郷田真隆はなぜ挑戦者決定戦に弱いのか 王将戦 編

2024年04月18日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回の続き。

 郷田真隆九段と言えば、その実力にもかかわらず、挑戦者決定戦での勝率が悪い。

 そこで、実際にどれほど苦戦しているのか数えてみようということで、まず竜王戦挑決0勝1敗

 名人戦はリーグ戦だからむずかしいが、2度出場しているので2勝0敗

 王位戦3勝2敗と、ここまではまずまずの成績だが、叡王戦0勝0敗王座戦0勝4敗棋王戦2勝5敗と下り坂に。

 ここまで7勝12敗と負け越しているが、ここからどうなるか。

 事務仕事が苦手な私は、もうすべてを投げ出してメイプルタウンあたりに亡命したくなっているが、果たして完走できるのか?

 

 


 次も、棋王戦に続いて獲得経験のある王将戦

 まずはずせないのが、1994年の第44期王将戦プレーオフで、このとき挑戦権をかけて戦ったのが羽生善治六冠王

 このとき羽生は「七冠王ロード」のクライマックスへ向かってひた走っており、郷田はそのストッパーの役を担うことになったが、残念ながら敗れてしまった。

 その後、2002年第52期にもプレーオフに進出するが、羽生にまたもやられてしまう。

 その後は長くプレーオフ進出に縁がなかったが、12年後2014年第64期王将戦で七番勝負に進出。

 このときも、リーグ戦で独走態勢に入りながら、勝てばすんなり挑戦というところで2つ星を落とし、羽生に追いつかれるという、まさかの失速

 流れ的にプレーオフは勝てないと思われたが、そこをしっかり立て直したのはさすが。

 本番の七番勝負でも、充実著しかった渡辺明王将からフルセットの末奪取し、王将獲得

 

 

 

 図は第7局の序盤戦。

 横歩取りから、後手の渡辺が△53角と打ったところ。

 先手が▲12歩と攻めて、がなくなったタイミングで8筋をねらうが、郷田は好きにすればと▲11歩成

 堂々と歩を成られて、これで行けなければなにをやってるかわからないと、△86角と切って▲同歩△同飛

 

 

 

 

 力強く踏みこんだはいいが、こうなってみると後手の8筋突破が受からない形。

 歩があれば▲87歩で大優勢だが、もちろん渡辺はそれがないことを見越しての攻撃だ。

 このままではを作られるのは必至。かといって、頭の丸いしかないのでは受けもむずかしい。

 先手が困っているようだが、郷田は平然と次の手を指した。

 

 

 

 

 ▲87角と打つのが、形のこだわらない郷田の腕力。

 一見、突破されたように見えるが、2枚のがうまく連携して一気にはつぶれないのだ。

 以下、△85飛▲66角△65桂▲21と△77銀▲59玉△66銀成▲同歩△39角▲38飛△57角成▲54桂で激戦。

 

 

 

 スゴイ形だが、本格派の2人が、こんなおかしな局面を戦っているのはそれだけで熱局の証拠であろう。

 そこから少し進んで、この局面。

 

 

 

 先手の攻めもカサにかかっているが、後手から△57歩のビンタも玉頭だけに痛烈。

 後手はまだしか持駒がないが、先手も攻めるとなるととかを渡すことになりそうだし、▲87質駒になっている。

 うまく対処しないと、裸玉に近いだけに一撃で仕留められる危惧もあるが、次の手が郷田らしい一着だった。

 

 

 

 

 

 

 ▲47金と上がるのが、なにも恐れない勇者の一手。

 一見「金はナナメに誘え」で守備力が激減しているようだが、そこをあえて▲58の地点を開ける▲47金が、郷田流の見せ場。

 △62歩▲同桂成△44歩▲54歩△62銀▲同成銀△43金上▲56金のショルダータックルが決め手になった。

 

 

   

 この手を見越しての▲47金だったのだ。

 △67馬に、▲55桂と上部から押しつぶして先手勝勢

 第1局画期的新手に、第6局大逆転と並べて、実にドラマチックなシリーズであった。

 翌年の第65期王将戦でも、羽生善治の挑戦を勝2敗で蹴散らしてタイトル戦初防衛

 こう見ると、2010年代前半王将棋王を獲得するなど、円熟期とも言っていい内容。かなり充実していたようだ。

 

 ☆王将リーグプレーオフ 1勝2敗獲得2

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郷田真隆はなぜ挑戦者決定戦に弱いのか 棋王戦 編

2024年04月15日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回の続き。

 郷田真隆九段と言えば、その実力にもかかわらず、挑戦者決定戦での勝率が悪い。

 そこで、実際にどれほど苦戦しているのか数えてみようということで、まず竜王戦挑決0勝1敗

 名人戦はリーグ戦だからむずかしいが、2度出場しているので2勝0敗

 王位戦3勝2敗叡王戦0勝0敗王座戦0勝4敗

 ここまで5勝7敗と負け越しているが、ここからどうなるか。

 ぶっちゃけ、かなり数えるのがダルくなってきたが、今さら後に引けないので続けたい。

 


 続いては獲得経験もある棋王戦

 こちらは1997年に、南芳一九段を破って挑戦権を獲得。

 そこまでは良かったが、5番勝負では羽生善治棋王1勝3敗のスコアではね返されてしまう。

 で、ここからがまた試練になる。

 まず、2000年の第26期棋王戦では、挑戦者決定戦で敗者復活から上がってきた久保利明六段に、2連敗し挑戦を逃す。

 翌2001年の第27期、今度は敗者復活戦から勝ち上がったものの、佐藤康光九段先勝しながら勝ち切れず。

 2002年の第28期では、これまた敗者戦から上がってきた丸山忠久九段に2連敗し、王座戦と同じく怒涛の3年連続挑決敗退。

 しかも、2度敗者組2連敗しているんだから、ちょっと問題ありだ。

 おまけに2005年の第31期棋王戦でも、敗者戦から森内俊之名人に挑むも敗れ、郷田ファンからすれば頭をかかえたくなる惨状

 ただ、2011年の第37期棋王戦では、敗者戦から上がってきた若手トップの広瀬章人七段を押さえて、ようやっとトンネルを抜ける。

 このときも初戦を敗れて、「またか」とおもわせたところを2戦目でキッチリと取り返しての挑戦で、少しヒヤヒヤはしましたが。

 

 

 

 

 図は挑戦者決定戦の第1局

 「振り穴王子」の穴熊に郷田も対抗して、この局面。

 こんなもん、どうみても▲21飛成しか思い浮かばないが、次の手がいかにも「郷田流」だった。

 

 

 

 

 

 

 ▲85歩と、ジッと伸ばすのがコクのある手。

 目先の飛車成にとらわれず、穴熊の最急所に圧力をかけておくのが、この際の好判断だった。

 もちろん▲21飛成でも悪くはないのだが、ここでそれを保留できる精神力がすばらしい。

 控室で検討していた青野照市九段からも「郷田好み」のお墨付き。

 なにかこう理屈抜きで「つえーなー、オイ」という気にさせられるのだ。

 将棋はこの後、熱戦になって二転三転の末に郷田が敗れたが、その存在感は存分に見せたようだ。

 続く久保利明棋王との五番勝負でも郷田は強かった。

 

 

 

 第1局のこの局面。

 やはり相穴熊の戦いだが、作戦負けで苦しげなところ、次の手が意表の一着。

 

 

 

 

 ▲96銀と出るのが、形にこだわらない強い手。

 ねらいとしては次に▲85歩から歩を交換すれば、一歩を手持ちにした上にが大いばりで指せると。

 それはいけないと久保は△73桂と交換を拒否するが、今度はそこでまたもやジッと▲87銀

 

 

 

 

 手損となったが、後手に△73桂と跳ねさせ、アーマークラスを下げたことが地味に効いている。

 木村一基八段曰く、

 


 「負けてもこういう手を指すと「強いなあ」と感嘆しますね」


 

 この将棋こそ敗れたものの、その後3連勝3勝1敗奪取

 ようやっと苦労が報われる形に。

 王座戦とちがって、こっちはハッピーエンドだったが、その翌年には渡辺明竜王1勝3敗で敗れて失冠

 挑決ともうひとつ、防衛戦でなかなか本領を発揮できないのも、郷田の泣き所だったが、これまたなぜか。

 理由はやはり不明である。

 おっと、忘れるところだった2021年、第47期の挑決でも永瀬拓矢王座に敗れて、またひとつ黒星を増やしてしまった。

 永瀬は今バリバリでA級タイトルの常連だから、ある程度はしょうがないとはいえ、うーん、ここは久しぶりに郷田のタイトル戦が見たかったのだが……。

 

 (続く

 

 

 ☆棋王戦挑決 2勝5敗獲得1

 

