伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

絲的ココロエ 「気の持ちよう」では治せない

2024-04-25 21:23:59 | エッセイ
 双極性障害(現在は双極症と呼ぶらしい)に罹患し、主治医からASD(自閉症スペクトラム)の特徴を強く持っていると言われている著者が、症状が悪化したり緩和されているときの心理や病状・生活のこと、周囲の人との関係などについて綴ったエッセイ。
 冒頭の2文が「大事なことを初めに記しておきたい。双極性障害でも、うつ病でも、一番問題となるのは『判断に支障をきたすこと』だと思う」(11ページ)というのが印象的でした。罹患の事実も発症の経緯も執筆の動機とかの説明もなく、いきなり入るのは、作家の企みなのか。専門雑誌の連載でそのあたりはもう本文の前に紹介されているということなのかも知れませんが。
 大人になりたいと思っていたので今大人になってよかったと思っている、神様や魔女があらわれて「若い頃に戻してあげる」と言われたとしてもまっぴらごめんだ、おばちゃんはプレッシャーが少ない、おばちゃんは完璧を目指す必要がなく自分に対しても他人に対しても受容できることが増えてくる、これも新たに得た自由だと思う(106ページ)という意見にはしみじみそうだよねぇと思う。そして50歳にもなればさまざまな病気や体質と上手に付き合っている人々はたくさんいる、その中で双極性障害の再発が出ないようにコントロールすることは特別でも何でもないし苦労しているとも思えない(107ぺーじ)というのも、強がりというか自分に言い聞かせているという面もあるかも知れませんが、実感だと思う。心身の不調との付き合い方というか慣れということはあり、特別だという意識や被害意識・悲壮感を持ち続けていてもそれで状況がよくなるものでもないですし。
 病気のことだけじゃなくて、他人との付き合い方も含めて、いろいろ気づきのある本でした。


絲山秋子 日本評論社 2019年3月10日発行
「こころの科学」連載
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こんなときどうする? 部活動の地域移行に伴う法律相談

2024-04-24 21:44:26 | 実用書・ビジネス書
 教員の負担軽減を目的として進められている部活動の地域移行に伴い、それを担う団体の創設等の準備や事故発生時の被害者への補償、被害者に対する法的責任がどうなるかなどを解説した本。
 書かれていることは基本的にごく常識的なというか、少なくとも法律業界ではある種当然のことで、学校が主体でそこに指導員やボランティアが関与するという形であれば事故時に被害者には災害共済給付(独立行政法人スポーツ振興センター)がなされ、公立学校(国立も含む)の場合教師(従業員)個人は被害者に対する損害賠償責任を負わない(私立学校の場合は、民間企業なので教師個人も責任を負う)けれども、学校が委託するなどして民間団体が主体となって部活動を行う場合は事故があっても災害共済給付はなく、指導員やボランティア個人も被害者に対する損害賠償責任を負い、巨額の損害もあり得るので賠償責任保険に加入して対応するしかないということになります。
 企業が事業として引き受けるのであれば、そういったリスクも十分見込んでやることになります(その分会費等の費用も当然に高くなるでしょう)が、PTAとかボランティアが引き受けるとなると割に合わないとんでもない責任を負うことになります。
 教師の負担軽減の美名の下で、責任や出費を免れたい学校が、PTAや地域の気のいいおじさん・おばさんに安易なアウトソーシングをするというか、押しつけるという構図のように、私には見えてしまいます。それはほとんど借金の保証人を頼まれて断れずに引き受けてしまう親族や知人のようで、お人好しが馬鹿を見るという典型のように思えるのですが。


山本翔 日本法令 2024年1月1日発行
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放課後ミステリクラブ2 雪のミステリーサークル事件

