東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

ずっと中断中です。過去記事、一部非公開にしました

2022-01-05 15:19:14 | 訪問者のみなさまへ

検索結果から当ブログに訪問さんた方には、たいへん申し訳ありません。

かなりの記事を非公開にしました。本の感想・コメント以外の記事はほとんど未公開にしました。


ダンドゥットの謎にせまる その7 Koplo

2014-11-30 16:59:50 | 音楽 / ミュージック

ずっと前の記事で、リンク先が消えたり、内容が古くなっています。

ダンドゥットの記事なら以下のブログへどうぞ(怪しいサイトではございません)

 https://hap-pya-ku-bikini.hatenablog.com/

 

 いよいよ dangdut koplo というものを考察する。Koplo というのは、祝い事やショーのライブを示すことばらしい。Dangdut Koplo といえば、ライブのダンドゥットという意味になるわけだが、特有のバンド・スタイルでもある。では、いつものように、クッキーやキャッシュを消してよyoutubeを見ていこう。

 次のビデオをみてください。五分もあるが、がまんして見てくれ。コプロでは短いほうだ。わたしの個人的好みは排除して冷静に論をすすめていくけれど、実はこの映像、大好きである。何度見ても飽きない。

PANTURA ngamen lagi 

bersih desa tegalwero つまり村のお祭か祝い事の際の録画である。2012月11月。前後のビデオには運動会や会場設営の映像もはいっている。だから、このステージは入場料をとってみせるショーではなく、村の人誰でも見られるステージだろう。だから、小中学生のこどもも見ている。小さいな村らしいのに、こんなきれいな歌手を五人も呼べるとはすごい。出演料はかなり安いのだろうか? 歌手はバンド(オルケス・ムラユー O.S.)の専属ではない。事実上専属のような場合もあるようだが、バンドのほうが名前が大きく宣伝される。

 これは村の主催だが、野外ライブ・ショーではイヴェント主催者がいて、警備や会場設営を受け持つらしい。PAシステムはさらに別の会社、ビデオ撮影も別の会社である。ちなみに、この映像が例外的に画質がよい。音はライン録音なので、会場でどれくらいでかい音がするのかビデオからは判らない。

 ここでは、ステージ上にバンドと歌手と男性のMCだけ上がっているが、正体不明の人物がステージにいることが多い。主催者の関係者、その筋の人間、警察や軍隊の警備係もいる。こどもがいることが多いが歌手の子で、職場保育みたいなもんだろうか?

 ステージ上の三人の歌手兼ダンサーは、ユーチューブ上では、かなりアップロードが多い人気者であるが、全国的なテレビには出ていないようだ。キャバレーのおねえちゃんみたいだが、koplo の歌手のなかでは、スタイルがいいし、身長が高い。コスチュームも、日本人の感覚からみて許容内ではないだろうか。赤いドレスのnormaさんが裸足(最初ブーツをはいていたのだが)、青いドレスのlilin ちゃんと 黄色の Rezaちゃんはショートブーツ。

 三人ともレパートリーが広く、最近のヒット曲、lagu pop つまりポップ・ソングのヒット曲やスタンダード・ナンバーから、ロックやレゲエといわれるグループの曲でも、なんでも歌う。みんな歌がヘタだと思った方もおられようが、わたしはその意見に与しない。三人とも、あんまり情感をこめたり気張った歌い方をする歌手ではない。こういった歌い方は、必要とされて選ばれたのではないだろうか。ねっとりとしたヴィブラートを効かせたり小節をふるわせる歌い方ではないのだ。

 ダンスといえるかどうか、ステップや仕草も、垢抜けないと思うかもしれない。ボリウッド・ムービーのようなプロの芸ではない。でも、これが誰でも踊れるステップなのだ。それに、ジャワの伝統芸能のような下半身がどっしりしたリズム感ではありませんか。観衆は、ンチャンチャンチャンチャ…という速いリズムに合わせて踊ってもいいし、その半分のゆったりしたリズムに合わせて上半身を揺らしてもいい。別の映像見てみよう。

CITRA MARCELINA - JANDA 7 KALI  (with Monata Matahari Pekalongan)

 画質は夜の撮影としては、良好。観客の反応がおもしろい。気が短い方も2.20, 4.00, 5.00, 5.50 あたり見て欲しい。ちなみにこの歌オリジナルNaya Revina - Janda Tujuh Kali 。

 もうたくさんだという方も我慢して次のも見てくれ。4.20から観客の反応とダンスがみられる。

Cik Hwa (with OM Bahtera) - Iming Iming 無名の歌手、OMも無名だと思う。「バッテラ寿司バンド」ではなく、「方舟バンド」。オリジナルはRita Sugiartoの熱唱。結婚祝いのステージで、一連の出し物がみられます。

 歌がトホホです。でも、いい体してますね、わたしの好みだ。吾妻ひでおが描く女の子みたいな脚ではないですか。見ているお母さんたちの会話が聞こえるようだ。

「元気がいい娘じゃのう。あんたとこの嫁にどうじゃ?」

「あんな、歌ばかり歌っている娘はダメじゃ」

「いい腰してるわ。元気な孫産めそうじゃないかい」

 以上のようなビデオを紹介したのは、もう読者の方が気がついているように、Koplo(コプロ)というのは、別にストリップショーのようなものではないということだ。それに、若い男だけが熱狂して踊っているわけではない。北朝鮮のマスゲームかサッカーの応援じゃあるまいし、全員が一丸となって熱狂なんかしていない。じっと見ている人もいるし、雑談している人もいるし、踊りたい人は踊っているし、ご祝儀を出したい人はステージの下に集まる。わたしはこれらのビデオを見て安心した。

