Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『四月大歌舞伎 昼の部』 1等1階前方センター

2017年04月22日 | 歌舞伎
歌舞伎座『四月大歌舞伎 昼の部』 1等1階前方センター

『醍醐の花見』
舞踊劇としての舞踊の部分での面白味は少ないものの、役者の個性や演じているキャラクター造詣の面白さで見せてきて楽しかった。混成の座組みの面白さもあったと思う。淀殿と松の丸殿のバトルがバワーアップ。松の丸殿の気乗りのしない拍手の仕方ったら(笑)

三條殿は治長くんにこなかけてた(笑)歌種萬の並びが可愛い。鴈治郎さんは秀吉より家康ぽいけどどこか哀愁も帯びた風情がなかなか。右團次さんがキレキレでした。松也くんは柄はいいけどもう少し踊り頑張れ。

『伊勢音頭恋寝刃』
染五郎さんの貢の太もも、きりきりぷんぷんな二枚目顔を堪能。 しかも目があったかな~と勘違いしたので、きゃ~殺されると万野のように反り返りましたっ(気持ちだけな)。

初旬に拝見した時に比べ芝居の流れが段違いに締まった出来で面白く拝見。花形中心の座組みで初役揃いということを考えたら、ここまで芝居を密に出来たら上出来かな。花形以上を求めてしまうけど。べったりとした空気の濃密さはこの芝居に必要ない(さらり、でもざらりがベストな芝居のはず)けど、役に膨らみをもたせて役の密度濃くすることができたらというところなのです。数年後に期待。少し演出を変えてもいいかな~と思ったりもする。

この芝居、感情の行くつく先での殺しではなく、妖刀に操られてという流れになり、また大量殺人したわりにいきなりめでたしになるので誰がやっても釈然としない芝居ではある。物語で納得させるのではなく、場ごとの見せ場をいかにみせるかという芝居なので、案外難しいのだろう。

「追っ駆け」
テンポがよくなっていた。やはり橘三郎さん橘太郎さんが巧い。隼人くんは硬さがだいぶ取れ、緩急が出てきた。役としても非常に合っているなと思う。ただ硬さが取れた反面、現代的になりすぎる部分があったかな。

「二見ヶ浦」
同じ二枚目でも染五郎さんの貢の芯のあるぴんとこなの風情、秀太郎さんの頼りなげなつっころばしの風情の違いを明瞭にみせる。染五郎さんの貢の手紙を読む件の間合いが巧く、焦りの部分の所作に抜けをつくって独特の愛嬌を出してきたと思う。

「油屋」
前回拝見した時に会話などの間が悪いわけではないのに物語の流れがどこか噛み合わないところがあって心配したのだけど、さすがにその部分は解消されていて流れがよく場自体も締まってました。前半は花形たちが自分の役をこなすのに気をとられていたのだろうね。

染五郎さんの貢、芝居運びに緩急がつき、感情の積み重ねを丁寧にしっかりと演じてきていました。貢の性根の部分に武士という芯がハッキリとあるのがいい。あくまでも主従、恩義の世界の物語。世間に揉まれてこなかった若いがゆえの甘さや弱さの部分での怒りであり、神経質ではあるがあくまでも元々殺人を犯すような気質の持ち主ではないという造詣。貢という人物像として非常に良いところで表現していると思う。松嶋屋の解釈がそうなのだと思う。なので殺しが自分の意思外に刀に操られてしまっている感が強く出る。また「奥庭」での殺しでの地に着かないような足運び、刀が先にでる強さのない刀裁き、宙に浮かせた目線、すべてが「本性」での行動でないのがわかる。単に怒りという意思で殺していかないところで見せ場としては役者として難しいところだろうけど、欲が出さずあくまでも貢という人物の範囲で押さえている。前半観た時は松嶋屋をなぞるのに精一杯だった感じでしたが染五郎さんの個性もだいぶ出ててきたようにもみえた。

染五郎さんの貢の造形は松嶋屋に習ったことをきちんと表現できているということではありますよね。ただ、このやり方でいくのは年期も必要なとも思います。個人的には感情をもっとぶつけていく江戸型のほうが合うなと思いました。感情が擦りきれそうになるところに色気がでるタイプの役者なので。

染五郎さん貢と猿之助さんの万野とのやりとりは間合いがよくなっていた。ここのテンポがよくないと貢が追い詰められた感が出ないので万野とお鹿は非常に大事な役どころだと思う。

