と並ぶお握りの列に見えてきてしまう。

 姫ちゃんこと姫田先生が板書の左端に付けたしの注釈を書いたので、啓介の二つ前のミリーが身を乗り出した。

――ああ、冷やし中華食いたいなあ…………――

 啓介は交換留学生のブロンドの髪もコンビニの冷やし中華の黄色い麺に見えてくる。

「4時間目て、お腹空いて眠たくなって、板書のトレースだけになってしまうよねぇ」

 姫ちゃんがチョークを置いて語り始めた。語ると言っても姫ちゃん先生はお説教などはしない。程よく脱線してみんなの脳みそを覚醒させようとするのだ。

「わたしも高校生のころは眠たかったあ……」

 そこから始まって、姫ちゃん先生は自分の高校時代を語り始める。高校の先生というのは妙なプライドがあって出身校の話は、あまりしない。
 しないからこそ効果的だろうと姫ちゃん先生は語る。教師としてツボを心得ているというよりは、いまだに学生気分、いや、高校生の気分が抜けないからだろう。

「北浜高校は校舎を建て替えたばっかりでね……」

――ほう、北浜高校やったんかぁ――

 北浜高校と云えば府立高校でも五本の指に入ろうかという名門校。初めて聞く姫ちゃんの履歴でもあり、姫ちゃんの評価は5ポイントほど上がった。

「食堂がメッチャきれいやねんやんか。きれいになると味もようなるようで、唐マヨ丼がワンランクほどグレードが上がってね」

「唐マヨ丼て、どんなんですか?」

 丼もの大好きなトラやんが聞く。

「丼ご飯の上に唐揚げが載っててね、出汁とマヨネーズがかかってんのん」

「美味そう!」と「キモイ!」の声が等量で起こった。

「ヌハハ、それで、それをテイクアウトのパックにしてもろて中庭とかで食べるのん! キモそうやけど、あたしら三年生には一押しのメニュ-やったなあ! 数量限定やったけど、あたしらの教室は食堂に一番近かったから食いぱぐれはなかった!」

 昼ご飯前に美味しいものの話をするのは反則だ。これは姫ちゃん先生の憎めない人柄だ。お腹の虫の鳴き声に閉口しながらも啓介は思い至った。

 そう言えば、世界史の隅田先生も似たような話をしていた。

「丼ものはパックに入れて食堂の外でも食べられた。府立高校ではうちだけで、ゴミの始末が問題になって一年で廃止になってしもたけどな。ぼくら3年生は嬉しかった」

 ……隅田先生は学校名は言わなかったが、同じ北浜高校だと考えられた。

「ひょっとして、姫田先生……」

「なに、小山内くん?」

 そのとき廊下を歩く隅田先生が目に入った。廊下側のセーヤンも同じことを考えていたようで、開けっ放しの後ろの出入り口から隅田先生に声をかけた。

「……ということは、姫田先生と隅田先生は北浜高校のクラスメートとちゃいますのん!?」

「「え……ええ!!」」

 二人の若い先生は教室と廊下で同時に驚いた。

 姫田先生は現代社会、隅田先生は世界史、共に社会科だから同じ部屋に居る。それも二人そろって去年の春に新任でやってきた。それが今の今まで同級生であることに気づかなかったのだ。惣堀高校二年三組の教室は暖かい笑いに満ちた。


「そやけどなあ……」


 啓介はコンビニの袋をぶら下げながら思った。

――なんや一幕の喜劇を観るようやったけど、同級生やったいうことにも気づかへんいうのは、ちょっとコミニケーション不足なんとちゃうのかなあ――

 惣堀高校は府立高校の中でも老舗で、レベルもそこそこだ。春の海のように波風がたたない。生徒も教師も温泉に浸かった猿のように平和だ。
 イジメや校内暴力とも無縁で穏やか。生徒の自主性を重んじるという伝統の下に、実質は放任されて、少々の無茶やはみ出しは見過ごされる。