 安心したけれど、では、このようなコプロのバンド・歌手・芸人が迎えられるのはどうしてだろう? いろいろ屁理屈はつけられる。農村漁村の互酬経済であるとか、昔からの旅芸人の名残であるとか。「その1」で紹介したPro Media Production などビデオ製作会社からのアップロードでは、ダンドゥットばかりでなく各種の芸能の催しが見られる。結局、こういうのが受け入れられる土壌があるということだが、深い理由はわからない。単に熱いから家の中でテレビなんか見ていられない、というのが正解だったりして。

 バンドの編成、サウンドを見てみよう。

MONATA LIVE APSELA 2014 - SODIQ BONGKAR

 人気バンド。リーダーがヴォーカルも取る(ギターを持っていることも多い、あんまりほんとうに弾かないけれど)。見た目はロックバンドと変わらない。

Dian Marshanda(with OM Sonata) - Inting Inting Es 一連のplaylistで、代表的なコプロバンドと、歌のうまい歌手が見られる。(画質も音質もかなり良い)
Lilin Herlina(with OM Pallapa) - Tresno Sudro
Via Vallan (with OM Sera) - Nang Neng Nong Neng などなど。あとはお好みで、youtubeのサジェスチョンを見てくれ。

 まず気づくことは、ドラムスが置かれているが、実際には叩かれていないことが多い。パーカッションは、向かって右端のタンバリン&シンバル、クンダン(もしくはタブラ、もしくはボンゴ)、それにドラマーがスティックを持たずにタブラなどを叩く。パーカッションが三人から四人いるわけだ。リズム・ギター、リード・ギター、ベースが必ずいる。キーボードは二台(二人)。それにスリン。以上である。

 サックス・プレイヤーがいるOMも多いようだが、ほとんどまともに吹いていない。つまり、管楽器はスリンだけになっている。スリンとリード・ギターはおもに前奏・間奏に活躍し、歌の間休んでいるようなもの。装飾音やハーモニーをつけるのはほとんど全部シンセになっている。それぞれのバンドにより、ギタリスト、キーボード・プレイヤーの個性があるが、前奏部分はオリジナルの前奏をほとんど忠実に再現しようとしている。なぜ、こんなに几帳面なのか不思議だ。

 結果として、ダンスバンドになっている。歌手よりもOMのほうが客を呼ぶのだろうか? 観客にとっても、知っている曲をバンドがやってくれればよく、歌手はオマケという感じだろうか。(もちろん、上のリンクのような、いい歌手もいっぱいいるが)

 歌手兼ダンサーのコスチュームは、これはコスプレだ。女性が女性の衣服を着るのを女装とは言わないが、女装コスプレの感覚に近い。派手派手の衣装はインド映画の影響らしいが、最近はUSAのR&BやJ-POPのアイドルのようなコスチュームも多い。願わくは、はやく黒いスパッツをやめて食い込みの深いぱんつにして欲しい。

**********

 最初の曲は元の歌詞を変えて歌っているが、元の歌詞は以下のものらしい。覚えていっしょに歌えれば、楽しくコプロが見られる。ちゃんとした意味のわかる方、教えてください。

Ngamen Lagi 歌詞のテロップが出るのでいっしょに歌って覚えよう!

Mak anakmu ngamen mak
(皆の衆、聞いてくれ、うちの子は)
ngamen neng kos kosan
(小遣いばかりせがんで)
sopo ngerti nasib mujur
kenal perawan lagi kabur
bar sedolah metu bengi kerjo lembur

Mak perawan saiki mak
(まったく近頃の娘は…)
akeh seng imitasi
bocah jek bayi ndek wingi
kenalane papi papi
pamit sekolah jebule kencan lagi
(学校さぼってまたデート)

Kencan lagi kencan lagi
Kencan kencan kencan kencan lagi
Kencan lagi kencan lagi
sambil kencan minum pil extasi
(デートばっかり、ドラッグのエクスタシ錠飲んで)

Ngepil lagi ngepil lagi
ngepil ngepil ngepil ngepil lagi
(ラリって、ラリって)
ngepil lagi ngepil lagi
Asyik ngepil di tangkap polisi

(ブタ箱にはいってもラリってヘロヘロ)

Ngona-ngono salahe sopo
Paling-paling nyalahne wong tumo
Nduwe anak perawan ora di jogo
(子供なんてものは、金ばっかり食うもんだ)
(=だから、お恵みください。?)

ngamenという単語、グーグルの翻訳でもよくわからないが、おそらく、amen(物乞いのことば、お恵みを)に接頭辞 ng- がついた、門付芸人・歌手などを指す単語ではないかと想像するが、どうでしょうか? 詳しい方ご教授を。

 最後におまけで、大道芸の痕跡を残す芸を。歌はバックの歌手が担当し、ダンサーは踊るだけ。5分30秒あたりから、ダンサーがマイクを持ち、客席に降りる。これは、割礼のお祝いのステージなので、見ているのは女性も多い。

live Singa Dangdut PUTRA SKAR KUMBANG ( Penari Ular ) 

 Koploには男性歌手も多いのは、ビデオを見ていればわかるが、プレイヤーはほぼ全部男性だ。女性のプレイヤーはいないのだろうか?

 その疑問を解くため、次にqasidah (イスラム宗教歌)へ行こう!


