クルマのサスペンションと長いお付き合い

サスペンションの話、試乗記、旅の話、諸々・・・。

レース専用ダンパー

2024-04-16 11:02:59 | セッティングレポート(SUSPENSIONDRIVE)
レース専用のダンパーは、フルハードからフルソフトまでの調整ダイヤルの可動範囲の中央あたりのどこかに
実戦で使われるであろう標準的な減衰値が設定されます。

そこから柔らかくしたい硬くしたいの振り幅があって、
バネレート、気候、ダウンフォース、タイヤ個々、エアー圧、サーキット路面など
に合わせて調整式ダンパーは本領発揮。

ところがサーキットの現場で、"伸び側フルハード" "圧側フルハードから2クリック戻し"
しかもダンパーの銘柄が変わっても、サーキットが変わってもドライバーが変わっても
調整ダイアルの位置は同じ!?という調整パターンを見かけます。

ちなみにですが、レーシングカー用のダンパーをテスターにかける場合は、
必ず調整ダイヤルのフルソフトから始めて、減衰値を見極めてから徐々にハードな方向を測定します。

フルハードではダンパーテスターを破壊しかねないほどの「高減衰」が仕込まれているからです。

論外に硬いバネでも選ばない限り、レース専用ダンパーのフルハードが必要になることはありません。

DTMのマシン&レースでは少々の小競り合い程度で車両どうしが接触してもスピンしないし、
コースから弾き出されてもすぐに戻ってきて、格闘技らしいそれが見世物になっているところがあります。

*主催者も容認しているようで、滅多にペナルティーの対象にならないことと、
 ドライバーが逆手にとって無茶している様にも見えません。

国内のそれはというと接触するとあっという間にスピンして一巻の終わり。

あまりにも"粘り気のない"挙動で、同じカテゴリーのレースカーに見えません。

タイヤは垂直荷重でグリップを得るので、グリップを失うということは
その時にタイヤ荷重がかかっていないということ。

荷重が抜ける理由は、フルハードのダンパーのせいでタイヤが車体側に拘束され、
バネ下の振動数では動かず、横から体当たりされるとタイヤ荷重が戻るまでの
わずかな間合いでスピンに至ります。

しゃがみこんでいる人が肩を押されると、足を伸ばす前にゴロンと転がるのに似ています。

LSDが左右輪の自由な回転を拘束して、デファレンシャルギヤの働きを消すように、
フルハード、つまり過減衰のダンパーはサスペンションの可動ストロークを
封じ込めてタイヤの接地性を失わせます。

減衰力の適値を探すのがサスペンションチューニング、減衰力調整式ダンパーはそのためのものです。


バイクのサスペンション

2024-04-09 12:53:44 | バイクのサスペンション
あるバイクユーザーが、高価なサスペンションを投入したのに、ミニサーキットのタイムが
ノーマルの時に出したタイムを超えられない。それどころか遅い。

タイトルが"高価な部品で遅くする、あなたもひと事ではない"

でも当の本人は全く落ち込んでいる様子なし。おふざけでも無い。
次はバネレートの変更に挑戦する気満々。

どこにそんな余裕がと思えるほど明るくまとめられた、かつ勇気ある動画。

ノーマルとどこが違ってこうなったのか、タイムが遅い理由をどうやって見つけるのか、
続編があれば覗いてみたいですね。

何かを変えれば良くなる、何かを追加すればいいことが起きるかというと、
必ずしもそうはいかないという事例かと。

他にも同じ様な動画もあります。

そちらはオフロードバイク。結論は"体感は違うけどタイムは変わらない"

どちらのバイクも市販状態で優れた仕立てであることを検証できたとも言えます。

乗りやすくて良いタイムがサラッと出てしまうと、もっと伸び代があるはずだ・・・

みんなそう思うんです。

改造したら・・・乗りづらくなった。遅くなった。

人には知られたくない話です。




減衰力調整式ダンパー あれこれ

2024-04-03 14:23:17 | セッティングレポート(SUSPENSIONDRIVE)
鈴鹿サーキットで2024のスーパーフォーミュラ公式テストが行われた日。
知人から電話。

内容は今年からスーパーフォーミュラに採用されるダンパーについて。

資料送るからさ。見といてよ⋯ということで内部構造をチェック。

減衰力の調整機構がダンパーの外部についていて、ピストン部をオイルが通過しないタイプ。

カチカチダイアルを回して減衰力を変えられる部分が、
単三電池半分ほどのカートリッジになっていて、
テーブルの上でダンパーを水平に寝かせて作業すれば、
オイルをこぼさずカートリッジに内蔵されたスプリングを入れ替えることができます。