――大丈夫なんかい?――

 チラとは思ったが、昼食のため演劇部の部室に入ったとたんに忘れてしまう啓介だった……。


 
 

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鳴かぬなら 信長転生記 176『三合河原超説法会・1』

2024-04-14 16:16:24 | ノベル2
ら 信長転生記
176『三合河原超説法会・1』信長 




 きらきら星が流れている。


 と言っても夜空に星が流れているわけではない。

 モーツアルトのきらきら星だ。それも冒頭の『きらきら星よ~よぞらの星よ~♪』のところをリフレインさせている。
 実際、観衆たちの中には子どもといっしょに『一閃一閃亮晶晶 滿天都是小星星 ~♪』と口ずさんでいる者もいる。
 聞法が待ちきれずに一杯ひっかけていた者たちはコックリコックリと舟を漕いでいるものも居て、御説法二日目を迎え、三合河原は静かに高揚している。

 昨日はビバルディ―の『四季』、それも春のところをリフレインしていた。

 どちらも頭にアルファ波が湧きまくり、聞く者を心穏やかにする名曲だ。

 ん?

 そこに、そよ風が吹いてきたかと思うと、諸葛茶孔明が例のハエタタキを戦がせながら近づいてくる。

「ニイ少佐……いや、悟空殿」

「おう、孔明殿も寛いでおられるのか、ウキ」

「昨日は大成功でしたね。三合の河原は、魏、呉、蜀、いずれからも等距離であるだけでなく、舟が使えることで、上流下流方向からも大勢の善男善女が集まり、初回であるにもかかわらず、聞法の聴衆は万余を数えました」

「二回目の今日は二万を超えるかもな、ウキ」

「『きらきら星』、よく思いつかれました。三蔵法師さまの御説法はボレロのリズムで始まりますからねえ、あれを最初から流してしまっては観衆たちは興奮しすぎて不測の事態も起こりかねないところでした」

「あれは……」

「ビバルディ―の『四季』の二番煎じです、諸葛茶孔明さま」

「おお、これはこれは大橋様、豊盃ではろくにご挨拶もできずに失礼いたしました」

「いえ、丞相さまもご健勝でなによりです。豊盃でのプログラムしか持ち合わせておりませんでしたので、とっさに『これをお掛けなさいませ』とカセットテープをお出しになった機転には頭が下がるばかりです」

「いや、お恥ずかしい。蜀の田舎者ですので、未だにウォークマンで聞いておりますので」

「いえいえ、お年寄りの中にはカセットテープの味わいが懐かしいと喜んでいる人たちも居ましたよ」

「いやはや、汗顔の至りです。しかし……この河原の整備も見事なものです」

「たしかに……すり鉢状に造成された聴衆席、説教壇、照明音響設備、突貫工事のようではありますが、みな適切。将来を見込んで隣り合う河原も造成のための縄張りが済んでいます」

 俺も気づいていた。

 この河原の造成は、少し行き届きすぎている。

 むろん三国志最大最高の規模と実力を兼ね備えた大国魏。その気になればこの程度の作事やプロディーユースは何でもないのだろうが、曹操は長江の上流で堤防を築くことにも忙しいと聞く。

 俺も前世ではいつもどこかで大規模な作事をやっていた。むろん作事の指揮を執るのは将官クラスの家来共。

 家来共にはそれぞれ癖があった。柴田勝家は頑丈なものを作るが、面白みが無い。サルは何を作らせても見事で明るく。光秀も綺麗で見事なものを作るが、なんとも辛気くさくて肩が凝った。滝川一益は何にでも忍者の仕掛けを忍ばせて、ちょっと危なかった。家来ではないが、家康は地味、正直趣味的には使えなかった。