ダンドゥットの謎にせまる その7 ジャワ(campursari, pop Jawa)

2014-11-27 14:44:45 | 音楽 / ミュージック

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やっぱり、ジャワについても一項もうけて簡単に書く。〈その6 スンダ〉でも断ったように、ジャワとスンダの区別がつかない部分があるが、かまわず進める。

campursari jawa playlist 全71曲 5曲めから、各自好きなように聞いてください。

 優雅なガムランをバックにしたもの、〈その5 チープ系〉に通じる速いビート、

 このplaylist のような曲を聞くと、ほかのジャンル、つまりダンドゥットやポップ・スンダとは明らかに異なる感じがするのがわかる。しかし、campursari と称してアップロードされているものには、どうみても普通のダンドゥットとかポップ・インドネシアのようなものがけっこうある。

 Yan Vellia & Didi Kempot - Pokoke Melu ひじょうに人気がある男性歌手Didi Kempot 。この曲などジャワらしい感じがするが、次のようなものは、わたしが苦手なPop Indonesiaの代表例。

Didi Kempot - Sewu Kuto 

 

Cak Dikin & Dini Aditama - Sido Rondho 29曲のplaylist から。すでに削除されたビデオ多い。この例のように、やたら男女のデュエットが多い。これは別にジャワ物に限ったことではないのだが、コミック系でも悲哀系でも男女の掛け合いが多い。これについて、いろいろ屁理屈はつけられるだろう。古来からのパントゥンの伝統であるとか、マレー版のバラエティー・ショーであるスタンブルの影響であるとか、コメディ映画の影響であるとか。でも、結局はわからない。

Dini Aditama - Prawan Saiki 

 

Waljinah - Walang Kekek  (Kroncong Dang Dut)


ダンドゥットの謎にせまる その6 スンダ (Pop Sunda)

2014-11-25 19:05:31 | 音楽 / ミュージック

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 まず、長い前知識から。そんなもの知ってるという方は、すぐに下のyoutubeへのリンクからどうぞ。

 インドネシアで一番人口密度が高いジャワ島。全人口の六割、日本全体の人口とほぼ同じである。その中で、行政上は西からバンテン/西ジャワ/中ジャワ/ジョクジャカルタ特別区/東ジャワそしてジャカルタ首都特別区に分けられる。このうち、母語がジャワ語の人が多く暮らしジャワ文化圏と言われるのは中ジャワ/ジョクジャカルタ特別区/東ジャワである。こまかいこと言うと、マドゥラ島も行政上東ジャワ州に含まれる。

 一方で、西ジャワ州はスンダ語を母語にする人が多く暮らし、スンダ文化圏と言われる。ここは、住んでいる人びとも外の人もジャワとは違った独特の文化を持っているとみなしている。ステレオタイプ的な見方では、ジャワではスンダを垢抜けない田舎者とみなし、スンダではジャワを堅苦しい窮屈な連中とみなしているそうだ。もちろん、こんなステレオタイプな区分はどこの国にも地方にもある。

 さて、ポップ・ミュージックを考える場合、このジャワ対スンダの区別は、彼らスンダ人ジャワ人には歴然としているらしい。しかし、わたしには、ほんとうに重大な違いがあるのかどうか、よく判らない。スンダ的なものとジャワ的なものをごっちゃにしているかもしれない。それに、ほんとに、彼らが感じているほど違いがあるのかという、根本的な疑問もある。(母語が違うことは確実だが、どの程度違うのかも判らん)

 それで、ダンドゥット(dangdut)の話になるが、言葉の違いが判らない我々(このブログへの訪問者の皆様も〈我々〉に含めてすみません。でも、スンダ語とジャワ語両方できる人って研究者の中にもめったにいないのだ)に同じように聞こえるポップ・スンダPop Sundaが他のダンドゥットとは断固として区別されているらしいのだ。ダンドゥットというジャンルの外側にポップ・スンダがあるのだ。そして、ポップ・スンダや伝統的スンダ音楽がダンドゥットに影響を与えた場合、外側からの影響と捉えられる。

 実にややこしいことに、ダンドゥットの歌手は、このスンダ地方出身の人が多いようで、ダンドゥット全体の中心とも言えるはずなのに、外側に位置するポップ・ミュージックと捉えられる。

 それから、日本だけの事情だが、1980年代にダンドゥットが紹介された頃(椎名謙介氏のことについては、以前わたしがこのブログで書いた)、ポップ・スンダもほぼ同時に紹介された。エルフィ・スカエシの天翔けるようなヴォーカルに魅せられた人も多いだろうが、同時に、素っ頓狂なスンダ・ポップの魅力にひかれた方も多いはずだ。ダンドゥットもポップ・スンダも同じように楽しんだ方も多いだろう。

 それではPop Sundaとはどんなものか見ていこう。いつものように、ブラウザのクッキーを消して、youtubeのアカウントにはログ・インしないで、素のまま見ていくと、自動生成のサジェスチョンが出てくる。まず、ヘンなものから。

Doel Sumbang - aku tikus dan kucing 1982? 男性歌手、シンガー・ソングライター

 おお! ボブ・ディランですねえ。いや、泉谷しげるか。歌詞は「オレが生まれたのは……」という長い長い、社会批評を込めた皮肉な内容であるようだが、グーグルの翻訳でも不明な単語がいっぱいあって、こまかいところはよく判らない。この歌手もこのタイプの曲はこのデビュー曲だけで、あとはなんでもありのシンガー・ソングライターになる。1990年代にはdisco 風の曲もある。例として

Doel Sumbang Full Album Best of The Best 1990 CD 2 広告はいります。こんなアップロードはすぐに消されそう。レゲエ調の曲、女性シンガーとのデュエット多い。Pop Sundaに含まれる。なぜ、こんな歌手を紹介したかというと、この歌い方だ。スンダにしろジャワにしろ、この手の発声、歌い方の男性歌手がいっぱいいるのである。

 次も有名な人らしい。

Darso - Mawar Bodas 2006 すでに故人である。最近、つまり晩年の曲。

Darso - Kabogoh Jauh これはもっと普通の(?)ダンドゥットらしい曲

 Kang Darso もしくはHendarso としてインドネシア版ウィキにも載っているのだが、録音歴などまったくわからない。youtube上にはたくさんビデオが上がっている。頭のネジが弾けるようなトホホなビデオが多いが、このメロディー、このリズム感、この歌い方、これこそダンドゥットの骨格だ!