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郷田真隆はなぜ挑戦者決定戦に弱いのか 叡王戦&王座戦 編

2024年04月12日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回の続き。

 郷田真隆九段と言えば、その実力にもかかわらず、挑戦者決定戦での勝率が悪い。

 そこで、実際にどれほど苦戦しているのか数えてみようということで、まず竜王戦挑決0勝1敗

 名人戦はリーグ戦だからむずかしいが、2度出場しているので2勝0敗

 王位戦3勝2敗

 今のところは5勝3敗と勝ち越しているが、ここからどうなるのか。

 正直、ちょっとめんどくさくなってきたが、がんばって数えてみたい。

 

 


 続くのは叡王戦だが、ここでもまず第1回の大会で決勝に進出するも、山崎隆之八段に敗れて準優勝

 まあ、このときはまだタイトル戦じゃなかったから、ノーカウントだけど、このときのトーナメントを

 

 「ソフトへの挑戦」

 

 をかけた戦いと解釈すれば、やはり負けているということにもなるなあ。


 ☆叡王戦挑決 0勝0敗

 


 次は王座戦

 王座戦は郷田が獲得どころか、5番勝負にも出たことがない棋戦である。

 ただ、しっかりと挑決4度も勝ち上がっているのがさすがで、つまりはそこで4連敗していしまっているということでもある。

 またしても、なんでやねん。

 うちわけは、1997年の第45期王座戦で、島朗八段に負け。

 1998年谷川浩司竜王に、必勝の局面から「1手トン死」を喰らって大逆転負け。

 1999年の第47期では丸山忠久八段に敗れて、3年連続の挑決敗退。

 これはかなりしんどい結果だが、そのあと2013年にも久々に勝ち上がったものの、やはり中村太地六段に敗れガッカリ。

 これには相性がいいのか悪いのか、よくわからないものである。

 そういえば郷田と言えば丸山天敵で、対戦成績でも負け越しているはず。

 その理由は郷田が後手になったとき、ムキになって丸山必殺の角換わり腰掛銀を受けるからで、それにほとんど勝てていないからだ。

 そういえば佐藤康光九段もそうで、谷川浩司九段や丸山のような「スペシャリスト」に後手番の角換わり腰掛け銀で挑んで、痛い目にあわされてきた。

 象徴的なのがこの将棋で、2011年の第70期A級順位戦

 

 

 

 

 渡辺明竜王と郷田真隆九段の一戦は角換わり腰掛け銀から「富岡流」と呼ばれる形になる。

 △同金、▲33銀、△同桂、▲同歩成、△41玉、▲22と、△49馬、▲74桂、△同金、▲53馬、△58馬、▲72歩。

 

 

 

 

 △72同飛、▲62金、△42金、▲45桂、△53金、▲同桂成、△62飛、▲同成桂、△68銀、▲88玉。

 

 

 

 

 まで渡辺の勝ち。

 相居飛車の定跡通り先手番バリバリ攻めて押し切るという「後手番ノーチャンス」のような、よくある将棋に見える。

 これが当時「事件」と騒ぎになったのは、なんとこの手順は「後手負け」という定跡としてすでに確立しており、角換わりのにも掲載されている有名な順だったこと。

 「富岡流」からその定跡通りに進んだところでは、当然「負ける」側の郷田が手を変えるはずで、「郷田新手」を皆が予想し期待していたところ、なんとそのレールに乗ったまま最後まで走って投了

 なんてこったい! これじゃあ、まるで棋譜並べだ。

 公式戦、しかも持ち時間6時間の順位戦で、なぜこんなことが起こったのか。

 結論から言えば、郷田はなんとこの定跡を知らなかったから。

 郷田と言えば、パソコンはおろか携帯電話なども、

 


 「そんなものより大事なものはいくらでもある」


 

 

 と言い放って長く持たなかった「硬派」で知られ、今では当たり前の研究会や、ケータイのメッセージなどでの最新手順の情報交換も一切拒否していた男。

 日々の鍛錬と、自分の信念のみを信じるという文字通りの「一刀流」で、それでタイトルまで取ってしまったサムライの姿は、

 

 「カッコよすぎるやん……」

 

 金井恒太六段をはじめ、多くの棋士観戦記者ファンをシビれさせるが、そのスタイルには常に、こういった落とし穴がつきまとう。

 これが「定跡」になっていることを知らされた郷田は呆然としたそうだが、さもあろう。

 もちろんこれは極端な例だし、郷田の力をもってすれば、この程度の罠は「誤差」の範囲内だが、生涯勝率を少しばかり下げてしまっているのも事実だ。

 これはねえ、「オランダサッカー」問題と同じで、むずかしいよねえ。

 「信念」か「結果」か。

 もっとも、それを「もったいない」と感じるのは素人考えで、本人たちの弁では、意地だけでなく勝算があっての採用だと語っている。

 それに棋士人生を長い目で見れば、たとえ相手のエース戦法に挑んで負けても、きっと黒星以上に得るものもあるのだろう。

 そういったことを視野に入れれば、

 

 「角換わりを、さければいいのに」

 

 というのが、いかに底の浅い意見であるかわかろうというもの。

 玄人の将棋ファンとし鳴らす私としては、そういう輩は大いにバカにしたいところであるが、2013年NHK杯決勝で丸山と当たった郷田は、後手番で横歩取りを採用。

 

 

 

 図で△75飛と引いたのが好手で、▲45を取って△47の地点をねらうのが速い。

 先手は左辺の角金銀になって受けにくく、郷田がそのまま勝ち切りNHK杯初優勝を決めた。

 あざやかな指しまわしで、さすが郷田はどの戦法を指しても強いなあ……。

 ……て、あれ? やっぱ、じゃあ今までも角換わりは避けといたらよかったんちゃうん! 

 最初からもっと柔軟に戦型を選んでたら、NHK杯だってもっと勝てたかもしれないのに……。

 もっとも、私(ド素人)なんかがそんなことを言ったところで、郷田なら、

 

 「それって、なんか意味あるんですか?」

 

 なんて答えるのだろう(「あー、意味ない、意味ない」は酔った郷田の口癖)。

 もっともだ。そんな郷田は郷田ではない。

 あーもー、めんどくせーなー。オレはアンタについていくよ、もう!

 

 ☆王座戦挑決 0勝4敗

 

 (続く
   

 

 

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郷田真隆はなぜ挑戦者決定戦に弱いのか 王位戦 編

2024年04月09日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回の続き。

 郷田真隆九段と言えば、その実力にもかかわらず、挑戦者決定戦での勝率が悪い。

 そこで、実際にどれほど苦戦しているのか数えてみようということで、まず竜王戦挑決0勝1敗

 名人戦2度出場しているけど

 

 「勝ってれば挑戦者なのに……」

 

 という敗戦があるかどうかわからないので(調べろよ)2勝0敗ということに。

 


 続いて王位戦

 郷田は初タイトルが王位であるし、1993年から95年にかけて、3年連続羽生善治と七番勝負を戦った印象などから「王位戦男」とも呼ばれた。

 棋士によって相性のいい棋戦というのはそれぞれあって、羽生善治九段王座戦に、森内俊之九段名人戦

 佐藤康光九段棋聖戦や、渡辺明名人竜王戦などがパッと目につくが、王位戦に関しては郷田以外にもいたもの。

 佐藤義則八段高橋道雄九段(王位獲得経験もあり)なども、かつてはリーグ入りの常連で、そう呼ばれたものだった。

 なら比較的勝率も高いのではと期待も高まるわけで、まず1992年の第33期王位戦では、佐藤康光六段に勝って挑戦者に。

 七番勝負でも谷川浩司王位にいきなり3連勝し、その後2つ返されたものの、第6局では終盤の競り合いで絶妙手を披露し、見事に初タイトル獲得。

 これが当時、絶賛されたので少し見ていただきたい。

 

 

 

 

 図は谷川王位が△66歩とたたいて、▲同金△57角成としたところだが、これが疑問で、もっと早く△73桂と跳ねるべきだったそう。

 先手は▲67金上として△39馬に、▲78飛と回る。

 

 

 

 これがが味のいい手で、郷田はこのあたりで手ごたえを感じたという。

 谷川は遅ればせながら△73桂の両取りだが、かまわず▲75飛とさばいて、△85桂▲86角が絶妙の跳躍!