 それと同様の癖が、この河原の作事にも現れているはずなのだが、今のところは――行き届いていいる――という匂いだ。

 ひょっとして裏があるのかもしれないが、曹操のことは茶姫を通しての知識しかない。

 予断を持ってしまうと目が曇る。

 かつては信玄を恐れるあまり、三年も死んだことに気付かず時間を無駄にした。荒木村重を説得に行かせた黒田官兵衛が戻ってこない時は裏切りと思い込み人質の息子を殺した。サルの機転でじっさいには殺さずに済んだが、救助された官兵衛を見た時「あ、有馬の湯が効くぞ!」と声を上ずらせてしまった(-_-;)。

 言葉には言霊がある。

 だから、大橋も孔明も、それ以上には口にしない。

 見る限り聞く限りの情報では曹操という男、権力を持ったサイコパスかと思っていたが、違う尺度で見なければならないのかもしれない。

 ん?

 きらきら星がボレロのリズムになってきた。

 三蔵法師の三合河原超説法会は二日目を迎えようとしている。

 

☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第139話《9個目の招き猫……たぶん》

2024-04-14 08:28:19 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第139話《9個目の招き猫……たぶん》さくら 





 前々から言ってるけど勉強は好きじゃない。


 だから、中間テストも後半だっちゅうのに身が入らない。

 日本史のテストなんか、暗記したこと全部書いたら、見直しもしないでい眠ってしまう。そんで蟻さんとお話しする夢なんか見てしまう。一昨日は、試験の後、家の近所まで帰っていながら公園に寄って、ガキンチョのころから乗り慣れたブランコに腰かけて二時間。アンニュイに身を任せながら、結論も出ないあれこれをもてあそんでいた。

 残っている教科は昨日すませた。ノートやプリント見て、出そうなところをゆっくり読んで、一回ずつ紙に書いておしまい。もう一回やったらプラス5点くらいは取れそうなんだけどやらない。

 ボンヤリ紙に書いていて、引っかかったのは国語。
 
 小説の単元で習った太宰治の『富岳百景』。

 太宰は中学で10個ほど読んだ。読んだ中に『富岳百景』もある。いまさら違う解釈とか読み方されたら、最近ハマってる魔法使いアニメの弟子のようにムスっとしてしまって気分悪いからノートとってもらったプリント残してるだけ。

 漢字の読み、代名詞の「それ」とか「あれ」が何を指すかを斜め読み。
 読書力というか本を読む馬力はあるから、抜粋しか載っていない教科書を5分で読んで、文庫の省略無しのを一回読み直す。

 それからノートの中身を少しだけ力を入れて紙に書く。線を引いたところは、もう一度線を引く。

「富士には月見草がよく似合う」「棒状の素朴さ」「富士はなんの象徴か」「単一表現」とはなにか。プリントの答えを丸のまま頭に入れる。こういうことの答えを全部集めても、『富岳百景』は分からない。

 例えば「富士」というのは「軍国主義・封建主義・当時の文学などの権威」などと書けば正解。だけど、あたしは、これでは収まらない。権威の否定だけで納得できるほど人生は甘くない。太宰だって、そう思っている。それでも掴みきれない自分のいらだちが見えてこない。でも、そんなことを書いたって減点されるだけ。だから考えない。

 軍国主義への反対? 笑わせちゃいけない。太宰は、そこまで考えて書いていない。御坂峠の茶屋の母子に癒される……とんでもない。
 あの茶屋の主人は戦争に行って中国大陸で戦っている。もし、戦争というものの権威に反対するなら、太宰ほどの文才があれば、別の形で書いている。失礼だけど、教えてくれた国語の先生は、こんな事実も見落としたまま授業をしたんだ。あの先生の授業からは太宰の苦悩も、そこから出てくる命がけのユーモアも分からない。

