主人公34歳のフリーの校閲者の女性が入江冬子は人付き合いが苦手で閉じた生活を過ごしている。そのことに関して本人はそれが自分に適していると満足している。しかしひょんなことで知り合った男性に恋をしたことで自分の平衡を崩していく。人と関わることを恐れながらも望んでいく主人公の変化を恋愛を通して描かれた物語。
今までの作品から比べるとクセもなく誰でも読みやすい。内容の割りにだらだらと長いようにも思うし、主人公の性格からこれくらいの長さが必要な物語の様な気もするし取りようによっては長所にも短所にもなるような要素の多い物語。これが賛否両論ある理由だろう。
時系列を混ぜてしまった部分がかえって物語を陳腐にさせたように感じて残念だが、物語全体から主人公の不器用さを丁寧に描こうとする文章には好感が持てた。
とはいえ同じような作風をまた使うことは読者をがっかりさせてしまうだろう。次回作が楽しみなところ。
表題「かわいそうだね?」と「亜美ちゃんは美人」の2つの中編が収録されている。
「かわいそうだね?」では28歳のアパレル店員の主人公は帰国子女と付き合っている。しかし彼は愛しているのは君だけだけれど人助けだからと言って前の交際相手と同居すると言い出し実行。三角関係が始まる。主人公が彼とこの関係を何とか正当化しようとする歪みを皮肉った物語。
「亜美ちゃんは美人」は高校で知り合った誰もが認める美人の亜美と腐れ縁のさかきちゃんが主人公。社会人になり結婚するまでの2人の関係をリアルな女の目線で描いた物語。
個人的には後半の「亜美ちゃんは美人」の方が好み。女性でなくては書けない視点は女性読者にはおもしろく感じるだろう。美人過ぎる親友を持つという設定がまず男性作家には描けないのでは。純文学のテイストはなくなってきたが、前作が残念に感じていただけによかった。
舞台は1990年代のイギリス。物語は31歳のキャシーが過去を振り返る一人称によって語られる。キャシーは子供時代ヘールシャムの寄宿学校で過ごす。そこでは外界から遮断され教師代わりの保護官が子供達をまとまている。子供達は詩、絵を描くなど創造性が重要視され、健康に保つことが義務付けられる。ここで育った子供達は自分達が何者か、どんな将来が待っているか全てを知らされているようで全てを知らされていない。
物語が進むにつれ、キャシーたちが何者か、何を知らされていて何を知らされていないのかが明らかになる。この設定が明らかになるにつれて読者は物語にぐいぐいと引き込まれていくだろう。
読後キャシー達が自分達の運命を抗いながらも受け入れているという事実が重くのしかかった。
シーズン始めのスキー場に脅迫メールが届く。そこには雪の下に爆弾を仕込んだとあり、スキー客は自身が知らぬ間に人質となった。現場の社員は警察に届けスキー場を閉鎖しようとは意見するが、役員は警察には報告せずゲレンデも通常営業しつつ犯人の要求通りに金を支払う選択をする。現金を運ぶことになったゲレンデでパトロールをする社員達、偶然事件を知ってしまったスノーボーダー、昨シーズンゲレンデの事故で妻を亡くしたスキーヤーが絡み合いながら物語が進んでいく。
初期の作品と比べて軽い感じになったなあとは感じているがこちらも然り。読みやすく最後までさらりと読めるのだけれど物足りなさは感じる。映像化すしやすいのだろうけれど。