 しかし、やっぱり女性ヴォーカル! あんまり顔やスタイルを気にせず

Bungsu Bandung - Bohong Ah 8曲のプレイリストのうち5曲め なお、7.00 あたりでお終いです。音質よい。 この曲の一つ前の"TALAK TILU"という曲、ライブ・ショーでもよく演じられている。Mela Barbie - Talak Tiluなど、いっぱいあるが、画質がひどいので、好きな方はかってにサーチしてくだされ。

 Nining Meida - Es Lilin 1960年代からある曲と同名異曲かと思ったら、同じ曲だ(わたしの耳が悪い?)。必ずしも、昔から超スローテンポで歌われていたわけではない。たいへんな有名曲で多くの録音あり、ジャワ風のものもあり。マレーシアのSiti Nurhaliza - Es Lilin などおすすめ。

 やっぱりこの人に登場してもらいましょう。

Detty Kurnia - Tilil Komninasi (Super Sunda'84) 日本からオヤジレコード様。いつもお世話になります。カセットからのいい音。

Detty Kurnia - Banondari 1995 上のアルバムがゴッタ煮傑作であるのに対し、こっちはスンダ風を強調した感じ。必ずしも、昔のものが〈伝統的〉ではない。

 発声法、メロディー、通奏低音ではなく通奏高音とでも呼べるようなガムラン、バックの掛声、気持ちいい!  それでは、この感じ・このフィーリングはどれくらい遡れるのか?

MANSYUR S & NANIN SUDIAR - Rangda Jeung Duda 1974 数千の音源をアップロードしている方、同じカセットから(別のデュエット含め)、4曲聴けます。

 ありゃりゃ、「その3 インド化」で紹介したMansyur S ではないか。この人もこんな曲をやっているのだ。トボけたヴォーカルで、おまけにラテン味も混ざっている。時代をさかのぼっていくと、こんなものが見つかってしまう。ダンドゥットの名称がようやく固定した時期である。つまり、ダンドゥットの人脈もポップ・スンダ(このカセットにはsunda murayuと書いてある)の人脈もずっと以前から混じっていて分離できないのだ。

 以上でダンドゥット(dangdut)の主要な成分である、インド・ラテン・ヘビメタ・テクノ・スンダ、そして手薄であったがジャワ風については一応述べた。あと残っているのはレゲエ風リズム、アラブ、そしてポルトガルの影響であるが、その前にKoplo (ライブ・バンド&歌手兼ダンサー)、そして、Qasidah(イスラムの宗教音楽)について書く。おもしろいぞ!乞、ご期待!


ダンドゥットの謎にせまる その5 チープ系

2014-11-25 18:04:35 | 音楽 / ミュージック

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 今回は、シンセ打込みの安っぽいバックサウンドについて。チープ系というのはわたしが勝手に命名したもので一般的な呼び方ではありません。

sanimusicindonesia

 最初このsani music indonesia からのビデオを見たとき、てっきり、個人が無断でアップロードしていると思った。ハンドルネームがパチもん臭いし、やたらとストリーム広告がはいる。(youtubeのストリーム広告の仕組は、いまだによくわからないが、なにか設定があるのだろうか?)

 しかし、ちゃんと住所も電話番号も載せている。やはり、これらの音源(つまり、ビデオ撮影ばかりでなく、)CDを作った会社なのだ。プロモ・ビデオのほか、自社の歌手が出演したテレビからの録画もアップロードしている。閲覧数をみると、かなりの数で100万を超えているものさえある。少なくともテレビに出演するほどはヒットしている。しかし、自社製品なら発売年など基本的データを書いてくれないもんだろうか?

Lynda Moymoy - Bang Jali

HESTY DAMARA - BASAH BASAH 

 リズム・セクションは打込み、その他もチープなシンセだけのバック、というよりカラオケ。どこかで聞いたことがあるような短いメロディー。軽い歌い方。この種のものが、ある程度の支持を得てずっと続いているようだ。悩ましいのは、けっこう面白いものがあることだ。馬鹿にできない。しかし、やはりチープすぎて、トホホなものもある。(ヒットもする)

Ria Amelia - SMS 2006

 最初、これカラオケだと思った。1.35過ぎまでヴォーカルが出てこない。ベートーベンが墓の下で悶えるようなメロディーです。ポンチャック(googleビデオ検索結果)か! いや、ほんとにポンチャックからパクった可能性もある。

 インドネシアの歌で、このチープ系に似ていると言っては失礼かもしれないが、campursari というジャンルがある。ガムランをバックにした、ダンドゥットのリズムとは違う感触のものである。このような音への好みが上記のチープ系にも反映している可能性がある。

Sangga Buana plus Cak Diqin - Rindu Kekasih (campursari jawa と呼ばれるジャンルのplaylist 全71曲もあるので、てきとうに聞いてください。)

 あと、チープ系の元祖かどうか解明できないのが、1990年代のdisco dangdut というのがある。インターネットで調べにくい代物である。なぜならdisco dangdut でサーチしても、最近のもの、remix物やhouse物が引っかかってなかなか出てこない。それで、わたしに判る範囲で書くと、1990年代、打込みとインド/パキスタン風リズムを折衷したものが現れたらしい。

Linda Carella & Corry Cornel (Cipt. Jeffry Bulle) - Bunga Bunga

Corry Cornel & Jeffry Bule- KUPU-KUPU 1990s?

