伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

新章 神様のカルテ

2024-05-27 22:05:12 | 小説
 本庄病院から信濃大学病院に移籍した栗原一止が、移籍後2年が経過して「大学院生」の身ではあるが経験9年目の医師として第4内科第3班通称「栗原班」の副班長として難易度の高い患者の治療に追われる姿と大学病院の組織の論理に縛られ悩む姿を描いた小説。
 2012年出版の3巻の終わりで信濃大学病院への移籍が示されながら、その信濃大学病院移籍後が書かれるまでに6年半かかっています。裏表紙には「大学病院編スタート!」と書かれて続巻が予定されているもののそれから5年が経過した現時点で未刊で新刊情報もありません。産みの苦しみ、ですね。それなら570ページあまりも本を太らせないで(1巻から3巻まで毎回本の厚さを増大させてきましたがさらにそれを超えた新記録)、2冊に分ければいいかとも思いますが、29歳の膵がん患者二木美桜がずっと出てくるので、作者の気持ちとしてそれも難しかったのでしょうね。
 3巻では3月末まで描いていますが榛名が妊娠しているということはまったく出てこない(1月に氷点下10度の屋外で榛名が一止にマフラーを貸している:3巻422ページ。さすがに妊娠しているという情報があれば一止の方から気遣う発言くらいあるだろう)のに、その年の5月に、来週が出産予定日(543ページ)、産気づいてタクシーで産院に向かう(576ページ)っていうのは、計算が合わないのですが…


夏川草介 小学館文庫 2020年12月13日発行(単行本は2019年2月)

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神様のカルテ 0

2024-05-26 21:18:49 | 小説
 栗原一止が、友人にして「医学部の良心」と呼ばれた進藤辰也と将棋部三角関係事件の一角をなす今は進藤の妻如月千夏らと過ごした学生時代、本庄病院が「24時間、365日対応」を打ち出すに至る沿革、栗原一止の研修医:本庄病院1年目の様子、山岳写真家あるいは山を愛する者としての片島榛名を描いた「神様のカルテ1~3」のエピソード0ないし番外編の短編集。
 1巻の前半で、栗原一止に優しくする度に「私は妻のある身だ」と突き放されイジられていた看護師東西直美。1巻でも設定上はわかっていたのですが、栗原一止がハルに出会う前から東西は傍にいて好意を示していたんじゃないの。ちょっと東西が愛しく思える。
 栗原一止入居時の御嶽荘の面々。1巻から3巻では登場しない「専務」が新登場。どこへ行ってしまったのか、それとも後日満を持して再登場するのか…


夏川草介 小学館文庫 2017年11月12日発行(単行本は2015年3月)
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神様のカルテ 1~3

2024-05-25 23:25:35 | 小説
 信濃大学医学部を卒業後松本市内の「24時間、365日対応」を掲げる病床400床の本庄病院に勤務する5年目・6年目の消化器内科医栗原一止が連日の長時間勤務を続けながら地域医療、救急医療に従事する日々を描いた小説。
 医師の過酷な勤務、助けることのできない患者にどう対応するか、医師の良心とは何かなどを問題提起し、2巻では家庭生活、家庭責任をどう考えるのか、3巻では日進月歩の医療を学ぶことなく目の前の診療に追われて最新の知識を持てない状況で診療に当たることの是非という困難なテーマをも扱っています。
 一止の妻ハル(榛名)の明るく健気な様子にほのぼのさせられ、こんなにも妻に愛されていれば、あらゆる困難にも立ち向かっていけるかと思わせてくれます。まぁこれで家庭を顧みないと妻から離婚を言い渡されと(ふつうならそうなりそうですけど)なると、ジュンブンガクになってもエンタメにならないですもんね。
 1巻の最初の方で、デジャヴ感があって、あれ読んだことあったかと自分の読書記録を確認したら読んでない。おかしいなと思ったら、2011年に映画になったのを見てました。そのときは原作読まなかったんですね。今回は、「スピノザの診察室」を読んだ流れで前作を読んでみました。
 スピノザの診察室では京都銘菓の紹介が多くありましたが、こちらでは信州の地酒の数々が紹介されています。酒も甘みもいける作者なんですね。


