大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・044『露天風呂のナザニエル卿』

2024-04-30 10:47:23 | カントリーロード
くもやかし物語 2
044『露天風呂のナザニエル卿』 





「罰に、露天風呂の掃除をやっとけ!」


 ソフィー先生に叱られる。

 夕べ、ネルに届いたお祖父さん(ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿)の手紙にビックリして福の湯の湯船の掃除を忘れてしまったからね(-_-;)。

 それで、ジャージの裾をまくって露天風呂に。

「じゃあ、元栓停めるよ」

「まだ、いけるのになあ……」

 露天風呂はかけ流しなんで、お湯を抜いてする掃除は週に一度。おとつい別の班がやったから、そこまでやる必要はないんだけど『ちゃんと湯を抜いてな!』とダメ押しされてるから仕方がない。

 わたしは高圧洗浄機のホースをつなぐ。

 ザッパーーン!!

 いっしゅんネルが浴槽に落ちたのかと思った。元栓は湯船の岩の縁を周らなきゃいけないから足場が悪い。

 でも、そうじゃなかった。

「お、お祖父ちゃん!?」

 なんと、お湯の中に潜っていたんだろう、ナザニエル卿がスッポンポンで岩風呂の真ん中に立ってる。

「待っていたぞ、お前たちも入れ」

「あ、あたしたちは掃除に来たんだよ、お祖父ちゃんこそ(^_^;)」

「四の五の言うな!」

 ヒエエエ(#*´▢`*#)! ザップーーン!

 ナザニエル卿が指を動かすと、いっしゅんで服が消えて、そのままネルと二人、岩風呂に強制入浴させられた。

「セ、セクハラだよ祖父ちゃん!」

「ワハハ、気にするな」

「気にするわヽ(`Д´)ノ」

「…………」

「やくもだったか、君は、少しは分かっているようだな」

「あ、浴槽に投入される時に……」

 ジャージと下着がしゅんかんで消えて、体が持ち上がって風呂に投入される時に、ゾゾっとくるものがあった。

「ああ、すでに入り込まれている。戦闘力は知れているが、諜報能力に優れた妖どもだ。なあに、しばらくはあの者たちが誤魔化してくれる」

「「あ」」

 岩風呂の外では、ネルとわたしのジャージが生きてるみたいに掃除をしてくれている。

「敵には、おまえたち二人に見えている」

「じゃ、ここは?」

「無人に見えている。温泉の性質がいいんでな、魔法の効きがいい」

「で、なんなのよ祖父ちゃん?」

「今も言ったが、すでに入り込まれている。一重目の結界は張り終えたが、もう二重張り足そうと思う。わしは、その作業に専念するから、お前たちに、侵入者の退治をしてもらいたんだ」

「無理だよ、そんな力ないし、うちら、まだ魔法学校の生徒なんだし!」

「コーネリア、お前には力がある。やくも、君にもな。日本ではいろいろ活躍したようだしな」

「いいえ、そんな……」

「いやいや、ここに詳しく出ているぞ」

 ナザニエル卿が指を動かすと、前作『やくもあやかし物語』がゾロゾロ現れた。

「ワシは、すでに女王陛下や森の女王ティターニアにも話をつけた。他にもデラシネが役に立ってくれそうだしな。そうそう、アーデルハイドも捨てたものじゃない。だれと、どう力を合わせるかはお前たち次第だが……」

「ちょ、待ってよお祖父ちゃん」

「グダグダ言うな。必要な情報は、その都度知らせてやる。励め」

「励めたって……」

「これ以上は、お祖父ちゃんではなくて、ツボルフからの命令になるぞ」

「グヌヌ……」

 ツボルフ?

「さあ、では、当面の敵について……」

 ナザニエル卿は、現時点で確認できている七種類の妖について説明してくださる。卿も退治してくださるようだけど、結界を張るのが第一の仕事なので、がんばって欲しいと……見つめられる目は、ちょっと怖いかも(^_^;)

「では、よろしくな」

 そう言うと、卿はクルリンと指を回す。

「「ああああ!」」

 ネルとふたり、岩風呂から放り出されたかと思うと、空中で一回転。あっという間に水気が抜けて、着地した時にはジャージを着ていた。

 振り返ると、卿の姿はすでになかった。


 朝になって、岩風呂の浴槽の掃除をし終わっていないことに気付いたけど、叱られることもやり直しを命じられることも無かったよ。

 でも、卿が言ってたツボルフって何のことだろ?

 


☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名
 

 

 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)016・「あ、あのぉ、松井先輩ですか?」

2024-04-30 06:38:50 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
016・「あ、あのぉ、松井先輩ですか?」                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです





 在籍確認をすればいいのだと分かった。


 一年以上活動実績が無い部員は、生徒会規定で正規の部員とは認められない。

 活動実績とは、日々の部活への出席が基本なのだけれど、今時毎日の出席を確認しているような部活は、ごく一部に過ぎない。
 それで、運動部なら選手登録や試合。文化部ならコンクールや発表会へ名前を連ねていることが有効なのだが、それも出来ない場合は所定の用紙に、本人が署名捺印し、それを生徒会に提出すれば暫定的に在籍確認できることになっている。


「あのー……」


 と声を掛けただけで教室中の注目を浴びてしまった。

 下級生が3年生の教室にやって来たのだから目立つ。それも男子が女子の車いすを押しながらなのだから、何事かと思われる。

「えと……松井先輩はいらっしゃいますか?」

「松井くーん、下級生の面会やでえ!」

 千歳の声に、体育委員という感じの女子が声を張り上げてくれた。

「え、おれに?」

 運動部の部長らしい引き締まった体の男子が顔を向けた。

 最初に声を掛けたのが千歳ということもあって、教室の注目はマッチョの松井と車いすの可愛い下級生に何事かと集中した。

 こういうのは苦手な啓介だが、千歳は手慣れた笑顔で訊ねた。

「あ、いえ松井須磨さんのほうなんです(*´▽`*) 」
 

「「「「「「「「「「え?(;゚Д゚)(゚Д゚;(゚Д゚;) 」」」」」」」」」」


 不用意にヴォルデモート卿の名を口にしたように教室の空気が気まずくなった。

「あ……その松井さんやったら、タコ……あの部屋、なんていうんやったっけ?」

 体育委員風は、病原菌が入った瓶をを放り出すように背後のクラスメートたちに聞いた。

「……生徒指導分室」

「1階の突き当り。『分室』とだけ書いてあるから。ま、行ってみい」

 別人の松井が車いすの傍まで飛んで来て、指差して教えてくれた。

「どうもありがとうござい……」


 ピシャ!……お礼を言う前に教室のドアは閉められてしまった。


「……なんや、イワクありすぎいう感じやなあ、松井さんて」

 車いすを押す啓介の声は緊張してきた。

「なんだか、魔法学校の映画みたいになってきた( ˶˙ᴗ˙˶ ) 」

 千歳はワクワクしてきているようだ。


 生徒指導分室は一階と言っても、今まで踏み込んだことのない校舎の外れだった。


「……失礼しまーす」

 3回目のノックにも反応が無かった。

「入ってみようか……」

「う、うん……」

 分室のドアはロックされておらず、ノブを回すと簡単に開いた。

「失礼し……あれ?」

 教室の1/4ほどの分室はゼミテーブルが4つ引っ付けられて島のようになっていて、その向こうに背を向けたソフアーがあったが人の気配はなかった。

「留守かなあ……」

「ね、あれ……」

 千歳が指し示したソファーの背から、わずかに足の先が出ている。

 車いすを寄せて回り込むと、ソファーに俯せで寝ている女生徒がいた。

「あ、あのぉ、松井先輩ですか?」

「う、う~ん」
 
 寝返りを打った顔は整ってはいたが、目と口が半開きになってヨダレが糸を引いていたのだった。
 


☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜
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勇者乙の天路歴程 017『空気も無ければ上下もない』

