REオフステージ (惣堀高校演劇部)
048・エリ-ゼのために・3
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです
平気な顔をしているけど気にはなっている。六回目の三年生をやっているわたし松井須磨は23歳、来年は24歳だ。
当たり前なら大学を出て仕事をしている。同期には結婚して子持ちの子もいるらしい。
こないだ久々に職員室に行った。
「失礼します……( ゚Д゚)」
一礼のあと顔を上げてビックリした。
惣堀高校は古い学校で、有形無形の因習が残っている。
惣堀高校は古い学校で、有形無形の因習が残っている。
その一つが職員室の席次。教頭が一番奥に席を占め、その前に三つの島。それぞれの島の奥が学年主任で、以下は年齢と着任の順番。担任なんだからクラス順に並べばいいのにと思うんだけど、そうはしない。
で、一番ドアに近いのが非担任学年係という名のパシリ席。つまり、最若年の新任教師の席。
その席に座っていたのが、最初の三年生のクラスメート朝倉さんだ!
わたしは直ぐに気づいたが、朝倉さんは気づかないのか「どの先生に用事?」と小首をかしげる。
で、一番ドアに近いのが非担任学年係という名のパシリ席。つまり、最若年の新任教師の席。
その席に座っていたのが、最初の三年生のクラスメート朝倉さんだ!
わたしは直ぐに気づいたが、朝倉さんは気づかないのか「どの先生に用事?」と小首をかしげる。
「演劇部の松井です、〇〇先生に部活の用件です」
そう返事して一礼したが「はいどうぞ」としか返ってこなかった。
忘れられているか、23歳の制服姿が痛々しくて知らんぷりを決められたのかは分からない。
こりゃ、もう卒業しなくっちゃなあ……とだけは思った。
それよりビックリしたのが薬局のオジサンだ。
ミイラ美少女人形のいきさつを昔語りされて、しみじみビックリ。
こりゃ、もう卒業しなくっちゃなあ……とだけは思った。
それよりビックリしたのが薬局のオジサンだ。
ミイラ美少女人形のいきさつを昔語りされて、しみじみビックリ。
六十過ぎのオジサンが、四十三年前に当時の部長の谷口さんといっしょに作った創作劇が『エリ-ゼのために』なんだ。
谷口さんが本を書き、オジサンは人形を作った。
脚本、人形ともに難渋している時、転校してきたのが日独のハーフで、その名も三宅エリ-ゼ。
創作劇はポシャッタけれど、谷口さんとエリ-ゼさんは、本書きが縁で付き合うことになった。
それだけでも十分に青春ドラマなんだけど、もっとビックリした。
傘を持ってきた奥さんにおじさんは「あ、すまんエリーゼ」と返事していた。
「それから色々あってね……結局は俺のカミさんになりよった。名前は22歳で帰化したときに絵里世て漢字を当てて、読み方も『えりよ』にしよったんや」
傘を持ってきた奥さんにおじさんは「あ、すまんエリーゼ」と返事していた。
「それから色々あってね……結局は俺のカミさんになりよった。名前は22歳で帰化したときに絵里世て漢字を当てて、読み方も『えりよ』にしよったんや」
そう言って、オジサンは雨の中、夫婦で商店街に帰っていった。
結局はオジサンの奥さんになって、どう見ても空堀商店街の薬局のオバチャン。
そこに落ち着くためにはいろんなドラマがあったんだろう……久々に感動した。
43年ぶりに『エリ-ゼのために』を完成させてお芝居にしてみたいと、演劇部らしい衝動が湧いてきた。
帰り道、商店街を通って駅に向かう。
前を朝倉さ……先生が歩いている。
結局はオジサンの奥さんになって、どう見ても空堀商店街の薬局のオバチャン。
そこに落ち着くためにはいろんなドラマがあったんだろう……久々に感動した。
43年ぶりに『エリ-ゼのために』を完成させてお芝居にしてみたいと、演劇部らしい衝動が湧いてきた。
帰り道、商店街を通って駅に向かう。
前を朝倉さ……先生が歩いている。
ちょっと足を速めて朝倉さんと並んでみる。
「あ……」
「あ……」
「ども」
間の抜けた返事をしてしまう。
「あ……演劇部の」
生温く反応してくれるけど、反応は先日の記憶で、6年前の同級生のそれではない。
一礼して朝倉さんを追い越す。
薬局の前に来ると自然と目が行く。
一礼して朝倉さんを追い越す。
薬局の前に来ると自然と目が行く。
オジサンとオバサンが詰まらなさそうに店番をしている。
どう見ても、レトロ商店街におあつらえ向きの景色というかたたずまいで、ちょっと想像力を働かせれば、朝の連ドラができてしまいそう。
でも、そんな注目のされ方は――堪忍してぇなぁ――という感じ。オジサンも部活のことは話してくれたけど、結婚に至るストーリーと、その奥さんが、完ぺきな、そうと言われなければドイツとのハーフだとは分からないくらいに商店街のオバチャンに変態したお話はしてくれなかった。
お店のガラスに自分の姿が映る。
そうと言われなければ六回目の三年生をやっているとは分からないJK。
もし朝倉さんが、そうと気づいて追いかけてきて「ええ、クラスメートの松井さんだよね!? ええ……どうしてぇ!?」と聞いてきても、きっとわたしははぐらかす。
やっぱ『エリーゼのために』は衝動に留めておこう。
富士には月見草が良く似合う……八年前に習った太宰の言葉だ。
演劇部には日和見草が良く似合う。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- 小山内啓介 演劇部部長
- 沢村千歳 車いすの一年生 留美という姉がいる
- ミリー 交換留学生 渡辺家に下宿
- 松井須磨 停学6年目の留年生
- 瀬戸内美春 生徒会副会長
- 生徒たち セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
- 先生たち 姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
- 惣堀商店街 ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)