大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部)048・エリ-ゼのために・3

2024-06-01 08:36:47 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
048・エリ-ゼのために・3                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです
 




 平気な顔をしているけど気にはなっている。六回目の三年生をやっているわたし松井須磨は23歳、来年は24歳だ。

 当たり前なら大学を出て仕事をしている。同期には結婚して子持ちの子もいるらしい。
 
 こないだ久々に職員室に行った。

「失礼します……( ゚Д゚)」

 一礼のあと顔を上げてビックリした。

 惣堀高校は古い学校で、有形無形の因習が残っている。

 その一つが職員室の席次。教頭が一番奥に席を占め、その前に三つの島。それぞれの島の奥が学年主任で、以下は年齢と着任の順番。担任なんだからクラス順に並べばいいのにと思うんだけど、そうはしない。
 で、一番ドアに近いのが非担任学年係という名のパシリ席。つまり、最若年の新任教師の席。


 その席に座っていたのが、最初の三年生のクラスメート朝倉さんだ!


 わたしは直ぐに気づいたが、朝倉さんは気づかないのか「どの先生に用事?」と小首をかしげる。

「演劇部の松井です、〇〇先生に部活の用件です」

 そう返事して一礼したが「はいどうぞ」としか返ってこなかった。

 忘れられているか、23歳の制服姿が痛々しくて知らんぷりを決められたのかは分からない。

 こりゃ、もう卒業しなくっちゃなあ……とだけは思った。


 それよりビックリしたのが薬局のオジサンだ。


 ミイラ美少女人形のいきさつを昔語りされて、しみじみビックリ。

 六十過ぎのオジサンが、四十三年前に当時の部長の谷口さんといっしょに作った創作劇が『エリ-ゼのために』なんだ。

 谷口さんが本を書き、オジサンは人形を作った。

 脚本、人形ともに難渋している時、転校してきたのが日独のハーフで、その名も三宅エリ-ゼ。

 創作劇はポシャッタけれど、谷口さんとエリ-ゼさんは、本書きが縁で付き合うことになった。

 それだけでも十分に青春ドラマなんだけど、もっとビックリした。

 傘を持ってきた奥さんにおじさんは「あ、すまんエリーゼ」と返事していた。

「それから色々あってね……結局は俺のカミさんになりよった。名前は22歳で帰化したときに絵里世て漢字を当てて、読み方も『えりよ』にしよったんや」

 そう言って、オジサンは雨の中、夫婦で商店街に帰っていった。

 結局はオジサンの奥さんになって、どう見ても空堀商店街の薬局のオバチャン。
 そこに落ち着くためにはいろんなドラマがあったんだろう……久々に感動した。

 43年ぶりに『エリ-ゼのために』を完成させてお芝居にしてみたいと、演劇部らしい衝動が湧いてきた。


 帰り道、商店街を通って駅に向かう。

 前を朝倉さ……先生が歩いている。

 ちょっと足を速めて朝倉さんと並んでみる。

「あ……」

「ども」

 間の抜けた返事をしてしまう。

「あ……演劇部の」

 生温く反応してくれるけど、反応は先日の記憶で、6年前の同級生のそれではない。
 
 一礼して朝倉さんを追い越す。

 薬局の前に来ると自然と目が行く。

 オジサンとオバサンが詰まらなさそうに店番をしている。

 どう見ても、レトロ商店街におあつらえ向きの景色というかたたずまいで、ちょっと想像力を働かせれば、朝の連ドラができてしまいそう。

 でも、そんな注目のされ方は――堪忍してぇなぁ――という感じ。オジサンも部活のことは話してくれたけど、結婚に至るストーリーと、その奥さんが、完ぺきな、そうと言われなければドイツとのハーフだとは分からないくらいに商店街のオバチャンに変態したお話はしてくれなかった。

 お店のガラスに自分の姿が映る。

 そうと言われなければ六回目の三年生をやっているとは分からないJK。

 もし朝倉さんが、そうと気づいて追いかけてきて「ええ、クラスメートの松井さんだよね!? ええ……どうしてぇ!?」と聞いてきても、きっとわたしははぐらかす。

 やっぱ『エリーゼのために』は衝動に留めておこう。

 富士には月見草が良く似合う……八年前に習った太宰の言葉だ。

 演劇部には日和見草が良く似合う。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

勇者乙の天路歴程 023『ヤガミヒメの境遇』

2024-05-31 11:53:38 | 自己紹介
勇者路歴程

023『ヤガミヒメの境遇』 
 ※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者




「ええと……いちおう確認しておきたいんですけどぉ」

「はい、なんでしょうか?」

「勇者乙さんは、わたしのことを、どの程度ご存知なんですか?」

「あ、はい……」

 ちょっと面映ゆい。

 神話世界の話は古希を迎えたわたしでも学校では習っていない。『因幡の白兎』程度のことは紙芝居やアニメなどで大方の日本人は知っているだろうが、それ以上のことはほんの断片的にしか知らない。それも、いろんな映画や小説、アニメなどで知ったもので、どこまで確かなものかは自信が無い。
 まして目の前で小首をかしげているのは本物の神話世界の神なんだ。例えば、プロの歌手の前で、その歌手の持ち歌を歌うようなもので、めちゃくちゃ緊張してしまう。

「あ、そうよね、緊張しちゃいますよね(^_^;)。じゃ、かいつまんで……分からないところとかがあったら、遠慮せずに聞いてくださいね。あなたたちもね」

「あ」「はい」

 白兎とビクニも返事して、ヤガミヒメの問わず語りが始まった。

「ええと……オオクニヌシ君が白兎を助けて、めでたく彼とわたしが結婚したところまでは……白兎に聞いて知っているのね」

「あ、はい、そうですが。ひょっとして、わたしの頭の中覗いてます?」

「アハハ、まあ、それは置いといて。ヌシクンはねえ……あ、結婚してからはヌシクンて呼んでたの。ヌシクンはねえ、気が多いと言うか節操がないというか、わたしと結婚した後も、あちこちふらついては彼女を作っちゃって……腰の落ち着かない男だったの。古事記や日本書紀に出てるだけで10人、あちこちの伝承まで入れたら100を超えるんじゃないかしら……ハァ~(*´Д`)」

 深いため息をついたかと思うと、頬杖付いたままドンヨリするヤガミヒメ。

「あ、姫さま、薬の時間でした!」

 パンパン

 白兎が手を叩くと、御簾のうしろからお盆に薬とコップの水を捧げ持った侍女が現れる。

「あ、またキミか……ええと……」

「はい、先週から入りましたヒコナです、課長代理」

「みんな新人に押し付けてぇ、ごめんね」

「あ、いえいえ(^_^;)」

「ごくろうさん、キミもこのあと上がっていいからね」

「はい、ではお薬を」

 侍女からお盆を受け取って姫に薬を飲ませる白兎。課長代理というよりは付き人、いやマネージャーという感じだ。侍女はやっと解放されたという感じで宮殿の裏口から退出していった。