夏川草介
神様のカルテ 小学館文庫 2011年6月12日発行(単行本は2009年9月)
 2010年本屋大賞2位
神様のカルテ2 小学館文庫 2013年1月9日発行(単行本は2010年10月)
 2011年本屋大賞8位
神様のカルテ3 小学館文庫 2014年2月11日発行(単行本は2012年8月)

1巻が240ページほど、2巻が360ページほど、3巻が470ページほどと、どんどん本が太っていくのはどうしたことか…
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スピノザの診察室

2024-05-24 22:58:59 | 小説
 緻密な内視鏡操作と冷静な判断力で次々と難易度の高い内視鏡治療を成功させ世界中を飛び回る一流の内視鏡医として大学で将来を嘱望されていた雄町哲郎が、妹の病死により孤児となった小学生の甥美山龍之介を引き取るために大学病院の医局長の職を辞して京都市内の小規模な民間病院に転職し、終末期医療や訪問医療に従事する姿を描いた小説。
 飛び抜けた能力を持ち実績もあって周囲の期待を集めていたエリートが自らの意思でエリートが好まないような現場に身を投じて人間味のある仕事をするという設定は、私の業界でいえば「家栽の人」のような趣です。洞察力・判断力はともかくとして、内視鏡操作の技術や最先端の医療・医薬品知識がそれを使う場面が少ない現場にいて維持できるのかは疑問ですが(現役医師の作者が書いているのだからそう非現実的ではないということなのかも知れませんが)。
 スピノザの診察室というタイトルや、「願ってもどうにもならないことが、世界には溢れている。意志や祈りや願いでは、世界は変えられない。そのことは絶望なのではなく、希望なのである」(218~219ページ)というのは難解に思えますが、「手を取り合っても、世界を変えられるわけではないけれど、少しだけ景色は変わる。真っ暗な闇の中につかの間、小さな明かりがともるんだ。その明かりは、きっと同じように暗闇で震えている誰かを勇気づけてくれる。そんな風にして生み出されたささやかな勇気と安心のことを、人は『幸せ』と呼ぶんじゃないだろうか」(277ページ)と敷衍されると、なるほどと腑に落ち、沁みました。
 京都の町並みの描写や甘党の雄町哲郎に合わせた京都銘菓の紹介も、和みます。


夏川草介 水鈴社 2023年10月25日発行
2024年本屋大賞第4位

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肉ビジネス

2024-05-23 22:58:27 | 実用書・ビジネス書
 1年のうち300日以上和牛を食べる生活を続けているという著者が、牛肉のブランド、流通、冷凍・熟成、調理・焼き方等について解説した本。
 著者の紹介が「ふつうの会社員」というのが好感します。詳しくなるとコンサルタントとか何やらカタカナのもっともらしい肩書きを名乗る人が多い中で、どこか潔さを感じます。しかも、魚屋の長男って…
 さまざまな蘊蓄の中で、おいしい牛肉を食べるという観点からは、かつてはA5の牛は本当においしかったが今では黒毛和牛の半分以上はA5でA5であればおいしいとは限らなくなっている(38~41ページ)、牛肉の旬は11月から2月くらいで12月がピーク(60~62ページ)、焼肉は火の入れ方で大きく味が変わる(169~178ページ)とかが、読みどころというか、勉強になりました。


小池克臣 クロスメディア・パブリッシング 2024年3月1日発行
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口臭を気にする女、気にしない男