2024-04-29 10:20:23 | 自己紹介
勇者路歴程

017『空気も無ければ上下もない』 
 ※:勇者レベル3・半歩踏み出した勇者




 ドップーーン……というような水音はしなかった。


 まるでVRの仮想現実のようにリアリティーがありながらも実感が無い。

 手で水をかき、足でけっても手応えも足応えも無い。

 見上げると、三途の川の水面はすでに遠く、水圧も感じなければ水の実感も無い。口に咥えた酸素ボンベで呼吸しているのにあぶくも出ない。

 なんだこれは?

 おい、ビクニ!

――アワテルナ ココハ スベテノハジマリダ――

 だれだ、おまえは? ビクニはどこだ!?

――コレガビクニダ スベテノハジマリ スガタハナイ――

 ……なぜ姿が見えない? 声も変だぞ?

――アルノハ ナカムラ オマエヒトリダケダ――

 そ、そうか……しかし、無重力で上下の感覚も無いぞ。

――スベテノハジマリダカラナ――

 ……そうか……なんだか眠くなってくるなぁ……

――ネムルナ ネムレバ ナニモハジマラズニ スベテガオワッテシマウ――

 そうなのか

――ココデ タシカナモノハ ナカムラガ カンガエテイルトイウコトダケダ コギトエルゴスムダ――

 コギトエルゴスム……われ思うゆえにわれあり……か。

 それで、何をすればいい?

――ウエトシタ――

 ウエトシタ……飢えと舌? 上戸彩? あ、上と下か。

 でも、どうやって……?

 考え始めると、二つの矢印が現れてフワフワと漂い始めた。

 これでなんとかしろというのか?

――ヤジルシハナカムラノカンセイダ、ナントカシロ――

 なんとかしろと言われても……

――ナントカシナケレバ エイエンニ ココデ タダヨウダケダ――

 それはかなわない(;'∀') もう少し酔いかけてる。

 息子とコミニケーションをとろうとして、VRゴーグルを買った時のことを思い出す。レースゲームをやったらコースを一周もせずに酔ってしまって、なけなしの父親の権威は五分も持たなかった。

――ガンバレ ソウイクフウダ――

 ソウイクフウ……ああ、創意工夫か……と言われてもなあ……。

 矢印を重ねてみたり、逆立ちさせたり……二つあることがミソなのだろうと、先っぽをひっ付けて見たり逆にしたり。時計の針のように回してみても何も起こらない。

 クソ

 少しイラっときて振ってしまうと、矢印はバラバラの三本の棒になってしまった。もう一つを手に取ると、同じようにバラバラになる。

 グヌヌ

 なんだかパズルだ。苦手なパズルだ。

 なんだか息苦しい……ひょっとして酸素ボンベが切れてきた?

 待てよ……水の中でもないのに酸素ボンベって必要あるのか?

 そう思って、酸素ボンベを外してみる……。

 ハーーハーー

 え、苦しい、ひょっとして空気が無い!?

――オチツケ ボンベノサンソハジュウブンダ オチツイテヤレ――

 わ、わかった(-_-;)

 気を取り直して矢印をこねくり回していると『T』の縦棒に残りの一本がひっついて『下』の字になった。横棒を軸にひっくり返すと『上』の字に変わった。

 ユーレカ!

 アルキメデスの喜びの文句が湧き上がり、『上』を頭の方に『下』を足もとに投げた!

 ん……ウワアアアアアアアア( >▢<)!

 真っ逆さまに『下』の方に落ちていってしまった!

 


☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
 

 

 

 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)015・いかにも伝統校の伝統演劇部

2024-04-29 06:30:11 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
015・いかにも伝統校の伝統演劇部                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです





 演劇部の部室は旧校舎一階の東端にある。


 創立以来の蔦の絡まる木造校舎は、それだけでも歴史と文化を感じさせ、ブログや新聞に載った佇まいは、いかにも伝統校の伝統演劇部である。

 特に夕方、茜色の夕陽に晒されると、ギロチン窓の窓越しに見える啓介と千歳の姿は素晴らしい。
 映画の中の演劇部員が秋の公演に向けて資料や戯曲を読み漁っているように見える。

 時おり見せるため息や吐息をつくさまは、青春の真中(まなか)で呻吟する若人の姿そのものであり、昭和の日活青春映画やジブリアニメの主人公を彷彿とさせた。

 千歳がチェ-ホフ短編戯曲集第二巻から目を上げて、なにやら問いかける。啓介は顔を上げてひとしきり千歳の問いに真剣に答える。麗しくも頼もしい、あるべき青春の一コマである。

「……お説は分かったから、その聴覚的受容の在り方についてだけ考察しなおしてくれないかしら?」

「二次元的視覚効果を補完するための聴覚効果は妥協したらあかんと思うし、互いに尊重し合うべきやと思う」

「しかしね、同じ創造空間を共用する者としては、相手の感性への共感と尊重の意識が重要なファクターになると思うのよ。間違ってる?」

「江戸の昔には3千万人に過ぎなかった列島に1億2千万人で生活しているんや。都市の生活環境の中で生きることを内発的に是認して、いや、所与の条件として見据えていかんと、二十一世紀中葉の喧騒に耐えられる文化の担い手にはなられへん!」

「あのね……簡単なことなのよ。モンハンやるならヘッドホンとかしてって話よ! ちっとも集中できないでしょ!」

「そういう自分かて、チェ-ホフの短編に挟んで読んでるのは『葬送のフリーレン』やねんやろが!」

「あ、そいうこと言う!? コミックは低俗って、昭和も30年代の感覚じゃないの! 信じらんない!」

「そんなこと言う前に、オレが言うたサブカルチャー論、なんにも分かってへんやんけ!」

 二人は、放課後の部室で思い思いの時間を過ごしていたのである。

 啓介は、自由になる隠れ家を。千歳は、精一杯学校生活を営んだというアリバイが欲しい。そのために朝の連ドラも真っ青というほどのロケーションとして、演劇部の皮を被っている。