組み立てる時は数滴オイルを足して、エアーを噛み込まないように
そっとカートリッジを組み込めばよく、現地作業ができるところが利点。

なんですが、このタイプそのものは以前からありました。

新しいところは低速域を強くしても、高速域の減衰が立ち上がり過ぎるのをコントロールできる様にしたこと。

昔、酒屋さんでは日本酒の量り売りをしていました。
一斗樽の下に刺さっている栓を慎重にひねって隙間を調整すると、トクトクお酒が流れ出てきます。
それをこぼさない様に漏斗で一升徳利に入れて持ち帰る⋯という話は置いといて。

先端に向かって細くなっているテーパー状の栓が、プランジャー(ポペットバルブ)の先端形状と考えて、
テーパー形状を変化させれば、ブローオフの量を変えられます。
構造は至ってシンプル。

*YouTube オーリンズTTR4ウエイダンパーの仕組み

先端形状の違うプランジャーが、何種類かラインナップされているようなのですが、
スーパーフォーミュラの規定ではチームは勝手に触っちゃいかん(ダンパーの分解不可)

ピットロードでは固そうに見えるのに、ストレートではビタッと路面に張り付いてヒョコつかない⋯
もしそうなっていれば、酒飲みが一斗樽の栓からヒントを得たそれが功を奏していることになります。

一昨年F1マシンが健康を損ねそうなほど跳ね回っていた対策の一環と考えればブローオフさせる意味もわかります。

そんなダンパーがスーパーフォーミュラに採用されたというお話し。

親の一言

2024-03-31 11:42:45 | NEWTON BRAKE
ニュートンブレーキって何?

と興味を持たせるのが目的でネーミングにしたのでにわかには分からないはずです。

日本語の「踏力一定」で説明しようとも思ったのですが、
踏力が一定だから、踏み方がひとつ・・・ワンパターン・・・
ブレーキの掛け方は"一つ"と捉える人が出てきます。

ニュートンブレーキは、物理現象に則った正しいブレーキ操作の方法を表す言葉として考えました。
造語なので誰も知らなくて当然です。

ブレーキングテクニックと言ってもいいのですが、運転の最も大事な基本操作のこと。

以前にも書いた仕事先での話。

仕事が一段落した後の会食の席で、
娘が運転免許を取得してこれから街に乗り出すので、一言伝えるとしたら⋯と
先方の会社の偉い方に聞かれ。

"ブレーキをかけ始めたら足の力を一定にしたまま止める"

期が変わって又会食の席。

あの一言で、娘の運転は怖くないと友だちから認めらている⋯と父親。ニコニコ。

伝言のまた伝言なのにうまく伝わる時はこんなにもあっさりです。

そこで気になるのが、ニュートンブレーキ本。

文字だけで果たしてどこまで伝わっているのだろうか。

このことも何度か書いた気がします。


リヤサスペンションと直進性とヨーレートの反転回数

2023-12-26 16:01:32 | G-BOWL
スバルGC-8のリヤサスペンションはストラット形式。

その構成は、横方向の力を受けるパラレルリンクと前後方向のトレーリングリンク、
支柱とダンパーが一体化しているストラット。

いま時のややこしいマルチリンクが考え出される以前の、シンプルで癖の少ないサスペンションと言えます。
ショックストロークは国産車の中では最長の部類。

このリヤサスペンションに使われているゴムブッシュを、ピロボールに入れ替えました。

その結果、真っ直ぐ走っている時の修正舵が減りました。

この違いをG BOWLアプリのヨーレートの反転回数で確かめられます。

ピロボールブッシュ変更後はヨーレートの反転回数が半分以下という結果です。

リヤの横振れ量が減ることで"真っ直ぐ度"が向上したことになります。

同じようにトーイン調整違いもヨーレートの反転回数で確かめることができます。

そもそもは、ドライバー違いで真っ直ぐ走っている時のクルマの落ち着きに差があることに気がついて、
そこを確かめられるようにヨーレートの反転回数をカウントできるようにしたというのが始まりです。

このヨーレートの反転回数の項目は使い道色々。

うまい運転手との差がこんなところにあったのかと、それまでモヤっとしていたところが、見えてきたりします。

なんのことだかピンとこないと思いますが。

左下のEdit→★★範囲の情報表示★★→下から二番目のヨーレートの反転回数

運転の工夫で反転回数を減らすことができるかチャレンジしてみてください。

あることに気がつけば回数を減らすことができます。




モーターファンイラストレーテッド

2023-12-12 13:35:20 | なんでもレポート
           * モーターファンイラストレーテッドNo206号より *
 

レーシングカーエンジニアの方が書かれているページがあります(連載中)
今回の話題はNo205号とNo206号に書かれている内容。

あくまでレーシングカーの限界走行時に起きていることです。

どのクルマであれアンダーステアーに仕上げるのがセオリー。

アンダーステアー、オーバーステアーの明確な線引きというのはないのですが、
安定姿勢を保てるのがアンダーステアー、何かのキッカケですぐに不安定姿勢になるのを
オーバーステアーとイメージしてもいいかもしれません。