 

 

 

 

 自陣で眠っていた飛車角が、敵の急所をねらう位置に飛び出して、見事な躍動感を生み出している。

 郷田はこの年、棋聖戦でも2度谷川挑戦してどちらも敗れているから(当時の棋聖戦は年2回開催だった)、ちょっと苦しいかなとも思われたが、それをはね返した精神力はすばらしかった。

 翌年、羽生善治四冠の挑戦を前にストレートで失冠したが、その次の1994年第35期王位戦では挑決で高橋道雄九段を退けてリベンジマッチの舞台へ。

 さらに翌年の36期でも、谷川浩司王将に勝って、またも挑戦者に。

 それぞれ3勝4敗2勝4敗で羽生王位に防衛をゆるすも、ここまでの成績を見ると、王位戦とは相性が良かったともいえる。

 ただ、1997年の第38期と、翌年の第39期でそれぞれ佐藤康光八段名人)に敗れて挑戦はならず。

 郷田と言えば王位のイメージが強かったが、意外なことにこの後、挑決まで上がってくることはなかった。

 獲得1期というのも、あらためて調べてみておどろいたもの。もっと取ってると思ったのだ。

 

 ☆王位戦挑決 3勝2敗獲得1

 

続く

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郷田真隆はなぜ挑戦者決定戦に弱いのか 名人戦 編

2024年04月07日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回の続き。

 郷田真隆九段と言えば、その実力にもかかわらず、挑戦者決定戦での勝率が悪い。

 そこで、実際にどれほど苦戦しているのか数えてみようということで、まず竜王戦挑決0勝1敗

 続いては名人戦

 ここはA級順位戦というリーグ戦だから、挑戦者決定戦もなく、そこをどうとるかが問題。

 2007年第65期名人戦と、2009年第67期名人戦に挑戦者として出場しているから、2勝0敗ということでもいいが、逆に

 

 「勝ってれば名人挑戦だったのに」

 

 という敗戦があったかどうかがわからないし、調べるのがめんどいので「0敗」かどうかはわからない。

 まあ、とりあえずここでは2勝0敗ということにして話を進めるが、本番の七番勝負では勝てなかった。

 とはいえ、2007年森内俊之名人に、2009年羽生善治名人にどちらもフルセットまで行っており、「郷田名人」の可能性は十分すぎるほどあった。

 特に2007年は「永世名人」のかかった森内に2勝3敗カド番から「50年に1度の大逆転」を喰らわせてフルセットに持ちこむという、ドラマチックな戦いを披露。

 しかも、最終局で先手番を引くという大チャンスだったが、大熱戦の末敗れてしまったのは残念だった。

 

 

 

 その名人戦の最終局

 森内勝勢のところから郷田が決死のねばりで喰いつき、ここでは控室も「またも逆転か!」と色めきだっていた。

 駒が、特に先手陣の桂香の利きがゴチャゴチャしてややこしく、

 


 「むずかしすぎる」

 「これが詰将棋だったら、考える気もしない」


 

 検討陣も悲鳴をあげるほど。

 しかも、次の手がまたスゴイのだ。

 

 

 

 

 

 ▲73銀と捨てるのが、名人への執念を込めた郷田渾身の勝負手。

 △同金▲85桂と取る手が、▲31角△22歩▲23角成△同玉▲22角成以下の「詰めろ逃れの詰めろ」になるのだ!

 あまりの難解さと郷田の迫力に、さすがの森内もパニックになったが、ここで冷静に△83と引いて耐えていた。

 ▲23角成△同玉▲84金(!)という根性のしがみつきにも、△59角と打つのが冷静だったよう。

 

 

 

 

 と言っても、やはりメチャクチャな駒の配置で理解は不能だが、これで△66竜と取る手や、が入れば△76金で詰む形になり、どうやら決まったようだ。

 角切りを強要して、後手玉が安全になったのも大きい。

 ▲75銀△84飛と取って、▲同銀引不成△76金まで郷田が投了

 「森内俊之十八世名人」が誕生した。

 郷田も強かったが、森内の超人的な落ち着きが印象的なシリーズだった。

 

 2009年の名人戦も、第5局で羽生の横歩取りを完全に封じ、3勝2敗とリードを奪ったときには、

 

 「まあ、郷田は一回は名人になるべき男やもんな」

 

 ひとりごちたものだが、そこから逆転されてしまい、またも悲願ならず。

 

 

 

 図はそのシリーズ第5局

 横歩取りの激しい切り合いから、羽生が△27飛とおろしたところ。

 ふつうは▲28歩しか見えないところで、△25飛成から、じっくりした戦いになりそうだが、次の手が「お見事」という着想だった。

 

 

  

 2筋を受けずに▲23歩と、ここにタラしたのがキビシイ手だった。

 次に▲22歩成△同金▲42角打から詰まされてしまうが、これを受けるうまい手がない。

 △52歩と受けるしかないが、そこで▲75馬飛車取りに逃げられるのがピッタリで先手絶好調。

 △44飛と逃げるしかないが、▲82歩△同銀を一発利かして▲18角が気持ちよすぎるクリーンヒット。

 

 

 

 

 郷田の見事な指しまわしに戦意喪失したのか、羽生はその後、ねばることもできずに土俵の外にたたきだされた。

 ただ、そこから勝つのがこのころの羽生や森内相手だと大変なことで、第6局第7局に敗れた郷田は、あと一歩のところで、またしても名人を獲得ならず。

 このころの森内と羽生は、名人戦で強かったなあ。

 格やその王道的棋風からも「郷田名人」はしっくりくるんだけど、なかなかうまくいかないものである。

 また郷田はA級順位戦で何度か「4勝5敗降級」という目にも合っている。

 深浦康市九段も似たようなことになっているが、彼らが実力とくらべて実績的に歯がゆいのは、こういうハードラックのせいでもあるのだろう。

 

 ☆名人戦(プレーオフ) 2勝0敗

 

 (続く

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郷田真隆はなぜ挑戦者決定戦に弱いのか 竜王戦 編

2024年04月05日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 郷田真隆はなぜ、「ここ一番」という戦いを落としてしまうのか。

 勝負の世界では、勝率は高く、仲間内からもその実力を認められていながら、なぜか思うような結果が出ない人というのがいる。

 豊島将之九段20歳タイトル戦に登場しながら、実際に獲得するまで長い年月を必要とした。

 A級棋士として活躍し、王座のタイトルも取ったことのある斎藤慎太郎八段は、14歳三段になり、三段リーグでも毎年好成績を上げるも、卒業までに4年も費やしてしまった。

 この手の「なぜ?」で昔から引っかかっているのが、郷田真隆九段のそれであり、この人はとにかく、挑戦者決定戦でよく負けている印象がある。

 タイトル6期、優勝7回はこれだけ見ればすばらしい実績だが、郷田ほどの男にしては少ないというか、正直言わせてもらいたいが、全然物足りない数字。

 デビュー初年度から挑戦者決定戦にバンバン進出しまくり、四段王位を獲得など偉業を達成しているなどから、その2、3倍はあってもおかしくないわけで、データベースウィキペディアを見るたびに、誤植を疑ってしまうクセが抜けないのだ。

 そんな郷田は、いったい挑決でどれくらい苦戦しているのか。

 私はデータを集めたりするのが苦手なので、イメージこそあれ具体的な数字はよくわからない。

 ウィキペディアなどにも載っていないので、めんどうではあるが、ここに今回数えてみることにした。

 アバウトな統計なので、間違っているところはあるだろうが、そういうときは鯖にでも当たったと思ってあきらめるのが吉であろう。

 


 ではまず、竜王戦から。

 郷田は意外なことに、竜王戦で挑戦者決定戦まで行ったことは1度しかない。

 しかも2013年の第26期でのことで、四段デビューが1990年だから、ずいぶん経ってのことなのだ。

 このときはNHK杯初優勝するなど好調だったようだが、挑決では森内俊之名人1勝2敗で敗れた。

 それはまあ、勝負だから仕方ないにしろ、この年はこれにくわえて、棋聖戦渡辺明竜王棋王王将に。

 王座戦中村太地六段にも、それぞれ挑決でやられており、これはなかなかにキツイ結果だ。

 年に3回も挑戦者決定戦まで行くのはすごいが、そこで3回とも負けてしまうのはコタエるだろう。

 

 

 

 図は竜王戦挑決、第3局の中盤戦。

 ▲86にいる飛車がスゴイ形で、△85銀とすれば取れそうだが、それには▲同飛△同飛▲64歩とするのが好手。

 

 

 △同角▲65歩と、角取りの先手で飛車の逃げる場所をつぶしてから、△28角成と逃げたところで▲86香と打てば取り返せる。

 かといって、▲64歩△82飛と先逃げしても、▲63歩成で、これもと金ができて先手が優勢だ。

 そこで郷田は△85歩と打って、▲96飛△28角成と押さえこみにかかるが、そこで▲94歩(!)が、また度肝を抜かれる構想。

 △18馬▲93銀と、なんとこっちから強引に突破して、先手が勝つのだった。

 

 

 

 郷田と仲のいい先崎学九段は、たしか王位戦だったかで挑戦権を逃したときに、

 


 「彼は昔から、ここ一番に弱かったですよ」


 

 と言ったそうだが、郷田の不思議なところは、その理由がよくわからないこと。

 勝負弱い人の定番である、メンタルに問題があるとも思えず、「フルえる」ことによって落としたところも、あまり見ないわけで、なんでやねんと首をひねることになるのだ。


 ☆竜王戦挑戦者決定戦 0勝1敗

 

 (続く

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『ベルナールトス嬢曰く』第7巻に出てきた本、何冊読んだ? その4

2024年04月02日 | 

 施川ユウキ『バーナード嬢曰く』が好きである。

 ということで、前回に続いて、

 

 「このマンガに出てきた本を何冊読んだか数えてみよう」


 
 との企画。第7巻の第4回。

 

 


 ★『ご冗談でしょうファインマンさん』R・P・ファインマン(未読)
 

 一時期、理系の本をたくさん読んだときに買って積読
 
 おもしろそうなんだけど、長くて分厚いと、つい後回しに。
 
 ユリゲラーが、自分が曲げたスプーンでコーティングしたベンツに乗ってたって噂は本当なのかな。
 
 


 ★『奇岩城』モーリス・ルブラン(読了
 

 長谷川さんの気持ちは痛いほどわかる。
 
 最初に読んだとき、ホントにホントーに腹がたったもん!
 