猿之助さんの万野は佇まいや台詞の突っ込み具合などは申し分はないのだけどやはり澱は感じさせず。なんのためにあそこまで追い詰めるのか?というところで今回はお金のために万事動いている感じがある。でも金に意地汚いというところまでいかないのが崩しきれない芸質を思う。猿之助さんの万野、巧い人だし、客の喜ぶところを知っているし、貢をきちんと追い詰めはいるのだからこの万野でも良いのかなと思うのだけど、私はもうひとつ「何か」を求めてしまう。私が万野という役に思い入れがあるせいかな。猿之助さんを観て女形として基本的に娘役者であり女房役者だよねとやはり思うなど。万野が貢を追いかけて花道で極まるとこ、魚屋宗五郎のおはまに見えたのよね。真っ当なんだよね、やはり。

『熊谷陣屋』
やはり物語がとてもクリアに伝わる。

幸四郎さんの熊谷は骨太さと繊細さが同居している感情豊かな熊谷だった。

続く)

歌舞伎座『四月大歌舞伎 夜の部』 3等B席下手寄り

2017年04月15日 | 歌舞伎
歌舞伎座『四月大歌舞伎 夜の部』 3等B席下手寄り

『傾城反魂香』
通称『吃又』は上演回数の多い演目の一つですね。色んな方の組み合わせで見ていますが吉右衛門さんの又平が一番多い。またか、と思わなくもなかったですが手の内に入ったお役を絶妙に自然体で演じてみせて、今の年齢だからこその又平で拝見して良かったです。

吉右衛門さんの又平はどちらかというと絵を描き上げるまでの絶望感、悲哀、憤怒、諦めといった感情の在り様や表現の克明さで芝居としての見せ場を作っていたと思うのですが、今回は絵が抜けた後の解放感がより印象的。隠れていた又平の愛嬌が弾ける。

菊之助さんのお徳は若いのでやはり役としての膨らみはないけど、丁寧に丁寧に演じて、それが又平の気持ちのひとつひとつを拾っていくような感じになって良かった。

座組みのいつものメンバーなので纏まりも良かったです。錦之助さんの修理之助がこれまで何度も演じてきたなかで一番若々しく持ち味も出てて、いい嵌り具合でした。

『桂川連理柵「帯屋」』
歌舞伎では初めて拝見。文楽のほうが「物語」として昇華されてるなという印象。人形がファンタジィー化してくれるしね。役者がやると少々、お話的に生々しい部分が。とはいえ山城屋さんの若さ、佇まいの色気には感心してしまう。

扇雀さんのお絹がとってもよかった。個人的に大当たり。心から旦那を思う情味と哀切さと。

壱太郎くんは長吉とお半の二役。やはりお半が本役で華やかな可愛らしさと一途な強さがあってピッタリ。長吉も巧いけど、これが似合ってしまうのにはちょっと複雑な気持ちも(^^;)

吉弥さんのおとせもこのお役に吉弥さんか…という気持ちはあれど、こなしてしまうのがさすがとも思う。繁斎がうっかり後添えにするのもわかる。綺麗だもの。

染五郎さんの儀兵衛はどこぞのぼんぼんが来ましたか?な…。端敵になっておりません。無理にやらせなくても…。

『奴道成寺』
華やかに打ち出し。猿之助はほどのよい踊りぶり。どうしても三津五郎さんをふと思い出してしまう。重心の使い方など少し似てるところがあるからかも。

なぜか今月は勘三郎さん、三津五郎さん、福助さんの不在をとても感じてしまう。どうにも切り替えができていないんだなと自分でも思う。

歌舞伎座『四月大歌舞伎 昼の部』 3等B席上手寄り

2017年04月10日 | 歌舞伎
歌舞伎座『四月大歌舞伎 昼の部』 3等B席上手寄り

長かった。狂言立てをもう少し考えて欲しい(*_*; 昼夜にしてなくて良かった。

『醍醐の花見』
中堅花形を揃えての舞踊劇。舞台面が華やかで春らしさを楽しめばいい。女形のほうがそれぞれの個性が出ていたかな。笑也さんと壱くんのバトルが面白かった(笑)

萬太郎くんが軽妙さが欲しい役どころで生真面目な萬太郎くんにはどうかな?と思ったらきちんとこなしてた。幅が出てきたかも。種ちゃんがいつもの拵えと違ってて一瞬誰かと思った。二枚目風情な顔になってたよ。

『伊勢音恋寝刃』
今回は半通しでの上演。

「追っ駆け」
橘三郎さん橘太郎さんのベテランがいい味。隼人くんはちと硬いかな。今の時代、この場はもう少し刈り込んでもいいかも。

「二見ヶ浦」
ここで舞台の空気が変わる。貢@染五郎さんは柔らか味がありつつ芯のあるさらりとした風情でいかにもぴんとこな。手紙を読む件に間や身体の使い方の巧さをみせる。あともう少し愛嬌があってもいいかも。万次郎@秀太郎さんが若い。いかにも若旦那の柔らか味のある風情がさすが。