「ええと、全部話してたら一年かかっちゃうから、いちばん問題なのを一つだけね。スセリヒメというのを知ってるかしら?」

「ええと……たしか大国主命の……正妻ですよね」

「ええ、最初の妻であるわたしを差し置いてね……」

「あ、歌を唄っていますね『八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣つくる その八重垣を 』って、めちゃくちゃ妻を愛して大事にするって意味で……」

「あ、それは素戔嗚尊(スサノオノミコト)、クシナダヒメをお嫁さんにした時、感激のあまり詠った歌よ」

「ああ、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)やっつけた後でしたからね、感激もひとしおだったんですよ」

 白兎が付け加える。

「ああ、失礼しました(;'∀')」

「先生、汗が……」

 ビクニが静岡あやねのノリでハンカチを渡してくれる。

「いえ、いいんです。教科書にも載っていませんからね……というか、その素戔嗚尊の情熱を結実させたのが、ヌシクンの正妻のスセリヒメ」

「スセリヒメは素戔嗚尊の娘なんですよ」

「え、ちょっと待って、大国主は素戔嗚尊の七代目かの子孫のはず?」

「いや、そこなんですよ」

 白兎とビクニの議論になりそうなのを手で制するヤガミヒメ。

「ここは、わたしが」

「姫さま……」

「ここなのよ、素戔嗚尊の七代目子孫のヌシクンと二代目のスセリヒメが結婚ておかしいでしょ? ヌシクンにとってスセリヒメは腹違いだけどヒイヒイヒイヒイヒイお祖母ちゃんになるのよ! あり得ないでしょ!」

「え、そうだったっけ」

 タカムスビノカミが設定してくれたインタフェイスを開いてググってみる。

「……ほんとうだぁ」

 大国主は七代目の子孫で、スセリヒメの母親については不明だが、素戔嗚尊の娘になっている。人間で言えば令和の男が江戸時代にタイムリープしてご先祖の女性と結婚するようなものだ( ゚Д゚)!

「まあ、こういうところがこの世界の歪みの元になっているわけ……それで、その歪みを勇者乙さんに正してもらいたいの」

「あ、はあ、それはタカムスビノカミさんからも頼まれていますから」

「まあ、こちらの世界にやってきたばかりでしょうから、しばらくは休んでくださいな。この巨木の森に居る限りは安全ですから」

 え、さっきまでヤガミヒメ隠れていなかったっけ?

「ま、大したことは起らないから、ましてあなたは勇者です。なにも起きません……」

 ギギギギ……グニャリ! ベコン!!

 なんだか凄く不快な音がして平衡感覚が狂う。

「あ、歪が森にまで!」

「裏口が開いているわよ!」

「あ、さっきの侍女が締め忘れたんですよ!」

「わたしの気弱さが漏れ出てしまって、矛盾が一気に……」

「すみません勇者乙さん、一刻の猶予もありません! すぐに旅立ってください! お願いします!」

 白兎がめを真っ赤にして懇願する!

 ビョオオオオオオ!

 ウワアアアアアア!

 宮殿の中にまで風が入って来て、あっと言う間に裏口から吸い出されてしまった。

 
☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
  • ヤガミヒメ      大国主の最初の妻 白兎のボス
  • ヒコナ        ヤガミヒメの新米侍女
  • 因幡の白兎課長代理   あやしいウサギ


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)047・エリ-ゼのために・2

2024-05-31 07:05:57 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
047・エリ-ゼのために・2                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 お茶を飲み終えるとなんだか恥ずかしくなってきた。


「あ、いやぁ、しょーもない話してしもたなあ」

「そんなことないですよ」

 交換留学生らしいブロンドの女の子が柔らかく言ってくれる。

「タイトルの『エリーゼ』と転校生の三宅エリ-ゼさんが重なったんですよね」

「それで脚本も一気に書き上げ、お人形もできたんですよね」

「うん、まあ、そうやねんけどな。谷口は書きあぐねてしまいよってな……ま、僕の人形の方が先に出来てしもた」

「うまく行かなくなったんですね、人形のイメージが先行してしまって」

 年かさの子が核心をついてきた。

「ああ、そうやねん……ごめん、もう一杯もらえるやろか」

「あ、はい」

 車いすの子がトレーで受けてくれ、お茶を淹れなおしてくれる。

「ごめん、出がらしでよかったのに」

「いえ、わたしたちもお茶にしたかったですから」
 
 お茶が飲みたかったわけではない、話を整理したかった。同じ空堀高校の生徒ではあるが、この四人は四十三年後の高校生だ……ふさわしい話し方をしなければならない。


「そんで、谷口は三宅エリ-ゼと付き合い始めよった」

「うわー!」「おー!」「あらあ!」

「チ!」

 歓声が三つと舌打ちが起った。

「あのころは、演劇部で台本書きいうと、ちょっとかっこよかった。オタクやいうて差別されることもなかったからね」

「本は書きあがったんですか?」

「……結果的には書きあがらへんかった。谷口も本書くことより、エリーゼと付き合うことに熱中し出してね」

「ハアァ……リア充って、そんなもんですよね」

 年かさがため息をつく。舌打ちは、この子やろなあ。

「ぼくらも本に注文つけ過ぎたんやけどね。注文とか変更は人形にも回ってきてね、あれこれ手を加えてるうちに……なんやグロテスクなもんになってしもてね。ヤケクソの大変更になった」

「大変更ですか?」

「うん、わやくそになってエリ-ゼが腐ってしまう話になったんや。あ、もちろんお話やから、比喩としてね」

「船頭多くして船山に上るというやつですね」

「うん、最後は、舞台に載せた時に腐敗臭がしたらおもしろいいうことで、スルメやらの干物使うて臭い出る仕掛けにしたんや」

「「「「あーーーそれで!」」」」

 四人はトランクに仕舞ったミイラに目を向けた。

「年月が経って、ほんまの腐敗臭になってしもたけどね。まあ、あのころもたいがいの臭いやったけどね」

「「「「アハハハハ」」」」

 四人は明るく笑ってくれる。屈託のない笑い声は若さだろう。まことに羨ましい。


 そのときトントンとドアがノックされた。


「はい」

 ブロンドの子が応対に出る。

「すみませーん、薬局の……あ、あんた。根ぇ生やしてしもて、傘持ってきたげたよ」

「あ、すまんエリーゼ」

 瞬間、空気が固まった。

「もういややわ、昔の言い方して」

「あの、エリーゼ?」

「いえいえ、この人のてんご。お話のケリついたら、はよ帰ってきなはれや」

 それだけ言うと、我が老妻にして薬局の看板ばばあは一足先に帰っていった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

 


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀河太平記・224『朱元尚大佐・2』

2024-05-30 14:51:40 | 小説4
・224

『朱元尚大佐・2』朱元尚 




 西之島の選鉱機は部外秘の技術だ。


 なかば断られると思って見学を申し入れたら快く許諾の返事をもらって、正直――言ってみるもんだ――とほくそ笑んだ。

「選鉱機は、坑内の深いところにある選鉱基部と中間の移送パイプ、そして、ここにある取り出し槽に分かれます。取り出し槽には輸送コンテナが直結できるようになっていて、ここでコンテナをいっぱいにして船に積み込みます」

