すでに1月も末ですが、ようやく本年初の更新となります。
講義は終了しましたが、研究の合間を縫って少しづつ更新してゆきたいと思います。
本年度もよろしくお願いします。
第十一回目の講義では、(株)情報通信総合研究所の志村様にご来場いただき、「内外のコンテンツ産業」と題して講演をしていただきました。
以下が講義の概要となります。
・コンテンツ産業のビジネスモデル
コンテンツからの収益を最大化するため、多様化するメディア(ウィンドウ)を取り込む
米国映画産業の場合、
1940-70年代:ハリウッド制作→劇場
1970年代:ハリウッド制作→劇場→フリーTV
1980年代以降:ハリウッド制作→劇場→ケーブル・衛星放送・DVD→フリーTV
市場規模としては、映画館収入を100とすると、ビデオが215、CATVが20、シンジケーションが100とされる
2000年代のインターネットメディアに対するウィンドウ戦略は技術革新の早さから流動的
WOWWOWとハリウッドの契約は「アウトプット・ディール」と呼ばれ、ヒット作品と無名作品のバンドルで販売、BSで劇場公開後1年後から1年間に12回放送できる権利として購入される。
米国のTV局がハリウッドスタジオに支払う制作雛年鑑5000億ドル言われている(2006年ではCBS11億ドル、ABC2億ドル、FOX12.2億ドル。)
・コンテンツを見る環境の変化
1・SlingMedia:ロケーションフリーTVのように自宅のコンテンツを遠隔地のPCで見ることができる
2・Jalipo:視聴者は各チャネルで放送される番組を番組単位、シーン単位で購入・視聴することが可能。編集はJalipoが行っていると言われる。
3・Babelgum:タッチパネルのようなUIによってコンテンツを視聴可能
4・Joost:P2Pによる配信、ツールによるチャット・双方向コミュニケーションに注力
これらのオンライン配信は画面が分割されている(注・日本のテレビ局は一つの画面に複数の情報源からの情報が表示されることを拒否する傾向があります。また、コピーワンスの議論の中で視聴者が番組を好きなように編集して保存する権利を認めず、放送されたそのままの形で保存・視聴すべきとのスタンスを示しているようです。)
・短尺と長尺
映像の利用がエンターテイメントのみならず、実用的なもの(How to、教育)にも拡大
NBCはネット向けのドラマ「quarterlife」(ネット配信された版は36話構成1話8分)を1時間番組に編成し治して2008年初頭にテレビで放送。これは脚本家組合ストの影響もある。
SonyピクチャーズはCracke(SonyがMy space内に設置した配信コーナー)でMinisode Networkが配信する短尺コンテンツを配信
短尺コンテンツをチャンスと捉えるクリエイターたちも多い(French Maid TV、Good Night Burbank、SIVOO、等)
・バーチャル・コミュニティの現状
Second Lifeのアクティブユーザ数は停滞(約1000万)、企業も撤退が相次ぐ
2Dグラフィックで作成されたシンプルな仮想世界であるHabbo Hotelはユーザ数を拡大中(現在8000万、収益は広告とアバター用の小物の販売)
・Nokia,Amazonのコンテンツ戦略
携帯電話端末シェア世界No.1(40%)のnokiaは垂直統合型のコンテンツ流通を戦略の中心に コンテンツ・サービスポータル「Ovi」(フィンランド語で「door」)ブランド
「Nokia Music Store」:nokia製携帯・PCからアクセス可能な音楽配信サービス。2007年秋より欧州主要マーケットで開始。一曲あたり1ユーロ、アルバム10ユーロ
「N-Gage」:nokia対応携帯端末から直接アクセス可能なダウンロードゲーム、購入料金は携帯電話料金とまとめて請求することが可能
Amazonは電子ブックリーダ「Kindle」を販売
「Kindle Store」経由でオンライン書籍の購入が可能、書籍のベストセラーは新作9.99ドル、旧作は1.99ドル、雑誌は1.25~2.49ドル/月
携帯電話の3Gネットワークを利用して端末へ直接ダウンロード
データ通信料はAmazonが支払うため、利用者はデータ通信料を支払う必要がない
・メディアの対応
NBCはコンテンツのオープン化戦略を推進
「NBC Direct」にて広告モデルの無料ダウンロードサービス(放送後1週間まで視聴可能、所有、レンタル、サブスクリプションなども検討)
「視聴者は、自分の好みの番組を、いつ、どこで、どのように楽しむのかをコントロールしたいと考えいている」(Vivi Zigler, NBC Digital Entertainment社エグゼクティブ・バイス・プレジデントの発言)