2024-05-22 21:38:41 | 実用書・ビジネス書
 口臭専門外来をしている歯科医の著者が口臭について解説した本。
 著者のクリニックの口臭外来に来る患者のうち実際に口臭がある「真正口臭」は1割くらいで、実際には口臭がないかほとんどないのに口臭があると思い込んでいる人が9割を占めているとか(48~49ページ)。他方で「口臭は多かれ少なかれ、誰にでもある。1日の体調の変化でも、出たり出なかったりする」(215ページ)というのは、理屈に合ってるのか…
 口臭の原因として実にさまざまなことが挙げられています。姿勢が悪い(50~59ページ)、朝ご飯を食べない(70ページ)、「腸漏れ(リーキーガット)」(98~111ページ)、ストレス(118~121ページ)、カフェイン(122~125ページ)、ファストフード(125~130ページ)、食いしばり(134~136ページ)、歯並び(136~138ページ)、睡眠不足(144~146ページ)など。さらに「腸漏れ」の防止のために避けるべき食品はグルテン(パンも麺も)、カゼイン(乳製品)、シュガー、保存料(リン酸塩)(100~110ページ)って…いろいろ、思わぬことが書かれていて興味深く、また勉強にはなりますが、実行は無理、気にしてられないよねという感じです。


櫻井直樹 英智社 2024年3月20日発行
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マヨナカキッチン収録中!2

2024-05-21 21:49:00 | 小説
 第1巻で文山遼生の病気欠場の際にピンチヒッターで入った同じ事務所の24歳の若手イケメン俳優郡野流伽が好評で、テレビ局から2クール目は主役は郡野流伽で文山遼生はアシスタント役で共演と指定されてスタートした「マヨナカキッチン」で、表面的には友好的だがしっくりしない2人をやきもきしつつ見守る担当アシスタントプロデューサー浅生霧歌が、巻き起こる事件に翻弄されながら奮闘するお料理お仕事小説。
 番組制作会社の仕事のハードさとか、映像制作の大変さとやりがい(妹の結婚式ムービーの制作過程とかも含め)なども描かれていますし、チルエイトのスタッフの面々のキャラクターも(私はディレクターの土師知彬とか好感します)楽しめます。
 第1巻以来、お仕事と並行してほのかに進む恋愛小説的な側面はなかなかに歩まず、まだまだ続巻がありそうだねという印象です。


森崎緩 双葉文庫 2024年2月14日発行
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マヨナカキッチン収録中!

2024-05-20 23:15:01 | 小説
 番組制作会社チルエイトのアシスタントプロデューサーとして働く35歳の浅生霧歌が、正統派イケメン俳優だったが8年前に若手女優とのスキャンダルで非難を浴びて仕事を干され続けている37歳の文山遼生を主役とした料理深夜番組「文山遼生のマヨナカキッチン」を担当し、NGは出さず順調に収録はできるものの周囲と馴染まない文山遼生とスタッフとの関係を改善し、また文山遼生の芸能界復活をサポートし、そして番組の成功を目指して奮闘するお料理お仕事小説。
 良い素材を使用しつつ誰でもできそうな料理を紹介するというコンセプトで、簡単にできそうなレシピを用いていますが、浅生霧歌がそれを材料もあり合わせのもので、さらに包丁は使わず料理ばさみで、さらにはレンチンでという時短料理を徹底し、5分10分で料理してそれが本人も周りもおいしいと唸るというのは、読んでいてある種の快感はあります(料理を手早く作れるというのはそれ自体1つの才能だと思います)が、さすがにちょっと無理がないか?とも思います。


