ブログを長い間更新してなくてすみません。かなり仕事が忙しいので今しばらく定期更新はお待ちいただきたいと思います。
そんな中、9月30日はビルボード・ライブ大阪まで、ダン・ペン&スプーナー・オールダムの来日公演を見に行ってきました。本当はファースト&セカンドの両方を見て、一泊して帰りたかったのですが、仕事のこともありファーストだけで我慢し福岡にトンボ帰りしました。ダン・ペン、81歳、スプーナー80歳。この二人が日本に来てくれてライブをやってくれる。そのことだけで、とってもありがたいです。4年前の2019年、このコンビとしては20年ぶりの公演があり、この時は東京まで出かけて2ステージを堪能させていただきました。その時より、ほんの少し曲数が減っているとはいえ、元気な姿と変わらない演奏を聴かせてもらい、とっても嬉しくなりました。
思えば、今から40年ほど前、高校生だった私は、10年遅れでライ・クーダーの『Boomer’s Story』の日本盤を中古で手に入れました。そこにはかの名曲「The Dark End of the Street」のインスト版が入っているだけでなく、ライナーには作者の一人ダン・ペンなる人物が主人公ライと一緒に歌っている写真までありました。その人物がR&B界の名ソングライターであることは、その時は全く知りませんでした。大学生になる頃、ボチボチとR&Bを聴き始め、彼がスプーナーやチップス・モーマンらと数々の名曲を生み出した偉人であることがわかってきます。そして、その頃ダン・ペンの唯一のオリジナル・アルバム、1973年の『Nobody’s Fool』を入手し、大ファンになるのですが、どうしてこんな素晴らしいシンガーが1枚きりしかアルバムを出していないんだろうと疑問に思いました。スプーナーのアルバム『Pot Luck』も90年代の前半には入手していたと思います。ところが、1994年、ダン・ペンの21年ぶりのセカンド・アルバム『Do Right Man』がワーナー/サイアーからリリースされました。もちろん、ダン・ペンはソングライターの他、プロデューサーとか裏方としてメンフィスを中心とする南部の音楽界を支えてきたわけですが、久々に表舞台に復帰と相成ったわけです。そして、5年後の1999年、スプーナー・オールダムとの二人だけのライブを収めた『Moment From This Theatre』がリリースされます。このアルバムは全編二人だけのシンプルな演奏なのですが、とにかく名演です。シンガー・ソングライター・ファンは必ず聴かなければならないアルバムです。二人の過不足ない演奏と歌声、ハーモニー。その美しさに酔いしれることができます。ダン・ペンが他のアーティストに提供したR&B曲が大半ですが、ドラムやベースがなくても、曲そのものの良さと、作者自らの歌声の素晴らしさで、こんなにも充実したになるという見本のような作品集です。そして、その年の暮れ、その二人がとうとう初来日を果たします。自分は福岡のドラム・ロゴスに見にに行きました。本当に忘れられないライブとなりました。ダンはその後、2000年から、数年おきにデモ・シリーズという自主制作CDを作成するようになります。ライブ会場で手売りしたり、自身のインターネット・ページでしか買えないものですが、日本ではオーバーオール・ミュージックが発売してくれていて、手軽に購入することができました。そして、2010年には、メンフィスで活躍してきたキーボード奏者のボビー・エモンズとともにビルボード・ライブに再来日を果たしました。この後、アラバマのフェイム・スタジオで録音されたダンのデモ集が2枚CDで発売されたり、ダンとスプーナーが書いた曲のコンピレーションがリリースされたりもしました。そして、2019年、再びスプーナー・オールダムと二人での来日。この時はビルボード・ライブ東京に見に行きました。2020年には26年ぶりとなるサード・アルバム『Living On Mercy』がリリースされました。その後、体調を崩したダンは心臓関連の手術を受けていて、体力が十分回復しない中、2022年にはニューオーリンズのジャズ・フェスティバルの期間中にチッキー・ワー・ワーというクラブでライブを敢行したとのことです。さらにその後、同年には5枚目となるデモ・シリーズの『Prodigal Son』をリリースしました。意識した訳ではないでしょうがライ・クーダーが2018年にリリースしたソロの最新作と同タイトルとなっています。そんなわけで、高齢ながら充実した活動を続けるダン・ペン、盟友のスプーナーと二人では三度めとなる来日公演、いつもと変わらない、あったかいライブになるだろうと思いながら大阪に向かいました。