CBSは放送局を売却、SNSを買収し、メディアポートフォリオの再構築を実施
音楽SNSのLast・FM、動画ブログニュースwallSTRiPを買収、ウィジェット作成ツールを持つclearspringに出資、その他フラッシュツール会社やWebチャットツール会社などと提携、テレビ局・ラジオ局を売却
"Respect fot the audience"をカギに、番組表のスペースを削り、コミュニティ機能を充実、ブログ/SNSへの書き込みをサポートする機能も実装
「誰もわざわざCBSのサイトまでこない」と認識し、外部への流通を指向
News社:
グローバル市場で利用できるコンテンツの獲得:金融情報、サッカープレミアムリーグ等大衆スポーツコンテンツを獲得
視聴者コミュニティ・オンラインプロモーション:MySpace買収、Photobucket、Flektor買収、英国番組をMSN Media Centerで放送
ウィンドウ戦略の見直し:」DirecTVを売却、FOX Business Network設立、人気のあるエンタメ365サイトを買収、NBCUと共同配信サイト"Hulu"を開始
志村氏の所感1:番組の視聴/流通形態の多様化が進んでいる。放送局から視聴者へと番組の視聴携帯の主導権が移りつつある。
志村氏の所感2:映画コンテンツのビジネスモデルの行方。大勢にリーチした上での広告による無料提供と、限られた視聴者への有料での提供、2つのモデル間で試行錯誤を繰り返す放送局
・音楽業界のイノベーション
英国音楽バンドRadioheadは新曲のダウンロード料金を「リスナー次第」に。アナログ版月のボックスセットをレコードレーベルのサポート無しでPR。
プリンスは新曲を新聞「The Mail」のおまけに無料添付
米国の大物バンドNine Inch Nails, Maddonaも同様にレコード会社を通じない流通を指向
音楽配信ビジネスではiTunesの一人勝ち、DRMフリーの楽曲配信、新規参入が拡大
コンテンツ産業の中抜き論:デジタルコンテンツの流通が、既存バリューチェーンの変化をもたらす。レコード会社の衰退、アップルなどの新規参入企業が流通を担う。
プラットフォームビジネス:デジタルコンテンツのプラットフォームビジネスは、ある程度のフリーさが必要。オンラインプラットフォームの成長が見込まれ、NGN上に必要なコンテンツとなる。
コンテンツ権利保護の意識変化:コンテンツホルダー側は、楽曲をプロモーション目的に利用。本来のコア・コンピタンスを再定義。ライブ活動を収益源に。
・ローカル広告を狙うネット企業
検索ワードが細分化、優秀な広告配信サーバを獲得するために、MSN,Yahoo,Googleはネット広告代理店を買収。
ネット広告はマスビジネスからロングテールへ向かっている。地方新聞の広告を担うBelo、ラジオチェーンCLEARCHANNEL、125チャネルの広告枠を持つECHOSTA等へと広告枠が拡大。
・クチコミと広告の境界線
オンラインユーザへの接触メディアとしてSNSが重要視されている
SNSコミュニケーションをビジネス化する手法として、「クチコミ」と「広告」の境界が曖昧に
Facebook Ads
Social Ads:友人関係にバイラルに入り込む広告配信システム。Facebook内でブランドや製品についての行動が共有される
Facebook Pages:ブランドがプロファイリング・ページを作成
Insights:広告主が、提供した広告の得の閲覧状況などを確認できる
「広告」と「友人間のお奨め」の間の境界が曖昧になる、プライバシーなどの問題がある
SelfServe by MySpace:オンライン広告を利用したことのない中小企業をクライアント都市、カスタマイズ広告を配信可能な広告作成ツールを提供、ターゲットとしたいユーザの関心事項、地理情報、年齢、性別などを設定できる
・米国映像・音楽ビジネスの新たな潮流
オンライン文化の浸透: 誰もがコンテンツを制作、音楽をCDで買ったことがない世代が誕生、検索・オンデマンド文化に慣れ親しむ
視聴者動向の変化:「タイム」と「プレース」のシフト。ビデオ視聴による視聴率の低下、モバイル・ロケーションフリーなどデバイスの進化
課金プラットフォームの成立:iTunes, Google Ad Sence, Amazonなどロングテールコンテンツの収益モデルが成立
これらの潮流から新たなるコンテンツビジネスの可能性が生まれているが、対立関係も出てきている
ハリウッド既存勢力 vs 新興コンテンツ流通
プロモーションとして配信資料(CBS)、将来のウィンドウとして育成(BNC)、デバイスベンチャー企業の買収(EchoStarのSlingBox買収)
ハリウッド以外のコンテンツ・ウィンドウが成立するか?
