多文化共生のすすめ

Toward a Multicultural Japan

安倍新内閣

2006年09月29日 | Weblog
9月26日に安倍新内閣が発足した。安倍晋三首相は29日に衆参両院の本会議で、就任後初の所信表明演説を行った。その中で、多文化共生にかかわる発言はほとんどなかった。強いてあげれば、以下の箇所か。

「アジアなど海外の成長や活力を日本に取り込むため、お互いに国を開く経済連携協定への取組を強化するとともに、WTO(世界貿易機関)ドーハ・ラウンド(多角的貿易交渉)交渉の再開に尽力します。・・・その他、使い勝手も含めた日本の国際空港などの機能強化も早急に進め、ヒト・モノ・カネ・文化・情報の流れにおいて、日本がアジアと世界の架け橋となる『アジア・ゲートウェイ構想』を推進します。」

ただし、最後に以下のような発言もしている。「誰もが」には外国人は含まれないようである。

「新しい国創りに共にチャレンジしたいと願うすべての国民の皆様に参加していただきたいと思います。年齢、性別、障害の有無にかかわらず、誰もが参加できるような環境をつくることこそ、政治の責任であります。

一方、新内閣発足直後の26日の記者会見では、以下のように発言している。

「また、オープン、社会や経済や国を開いていくことであります。そのことによって海外から多くの投資が行われます。また、有為な人材がどんどん日本にやってくる、このことは活力を生み出します。また、国同士がお互いを開いていく、FTA、EPAを進めていくことによって、アジアの成長を日本の成長に取り入れていくことも十分に可能性があると思います。」

「世界に対して日本の、言わば国柄、カントリー・アイデンティティーをしっかりと発信をしていく国を目指していきたい。そして、多く国々が、また多くの人たちが日本を目指す。そういう方々に日本に来ていただける環境をつくっていくことも重視をしていきたいと思います。 」

安倍新首相は、「活力に満ちたオープンな経済社会の構築」を基本方針に掲げているが、どうやら「オープン」とは、人の移動も含めて「世界に開かれた国」をめざすことのようである。今後の具体的な政策づくりに注目したい。



研修制度:厚労省VS法務省

2006年09月23日 | Weblog
研修・技能実習制度の改革に注目が集まる中、22日の日経新聞夕刊と23日の朝日新聞朝刊で、真っ向から対立する内容の記事が掲載されている。

日経は、「外国人研修生-労基法の適用対象に」「政府検討 低賃金、罰則を強化」「受け入れ業種拡大 在留期間最長5年」という見出しで、研修・技能実習制度を拡充する方針であることを報じている。

一方、朝日は、「外国人研修の廃止検討」「法務省チーム 労働者確保に悪用」と題して、法務省が研修・技能実習制度を廃止する方針であることを打ち出している。

前者は、中野厚労副大臣が中心に6月にとりまとめた副大臣会議の提言にそうもので、後者は、河野副大臣が中心となった法務省のプロジェクトチームの中間取りまとめに基づいたものである。厚生労働省と法務省で完全に見解が分かれたことになる。経済産業省も制度拡充を支持しているという。

さらに、前者を日経が応援し、後者を朝日が応援しているようにも読める。まもなく、新内閣が誕生し、副大臣も変わるため、今後の動向は予想しがたい。安倍次期首相の意向が影響するかもしれない。ちなみに、厚生労働省(当時、労働省)と法務省は、1998年にも雇用許可制度をめぐって対立した歴史がある。

国連

2006年09月16日 | Weblog
国連本部で、9月14、15日に、「国際的な人の移動と開発に関する国連ハイレベル対話」(High-level Dialogue on International Migration and Development外務省HP)が開かれた。国連総会で、人の移動をテーマにするのは、初めてのことである。

各国は担当大臣が演説したのに対し、出席したのは、遠山外務大臣政務官や鶴岡地球規模問題審議官で、日本政府の人の移動の問題に対する関心の低さが示され、残念である。

東洋経済:ワーキングプア

2006年09月15日 | Weblog
9月16日号の『週間東洋経済』が、「日本版ワーキングプア」と題した特集を組み、日本人の若者とブラジル人労働者や中国人研修生が、日本の生産現場で「最底辺層」を構成していることを取り上げている。「ワーキングプア」とは、働いても貧しい人たちを指す。9月11日号の『日経ビジネス』の特集と同様な企画で、こちらのほうがより本格的な特集で、企業批判もさらに厳しいものとなっている。

「復活の象徴『亀山』の"逆説"」「若き『請負』労働者たちの"喪失"」「日系2世『女性プローカー』の告白」「学校に行かない子供たち-10代前半のブラジル人が工場で働き始めた!」「深夜製造の『コンビニ弁当』は誰が作るのか?」「外国人研修生という名の"奴隷"-単純労働力受け入れの『隠れみの』」「ワーキングプアの解消は可能だ!」という7本の大型特集になっている。

最初の記事は、シャープが世界に誇る液晶テレビの最新鋭生産拠点である亀山工場(三重県亀山市、人口5万人)やその下請け工場において、多くの請負労働者が働いており、その大部分は日本の若者と日系ブラジル人であるという。そして、シャープやその下請け企業においては、社会保険加入を徹底するなどしているが、2次下請けや3次下請け社会保険の未加入や労災など深刻な労務問題が起きているという。

最後の記事では、日本の製造業の繁栄の底辺で、日本人や外国人の請負労働者が犠牲になっていることを批判したうえで、業務請負業界の再生を訴え、そのために発注側のメーカーが請負業者に安さと人員調整だけを求める姿勢を改めることを求めている。

これまでのマスコミの外国人労働者特集の中で、労働現場の実態に踏み込んだ最も力の入ったものと評価できよう。

日比経済連携協定:看護師・介護福祉士

2006年09月11日 | Weblog
フィンランド訪問中の小泉首相とアロヨ・フィリピン大統領が、9月9日に日本とフィリピンの経済連携協定に署名し、協定の中にフィリピンからの看護師・介護福祉士が盛り込まれていることを、9月10日の各紙が伝えた。

また、9月11日の報道によれば、厚生労働省は、当初2年間は、フィリピンで看護師の資格を持つ400人と、同じく介護福祉士の資格を持つ600人を受け入れることにしたという。来日後、6か月間の日本語研修を経て、日本の病院や介護施設などに就労し、日本人と同等以上の報酬が約束される。看護師は3年以内、介護福祉士は4年以内に日本の国家資格を取得すれば、日本での就労が無期限に延長可能となる。

日経新聞の9月10日の記事は「看護師・介護福祉士-初の『労働開国』」と見出しをつけているが、この見出しは誤解を招くものだ。国内の外国人労働者は、専門・技術的労働者に加え、日系人や技能実習生、超過滞在者などをあわせれば、すでに100万人近いからだ。また、今回の協定で受け入れるフィリピンからの労働者は、年間数百人規模に過ぎない。