MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

お知らせ

来月からこのサイトをMITIS(水野通訳翻訳研究所)ブログに変更します。研究所の活動内容は、研究会開催、公開講演会等の開催、出版活動(年報やOccasional Papers等)を予定しています。研究所のウェブサイトは別になります。詳しくは徐々にお知らせしていきます。

『同時通訳の理論:認知的制約と訳出方略』(朝日出版社)。詳しくはこちらをごらん下さい。

『日本の翻訳論』(法政大学出版局)。詳しくはこちらをごらん下さい。

Facebookはこちらです。

日本通訳翻訳学会関東支部第56回例会案内

2020年06月05日 | 催し
日本通訳翻訳学会関東支部では、第56回例会を《「順送りの訳」研究プロジェクト公開研究会 理論化に向けた二つの軸》として、オンラインにて開催いたします。
詳細については下記をご参照ください。
皆さまふるってのご参加をお待ちいたします。 日本通訳翻訳学会関東支部長 北代美和子

「順送りの訳」研究プロジェクト公開研究会 理論化に向けた二つの軸
 
【日時】7月4日(土)14:00-17:00
【開催方法】Zoom https://zoom.us/j/99326782237
ミーティングID: 993 2678 2237
パスワード: 067527
 
【発表1】言語コミュニケーションは何で支えるのか (14:00-15:00)
【発表者】船山仲他(神戸市外国語大学名誉教授)
【発表要旨】   通翻訳のプロセスを構成する“言語表現”と呼ばれる“形式”は、そのプロセスの出発点を構成するものであると共に、その到達点を構成するものでもある。しかし、言語コミュニケーションの全貌を視野に入れると、“言語表現”を生み出した人間の頭の中にある情報/内容と、通翻訳の結果である“言語表現”を理解しようとする人間の頭の中に生まれる情報/内容の異同こそが重要である。そのことをどのように捉えればいいのであろうか。
 本発表で提案する「言語コミュニケーションの概念-意味相関モデル」は、“言語表現”を生み出す側とそれを理解しようとする側の人間が想起することの関わりを表そうとする新しいモデルである。その議論では、“概念”と“意味”の区別、“言語表現”の新しい位置づけ、“推論”の組み込みなどが重要な話題となる。
 
【発表2】「訳し上げ」から「順送りの訳」へ (15:10-16:10)
【発表者】水野的(水野翻訳通訳研究所(MITIS)所長)
【発表要旨】
  「訳し上げ」という訳出手法は、英語から日本語への翻訳につきまとう宿痾のようなものであり、すでに明治時代からその弊害が指摘されている。これまで、「訳し上げ」に対抗する翻訳方略として「順送りの訳」の提案が繰り返し行われてきたが、未だ「訳し上げ」に取って代わるまでには至っていない。その理由としては、理論的考察が不十分であったことが挙げられる。
 本発表は幕末から現代までの訳出史を踏まえたうえで、「順送りの訳」を理論的に裏づける試みである。具体的には、訳し上げが生じやすい関係詞節、分裂文、主節と従属節にまつわる問題を取り上げる。順送りの訳は、たんなる弥縫策でもなければ発見的手法にとどまるものでもない。それは原文の情報構造(information structure)と「発話の力」(illocutionary force)を維持することで、訳し上げの方法ではとらえられなかった原文の「意味」を再現することができるのである。理論的裏付けを得た順送りの訳は、翻訳(通訳)教育にとどまらず、TILTに適用することによって英語教育にも貢献することができる。

【討論】(16:20-17:00)
  
【お問い合わせ】石塚浩之(hishizuk@shudo-u.ac.jp)
【参加費】会員無料
*事前申し込みは不要です。上記のリンクから直接ログインしてください。尚、このセッションは今後の公開も視野に録画されます。ご了承の上、ご参加ください。
*セッションの出入りは自由ですので、ご興味のある部分のみのご参加でもかまいません。

2019日本通訳翻訳学会プレカンフェレンス

2019年09月05日 | 催し

9月6日(金)に立教大学池袋キャンパスで日本通訳翻訳学会プレカンフェレンスが行われますが、そこで「柳父翻訳学の可能性」と題して15分ぐらい話す予定です。「翻訳調」の問題を取り上げ、その解決策を探ります。プレカンフェレンスの内容や会場、時間などは以下をごらんください。大きな会場ですので事前申込みは不要とのことです。
https://jaits.jpn.org/home/nenjitaikai.html
なお配布資料は以下からダウンロードできます。
https://jaits.web.fc2.com/Handout.pdf

なお9月7日-8日には日本通訳翻訳学会第20回年次大会も開催されます。(こちらも立教大学池袋キャンパス。)
こちらの詳しい内容も上記プレカンフェレンスのサイトでご覧になれます。


日本通訳翻訳学会第20回年次大会

2019年08月07日 | 催し

日本通訳翻訳学会の年次大会は9月7日、8日に立教大学(池袋キャンパス)で開催されますが、前日(6日)のプレカンファレンス講義を含めてプログラムが発表されましたのでお知らせします。