森崎緩 双葉文庫 2023年5月13日発行

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同性婚と司法

2024-05-19 23:34:25 | 人文・社会科学系
 元最高裁判事の著者が、同性婚を認めていない現行法制度が憲法違反であることを論じた本。
 著者の問題意識は、「同性愛者同士が自己の性的指向を踏まえた恋愛、性愛に従って、永続的な精神的及び肉体的結合を目的として、真摯な意思をもって共同生活を営んでいるという同性婚状態にある場合であっても、婚姻によるかけがえのない個人の尊厳としての喜びを享受できないという深刻な不利益を甘受せざるを得ない」、これは個人としての尊厳が損なわれている、まさに憲法13条の幸福追求の権利が損なわれている深刻な状態というべき(8ページ)という点にあります。実に熱い語りです。
 著者はこれまでの同性婚を認めていないことの立法不作為の国家賠償請求に関する5つの地裁判決、アメリカの連邦最高裁判決、さらには日本の最高裁での議員定数や非嫡出子の相続分に関する違憲判決などを紹介し論じた上で、憲法第24条の「両性」は「当事者」、「夫婦」は「双方」と読み替えればよく、それが憲法の「文理解釈」としても許容される、それが無理なら憲法第24条第2項を類推適用することにより同性婚を認めていない現行法制度が憲法第24条に反し違憲であるとの結論を導くことができるとしています。生え抜きの裁判官にして元最高裁判事(現在は退官して弁護士)の主張としては大胆なものと言えるでしょう。
 ただ、保守派の伝統的価値観にそぐわないために法改正が進まず(頓挫し)法律婚による多数の利益を受けられない問題が継続している点で類似の状況にある夫婦別姓問題では、著者が2015年12月16日最高裁大法廷判決で、憲法違反の反対意見を書いた5人の裁判官に与することなく、夫婦別姓を認めない現行制度は憲法第13条にも第14条にも第24条にも違反しないという多数意見であったことと、同性婚についてのこの熱意の落差はどう考えればいいのか、この本では夫婦別姓には文字通り一言も触れられていないのでわかりませんが、ちょっと悩ましく思いました。


千葉勝美 岩波新書 2024年2月20日発行
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書店ガール 1~7

2024-05-18 22:52:07 | 小説
 第1巻時点で40歳のペガサス書房吉祥寺店副店長の西岡理子、27歳のコネ入社正社員北村/小幡亜紀、その2年後を描く第2巻で登場する吉祥寺駅ビルの大手チェーン店の文芸書担当者宮崎彩加、第2巻の1年後を描く第3巻初めで西岡理子が店長を務める新興堂書店吉祥寺店に小幡亜紀に憧れて学生アルバイトとして入店した高梨愛奈らの悲喜こもごもを描いて、書店で働くこと、女性が働くことの辛さ、苦しさ、難しさと達成感、希望を描いたお仕事小説。
 第1巻では、西岡理子と小幡亜紀の対立から休戦・共闘という展開で軋轢部分が多かったのですが、第2巻以降は悪役だった亜紀の夫小幡伸光も含め主要登場人物はいい人になり、チェーン店本部の幹部や一部の悪質な客などが悪役になり、さらにはチェーン店の経営層もまた悪いとはいえないというニュアンスを湛えて行きます。それはそれで微笑ましいというべきかも知れませんが、私は第1巻の激しさがよかったなと思います。
 女性が働き続けることの困難さ、書店を取り巻く状況とそこで働くことの困難さを、絶望的な暗さでもなく、といって楽天的な希望に満ちることもなく、ややほろ苦い展開で描いているのがリアリティを感じさせます。
 40代の西岡理子、20代後半から30代前半の小幡亜紀らを主役にして、女性の労働を描く本が「ガール」と題することに、私は違和感を持ちますが、作者からすれば、おそらくは出版社の編集者が提案したタイトルを拒絶できずまたその方が売れるという世相と折り合うことが現実的と判断したということなんでしょうね。


碧野圭 PHP文芸文庫
第1巻 書店ガール 2012年3月29日発行(単行本は2007年10月:新潮社)
第2巻 書店ガール2 最強のふたり 2013年4月1日発行
第3巻 書店ガール3 託された一冊 2014年5月22日発行
第4巻 書店ガール4 パンと就活 2015年5月22日発行
第5巻 書店ガール5 ラノベとブンガク 2016年5月20日発行
第6巻 書店ガール6 遅れてきた客 2017年7月21日発行
第7巻 書店ガール7 旅立ち 2018年9月21日発行
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