さて、その日、9月30日は土曜とあって、ファースト・ステージが16時30分から、セカンド・ステージが19時30分からと、両方見ても博多行き最終に間に合うのではないか、という時間ではありましたが、体力を温存すべく、今回はファーストだけで帰ることにしました。席は最前列ではありませんが、ステージ中央の次のテーブル。4年前の東京の時と同様かなり近い席を確保できました。定刻になるとマネージャーも兼ねているであろう司会者がワイヤレス・マイクを持って登場します。「コンバンワ」とあいさつした後、英語で、東京、横浜と続いたツアーに来てくれてありがとう、今日は最終日グレート・シティの大阪です。ダン・ペンとスプーナー・オールダムを紹介しますという意味の前説の後、ステージ後ろのカーテンが開き、二人が登場します。ダン・ペンは片手に杖を持っており、4年前に比べて足が悪くなったようです。スタッフに付き添われて、ステージ上手側の椅子に座ります。思えば、今から約10年前、この場所でファンキー・ミーターズを見たときは、やはり杖をついていたアート・ネヴィルは苦労して客席の階段を降り、またステージに上がっていたので、高齢の出演者も増えたことだし、その後にステージ後ろの出入り口が新たに設けられたのでしょう。
ダン・ペンは濃いネイヴィー・ブルーのシャツにジーンズ、スプーナーは柄シャツの上にグレーのジャケットを着ています。ダンが弾くのはアクースティク・ギターのマーティンD-28。スプーナーはもちろんウーリッツァーのエレピです。二人は着席すると、すぐに演奏を始めます。曲は言わずとしれた「I’m Your Puppet」。ダンのギターは1弦が鳴り切っていなくてプツプツ言ってますが、そんなことは問題ありません。コロナ前の前回の来日から4年、80代に達した二人が日本でライブをやってくれる。年齢からすれば、身体能力の衰えは致し方ないわけです。今回、スプーナーのソロはほとんどなくなり、ダンの伴奏に徹しています。ダンも90年代の映像では力強くバーコードを押さえていたのが、大半で高音側4弦のみを押さえています。でも、二人の渋い歌声と息のあったアンサンブルは見事に健在です。1999年の来日の時と変わらない、二人の歌と演奏に酔いしれました。
2曲目は、スィート・インスピレーションズに提供した、その名も「Sweet Inspiration」。3曲目は、ボックストップスのナンバーと言って、客席に一緒に歌うよう促し、ア・カペラで歌い始めます。1コーラス歌ったら、最前列の人がおそらくボックス・トップスのシングル盤のジャケットをダンに見せています。そしたら、二人はボックストップスのヒット曲「The Letter」をア・カペラで歌い出すではありませんか。もちろん1コーラスだけですが。その後、無事「Cry Like A Baby」が演奏されました。4曲目はアリーサ・フランクリンに提供した「Do Right Woman, Do Right Man」。彼の代表曲のひとつです。ダンは曲が始まる前にボソボソ声で曲の紹介をしてくれるのですが、自分の英語力の無さから、あまり聞き取ることができませんでした。5曲目に再びボックストップスのナンバーで「I Met Her In Church」が演奏され、手拍子が巻き起こります。
6曲目で、スプーナーがリード・ヴォーカルを担当する「Lonely Woman Make Good Lovers」が歌われます。フレディ・ウェイラーとスプーナーによって書かれたナンバーで、1972年にボブ・ルーマンのシングルとしてリリースされカントリー・チャートで4位を記録するヒットとなりました。『Moment From This Theatre』にはスプーナーの歌で収録されています。ダンの後で聞くとスプーナーの歌声はかなり頼りなく聴こえますが、その味わいたるや格別です。ピアニストでありソングライターとしても格別の才能を持つ彼のしみじみとした歌声を聴いていると、よく言われる「誰もその曲を書いた人のようには歌えない」という言葉が真に迫ってきます。この曲は、99年、19年、そして今回と毎回聞くことができました。
7曲目は、少しテンポアップして「You Left The Water Running」の登場です。バーバラ・リンが1966年にヒットさせた曲で、フェイム・スタジオでオーティス・レディングが録音したデモも公表されています。そして、続いてはジェームズ・カーに提供した代表作「The Dark End of the Street」。このコンビでのライブでは、たいていこの辺りまでの曲順は固定されているようです。二人の前に置かれている歌詞カードかコード譜が掲載されているであろうファイルも、このあたりまでは、順にめくられているみたいですが、この後から、曲を決めたら、二人ともペラペラとページを繰って譜面を探し出すようになります。9曲目は、パーシー・スレッジに提供した「Out of Left Field」でした。こちらもしみじみとしたバラードで演奏に耽溺しました。そして、10曲目に、ダンのファースト・アルバムのタイトル・トラック「Nobody’s Fool」が登場します。この曲で少しばかり盛り上げた後、MCでも提供したジャニス・ジョップリンの名前をつげ「A Woman Left Lonely」を歌い上げます。この曲はジャニスの遺作『Pearl』に収録されていますが、スターダムにありながらも一人寂しくオーバードースでこの世を去ったジャニス本人を象徴しているような作品です。