 しかも、ドイル先生に怒られてもモーリスの奴ヘラヘラしてんの。

 

 「遊びやのに、コナン君がマジんなってて草」

 

 芸人気取りの大学生か! 陽キャの悪いところ出てるわー。
 
 キライなんだよー。だから今でも、ミスヲタのくせにルパンはほとんど読んでない。
 
 「愛」がないのが最悪なんよ。どついたろか、ホンマ。
 

 


 ★『マーダーポットダイアリー』マーサ・ウェルズ(未読)
 


 「あらゆる本を他人の日記だと思って読むよ!」
 

 「私小説」文化のある日本だと、すんなり入って来る発想。
 
 私が明治大正くらいの日本文学を読まないのは、きっとこの「痛い日記」を読まされる共感性羞恥が耐えられないから。

 太宰とか好きな人は、それがたまらないんだろうけど、ダメだなー。
 
 友達と朗読しながら、バンバンつっこみ入れて、笑いながら観賞すると、すげえ楽しいんだけどね。藤村とか。
 
 


 ★『映画を早送りで観る人たち ファスト映画ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』福田豊史(未読)
 
 
 この「早送り」問題。私が若いころもあったよ。VHS倍速にしてドラマ見るとか。
 
 好きでない歌手の曲をカラオケのためだけにCD買っておぼえたり、いつの世も若者は「ついていく」ために努力しているのだ。

 まあ、私は完全に放棄してましたが。おかげで怒涛のマイナー野郎だ。 
 
 


★『虛航船団』筒井康隆(未読)
 
 外国人観光客のマナーの悪さに憤っている人は、ぜひ『農協月へ行く』を読みましょう。
 
 日本人だってそうだった。なかなかなことを、よそさんでしてたんです。コメディだけど、全然笑えない。

 で、少しずつ改善していく。こういうのは「順番」なんですね。
 
 そういや、よく本やマンガや映画の話から


 
 「物語の世界にトリップできるなら、どの作品を選ぶか」


 
 なんてテーマになることがあって『ドラえもん』だ『ハリー・ポッター』だいろいろあるけど、私は筒井の『20000トンの精液』一択。

 「バキ童チャンネル」あたりで、ぜひ大いに語りたいところだ。
 
 


 ★『ぐりとぐら』なかがわりえこ(未読)
 
 有名だけど、どんな話か全然おぼえてない。

 なんか、プレゼントがスベってたから神様を怒らせて、ぐらがぐりを殺して逃げるとか、そんな話だっけ?
 
 
 


 ★『吾輩は猫である』夏目漱石(未読)
 
 
 なぜか、水島新司先生のコミカライズ版で読んだけど、漱石の魅力が、あまりよくわからない。
 
 最初に『こころ』を読まされたせいかな。

 でも坊ちゃんとか、

 

 「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている」

 

 こんなこというヤツが主人公の物語、あんまし読みたくないじゃん。

 

 「オレって~無鉄砲だからさ~、人生で損ばっかしてるわけじゃん?」

 

 「知らんけど」しか答えはないよ!

 ずーっと松山の悪口言ってるし(なぜ松山人は怒らない?)、私の印象では坊っちゃんて、「器の小さい、イタいヤツ」にしか見えんのだよなあ。

 


 ★『タイタンの妖女』カート・ヴォネガット・ジュニア(読了)
 
 
 『ローズウォーターさんあなたに神のお恵みを』を読み終わったときの衝撃は、今でも忘れられない。
 
 『スローターハウス5』など、私に「文学」をつきつけてきた作家。


 
 「わたしを利用してくれてありがとう」


 
 というセリフにもシビれた。
 

 


 ★『5分間リアル脱出ゲームR』(未読)
 
 ミスヲタのくせに、この手の謎は全然解けない。
 
 だって、頭使うのめんどくさいんだもん。
 
  


 ★『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』(未読)
 
 
 島田荘司は『奇想天を動かす』がすごいおもしろかったのに、ラストで急にお涙頂戴になって吃驚。

 


 ★『山田風太郎明治小說全集14 一明治十手架(下)』山田風太郎(未読)
 
 山田風太郎は全然読んだことない。
 
 絶対好きという確信はあるんだけど。 

 


 ★『The Book jojo's bizarre adventure 4th another day』乙一(未読)

 乙一さんは一時期よく読んだ。
 
 「せつなさの達人」ってキャチコピー、いまだにマジなのかイジってるのか、よくわからない。

 


 ★『ムーミン谷の仲間たち』トーベ・ヤンソン(未読)
 
 ムーミンは読んだことない。アニメも見たことない。『ドンチャック物語』は見てたけど。


 


 ★『書くことについて』スティーヴン・キング
 
 クリエイターが、どうやって自作を生み出してきたのか知るのは楽しい。

 最近、売れっ子のはずのお笑いコンビが急に解散したりして、おどろくことがあるけど、岡嶋二人おかしな二人 岡嶋二人盛衰記』を読むと、そのあたりのことがちょっと想像できたり。

 あと、ニールサイモンの同様の本のタイトルが『書いては書き直し』って、コワ!

 


(『バーナード嬢曰く』6巻の感想はこちら

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ダーク・ゾーン 郷田真隆vs渡辺明 2015年 第64期王将戦 第6局

2024年03月30日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 信じられない錯覚というのがある。

 将棋の世界では、トッププロでもウッカリポカはめずらしくないが、ときにそれが「両対局者同時」に起こることがあり、見ている方も「えー!」 と目が回ることになる。

 

 



 2015年の第64期王将戦

 渡辺明王将棋王郷田真隆九段との七番勝負は渡辺が3勝2敗と防衛に王手をかけ第6局に突入。

 角換わり腰掛け銀から大激戦になり、入玉模様の難解な終盤戦が続いている。

 

 

 

 角の王手に、後手の渡辺がを打って受けたところ。

 後手のと金が大きく、寄せるのは難しそうだが、先手も3枚▲19が生きているのも頼もしく、なんとかなりそうにも見える。

 先手玉も危なく、その兼ね合いもあり、また駒を使うと、どこかで王手しながら抜かれる筋も警戒しないといけない。

 ここからの戦いがすごいのだ。

 

 

 


 ▲38桂と、ここから王手するのが好手。

 ここでは▲47銀が後手玉に圧をかけながら、▲58にヒモをつける一石二鳥の手に見える

 だが、これには△79飛と打って、▲66玉△19飛成とカナメのを除去され入玉が確定。

 

 

 そこで▲38桂と捨て、△同と、とさせてから▲47銀と打つ。

 

 

 

 これなら、△79飛から△19飛成▲38銀と、と金をはずして後手玉は捕まっている。

 なるほどという手で、まるでパズルのようだが、ここは郷田が力を見せた。

 渡辺は大ピンチだが、ここで△17飛(!)という豪打(?)を繰り出す。

 

 

 

 

 これがまた、見たこともない筋だが、強い人はこういう「ひねり出す」手にも妙味がある。

 将棋は勝ちが決まったあとの収束の仕方と、不利なときのねばり方棋風が出ると言われるが、クールでロジカルな渡辺から、こういう力ずくな手が飛び出すのも混戦のおもしろさ。

 しかし、スゴイ手だなあ。

 ▲38銀は一手スキにならないから△58飛成で後手勝ち。

 ▲17同香はそこで△48と、こちらを取り、▲28銀△99角と打てば詰み

 えらい手があったものだが、郷田は負けじと▲18銀と打つ。

 △同飛成▲同香に後手は△65歩詰めろをかけ、▲66歩△69銀と下駄をあずける。

 