レコード会社 vs アーティスト
楽曲を無料で配布(Prince、Radio Head)、レコード会社との契約を打ち切り、自主流通に踏み切る有名アーティストたち(Madonna)
2007年10月から、アメリカの4台ネットワークテレビ局の積極的な映像配信ビジネスへの参加が目立つ
オンライン映像配信ベンチャーはクリエイターの発掘、育成など自主コンテンツ制作へ関与する動き
・英国コンテンツ流通の現状
有料放送市場の成長・広告放送市場の停滞
制作プロダクションの収入の87%がテレビ局の制作費。海外・二次流通市場は市場全体の20%に留まる。
・日本のコンテンツ流通の現状
有料コンテンツの市場規模は小さい
BSデジタル・ケーブル普及率は約2000万世帯に対し、有料コンテンツメディアの加入者数は200-400万世帯で推移
放送キー局が2兆円市場に対し、映画史上は2000億円市場と10分の1
次世代有料コンテンツ流通モデル、IPTVの戦略委オプションは1)アグリゲータ、2)コンテンツ制作もするコングロマリット
メディアの優劣は、普及率の高さで決まる。ブロードバンド普及が進む中では、BS、ケーブルテレビインフラよりも有利
放送キー局の番組制作費は年間1,000億円、WOWOWの番組購入費は年間250億円、avexは3年間でコンテンツ投資80億円
制作能力のあるキー局、放送権購入のWOWOW双方とも、番組費用は売り上げのほぼ40%
以上が講義概要となります。
こうして米国のコンテンツ産業の取り組みを見てみると、日本の放送局のインターネットへの対応の遅さが目立ちます。
米国では放送局はすでに「視聴者はわざわざ自社サイトを見に来ない」「視聴者は、自分の好みの番組を、いつ、どこで、どのように楽しむのかをコントロールしたいと考えいている」などという認識が広まりつつあるのに対し、未だに日本の放送局は「放送はリアルタイムで見るもの」「視聴者に番組を見せる権利は与えているが、それを編集する権利は与えていない」「我々の放送とWebの情報が同一の画面に表示されるのは問題外」等という認識を変えていないように見えます。
こうしたインターネット利用への遅れは、米国市場ではすでにCATVが広く普及しているために、伝送路を保有していることが競争力の源泉となっていないことに対して、日本の放送局の競争力の源泉が主として希少な伝送路を保有しているからにあるのだと思われます。
NTTの光ファイバや放送局はドメスティックな競争力にしかなり得ないインフラの部分の競争力に強く依存しており、国際的な展開をする際に必要となるコンテンツ制作能力、編集能力等による競争力を高めてゆかなければ、海外へのコンテンツ発信能力は高まることはないでしょう。つい先日、総務省が放送局の下請けいじめについての実態調査に乗り出すことが公表されました。通信サービスの規制に関しては支配的事業者であるNTTグループに対して非常に厳しい対応を取ってきた総務省ですが、放送局に対しても毅然とした対応を取ることができるでしょうか。
20世紀は良くも悪くも映像の世紀であり、映像コンテンツがコンテンツ産業の中心であり、政治力とも密接なつながりを持っていました。しかし、かつてコンテンツの流通経路が口伝から書籍、放送へと変化してきた流れを鑑みるに、おそらく21世紀の中心となるコンテンツは、映像をただ時間に沿って変化させるだけの形態ではなく、よりソフトウェア的なものになって行くような気がします。おそらく、映像はコンテンツを構成する一要素でしか無くなり、その他のソフトウェアと組み合わせて価値を生む様になってくるのではないでしょうか。(私はテレビも映画も殆ど見ないのですが、ゲームはやるのでそう思っているだけかもしれませんが)
最近話題の映像技術に、「拡張現実実感技術」と呼ばれるものがあります。
具体的にどのようなものについてかは、
こちらのブログと、引用されている
YouTubeの動画を見るとよくわかります。(gooブログってYouTubeの動画埋め込めないんですね・・・)
この技術のエンターテインメントとしての応用方法としては、現在幾つかの実証実験にて、観光地に設置されたRFIDを端末が検知して、その場の歴史や解説の動画を再生するような実験が行われていますが、こうした拡張現実技術と組み合わせることで非常に効果的な演出を行うことができるのではないでしょうか。かつてのその地の姿をオーバラップし、現在までの変遷を見せる、かつてそこで暮らしていた人の生活を3Dオブジェクトを埋め込むなどが考えられます。他にもスポーツを競技場で観戦する際に視界にテロップを重ねる、選手についての情報検索結果を表示するなど様々な利用が可能でしょう。自動車の各種情報表示とフロントガラスの融合も行われるでしょう。
また、拡張現実技術は、既存の映像メディアよりも強烈な政治的なインパクトを持つかもしれません。好き好んでみる人がどの程度いるかはわかりませんが、原爆ドームが破壊される様やその周辺の様子をこの技術を使って再現する事で、キノコ雲の映像や被災地の様子の映像よりも強い政治的なインパクトを与えることができるでしょう。アメリカなら911の貿易センタービルの再現映像等を作成するでしょう。未だ実現していない技術とはいえ、10年もすれば専用デバイスで、20年もすればメガネなどのウェアラブルコンピュータで利用が可能になります。せっかく情報通信法を作るのであれば、こうした真のイノベーションを妨げないような制度設計であってほしいものです。