「……て、こんな場合じゃないのよ! 今週中に部員を5人にしないと、部室取り上げられんでしょ!?」

「あ、つい安心してしもてた!」

「なんか手立てはないの?」

「宣伝はしまくったし、個別に一本釣りもしてみたけど」

「ブログにも書いて、新聞社にまで来てもらったけど」

 そう、千歳の機転で、先週一週間、演劇部の露出度はなかなかのものであった。

 だが「がんばってるのね!」という評判はたっても「じゃ、自分も参加しよう!」ということにはならない。もっとも、真剣に演劇部をやろうという気持ちはハナクソほどにも無い二人ので、間違って「演劇命!」という生徒に来られても困るのではあるが。

「せやけど、そんな都合のええもんて居るやろか?」

「めったにはね。でも、せめて一学期一杯くらいは続いてくれなくっちゃね」

「人のこと言えんけど、千歳もたいがいやと思うで」

「ねえ……思うんだけど。幽霊部員とかいないの?」

「幽霊部員?」

「入部だけして来なくなっちゃって、はっきり退部の意思表示していないようなの?」

「ここ二年ほどは、オレだけやさかいなあ」

「じゃ、それ以前は?」

「え、三年生かぁ? さすがに三年生には……」

 そう言いながらも、啓介は古い演劇部の資料を当たってみた。

「え~~~と……」

「あ、この人( ゚Д゚)!」

 二人の目は、4年前に入部届を出した松井須磨という女生徒を発見した。

「でも、4年前ってことは、卒業してるよなあ……」

「ひょっとしたら留年とかして……ちょっと行ってくる!」

「どこ行くんや、千歳!?」

 千歳は、生徒会室に行って3年生のクラス別名簿を確認した。サラサラと流し見ただけだが発見できた。


「3年6組に居るよ!」


 松井須磨!


 留年した本人か、はたまた同姓同名の別人か……?


 
☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜



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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・096『運命の道案内!』

2024-04-28 17:00:29 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
096『運命の道案内!』   




「認知症の進んだお婆ちゃんを夫のお爺ちゃんが、発作的に殺してしまったのよ!」

 結婚式場で巫女をやっている時には見せたことが無い悲痛な表情で言う御神楽さん。

 同居の家族は、前の晩から旅行に出かけて、家にはお婆ちゃんとお爺ちゃんしか居なかった。

 あれは……朝寝なんかじゃなかったんだ(;'∀')。

「いまなら間に合う」

「え?」

「旅先からお孫さんが電話して、誰も出ないもんだから、防犯カメラをチェックして気づいたのよ。これ……」

 御神楽さんがワイプすると目の前に3Dの画像が出てきた。

 早乙女家は、万一のことを考えて、家の三か所にカメラが設置されていて、スマホで確認できるようになっているんだ。

 でも、死角になっているんだろう、映像にお爺ちゃんもお婆ちゃんも姿は映ってない。雨戸が閉まったままなのは異常。

 息子さんが車で戻って確認することになったようだ、奥さんとお孫さんが心配顔で見送っている。

「息子さんが発見したら万事休す、でも、今なら間に合うかも!」

「どうするんです(;'∀')?」

「実はね……」

「え…………ええ!?」


 というわけで、わたしは有楽町を歩いている。


 御神楽さん(須世理姫)が乏しい神さまの力でテレポさせてくれたんだ。

 電車で行っていたら間に合わないからね。

 ……緊急事態なんでスマホで調べながら歩いてる。

 わたしのスマホは魔法少女仕様なので、昭和46年でも使える。

 むろん昭和の時代にスマホがあるわけないので、できるだけ使わないようにしてるし、使う時はこっそり手鏡を見ているふりをする。

 でも、今は緊急事態。道を歩きながら、ある場所を探している。

 目標は二つ。

 Tテレと略して呼ばれる帝国テレビ。それと、Tテレにたどり着けないで道に迷っている若き日のお婆ちゃん。

 昭和46年ではまだ二十歳の池田すみ子さんだ。

 Tテレで行われる新人俳優のオーディションを受けに行くんだ。お婆ちゃん、いや、すみ子さんは、初めての有楽町で迷ってしまって、オーディションに間に合わなくて俳優の道を諦めてしまう。

 でも、受けていれば合格して、令和の時代では大御所女優として君臨。

 むろん認知症にもなっていなくて、お爺ちゃんに殺されることもない。

 そうなのよ!

 池田すみ子さんを見つけて、無事に……と、思ったらスマホの地図にドットが現れた!

 すみ子さんを表す赤のドット!

「あの……ひょっとしてTテレを探してます?」

 できるだけ冷静に声をかける。

「あ、はい。東京は初めてなんで……あなたも!?」

 あ、これは想定外。

「いいなあ、学生さんは制服で来られるからぁ。わたし、着ていくものに悩んでしまって地図の確認がおろそかでえ(^_^;)」

「あ、わたしは家の用事で……」

 適当なことを言ってごまかして、地図に出ているもう一つの青のドットを目指す。

 すみ子さんはオーディションを受けるだけあって、明るくてよくしゃべる。

 もし道案内がもうちょっと長くかかったら、適当に合わせてるだけの時司巡の話は種切れで破綻してしまってただろう。

「ああ、ここだここだ! どうもありがとう、時司さん!」

 令和のTテレビからは拍子抜けするようなビルだったけど、五分ちょっとで着くことができた。

「じゃ、がんばってくださいね!」

 手を振ってTテレに入っていくすみ子さんを見送ると、急いで横っちょの道に入って、一日に一回の魔法で学校に戻った。


「いけないわねえ、時司さん、連休前で気が緩んでるんじゃないのぉ」


 一時間目の授業には遅刻してしまい、ちょうど授業だった花園先生に叱られてしまった(;'∀')。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 


 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)014・千歳のアウフヘーベン

2024-04-28 08:07:08 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
014・千歳のアウフヘーベン                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです




 予感はしていたが校長室に呼ばれた。


「沢村千歳さんのチャレンジ精神と、それを受け入れた小山内啓介君の前向きな心に拍手を送りたいと思います」

 校長のお祝いの言葉はテイク3でOKが出た。

 千歳と啓介は校長の前に進み、恭しく励ましの言葉がしたためられた色紙を受け取った。

 パシャパシャパシャパシャパシャパシャ

 すかさずフラッシュが光り、連写のシャッター音が続く。

「なんとか夕刊に間に合いますよ(^^♪」

 A新聞の記者が――嬉しいでしょう!――と言わんばかりの笑顔で言った。

「3人並んだところの写真なんかいりませんかね?」

 理髪店の匂いをプンプンさせながら校長が言う。A新聞の取材と聞いて、校長は1時間の時間休をとって散髪に行ってきたばかりである。

「連写した中から選びます、自然な感じなのがいいですから。動画も撮っていますので、それはネットで流れますから(^▽^)/」

 天下のA新聞だ、どうだ嬉しいだろう! というマスコミ笑顔で記者はとどめを刺した。


 千歳は身障者対応の自販機の前で撮った『乾杯の写メ』を付けてブログに載せると共に、主要四大紙に送ったのだ。


 予想通りA新聞が食いついてきた。

 完全バリアフリーモデル校である惣堀高校の演劇部に車いすの女生徒が入部したのである。こういうことが大好きなA新聞の地方欄にはうってつけだった。

 こうして、千歳の演劇部への入部は惣堀高校のエポックになった。

 エポックというのは、なにか始まりそうな予感というような意味で、それ以上でもそれ以下でもない。

 だから、校長が予定よりも2週間早く散髪に行った以外には、世間も学校も、取り立てて何もしてはくれない。


 そんなこと、千歳は百も承知だ。


 千歳は「千歳は頑張っているんだ」という熱意の発信ができればいい。この発信のポテンシャルが高ければ高いほど学校を辞める時は「仕方が無かった」ということになる。

――惣堀高校では地に足を付け前に進むことの大切さを学びました――

 その後の言葉に困っていた。 こんなに充実してるんだったら辞めることはないだろうと言われる。ある都知事の言葉を聞いて、これで行こうと決めた。

――そして、千歳はあえて惣堀を後にします――

 なぜ? どうして!? みんな聞くだろう。

――自分をアウフヘーベンするために!――

 おお!

 みんな、御本家のアウフヘーベンを知っているから、あとは聞かない。

 あとは満面の笑みで校門を後にすれば、一丁上がり!

「大丈夫よ、新聞の地方欄なんてほとんど注目なんかされないから」

 隠れ家としての部室が欲しいだけの啓介は新聞社なんかが来て、少し不安になっていた。
 まっとうな演劇部活動をやろうという気持ちは毛ほどもない。ないから不安になる。しかし、千歳の見透かしたような物言いには、どこかカックンとなってしまう。


 だが、一つだけ影響があった。


「部員の充足、もう一週間待ってあげるわ」

 生徒会副会長の瀬戸内美晴がポーカーフェイスで伝えに来た。

「え、どういう風の吹き回しやねん?」

「校長の申し入れよ。あたしもうかつだった、校長が居るのにも気づかなくて生徒会顧問に確認したのよ『演劇部の部室明け渡し、今日確認します』て、そーしたら『もうちょっと待ってやってくれへんやろか』て言われたのよ。むろん、校長とはいえ素直に聞く気はないけどね、定例の部長会議やる視聴覚教室の許可願の不備を突かれてね。ま、それで一週間延期。一週間延ばしてもなんにも変わらないだろけど、フェアにやりたいからね。ほんじゃ……」

 イーーーダ(σ`д゜) !

 美晴が出て行ったドアに思い切りアカンベエをする啓介。

 …………( ˂˃ ‸ ˂˃)

 千歳は、もう一工夫やってみる必要を感じた……。



☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜


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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・095『連休初日は令和だけ』

2024-04-27 10:36:18 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
095『連休初日は令和だけ』   




 令和の今朝は連休の初日だ。


 まあ、暦的にはレギュラーの土曜日で、私立の高校なんかは授業があって、ちょっと前を歩いている私立の生徒はいつものように駅を目指してる。だけど、寿川沿いの道を往く人はウィークデイの半分ほどしかいないよ。

 あ、カギ閉めたかな!?

 うちのお祖母ちゃんは、夕べから出かけているので、今朝の戸締りはわたしだ。幸い、家を出てすぐに思い出したんで、すぐに確認。

 ガチャガチャ

 よし、大丈夫。指さし確認までして念を入れる。

 三軒隣りの早乙女さん(例のお婆ちゃんの家)は、まだ雨戸が閉まっている。

 お婆ちゃんが付いてこなくなったのはいいんだけど、連休初日で、一家そろって朝寝を決め込んでいるのは羨ましい。


 橋を渡って昭和の街へ。


 Gの標石を念入りに蹴ってから最寄りの奥宮駅。

 桜はとうに散ったけど、八重桜が残っていて、ちょっとだけ雰囲気。

 ホームに立つと、電車待ちのオッサン達がみんなタバコ喫ってる。

 ベンチの横の吸い殻入れからは煙が立っていて、駅員さんがボトルに入った水をぶっかけて消している。この駅員さんがホームの際まで出てくると列車の到着が近い。
 令和の時代だと、次の列車がどこまで来てるかディスプレーに出るんだけど、昭和の駅にそんなものは無い。

 え……際まで出てきた駅員さん、また引っ込んだ。

 顔が緊張してる。そうか、この四月に入社した新人さんだ。

 もう列ができ始めてるし、そのままシルシのところに立つ。

 上りと下りの線路の間に低い立札『線路は灰皿ではありません』が立っている。よく見るとホームの下はタバコの吸い殻が虫の死骸みたいにウジャウジャ。

 もう一年も通っているけど気が付かなかった。

 むろん、タバコ喫ってる人がいるぐらいのことは思ってたけど、こんな嫌な感じに思うのは気分が令和の連休モードになっているからかもしれない。


 戸締りをし直したせいか、電車が微妙に遅れた。それとも一本遅いのに乗ってしまったか、宮の森の駅でロコといっしょにはならなかった。

 時計を見ると、いつもより二分ちょっと遅れてる。

 時計の下に札がぶら下がっていて『4月27日よりダイヤ改正しました』と案内が出ている。

 そーか、気が付かなかった(^_^;)。


 昇降口で上履きに履き替えて顔を上げると御神楽さんが立っている。

「あら」

「ちょっといい?」

「あ、はい」

 カバンを持ったまま中庭へ。

「早乙女さんち、雨戸が閉まったままだったでしょ」

「え、ああ……」

 三十分前に羨ましく思ったばかりばかり。

「朝寝なんかじゃないのよ……」

「え、じゃあ?」

「実は……」

「え……ええええ(; ゚д゚) !?」

 心臓が停まりそうになった。

 
 早乙女さんのお爺ちゃんが、お婆ちゃんを殺して自分も命を絶った!

 線路に虫の死骸のような吸い殻を見つけた、あの時の千倍も気分が悪くなってきた……。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

 


 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)013・かんぱーい!