 

 先手玉は詰めろだが、ここでの手番は値千金で、先手に勝ちがありそう。

 ▲17銀と王手して、△27玉▲38銀と取る。

 △同玉▲28飛で詰むから△18玉ともぐりこむが、そこで一回▲68金と受ける手が冷静で、先手玉に一手スキが来ない。

 いよいよ手がなくなった後手は、△46桂とプレッシャーをかけ「寄せてみろ!」と最後の勝負をせまる。

 ここが問題の局面だった。

 

 


 

 ここでは▲28飛と打って、△17玉▲37銀と取っておけば先手玉に詰みはなく、後手玉は必至で明快だった。

 ところが、郷田は▲29銀としてしまう。

 

 

 

 これが信じられない大悪手だった。

 そう、なんと△同桂成と取られてタダなうえに入玉が確定。

 

 

 それで渡辺が王将防衛だ。

 手順を尽くして、ついに勝利をつかんだかに見えたその刹那の一手バッタリ。将棋は無情である。

 だが、ドラマはここで終わらなかった。なんと後手は△同玉と取ってしまうからだ。

 これには▲28飛と打って、△19玉▲43成桂と質駒のを取ってジ・エンド。

 感想戦で△29同桂成を指摘されると、ふたりとも「はあ?」。

 まさかのまさかだが、渡辺と郷田の両方が、この△29同桂成が見えていなかった

 両者の読みが、あまりにも一致していたせいか、ウッカリもまたおたがいをトレースしてしまったのか。

 この後の第7局郷田が制して王将獲得するのだから、結果的に見て、とんでもなく大きな錯覚であった。

 トッププロ同士でも、こういうことがあるから入玉形の将棋と秒読みは怖いのである。

 


(郷田がA級昇級を逃した大ポカはこちら

(その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

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『ベルナールトス嬢曰く』第7巻に出てきた本、何冊読んだ? その3

2024年03月27日 | 

 施川ユウキ『バーナード嬢曰く』が好きである。

 ということで、前回に続いて

 

 「このマンガに出てきた本を何冊読んだか数えてみよう」


 
 との企画。第7巻の第3回。

 


 ★『サバイバー』チャック・パラニューク(未読)
 

 

 『ファイトクラブ』でおなじみの人。
 
 一部ボンクラ男子にカルト的人気を誇るが、私はピンとこない。
 
 純文化系なので、「肉体の強さこそが男の生きる証明」みたいな発想がまったくないのだ。

 だから、ブルースリーや『バキ』とかも全然ハマらない。

 とか映画とか好きな文化系の中にも、「強さへの憧れ」がある人と、どうでもいいタイプに分かれるのはおもしろい。

 私は典型的な後者

 世界で一番エラい男子って、ドイツ軍歴代主要戦車の名前とか、全部言えるヤツでしょ?
 
 


 ★『汽車のえほん』『きえた機関車』ウィルバート・オードリー(未読)
 

 

 「主人公がダメな奴だと、見ている人がストレスを感じて楽しめない」
 


 というと思い出すのが、ケンドーコバヤシさんが『新世紀エヴァンゲリオン』見て、
 


 「オレ、あんなウジウジしたヤツ大嫌いや! 世界滅ぶんやろ? 男やねんから、さっさと乗って戦えよ!」

 
 とかマジで怒ってたこと。
 
 同じ「ジャンプ黄金時代世代」として気持ちはわかるけど、実際に軍隊の基地に連れていかれて、零戦に乗せられて、


 
 「これで鬼畜米英の戦艦と戦ってこいや!」


 
 とか言われたら絶対無理なわけで。

 そう考えたら、そのさらに上の無茶振り食らってるシンジ君の反応は百パー正しいとは思うけど、このあたりは時代性が出るのかもね。
 
 


 ★『プロジェクトヘイルメアリー』アンディ・ウィアー(未読)
 

 

 超オモシロ小説『火星の人』の作者。
 
 自分が好きな本を、自分が嫌いな人がほめてると、イヤなような、それでいて不思議な気分になる。


 
 「あんなヤな奴やのに、これの良さがわかるんやー」


 
 きっと、むこうも似たようなこと感じてるんでしょうね。

 そういや中学生のとき、私のことを嫌いなある子(クラスでイケてるタイプが)

 

 「おまえはどうせ、長渕剛の良さがわからんのやろ。そんなしょうもない人間や!」

 

 とか罵倒してきて意味がわからなかったし、まあ実際、そんなに好きではない。

 でも、あんとき真顔で

 「わかるよ……。すごいわかる」

 って応えてたら、どんな反応が返ってきたんだろうとか、ちょっと考えてしまった思い出が。

 逆にコーネルウールリッチの面白さとかを、むこうに「メッチャわかる……」て言われたとき、こっちはどう感じるのか。

 よけいに嫌悪感が強くなるのか、それとも案外仲良くなれたか、どっちなんだろ。
 

 


★『マーダーポットダイアリー』マーサ・ウェルズ(未読)

 

 本に飽きることは、まあたまにある。
 
 でも、そこで飽きたままだと、


 
 「積読になってるこの子たちは、どうするのよ!」


 
 という気持ちになって、また読み始める。愛というより貧乏性
 
 

 


 ★『10月はたそがれの国』レイ・ブラッドベリ(未読)

 

 ブラッドベリは山ほど読んだから、


 「ブラッドベリはマニアックじゃない」
 

 と言われたら、たしかにだけど、でも本を読まない人は聞いたこともないだろう。

 まあ、そんなもんだ。


 
 「ワハハハハ! おまえ本当に高校生か」


 
 と言いたくなるのは、北村薫先生の「円紫さんと私」シリーズを読んだときいつも。

 フランソワコッペとか、ふつうの高校生は読まねーって。
 
 それにしても、この中に出てくる女性キャラ、どいつもこいつも、みんなヤな女だぜ。
 

 


 ★『火星に住むつもりかい?』(未読)
 ★『ゴールデンスランバー』(未読)
 ★『モダンタイムス』(未読)
 ★『オーデュボンの祈り』伊坂幸太郎(未読)
 
 
 4冊もあるのに、しかも伊坂幸太郎は一時期よく読んだのに、既読が1冊もないという。
 
 調べてみたら読んだのは『陽気なギャングが地球を回す』『重力ピエロ』『死神の精度』『終末のフール』『グラスホッパー』『アヒルと鴨のコインロッカー
 

 どれもおもしろいけど、「語りたい!」って感じにはならないなー。さわやかでオシャレだから?


 『重力ピエロ』読んだとき、これは作者「自信あり」なんやろなと思ったもの。


 
 「春が二階から落ちてきた」


 
 なんてフレーズ、「勝算」ないと書けないじゃんねえ。

 


(『バーナード嬢曰く』5巻の感想はこちら
 

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ソフトと升田幸三賞 渡辺明vs郷田真隆 2015年 第64期王将戦 第1局

2024年03月24日 | 将棋・好手 妙手

 「新手」が登場したときは、見ていて興奮するものである。

 将棋のおもしろさには、中盤の押し引きや終盤の競り合いもあるが、序中盤で見せる新手や新戦法もはずせない。

 特に昨今はAIの発展によって、人なら盲点になるような筋から新しい展開が発見されたりと、より可能性が広がった印象。

 ということで、今回はちょっといわくつきな、おどろいた将棋を。

 


 2015年の第64期王将戦七番勝負。

 渡辺明王将棋王郷田真隆九段のシリーズは、第1局から注目を集めることとなった。

 話題になったのが、この局面。

 

 

 


 角換わり腰掛け銀の中盤戦だが、なにやらすでに、先手が苦しげである。△65歩と打たれて、の処置がむずかしい。

 この局面自体は前例があって、▲65同銀直と取るのだが、△同銀▲同銀△55角

 これで不利というわけでもないが、先手番なのに受け一方になり、つまらない展開ではある。

 となると不思議なのが、先手の渡辺明が自分からこの局面に誘導したこと。

 他にも分岐点はあったのに、あえてここにしか到達しない手を選んで進めていたのだ。

 観戦者たちは、かたずを飲んで見守っていた。西尾明六段によると、これと同じ局面を指し、

 


 「先手を持って自信がなかった」


 

 と感じたそうだが、なんとここで逆に、先手が優勢になる順が研究会で発見されたというのだ。

 果たして、渡辺明はその手を指した。

 中座真七段高野秀行六段をはじめ、並みいるプロが「驚きの声を上げた」という一着は……。

 

 

 

 

 


