飛魚的日乗 (現代詩雑感)

詩のことを中心に書いていきます。

何処から来て何処へ行くの

2018-12-13 | 
 イマーレ・イポレット

いきなり腰骨から加速する
とりあえず脊椎を抽象する
加速する腰骨が思考する加速する腰骨の時間と加速されない腰骨の時間が
たえまなく傾斜する
傾斜する夥しい断面がキキキと音を放ちはじめる
あるいは音を放つことをかたちづくるキキキが
いきなり腰骨から走る逃走線に沿って襞となって連続する
その襞のなかをさらに引かれる逃走線が
走る
断絶する
消えかかる

イマーレ・イポレットはそれを甲高い鳥たちの声で話す
それを裏がえる魚たちの声で話す
だから彼女は何かを歌わなければならないと感じる

イマーレ・イポレットは夢のなかで出会う狼を歌う
いつも違う別の狼に出会う歌を歌う
その狼が夢のなかで出会う違う狼が歌う
狼は無数に現れては消える
まるで降り積もる雪と同じくらいに永遠だ
イマーレ・イポリットは信じている
昨日の夕暮れに近い風景のなかのずっと遠い場所でちいさな息を吐いた狼がいる
その息を感じた別のわたしがいるわたしは きっと
わたしでママでママはいつも狼に短絡する
お上に向かって撓む
婉曲する
降り積もる
沈黙する
昨日の夕暮れに近い風景に中で起こった時間はわたしの腰骨を幾重にも折りたたむ
永遠に裂け続ける時間と激しく脊椎が衝突する
だから音は声であり声でない
誰もこちらがわでは生きていない
だれもあちらがわから来ない
せわしなく行き交うのはいつも影でありわたしであり違う狼たちだけなのだ 
イマーレ・イポレットはそれを感じるとせつなくなる
勇気を出して狼の内部に降りるときっとそこには海が広がる
海には島があるはずよ たとえばのことだけれど
イマーレ・イポレットは歌う考える歌う少年の声で歌う
イマーレ・イポリットの島にいるイマーレ・イポリットを歌う考える裏返る声で歌う
イマーレ・イポレット
小さな島の青い色を考える歌う
彼女の下着のこんがら髪の天使の半分の透き通った翼のことを
歌う考える
向こう側から蘇える回転する少女を連れた男の前を猫の絵を持って通る歌を歌う
雨と夜を狼の声で逝ったり来たりする
狼のしぐさで指を曲げる背中の透明な羽を折りたたんでみせる
イマーレ・イポレットの中をざわざわと声があがる
音と音が世界を抱きすくめる
世界とは狼のことで狼の群れで孤独なママでわたしで悲しい
わたしのこんがら髪の天使たちで自転車で乗るでみんな
きぃきぃといきなり走る世界が腰骨から暮れる
夕暮れの遠い駅舎の風景のなかの板敷きの階段に激しく乗り上げている
激突する風景裏側にイマーレ・イポレットの横顔がずらっとならんでいる
彼女は綺麗ねって花がほめる
綺麗ねって
花がほめたあとふたたび腰骨から加速する
加速された腰骨と加速されない腰骨の時間はたえまなく夥しい傾斜をかたちづくる 

もういちどイマーレ・イポレットは感じる
今度激突するのは誰かしら
少年の声で囁くのがわたしでママで狼
いつも 起こることは起こらない
いつも 起こらないことが起こる
出来事は空を覆うように降り止まない
いつもしんしんと降り積もる
永遠に雪の中の腰骨まで
イマーレ・イポレットは加速し連続する加速し
断絶する
すべては夢のなかでなだれる おしよせられる 消える
カチカチと点滅するイマーレ・イポレットの見る夢で
彼女が告げる黒イチゴに何か告げているなにかが溶けはじめる
こめかみのなかで密かにイマーレ・イポレットの歌の声で
ヒヨドリの大群が旋回するこめかみでもう夕焼けが始まっている



(反歌)
小鳥たちが騒いでいる空の端のあたりで死とならんで奔られる直線が始まっている
始まっては消える白いかすかな線状の風の流れしかしそれが何処で終わるのか誰にも解らない
夏の午後の悔恨には運河が必要なのだとふっと思う目を閉じればいきなり目の前を水が流れはじめている
夢は幾何学模様にざわざわと降り積もる夢のなかの乱れ飛ぶかもめの白い残像を携えて
夢のなかの死んだはずの君に会いに行くため
夢の狭間の白く濁った水の流れの裏に静かに潜り込み再び眠りにつく