 これなど、おもしろい。しかし、

Rita Sugiarto - Kupu Kupu ? 上とは同名異曲。スローな熱唱タイプ。ストリング(or シンセ)、チェンバロ(風シンセ?)、サックスもはいったゴージャスな編曲である。

Rita Sugiarto - Kupu Kupu  しかし、それをディスコ風にアレンジしてしまうのである。本人が。この現象はちょっと理解できない。ディスコ・打込み調にするなら、それにふさわしい曲を選べばいいと思うのだが。

 実はわたしは、チープな打込み&シンセのアレンジがいつごろ現れたのかもわからないが、オーケストラをバックにしたゴージャス系のアレンジもいつ頃からかわからない。てきとうな想像をめぐらすと、これら二種類のアレンジはほぼ同時に現れたのではなかろうか。

 以上、雑な内容でした。次回、スンダ(Sunda, Pop Sunda, Lagu Sunda) について書くために、上の disco dangdut, champursari, champursari Jawa などがあるということを一応断っておきたかったのです。つまり、Pop Sunda といっても、上のようなものと区別できないものがあるという言い訳であります。

 champursariについては、独立した項目で論じたいところだが、次から次と判らない混乱するものが出てきてまとめられない。先を急ぐので失礼。


ダンドゥットの謎にせまる その4 ラテン味

2014-11-15 16:46:31 | 音楽 / ミュージック

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 今回のテーマは「ラテンの影響」です。ただし、この場合ポルトガル系の影響、クロンチョン・ビートとの関係ではない。キューバ、プエリトリコ、北米のラテン、それにメキシコ系の歌の影響についてです。そういうこまかい区別が苦手な方にも判るように、がんばって書いていきましょう。

 田子内進,『インドネシアのポピュラー音楽 ダンドゥットの歴史』,福村出版,2012 の第4章に次のような記述がある。(p115-)

 スカルノ大統領は西洋音楽文化を排斥し、民族文化振興をすすめた。この時、つまり1960年代前半に排斥の対象になったのはロックン・ロールやビートルズなどであった。

 1964年10月からジャカルタで警察当局による一斉検挙・没収オペレーションが開始された。ビートルズやローリング・ストーンズなどのレコードがジャカルタのレコード店から没収され、同様のオペレーションがスラバヤやバンドンなどの地方都市にも拡大していった。(p119)

 ふーむ、と読みすごした読者もいるだろうが、わたしは、こんなことが実際にできたのかと思いましたね。だって、この時期、インドネシアでその種のレコードは製造されておらず、没収するとすれば輸入盤である。オペレーションに従事した警察官は、区別できたのだ。インドネシア語はローマ字を使っているから、名前ぐらい読めたでしょうが。

 そして、この当時、ビートルズとローリング・ストーンズを、そのサウンドで区別するというのは、たとえば、ジーン・クルーパは良いが、ケニー・クラークとフィリー・ジョー・ジョーンズはダメだ! というようなもんでしょ。つまり、名前やヘア・スタイルだけで判断しただけである。それでは、スカルノや文化相が推奨した音楽はどんなものだったのか。

 これらの地方音楽の振興政策の中で模範とされたのが、西スマトラのミナンカバウ音楽である。ミナンカバウ音楽は、1959年にグマラン(Orkes Gumarang)の女性歌手ヌルセハ(Nurseha)が歌った「私の鶏が逃げた(Ayam Den Lapeh)」の大流行で全国に広がった。この曲はミナンカバウ音楽にラテン音楽の要素を大幅に取り入れ、厳密には伝統的なミナンカバウ音楽と呼べる曲ではなかったが、ミナンカバウ語という地方語で歌う曲を全国的に大流行させたグマラン楽団の成功は将来のインドネシア音楽の在り方を示すひとつの基準を政府に提供した。そして、グマランの演奏するミナンカバウ音楽は、1960年にはムラユ音楽を凌ぐ程になっていた。(p121)

 本書が発売されてから2年、youtube にも過去の音源が増えてきた。ではyoutube で、その Ayam Den Lapeh を聴いてみよう。いつものように、ブラウザのキャッシュやクッキーを消して、youtubeのアカウントを持っている方もログ・インしないで、白紙のまま聞いて欲しい。youtube内の最大公約数的好みの曲・歌手がサジェストされる。

 まず、ヌルセハのもの。

NURSEHA - ayam den lapeh

 これが本当に最初の録音であるのか、100%の確信はない。カセット再発からの音であるようだ。サウンドは聞いての通り、ほぼラテンである。ボンゴとコンガを使っているようだ。男性コーラスのバック、ピアノなどラウンジ風ラテン。