 サブという技師……いや作業員か、がていねいに説明してくれる。

 いったん受け入れると決めてしまうと、下心アリアリのわたしへの説明にも手を抜かない、いや、手を抜けないのだろうな。愛すべき国民性ではある。

「お預かりしたパルス鉱は、こちらの逆走パイプから選鉱基部に落とし込んで選鉱することになります」

「ご丁寧な説明痛み入る。この下の選鉱機はどんな具合になっているんだろう」

「あ、それは部外秘ですので、お見せできません。申し訳ありません」

 さすがに断るな。

「覗いてみる分には構わないだろうか?」

「はい、覗いて見るくらいなら。足もとが悪いのでお気をつけください」

「うむ」

「大佐、軍服が汚れます」

 胡盛媛中尉が手すりとわたしの間にタブレットを持ったままの手を差し入れる。

「いや、すまん」

「上海縫製公司のオーダーメイドですね、とびきりの高級品です」

「ハハ、父上のように実力が伴わないんで『見た目だけでもキチンとしなさい』って、カミさんがやかましくてね」

 見え透いた諧謔だが、中尉も島の者も頬を緩める。

 よし、これなら……こっそりと手すりの掛け金を外す。

 ウワアアーーーーー!

 キャーーー!

 大佐あ!

 中尉を巻き込んだまま、竪坑を落下する。

 寸前に作業員の手が伸びてくるが、虚しく空を掴んでいる。

 落下しながらも、下の選鉱機本体にしっかり視点を合わせる。わたしの義眼は昔風に言えば8Kの解像力がある。暗視補正も付いているので、真の暗闇でなければ鮮明な画像が撮れる。

 パシャパシャパシャパシャパシャパシャ

 古典的なシャッター音などするはずも無いのだが、そんなエフェクトを入れてみたくなるほどにきちんと撮れている。

 ズチャ!

 中尉自らがクッションになり衝撃を和らげてくれる!

 おかげで、点検口から写そうと思った画像は二枚しか撮れなかった。

「いや、すまん中尉、大丈夫かね?」

「はい、大丈夫です、お怪我はありませんか大佐?」

「アハハ、家内にはちょっと叱られそうだがね」

――大佐! いまラッタルを下ろします! ご無事なら上って来てくださいーい! 無理なら別の坑口から救援に向かいまーす!――

 島の人間も中尉も優秀だ……そうそう付け入るスキは無さそうだが、それはそれでやり方はあると思った。

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
 

 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)046・エリ-ゼのために・1

2024-05-30 10:14:02 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
046・エリ-ゼのために・1                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 それは違う!


 俺も谷口も言い続けてきた。

 コンクールを射程に入れた文化祭の上演作品『エリ-ゼのために』はけっして転校生の三宅さんがモデルではないと。

 なぜなら『エリ-ゼのために』の企画は三宅さんが転校してくる半月前にはできていたからだ。

「十代の現在(いま)でしか書けない少女像を書こう!」

 惣堀商店街名物そうほり屋の冷やしコーヒーで乾杯しながら誓い合った。

 ま、いまから思えば「~ではない」という否定形でしか自己規定や価値判断ができない高二病だったろう。

――身体測定で座高がクラス一番なんて関係ない――俺が斜陽商店街の薬屋ので終わるわけがない――俺の未来は型にはまってなんかいない――演劇部の良し悪しは演技や技術の優劣では決まらない――学校の成績で人間の値打ちは決まらない――俺がいつまでもモテないわけがない――

 そんな具合だった。

 それで、話しは変わるが、あのころのアイドルは美容院のサンプル写真みたいに人工的だった。

 多少個性めいたところがあっても、それは子どもアニメのヒロインのように定型的で底が浅い。清楚・可愛い・清潔・分かりやすい等々の要件をミキサーにかけて固めて輪切りにしたように均質。かき氷のシロップが名前と色が違うだけで味はみんな同じなのと似ている。

 そうそう、小学生のころ、そうほり屋のかき氷のどれが一番おいしいかで言い争ったことがある。学校の正門を出て商店街の入り口にさしかかるまで「いちごや!」「メロンや!」「ブルーハワイや!」と、その後高校までいっしょの谷口と、言い合っていた。

 すると、いつのまにかそうほり屋のケメコ(ほんとうは恵子)が後ろに来ていていてほざいた。

「あれはなあ、元は同じシロップで、色を変えたあるだけやねんよ」

「え、ほんまか、ケメコ!?」

「ほんまほんま」

「おまえ、そうほり屋の娘が、そんなことバラシてええのんかあ?」

「ほんまのうちの味は『宇治金時』や!」

「「宇治金時ぃ!?」」

「うん、あの抹茶シロップとアンコは正真正銘の特性や!」

「え、そうなん?」

「抹茶は一保堂、アンコの小豆は松屋の一級品やし」

「みんな商店街の店やなあ」

「そうほり商店街は太閤さんの時代からあるねんで、しなもんに間違いはない!」

「あはは、せやなあ」

 斜陽と思っていても家業の悪口は言えない。

「まあ、お年玉もろた時にでも食べにおいで」

「正月の寒い時にかき氷なんか食えるかあ!」

「あ、せや、うちもやってへんわ!」

 アハハハハ(^▽^)(^▢^)(^〇^)

 宇治金時は小学生の小遣いでは手の出ないものだったので、この時は横入りのケメコに完敗だった。


 話がそれた、そうそう、アイドル。


 その中にあって、M.Yだけは違った。

 谷口の部屋でM.Yのテープを聞こうとしたら、手入れの悪いラジカセの為にテープがオマツリワカメになってしまい、憂さ晴らしにビールを引っかけたのが悪かった。

 しかし、動機はともかく創作劇を書こうという気持ちは天晴れであった。

 谷口が文章を書き、俺が二次元化した。

「それは朝丘アグネスや、そっちは南淳子や、あかんやっちゃなー」

「そういうこれは岡山百恵やないかー」

 文章と二次元の違いはあったが、二人の作品は、やっぱり美容院のサンプルだ。

 ただタイトルだけは決まっていた。


『エリ-ゼのために』


 当時のアイドルには無い名前、オルゴール曲で有名なこの曲は、名前を聞くだけで万人にイメージを喚起させるインパクトがある。

 夏真っ盛り、冷房の効かない俺の部屋、階下の調剤室から立ち込めてくるドイツの新薬の香りで浮かび上がったのがエリ-ゼだった。

「「これはエリ-ゼとちゃう!」」

 呻吟していた俺たちの前に現れたのが彼女だった。


 三宅エリ-ゼ


 当時珍しい帰国子女、日本人の父とドイツ人の母を持つ栗色のロングヘアー。
 少しドイツ訛の、それでいて正確な日本語、直接口をきいたことはないが、友だちと下校の正門で「ごきげんよう」と挨拶をしていた。

 じきにそぐわないと自覚したのか「さようなら」に置き換わるが「さいなら」というような大阪原人の風には染まらない。

 偶然を装ってすれ違った図書室前。髪の香りはエメロンシャンプーなどではなかった。

「エリ-ゼが降臨してきよった……」

 俺たちのイメージははっきりした。

 一か月後、ストーリーとラフができあがった。

 明らかに三宅エリ-ゼに影響されているんだけど、俺も谷口も自分の中にあったエリーゼの具現化だったと信じた。

 ほら、仏師とかが言うじゃないか、仏様を彫るんじゃない、木の中におわします仏様を掘り出すんだって。

 雨の季節になってプロットとラフは精緻になってきた。

 俺は、エリ-ゼを二次元から三次元に昇華させた。

 そうなんや、それがあの人形や。

 それがなんでミイラかて?


