この週末日本公開された『マリウポリの20日間』 は、必見の映画である。
どうしても観なければならないと思って、映画『マリウポリの20日間』を観た。
2022年2月、ロシアがウクライナ東部マリウポリへ侵攻開始。 壊滅までの20日間、包囲されたマリウポリ市内で、戦火に晒された人々の惨状を、AP通信のウクライナ人記者であるミスティスラフ・チェルノフが現地で記録し、世界に発信したものを、映画としてまとめた。
産院まで爆撃するロシア軍の無差別攻撃。断水、食料供給や通信の遮断、死にゆく子供たち、掘られた穴にまとめて埋葬される民間人の遺体の数々、戦火にさらされた人々の惨状を描いた、ウクライナのジャーナリストによるウクライナの映画である。本年のアカデミー賞・長編ドキュメンタリー賞を受賞している。
一つ一つの出来事は、既に報道でご存じの方も多いとは思うが、一人の人間が「身を持って体験した」という20日間の出来事のリアリティーは、それが「映画」としてまとめられたことで、よりいっそう実感深く伝わってくる。淡々としていながら、この緊急事態に、人間は無意識に適応してしまう、その不条理も感じさせる。決して観察映画でなく、監督のナレーションがある「主観映画」のようになっているかといえば、そんなことはない。この映画では、監督自身が、「姿を見せない被写体」にも、なっているのである。それにしても理不尽な出来事が連続しすぎる。この映画に描かれた出来事の後に、マリウポリの鉄工所で、さらに悲惨な出来事が付いていたのも、報道された通りであろう。
ネタバレになっても言いたいのは、映画の中で取材者の目の前で亡くなってしまう生身の妊婦のことについて、ロシア側が「フェイクニュース」「ウクライナの女優が演じている」というでっち上げをする、残忍さだ。「情報戦争」等という言葉でまとめないでほしい。一方的な報道、インターネットの無責任な「利用」は、人間を、何度も殺すのだ。