ライブは佳境になってきましたが、ここで再びマイクがスプーナーに渡り、ダンがロックン・ロールのフレーズを弾き始めました。曲は「Hello Memphis」です。ドニー・フリッツの1997年のセカンド・アルバムに収録されていた曲で、ダン、スプーナーそしてドニーの3人で書かれた曲で、ここではスプーナーがリード・ヴォーカル。ダンが合いの手を歌います。その場ではライブでは初めて聴いたと思っていたのですが、調べてみると1999年の福岡公演のセカンド・ステージで演奏されていたのを生で聴いていたのですね。全く記憶から抜け落ちていましたが、24年も経っているので仕方ないでしょう。続いても同じようなリズムのロックン・ロール・ナンバーでやはりスプーナーがリードを歌い、ダンも歌って見事にサポートします。曲は「Come on Over」です。この曲は1967年に書かれベン・アトキンス&ザ・ノマズによってシングル盤でリリースされたようですが、この日取り上げた曲では前曲同様かなりマイナーな1曲でしょう。ダンの歌うバージョンは彼のフェイム・レコーディングのCDに収録されています。前曲より少しテンポが早いので客席から手拍子が巻き起こり大いに盛り上がります。
ここで司会もしていたマネージャーから、そろそろ時間との声がかかり、二人はラストはどの曲にしようかちょっと迷ったようですが、ダンが「ゴスペルの曲を聞いてください」とつげて、最新のデモ・シリーズ『Prodigal Son』のラストに収録されている「In The Garden」を歌い始めました。この曲は「He Walks With Me」というタイトルでも知られた曲で、もちろん「He」はジーザスのこと。『Prodigal Son』にはドニー・フリッツの告別式で歌われたものが収録されています。もちろん、ライブでこの曲を聴くのは初めて。感激です。この曲ではスプーナーはピアノもコーラスもなし。お腹のところで両手を組み、ダンの演奏に聴き入っていました。しみじみとしたワルツのこの曲で本編が終了。司会者が立ち上がり、ワイヤレス・マイクで客席に「もう一曲聞きたいですか?」と問いかけます。満員の会場はもちろん割れんばかりの拍手が続きます。
二人は再びファイルをめくりながらアンコール曲を選びます。ダンが曲を決め、「オベイションズのナンバーだ。」との言葉で大好きな「I’m Living Good」だとわかりました。この曲は1965年にゴールド・ワックスからリリースされたシングル曲。自分は90年代に出たオベイションズのコンピレーションで知りました。彼らが尊敬する先達、サム・クックの曲を彷彿とさせるナンバーで『Moment From This Theatre』の中でもかなり気に入っている曲です。ラストに収録されている「Old Folks」も聴きたかったけど、贅沢は言いますまい。司会者が終演のMC、スタンディング・オベイションに包まれる中、二人は立ち上がって挨拶し、カーテンの向こうに消えて行きました。二人が日本に来てくれて、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。そのことに感謝したいと思います。
1. I’m Your Puppet
2. Sweet Inspiration
(Cry Like a Baby 〜 The Letter A Capella)
3. Cry Like a Baby
4. Do Right Woman, Do Right Man
5. I Met Her In Church
6. Lonely Woman Make Good Lovers (Spooner
7. You Left The Water Running
8. Dark End of The Street
9. Out of Left Field
10. Nobody’s Fool
11. A Woman Left Lonely
12. Hello Memphis(Spooner
13. Come On Over(Spooner
14. He Walks With Me