 今日は録画したまま見てなかったロボットアニメを見た。わたしが生まれるずっと前からやってる国民的アニメ。

 なんで中学生が、ここまで苦しんでロボットに乗り込んで、正体不明の敵と戦わなければならないのか? 観ても読み込んでも答えは出てこない。主人公が痛々しい。

 あたしの勝手な思い込みかもしれないけど、作者も「敵」の意味よく分かってないんじゃないだろうか。分かっていないからこそ、面白いと思っちゃうんだろうな。太宰の「不安」と共通する曖昧さ、漠然さ。それが「青春なんだよ」と言われても、あたしは納得しない。

 納得しなくても最終話まで観てしまう、観させてしまうんだからすごいよね。やっぱりすごいアニメなんだ。


「あ、しまった!」


 お母さんが台所で叫んだ。どうやら生協に注文しておいた食材に、注文のし忘れがあったみたい。

「あたし、行ってくるよ」

 アニメも最後まで観て「思わせぶり」を納得。当然消化不良。で買い物に行く。

 買い物は良い。メモしてもらったものを駅前のスーパーまで買いに行って、帰ってくる。お母さんが感謝してくれる。そして晩ご飯は滞りなく食卓に並ぶ。

 あたしは、こういう単純な問題と、問題解決が好き。

 一度はアイドルとか俳優になる夢を見た。確かに夢なんだろうけど、実際に、そんな人生を途中まで生きていたような気がするけど、あれは長い白昼夢。でなかったらパラレルワールドのわたし。なんかの拍子で、あっちへ行って戻ってきたんだろう。
 もしくは、向こうに戻っていないか。言えることは、どっちも生まれ育った世田谷は豪徳寺で起こったということ。どんな生き方をしようと、生まれ育った豪徳寺から道が伸びていくんだ。やっぱり不器用なんだろうね。

 長い話に付き合ってくださってありがとう、中間テストが終わったら豪徳寺名物の招き猫を買いに行きます。

 めったに行かない豪徳寺駅の向こう側、新しいファンシーショップが出来ているのを発見。そのウィンドウに可愛い招き猫があるのを発見したから。むろんレトロに作られた新製品。ひょっとしたら焼き物でさえなくてプラスチックかもしれない、高校生が、ふと買ってみようかと思うくらいの値段だしね。

 これで、うちの招き猫は8個……9個目、たぶん。

 9個目は机の上に置いて、新しい温故知新が湧いてきたらね、またお目にかかります。


 佐倉 さくら


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銀河太平記・215『納骨の旅・2・甲府』

2024-04-13 11:42:50 | 小説4
・215

『納骨の旅・2・甲府』ミク 





「甲府盆地はハート形なんですよ」


 お墓に行く途中の坂道で振り返ると、和尚さんは景色を撫でるようにして言った。

「うわぁ…………」

 つられて振り返ると、笛吹川、釜無川、富士川と、それに沿って走っているリニア路線がハートの骨のように見える。

「勘十郎は血管だと言うとりました」

「血管ですか?」

「血管じゃったら、一本余計じゃろと言うてやると『一本は気脈じゃ』と笑うておりました。奴は、甲府盆地を日本の心臓のように思うて子どもの頃から喜んでおりました」

「気宇壮大な子供だったんですね」

「はい、実は甲府の下には三つのプレートがせめぎ合っておりましてな。ユーラシアプレート、北米プレート、フィリピン海プレート。その境目が三つの川です」

「そうなんですねえ……」

 先生の実家を探すのはダッシュの力もあって、そう難しいことじゃなかった。

 山梨県の甲府にある旧家が先生の家で、家系をたどれば武田信玄の参謀だった山本勘助に繋がる。そう、本姓は姉崎でもなく山野でもなく山本。

 山本の家は令和の時代からエコ発電の関連部品の製造で力をつけ、この二十三世紀でもパルス燃料の端子製造では結構なシェアを持っている。
 
 三つのプレートがせめぎ合うように、山本の家は跡継ぎを巡って争い、それに嫌気がさした先生は、苗字を山野に変え、いろいろあった末に静かの海戦争で傭兵をやっていたわけなんだ。