 画像に写っている男性は作曲者Oslan Huseinである。このチャック・ベリーそっくりの人、かなりの大物なのである。

 インドネシア版wikiによれば、西スマトラ州パダン出身で1931生まれ。マンボ、ハワイアン、ロックンロールのインドネシア版からムラユー・ポップなど何でもやっていた人で、かなりいい味をだしている。ビートルズやローリング・ストーンズより、よっぽど危険な味だ。チャック・ベリーがロックン・ロールばかりでなく、ラテンやブルースの影響もあったのと同じく、このフセインも何でもやった人なのだ。スカルノが推奨した「地方文化」というのは、このような中南米、アメリカ合衆国の影響をモロに受けた人の手で代表作が作られたわけである。ベネディクト・アンダーソン著『想像の共同体』とばっちり重なる現象ですね。(わたしのブログを読んでいる方には説明不要でしょうが、この人はインドネシアの研究者であった。インドネシアの9.30事件が軍部の陰謀であったという論文を発表したため、インドネシア入国禁止になり、研究領域をタイやフィリピンに変えた)

Oslan Husein ~ Es Mambo 1965  その0で紹介済みのSweet Memories というコレクターの方からのアップロード。10枚ほどのビニール盤が聴けます。なんでもありのゴタマゼ状態で、ダンドゥットの精神が、こうしたポップ、ラテン系のミュージシャンにも脈うっていたのが判る。

 さて、「私の鶏が逃げた」に話をもどそう。正しい地方文化の見本のようなこの曲に、エレキギターをバックにして録音した、ケシカラン女性歌手がいるのだ。

Elly Kasim.....AYAM DEN LAPEH

 なんじゃ、これは、エレキ・サウンドではないか! 地方文化に対する冒涜だ! とは、言われなかった。その反対で、このヴァージョンのほうが有名なようだ。(ちなみに、1960年代風のサウンドを愛する方やシングル盤コレクターの熱意により、この周辺の映像が最近たくさんアップされている。)しかも、この歌手、エリー・カシムは、ミナンカバウ音楽を代表する女性歌手として捉えられているのである。後年再録音した、ラテン風の ayam den lapeh を聞いてみよう。

Ayam Den Lapeh - Elly Kasim

 おお、大物になって貫禄もついて、ラテン風に戻ったか。バックのブラスもいい味ですね。踊りの映像も楽しいね。しかし、次の(確証はないが)さらに後年らしい、バージョンを聞いてみよう。

Elly Kasim - Ayam Den Lapeh

 ブラスがシンセに変わり、ラテンのリズムはダンドゥットらしくなっている。さらに若い世代の別の歌手を聞いてみよう。

Ayam Den Lapeh ~ Ria ~ Nostalgia Minang Pilihan

 もう、完全なダンドゥットだ。そして、このビデオをアップした人は、Nostalgia Minang 、つまりミナンカバウの懐メロと捉えているのである。

 ここに我々外国人が捉えるダンドゥットと、インドネシアの人が捉えるダンドゥットの概念との違いがある。こちらは、インドネシア語さえ判らないが、地元の人はまず歌詞で区別するのである。ユーチューブには、lagu ... というさまざまな地方音楽がアップされているが、言葉がわからない者からみると、ほとんどダンドゥットである。ダンドゥットでなければ、pop Indonesia つまりインドネシア語のバラード風ポピュラー・ソングと区別できない。

 ダンドゥットの中のラテン味は、ダンドゥットという呼称が生まれる前のムラユー音楽の時代から濃厚にただよっている。インドネシアのポップ・ミュージックに影響を与えたマレーのポップ・ミュージックにすでにラテン味は染み付いていたのだ。日本では田中勝則さんが研究・紹介しているように、次のようなものがいっぱいある。

SALOMA - CHIK CHIK CHIK BOOM 1950s 数千の音源・映像をアップロードしている方です。多すぎて捜すのに苦労する。

SALOMA - POLYNESIA MAMBO 同じく

 もっとも、ダンドゥットの中のラテン味は上のような、いかにもラテン風ではなく、曲の盛り上がりやメロディーにラテン風味を残すものが多い。日本の歌謡曲でいえば、ザ・ピーナッツ「恋のバカンス」のようなラテン歌謡そのものではなく、郷ひろみ「よろしく哀愁」沢田研二「危険なふたり」のようなロックやソウル・ミュージック的なアレンジをしているものである。

 実はこの要素がダンドゥットを聞いた日本人が「演歌的」と感じる要素ではないかと思う。だいたい日本の演歌がラテンに小節をきかせたようなものだから、似てくるのは当然だ。(参照 輪島祐介,創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史,2010, 光文社新書)

Oslan Husein ~ Menimbang Rasa 1968

 この曲もここでは柔らかいビブラートのない歌い方だが、ダンドゥット風の小節・唸りを入れるともろに演歌だ。インドネシアでは、北米のロックンロールやティーン・ポップと同じような西洋風のポップ・ミュージックとして受け入れられたのだ。いや、日本でも同様で、1960年代は、ごちゃまぜの洋楽風であった。

 ダンドゥットがラテン風であることを止めないのは、インドネシアのファンがその手のメロディーばかり好きだというわけではない。ブルース進行やブラコン(死語!)、アダルト・コンテンポラリー風の曲はpop Indonesia や Rockと分類されるほうで採用されている。

 おそらく西洋風の曲構成の中でラテン風が一番最初に受け入れられ、それが今日まで続いているのだと思う。その後もダンドゥットの世界では、ラテン風のメロディーを生のまま使った曲が作られ、受け入れられていく。「セレス・ローサ」とか「キサス・キサス・キサス」など直接パクったものも多いし、部分的にラテンのメロディーを使うのはやめていない。わたし自身はけっこう好きで、次の曲の哀愁をおびたメロディーなどいいじゃないですか?