(Encore)
15. I’m Living Good
そんな中、9月30日はビルボード・ライブ大阪まで、ダン・ペン&スプーナー・オールダムの来日公演を見に行ってきました。本当はファースト&セカンドの両方を見て、一泊して帰りたかったのですが、仕事のこともありファーストだけで我慢し福岡にトンボ帰りしました。ダン・ペン、81歳、スプーナー80歳。この二人が日本に来てくれてライブをやってくれる。そのことだけで、とってもありがたいです。4年前の2019年、このコンビとしては20年ぶりの公演があり、この時は東京まで出かけて2ステージを堪能させていただきました。その時より、ほんの少し曲数が減っているとはいえ、元気な姿と変わらない演奏を聴かせてもらい、とっても嬉しくなりました。
思えば、今から40年ほど前、高校生だった私は、10年遅れでライ・クーダーの『Boomer’s Story』の日本盤を中古で手に入れました。そこにはかの名曲「The Dark End of the Street」のインスト版が入っているだけでなく、ライナーには作者の一人ダン・ペンなる人物が主人公ライと一緒に歌っている写真までありました。その人物がR&B界の名ソングライターであることは、その時は全く知りませんでした。大学生になる頃、ボチボチとR&Bを聴き始め、彼がスプーナーやチップス・モーマンらと数々の名曲を生み出した偉人であることがわかってきます。そして、その頃ダン・ペンの唯一のオリジナル・アルバム、1973年の『Nobody’s Fool』を入手し、大ファンになるのですが、どうしてこんな素晴らしいシンガーが1枚きりしかアルバムを出していないんだろうと疑問に思いました。スプーナーのアルバム『Pot Luck』も90年代の前半には入手していたと思います。ところが、1994年、ダン・ペンの21年ぶりのセカンド・アルバム『Do Right Man』がワーナー/サイアーからリリースされました。もちろん、ダン・ペンはソングライターの他、プロデューサーとか裏方としてメンフィスを中心とする南部の音楽界を支えてきたわけですが、久々に表舞台に復帰と相成ったわけです。そして、5年後の1999年、スプーナー・オールダムとの二人だけのライブを収めた『Moment From This Theatre』がリリースされます。このアルバムは全編二人だけのシンプルな演奏なのですが、とにかく名演です。シンガー・ソングライター・ファンは必ず聴かなければならないアルバムです。二人の過不足ない演奏と歌声、ハーモニー。その美しさに酔いしれることができます。ダン・ペンが他のアーティストに提供したR&B曲が大半ですが、ドラムやベースがなくても、曲そのものの良さと、作者自らの歌声の素晴らしさで、こんなにも充実したになるという見本のような作品集です。そして、その年の暮れ、その二人がとうとう初来日を果たします。自分は福岡のドラム・ロゴスに見にに行きました。本当に忘れられないライブとなりました。ダンはその後、2000年から、数年おきにデモ・シリーズという自主制作CDを作成するようになります。ライブ会場で手売りしたり、自身のインターネット・ページでしか買えないものですが、日本ではオーバーオール・ミュージックが発売してくれていて、手軽に購入することができました。そして、2010年には、メンフィスで活躍してきたキーボード奏者のボビー・エモンズとともにビルボード・ライブに再来日を果たしました。この後、アラバマのフェイム・スタジオで録音されたダンのデモ集が2枚CDで発売されたり、ダンとスプーナーが書いた曲のコンピレーションがリリースされたりもしました。そして、2019年、再びスプーナー・オールダムと二人での来日。この時はビルボード・ライブ東京に見に行きました。2020年には26年ぶりとなるサード・アルバム『Living On Mercy』がリリースされました。その後、体調を崩したダンは心臓関連の手術を受けていて、体力が十分回復しない中、2022年にはニューオーリンズのジャズ・フェスティバルの期間中にチッキー・ワー・ワーというクラブでライブを敢行したとのことです。さらにその後、同年には5枚目となるデモ・シリーズの『Prodigal Son』をリリースしました。意識した訳ではないでしょうがライ・クーダーが2018年にリリースしたソロの最新作と同タイトルとなっています。そんなわけで、高齢ながら充実した活動を続けるダン・ペン、盟友のスプーナーと二人では三度めとなる来日公演、いつもと変わらない、あったかいライブになるだろうと思いながら大阪に向かいました。