2024-04-27 06:27:00 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
013・かんぱーい!                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです




 忌々しくはあったが入部を認めざるを得なかった。


 なんせ今週中に部員を5人にしなくては部室を取り上げられる。

「せやけど、なんでそこまで正直やねん!?」

 お互いのいろいろを言い合っているうちに、啓介の声は大きくなってしまった。

「きれいな嘘をついて、あとでグチャグチャになりたくないもん」

「もっぺん聞くけど、学校辞めたいんやったら退学届け書いて学校に出したらしまいやろがな」

「だ~か~らあ、入学して1か月で辞めたら親とか心配するでしょ? 心配されるってウットーシイものなのよ。ただでもこの年頃ってさ『多感な年ごろだからそっとしておこう』なんて思われちゃうの。高校生の自殺って9月の第一週と春の連休明けが多いの。ため息一つついただけで『あ、自殺考えてる!?』とかになっちゃって腫れ物に触るような目で見られるのよ。学校だって放っておかないわ。やれカウンセリングだ、やれ事情聴取だとかで家まで押しかけてくるわよ」

「ええやんか、心配させといたら」

「あのね、あたしは足が不自由なの、車いすなのよ、そんな子が『辞めたい』って言ったら普通の子の10倍くらいネチネチ干渉されるのよ。この学校ってバリアフリーのモデル校だけど、それってハードだけだからね。実の有る関わり方って誰もしないわ。そんな人間オンチに口先だけの言葉かけてもらいたくないの」

 啓介はイラついていたが「口先だけの」という言葉には共感してしまった。

「それにね、あたしの足がこうなったのは事故のせいなんだけど、その事故の責任は自分たちにあるって、お父さんもお母さんも思ってる。そんな親に思いっきり心配されるのって絶対やだ!」

「しかしなあ、演劇部つぶれるのを確信して入部するて、ちょっとオチョクッてへんか?」

「だってそうなるわよ。あなただって隠れ家としての部室が欲しいだけじゃない。放っておいたら、今週の金曜日に演劇部は無くなるわ。でも、あたしが入ったらもうちょっと持つわよ。車いすの子が入ったクラブを簡単には潰せない。そうね~、まあ今学期いっぱいぐらいは持つんじゃないかなあ。金曜日に潰れるのと、夏まで持つのとどっちがいい?」

「ムムム……………」

 どこか釈然としない啓介だったが、利害関係という点では了解していることなので沈黙せざるを得なかった。

「よし、じゃ新生演劇部の出発! 乾杯しよう(^▽^)!」

「乾杯って……ここなんにもないで」

「なきゃ、買いに行けばいいじゃないの」

「わざわざ……」

 そう言ったときには、千歳は廊下に出ていた。車いすとは思えない素早さだ。


「これって、うちの学校の象徴だと思わない?」

「え?」


 空堀高校はバリアフリーが徹底していて、ジュースの自販機もバリアフリー仕様。お金の投入口も商品の取り出し口も車いすで買える高さになっている。

「いくら手が届いても、物言わぬ自販機じゃねえ……」

「そやけど自販機がしゃべってもなあ」

「あなたもいっしょなんだ」

「え、なにが?」

「ううん、なんでも……じゃ、あそこで」

「え、部室に戻らへんのんか?」

「いいからいいから……」


 千歳は啓介をリードして中庭の真ん中に来た。


「え、こんなとこで?」

「うん、みんなが見てる……あ、すみません、今から乾杯するんで写真撮ってもらえません? 連写でお願いします!」

 通りがかりの女生徒に声を掛け、スマホを預けた。

「じゃ、新生演劇部に……かんぱーい!」

 パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ

 女生徒は連写で10枚、乾杯の瞬間を写してくれた。

 ホログラムの発声練習では見向きもされなかったが、この乾杯の瞬間は、ほんの一瞬だけど数十人の生徒と数人の先生が見ていた。


 五月晴れの中庭で、やっとインチキ演劇部が動き始めた。



☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜
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鳴かぬなら 信長転生記 178『栞のひとり語り』

2024-04-26 15:17:56 | ノベル2
ら 信長転生記
178『栞のひとり語り』書籍栞(範夫人) 





 若いころから本だけ読んでいられればいいという人だった。流行らない書店をやるにはうってつけの性格。


 たまに出かけることがあっても、本に書いてあることを確かめるという感じで、用件さえ済んでしまえばさっさと戻って来る。本に書かれていることを補強、確認するための旅。

 五回に一回ぐらいは「栞ちゃんもどうですか」と誘ってくれて、年に一度ほどは「そうねぇ、それじゃあ」と、今回のように付いていく。たいてい、美味しい名物料理とかがあるところで、たまにおいしいものを食べさせれば女房孝行だと思っている。危なげが無く安心できる亭主。

 ごくたまに「ちょっと見てくる」と日帰りの小旅行に行く。これに誘われたことは無い。

 これも雑誌とかに出ている歌姫や女優さん、時には売り出し中の遊女を観に行く。これも、雑誌の評判を確かめに行くという風で、色香に迷うとかハマってしまうことはない。

 そうやって、本に書かれていることのイメージを確かにして、常連さんと新刊本や古書籍のあれこれを喋っていれば幸せという人だ。

 あ、一度だけ……呉王孫策さまのお妃、大橋さまが豊盃楼を買い取ってパサージュにされたとき。あの時の大橋さまを見る目はちょっと危ないかと思ったわ。
 だけど、義弟のカメラ小僧……孫権くんが「範じいちゃんのは……ほら、こういう目ですよ」と写真を見せてくれた。

 その写真は朝の豊盃寺、ご本尊にお参りするお年寄りたちのお祈りする姿だった。

「純粋に祈るという姿は尊いですね。散歩で寄った時に思わずシャッター切っちゃったんですけどね。そうそう、義姉さんも言ってましたよ、パサージュの説明会で『そんな目で見ないでくださいな、まだまだ仏さまになる気はありませんから』って」

 その大橋さまが、旅の手配をしてくださって、前回は亭主ひとりで敦煌あたりまで足を延ばしたんだけど、こんどは夫婦二人で。「あとで土産話を聞かせてくださいな」と微笑まれて。
 むろん、孫策さまのお妃、いろいろねらいの有ってのことなんでしょうけどね。ろくに新婚旅行もできなかった老夫婦には願ってもない御褒美。

 あちこち足を延ばして、とうとう赤壁までやってきて、思いもかけずに魏王曹操さまにもお目にかかれてお話ができた。

 かねがね、魏の曹操さまと言えば、悪逆非道なサイコパスと聞いていたけど。どうしてどうして、ご自分の魏だけではなくて、三国志全体の発展を願って長江治水の大工事をかって出られ。それも、隣接する呉や蜀のこともお考えになられて。

 ホホホ、いま思い返してもおかしいわ。曹操さまを見るわたしの目は、主人が大橋さまを見る時の目と、きっと同じでしたよ(^_^;)。

 
 それで、仏さまには尽さなければなりませんからね。


 赤壁から、さらに西に向かいました。洞庭湖を臨む岳陽では湖水の向こうに舜帝の御陵を見た時は、少女のように「ステキ!」を連発して「ねえ、ひょっとしたら汨羅 (べきら)に身を投じた屈原さんに会えるかもぉ(^▽^)!」と年甲斐もなくはしゃいでしまいました。