「油屋」「奥庭」
初役揃いの「油屋」は個々、場面場面はいいところはあるものの全体的にまとまりが薄い。場の流れが一つの方向に向いていってない感じ。ほんのちょっとのところでどこか噛み合わないところがある。後半、これが解消されるといいんだけど。

「油屋」での貢@染五郎さん、まずはやはり柔らかすぎない生真面目を感じさせるいい風情。姿と性根の部分はとてもいいけど、芝居運びにまだ緩急が足りないのと辛抱の感情の積み重ねの部分が浅い。もっとくっきり演じて欲しい。万野を叩くあたりから「奥庭」にかけては決まり決まりの姿の美しさと感情の張りつめ方は非常の良かったと思う。着物から透ける太ももの形がエロかった。全体通して考えると良い貢ではあるけどもっと出来るでしょ?と思ってしまう。

万野@猿之助さん、さぞかし合うだろうと思ってたんだけどもしやニンじゃないの?な万野だった。顔はきつく拵えてるけど万野に必要な澱が全然ない。底意地の悪さ、そうなってしまった心のなかの泥を感じさせない。勿論巧い人なのでこなしてるけど真っ当さが勝つ。廓を動かしていくだけの才覚があるという部分がハッキリあるのと、芝居の為所での間合いの良さはさすがだと思う。ただその巧さだけではない部分で万野をどう作っていくのかというところ。

いまのところ萬次郎さん、京妙さんのほうが万野だな~と。造形にじめっとした澱があるのよね。そういう意味では萬次郎さんもお鹿じゃないのかも。万野に引っ掛かりそうにないもの。お鹿なりのプライドを明快に伝える巧さはあるけど単純な可愛げさはあまりない。

お紺@梅枝くん、拵えを少し変えたかな?どちらかと言うとすっきりした風情の人だけど今回ふんわりとした風情が足されていて綺麗さが増えた。もう少し心ならずもな裏腹な情味を出せたらベスト。

お岸@米吉くんは可愛い。性根の部分も可愛いのだろうと思わせたのが吉。

『熊谷陣屋』
わかりやすい『熊谷陣屋』だなというのが最初にでた感想。『伊勢音頭』でだいぶ疲れてしまい集中できない状態だったけど、そんな状態の頭にすんなり入ってきた。幸四郎さん熊谷を筆頭に役者たちのそれぞれの人物造形が非常に直球というかクリアだったように思う。

わかりやすい『熊谷陣屋』と思ったのと同時にいつもと印象がだいぶ違うなとも。幕開けの場は足してるなとわかりやすいとこもあったけど、一番は幸四郎さん熊谷。細かいところであれ?今までと違うよね?と。顔の拵えが随分と赤く筋も強めだった。『陣門・組打』の熊谷の拵えと繋げて全体の物語の流れのなかのひとつの場というのを意識したのかなとか?あと熊谷の立ち位置(あくまでも義経の家臣で元は藤の方に使えてた身分)をとても鮮明に芝居のなかでみせてきた感。また、戦語りの時
の居場所とかも微妙に違ったようにみえた。藤の方と相模の反応を伺いつつの部分は細やかで、裏にある二重性をくっきり。

ここら辺は前々からで幸四郎さんの演じ方は底割れという人もいるけど、今回はそれほど泣きにならず骨太に物語ってたと思う。今までの幸四郎さん熊谷は心情をその場面ごとに細々と表現してきて、そこで人物造形のわかりやすさを見せていたように思うけど、今回は詞章の大きな流れに乗ってのストレートさがある表現にしてきたかなと。前回の演じ方とだいぶ印象が違ったのよね。引っ込みはいつも通りというよりむしろ前回の熊谷のときより泣きが大きかったかな。その前の相模への申し訳なさとか、そこらへんの表現は好き。でもなおさら連れていけよと思うなど。今回の幸四郎さん熊谷なら相模を連れて行ってもおかしくないようにも思ったり。

猿之助さんの相模、とても丁寧に芝居を重ねて演じていて相模として過不足無く。まだ役としての膨らみはないけど終始目配りが利いてて漏れがないのはさすが。台詞の丁寧さが印象的で特に前半の場で相模という女性の立ち居地が明快でとても良い。真相を知った後半の感情の揺れはまだ心の奥底からのものとして発せられてない感はある。久しぶりに役者としてまだ若いんだよねと思った。ベテラン役者と組むと良さと足りない部分とが見えてくる。次のステップに進むためにもやはり若手はベテランと組むのは必要だと思う。

猿之助さん、この人は女形が本領だという気持ちを新たにした。質としては娘役者であるのも見えたし、そこの延長の相模だった。今回どなたに習ったのかはわからないけど、質的に先代の京屋さん(4雀右衛門)方向の相模が出来そうな気がする。そういう意味で、硬さにあったけど今後の期待ができる相模。ただし、女形の頻度を多くできるのであれば、なんだけど。