さて、その日、9月30日は土曜とあって、ファースト・ステージが16時30分から、セカンド・ステージが19時30分からと、両方見ても博多行き最終に間に合うのではないか、という時間ではありましたが、体力を温存すべく、今回はファーストだけで帰ることにしました。席は最前列ではありませんが、ステージ中央の次のテーブル。4年前の東京の時と同様かなり近い席を確保できました。定刻になるとマネージャーも兼ねているであろう司会者がワイヤレス・マイクを持って登場します。「コンバンワ」とあいさつした後、英語で、東京、横浜と続いたツアーに来てくれてありがとう、今日は最終日グレート・シティの大阪です。ダン・ペンとスプーナー・オールダムを紹介しますという意味の前説の後、ステージ後ろのカーテンが開き、二人が登場します。ダン・ペンは片手に杖を持っており、4年前に比べて足が悪くなったようです。スタッフに付き添われて、ステージ上手側の椅子に座ります。思えば、今から約10年前、この場所でファンキー・ミーターズを見たときは、やはり杖をついていたアート・ネヴィルは苦労して客席の階段を降り、またステージに上がっていたので、高齢の出演者も増えたことだし、その後にステージ後ろの出入り口が新たに設けられたのでしょう。
ダン・ペンは濃いネイヴィー・ブルーのシャツにジーンズ、スプーナーは柄シャツの上にグレーのジャケットを着ています。ダンが弾くのはアクースティク・ギターのマーティンD-28。スプーナーはもちろんウーリッツァーのエレピです。二人は着席すると、すぐに演奏を始めます。曲は言わずとしれた「I’m Your Puppet」。ダンのギターは1弦が鳴り切っていなくてプツプツ言ってますが、そんなことは問題ありません。コロナ前の前回の来日から4年、80代に達した二人が日本でライブをやってくれる。年齢からすれば、身体能力の衰えは致し方ないわけです。今回、スプーナーのソロはほとんどなくなり、ダンの伴奏に徹しています。ダンも90年代の映像では力強くバーコードを押さえていたのが、大半で高音側4弦のみを押さえています。でも、二人の渋い歌声と息のあったアンサンブルは見事に健在です。1999年の来日の時と変わらない、二人の歌と演奏に酔いしれました。
2曲目は、スィート・インスピレーションズに提供した、その名も「Sweet Inspiration」。3曲目は、ボックストップスのナンバーと言って、客席に一緒に歌うよう促し、ア・カペラで歌い始めます。1コーラス歌ったら、最前列の人がおそらくボックス・トップスのシングル盤のジャケットをダンに見せています。そしたら、二人はボックストップスのヒット曲「The Letter」をア・カペラで歌い出すではありませんか。もちろん1コーラスだけですが。その後、無事「Cry Like A Baby」が演奏されました。4曲目はアリーサ・フランクリンに提供した「Do Right Woman, Do Right Man」。彼の代表曲のひとつです。ダンは曲が始まる前にボソボソ声で曲の紹介をしてくれるのですが、自分の英語力の無さから、あまり聞き取ることができませんでした。5曲目に再びボックストップスのナンバーで「I Met Her In Church」が演奏され、手拍子が巻き起こります。
6曲目で、スプーナーがリード・ヴォーカルを担当する「Lonely Woman Make Good Lovers」が歌われます。フレディ・ウェイラーとスプーナーによって書かれたナンバーで、1972年にボブ・ルーマンのシングルとしてリリースされカントリー・チャートで4位を記録するヒットとなりました。『Moment From This Theatre』にはスプーナーの歌で収録されています。ダンの後で聞くとスプーナーの歌声はかなり頼りなく聴こえますが、その味わいたるや格別です。ピアニストでありソングライターとしても格別の才能を持つ彼のしみじみとした歌声を聴いていると、よく言われる「誰もその曲を書いた人のようには歌えない」という言葉が真に迫ってきます。この曲は、99年、19年、そして今回と毎回聞くことができました。
7曲目は、少しテンポアップして「You Left The Water Running」の登場です。バーバラ・リンが1966年にヒットさせた曲で、フェイム・スタジオでオーティス・レディングが録音したデモも公表されています。そして、続いてはジェームズ・カーに提供した代表作「The Dark End of the Street」。このコンビでのライブでは、たいていこの辺りまでの曲順は固定されているようです。二人の前に置かれている歌詞カードかコード譜が掲載されているであろうファイルも、このあたりまでは、順にめくられているみたいですが、この後から、曲を決めたら、二人ともペラペラとページを繰って譜面を探し出すようになります。9曲目は、パーシー・スレッジに提供した「Out of Left Field」でした。こちらもしみじみとしたバラードで演奏に耽溺しました。そして、10曲目に、ダンのファースト・アルバムのタイトル・トラック「Nobody’s Fool」が登場します。この曲で少しばかり盛り上げた後、MCでも提供したジャニス・ジョップリンの名前をつげ「A Woman Left Lonely」を歌い上げます。この曲はジャニスの遺作『Pearl』に収録されていますが、スターダムにありながらも一人寂しくオーバードースでこの世を去ったジャニス本人を象徴しているような作品です。