次世代音声言語研究シンポジウムのお知らせ

2019年07月06日 | 催し

2019年 9月 2日(月)に奈良先端科学技術大学院大学において「次世代音声言語研究シンポジウム」が開催されます。
開催日:2019年 9月 2日(月)
会場:奈良先端科学技術大学院大学 ミレニアムホール
   http://www.naist.jp/accessmap/
参加申込フォーム:https://forms.gle/arKZm1Kw8LZRMTZC8
プログラム(仮)
以下のシンポジウムホームページをご覧ください
https://ahcweb01.naist.jp/s2s-symposium-2019/

音声翻訳研究に関連する各分野の第一人者を招聘して研究討論を行うことを目的としたシンポジウムです。
登録無料ですのでぜひご参加ください、とのことです。


通訳者の適性と作動記憶スキル

2019年06月06日 | 通訳研究

Interpreting (Vol.21 No.1, 2019)のRosiers他によるInvestigating the presumed cognitive advantage of aspiring interpretersという論文は、タイトルだけ見たときはまたこれかと思ったが、案に相違してまともな論文だった。簡単にまとめるとmasterとしての訓練を始めた段階の通訳の学生と高度な言語使用者(2グループ)の作動記憶容量と実行機能(executive function)の対照研究をしたら、三つのグループ間にはほとんど差がなかったというものだ。何が重要かというとこれまでの研究では通訳者とバイリンガルを比較して、通訳者の方が作動記憶容量と実行機能に優れているというだけで、その差が通訳訓練によるものかどうかについては何も言えなかったのだが、それにもかかわらず作動記憶のスキルに優れていることが通訳訓練の前提とされ、入学試験では作動記憶容量を計ることも行われているからである。ここからRosiersらは選抜試験の内容の見直しを提言している。
さらにもうひとつねじれがある。仮に通訳者の作動記憶スキルが優れているにしても、それが通訳に役立つかどうかはわからないのである。今でも(日本の通訳学校も含め)記憶力強化訓練のようなものが行われているが、それが作動記憶スキルを伸ばすかどうかはわかっていないし、通訳に役立つかもわからないのである。私自身は記憶訓練や(おそらくその一環であろう)reproductionのような訓練は苦痛でしかなかった。効果はたかが知れていると思う。作動記憶容量が増加するわけではないし、「頭はよくならない」のである。実際のところ、通訳者の優れた作動記憶スキルなるものも、チャンク化の効率化とか、タスクの自動化によるものである蓋然性は大きい。(Hervais-Adelmanら*に至っては、通訳訓練が脳(尾状核)の構造変化を引起すと言うが、それも自動化された学習や運動によるものと思われる。)人間に記憶の制約があるのは大前提なのだから、通訳訓練の本筋は、普通の記憶力しかない学生が記憶の過負荷にどのように対処するのか、その管理方法や方略、すなわち訳出方略を教えることだろう。それをせずに一般的な記憶力強化訓練をするのは本末顚倒ではなかろうか。(*Hervais-Adelman, A., Moser-Mercer, B. and Golestani, N. (2015). Brain functional plasticity associated with the emergence of expertise in extreme lnaguage control. Neuroimage, 114: 264-274.)


関東支部例会他

2019年06月05日 | 通訳・翻訳研究

6月中の学会関連の催しについてお知らせです。

(1) 日本通訳翻訳学会 関東支部第52回例会
【日時】 2019年6月8日(土)14:00~17:00
【場所】東京女子大学 本館0101
〒167-8585 東京都杉並区善福寺2-6-1
アクセス:http://www.twcu.ac.jp/univ/access/
キャンパスマップ:http://www.twcu.ac.jp/univ/about/campus/map/
(正門をはいってまっすぐ正面つきあたりの建物)
【タイトル】パネルディスカッション 「通訳教育の現状と課題」
【発表者】蜂屋美季子(サイマル・アカデミー)西畑香里(東京外国語大学)大竹純子(日本会議通訳者協会)鶴田知佳子(東京女子大学)
【参加費】会員:無料 非会員:1000円(学生500円)
【出席のご連絡・お問い合わせ】鶴田知佳子(ctsuruta@lab.twcu.ac.jp)まで。


(2)「通訳翻訳研究における会話・談話分析の可能性プロジェクト」ワークショップ
日時:2019年6月14日(金)13時-15時
会場:立教大学池袋キャンパスセントポールズ会館2階 芙蓉の間
〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1
https://koyu.rikkyo.ac.jp/service/stpauls/map/index.html
講師 Dr. Eva Ng, Assistant Professor of the Translation Programme in the School of Chinese, The University of Hong Kong
題目:Jury comprehension: English trials heard by Chinese jurors