定常的にリヤが流れっぱなしになるとか、ハンドルを切っても切っても曲がらないと言った
とんでもないセッティングではなく、前後バランスが常識範囲に収まっている中での話です。

エンジニアの方はアンダーステアー、つまり安定姿勢の時はリヤタイヤを使い切っていない可能性がある⋯

リヤタイヤに対してフロントタイヤが先にCFマックスになるので、
ドライバーはそれを感知して旋回速度と走行ラインをコントロールしている。

この瞬間に、リヤタイヤに余力が残っていることに着目して、フロントタイヤの容量を上げれば、
リヤタイヤを使い切ることができてタイムアップにつながる可能性があると、提案されています。

すでにギリギリのタイヤ選択がなされていれば効果が望めないのはもちろんですが、
今現在の自車のバランスを確かめる意味でも、考え方も含めてとても良いヒントかなと。

ここのところ仲間内で、このリヤタイヤを使い切る話でやりとりしています。

車両運動は物理現象なので、共通の理解が得られそうなんですが。

これに運転する"人"が加わって話が横展開⋯どう走らせているのかを紐解く必要があります。
サスペンションセッティングの話がまだ出ていないので、整理できるまでにはまだ時間がかかりそうです。


データシート その2

2023-11-22 10:12:10 | なんでもレポート
ホイールアライメントテスターで見れるのは。

・タイヤキャンバー角
・キャスター角
・スラスト角
・セットバック
・トータルトー

といった項目だったと思います。

必ず純正サスペンションであること。
そのクルマの基本情報がテスターにストックされていること。
タイヤホイールに損傷がないことなどが前提です。

ホイールアライメントテスターは最強、高精度のイメージがあるのですが
"ホイール"を測定しているので、車体の傾きとか車高の判定はできません。

なのでレーシングカーでは、フロアー下の高さ、車両姿勢、車高を整えるので、
ホイールアライメントテスターは使えません。

ではレーシングカーのアライメント調整はどうしているのかというと、
キャンバー角キャスター角は測定ポイントがあり、さらにはホイールハブに専用治具をセットして
"車体"を中心に車高が測定できるようになっているのです。

さて、ホイールアライメント調整と言えば、タイヤの整列のことなので理解しやすいのですが、
車高を測定、調整する意味は?

見た目が変わること以外、何かが変わることは分かるけど確かなことはわからない⋯

四輪のタイヤが地面に立っていて、サスペンションを介してボディーが地上高さを保ちます。

そのサスペンションはボディーの取り付けポイントを中心にして動くので、
この取り付けポイントの位置で車両姿勢が決まり、サスペンションの可動範囲が決まります。

そうなると個々のクルマごとに適値がありそうですが⋯

心配いりません。

飛行機の重心点と主翼の関係のように、
サスペンションの動的中心と車両運動はどのクルマも共通しています。(レーシングカーも)

アーチハイト、スタンディングハイト、ステップハイト、ホイールストローク⋯

レーシングカーでなくても、サスペンションが交換されていたり車高が違っていれば、
基本情報を採取するところから始めます。

それを記録するのがデーターシートです

データシート

2023-11-14 13:20:19 | なんでもレポート
サスペンションセッティング作業に欠かせない記録用紙(データシート)が
残り少なくなってきたので、何年ぶりかに作ります。

せっかくなので、直感的になんの数値を表しているのかが
わかるようにイラストを加えました。

これまで、遠くの方とやりとりする際、
メモ書きを渡してサスペンションの寸法を教えてもらうのですが、
新しい記録用紙なら説明が少なくて済みそうです。

うちに見えたお客様との会話も、たとえばこのダンパーキットのストロークバランス云々とか、
アンダーステアーを強く感じたらここの数値を何ミリ調整してください⋯
こういった説明もしやすくなります。