「土座衛門になった屈原に会ってもしかたないだろうが」

 真顔で返す亭主は、所帯を持ったころの文学青年時代のようにトンチンカンで笑ってしまいました。

「あなただって、ずっと西の空を見てるじゃないですか」

 そう返すと、こう言いました。

「……空が青すぎる」

「青くちゃいけないんですかぁ」

「いや、この時期は西の空は花粉が舞って、もっと霞んでいるものなんだ、時には河北の黄砂をもしのぐと言われている……」

 そう言うと、懐から『長江古説』という本を出し、二三度めくって静かに呟いた。

「はるか西方で大雨が降っている。花粉は雨に打たれて落ちてしまったんだ……栞ちゃん、ここで待って居ろ、ちょっと確かめてくる!」

「あ、ちょっとぉ!」

 亭主は、どこにそんな力が残っているんだという勢いで西に向かって走って行った。

 


☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
 


 


 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)012・千歳の入部

2024-04-26 08:41:36 | 小説7


REオフステージ (惣堀高校演劇部)
012・千歳の入部                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです




 とにかく驚いた。


 生徒会副会長の瀬戸内美晴から「5人以上の部員がいなければ、同好会に格下げの上、部室を明け渡し!」と宣言されて2週間。

 部員募集のポスターを貼ったり、身近な生徒にしつこく声を掛けたり、セーヤンに頼んで3Dホログラムで部員を多く見せて発声練習をしてみたり。そのことごとくが空振りで、今週の金曜日には演劇部のお取りつぶしは確定する運命であった。

 その運命の崖っぷち、あと一歩で谷底に転落というところで、入部希望者が現れたのだ!

 
 トントン


 部室のドアがノックされた時は瀬戸内美晴の催促かと思い、ぞんざいに「開いてますよ(-_-;)」と顔も向けずに返事した。

 ガラガラ……

 ドアの開く音がしたが、開いたドアの所に人の姿はなかった。

 啓介の定位置である窓側の席からはドアの上半分しか見えない。机にうず高く積まれたガラクタが視界を狭めているからだ。でも見えないと言っても床から1メートルほどである。惣堀は幼稚園でも保育所でもない、高校なんだから身長が1メートルに満たない人間など居るわけがない。

「なんや、気のせいか……」

 啓介が、そう思ったのも無理はないかもしれないが、きちんと確かめなかったのは、入部希望者など来るわけがないという思い込みからだ。

「入部希望なんですけど!」

「イテ!」

 啓介はびっくりして立ち上がり、その拍子にパソコンに繋いでいたイヤホンがバシッっと外れて耳が痛んだ。

「え、えと……入部希望者?」

「はい………………なにか?」

「あ、いや…………」

 入部希望者はルックスこそ可愛いが車いすだった。車いすだから見えなかったんだと、啓介は納得した。

 次に――なんで車いすの子が演劇部に入ろうとするんだ?――という疑問が戸惑いと共にに湧いた。

 空堀高校はバリアフリーのモデル校ではあるけれど、友だちの中に身障者の生徒はいなかった。中学までは野球ばかりやっていたので、身近に関わったこともない。演劇部は看板だけだけれど一応は演劇部、車いすで演劇はあり得ないだろう……などなどが一ぺんに頭に浮かんだ。

「車いすじゃダメなんて、ポスターには書いてなかったけど」

 見透かしたように車いすの少女は言う。

「仮に書いてあったとしたら、それって差別だし」

「え、ああ、そうだよ、そうだよね。障害があるとかないとか、そんなのは全然関係あれへんし」

「それじゃあ……」

「あ、ああ、ごめんなあ。もう入部希望者なんかけえへん思てたから、びっくりしたんや。まあ、こっちの方に、まずはお話し聞こか」

 少女は器用に車いすを操って、啓介が指し示したテーブルの向こう側ではなく、啓介の横に来た。

「1年2組の沢村千歳です。これが入部届」

 保護者印と担任印のそろった書類をパソコンの横に置いた。

 その間、啓介は計算していた――足の不自由な子が入部したら、学校もムゲに演劇部を潰すこともでけへんやろ。ひょっとしたら、この子一人入っただけで存続確定かもしれへんなあ!――

「わたし、演劇部潰れるの前提で入るんだから。そこんとこよろしくね」

「え……ええ!?」

「この部室グチャグチャじゃん。棚の本は色あせてホコリまみれだし、ゴミ屋敷寸前の散らかりよう。とてもまともに部活やってるようには見えないし」

「いや、これはやなあ(^_^;)」

「それに、なんですか、これぇ?」

 千歳の視線はパソコンの画面に移った。

「あ、ああ!」
 
 パソコンの画面では、ボカシの入った男女が絡み合ってあえいでいた。千歳が入ってきたときに驚いてクリックしてしまったようだ。

「四の五の言わずに入れてちょうだい。さもないと部室でエロゲやっているって触れ回っちゃうわよ」

「え、あ、はい!」

 演劇部の新しい扉はエロゲと共に開かれた。



☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜


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銀河太平記・217『納骨の旅・4・秋葉原』

2024-04-25 15:37:35 | 小説4
・216

『納骨の旅・4・秋葉原』ミク 





 万世橋に行くについては神田で降りた。


 最寄りの駅は秋葉原なんだけど、秋葉原の駅に下りてしまったら根が生えてしまって、下手をすると万世橋には行かずじまいになってしまいそうだったからね(^_^;)。

 万世橋商会で用事を済ませたわたしは、足取りも軽く史跡指定もされているラジオ会館に突撃した!

 幼いころから憧れたラジオ会館は、修学旅行で来た時のままだ。外観も内装も全盛期だった平成の終りから令和の頃の状態を残している。

 正面こそはラッピングいっぱいのガラス張りだけど、他の三面は八階建てというだけのビルに過ぎない。その素っ気なさは手抜きなんじゃなくて、建物として堅牢であることの証で好ましい。

「うわあ、リアルエスカレーターだよ!」「上ってる感ハンパない!」

 わたし同様、地方(月や火星も含む)からの観光客が喜んでいる。今どきの商業施設で200年前のエスカレーターなど使っているところは無いんだけど、重要文化財なのでパルスベーターよりも、文化財級のエスカレーターがメインになっているんだ。

 素直にお上りさんになっておこう。

 そう決めて、工場の生産ラインを思わせるエスカレーターに足を載せる。

『エスカレーターをご利用の際は、ベルトにつかまり黄色い線の内側にお乗りになり、お足もとに十分お気をつけくださいませ。またベビーカーや車いすでのご利用はご遠慮くださいますよう。お子様をお連れのお客さまは……』

 なんともレトロなアナウンスがお客を喜ばせている。ひょっとしたら、音源はAIなんかじゃなくて人間のアナウンサーが吹きこんだ声かもしれない。

 階が上がるごとに、フロアーの店舗や売り場が見えてそそられるんだけど、屋上に直行する。

 昔の屋上はスタッフオンリーで買い物客は踏み入ることができなかったけど、今は、その程よい高さが好まれて、屋上展望デッキのようになっている。

 ドリンクコーナーでメロンソーダを買ってアキバの街を見下ろす。

 JR総武線を挟んで駅前広場、その向こうにアキバUDXやらのビルが望める。

 9年前、御即位25周年記念のアキバフェスの真っ最中で、広場全体にグラビテーションコントロール(重力操作)を仕掛け、観客も巻き込んで『未来とそに子のバトルショー』をやっていた。

 初音ミクチームとすーぱーそに子のチームに分かれて三次元鬼ごっこ。最初は自分と同じ名前のミクチームで遊んで、途中からそに子チームも面白そうで、そっちに移った途端にパスポートをすられたんだ。

 それから、ダッシュが犯人を追いかけてくれて、取り返したと思ったら偽物だった。

 あの後、大使館に呼び出されて……靖国神社の例大祭に……そうだ、靖国神社に行かなくちゃ!