2024-04-23 22:54:37 | 小説
 夏に「金魚の泳ぐプール事件」を解決した神山美鈴(ミスず)、辻堂天馬(テんま)、柚木陸(リく)のミステリトリオが、冬に雪の積もった校庭に描かれたミステリーサークルの謎を解明することを真理子先生に頼まれる、放課後ミステリクラブシリーズ第2弾。
 雪が積もる中、周囲にまったく足跡がなく、ミステリーサークルを描いた者はどのようにして描き、どのようにそこから立ち去ったのか、ある意味、ありがちなトリックのパターンですが、そこそこ楽しめます。しかし、雪に描かれたミステリーサークルの白(雪)と黒ないし茶色(地面)が、真理子先生が見た11ページのイラストと美鈴がポラロイドカメラで撮影した25ページで逆になっているのはちょっと…これ、謎解きにも絡むと思うのですが。
 人物紹介ページのイラストで、1巻ではなかった辻堂天馬のシャツのズボンからのはみ出しを指摘しています(153ページ)。キレすぎて可愛げがないので少しボケさせないといけないと思ったのでしょうか。


知念実希人 ライツ社 2023年10月30日発行
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放課後ミステリクラブ1 金魚の泳ぐプール事件

2024-04-22 21:53:33 | 小説
 小学4年生の神山美鈴(ミスず)、辻堂天馬(テんま)、柚木陸(リく)の通称「ミステリトリオ」は、名探偵辻堂天馬が真理子先生が困っていた事件を解決したことから、校舎の4階奥のかつて倉庫だった部屋を部室として使えるようになり「ミステリクラブ」と称して放課後を過ごしていた。そこに夜間に学校のプールにたくさんの金魚が放たれる事件が起こり…という児童向けミステリー小説。
 深刻・悲惨な事件を起こさずに楽しめるミステリーというコンセプトの作品です。小学4年生にして大人向けのミステリを読み、シャーロックホームズ張りのコートを着た名探偵辻堂天馬が左手を挙げて指さし「僕は読者に挑戦する」と言って謎を解く姿は、名探偵コナンのイメージ。浴衣のままで木登りをして枝から枝に飛びうつるという天真爛漫な美鈴のキャラが、引き立て役ながら微笑ましく生きているように感じました。


知念実希人 ライツ社 2023年6月28日発行
2024年本屋大賞9位(児童書としては初めてのノミネート作品)
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ホントのコイズミさん WANDERING

2024-04-19 21:40:56 | エッセイ
 ポッドキャスト番組「ホントのコイズミさん」の中から吉本ばなな、書店経営者/書店紹介者、写真家、トラベルカルチャーマガジン編集者をゲストにした回を出版した本。
 WANDERINGのテーマで旅や移動についてゲストに質問していますが、旅の質問より「1日の中で好きな時間と、その理由を教えてください」という質問が意外に味わいがあるように思えました。
 「時間旅行ができるなら、どの時代に行って何をしたいですか?」という質問に対するホストの小泉今日子の答えで、「昭和40年代に戻って自分を教育し直したい」(157ページ)というのが意外。予想外に平凡でネガティブなんだ。吉本ばななの「過去に行って、グズグズしてた時期の自分にアドバイスします。もう少し勉強したり、旅をしたり、バイトしたりしろと」(37ページ)に影響されたのかも知れませんが。
 113~121ページに「オールドレンズ」で撮影した厚木の風景写真が掲載されています。レンズを変えるとレトロな写真ができるんだ(実際にはレンズの違いだけじゃなくて写真家のさまざまな技術が駆使されているんでしょうけど)と感心しました。


小泉今日子編著 303BOOKS 2023年7月7日発行
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ホントのコイズミさん YOUTH

2024-04-18 21:38:19 | エッセイ
 ポッドキャスト番組「ホントのコイズミさん」からユニークな本屋さん3軒の店主をゲストにした回、作家江國香織をゲストにした回を出版した本。
 本への愛と80年代への郷愁みたいなところが、私にはハマる本でした。
 通しテーマ「YOUTH」に合わせてゲストに子どもの頃/青春時代について質問しています。初めて読んだ本が「エルマーのぼうけん」(松浦弥太郎、36ページ)とか、小学生時代に思いをはせてしまいます。
 最初に紹介されている目黒川沿いにさりげなくたたずむ本屋さんCOW BOOKS(7ページ)。そう言われると行ってみたくなり、破産の債権者集会で中目黒のビジネスコートに行った帰りに寄ってみましたが、営業時間は12時からということで閉まってました (^^;)