 ▲55銀左△同銀▲47銀で先手優勢。

 当たりになっているを捨て、逆モーションでもう1枚の銀を引く。この組み合わせで、見事に難局をクリアしている。

 このまま▲46銀を取られてはいけないが、逃げる場所も少なく、△13角には▲15歩で攻めが続く。

 郷田はこれを見て2時間25分の大長考に沈み、そのまま封じ手に突入するが、結局打開策はなく△37角成から特攻するも、冷静に受け切られてしまった。

 見事な切り返しだったが、となると気になるのは、渡辺がどこで新手の存在を知ったか。

 大川慎太郎さんの取材によると、渡辺は仲のいい村山慈明七段から聞き、村山は森下卓九段から教えてもらったという。

 そして森下によれば、

 

 


 「実はソフトに指されたんですよ」


 

 人間の検討では「先手苦しい」で一致していたところ、ソフトの新手により新しい可能性が開ける。

 今ならよくあるだろうか、当時はまだ新鮮だった。

 ちなみに渡辺は

 


 「ソフト発の新手なのに升田幸三賞にノミネート(自分が)されると困る」


 

 と思ったから、素直に研究内容を話したそう。

 たしかに、そういう誤解は問題だが、新手というのはいつも、出どころがハッキリするとは限らないのが悩みどころでもある。

 よくあるのは、新手の出どころは奨励会だけど発案者はまだ無名なうえに、研究が転がっているうちにだれが創始者かわからなくなる。

 そのうち、それを公式戦で採用したプロの名前で、その戦法がクローズアップされたりして、


 ◯◯新手ってあるけど、別に◯◯さんが考えた手なわけじゃないよね……」


 なんかな感じになったりとか。

 またおもしろいのは、なんと対戦相手の郷田はこの手を「潜在的に考えていた」ことがあったとコメントしている。

 対局中はそのことを忘れてしまっており、対策には生かせなかったが、こういう相乗効果で話が進むことだってある。

 さらに「へえ」だったのが、▲47銀と引いた局面で、もしかしたら△13角と逃げる手が、最善のねばりだったかもしれないということ。

 


 「駒に勢いがない。とても指す気がしなかった」


 

 と当初は否定的だった郷田だが、後に「引くべきだったかもしれない」と意見を変えている。

 気持ちはわかる。相手の画期的新手を喰らって苦しいときに、さらに屈服するような手ではとても勝ちは望めない。

 強い人ほど、△13角のような手は排除するはずなのだ。

 だが、ここでもやはり先入観の先に光があった。
 
 △13角▲15歩△31玉▲14歩△22角で一目屈辱的だが、決めるとなると先手もハッキリしないのだ。

 

 


 これは広瀬章人八段も同じ感想を抱いている。

  なるほどという手順だが、それにしても△13角△31玉△22角は指せない。

 ずーっと言いなりになってるだけだもんなあ。しかも歩切れだし。

 進歩というのは、こういった「できない」「ありえない」というものを、試行錯誤の末に突破したときにこそ生まれるもの。

 その意味ではソフトと人とが切磋琢磨して影響をあたえ合えば、これからもどんどんおもしろい将棋が見られるはずで、これからの展開も大いに期待したいものだ。

 


(人間だって負けてないぞ! 平成の棋界を震撼させた「中座飛車」)

(その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 

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『ベルナールトス嬢曰く』第7巻に出てきた本、何冊読んだ? その2

2024年03月21日 | 

 施川ユウキ『バーナード嬢曰く』が好きである。

 ということで、

 「このマンガに出てきた本を何冊読んだか数えてみよう」
 
 との企画。前回に続いて、第7巻の第2回。

 


 
 ★『NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く』パティ・マッコード(未読)

 うちはアマゾンプライムだけど、『クイーンズギャンビット』目当てにネトフリに入った。
 
 『コブラ会』『サンクチュアリ』『全裸監督』あたりも見る予定。時間あるかなあ。

 しかし『コブラ会』はすばらしいタイトルだ。「竜牙会」と並んで一度は入ってみたい会である。

 


 ★『完訳 千一夜物語9』(未読)
 
 
 黒田幸弘『クロちゃんのRPG千夜一夜』はダンジョンズ&ドラゴンズで遊びまくってたころ、『D&Dがよくわかる本』と一緒に死ぬほど読み返した。
 
 『よくわかる本』と一緒に、Kindleにならないかなあ。あとD&D版の『ロードス島戦記』も。
 
 



 ★『三体3 死神永生下』劉慈欣(未読)
 
 『三体』は電書で買って積読。いつ読むんだ。
 



  ★『刺青の男 新装版』レイ・ブラッドベリ(読了
 
 
 ブラッドベリ最初の一冊と言えば、『火星年代記』か『太陽の黄金の林檎』かコレ
 
 『万華鏡』が有名だが、それをオマージュした『サイボーグ009』のラストもすばらしい。
 
 『形勢逆転』を読むと「憎しみの連鎖を断ち切ろう」という一見美しい意見が、


 
 「アンタらの番で泣き寝入りしてくれ」


 
 というムシのいい提案だということがよくわかる。

 



 ★『進化しすぎた脳』池谷裕二(未読)
 
 脳の退化におびえる日々。なんでもすぐ忘れちゃうものなー。
 
 もっとも、イヤなこともすぐ忘れるから、それはあなどれないメリット。
 
 悩むタイプの人は、中年以降になるとちょっとになるから安心して。 
 
 


 ★『真鍋博の世界』(未読)
 
 そりゃあもう、ハヤカワっ子のクリスティーヲタでしたから、真鍋先生はおなじみでした。
 
 星新一ももちろん。古本屋で安いの山ほど買ってきて、ゴリゴリ読みまくった。みんなも読もうぜ!
 
 


 ★『ゼロ時間へ』アガサ・クリスティー(読了)
 
 クリスティーは高校生のころ夢中になった。

 ポアロもミス・マープルも出ないノンシリーズものだから、どうかなと思ったけどメチャおもしろい。

 マイナーどころだと『謎のクィン氏』や『パーカーパイン登場』もグッド。
 
 クリスティーはミステリとしても一級品だけど、当時のイギリスの雰囲気を味わう小説としても楽しくて、その点では「御三家」の中で抜けていると思う。
 
 


 ★『ライト、ついてますか一問題発見の人間学』 ドナルド・C・ゴース ジェラルド・M・ワインバーグ(未読)
 
 翻訳が読みづらい本と言えば、『嵐が丘』。
 
 だれの訳か忘れたけど、信じられないくらいの悪訳で逆に感動
 
 海外旅行に持って行ったんだけど、パリのユースホステルで日本人旅行者に読ませたら

 

 「ヒデーなコレは」

 「一行も読み進めない。マジで日本語なの?」

 「エニグマ暗号機で書いたのかと思った」

 

 などなど大ウケだったので大満足。
 
 だれか、どの訳だったか教えてくれんかなあ。
 
 


 ★『10の世界の物語』アーサー・C・クラーク(未読)
 
 ビミョーな短編と言えば、江戸川乱歩の『火星の運河』。
 
 見たをそのまま書いたとか言う、それだけでも「事故物件」のにおいがするが、内容もよくわかんねーや。

 フィリップ・K・ディック『ヴァリス』も似たようなもんなのに、こっちは妙におもしろいんだけどね。不思議。

 

 (続く)

 


 (『バーナード嬢曰く』2巻3巻の感想)

 

 

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合言葉は勇気 佐々木勇気vs高崎一生&千田翔太 2012年 新人王戦 2013年 加古川青流戦

2024年03月18日 | 将棋・好手 妙手

 佐々木勇気NHK杯で優勝した。
 
 ここまでアベマトーナメント順位戦、そして昨年度決勝など痛い目にあわされてきた藤井聡太八冠相手に見事リベンジ達成。
 
 将棋の内容も、終盤戦はどっちが勝ちかわからないハラハラドキドキで、大いに堪能。
 
 震える手で駒をすべらす勇気に、勝ち将棋をおかしくしたことに落胆し、がっかりした様子を隠そうともしないまま、それでも簡単には勝たせない藤井聡太。
 
 いやこれは、盤面なしもでおもしろいくらいに、両対局者様子も興味深かった。
 
 「胃が痛い」で話題になった表彰式でも、熱戦の余韻冷めやらぬのか、ほとんど挙動不審みたいになっていた優勝者が、また見ていてほほえましい。
 
 いやあ、やっぱり勇気はがあるなあ。
 
 今期はA級残留にビッグトーナメント制覇と、大きな仕事をやってのけた佐々木勇気。
 
 だがもちろん、ファンはそんなものでは、まったく満足していない
 
 これはねえ、期待してるからこそもう一回言うけど、「まったく」満足していない。
 
 彼ほどの男なら、もっとバリバリとタイトル戦で戦わないと!
 