 甲府のお墓に納めるには少し迷った。先生自身嫌気がさして飛び出した家だからね。

 そして、山本の家は衰退というか、甲府では消滅していた。

 外国の会社と提携したのが20年前で、そのあと、いろいろあって会社は社名だけ残して外国企業になってしまった。

 そして、先生の最後の姿を見て、ダッシュと二人、山本のお墓に納めるべきだと思った。

「いやあ、けっこうあるんですねえ」

「バテましたか?」

「いえ、大丈夫です」

「うちのお墓は寺よりも古いんですよ」

「え、そうなんですか?」

「おそらくは弥生時代からの墓地です」

「や、弥生時代!?」

「ええ、山の斜面に南面して墓を作ったのが最初です。600年前にうちの寺ができた時に引き受けたんです。墓というのは、常日頃から管理が必要ですからねぇ……さ、着きましたよ」

「うわぁ……」

 山の斜面が三段、ところによっては五段になって、ざっと千基ぐらいのお墓が並んでいる。

「ところどころ抜けてますねえ」

「はい、墓じまいをされた家もありますし、月や火星に移住する時に移されたお墓もあります」

 そうか……そう言えば、姉崎すみれさんのお墓も地球からご先祖ともども移してこられたお墓だった。

「山本のお墓はこちらです」

 墓地全体に合掌した後、三段上の区画に上る。

「立派なお墓ぁ」

 上様に招かれてお城の奥に上がった時、チラリと見えた将軍家のお墓を一回り小さくしたような立派なお墓だ。

「いえいえ、なかなか行き届きません……これは、少し掃除してからだなぁ。お手伝い願えますか?」

「はい、喜んで」

 よく見ると、墓石もくすんで、墓域の端っこの方は草が生えたり枯れ葉が溜まったりしている。

「道具がいりますねえ……少々お待ちを」

 和尚さんがハンベをクリックすると、麓の方からガシャガシャと音がして、四足歩行の作業機械が上がってきた。

「檀家さんから農作業用の型落ちを譲ってもらいましてね」

「すごいですねぇ、三世代前のピックアップですよ!」

 ガッシャン プシュー

『ソウジガスンダラ ジブンデ ドウグハモドシテクダサイ』

 すごい、自己収納機能すらも無いんだ(^_^;)

「さ、やりましょうか」

「はい!」

 なんだか、学校時代に奉仕活動をやってるみたいで楽しくなってくる。

「でも、少しは手入れされてるんですねえ、他のお墓はもっと荒れてるのがありますよ。やっぱりお身内の方が?」

「いえ、この十年余りはどなたも……」

「でも……」

「たまに家内と二人で……」

「ああ、そうだったんですか!」

「あ、今のは内緒です。他のお墓は行き届いてませんから」

『シンガタ カエバ ヤッテクレマス カタログダウンロードシマショウカ?』

「今はいいよ。どうもCM機能はしっかりしているようで(^_^;)」

「あはは、あ、ごめんなさい」

「いえいえ、勘十郎は家内の先輩なんです」

「え……」

「わたしは高校の同期で、ま、そんな縁もありましてね……」

 和尚さんの横顔にほんのりと朱がさす。

 ひょっとしたら、なにかドラマめいたことがあったのかもしれない。

 一通り手入れも終わって納骨。

 こんど扶桑に戻ったら、作業機械のいいのを見繕って送ろうと思った。

 だって、わたしとダッシュの出せる供養料ってたかが知れてるしね。


 いい汗をかいて、甲府からリニアに乗って東京を目指す。

 たった一日だけど、9年前の修学旅行を偲んでみようと思う。

 ピーヒョロロ……

 発車までの僅かな時間、お弁当を買って空を見上げると、トンビがきれいに輪を描いた。

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第138話《おとついの蟻さん?》

2024-04-13 06:57:13 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第138話《おとついの蟻さん?》さくら 




 コップに半分の水をどう表現するか?