 先生の納骨と和尚さんに送る作業機械のことで頭いっぱいだったけど、東京に来て靖国に行かないわけにはいかない。
 今度のマッパ病や、その後に起こった紛争で沢山の犠牲者が出ている。姉崎先生……山野勘三郎……やっぱり、我らの姉崎先生も傭兵とは云え軍人だったんだ。ウウ、明日の朝には月に戻らなくてはならない(-_-;)。

 ズズズ―!

 メロンソーダを飲み干すと、文化財のエスカレーターではなく、パルスベーターで一気に地上階に戻ると中央通りに出てタクシーで靖国神社に向かった。
 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)011・コンビニの冷やし中華

2024-04-25 06:59:36 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
011・コンビニの冷やし中華                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです





 日本に来る外国人にコンビニの弁当が評判である。


 お花畑のように可憐でありながら安くて美味しい。その開発には自動車や家電を開発するような情熱が注がれ、品質管理は医薬品のように厳密に行われる。
 そのクレイジーなまでにクールなコンビニ弁当は、ネットで繰り返し取り上げられ、中にはコンビニ弁当を目的に日本に来る外国人も居るくらいである。

「そんなこと、ずっと前から知ってるわ」

 ミリーは豪語する。
 
 ミリーはコンビニ弁当の中でも冷やし中華が大好きだ。食べ方にもこだわりがあって、買った冷やし中華を小さな特製クーラーボックスに入れてお出かけする。気合いの入った時は京都や奈良、近場では大阪城公園や花博公園、どうかすると近所の公園などで冷やし中華を食べている。

「なんで外で食べるのん?」

 下宿先の真理子に聞かれる。

「う~ん」

 と唸る。

「なんでえ……?」

 ミリーが真剣に考えた時はマニッシュに腕を組んで目が斜め上を向く。だから真理子の追及も真剣になる。

「一言でいうと、気持ちがいいからなんだけど。なぜ気持ちがいいかというと、あの美味しいサワーの感覚は青空が合うの。それからね、コンビニ弁当っておいしいけど、包装のパックやフィルムがざんないでしょ(「ざんない」は、ミリーが覚えた数少ない大阪弁。ミリーは来日する前に日本語をマスターしていたので、大阪訛にはならないが、古い大阪弁が好きなのだ)。だから、家の中で食べると、ちょっと凹むけど、外だと気にならないんだよ」

「ふーん……」

 真理子は、もうひとつ理解できないが、こういう飛んだところも含めてミリーのことが大好きだ。


 冷やし中華との出会いには、腐れ縁と言っていいエピソードがある。

「冷やし中華みたいやなあ……」

 中三の夏に、斜め後ろの男子に呟かれた。

 真田山中学に入って日本人に幻滅していたので、クラスメートとはろくに口をきかなかったが、この一言が気になった。単なる冷やかしではなく、無垢な冷やし中華への憧憬を感じたからである。

「ヒヤシチュウカってなに?」

 聞かれた方の男子が驚いた。

「あ、えと……」

 男子は、めずらしく幻滅や蔑みではないミリーの言葉に素直に答えてしまった。

「ラーメンのクールバージョン……ミリーの髪の毛見てたら食べたなってきてん!」

「え、わたしの髪?」

 で、探求心旺盛なミリーは学校の帰りにコンビニで冷やし中華を買って、それ以来ハマってしまった。

 そのミリーの斜め後ろで呟いた男子が、野球部でエースと言われた小山内啓介であったのである。

 連休の谷間の昼休み、ミリーの教室に車いすの一年生女子がやってきた。

「あら、なにか用かしら?」

 一年生女子は、ブロンドのミリーが流ちょうな日本語で聞いてきたので驚いた。

「あ、えと、演劇部の小山内啓介さんはいらっしゃいますか?」

「え、啓介? あなた、ひょっとして演劇部の入部希望者!?」

「は、はい……(^_^;)」

「ほおぉぉぉ」

 ミリーと沢村千歳との出会いは冷やし中華とはなんの関係も無かった。
 


☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜
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やくもあやかし物語2・043『ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿・2』

2024-04-24 10:12:27 | カントリーロード
くもやかし物語 2
043『ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿・2』 



 ナザニエルとナサニエル……どう違うんだろう?


 祖父と孫だから同じ一族だと思うんだけど『ザ』と『サ』が違う。

 もっと細かくいうと『‶』があるかないかだけの違い。

 祖父というんだから、血のつながりがあるわけで、それは、顔つきやエルフ独特の長い耳でも分かった。

 手紙を読んだ時のネルの驚きとうろたえぶりを見ると、すこしためらわれたけど、聞いておかなきゃと思った。


「日本語だと『‶』があるかないかだけだろうけど、横文字で書くと『Nathaniel 』と『NaZaniel 』、違うだろ」

 ネルは、メモ魔法で浴槽の湯気を文字に変えて示してくれる。

 あ、今はお風呂に入ってるんだよ。

 今日は福の湯の掃除当番にあたっていたし、しまい風呂に入って、浴槽以外を掃除してから湯船に浸かる。そうすると、ゆっくりお湯に浸かった後、ザザっと湯船の掃除だけで済むからね。

「どう違うの?」

「『NaZaniel 』の方が、本当の苗字なんだ」

 そう言うと、湯気の『NaZaniel 』が『Nathaniel』の三倍くらいに大きくなった。

「うちのお父さんは長男だったけど、お祖父ちゃんや一族の反対押し切って結婚しちまったから『NaZaniel 』は名乗れなかったんだ」

「それで『Nathaniel』なの?」

「うん、日本の将軍て『徳川』だろ?」

「あ、うん。他にも御三家とかが徳川だけどね」

「将軍から枝分かれしたのは『松平』って呼ばれるだろ」

「あ、うん」

 松平っていうのは徳川の旧姓で、徳川よりも一段低い。

「その『松平』に似てるかなぁ……でも、立場はもっと低い。お父さん死んでから、いっそうひどくなってさ……この学校に来たのも……まあ、そういうわけさ」

「あ、えと……でも、ちゃんと手紙とかくれたんでしょ?」

「ああ、あれなぁ……」

 ネルが湯気文字を消すと『親愛なる我が孫娘コーネリア・ナサニエルへ』という手紙が現れた。ネルが読むなりベッドに座ったまま飛び上がった、あの手紙だ。

「親愛なる我が孫娘って、なんだか優しいじゃない(^_^;)」

「それは、ただの慣用句。中身はこれだよ……」

 
――今度、そっちの学校に行く。顔を洗って待っていろ!――


「え……ええ!?」

 あんまりビックリして、湯船を掃除するのも忘れて部屋に戻ってしまったよ(-_-;)。

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)010・「「あ、あんたは!?」」

2024-04-24 06:56:19 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
010・「「あ、あんたは!?」」                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです





 副題を(惣堀高校演劇部)としながら演劇部のことがほとんど出てこない。


 けして作者がサボっているわけではなく、その理由は、第一に、惣堀高校の演劇部は広い部室のわりに活動の実態がないからである。

 第二には、この名ばかり演劇部の物語が、生徒会より「部室の明け渡し」を迫られ、部長であり、たった一人の部員である小山内啓介の悪あがきに影響され、巻き込まれる生徒たちの青春群像でもあるからである。

 その群像の要である啓介は、近所のコンビニに入ったところである。

「いらっしゃいませ~」

 コンビニ店員のマニュアル挨拶はシカトして冷蔵食品のコーナーを目指す。

「お、あったあった(^▽^)!」

 啓介は、連休限定冷やし中華を手に取って、まっすぐレジに向かった。

 連休限定といっても特別なものではない。平常価格よりも50円安いのである。安いのでレジの順番待ちをしている間に、カウンターのドーナツに目が行ってしまう。

 で、ドーナツの中に新製品があった。

 ドーナツのくせに穴が開いていない。値段はレギュラーのドーナツと変わりがない……ということは穴が詰まっている分「お得だ!」と思ってしまい、自分の順番が回ってきたときには冷やし中華といっしょに勘定してもらうことになる。

 まんまとコンビニの策略にしてやられたわけだけれども、啓介に自覚は無い。

「いい買い物をした(^~^)」

 独り言ちて、第二目標の真田山公園を目指す。

 真田山公園はグラウンドが隣接していて、そのグラウンドも公園の一部に見えて都心の公園としては広く感じられる。

 啓介は、そのグラウンドを望むベンチに腰掛けて冷やし中華を取り出した。ベンチの端は植え込みになっていて道路側からの視線を隠してくれるので、絶好の休憩スポットなのだ。

 目の前のグラウンドでは、地元の野球チームが試合の真っ最中である。

――見てるぶんには、野球はおもしろいよなあ――

 中学で肩を痛めて以来、自分でやる野球はご無沙汰だけれど、野球観戦はする。しかし身銭を切って野球場に行くようなことはしない。
 こうやって、ジャンクフードを持ってボンヤリと草野球の空気の中にいるだけでよかった。

 8回の裏、先攻のチームが三者凡退に終わったあと、後攻のチームがツーアウトで満塁になった。


 あの時といっしょや……。


 啓介は、中三の時の自分の試合を思い出した。

 あのとき無理をせずに……という想いが無くは無かったが、その後の萎んでしまった自分の情熱を思えば、これで良かったのだと思いなおす。

 お!?

 バッターが、思い切りスゥィングした。カキーンと小気味いい音がして、ボールはホームラン!

 おお!

 ボールはフェンスを越えて啓介に向かって飛んできた。だが、元野球少年の勘は、わずかに逸れると判断。

 判断通り、ボールは真横の植え込み、それも木の幹に当った。当たり所もよかったのだろう、バキッっと音がして植え込みの中心になっていた木が折れてしまった。

「「あ……………」」

 声が重なった。

 折れた木の向こうは、同じようなベンチがあって、ベンチには鏡で映したように同じポーズで女の子が冷やし中華を食べていた。

「「あ、あんたは!?」」

 クラスメートのミリーであった……。



☆彡 主な登場人物
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜
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勇者乙の天路歴程 016『川を遡る・2』

2024-04-23 11:46:28 | 自己紹介
勇者路歴程

016『川を遡る・2』 
 ※:勇者レベル3・半歩踏み出した勇者




 ギーコ ギーコ……ギーコ ギーコ……


 三途の川は見通しがきかない。

 長江並みの川幅であることに加えて、一面の霧だか靄のため数十メートルの見通ししかなく、まるで濃霧警報の海を行くようだ。

 ギーコ ギーコ……ギーコ ギーコ……

「……あの時も、こんな感じだったなぁ」

 ビクニが呟く。

「前にも来たことがあるのか?」

「あるさ。いま思い出したのは三途の川ではなくて江戸前の海だがな」

 江戸前の海と言うからには、百年以上は昔のことか。

「吉田寅太郎が密航を企てた時のことだ」

「トラタロウ……ああ、吉田松陰のことか」

「弟子と二人でペリーの船に乗り込んで、アメリカへ連れていけと談判しにいったんだ。浦賀でペリーの黒船を見て、その瞬間『攘夷などは無理だ、まずは学ぼう』と切り替わった。おもしろい奴だ」

「結局は、ペリーに断られて戻って来るんだがな」

「あの時、舟がボロで、力任せに漕いだものだから艪杭が折れた」

「ハハハ、そうだったな、それで慌ててフンドシで括って間に合わせたんだ。この話はウケたなあ」

「そうか、授業の小話にも使ったんだな……しかし、中村、お前の読みは浅い」

「そうなのか?」

「ああ、フンドシなど使わなくても刀の下緒(さげお)を使えばいい。丈夫だし手っ取り早いからな。それをわざわざ袴の裾から手を突っ込んでフンドシを解いて使おうなんて、ちょっと変態だろ」

「いや、あれは荷物から着替え用のフンドシを出して……」

「いいや、思い立ったらスグの男だ、荷物の準備なんかしとらん」

 ギーコ ギーコ……

「腰の刀など、目に入らなかったんだ……」

「刀とか、そういう武士的なものは眼中には無かったんだろ」

「アハハ、尊敬しすぎ。ただの変態……で悪ければおっちょこちょいだ」

 ギーコ ギーコ……ギーコ ギーコ……

「……でも、なんで知ってるんだ。ビクニはタカムスビさんのところで引きこもっていたんだろ?」

「あのころは、まだ少しは外に出ていた」

「ビクニも乗っていたのか?」

「いいや、別の舟で着かず離れずにな。それにも、トラのやつは気が付かなかった……さあ、そろそろだな」

「黒船に乗り換えるのか?」

「そんな簡単なものではない……これを使え」

 ビクニが取り出したものはスティック型の糊のようなモバイルバッテリーのようなものだ。

「なんだ、これは?」

「小型の酸素ボンベだ」

「ああ、007とかスパイ大作戦とかに出ていた! 忍者部隊月光とかでも使ってたかなあ!?」

「ノスタルジーしてる場合じゃない、いくぞ!」

「おお!」

 船べりで中腰になり、水に飛び込む姿勢をとった……。

 

☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
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