 今の伊藤匠の位置に、この男がいないのが違和感しかないのだ。
 
 というわけで、今回はエールをこめて佐々木勇気の将棋を紹介。

 


 2012年新人王戦

 高崎一生六段と、佐々木勇気四段の一戦。

 相振り飛車から、双方7筋と3筋をそれぞれほじくって行き、戦いに突入。

 むかえた、この局面。

 

 

 先手の高崎が、▲88角と引いたところ。

 中盤の難所だが、後手は△22にいるが、使えてないのが気になるところ。

 ▲33でフタをされ、場合によっては▲23銀成から責められたりすると負担になってしまいそうだが、佐々木はここでワザを見せる。

 

 

 

 

 

 

 △32金とするのが、ハッとする手。

 ▲同歩成とすると、△88角成、▲同銀に△67角が、飛車銀両取りでうまい。

 

 

 高崎は▲36金と、イヤミな拠点を取り払うが、後手も△33金と力強く前進。

 ▲73歩△82金の交換を入れてから、▲74飛とさばいていくが、△84銀と受ける。

 ▲64歩の手筋に、△56歩、▲同歩に△34金と取って、後手の駒がのびのびしてきた。

 

 

 

 ▲22角成とするも、△同飛で、箱詰めにされていたはずの角が、見事にさばけてしまった。

 以下、▲63歩成△66角と、その角で反撃し、その後も激戦だったが後手が勝利。

 佐々木の才能を感じさせる、うまい駒さばきであった。

 

 続けて、もう一つ。

 2013年加古川清流戦決勝に残ったのは、佐々木勇気四段と千田翔太四段

 決勝の3番勝負は初戦佐々木が、2戦目千田が取って決戦の第3局に。

 千田が先手で相矢倉になったが、玉頭の斥候で佐々木がリードを奪う。

 

 

 図は千田が▲56銀と上がったところ。

 先手が苦しいながら、後手も飛車が使えておらず、決めるとなるまだ大変に見えるところ。

 後手からすれば、8筋の拠点を使って攻めたいが、いきなり△87銀と打ってもたいしたことはない。

 なにかセンスのいい手が欲しいところだが、まさにそれがここで飛び出すのだ。

 

 

 

 

 

 

 △95角と軽やかに飛び出して、後手が勝勢

 次に△87歩成から△59角成を素抜く筋があるから、▲77金寄と受けるが、そこで一転△85銀と玉頭に重くロックをかける。

 

 

 

 先手はなんとか△86を払ってねばりたかったが、その望みは絶たれた。

 そこで▲26角とこっちに転換するが、△75歩▲同歩△76歩と拠点を作ってから、△45銀と遊んでる銀を活用し「をよこせ」とせまる。

 ▲同銀しかなく、△同歩に今度こそのぶちこみでまいるから、▲79桂とがんばるが、そこで△65歩飛車に活が入って勝負あった。

 

 

 

 

 ▲同歩△同飛▲66歩△75飛と、キャノン砲を絶好の位置に配置。

 以下、△77銀から数の暴力で押し切り、見事に佐々木が棋戦初優勝を飾ったのだった。 

 


(その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

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『ベルナールトス嬢曰く』第7巻に出てきた本、何冊読んだ?

2024年03月15日 | 

 施川ユウキ『バーナード嬢曰く』が好きである。
 
 読書を題材にした日常ギャグだが、本好きだとついつい、
 
 
 「オレ、この中の何冊読んだっけ?」
 
 
 みたいなことが気になってしまうもの。
 
 そこでこれまでも、「何冊読破したか数えてみよう」とやったことはあるのだが、今回第7巻も出たことだし、久しぶりにやってみたい。
 
 


 ★『ドラえもん0巻』藤子・F・不二雄(未読)
 
 『ドラえもん』は子供のころ友達に借りて、飛び飛びだけど30何巻かくらいまでは読んだ。
 
 第1話は、おもちがうまそうだった記憶があるけど、それ以外にもエピソードがあったとは知らなんだ。

 私のバージョンだとエゴむき出しで歴史を変えようとする、ドラたちの言い訳が苦しすぎて憤ったのもおぼえてるなあ。

 他人の人生をなんだと思ってるんだ。ネットのインフルエンサーとかレベルの詭弁で、ガッカリこの上なく、四次元ポケットだけ置いて、とっとと消えやがれ! とタンカを切ったものである。
 
 あと、言うまでもなくこの作品で一番の名セリフはやはり、
 
 
 「ジオラマにかかせない『三感』」
 
 「12チャンネルで4機ばらばらに動かせるんだ」

 

 ラジコン大海戦、マジで参加してー!

 円谷英二教のオレはマレー沖海戦がいいな。プリンス・オブ・ウェールズとレパルスを秒で沈めてやりたいぜ!
 


 ★『中学校 国語 平成24年度版』光村図書(未読)
 
 
 本を読みまくる人生を送っていたにもかかわらず、とにかく国語の成績は良くなかった私。
 
 なので、どんな教科書で勉強してたか興味津々だったが、中学で最初にやったのが
 
 『あの坂をのぼれば
 
 これはよくおぼえていて、なんかアイドルが出てこない「全力坂」みたいな話だよね(ホントにおぼえてるのか?)。
 
 ただそれ以降は、全然記憶になくてビックリ。
 
 最初のインパクトが過ぎれば、それ以降は内容はおろか、どの作品で授業をやってたのかもサッパリ記憶にない。
 
 これはヒドイと2年、3年のも見たがやはり全滅
 
 さすがに『走れメロス』は読書感想文に
 
 
 「メロスみたいな真正バカに、人生をあずけなければならなくなったセリヌンティウスが、とてもかわいそうだと思いました。王様は彼をとっとと死刑にすべきだと思いました」
 
 
 とか「感じるまま素直に書きましょう」という先生のアドバイス通りに書いたら、書き直しさせられたからおぼえていた。

 メロスで思い出すのが、たしか『3年奇面組』で、

 

 「『走れゴメス』は読んだな」

 「メロスだろ!」

 

 とかいうのがあって、メチャおもしろそうだな『走れゴメス』って思ったものだ。

 やっぱシトロネラアシッドから逃げてるのかしら。結城昌治さんの『ゴメスの名はゴメス』読んだときも、

 

 「そこは『ゴメスの名はゴメテウス』にしてほしかったな」

 

 とか思ったもの。教科書、全然カンケーねーや。

 あと魯迅の『故郷』もえらいこと辛気臭い話で、それはそれでうっすら記憶にあって、大人になってちゃんと文庫本買って読んだら、やっぱり辛気臭かった。
 
 「豆腐屋小町」ってワードがたしか出てきたはず。
 
 町一番の美女だったんだけど、人生で苦労しすぎて、ヨボヨボの意地悪ばあさんになってるという救われないエピソード。
 
 当時の中国の問題点を浮き彫りにした作品なんだけど、どこまでいっても辛気臭かった。

 今なら読書感想文に、

 

 「とても暗い話でイヤになったと思いました。映画化したときには故郷に帰ったら地底怪獣が暴れてて、それを魯迅とか孫文がみんなでやっつけるという話にしたら、すごい友情とか恋とかも生まれて、メッチャ盛り上がったと思いました」

 

 とか書くな。やっぱ書き直しか。

 

 (続く

 



 (『バーナード嬢曰く』の感想はこちら

 (1巻に出てきた作品についてはこちらからどうぞ)

 

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「さばきのアーティスト」は「ねばりもアーティスト」 久保利明vs森内俊之 2011年 第69期A級順位戦

2024年03月12日 | 将棋・名局

 久保利明のねばり強さは、一種異常である。
 
 久保と言えば、軽快な振り飛車から「さばきのアーティスト」と呼ばれるが、もうひとつの大きな武器に終盤でも折れない心にある。
 
 必敗の局面でも、土下座のような手で耐え、そのうちにひっくり返してしまうという腕力はまさに


 
 「ねばりもアーティスト」


 
 今回はそういう将棋を見ていただきたい。
 
 


 2011年、第69期A級順位戦の最終局。
 
 久保利明棋王王将森内俊之九段の一戦。
 
 この期の森内は好調で、ここまで2敗をキープ。
 
 この最終戦を勝てば、同じ2敗で並ぶ渡辺明竜王プレーオフ以上が決まる。
 
 一方の久保は4勝4敗という五分の星だが、ここで敗れたうえに、上位3敗丸山忠久九段藤井猛九段の両者ともに勝たれてしまうと落ちてしまう。
 
 どちらも負けられない大一番は久保のゴキゲン中飛車で幕を開け、迎えたこの局面。
 
 
 
 
 
 双方、大駒をさばき合っての中盤戦だが、を作った居飛車がやや指せるように見える。
 
 後手が、どう巻き返していくか注目だったが、ここで久保が渋い手を見せる。
 
 
 
 
 