 もう半分しかない派と、まだ半分有る派に分かれる。

 わたしは「まだ半分有る」派のお気楽人間。

 だから、デフォルトのわたしは夏休みが半分過ぎても、小遣いが半分になっても「まだ半分有る」と、ポジティブに生きている。

 でも、今度の中間テストでは逆だった「もう半分終わった!」と思って、マクサと恵里奈とついカラオケでハジケテしまった。まあ、女子高生の自称『ナントカ派』なんてあてにならないんだろうけど。

 一応は、マクサの家でお勉強という名目だったけど、10分もたつとガールズトークになってしまった。

 昨日の日本史のテストで居眠りして『蟻さんの夢』の話をしたのがよくなかった。マクサも恵里奈もケラケラ笑って勉強にならない。

「ちょっと休憩にカラオケでもいこっか!」

 お気楽が伝染した恵里奈が言いだした。言いだしべえは恵里奈だけど、三人とも同じように気が弛んでいたことは確かだ。けっきょくマクサんち近くのカラオケで5時まで遊んでしまった。夢の中の蟻さんが言ってたシンパシーなんだろうけど、気持ちの発信者はわたしだ。それくらいの自覚はある。


 三人それぞれ家に帰ってから、今日のテスト勉強はしてるので、ノープロブレムっちゃ、それまでなんだ。だけど、めっちゃきつかったし、朝は久々にお母さんに起こされた。

「また、髪の毛乾かさずに寝たでしょ」

 怒られた。

 お母さんはフェルンじゃないから櫛なんかかけてくれないし、久々にヘアピンをXの形につけて学校に行く。電車の窓に映った顔はショボショボでエルフの魔法使いそっくり。でも、魔法なんて使えないし奇跡も起こらなくてみっともないだけ。

 ダスゲマイネ

 久々に呪いの言葉まで浮かんで気持ちは完全にブルーだ。

 高校二年にもなろうかと言うのに、わたしは一年先の自分も見えていない。で、マクサや恵里奈のようにクラブとかにどっぷり浸かって高校生活をエンジョイしきっているわけでもない。その時その時の面白いことに引きずられ騒いでいるだけだ。

 お姉ちゃんは大学に行きながら出版社でバイト。近頃ではバイト以上の能力を発揮して記事のネタを拾っている。こないだの兵隊さんの髑髏ものがたりが大ヒット。むろん編集責任は本業の編集者になっているけど、中身はお姉ちゃんが集めてきたものだ。

 お姉ちゃんは、確実に自分の道を探り当てつつある。

 そうニイは、海上自衛隊の幹部で、全身生き甲斐のカタマリ。たまに帰ってくると、妹としてはとても眩しい。そうニイには、相変わらず無邪気でわがままな妹一般で通している。兄貴は「相変わらずのガキンチョ」だと思ってるだろう。

『ゴンドラの唄』が少しブレイクしかけた。SNSのアクセスも沢山あって、スカウトなんかも少し来た。

 でも、あれはひい祖母ちゃんが歌っているのといっしょ。けしてわたしの力なんかじゃない。それはわたしとひい祖母ちゃんだけの秘密なんだけど、お姉ちゃんは知ってか知らでか、わたしが、流れのままにそっちにいく道を閉ざしてくれている。

 本当は、今日の午後はラジオ出演が決まっていたんだけど、お姉ちゃんがNGにしてくれた。

 テストは赤点じゃないだろうけど散々だった。親友二人もさすがに直帰。

 帰りの電車に乗ろうとパスを出すと、カバンに着けた招き猫の金具が指に当って血が出てくるし。

 家の近所まで帰りながら、わたしは近所の公園のブランコに揺られている。子供のころから乗り付けたブランコ。わたしは、いつまでこうしているんだろう……。

 足許を蟻さんが歩いている。じっと見つめていると、ふいに蟻さんが顔挙げてわたしを見たような気がした。

 おとついの蟻さん? まさかね(^_^;)。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・092『新学年は2年3組』

2024-04-12 10:04:42 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
092『新学年は2年3組』   




 関西で新学年の二日目でクラス替えをやった中学があった。

 三年生だけなんだけど、臨時休校にしてクラス替えをやり直したというから一大事なわけで、全国ニュースになっていた。


 それと同じくらいの一大事がうちの学校でもあった!