それと新たに追加した項目に「Standing Height」スタンディングハイトがあります。

ロワーアームの下反角(アンチロール角)のことで、スタンディングハイトは
1950年代のロールス・ロイス社の広報資料からの引用。

我が社のクルマはロワーアームが地面に対して水平より下がった(バンザイ)状態で出荷されることはありません。
とどの部分の寸法なのかイラスト入りで記されています。

この時代すでにロールス・ロイス社のエンジニアがロワーアームの角度に着目していたことが分かります。

でもそこには皆んなが知っているロールセンター理論が出てこないので、
おそらく口うるさい人たちはこれじゃあ根拠がわからないとか言って無視したのかもしれません。

その後にアーム角の話が出てこないことからも世間の理解を得られなかったんでしょうね。

もう70年以上前の話です。

この情報を見つけたのは森慶太氏。

ということで新作の記録紙の見本ができあがりました。


サスペンションセッティング

2023-11-01 15:39:32 | なんでもレポート
サスペンションセッティングの参考になる⋯はたまた迷わせるだけかもしれませんが、
サスペンションセッティング+タイヤの話をオートスポーツ誌に、
お茶飲み話的に載せていただきました。

必要なところを読み取っていただければと思います。

現在販売中の12月号。

ドライビング特集で読み応えがあります。

タイヤの話は横浜ゴムのスーパーフォミュラー用タイヤの元開発担当者。

空気圧とタイムの関係など興味深い話を教えていただきました。

サーキットアタックのタイムはタイヤ依存。
サスペンションの寄与度は?の話も出てきます。

サーキットに乗り込む時にはバネレートを高くする、減衰を高くする、
車高を下げられるだけ下げる。

これは四輪の自由度を拘束して車体と同化させる方向です。

サスペンションが動いてしまうとコントロール不能の状態に陥りやすいことが
わかっているからです。

この不安定な動きの元はといえば、
サスペンションストローク、減衰値、バネレートの固い柔らかいではなく"アーム角"です。

ロワーアームの角度のことで、地面との相対角のことです。

両サイドのタイヤを川の両岸に立てた柱とすると、
市販車をローダウンするとロワーアームはバンザイ(上反角)状態になり、
吊り橋の真ん中に車体を吊るしているのに似ています。

この状態で柱が内側に押されるとロープが緩んで車体がポチャっと川に落ちます。

これはタイヤに横力が入ると車体の上下動に影響を及ぼすということです。

次にアーム角が下反角状態の場合は突っ張り方向で支える"アーチ橋"と考えることができます。

横力を受けて柱が内側に押されると中央に置かれた車体は
川面から持ち上がる方向の力を受けて突っ張り合うことから
車体の沈み込みにくさ、傾きにくさが生じます。

つまりこの時のロワーアーム角をアンチロール角として考えるのはもちろん、
他にもいくつかの動きに影響をもたらすことから、
セッティングの最重要項目として扱います。

フォミュラカー、GTカーなどレーシングカーとして設計されているサスペンションは
例外なく下反角がついているかほぼ地面と並行に近いはずです。

格好が優先のローダウン車両は、強い上反角のせいで必ず"吊り橋川ポチャ仕様"になります。

それを知ってか知らずか水面に落ちないように必死で固めるんです。

市販車であっても、
ロワーアームに下反角のついたセッティングが走行安定性の元になることは、
世界中のクルマがそうなっていることからもうかがえます。

純粋なレーシングカーも市販車も、
安定性を得るためサスペンションセッティングの基本は同じということです。

最近のクルマで思うこと

2023-10-24 14:18:27 | なんでもレポート
エンジンの掛け方がわからない!

私だけかと思っていたら時々一緒に仕事をしているMFI誌の編集長もうんうん。

まずエンジンスタートボタンを指差ししながら探します。

すぐ見つかることもあれば、ハンドルの影に隠れて手が届きずらかったり。

でスターターボタンをポチッとやっても・・・音沙汰なしのクルマ、一呼吸おいてブルンのクルマ。

記号だらけのメーターパネルは間違い探し状態。

発進できる状態か否か・・・説明なしでは無理です。

続いてパーキングブレーキをリリースします⋯これもクルマごとに操作方法がまちまち。

シフトレバーのPポジションと連動しているクルマもあって、パーキングブレーキに関しては
ドライバーに操作を求めないクルマもあります。

だとしてもPランプがついたまま発進させる違和感は拭いきれません。

シフト操作をしてもレバーの位置からはどのギヤに入ったかの判断ができず、
メーターパネルで都度確認の必要があります。
前後にクルマを動かす度にです。

走り出すまでに全ての操作に煩わしさを感じます。

運転に自信のない人が「新しいクルマは安全だ」と思い込んで選んでしまうと⋯

毎日同じニュースを見ているかのような、お年寄りによるコンビニダイブに代表される事故で
MT車とかうんと古いクルマは見かけません。

お年寄り✖️新車比率が高いからというだけかもしれませんが、運転手にとって何が安全なのかの考え方が
あらぬところへきてしまっているのでは。

と、スタートボタンを探すたびに思います。