 まあ、ちょっとお茶飲ませてくれるか。


 千歳という子が器用に車いすを旋回させてお茶を入れ替えてくれる。

 四十三年前の演劇部の子たちが、あのころの時空からやってきたような親しさを感じさせてくれる。

 雨はまだ降り続いている……。
  


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鳴かぬなら 信長転生記 184『霊柩の到着』

2024-05-29 17:16:51 | ノベル2
ら 信長転生記
184『霊柩の到着』信長 




 曹素は曹一族のシンボルカラーである黒の軍旗に包まれて戻ってきた。


 水難救助出動中の不慮の事故であるために、柩車など間に合うはずもなく、荷車の荷台にそのまま載せられている。

 せめて魏王弟である徴に荷車の前後に軍旗が立てられている。

 三尺四方の軍旗には曹素の『素』の字が標され、標を曹に入れ替えればそのまま兄の曹操の軍旗になる。

 霊柩は前後に十騎、横に二騎の騎兵が寄り添う。羅城門を潜ると、そのまま曹操と茶姫、救難隊に加わった各級将軍、指揮官。救助された者たちのうち比較的元気な者も後列に並んでいる。

 やがて霊柩は内城前の広場に停まり、前後の車輪に車止めが噛まされた。

 曹操が手を上げると、霊柩の列が見えたころから奏でられていた迎霊の太鼓が鳴りやんだ。

 ゆっくりと手を下ろした曹操は霊柩を見つめたままズンズン近づいていき、曹素をくるんでいる軍旗の顔の部分だけを解き、じっと弟の亡骸を見つめる。

「弟、曹素の幕僚並びに、その部下たちに感謝する。困難な救難作業の中、骸になったとは云え、こんなに綺麗なまま連れ戻ってくれた」

 ザザ!

 曹素の部下たちが一斉に踵を慣らして姿勢を正す。

「曹素……弟よ、よくぞ、よくぞ、今までこの愚かな兄のために東奔西走してくれた。翻弄させるばかりであったが、よくぞ、ここまでこの兄と魏のために尽くしてくれた! 働いてくれた! 父よ! 母よ! 曹一族の祖霊たちよ! ここに謹んで我が弟曹素の霊を返します、どうか、慈しみの心をもって弟を迎えてやってください!」

 そこまで一気に言うと、曹操は両手を広げ天を仰いで慟哭した。

 ウオオオオオオ

 それをきっかけに、救難隊や部下たちも俯き、あるいは主同様に天を仰いで慟哭の涙を流し、茶姫は曹操の斜め後ろに寄り添う。

 青ざめてはいるが、兄曹操のように慟哭はしない。


 俺の横で手を合わせている三蔵法師の呟きが聞こえてきた。

 むろん声には出ずに、直接に頭の中に入ってくる。三蔵法師の声色ではなくて、本性の一言主の声でな。

――曹素のやつ、いろいろと戸惑っておるようじゃ――

 ほう……

 三蔵法師が念仏の手を小さくすり合わせると、俺にもその死者の声が聞こえてきたぞ……。

 

☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
  

 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)045・ブタまんは時空を超えて・2

2024-05-29 08:43:00 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
045・ブタまんは時空を超えて・2                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 四十年……四十三年前のあの日……今日と同じようにブタまんを食べながら雨が止むのを待ってたんや。


 遠い目をしてハイス薬局のオヤジは語りだした。


「どや、完璧な出来やぞ!」

 ドアを開けると『8時だヨ!全員集合!』のコントのように薬局が吠えた。

「ハーーー薬局、先走りし過ぎやぞ」

 部長の谷口はため息をつきながら目を上げた。ただでも進まない台本書きを中断させられて機嫌が悪い。

 谷口の机の周りは書き損じの原稿用紙が散らばり、一年生部員たちが書き損じと書きあがった原稿を区別しながら整理している。
 二十一世紀の今ならパソコンでいくらでも書き直しができるが、ようやくワープロが世に出始めた時期で、高校生の俺たちは原稿用紙。それも、更紙に印刷した超安物を使っていた。

 部員たちの前には乾いたブタまんの敷紙がそっくり返り、待ち時間が長かったことを示している。

 ドサ

 家業そのままに薬局と呼ばれる俺は、その敷紙やらスナック菓子の残骸を蹴散らして大きな寝袋のようなのを置いた。

「やっぱ人形使うのん?」

 書きあがった原稿は利根芳子がファックス原紙に清書している。

「幕開いたときのインパクトがちがうやろ、エリ-ゼは目に見える形で観客に提示した方が、絶対にええ!」

「主人公の恋はプラトニックなもんやねんから、人形いうのは……なんちゅうか……」

「なんやねん谷口、書き上げん前からショボイため息ついとったらあかんで」

「そやけど、人形使うんやったら、エリ-ゼの魅力が出てるもんやないと、かえってマイナスやで」

「おまえは、俺の腕を見くびってるやろーーーーー!」

 ヂヂヂヂーーーーー!

 勢いをつけ袋のファスナーを開けると、それを取り出した。

「「「「「オオーーーー!」」」」」

 部室のみんながどよめいた。谷口は、放課後一度も手放さなかった万年筆をポトリと落とした。

「まるで生きてるみたいじゃない……え、お、う……」

 利根芳子はビックリした一呼吸あと、口ごもって息が停まってしまった。

「すごい……」

「だ、脱帽だ」

「こないだ『8時だヨ!全員集合!』で、大根と志村けんソックリの人形の首をギロチンにかけるコントやってたやろ」

「ああ」「見た見た」「あったあった」「リアルでグロイて批判されてた」

「え、この人形も首落すん!?」

 芳子が真顔で嫌な顔しよる。

「それはさすがになあ」

「リアルやけど……なにでできてんねん?」

 原稿用紙をほっぽらかして谷口が聞く。

「美容整形で使うシリコンを試してみたんや」

「さすが、薬局」

「触ってもええ?」

「ああ、そっとな」

 芳子がそっと人形の頬に触れる。フニっと触れたところが沈んで、芳子も部員たちもさらに感動した。

「先輩、いいですか」

 一年生がことわって芳子の頬に触れた手で人形の頬に触れる。

「先輩よりもシットリしてるかも……」

 普段なら張り倒す芳子だが、あまりの感動に言葉も出ない。

「こ、これ、全身がシリコンなんかぁ……?」

「もう、エッチ!」「キャー」

 谷口が定規の端で人形のスカートをめくり、女子たちの顰蹙をかう。

「見えへんとこは発泡スチロールや」

「なるほど」

「これ……だれかに似てるなあ」
 
 腕組みした谷口が呟くと、ほかの部員たちも腕組みしたり顎に手を当てたりして人形の顔を見つめる。

「「「「「…………アッ!」」」」」

 一同の声が揃った。

「え、あ、なんやねん!」

「薬局、これ二組の転校生にそっくりや」

「え…………あ!?」

 谷口の指摘に初めて思い至り、壊れた信号機のように顔色を変える四十三年前の俺であった。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ)


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語2・049『妖怪くわせもの・1』

2024-05-28 10:07:14 | カントリーロード
くもやかし物語 2
049『妖怪くわせもの・1』 




 ガツガツガツ! ムシャムシャムシャ! ハグハグハグ!