Zaskia Gotik - Bang Jono - Remix Version - Official Music Video  このヴァージョンは2014


ダンドゥットの謎 00 典型例

2014-11-07 10:05:57 | 音楽 / ミュージック

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https://hap-pya-ku-bikini.hatenablog.com/


ダンドゥットの謎にせまる その2 演歌調・ヘビメタ調の壁

2014-11-03 12:36:05 | 音楽 / ミュージック

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ダンドゥットの記事なら以下のブログへどうぞ(怪しいサイトではございません)

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ダンドゥットの謎にせまる その1 現在のダンドゥット概観

2014-11-03 12:02:10 | 音楽 / ミュージック

 

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では、現在のダンドゥット(dangdut)を見てみよう。

ネットの扱いに慣れた方々には無用の注意であるが、Youtube を見る前に、キャッシュやクッキーを消したほうがいい。ユーチューブのアカウントを持っている方は、ログ・インしないほうがよい。過去の記録を消してから見ると、youtube 世界の最大公約数的なサジェストを自動生成してくれる。自分の過去の履歴があると、自分の許容範囲だけお勧めしてくれる結果になる。

 下のリンクは、Youtube の中のPro Media Productionという会社のビデオ一覧ページです。この会社はビデオの制作を請け負う会社らしく、自社で作ったものをアップしている。

https://www.youtube.com/user/promedialive/videos

 なぜ、こんなリンクから話をすすめるかというと、"dangdut" "dangdut koplo""dangdut terbaru" などといったキーワードで検索すると、初心者・門外漢にはとても処理しきれない画像・映像ばかりヒットするからである。VCDからコピーした映像も音もひどいものや、テレビからダビングしたものが山ほどヒットする。かと言って、知っている歌手名をキーワードにすると、その傾向のものばかり出てきて、ぐるぐる同じところを回るウェブの袋小路状態になるからである。

 この会社の宣伝目的だろうが、ほとんどの閲覧数が三桁ぐらいで、映像に写っている人以外見てないのではないか? という過疎化した映像がおおい。何を選んだらいいか迷う方は、名曲にして人気曲 Oplosan が聞けて、(1分50秒あたりから)演奏のようすが見られて、歌手の映像が多いこれをどうぞ。(曲名 - グループ名)

Oplosan - Singa Dangdut Lindasari (31-7-2014)

  このリンクの前後に、お神輿のようなものに子供をのせたお祭りのような映像がたくさんある。これは、割礼のお祝いである。そのバックの歌・音楽はライン録音で手持ちカメラで撮った映像にダビングしている。お神輿かついだ行列のあとに、人が引く車にPAシステムとバンドを乗せている。そのあとについて、発電機を引いている人たち大変ですね。

 楽器編成は野外ライブ・ショーの場合とほぼ同じだが、かけ声(ヘイヘイ! とか アー、ア、アというやつ)はシンセ(サンプリング・マシン)でやっていて、演奏メンバーがかけ声をかけていない。音声はヴォーカルを含めてライン録音だから、実際この場でどれくらいの音量なのか不明だが、お神輿をかついだ人たちは、このPAの音に合わせている。(だから、残念ながら、写っている人たちの声などは聞こえない)

 前後にアップされた映像を見ると、村の人の反応やお祝いのようすが面白い。曲に合わせて踊っている人もいるし、無関心な人もいる。お神輿の上のこどもは疲れている。歌手は普通の人と同じ服装である。つまり、日焼けしないようにスカーフを被って、Tシャツとズボンが多い。歌がうまいように聞こえるのは、ダンスをしないで歌に集中しているのが一つ、それと、何回も歌った持ち歌だけを歌っているためかもしれない。ちなみに、上の例の歌手、メロディーに「おっさん、おおきに」「おばちゃん、ありがと」などと言葉を乗せるのがうまい。

 お祭りにせよ、結婚式にせよ、村の実力者のなにかのお祝いにせよ、バンドと歌手がやっているのは、野外ライブ・ショーの会場でやっているナンバー、ヒット曲と同じである。テレビで流される最新ヒットも多い。バンド(オルケス・ムラユー、O.M.と略す)の編成に多少の違いはあるものの、リズム・セクションの要は同じです。

 野外ライブ・ショーの例として、上のOplosan をやっているもの。

Utami Dewi Fortuna & Ratna Antika (with O.M. Monata) - Oplosan (12-8-2014) 中部ジャワ北海岸のかなり大きな町の漁業組合(?)のお祭りのイベントらしい

 お断りしておくが、夜の撮影でこれくらい画質がいいのはめったにない。歌手/ダンサーも歌とダンスのバランスがとれていて、ちゃんと聞こえるのは珍しい。もっと派手なものが見たい方はyoutubeのサジェッションをどうぞ。Dangdut Koplo という。

 バンドの演奏はさすがにタイトである。ドラム・セットもあるが、リズムの要はクンダンとステージに向かって右にいるタンバリン・プレイヤーであるようだ。このタンバリンとシンバル担当の人、最初リーダーなのかと思ったが、そうでもないらしい。(なお、ロック・ビートで演奏する曲や、前奏だけロック調の曲では、ドラマーがスネアやバスドラでリズムをキープする場合も多い)

 パンツ(実はスパッツのようなもの)が見える歌手兼ダンサーのgoyangは、youtube に溢れている。最初見た時、わたしは、あまりの画質の悪さと、ヘタな歌に圧倒されて、これは一部の限られた層だけの音楽ではないかと思った。見続けるには忍耐力がいる。しかし、基本的な曲の構成、リズム、バンドの構成はテレビでヒットするダンドゥットも村のお祭りのダンドゥットも同じであるということがわかった。さらに歌手の歌い方・発声法、体の動きも、ほとんど変わらない。あ、一番共通しているのは、観客の体の動きやノリ方だ。まったく無表情でじっと座っている観客もいる。