 本自体とは別に、まぁ本を読んで思うところでもあるのですが、小泉今日子は、いつのまにこんなにカッコいい人(歌手とか俳優という枠ではなくて)になったのだろうという感慨を持ちます。歌手としての、若いときの小泉今日子は、私の一番強い印象は、民営化されたJR東日本が、自動改札を導入したとき、「もっともっと」とか「もっと便利に」みたいなことをアピールするCMに出ていたことで、あからさまな人員削減(改札の駅員の人減らし)と、副次的にはキセル防止のため、いずれにせよJR東日本側の利益だけで、利用客にはただ改札前での渋滞ができて不便・不快なだけなのに、尊大な大企業(こういう広告を作る代理店も含めて)が金に飽かせて行う無理なイメージ操作に使われ消費されるアイドルというもの(東京電力のために原発PRの漫画書かされている漫画家なんかと同列のイメージ)でした。若いときにこうだったから、ではなく、人は変わるし変われるということを、素直に感じ見つめていきたく思います。


小泉今日子編著 303BOOKS 2022年12月5日発行
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小規模宅地等の特例 基本と事例でわかる税務

2024-04-16 21:28:46 | 実用書・ビジネス書
 死亡した人が住んでいた持ち家の敷地を同居の家族が相続した場合330㎡まで、死亡した人が営んでいた事業に用いていた土地をその事業を承継した相続人が相続した場合400㎡までは、相続税課税の際の土地評価額(路線価で算定)を80%減額できるなどの、「小規模宅地等の特例」について解説した本。
 典型的なケースはわかりやすいのですが、少しイレギュラーな事情が出てくるとわかりにくくなり、ちょっとした違いで適用されなくなることへの注意が多数記載されています。ちょっとの違いで課税が大きく変わることについて、融通の利かなさ加減に驚きます。そういう不合理さを言われて制度改正が重ねられてきたことは説明されているのですが、制度改正がない限り不合理であれ規定は規定だという書きぶりです。
 その姿勢は、税務(財務省・税務署)一般の体質に加え、この本で度々使われている80%も減額する「大盤振る舞い」「恩恵」という見方が背景にあってのものだと感じます。しかし、もしこの特例がなかったら、土地の価格高騰の中で相続税の基本控除を減額する(課税ベースを拡大する)ことは不可能だったでしょうし、それでも強行したら税金が払えずに持ち家を手放す中間層が続出して持ち家政策が破綻していたはずで、この制度は現在の相続税制の前提であり根幹をなすものと評価できます。「恩恵」だから税務当局の好きにできるということではなくて、より合理的で融通の利く運用をしてもらいたいものです。


武田秀和 税務経理協会 2023年12月1日発行
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基本的人権の事件簿〔第7版〕 憲法の世界へ

2024-04-15 22:11:32 | 人文・社会科学系
 憲法学者の立場から、基本的人権に関わる裁判の事例を採り上げて、論評した本。
 採り上げられている判決は著名事件や近年報道されたものが多いので概ね知っているものでしたが、事例の紹介や問題意識が憲法学者の視点だとこうなるのだなという点で勉強になりました。
 主張されている権利を認めるべきだ、認めなかった裁判所の姿勢はおかしいと明言するものから、やや及び腰に疑問を呈するものなど程度の差はあれ、大半は権利主張をしている側に同調する見解が示されている中で、剣道受講拒否事件(エホバの証人信者による格闘技拒否:212~221ページ)と退職者の同業他社への就職問題(241~249ページ)については双方の意見を紹介して中立的な姿勢で「考えよう」「なかなか難しい」とし、検索結果削除請求事件(100~111ページ)だけは、権利主張に対して否定的な見解が示されています。それは共著なので執筆担当者の見解の問題なのか、問題の性質によるものなのか。労働者の退職・職業選択の自由と企業の営業の自由、忘れられる権利と検索事業者(Google)で、前者を擁護・支持するのではなく後者に忖度するというのでは憲法学者としてはどうよという気がしますが。


棟居快行、松井茂記、赤坂正浩、笹田栄司、常本照樹、市川正人
有斐閣選書 2024年1月30日発行(初版は1997年3月10日)
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真夜中のパン屋さんシリーズ