 みんなの咀嚼する音が食堂中に満ちて、天井から吊るされた三つのシャンデリアさえも共振してチャラチャラと音をさせている。

 各自のテーブルには食べ終わった食器がアンコールワットのパゴダのように積み重なり、食べ終わった食器は命あるもののように自動的にパゴダの相応しい場所に収まって、同時にお代わりのトレーが現れる。

「みんな、そんなに食べたらお腹がパンクするよ!」

 わたしが叫ぶと、ほんの一瞬、みんなは目だけこっちに向ける。

 分かっているけど止められない! そんな感じのやら、恍惚となってるのやら、中には目も鼻も痕跡器官のようになって、顔中口になって朝食を放り込んでいるような者までいる。

 ムシャムシャムシャ! ハグハグハグ! やくもぉ……ムシャムシャムシャ! ハグハグハグ! やくもぉ ガツガツ! ムシャムシャ……

 咀嚼の合間にわたしを呼ぶ声。

 パゴダの隙間から見覚えのあるクセッ毛の頭が覗いている。

 ハイジだ!

 ハイジは顔のほとんどが口になってしまい、残った皮膚も赤黒くなってきて、緊急事態なことが分かる。このままじゃ、みんな大食死にしてしまう!

――ハイジの口を消してやれ――

 耳もとで声がした。

「え、だれ?」

 声のした右側を見るけど、誰もいない。

――ここだ、ここ、お前の耳だ――

 そう言われて触ってみると耳たぶの上に鉛筆が挟まれている。

「え、みちびき鉛筆!?」

 いつの間にと思ったけど、今はみんなを、ハイジを助けてやらなければならない。

 でも、どうやって、口を消すんだ?

――次のトレーが現れるのにコンマ5秒のタイムラグがある。その間、口は点のように小さく窄まる。そこを目がけて消してやるんだ――

「どうやって!? 消すものなんて持ってないよ! あんたは鉛筆だし!」

――おれの尻に消しゴムがついている――

「え?」

 触ってみると短い鉛筆のお尻はゴムになっている。

「よし、やってみる!」

 ピシュ!

 ハイジが食べ終わった瞬間を見計らって、逆さに持った鉛筆を横殴りにする。

 すると、ホクロほどに小さくなっていた口は一瞬で消えてしまい、次の瞬間、ハイジはバタリとテーブルに伏せて、伸ばした指がヒクヒク痙攣する。

「ハイジ!」

――大丈夫、すぐに元に戻る、それより大元の妖をやっつけるんだ――

「大元、どこに?」

――厨房だ――

 言われて厨房に目を向けるけど、パゴダの山に遮られて簡単には見えない。

――ジャンプしろ、このミチビキ鉛筆がついていれば、空だって飛べる――

「う、うん!」

 エイ!

 天井スレスレまでジャンプして、見えた!

 厨房に居るのはナリはいつものオバチャンだけど、顔はお化けピエロみたいなあやかしだった。

「退治してやる!」

 勢い込むと、お化けピエロは煙のようになって換気扇に吸い出されるようにして外に逃げて行ってしまった!

「待てえ!」

 反射的に追いかけると、わたしも換気扇に吸い込まれて、外に飛び出してしまったよ。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)044・ブタまんは時空を超えて・1

2024-05-28 08:17:21 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
044・ブタまんは時空を超えて・1                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです






 一連の作業が終わると、嘘のように臭いが消えた。

 さすがは薬局と感心すると、引き換えに雨が降って来た。


「しもた、傘持ってくるのん忘れたなあ」

 薬品をしまうオヤジは手持無沙汰になってしまった。

「しばらく休んでいかはりませんか、通り雨みたいですし」

 スマホをしまいながら啓介が言う。天気予報を確認していたのだ。

「お掛けになってください、お茶を入れますから」

 器用に車いすを旋回させて千歳はコンロに向かう。狭い仮部室だが、車いすをうまく操り、ぶつけることもない。

「カップ洗ってきます」

「そうね、臭いとかついてるかもだもんね」

 須磨とミリーも機敏に動き出す。

 臭いを消してもらって有り難いという気持ちなのだが、ミイラを作ったというオヤジの話も気になる四人だ。

「せやなあ、ちょっと休ませてもらおか」

 やがてミリーが人数分のカップを洗い終えて戻って来る。その間に、啓介はテーブルを拭き、千歳は急須を温めてお茶ッパを入れ、ヤカンを引き継いだミリーはカップにお湯を注いでカップを温める。

「先輩は?」

「食堂に寄ってるよ」

「お茶入れまーす」

「手伝うね、啓介じゃま!」

「お、すまん」

 狭い部室でチマチマ立ち働く部員たち。段取りと活気の良さは、松竹新喜劇の幕開きのように小気味よく。なんだか嬉しくなるオヤジ。


「サービスしてもらっちゃった(^_^)」


 食堂から返って来た須磨が、雨から庇っていたものをドサリとテーブルに置いた。

「お、懐かしい、食堂特製のブタまんやなあ!」

「やっぱ、うちの卒業生だったんですか?」

「ハハ、もうバレてるわなあ」

「で、演劇部だったんですか?」

「そう、あの日もブタまん食べながらやったなあ……」


 オヤジは、ブタまんを手にしながら遠い目になっていった。


「あれは……文化祭が終わって間のないころやった」

 薬品をしまって、ブタまんの尻の紙を剥がしながらオヤジはポツリポツリ語り始めた。




☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・101『牧内さんと話す』

2024-05-27 10:46:43 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
101『牧内さんと話す』   




 あ、学校の近くです。


 直美さんに「お家はどのあたり?」と聞かれて、そう答えた牧内さんはホンダZに乗って写真館までいっしょ。写真の仕事もおしまいだったし、演劇研究会の方も写真を撮っておしまいだった。