 なんと、新しい二年のクラス、お仲間のほとんどがいっしょの2年3組!

 ロコ、たみ子、真知子、佳奈子、それにメグリ(わたし)の五人はもちろんのこと、委員長の高峰君や10円男の加藤高明なんかもいっしょなんだ!

 そして、担任はコワモテの藤田先生じゃなくて、4組の担任だった花園先生だよ(^▽^)!


「これはね……」


 真知子が腕組みしながら前かがみになる。つられてわたしたちも顔を寄せる放課後の食堂。

「去年の4組って、ちょっと大変だったみたいなのよ……」

「「「「ああ……」」」」

 4組は文化祭前に栗原さんが亡くなって、急きょ担任の花園先生が栗原さんがやるはずだったジュリエットの役をやった。

 本番は大成功で、ご両親も感謝されていたという話だけど、どこかギスギスしているという噂はあった。
 他にも生徒同士のトラブルや、授業の先生との行き違いとか、結果的には丸く収まったということだったけどね。

「担任にしたら、すごいプレッシャーだったと思うのよ」

「「「「うんうん」」」」

「初めての担任だったし、これ以上こじれたら、ね……」

「分かります! 花園先生辞めちゃうかもですね!」

「声大きい」

「すみません(;'∀')」

 たみ子に言われて首をすくめるロコ。みんなは、さらに首を寄せる。

「それで……自分で言うのもなんだけど、学年でいちばんまとまりのある5組の主要メンバーを花園先生のクラスにいれたんだと思う」

「「「「そうなんだ!」」」」

「これは責任重大です!」

「……生意気な言い方かもしれないけど、ちょっと甘いんじゃないかな」

 佳奈子が少し身を起こす。

「なんでですか?」

「もし、花園先生が教師を天職だと思うんなら、少々むつかしいクラスでも担任すべきだと思うよ。若い時に楽しちゃったら、あとが大変だと思う」

 佳奈子は二年になったばかりだというのにバレー部の部長をやらされている。三年はさっさと引退しちゃうし、新入部員はまだ思うほどには入ってないらしいし、そういう身の上と引き比べると、微妙に批判的になる。

「ごめん、やっぱクラブ気になるから行って来る」

 佳奈子はカバンを抱えて食堂を出て行く。でも、少し行ったところで明るく手を振って、けなげに体育館に駆けていった。


 そして、わが身のラッキーさを感謝し、新クラス2年3組の無事を祈るために近場の宮之森神社にみんなで行った。


 ジャララ~ン  パンパン

 お作法通り鈴を鳴らし二礼二拍手一礼して神頼み。

「えと、ここの御祭神てなんだたっけ?」

 お願いしてから、たみ子が不敬なことを言う。

「八幡様ですよ、誉田別命(ほんだわけのみこと)、応神天皇ですね」

「あ、そうだったんだ」

「知らずにお願いしてしまったぁ」

「じゃ、もう一回お詫びも兼ねて」

 真知子の音頭で10円のお賽銭を入れて、もう一回頭を下げる。

 帰りにお守りを二つ買う。

 一つは花園先生に、もう一つは佳奈子に。

 
 お金を払って顔を上げると、なんと巫女さんは御神楽さん( ゚Д゚)!

 ビックリしていると、口の形だけで――アルバイト――と言ってウィンクした。

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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