(3) 関西英語教育学会(KELES)2019 年度(第24回)研究大会6月15日(土)16日(日)。
プログラムはこちら
16日には石塚さんが発表します。

(4)TILT研究プロジェクト第7回会合
日時:6月30日(日)13:00~16:00
会場:名古屋市立向陽高等学校
名古屋駅から地下鉄桜通線で「桜山」駅下車、徒歩10分程度です。
http://www.koyo-h.nagoya-c.ed.jp/1_access.html
参加費:不要(JAITS会員・非会員にかかわらず)
プログラムはこちら


JTF Journal 「日本の通訳翻訳史」

2019年06月03日 | 通訳研究

日本通訳翻訳学会のいくつかあるプロジェクトの中に「日本の通訳翻訳史」がある。メンバーではないが私も何度か会合に出たことがある。そのプロジェクトの成果の一部が『JTF Journal』(一般社団法人日本翻訳連盟機関紙)に掲載されている。中には現地取材の貴重な写真もある。普通の紙の冊子もあるが、Web版もあって、登録すれば無料で読める。


嘉村礒多『崖の下』はどこだったのか

2019年05月29日 | 文学

嘉村礒多に「崖の下」(1918年 昭和3年)という短編がある。食い詰めて夜逃げ同然に安い間借り家に引っ越すのであるが、「(…)家は三疊と六疊との二た間で、ところどころ床板が朽ち折れてゐるらしく、凹んだ疊の上を爪立つて歩かねばならぬ程の狐狸の棲家にも譬へたい荒屋(あばらや)で、蔦葛に蔽はれた高い石垣を正面に控へ、屋後は帶のやうな長屋の屋根がうねうねとつらなつてゐた。家とすれすれに突當りの南側は何十丈といふ絶壁のやうな崖が聳え、北側は僅かに隣家の羽目板と石垣との間を袖を卷いて歩ける程の通路が石段の上の共同門につゞいてゐた」というような崖の下の家なのである。住所は「森川町の橋下二一九號」と書かれている。これが一体どこなのか、長い間疑問で、本郷6丁目の交差点から降る言問通りを歩くたびに崖(の跡)を探したものである。(昔の詳細な地図があればいいのだろうが。)
文学散歩の類を見ても見つからないので検索して見ると、同じようなことをやっている人がいた。本郷通りの東大正門の先にある「こころ」というレトロな喫茶店の主人から貴重な証言を引出している。それは「慈愛病院のあたりの崖下に間借り家がいっぱいあったね」というものだ。また昭和16年頃の古地図で見ると、言問通りはまだ計画線であった。おそらく間借り家がひしめき、間に狭い路地があったのだろう。
言問通りは慈愛病院の手前の清水橋あたりを過ぎるとほぼ平坦になる、つまり谷底になるので、「崖の下」の家はその辺りと見当をつけた。
何カ所か崖の跡らしき場所が舗道からも見える。中央の階段は慈愛病院脇にある。最後の写真も階段になっているが、いずれも高さはせいぜい4-5メートルであり、「何十丈」はない。これについてはカラスヤサトシの「文庫で100年散歩」にも出て来る。結局、特定はできないがこの辺りでだいたい合っているのではないかと思うのだが。



木村榮一『翻訳を遊ぶ』

2019年04月12日 | 翻訳研究

木村榮一(2012)『翻訳を遊ぶ』(岩波書店)。これはなぜか見逃していた。2005年8月から2011年3月まで神戸市外国語大学の学長というから、船山さんの前の学長か。ラテンアメリカ文学をたくさん紹介・翻訳した人で、神戸市外国語大学イスパニア語科の第一期生だという。面白いのは学部卒業と同時に(つまり大学院を経ずに)助手に採用されていることだ。大学院がなかったのかもしれないし、人材不足だったのかもしれない。父親がなかなかの人で「思惑と越中ふんどしは向こうから外れる」と口癖のように言っていたという。木村さんは「お金はないけど、時間はたっぷりあるよ」という言葉につられて「大学に残った」(この言い方もなつかしい、たしかに当時そういう言い回しがあった)のだが、大学紛争で思惑が外れてしまう。深夜に及ぶ教授会に疲れはて、大学を辞めて自衛隊に入ろうかと思うのである。翻訳と関係ないところが面白い本である。


訂正一つ

2019年04月10日 | 翻訳研究

10年前のこの記事で、ガセを書いてしまったようなので訂正します。宍戸儀一訳(1937)『象徴主義の文学』の献辞にある石川善助の死因を「泥酔して電車から川に転落して死んだらしい」と書いたのですが、少し違っていて、この記事によると「踏切で電車にあおられて溝に落ち、溺死した」というのが真相らしい。この記事は当時の新聞も引用し、場所も推理している。
ちなみに死後友人たちが刊行した遺稿集『鴉射亭随筆』(鴉射亭友達会刊)があり、古書価が15万円以上する。私などには無縁の世界だが、復刻版が出ているし、近くの図書館に行けば国会図書館のデジタルライブラリで見ることができる。なお「鴉射亭」とは、愛読していたポーのアッシャー家である。