 積もる話がありそうだと見抜いた直美さんは、写真館の応接を貸してくれた。

「なんだか、楽しそうじゃなかったわね」

 マスターお手ずからの紅茶にレモンを絞りながら水を向ける。

「うん……研究会の副会長引き受けちゃって……」

「副会長?」

「うん……えと……」

 部外者というか門外漢のわたしに、どう話していいのか考えている。演劇部のこともろくに分かってないのに、その上の県組織の話はむつかしいんだろうね。

 でも、話すことに躊躇が無さそうなのは嬉しい。

 牧内さんは演劇部一筋という人で、令和のノホホン少女のわたしとはタイプが違いすぎる。クラブの運営や代議会での発言と態度、わたしたちの『クリスマスイブの集い』への黒子に徹した、それでも創造的に接してくれる一途さ。
 単に明るければいいという照明を、クリスマスに相応しいかがり火のような仕掛けにしてくれて、薪が爆ぜる音まで効果音で流してくれた(070『いよいよクリスマスイブの集い』)
 代議会で部室が欲しいと主張する時も、きちんと生徒会規約と現状のズレなんかを冷静に指摘しながらだった。

 たぶん、研究会のことなんて、むつかしい話なんだろうけど、ノホホン少女のわたしに分かるようにと眉根を寄せる姿はカッコいいと思うよ。

「高野連て知ってるわね?」

「あ、高校野球の?」

「うん、高校の部活には、たいてい全国組織があってねナントカ連盟って呼ぶのよ」

「演劇部も東京とか神奈川じゃ連盟になってる」

「違いがあるの? 連盟と研究会じゃ?」

「うん、運営の主体が教師の場合は連盟、生徒の場合は研究会」

「ああ……」

「研究会にも会長はいる、うちは大浜高校の校長先生。でも、それは対外的な看板みたいなもので、実質的な運営は生徒がやっていて……」

「そのトップが副会長?」

「うん」

「その副会長になっちゃったんだ!」

「話はここからなんだけど、こういう仕事は、やっぱり教師がやらなきゃいけないと思うのよ」

「え?」

 だったら、なんで牧内さん?

「研究会は加盟校から加盟費とかコンクール参加料とかお金を集めるの、いわば公金。それ以外にも会議を持ったり講習会を開いたり、コンクールじゃ会場使用の交渉や審査員の手配、県知事賞とかの申請とか、未成年の生徒には手に余る仕事がいっぱいあるの」

「ああ……それを牧内さん引き受けたんだ……」

「ありがとう、時司さんのそういう反応は正常だと思う」

「いや、だって……」

「わたしね、一年かけて加盟校の生徒たちを説得して連盟にしようと思って引き受けたの。演劇部って、尖がってるのがいっぱいいるからね。体育祭でデモかけたみたいなのが」

「ああ……」

「ん?」

「ああ、あいつらがコケまくったとこ思い出しちゃって(^_^;)」

「アハハ、あれは傑作だったわね(* ´艸`)」

 ああ、でも、お祖母ちゃんの説によると、あれはわたしが無意識にかけた魔法のせいらしい(057『ウィッチカモミール』)。

 ひとしきり笑って、お茶うけのラスクをボリボリかみ砕く牧内さんは、意外に子どもっぽい。

「でも、よく決心したわね」

「ああ、うん。屋上にいっしょに居た藤野先生憶えてる?」

「あ、飛び込みで写真を頼んできた先生?」

「うん、今日の会議、なかなか定足数にならなくて、先生が雑談してくださって、ちょっと感動しちゃって。まあ、うまく乗せられたのかも」

「ええ、牧内さんが乗せられちゃうの!?」

「あら、わたしって、けっこう単純なのよ」

「ええ、そうなのお!?」

「おう、盛り上がっておるかね少女たち」

 藤野先生のことで盛り上がりそうになところに、直美さんがヒラヒラとチケットを戦がせながら入ってきた。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)043・薬局のオヤジはヒラヒラと手を振った

2024-05-27 06:32:36 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
043・薬局のオヤジはヒラヒラと手を振った                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 学校へ戻る道すがら啓介は不思議に思った。


 啓介たちが説明をする前に腐敗臭の種類を言い当てられていたのだ。

 薬局のオヤジは「干し魚とかスルメとかの魚介たんぱく質」と臭いの原因を知っていた。

 なんでだろう?
 
 そして学校に着くと、薬局のオヤジはスイスイと仮部室になっているタコ部屋に向かうのだ。

――トランク事件の時は野次馬で来てたなあ、校舎の屋上も知ってたし……地元やからかなあ――

 釈然としないまま部室に着いた。

「廊下側の窓開けて、中に入ったらタコ部屋の窓も開けんねんで」

 空気の流れを作って臭いを拡散させないためだと知れるが、なんとも的確……的確すぎる。

 部室のドアも、わずかに持ち上げて滑らすというコツを知っているのだろう、スム-ズに開ける。


「ああ……これやなあ」


 テーブルの上のトランクを認めると、応急処置のガムテを剥がした。

「ちょっと留め金具が……」

 介添えしようと手が届く前にオヤジは蓋を開ける。

「……なるほどなあ」

 一瞬しみじみとして、ゴム手袋をはめ、その瞬間だけは慎重にミイラ美少女を持ち上げた。

 一人で持ち上がるのかと心配したが、うまく関節を支えているので、簡単に広げた新聞紙の上に寝かせた。

「中の臭いの元はゴミ袋に入れて、この薬を振りかけて口を密閉……」

 須磨たちが恐る恐るやっているうちに、オヤジはミイラの服を脱がせた。

「あーー」「なるほどぉ……」「こんなふうに……」「なってんねんなあ……」

 ミイラは手足や頭こそは精密に作られていたが、服で隠れている部分は発泡スチロールだ。

「これで臭いが消えれば怖くないですね(^_^;)」

「どれどれ……ウ(>y<;) 」

 千歳が胸をなでおろし、須磨とミリーは興味津々で覗き込むが、あまりの臭いにすぐにのけ反る。

 オヤジは二つのポーションを取り出し、空のボトルに入れてシェイクしだした。

「なんか、カクテル作るみたいですね」

「ハハ、学生の頃はバーテンのバイトやってたからなあ……そこの噴霧器の蓋開けて受けてくれるかな」

「はい」

 程よくシェイクした中身を噴霧器に戻すと、ペットボトルの水を混ぜた。

「交代や、噴霧器持って一分間シェイクしてくれる」

「合点」

 啓介が交代すると、オヤジはドサッと椅子に収まり汗を拭きだした。

「何から何まですみません」

 須磨が年長者らしく礼を言うと、オヤジはヒラヒラと手を振った。

「なんのなんの、このミイラ作ったん、このわしや」


 え、ええ( ゚Д゚)( ;`ω´) (`ω´;(`ω´; ) !?


 演劇部の四人はブッタマゲテしまった……。
 

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

勇者乙の天路歴程 022『ヤガミヒメとフェイクたち』

2024-05-26 16:40:35 | 自己紹介
勇者路歴程

022『ヤガミヒメとフェイクたち』 
 ※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者




 高床式の前に立つと、恭しく一礼する白兎。


 なんだか、神主に先導されてお参りしているようで、自然と倣ってしまう。

 パーーーーーーン

 手のひらを微妙にすり合わせるような所作も神主風で、軽く打ったにもかかわらず、森の巨木たちをピリッと震わせ、空気を引き締めた。

「かむながらの世界だ……」

 思わずつぶやいて、下げた頭が上げられない。視野の端に、わたし以上に畏まったビクニが見える。

 十秒あまりそうしていただろうか、やがて、階(きざはし)の上の扉が静かに開いた。

 ゴクリ

 息をのむこと数秒……なんだか真珠湾攻撃に際し天皇陛下から出師のお言葉を賜る山本大将……トラトラトラ!