 
 △61歩と先受けするのが、振り飛車の極意。
 
 後手陣はがはなれているところが、やや薄いが、この底歩で相当に固くなった印象だ。
 
 森内も合わせるように▲68金と締まっておくが、そこで△92玉と寄るのが、また雰囲気の出た手。
 
 
 
 
 
 
 
 この「米長玉」で戦場から一路はなれたことにより、終盤戦で金銀1枚半くらい違う印象だ。
 
 ならばと森内は「端玉には端歩」で▲96歩と突きあげるのが、また腰の据わった手。
 
 
 
 
 
 いかにも順位戦らしい間合いのはかり方で、思わず
 
 「うーん、玄人の手やなあ」 
 
 うなりたくなるが、さすがに次▲95歩とされると圧がすごいので、久保は△85金と局面を動かしに行き、ここからは終盤戦へと一気になだれこんだ。
 
 
 
 
 
 
 むかえた最終盤、森内が▲71角と打ったところ。
 
 次に▲82金までの簡単な詰めろだが、▲76にあるの利きが絶大で、後手に受ける手がない。
 
 △82金▲同角成
 
 △72金▲82金から詰み。
 
 テレビの前で私も、こりゃ投了しかないかとさじを投げ、控室の検討でも「森内勝ち」で一致。
 
 このころ、渡辺はすでに敗れており、森内の挑戦権獲得は決定的で、スタッフやカメラマンもインタビューの準備をして待機していたそうだが……。
 
 
 
 
 
 
 △68飛▲78桂△87金が、「そうはさせじ」のすごい手。
 
 といっても、これだけ見ても意味は分からない。
 
 △68飛はまあ、形づくりというか、秒に追われての「思い出王手」みたいなものだろうけど、この△87金って何?
 
 なんだか、将棋ソフトのやる「水平効果」のムダな王手みたいだけど、これを人間がやるということは、なにか意味があるということか。
 
 くらいは私でも予想はつくけど、とはいえその後の手順などまったく見えない。
 
 どないすんねんと森内は▲87同玉だが、△67飛成と王手して、▲77金△76竜(!)とを取る。
 
 ▲同金△72金と埋めて、なんとこれで後手玉にかかっていたはずの必至がほどけているではないか!
 
 
 
 
 
 これにはテレビの前で私も「すげー!」とひっくり返ったが、森内もおどろいたことだろう。
 
 解説の棋士が、
 
 


 「角を打って、森内さんは投げてくれると思ったでしょうけど、そこにこんなことされたらパニックですよ!」



 
 
 頭をかかえていたが、さもあろう。
 
 森内と言えば決して浮ついたところのないタイプだが、それでもヒーローインタビューの文言を考えているところに、こんなねばりを食らったら、私だった「マジか」と声も出ますよ。
 
 しかし、土壇場でこういう手を食らっても、落ち着いていられるということにかけて、森内俊之という男の右に出る者はいない。
 
 ▲61飛と打って、△82香のさらなる抵抗に、じっと▲65金右としたのが冷静な手。

 

 
 取られそうなを活用しながら、中央を厚くするという大人の対応。
 
 この状況で、ようこんな手させるなとあきれるが、こういうところがトップクラスの凄味だ。
 
 こうして手を渡されてみると、大きな駒損をかかえている久保が劣勢なのは明確だった。
 
 △67銀不成と活用し、▲77金△68銀不成と懸命にしがみつくが、▲64歩と打たれて、いよいよ受けがない。
 
 だが、執念の久保は△77銀成と一回取り、▲同桂に、△71金▲同飛成△72飛(!)。 
 
 
 
 
 
 ▲同竜△同銀▲76飛の攻防手に△73飛(!)。

 


 
 連続の自陣飛車で頑強に抵抗する。
 
 しかも、この△73飛は遠く▲13もねらっているという手で油断ならない。
 
 さすがの森内もウンザリしたかもしれないが、ここで馬取りを放置して▲74銀と打つのが決め手。
 
 △13飛と辺境のを取らせてから、▲71金と打って今度こそ決まった。
 
 いかがであろうか、この久保のねばり。
 
 敗れたとはいえ、その「アーティスト」ぶりを十二分に発揮し、見ているこちらは大興奮であった。
 
 この結果、森内は羽生善治名人への挑戦権を獲得。
 
 久保は藤井が敗れたことにより、からくも降級を逃れたのであった。
 
 


(他の久保による強靭なねばりこちら

(久保と言えば、やっぱり「さばき」でこちら

(その他の将棋記事はこちらからどうぞ)
 

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いつまでも旅慣れないバックパッカーはたぶん永遠に鬼瓦警部 その2

2024年03月09日 | 海外旅行

 「で、結局《鬼瓦警部》ってなんやねん!」

 

 近所の串焼きやで、そんなツッコミを入れたのは、友人ハマデラ君であった。

 と、それだけ聞いても、皆さまにはなんのことかサッパリであろうが、それは前回の

 

 「旅行好きで旅なれてるけど、《仕事ができない》私にガイドとかトラブルシューティングは無理やから!

 

 という井上光晴「全身小説家」宣言ならぬ「全身無能者」宣言を表明した件で(するなよそんなもん)、冒頭に

 

 「だから《鬼瓦警部》やって、ゆーてるやん!」

 

 と書き出しておきながら、その後いっさいそのワードに触れることなく文章が終わってしまったからである。

 なので、友の「なんやねん」という発言は至極まっとうであり、要するにこちらが「伏線の回収」を忘れただけなのだが、つまり私はに出ると一緒に行った人からよく、

 

 「鬼瓦警部か!」

 

 とのツッコミをいただくことが多いのだ。

 そう説明されても、ますますなんのこっちゃだが、私は旅行好きだが「旅人」としてのスキル低レベルなのである。

 それは

 

 「スキルなど身につけようとしなくてよい」

 

 このことこそが、旅の楽しいところからなのだが、もうひとつ自分が「案内人」に向かない理由がある。

 それが「方向音痴」だ。

 それほど重度ということはないが、それでも、

 

 地図を観るのにタテにしたりヨコにしたりしなければならない」

 

 という「方向音痴あるある」を実践するほどにはそうであり、スマホのない時代は探検家でもないのにコンパスを持っていくのが必須だった。

 なんといっても私はスペインバルセロナをおとずれたさい、かの大観光地であるサグラダファミリアを観なかったのだ。

 それは、

 

 「観光地をめぐるなど、本当の旅ではない」

 

 という、いにしえのバックパッカーのようなトガッたノリではなく、ただただ道に迷って目的地にたどり着けなかったためだ。

 タイワットポーアムステルダムレンブラントの家も、最初の一回ではたどりつけなかった。

 それどころか、一度はたどり着いたものの、なんだかずいぶんと、しょぼくれた施設だったりして、

 

 「有名なところらしいけど、意外と、しょうもないところなんやなあ」

 

 とか納得していたら、それが宿に帰って調べてみると全然別の建物だったりして、ただの地元お寺を「ワット・ポー」だと思いこみ、ただのアパートを「レンブラントの家」と信じて観光していたのだ。

 このように、私の観光は常に「にせロンドンブリッジ」や「にせギザのピラミッド」にだまされる危険をはらんでおり、まさにスリリングなトラブル・トラベラーとして闊歩することになる。

 そうなると、必然的にもう一回という二度手間になり、同行者たちから

 

 「阿呆」

 「無能」

 「目ぇ噛んで死ね!」

 

 罵倒をいただくのだが、さらに悪いことに、私はこういうときいつも

 

 「自信満々で間違える」

 

 という特技がある。

 に迷ったり、地下鉄を乗り間違えたり、言葉がわからず「右に行け」と言われてるのにさわやかに左折したりするわけだが、そのときでもかならず、

 

 「大丈夫! もうわかったから!」

 

 高らかに宣言するわけだ。

 バット大振りで間違っておいて、この自信。

 この様は推理小説ミステリ映画に出てくる、「トンマ警部」そのものではないか。

 古くはシャーロックホームズに対するレストレード警部金田一耕助に対する等々力警部

 事件が起こるたびにしゃしゃり出てきて(まあ警察だから当然なんだけど)、なにかをアヤシイと見るや、

 

 「そうか、わかったぞ!」

 

 と手を打ち、トンチンカン推理を披露したあげく名探偵と読者に失笑されるアレだ。

 道に迷い、まったく違う建物を「観光地」と言い張り、地図とぞうきんの区別もつかない私の姿はまさに、探偵ドラマに出てくる「鬼瓦警部」そのもの。

 大いに改善すべき点だが、コラムニストの玉村豊男さんも、フランス語がしゃべれるうえに毎年のように仕事で海外に出ているのに失敗はなくならず、

 

 「わたしは、いつになったら《旅なれる》のだろう」


 

 そう、なげいておられておられました。

 このレベルでもそうなるんだから、私なんかたぶん永遠に無理ですわな。

 

 

 

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