染五郎さんの義経、品格がありどちらかというと象徴としての義経だったようにみえた。そして『熊谷陣屋』という物語を裁く裁き役として存在していた。半眼でじっと耳を傾ける。また、やはり何をしに来ているかの語り口が明快。幸四郎さん熊谷に対して位取りもある程度見えたのは成長。とはいえやはりストレートすぎて人物像の膨らみまだ出てない。義経という個が立ち現れる弥陀六(宗清)と相対峙する場面での一瞬の砕け方は先代の7芝翫さんの義経を思い出させた。そういえば染五郎さんの義経はどなたに習ったんだっけ?

高麗蔵さんの藤の方、凛とした位取りがあって若々しく美しい。また息子に対する情愛や藤の方の悲劇性があってかなり良かった。最近の高麗蔵さんは役の嵌り方がいいなあ。

左團次さんの弥陀六はすっかり手の内。飄々としたなかに辛抱がみえる。ベテランでもしっかりこういうところ進化させていて、凄いなあ~と思う。

そういえば幸四郎さんの熊谷と猿之助さんの相模はそれぞれは良いけど夫婦感は少なめ。幸四郎さん熊谷はかなり相模の様子を伺う造詣(これはいつもの造詣)なので、今回はどちらかというと、猿之助さん相模がまだ、精一杯でそこまでの目配りがやりきれてないからかな~と。相性とかの問題ではないと思う。どちらかというとここら辺は女形の芸の積み重ねのひとつだと思う。先代4雀右衛門さん、7芝翫さん、当代なら魁春さん、最近は5雀右衛門も、最初の出から熊谷の奥さんだし、何がどう、ではなく空気感で夫婦間たっぷりになる。

歌舞伎座『三月大歌舞伎 昼の部』 1等1階花道ブロック真ん中列周辺

2017年03月18日 | 歌舞伎
歌舞伎座『三月大歌舞伎 昼の部』 1等1階花道ブロック真ん中列周辺

『引窓』
初日周辺に観た時より全体的に芝居が締まっていてお互いがお互いを想う家族の物語がよりストレートに伝わってくるようだった。人として繋がっていくのに義理ゆえにの部分あってこそ、強く繋がっていく。家族は血だけで繋がるものではない。私の席の周囲の初心者らしき方々が「いいお話ね~」としみじみ語ってらしたり「今回ようやく内容が理解できた」という方もいて、芝居としてわかりやすい作りだったのかなと思う。

右之助さんのお幸は今後当たり役になると思う。右之助は近頃、存在感が出てきたなと思う。幸四郎さんは濡髪役者なんだよなとつくづく思った。でも今回の南与兵衛は受けに徹していてどこか母への不器用な愛情が感じられて、キャラ違いな部分はあるけど十分な作りかなと思った。

『女五右衛門』
近くで見ると迫力。衣装も綺麗。

『助六由縁江戸桜』
海老蔵さんの助六は出端は力加減がいい塩梅でやはりとても良い。全体的には大人になった分、芝居の熱が少し薄れた気もする。ここら辺は観客の好みかな。いい方向になってる部分もあるのだし。台詞回しはもう海老蔵さん助六はこれでいくって感じで捉えていいのかな…。

初日周辺からぐっと良くなったのは雀右衛門さんの揚巻。格の大きさが出て、台詞にも力強さも加わった。花道の出はもっと押し出し強くしてもいいかなと思うけど本舞台で本領発揮。包容力のある優しく、それでいて芯もある良い揚巻。これが出来るなら次もあるなと思った。

梅枝くんの白玉は落ち着きがあって品がいい。年齢以上の貫禄もあってやはりこの年代のなかでは頭一つ抜けている感。もっと華がつけばいうことなしですね。並び傾城の5人は美しいだけではなくそれぞれ個性があって魅力的。廣松くん、化粧変えたかな?初日近くより綺麗になってた(^^)

歌舞伎座『三月大歌舞伎 夜の部』 3等B席上手寄り

2017年03月04日 | 歌舞伎
歌舞伎座『三月大歌舞伎 夜の部』 3等B席上手寄り

『引窓』
この演目が好きということもあり、昼の部での疲れを忘れて楽しんだ。私は幸四郎さんが座頭の時の芝居のアンサンブルに心地良さを感じるようだ。役者として押しが強くそこに目が行き勝ちだけど、それ以上に周囲とのバランスもよく考えていると思う。役者たちの役のなかにある個性を大事にしている感じがします。

南与兵衛@幸四郎さんはこの役はとても久しぶりに拝見。以前のは義に厚いヒーロー的なカッコイイ南与兵衛だったという記憶。今回はその部分もありつつ、情の厚さ、根の優しさが前面に出ていたように思う。どちらかというと武張っていて町人らしい柔らかさや愛嬌とか色気はあまりないのだけど、無骨さのなかに義母お幸と濡髪長五郎への心配りを見せていく。母を終始立てるとても大人な南与兵衛。

幸四郎さんのことだからもっと前に出ることもできるはずだけど押さえて受けに徹し、お幸と濡髪親子を立てていた。最近『双蝶々曲輪日記』の通し狂言で濡髪を演じたことで、南与兵衛という人物像を再構築したかなと思ったり。それにしても出るところと押さえるところの緩急がほんと巧い。見せ場になると一瞬で惹きつける。若々しい。

お幸@右之助さんがとても良かった。控えめななかの情の強さが右之助さんらしさ。母として義理の母としての揺れ動く心持ちが佇まいにも台詞廻しにもあますことなく表現されていた。この手のお役をぜひきわめてほしい。弱さのなかの強さ、というところを演じられる老けの女形さんは少ない。とても貴重。

濡髪@彌十郎さん、大きい体躯だからの大きさだけではなく追われる立場のやるせなさ、母への思い、真っ直ぐな気性といった役の輪郭を丁寧に太く演じることで存在感をみせてきたと思う。

魁春さんのお早は遊女だったというじゃらつきは少ないんだけど一生懸命生きてきた女だなと思われるとこと、手に入れた大好きな家族を守ろうとしている健気さがあっていいなあと思う。


『女五右衛門』
役者を観て楽しみ、絢爛な大道具を楽しめばそれでよし。藤十郎さん、いつまでもお元気でいてください!仁左衛門さんはひたすらスマートでかっこよし。

『助六由縁江戸桜』
歌舞伎十八番のなかでも人気の華やかで楽しい演目。物語がわかりやすい作りで曽我ものを知らなくても楽しめるし、個性的な登 場人物たちにそれぞれ見所を設けているし。よく出来た演目だなと思う。河東節が成田屋だけのものになったのは実は最近だそうな。

海老蔵さん@助六、一番合うお役だと思う。拵えがほんとに似合う。回数を重ねた役だけあって難しいであろう出端のところがひとつひとつ丁寧でありながら自然。だいぶ落ち着いた感じでやんちゃな青年からちょっと落ち着いた大人な雰囲気になったなあ。出し方もだいぶ落ち着いてきてるかな。いわゆる台詞廻しはいつも通りだけど聞き取り易くなってたような。私の好みの問題だけど、ここは絶対團十郎さんの台詞廻しでお願いってとこが一番違ってたりするのがチト残念。

揚巻@雀右衛門さん、華やかさを前面に出さないといけない役なのでちょっと心配していたけど、余計な心配でした。美しさだけでなく華やかさもあり。揚巻を演じる役者としての格もあったと思う。お父上にますます似てきたな。台詞回しや声がお父様にかなり似てた。人気傾城としての大きさ、プライドの高さみたいなのは無いけど助六をたしなめるのも庇うのも、愛らしさや恋する人への一途さのほうが強く出ているのがらしいなあと思う。助六@海老蔵さんと並んでまったく違和感なく恋人同士に見えた。

白酒売り@菊五郎さん、キュートで華やかで明るくてほわほわっとしていて、でも兄としての芯がそこはかとなくこれぞ白酒売りといった風情。出た北だけで舞台を大きくし舞台の空気を濃くする。舞台が一段と明るくなるのよね。根っからの明るさというか開放感のある白酒売りは菊五郎さんの次は勘三郎さんのはずだった。次世代でこういう白酒売りができる役者がいるんだろうか?と不安になる。陽の役者が今、少なめよね。

歌舞伎座『三月大歌舞伎 昼の部』 3等B席下手寄り

2017年03月04日 | 歌舞伎
歌舞伎座『三月大歌舞伎 昼の部』 3等B席下手寄り

『明君行状記』
初めて観る演目。構図としては『御浜御殿』に近くいかにも青果ものという芝居。役者が適材適所で完成度も高かったと思う。でも好みか?と言われたら私には感覚的にあまり好みではない。光政と善左衛門の探りあいを楽しむものなんだろうけど林助が可哀想だわね…となる。

光政@梅玉さんは嵌りすぎくらい嵌っているし、それだけでなく光政という人物像に明快に迷い無く切り込んでいってる感があり圧巻であった。この役を説得力もって演じられるのは梅玉さんくらいかも。

対する善左衛門@亀三郎さんも声と口跡のよさで台詞をしっかり伝えてきたのと生真面目な風情が合ってて良かったです。

妻ぬい@高麗蔵さんが若々しい美しさと品のよさで目を惹き、大五郎@萬太郎くんも目配りのよさでキャラに合ってた。先月気になった化粧は今回は顔に合っててよかった。

歌舞伎座『渡海屋・大物浦』
仁仁左衛門さんの知盛を拝見するの久しぶり。とても純粋に自分を全うしようとする気迫のなかに悲壮感があるカッコイイ知盛でした。渡海屋の銀平からかなり鋭く、渡海屋の主人のしての鷹揚さよりは初手からどこか使命感を帯びた雰囲気。好みからするとここはもう少し隠してもいいんじゃないかな?と思いつつも、そこから一気呵成に知盛として突き進んでいく感じもあり。大物浦ではかなり派手な演じ方。ヘタすると格が減じてしまうと思うのだけど、今の仁左衛門さんが演じると悲壮感、無念さが際立ち、物語にうねりがでて良かったと思う。

典侍の局@時蔵さん、お柳は仁左衛門さんと同様に渡海屋から凛として夫婦というより同士の感じが大きい。お柳から典侍の局になってからの佇まいに哀があって、そのなかで安徳帝への情をみせていくので悲劇性が増す。ここ私的に好みでした。

義経@梅玉さんは鉄板で、弁慶@彌十郎さん、このところいい感じに一皮向けたような気が。役の存在感が出ていました安徳帝@右近ちゃんが、落ち着いていてほんと立派。

『どんつく』
幕が開いて板付きの巳之助くんが一瞬、三津五郎さんに見えてドキッとした。動き始めるといつものみっくんなんだけどね。松緑くんと亀寿くんに引っ張られながら、踊りきる。この踊りは回を重ねていってほしい。

代替わりなんだなあとしみじみ思いつつ後ろで鷹揚に見守る菊五郎さんの厳しくも優しいまなざしが印象に残る。『どんつく』はやっぱり皆での連舞が楽しいね。


歌舞伎座『猿若祭二月大歌舞伎 夜の部』 3等A席センター

2017年02月18日 | 歌舞伎
歌舞伎座『猿若祭二月大歌舞伎 夜の部』 3等A席センター

『門出二人桃太郎』
これは勘太郎くんと長三郎ちゃんの可愛らしさに目を細めつつ、二人とも頑張れ~とただひたすら応援。勘太郎くんのお兄ちゃんぶりには涙が出そうでした。

あとは染五郎さんの犬っぷりを愛でてました(笑)細かい仕草がかわいいのよ。しかし、桃太郎お供の三人の染五郎さんの犬、松緑さんの猿、菊之助さんの雉の拵えはかなり凝っていましたね~。若干、やりすぎ感もありましたが、盛り立てようという三人の心意気やよし。

『絵本太功記』
上方役者が揃ってるせいか今まで観てきたのより細かくたっぷりな感じはしたけど、どこがどう上方なのかというのはわからず。全体的にたっぷりやろうとしてるけどメリハリが足りない感じがした。秀太郎さんと魁春さんはさすがに巧さを見せたけど、芯が引っ張りきれずアンサンブルがいまひとつな?

芯の光秀@芝翫さんが意外と前に出てこず。この役に必要な陰影があまりない。顔の拵えは立派なんだけど、台詞廻しかな??う~ん。

十次郎@鴈治郎さんは五月人形のよう。襲名してから台詞が巧くなった気がする。でも十次郎にしては少しばかり愛嬌ありすぎかも(^^;)

初菊@孝太郎さん、姫の硬質さはないけど可愛らしく健気。身体の使い方がいいなあと思う。丁寧に演じてたけど、兜は最後まで重そうにしましょうね。上からだと奥まで見えちゃうのよ(笑)

『梅ごよみ』
とても楽しく拝見。芝居に乗っかれれば何も考えず楽しめる。中日周辺で拝見したので役者同士の間合いなどもっと出来るだろうなというところもありつつ、染五郎・菊之助・勘九郎のバランスが思ったより良かったし、それぞれ役を上手く掴んでいたと思う。場ごとの緩急もよくて芝居が弾んでました。

仇吉@菊之助さん、いつもより色気増しな美貌で華がありました。芯の強さと顔だけじゃないと啖呵を切るだけの真直ぐな情の深さもありとても良かった。拵えがいつもと違ってましたね。どこか距離を感じていた染・菊コンビがここにきて嵌るようになってきたなあと思ったり。

米八@勘九郎さん、ちょっと嫉妬深いけど丹さんのことが好きで好きでという情の深さがあって可愛らしく、ちょっと切なさも感じさせる米八。拵えが頑張りすぎなとこ含めてとても可愛かったな~。私は勘九郎さんの女形、とても好きです。

丹次郎@染五郎さん、女にだらしないだめんずだけど生来の品のいいふわっとした可愛らしさで憎めないキャラになっているのと、そのうえで主従の道義はしっかりわきまえている、という部分のバランスがいい塩梅。女同士の喧嘩に巻き込まれない、ちゃっかりした間合いが巧い。

藤兵衛@歌六さんが渋くてかっこいい。、お蝶@児太郎くんもおぼこな可愛らしさがよく。左文太@亀鶴さんが存在感出てきたな~と。半次郎@萬太郎くんが個性が出てきた感じ。でもあの目元の拵えはやりすぎかと。

歌舞伎座『猿若祭二月大歌舞伎 昼の部』 3等B席上手寄り

2017年02月18日 | 歌舞伎
歌舞伎座『猿若祭二月大歌舞伎 昼の部』 3等B席上手寄り

最初の2演目も見たかったけど用事が出来て途中からの観劇。

『四千両小判梅葉』
演舞場でほぼ同じ配役で観たな~と観ながら思い出し。好みの演目とはいいがたいけど牢屋の場は面白い。菊五郎さんが劇団に継承してもらいたい演目の一つなんだろうな。菊五郎さんと梅玉さんがそれぞれに自分の持ち味をだしていて、役者を見せる芝居だなと今回は思った。

『扇獅子』
華やかな打ち出しでなんとなくホッとする一幕でした。梅玉さんと雀右衛門さんの並びは品がよくて清々しい感じ。

歌舞伎座『壽初春大歌舞伎 夜の部』3等A席上手寄り

2017年01月26日 | 歌舞伎
歌舞伎座『壽初春大歌舞伎 夜の部』3等A席上手寄り

今月の歌舞伎座は『沼津』と『井伊大老』がベストだな~。ベテラン組の濃厚さ濃密さは見事だわ。それぞれ配役も良かったし。正月ぽくなかったけどね(笑)『井伊大老』の幸四郎さんが歴史のなか、そこに生きた人物を立ち上げたのとは反対に『沼津』の吉右衛門さんはあくまでも物語のなかの、それでいて「いる」人物として立ち上げていたと思う。その両方が成り立つ歌舞伎ってやっぱ凄い。

『井伊大老』
役者それぞれの役々にその時代にどう生きているか、という生き様がみえくるような感じだった。だから、なお下屋敷の場が活きてきたかなと。

井伊直弼@幸四郎さんとお静の方@玉三郎さんのなんとも自然でそこに生きている、そんな佇まい。好きあっている同士のいたわり合いがとても素敵でした。人物像を生き生きと活写しており、この時代をふと垣間見ている、そんな気さえおこさせ、また二人の会話に二人が生きてきた生活がみえるかのようで、胸がじーんとしてしまいました。

禅師@歌六さんに飄々さが増していい味わい。

雲の井@吉弥さんが可愛かったな~。お静@玉三郎さんとともに感情豊かで普段からきゃぴきゃぴしてそう。

長野主膳@染五郎さん、初旬に見た時は役の方向性が見えづらかったのですが、今回は存在感がきちんと出ました。単に冷たい人物というより、主膳なりの理があり道があり、だからこそ心を殺して進んでいくのだという覚悟がみえてよかったです。

水無部六臣@愛之助さんの無念さの伝わる芝居がとても良かったです。愛之助さんは、久々に拝見したけど全体的にリアルな手触り感があるなと思いました。新歌舞伎系だとこうなるのかな。愛之助さんは今月は似たポジションばかりでしたがきちんと存在感がありました。最終的にこの役が一番印象深かった。

『越後獅子』
鷹之資くんが丁寧にお手本の通りに踊りきった今月でしたねえ。色が出てくるのはまだこれから。初旬に拝見したときより踊りが身体に入っていて動きにキレがでてきていました。客席の暖かい拍手を励みにこれからも頑張って欲しい。

『傾城』
これは玉三郎さんワールド。ただひたすら美しい玉さまを眺める感じに(笑) 打掛の裁き方がすごすぎる。一服の絵。花魁道中はサービスだと思うけど個人的好みとしては座敷からでもいいかな~。集中力がいちど切れちゃうの。

『松浦の太鼓』
松浦候@染五郎さん、まだ発展途上的なとこ含めて超ラブリーでした。台詞の緩急が効いてきてメリハリが出ててた。染五郎さんの松浦候は若いのに声のトーンを今の吉右衛門さんが出す高いトーンそのままで出しているので、かえって落ち着きのなさが出てしまっているのは若干難かな。まだまだ現役感たっぷりで気まぐれな様子がリアル。そのなかに品のいい鷹揚さがあるので役にいやみがないのは良いなと思う。玄関先では台詞廻しや風情に少し8勘三郎さん風味が。興味深々、目がキラキラ的
な前のめり感がそう感じさせたか。このお役に関しては少しづつ熟成させてほしい。10年後が楽しみです。