 ……古希を迎えると例えも古くなる。

 こっちよ……こっちこっち。

 え?

 後ろから囁きがして、白兎が振り返る。

 つられて振り返ると、背後の巨木の陰から形のいい手がヒラヒラとわたしたちを招いている。

「ああ、もう、姫さま、警戒のし過ぎ!」

「だってぇ、何があるか分からないでしょ」

「そうですけどね」

「文句はあとで聞きます。とりあえず、中へどうぞ」

 誘われて階を上る。みんなが上り終えると階は地中に収納されてしまう。

「いざという時は、この高床式ごと格納することもできるのよ。はい、中へどうぞ……」

 おお!?

 見た目は、それこそ登呂遺跡の高床式倉庫ほどだが、扉を潜った中は広さも高さも学校の体育館ほどの広さがある。
 上中下三段になった床は全体に板張りなのだが、中央には朱色の絨毯が敷かれ、両脇には幾重にも薄物の幔幕がひかれて最上段の御座を荘厳している。

 下段の幔幕の下には、ヤガミヒメに似た装束の侍女たちが、中段にはそれより身分の高そうな侍女が四人……そして、驚いたことに、上段の玉座にはヤガミヒメそのものが、スポットライトが当たったように神々しい姿で女王然と笑みをたたえて収まっている。

 これは……?

「あ、これはフェイクです。敵が侵入してきたときは、万一に備えて、ね白兎(^_^;)」

「もう、姫さま。フェイクたって、ギャラ払ってんですからね。みんなお疲れさま、今日はもういいよ。これは再来月の振り込みになるからね」

 ええ、再来月ぅ!?

 白兎の説明に口を尖らせるフェイクたち。

「20日締めの25日払いだから、帰りはちゃんとタイムカード押してねえ」

「もう、割増つけてよねぇ」「新しい服買ったのにい」「来月もコンビニ弁当」「あたしはのり弁」「あたしは、一食減らさなきゃあ」

 愚痴を言いながら消えていくフェイクたち。

「あはは、みんな式神なんですけどね。姫さまの趣味で女子大生風の設定にしてますんで、いやはや(^_^;)」

「さあ、お二人とも、こちらへ」

 中段の間に座椅子が四つ現れ、笑顔で誘うヤガミヒメ。

 姫に倣って席に着くと、下段の幔幕の陰で姫のフェイクにヘコヘコ頭を下げている白兎。

「ほんとうに式神なんでしょうかぁ……」

 ビクニが心配そうに、でも、少し面白がって呟いた。



☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
  • ヤガミヒメ      大国主の最初の妻 白兎のボス
  • 因幡の白兎課長代理   あやしいウサギ
 
 

 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)042・薬局のオバチャンの名は絵里世

2024-05-26 07:10:40 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
042・薬局のオバチャンの名は絵里世                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 仮部室がある一階のフロアに腐敗臭は拡散していた。

 最初に発見された時ほどではないが、また演劇部か! と人を怒らせるのには十分な臭いだ。

「さっき片づけたんで、袋に穴が開いたんやな……」

 荷物の山からトランクを引き出しながら、状況を把握する啓介。

「とりあえず、そのまんまビニール袋に入れよう!」

 須磨の提案に、ミリーは大型のゴミ袋を二重にし、千歳が車いすのままで袋の口を広げてミリーが介添えする。

「「よいやっさ!」」

 須磨と啓介の二人がかりでトランクを入れ、千歳が一気にガムテープで封印、ミリーは部室の窓を全開にした。

 四人の呼吸はピッタリ合って、この作業を一分足らずでやってのけた。

「完全なパッキングじゃないから、また臭うやろなあ」

「これだけ話題になったら捨てることも難しいわね」

「とりあえず臭い対策やなあ」

「消臭剤を買いに行きませんか」

「そうやなあ……」


 千歳の提案で商店街のハイス薬局を目指すことにした。


 いつもなら一人が留守番に残るのだが、まあこの臭いの部室に入ってくる者などいないだろうし、一人残るのも罰ゲームのようなので四人打ち揃ってということになったのだ。

「ああ、あんたらかあ(^▭^)」

 新聞から顔を上げると、薬局のオヤジは懐かしそうに顔をほころばせた。

 トランク事件の時には野次馬の中に混じっていたし、それらしい白衣姿は薬学博士みたいだが、存外のミーハーなのかもしれない。

「強力な消臭剤が欲しいんですけど」

「あ、あのミイラやな?」

「警察から返ってきたときは密閉してあったんですけど」

「片付けた時にパッキングに穴が開いたみたいで」

「あれやったら並の消臭剤ではあかんやろなあ……絵里世!」

 親父は店の奥のカミさんを呼ぶ。エリヨというのはなんだかアニメの少女みたいで、ちょっぴり新鮮な響きだ。

「はい、これでしょ」

 阿吽の呼吸で段ボール箱を出してきたカミさんは、調剤室のドアを斜めに出てきた。

「わたして夏太りする体質でねえ」

「夏だけかー」

「うるさい、ハゲチャビン」

「ハゲチャビン言うたら育毛剤が売れんようになる」

「売れへんのは、そのハゲのせいや」

「おまえかて、ちょっとは痩せならダイエット商品が売れへん」

 ワハハハ((´∀`)) ウフフ(* ´艸`)

「うちは明るい薬局がモットーやさかいにねえ」

 漫才のような呼吸は薬局よりも八百屋か魚屋が向いているかもしれない。

「消臭剤にもいろいろあってね、干し魚とかスルメとかの魚介たんぱく質の匂いにはこれやねえ」

 段ボール箱から出されたのは昭和の昔からあったような瓶詰だ。

「これは、混ぜるんですか?」

 啓介はボトルが二つあるので見当を付けた。

「そうそう、やり方は……」

 オヤジは眼鏡をかけ直し、瓶を持つ手をズイと伸ばした。

「あんた、店もヒマやから出張したげたら」

「せやな、そのほうが早いか」

「え、出張してもらえるんですか!」

「ハハ、まっかせなさーい!」

 オヤジは桂文枝の口調で引き受けた。

 しかし、文枝を知らない四人には変な薬局のオヤジとしか映らなかった。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀河太平記・223『朱元尚大佐・1』

2024-05-25 11:38:27 | 小説4
・223

『朱元尚大佐・1』朱元尚 




 パルス鉱という燃料鉱石はプレートが隣り合う別のプレートの下に沈み込んだところで生成される。

 この太平洋地域においては西之島が最大最高の産出地だ。

 我が政府は十余年前、洛陽号事件をきっかけに西之島への干渉を試みて失敗した。
 
 我が国は日本海溝を挟んで隣り合うホトケノザに海上基地を作って、パルス鉱と西之島への興味を失っていないことを消極的に示した。

 PIした劉宏大統領は、協調路線、遠い将来に親善を深めたうえで再度の攻略を考えているのだろう。ホットウォーに寄らない方法、あるいは日本人にそうとは気づかせない方法で。しかし、そんな悠長なことはやっていられない。