Juwita Bahar - Goyang Oplosan 2013 ノリノリの観客がちょっとわざとらしいですね。

 これはテレビの録画。歌手Juwita Bahar の音源はiTunes store などでも入手可能。もっとにぎやかな映像がたくさんあるが、この種のダビングのアップロードはすぐに消えたり削除されるので、リンク先が消えていたら、各自検索してください。

Trio Macan - Oplosan Live Malang @ Karnaval Tolak Angin SCTV 2014 製薬会社提供のコンサートらしい

 このグループも超人気アイドル。それが、他の歌手のカヴァーをやるというのも普通であるようだ。だから、ある歌が誰がオリジナルか捜しづらいことがある。もちろん、昔のヒットのリバイバルもあるし、柳の下のどじょうを狙った紛らわしいタイトルがあるのでややこしい。

RATU GOYANK - OPLOSAN ? カラオケボックスで撮ったものらしい。この種のものはいっぱいころがっている。楽しそうですね。

以上、途中で見るのをやめた方が多いのではなかろうか。まず、長い。こんなもの見ていちゃ、人生終ってしまう。そう思う方も多いのではなかろうか。ダンドゥットと付き合うには、ゆったりした時間感覚が必要である。びんぼーな暇人向け。

 もっとアイドル・スターのものを観たい方は、参考として、テレビ公開録画番組から。バックはカラオケ、リズムは打ち込みも混ぜ、ヴォーカルは部分的に口パクと実際の録音を混ぜているようだ。観客に小中学生が多いのは、その層の人気者であることにもよるだろうが、テレビ局側で、絵になるように子供を選んで写しているのかもしれない。すべて大ヒット曲。(この種のアップロードはいっぱいあるが、やたらと広告がはいるのは我慢してください。それから、画面比率が合ってないものも多い)

歌手 - 曲名で

Ayu Ting-Ting - Alamat Palsu  ヒットが多いアイドル・スター

Zaskia Gotik - 1 Jam Saja この人も人気アイドル。観客とのリアクションがいいよ。3.00 ぐらいから可笑しい。

 クンダン(太鼓)やスリン(横笛)はシンセサイザーに置き換えられている。歌手の服装はひかえめ。このひとたちも、コンサートやスタジオ収録では、趣味の悪いギンギラのコスチュームでいやになるのだが。観客の体の動きはdangdut Koplo と同じでしょ?

 下はオフィシャルのPV(のコピー)。

Siti Badriah - Berondong Tua - Official Music Video

Juwita Bahar - Buka Dikit Joss [Official Music Video HD]

 Lynda MoyMoy - Bang Jali

 この種の全国的ヒット曲が、Dangdut Koplo(ライブバンド、ドサ回りというニュアンスもあるようだ) のレパートリーにもなり、インドネシア全土に普及しているわけだ。

以上、すでにyoutubeやCDなどで知っている方には無用のおせっかいだったでしょうが、現在のダンドゥットをざっと見たことにしょう。次項では、なぜ、同じように聞こえる曲、リズムがこれほど長く続いているのか、変化がないのか、という疑問を考える。変化しなくてかまわない、よけいなお世話だと反論が当然出てくるだろうが、ダンドゥットとは何か、何がダンドゥットとみなされるのかという疑問を追っていく。疑問を追っていくけれども、わたしが解決するわけではない。こんなヘンなおもしろいものが存在しているという紹介である。

 最後にオマケ。新大統領ジョコ・ウィドドの選挙応援ソング。どの程度オフィシャルなものか不明だが、集会で歌っている映像はある。完全なダンドゥットであります。現在のダンドゥットの平均的な要素を集めた作りで、ひじょうに判りやすい。対抗候補側がふざけて作ったものではありませんよ!

JOIN JOKOWI (JOJO 2014) Versi Jawa

  閲覧数が少ないが、これは、わざわざユーチューブで見る人が少ないためだろうか。ジャワ版、スンダ・ブタウィ版などあり、歌詞は少し違うようだ。


高野秀行,『イスラム飲酒紀行』,扶桑社,2011

2012-12-02 16:07:50 | 旅行記100冊レヴュー(予定)

初出

『ジー・ダイアリー』2006 マレーシア 2011 トルコ、シリア

『週刊SPA!』2008 パキスタン、アフガニスタン 2010 イラン、ソマリランド、バングラデシュ

『本の雑誌』 2010 チュニジア

書き下ろし カタール

おもしろかった。やっぱりエンタメ系旅本は文章力か。以下、本書の内容とズレるが、感想少々。

飲酒が許容されるか推奨されるか、それとも忌避されるか侮蔑の対象となるか。このことは、わたしも常々考えている。本書のタイトルのように、その原因を宗教に起因する、と早合点しそうだが、どうもそうではないのではないか?という気がする。飲酒に寛容であり儀式にアルコールを用いるはずのキリスト教徒でもUSAのように禁酒法を制定したりする。飲酒が五戒にはいっている仏教世界では酒が飲まれている。

必ずしも農民の社会は飲酒に寛容で、都市民は礼節を重んじるために飲酒に不寛容というわけでもない。必ずしも支配層だけが飲酒を独占し、被支配層には禁ずるというわけでもない。必ずしも都市のファッションとして飲酒がスタイリッシュなライフスタイルとみなされるわけでもないし、近代的な生活として持ち込まれるわけでもない。気候や宗教でも割り切れない。

ひとつの法則でくくれるような、許容・禁止、推奨・忌避、の原理はないようだ。