源吾@愛之助さん、討ち入り姿がよく似合い口跡がよく台詞がわかりやすい。初旬は討ち入りの語り部分の台詞廻しに苦労しているかな?だったけど、昨日はしっかり伝えきれていた。梅玉さんに稽古していただいたようだけど、松嶋屋の芝居だな~というほうが強かったかな。

お縫@壱太郎さん、前半は終始受けの芝居ですが可愛らしく真面目でおぼこな風情がよかったです。

其角@左團次さん、俳人としてどこか自由人でいる風情があるのは左團次さんならではな気がします。押しの強さにもいやみがなく松浦候への扱いの巧さを感じさせます。

歌舞伎座『壽初春大歌舞伎 昼の部』3等A席センター

2017年01月14日 | 歌舞伎
歌舞伎座『壽初春大歌舞伎 昼の部』3等A席センター

『将軍江戸を去る』
役者さんは好きなようでよく上演されてるし、色んな役者で観てるけど、苦手演目のひとつ。寝たりはしないし、それなりに観てしまうけど、なかなか苦手意識が取れない…。今回、それぞれの役者が「らしさ」があって分かりやすい芝居にはなっていたとは思う。台詞は皆さんあまり謳いあげないで抑えめ。新歌舞伎系は好き嫌いの激しい私ですが、なぜこの演目が苦手な部類の入ってるのか自分でもよくわかっていなかったけど今まで慶喜に興味がなかったんだな、というのが今回の気づき。なぜわかったかというと慶喜という人物の知識が増えたから。知識が増えたことで今まで、慶喜の台詞の意味合いをきちんとわかっていなかったんだな~と痛感させられた。だから『将軍江戸を去る』という芝居の慶喜のキャラを受け止めきれてなかったんだなと。とはいえ、今回そこがわかっただけでまだ理解しきれてないのですけど。そこがわかっただけでも収穫は収穫。

慶喜@染五郎さん、運命に対する陰鬱な悲哀とどこか純粋さがある殿ぶりが良かった。台詞廻しは吉右衛門さん譲りか、最後の場の名残を惜しみつつ江戸を去る際の詠嘆は時代の区切りをしみじみを感じさせるものであったように思う。

山岡鉄太郎@愛之助さん、役としての立ち位置が巧く台詞も明快。青果節の抑揚はあまりなくストレート。

高橋伊勢守@又五郎さん、宥め役として非常に落ち着いた芝居で良かった。新歌舞伎の又五郎さんというと暑苦しいくらいの熱さというイメージだったので新鮮でした。

若い、諸士たちの歌昇さん、種之助さん、廣太郎さん、男寅さんが血気に逸る青臭さを体現していました。皆、台詞がしっかりしてきたな~と思ったり。

『大津絵道成寺』
ここでお正月らしい華やかな舞踊を。道成寺ものをご趣向で組み立てたような舞踊ですね。愛之助さんが五役を時に早変わりをしながら踊っておきます。大津絵とお題にあるように立役が中心の愛之助さんらしい輪郭の太く丁寧に踊っていきます。主になる藤娘姿がサマになるのは若い頃、女形が中心だったおかげでしょうか。華がありました。

犬@種之助さん、のびのびと弾むように踊り可愛らしかったです。踊り上手のお父様に似て素直ないい踊り。わんわん六方も勢いがありました。

弁慶@歌昇さん、三枚目がはいったお役ですが思った以上に似合い線の太さと滑稽味と、とても良かったです。

矢の根の五郎@染五郎さん、押し戻しで最後で出ますが荒事のこしらえが本当に似合うようになりました。大きさと格があり一際華やか。声も荒れてなかったですね。もう少し喉を広げて声を前に押し出せると良いんですが。


『沼津』
ベテランの存在感をまざまざと感じさせた演目。舞台の空気が濃密になりますね(『沼津』のみ1等センターで拝見)

十兵衛@吉右衛門さん、前半は正直声が弱いかなという部分があったのだけどその代わり、今の年齢だから出せるキュートさがあって突拍子のない我侭にもみえる言動なのにほっこりさせてしまう力がある。でも、なんといっても真骨頂はやはり平作お米が父、妹と知れた後。ふとした佇まいと台詞で空気を変えていく。それがごく自然にでもくっきりと輪郭をもって描写されている。この空気の変え方は吉右衛門さん独特のものだと思う。

平作@歌六さん、かなり突っ込んだ芝居しててすっかり持ち役にしておりました。人懐こさのなかに頑固な強い芯がある、鋼のような平作だと思いました。情のありようも甘くない。

お米@雀右衛門さん、以前は可愛らしさのほうが先に立ち健気な「娘」の風情でしたが、今月は艶が出て恋しい人のためには手段を選ばない芯の強さもありました。平作の娘だな、というのが伝わってきた。