 
「無理なお願いをしましたが、快く受け入れていただき感謝に耐えません」

「困った時はお互いさまです朱大佐、いや退役されて所長でしたね。パルスコンベアを使いますので、少々時間はかかりますが、鉱石への衝撃はほぼゼロです」

「ありがとうございます、これで、品質を落とさずに移送ができます」

「では、さっそく取り掛かりましょう。サブ、準備はいいかい?」

「OK、社長!」

 ほう、日ごろは殿下と呼ばれているはずだが、外部の人間には呼び方を変えているようだ。

「前よし、後ろよし、移送開始!」

 ウィーーン

 若い技師が合図すると、コンベアが動き出し、坑内の選鉱機まで運ばれる。コンベアは鉱石に刺激を与えないように作られていて、回転ずしのように慎重に流されていく。

「選鉱機もすごいと聞いていましたが、コンベアもすごいですねえ」

「ボランティアのアイデアです」

「ほう、ボランティア」

「ボランティア兵の多くが事変後も残ってくれまして。まあ、本国に帰っても景気がもう一つという人も多くて。うちは平時でも人手不足ですから働いてもらってます。あ、このコンベアは南アフリカの人のアイデアです。国では、ダイアモンド原石の切り出しの仕事をやってらしたようです」

「ほほう、多士済々というわけですなあ」

 視線を移すと、あちこちに、元ボランティア兵らしいのが働いている。

 潜在的な兵力、戦闘力は落ちていないようだ。

「遅くなりました!」

 ドキッとした。

 ふいに後ろから声を掛けられたせいだが、声の響きがかつての上官に似ている。

「きみは……」

「はい、西之島連絡所、広報担当の胡盛媛中尉であります」

「あ、そうか、ご苦労です。よろしくお願いする」

「ハ!」

 案内役兼世話係りは連絡所の要員があたると聞いていた。

 本来は小規模とはいえ駐留軍なのだが、非武装の連絡所にしている。これも大統領の意向なのだが、興味深い、こちらもよく観察させてもらうとしよう。

「では、フーちゃ……胡中尉、あとはよろしくお願いします。朱大佐、後ほどまたお目にかかります」

「こちらこそ、急な申し入れにもかかわらず、便宜を図っていただきありがとうございました」

「あ、昼食は、そこのお岩食堂で。乗組員さんの分も用意してありますので、ご遠慮なく」

「あ、それはそれは、船の烹炊に連絡を……」

「船の方には連絡しておきました」

「「さすがぁ」」

 期せずして氷室社長と声が揃う。

 この和やかさと効率の良さ、あまり友好の演技をせずに済みそうだ。

 氷室社長を見送って一つの提案をする。

「島には、胡盛徳大佐の碑があると聞きいている。あとで訪れてみたいと思うんだが」

「……承知しました」

 さすがに屈託がある。

「あ、いえ、時間を計算していたものですから。ありがとうございます。父も喜ぶと思います。花の手配をしておきます、少々お待ちを……」

 キチっと敬礼をしたかと思うと、神社の方に駆けだし小柄な巫女と一言二言。

 アハハハ(^▽^)

 巫女が、ここに居ても聞こえる元気な笑い声を立てると、ペコリと頭を下げて戻って来る。

「では、ご案内いたします」

「ああ、頼む」

 いろいろやり甲斐のある島だと認識を改めた。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)041・返ってきたトランク

2024-05-25 06:47:53 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
041・返ってきたトランク                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです




 ……………………………………………臭いはしませんね(^_^;)

 沈黙を破って千歳が呟いた。

 トランクは空気を抜き切っていない布団圧縮袋みたいなのに入って戻ってきた。

「臭いがうつらんためやろ」

「うつったら他の鑑識業務の妨げになるだろーね」

「アメリカで聞いたことあるわぁ、かつお節のパックが元らしいよ。匂いも風味も逃がさへんから車のガソリンタンクに応用されて、冷蔵庫のストックパックなんかにも使われてるんやて」

「そやけど邪魔やなあ」

 仮部室のタコ部屋は教室の半分もないのに、返って来たトランクはテーブルの半分を占領している。

「整理して収まるようにしましょうか」

 部屋の奥に積まれた荷物の山を指して、千歳が提案する。元々は生活指導の分室だが、その前はただの物置で荷物は捨ててもいいと演劇部に押し付けられている。

「整理すると、またゴミが出そうだけど」

「快適空間の確保が第一ですうー」

「せやなあ、くつろぎ空間の確保が第一やもんな」


「「「うん!」」」


 演劇部の主題は『心地よい高校生活』である。
 
 啓介は昼休みと放課後をウダウダ過ごすため。

 千歳はがんばったけど、やっぱり駄目だったというアリバイを作るため。

 須磨は六年間幽閉されている生活指導のタコ部屋から脱出するため。

 ミリーは解体されていく部室棟(ひい祖父さんの若き日の作品)を静かに観察するため。

 三者三様の動機であるが、真っ当な部活動などしたくもないけど快適な住空間が必要という点で一致している。
 
「でも、須磨先輩って、元々のタコ部屋にいるのに平気なんですか?」

 廊下に待機して、出てきたゴミの袋詰めをしながら千歳が聞く。

「うん、一人じゃないしね、それに指導されてここに居るんじゃなくて、自主的な部活だから、全然違うよ」

「わかるわかる! 授業中の教室はウットシイけど、昼休みとかは嬉しいもんねえ!」

「ミリーも日本人の感覚になってきたんやなー」

「啓介、そこは、もう一段積んで」

「あ、こう?」

「そう、そうしたら横が空くからトランク収まるよ」

「その横も詰めたら楽勝ですよ」

「あー、それて全面積み直しになる」

「そうだよね」

「このままいってしもてええんちゃうかなあ」

「「「うん」」」

 四人の意見が一致して、啓介は「んこらしょ!」とトランクを収めた。

「じゃ、ゴミ捨てに行こうか」

「千歳、いくつある?」

「四つです」

「じゃ、行ってしまおうか、グズグズしてたら雨降りそうや」

 千歳は車いすの膝の上に、三人はそれぞれ一袋を持ってゴミ捨て場に向かう。 グータラな演劇部だが、それなりの仲間意識が生まれて呼吸が合ってきたようだ。

「よし、ほんなら部室に帰ってお茶でもしよか!」

 四つのゴミ袋を所定のゴミ捨て位置に収め、四人は校舎の角を曲がった。

「あれ、なんだか騒々しいですよ」

 部室の有る校舎の方が騒がしい。

「なんだか、虫が湧いたときの感じ……」

 須磨の呟きに三人も嫌な予感がした。


「ちょっと、あんたたちぃーーーー!!」


 生徒会副会長の瀬戸内美晴が血相を変えて詰め寄って来た!
 



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局     


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする