私の故郷は北海道の南部、渡島半島の南端にある町です。晴れた日に津軽海峡を眺めると青森県の下北半島が良く見えます。どうも縄文人もこの海峡を行き来していたらしく、地元の遺跡からは米の入った土器が見つかっていると言います。これで稲作が行われていた日には、日本の古代の文化概念は結構変わってしまうかもしれませんね。
さて、このカテゴリー、「Uro-Oboeな書評」だったものを映画や書籍などへの感想、論評をフツーに書くためのカテゴリーにしました。普通、と言ってもうろ覚えには変わりないので、やっぱり適当です。
いきなり地元の話をしたのは、その対岸にある青森県大間というところに原発を作るという計画が結構前から持ち上がっていて、青森県内は愚か、海峡越しのお向こうさんである北海道函館市でも反対運動が起きたことを覆えているからです。
泊原子力発電所が出来た時にも同じでしたが、行政や国、電力会社が言っていることは兎にも角にも「絶対に安全です!!」でした。高校生くらいの私は「そんなに安全なら大都市に作ってもいいんじゃないかなあ」などと思い、さらには「なんだったら国会議事堂か皇居の地下にでも原子力発電所を作ればいいじゃないか?」とも思いました。
だって、大電力を必要としているのは田舎よりも都会なわけですし、それを支えるためにわざわざ田舎の第一次産業をぶち壊して原発つくりに来るんだもの、なんか変だなあって子供でも思いますわ。
特に青森県の大間や、北海道の函館など、海産物で有名なところですよ。大間沖のマグロなんて近海もののマグロでは最高値で取引される超高級魚だし、ほっけやかれいなどの庶民の食い物だってたくさん取れるわけです。原発できてたって関係ないだろうって?都会の人、知らないでしょうけど、原発が出来たら周りの海の漁業権、漁業組合とかから買い上げられちゃうんですよ、つまり船が近づけない=漁が出来ない。その代わり高い保証金みたいなもんが払われるわけですが・・・・・・今までとってた海産物はどうなっちゃうわけ?つまり、第一次産業としては完全な崩壊ですね。
昔からそんなことを考えていた私が、ずっと気になっていた映画が今回紹介しますこの作品です。
『東京原発』
レンタルショップでDVDを発見し、昨日、ようやく見ることが出来ましたが、私としては
『大誘拐』に次ぐ自分的ナイス邦画ランキング上位ランクインといったところです。
あらすじはどうぞ公式サイトへの上記リンクにて確認していただきたいのですが(それ以上に観て欲しいのですが、特に東京の人に)、まさに私が高校生以来ずっと抱えてきた考えを地で行き、かつ上空1万メートル上のアイディアで「おお!」と唸らせる内容と問題提起に、結構ぐっときました。
まず、役者で見せる映画、と言うのでしょうか。その手の映画、結構好きですが、出演している役者の渋いこと渋いこと。
主役というか、一番目立つ役どころとして、「東京に原発を誘致する」とぶちあげる天馬東京都知事役に役所広司。彼、色々な役を演じていますが、月影的に一番印象が強いのは三谷幸喜脚本・演出の『巌流島』のヘタレの宮本武蔵です。彼の演じる都知事、明らかにあの石原慎太郎東京都知事のバカジジイを意識した設定になっていますが、物語が進むにつれ全く別人の「狡猾かつ理想を重んじる政治家」に見えてきます。こんな知事、欲しいわなあ。
都庁の住人として脇を固める役者も、民間のシンクタンクから天満都知事に引き抜かれた副都知事役に段田安則、ネットワーク管理者向けなデータ収集整理マニアの笹岡産業労働局長役に平田満、石橋は叩いて壊してもう一回作って渡らないと気がすまなさそうな佐伯政策報道室長に田山涼成、テレビCMなどのマスメディアだけで世の中理解しようとしているような石川都市計画局長、ミスター“俗物”な大野財務局長に岸部一徳、そして紅一点、行き遅れた資源浪費家の泉環境局長に吉田日出子。
この顔ぶれをざーっと眺めると、「なんだよこの濃さは!」となりますよね。
他にも、ぼけてるんだか真面目なんだか分からない原発反対派の榎本東大教授に綾部俊樹、きっと死ぬまで苦労してそうな及川特別秘書に徳井優(『引越しのサカイ』の人だわなあ)、国家機密を携帯で大声で話す松岡原子力安全委員に益岡徹(『巌流島』では武蔵を励まして決闘させようとする佐々木小次郎役だったけな?)、そしてどんどんぶっ壊れていくトラック運転手中村役に塩見三省。
これだけの役者を芝居させるとなると、物語自体破綻しかねないわけですが、メインの舞台となる会議室でのやりとりはなかなかに面白い。せりふ中心の芝居ってだれちゃいますが、適度なインターバルと別に同時進行しているもう一つの物語ともあいまって、不思議な緊迫感と笑いがこみ上げてきます。
ネットでの評判もそこそこいいらしく、劇場公開しているところが少ないことを惜しむ声が多いようです。
作品としてもブラックユーモア溢れる快作だと思います。しかし、私としては作品の持つテーマというか、問題提起がやはり気になります。
安全なはずの原子力発電所を何故東京に持ってきてはいけないのか?あるいは何故田舎でなければいけないのか?この問いに明確に答えられる推進派ってのは、今まで見たことがありません。
本当に原発が必要なのであれば、推進派の人たちは少なくともこの作品で上げられている数々の疑問、問題、課題に対して明確に答えられるべきだと思います。無理だとは思いますけどね、そもそもが矛盾しているわけですから、「絶対に安全な原発」。
いくつかの不祥事があり、さすが「絶対安全」と言い切ることは少なくなりましたが、安全に対する意識が高いとも思えません。
原発のある地方で、下請けの地元の電気工事の人などが、防護服なしで炉心近くで作業しているというのは、ご当地では有名な公然の秘密ですよね。首都高を放射性物質の運搬に使っているってのと同じくらいに。
なんにせよいい作品です。田舎で温熱排水で周辺の海流や環境を狂わせるよりも、都会で温水を有効に使ってもらったほうが、ウランもプルトニウムもうれしいと思いますがね(おもわねーよ)。