ライブは佳境になってきましたが、ここで再びマイクがスプーナーに渡り、ダンがロックン・ロールのフレーズを弾き始めました。曲は「Hello Memphis」です。ドニー・フリッツの1997年のセカンド・アルバムに収録されていた曲で、ダン、スプーナーそしてドニーの3人で書かれた曲で、ここではスプーナーがリード・ヴォーカル。ダンが合いの手を歌います。その場ではライブでは初めて聴いたと思っていたのですが、調べてみると1999年の福岡公演のセカンド・ステージで演奏されていたのを生で聴いていたのですね。全く記憶から抜け落ちていましたが、24年も経っているので仕方ないでしょう。続いても同じようなリズムのロックン・ロール・ナンバーでやはりスプーナーがリードを歌い、ダンも歌って見事にサポートします。曲は「Come on Over」です。この曲は1967年に書かれベン・アトキンス&ザ・ノマズによってシングル盤でリリースされたようですが、この日取り上げた曲では前曲同様かなりマイナーな1曲でしょう。ダンの歌うバージョンは彼のフェイム・レコーディングのCDに収録されています。前曲より少しテンポが早いので客席から手拍子が巻き起こり大いに盛り上がります。
ここで司会もしていたマネージャーから、そろそろ時間との声がかかり、二人はラストはどの曲にしようかちょっと迷ったようですが、ダンが「ゴスペルの曲を聞いてください」とつげて、最新のデモ・シリーズ『Prodigal Son』のラストに収録されている「In The Garden」を歌い始めました。この曲は「He Walks With Me」というタイトルでも知られた曲で、もちろん「He」はジーザスのこと。『Prodigal Son』にはドニー・フリッツの告別式で歌われたものが収録されています。もちろん、ライブでこの曲を聴くのは初めて。感激です。この曲ではスプーナーはピアノもコーラスもなし。お腹のところで両手を組み、ダンの演奏に聴き入っていました。しみじみとしたワルツのこの曲で本編が終了。司会者が立ち上がり、ワイヤレス・マイクで客席に「もう一曲聞きたいですか?」と問いかけます。満員の会場はもちろん割れんばかりの拍手が続きます。
二人は再びファイルをめくりながらアンコール曲を選びます。ダンが曲を決め、「オベイションズのナンバーだ。」との言葉で大好きな「I’m Living Good」だとわかりました。この曲は1965年にゴールド・ワックスからリリースされたシングル曲。自分は90年代に出たオベイションズのコンピレーションで知りました。彼らが尊敬する先達、サム・クックの曲を彷彿とさせるナンバーで『Moment From This Theatre』の中でもかなり気に入っている曲です。ラストに収録されている「Old Folks」も聴きたかったけど、贅沢は言いますまい。司会者が終演のMC、スタンディング・オベイションに包まれる中、二人は立ち上がって挨拶し、カーテンの向こうに消えて行きました。二人が日本に来てくれて、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。そのことに感謝したいと思います。
1. I’m Your Puppet
2. Sweet Inspiration
(Cry Like a Baby 〜 The Letter A Capella)
3. Cry Like a Baby
4. Do Right Woman, Do Right Man
5. I Met Her In Church
6. Lonely Woman Make Good Lovers (Spooner
7. You Left The Water Running
8. Dark End of The Street
9. Out of Left Field
10. Nobody’s Fool
11. A Woman Left Lonely
12. Hello Memphis(Spooner
13. Come On Over(Spooner
14. He Walks With Me
(Encore)
15. I’m Living Good