2024-04-14 19:37:24 | 小説
 海外赴任中に事故死した妻暮林美和子の遺志を継いで、会社を辞めて三軒茶屋の住宅街付近に午後11時から翌朝5時までを営業時間とするパン屋「Boulangerie Kurebayashi」を、夫の海外赴任中に美和子に横恋慕していたイケメンの腕のいいパン職人柳弘基の協力を得て開いた暮林陽介の元に、美和子を頼って恋多きシングルマザーの指示で転がり込んだ高校生の篠崎希実をめぐり、店のメンバーやクセの強い常連客や希実とその母の関係者などが繰り広げる騒動を描いた小説。
 タイトルやイラストから、恋愛小説かお仕事小説と見て読み始めましたが、どちらかと言えばライトミステリーという趣の作品でした(最後の方で恋愛小説的な要素も出てきてはいますが)。ネグレクトやひきこもりをテーマにしつつ、人の心の優しさと暗さ(ねじれ・僻み)を描くヒューマンドラマという方がいいかなとも思います。
 営業時間を午後11時から翌朝5時までという設定で、第1巻のタイトルが「午前0時の…」ですから(それも全巻文庫書き下ろしですし)、最初から6巻組の構想だったと思われます。しかし、第1巻から第4巻までは1年足らずで出ていたのが、第4巻のあと第5巻まで2年5か月空いて、第6巻は「外伝」とか後日談ぽくなっているのを見ると、構想の変化というか見直しがあったのかなと思います。そのあたり、創作の難しさを感じてしまいました。


大沼紀子 ポプラ文庫

午前0時のレシピ 2011年6月5日発行
午前1時の恋泥棒 2012年2月5日発行
午前2時の転校生 2012年12月5日発行
午前3時の眠り姫 2013年10月5日発行
午前4時の共犯者 2016年3月15日発行
午前5時の朝告鳥 2017年6月15日発行
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紛争地の歩き方 現場で考える和解への道

2024-04-13 22:27:34 | 人文・社会科学系
 カンボジア、南アフリカ、インドネシア、アチェ、東ティモール、スリランカ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、キプロスでの内戦・独立運動・民族対立・独裁打倒などから和平に至った経緯、現在も武力紛争中のミャンマーでの和解への展望を、学生時代以来の現地訪問の経験を披露しながら語った本。
 それぞれのケースごとに対立構造、力関係、戦闘・紛争が終了した経緯・原因、武力紛争終了後の関係と実情はさまざまで、関係者の心中・心情も一様ではないことがわかります。国際政治の難しさ・非情さを学ぶのに適したテキストかと思います。
 しかし、この本で著者が何を言いたいのか、著者のスタンスは、私には今ひとつ理解できませんでした。武力紛争の解決はきれいごとでは済まない、加害者に対する制裁や真相究明など正義を求めていては和平などできない、一応の平和が保たれ殺し合いがなくなれば、また経済的によくなればそれでいいではないか、少数派なり弱者なり被害者が妥協譲歩するのはしかたないではないかということが端々に読み取れ、著者の意見はそういうことなのかと読めます。「弱者に支援を差し伸べることは紛争を長引かせる。紛争の早期終結を図るためには逆効果だ」「より多くの人が紛争の犠牲になることを間接的に助長する」(217ページ)といい、ミャンマーで選挙に圧勝した国民民主連盟が軍部から政権を奪取しようとしたことを「軍部を牽制する実力が存在しない条件で、軍部の意に反した行為を試みることはクーデターを挑発しているといっても過言ではない」(281ページ)といい、末尾でも「真実・和解委員会や特別法廷の試みは、希望の星となり得たであろうか。それとも煩悩の火に薪をくべただけだったか」(340ページ)と結ぶのはそのことを示していると思います。そう言い切るのであれば、それはそれで理解できます。私は支持はしませんが。ところが一方で著者はそれぞれのケースで正義が実現できたかを問い、大学時代の恩師から言われたという人間社会における少数派や社会的弱者が幸せでない社会は多数派にとっても幸せな社会だとはいえないという言葉を紹介し「この言葉が、紛争解決、平和構築、そして和解の鍵を握るのだと私は確信している」(219ページ)と述べたりもしています。終章で和解についての著者の考えをまとめているはずなのですが、そこでも私は結局著者がどう言いたいのかがよくわかりませんでした。それぞれのケース自体を学ぶ本だと割り切ればいいかと思いますが、読み物としてみると不満感があります。


上杉勇司 ちくま新書 2023年4月10日発行
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