shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

「Sgt. Pepper's」と「Venus And Mars」のフラット・トランスファー盤

2024-04-21 | The Beatles

 ビートルズ関連のブートレッグは前回取り上げた「Reunion Tracks 1994-2023」以外にも色々面白そうなのが出ていたのだが、その中でも一番気になったのが「Sgt.Pepper's」と「Venus And Mars」の “フラット・トランスファー” というヤツだ。
 最初は “フラット・トランスファー” というテクニカル・タームが何を意味するのかよくわからなかったが、「ペパーズ」の方の商品説明に “迫力をアップさせたりヒスノイズを目立たなくしたりというようにリリースに向けての手が加えられる前の、マスターテープありのままな状態を再現してくれる” と、また「ヴィーナス」の方に “「ペパーズ」の時よりも進化した70年代の録音機材を使って豊かな音で録音されたバンド・サウンドのアルバムなので余計に違いが解りやすい” と書いてあるのを読んで、音にイコライズやコンプレッサーといった手が加えられていない “すっぴん状態” のことではないかと考えた。おそらくフラット(均一)な状態のままトランスファー(移し換え)するということなのだろう。すっぴんのペパーズって面白そうやん... と興味を引かれた私は早速この2枚を注文した。
 欧州向けLPカッティング用38cm/sオープンリールマスターから一度コピーした1st Genリールよりデジタル化したというこの盤を実際に自分の耳で聴いてみた感想としては、確かにこれまでレコードやCDで聴いてきたオフィシャルのサウンドとは各楽器のバランスや聞こえ方が微妙に違う。
 まず「ペパーズ」の方だが、一番の特徴は各楽器の音色・響きがナチュラルなことで、特にリンゴの叩くドラムの音が一番わかりやすい。お化粧を施した “最終完成版” と聴き比べてみたが、ビートルズ好きなら “なるほど、これがすっぴんのペパーズか...” と興味深く聴けること間違いなし。オープンリール・テープならではの雄大な低音域との相乗効果なのか、苦手な「Within You Without You」もインドの抹香臭さが緩和されてゆったりと包み込まれるように気持ち良く聴けたのには我ながらビックリしたし、「When I'm Sixty-Four」が醸し出すのほほんとした雰囲気もよりリアルに伝わってきて実にエエ感じだ。
 「ペパーズ」はUKオリジナル盤をはじめ、ニンバス盤やドイツ盤、スペイン盤など高音質盤が目白押しだが、ちょうど独自マトの各国盤にUKマザーの音とは又違った魅力があるのと同じように、このフラット・トランスファー盤もマニアなら一聴の価値アリだと思う。同じ曲を様々な味付けのサウンドで聴いてここまで楽しめる懐の深さを持ったアーティストはビートルズだけだ。
 「ヴィーナス・アンド・マース」は私が初めて買ったポールのソロ・アルバムだけあって想い入れ入れもひとしおの溺愛盤なのだが、アーカイヴ・コレクションでリマスターされたCDの音は自分が聴いてきた「ヴィーナス・アンド・マース」と比べて “何か違う感” が拭えず、CDに関してはスティーヴ・ホフマンがマスタリングした DCC盤の方が圧倒的に私の好みだった。今回購入したこのフラット・トランスファー盤はまさにそのDCC盤と同傾向の音で、音圧至上主義の凡百リマスター盤とは激しく一線を画す繊細で自然な響きと中低域の分厚さが耳に心地良い。
 それと、これは「ペパーズ」のフラット・トランスファー盤でも感じたことだが、あまりにも自然と言うか、耳にスーッと入ってくるため、アルバムの最初から終りまで実に気持ち良く一気呵成に聴けてしまう。変な例えだが、ブリタで濾過した水が喉ごし良くゴクゴク飲めてしまうような感じなのだ。又、音が刺激的でないのでヴォリュームをどんどん上げていっても大丈夫なところも重要なポイント。このあたりはニンバス盤に通じるものがあるが、私は一にも二にも大きな音で聴きたい人なので、フラット・トランスファーのこの特性は大歓迎だ。
 発売から50年以上経ってもなおこのように新たなソースが発掘され、それがまた立派に商売になってしまうあたりにビートルズの偉大さを感じるが、AIを使ってしょーもないリミックス作成に走る昨今の糞ブートとは激しく一線を画すこの2枚はビートルズの各国盤蒐集が一段落した私の “一味違うサウンド” への渇望を大いに満たしてくれた。私としては「Revolver」や「Magical Mystery Tour」、「White Album」あたりのフラット・トランスファー盤も聴いてみたくなったが、果たしてどうなることやら... 今後の発掘に期待しながら待つとしよう。