2009年03月12日

旅をしてる

帰化植物といって、もともとその土地にはなかった植物が、なんらかの手段によって持ち込まれ、新たな土地で育って根を増やしていくものがある。たとえば道端の「雑草」として片付けられてしまいそうなハルジオンや、さらに和製のイメージのあるタンポポだって、今では西洋種の方が見つけやすくなっているという。
これらの無数の帰化植物は、人為的な持ち込みによるものが多いのだろうけど、なかには渡り鳥の糞に紛れてやってきたものもあるかもしれないし、あるいは旅行者のスーツケースや靴底にくっついて偶然やって来たものもあるかもしれない。そうやって遠い外国からめぐりめぐってこの国にやってきた道程に思いを馳せると、遥かな気持ちになる。
そしてそれはぼくが生まれるずっとずっと大昔から繰り返されてきた、気の遠くなるような営みの、ごくごく一部に過ぎないのだろうね。


最近読み始めたある本の前書きに、こんなことが書かれていて、はっとした。

「わたしたちのからだをつくっている物質の材料はすべて星のかけらからできています。その材料の供給源は地球だけとは限りません。(中略)あなたの耳たぶのタンパク質をつくる炭素原子の一個は、かつてどこかの星雲の一角を占めていた無数の星のかけらだったかもしれません。あなたの助骨をつくるリン原子の一個は、わたしたちの銀河系が進化をはじめたころに誕生したものが、いくつかの星の生涯をめぐりめぐって、いまの場所を仮の宿にしているのかもしれません。」
「星のかけらはわたしたちのからだをつくる成分となって、ずっとそこにとどまっているわけではありません。入ってきた物質は役目を終えていずれ外に出ていく、いや、宇宙に還っていく。(中略)髪の毛や爪ばかりでなく、胃腸や肝臓、骨や皮膚、結合組織や血液中のヘモグロビンの材料となっている原子など、からだをつくっている10の28乗個もある原子は、五年も経つと最後のひと粒まですべて入れ替わってしまいます。」


グーグルアースで地球を俯瞰しながら、そこから一気に高度を下げてぼくの住む町へと急降下していったときのようなあの目の眩む感覚が、これを読んだときに、ふっと襲ってきた。そしてそれは一気にぼくの体へ入り込んで、さらに小さな単位へと突き進んで行く。体から皮膚へ、皮膚から細胞へ、細胞から分子へ。そして分子から原子レベルまで降りていって特殊な顕微鏡で世界を覗いたとき、そこはもはや、ぼくの体でありながらぼくではないような感じがした。ぼくの意識の及ばない、10の28乗個もある原子の宇宙。しかもそれさえも、わずか五年で入れ替わってしまうという。ぼくの気づかないあいだに、原子さえ旅をしてる!
そんなことをとりとめもなく考えながら、電気を消してベッドに潜ると、つかめない流星のようにひゅっと瞼の裏をよぎっていくものがあった。この大いなる旅の循環のなかで永遠に漂着することのないかもしれない、ぼくらの精液のことだ。ティッシュに拭われ、ゴミに出され、焼却されて塵に舞い上がっていった、無数のぼくのかけら。あれも、めぐりめぐって、やがて宇宙へ還っていくのだろうか。
想像もつかないほど広大ないのちの仕組みの中で、なおも確実にぼくらを溶かしていく時間という消化液に浸かりながら、途方に暮れたように目をつむる。


その夜は、何億光年も離れたところにある、まだ生まれたばかりの赤ん坊のような星の夢を見た。  

Posted by hirojitunes at 13:35

2008年10月01日

黄色に輝く稲穂のそばで

透明な韻律のもとで揺れている 身体の中に海があるから

十月の黄色に輝く稲穂のそばで銀のハモニカファの音をはむ

自販機の隙間に消えてく猫たちよ影切森でいつか会えたら

幾つかの写真を同時に並べたらそれが言葉になった気がした

肉体を剥ぎ取ったあとに残るもの他ならぬこの精神の顔
  

Posted by hirojitunes at 00:10Comments(0)TrackBack(0)

2008年07月14日

ぐるりのこと

ゲイアイデンティティー(そんなものあるのか)を獲得してから、ちょうど今年で十周年だ。ぐるりと本当に、一回りした感があるよ。
十年前のいつのことだったか、とにかくまだぼくが高校一年生だった頃のことだ。学校に行かず、その日は電車に乗って東京にやって来た。片道四時間のちょっとした家出のつもりだった。そして生まれて初めて、新宿という街に降りた。
「JR新宿駅の東口を出たら〜」とベタだけど椎名林檎の歌を心の中で口ずさみながら、はやる気持ちで東口の階段を上った。そこには歌舞伎町も二丁目もなく、アルタがあった。駅前は平日なのに、見たことないくらいたくさんの人がいた。
学生鞄の中には、薔薇族が入っていた。うしろの方にある分厚い広告のページの中から、新宿二丁目の住所が載っているお店の地図を破って、それに従って新宿二丁目というまだ見ぬ町を目指し歩いた。インターネットもまだ普及してなかった時代で、地方に住んでいた自分はそこに行けば「何か」があるに違いないと思い込んでいた。それほど、当時は世界のなかで我が身の所在の無さに追いつめられていたのかもしれない。
だけど、いつまで経ってもそれらしき街は現れなかった。やがて新宿から四谷という表記の電柱に突き当たって、どうやら違うと気づいてまた来た道を戻った。そうやって、新宿一丁目から三丁目のあたりを、何度か往復した。
平日真っ昼間の仲通りは、それはそれはただの小路にしか見えなかった。何を探すでもなく、それでいて何かを切に求めながら、その人通りの少ない通りを歩いた。そしてその何かが何かは最後までわからなかった。こんなに遠くまで歩いて来たけど、見つけられなかった。途中で入ったルミエールで、それでも少しだけ淫微な空気を吸ってるような気持ちになったけど、その頃にはすっかり歩き疲れてしまい、しばらくガードレールに座ってた。当たり前のように、道行く人は誰一人知らない人だった。制服が、学生鞄が、少し重たかった。ビル越しに夕日が射していたのがなんだかひどく物悲しかったことを、よく覚えている。

結局その日はそのまま帰ってきちゃったんだ。というよりも無性に帰りたくてたまらなくなった。そしてわかっていたつもりのことが、ようやく実感としてわかった。居場所ってのはどこかに用意されているんじゃなくって、自分で作らなければならないんだって。そのことがきっかけになったのかわからないけど、なんだかそれ以来吹っ切れてさ、ゲイ雑誌の文通欄に手紙を出したりし始めたのも、それからすぐのことだったよ。

今ならわかるんだ。誰かに、ただ抱きとめてもらいたかったんだろ、あのときのおれ。それは今でもあまり変わってないのかもしれないけど。ねえ、十年前のおれ、あれから本当にいろいろなことがあったけど、ぼくは今もなんとかやっているよ。十周年がおめでたいのかよくわからないけど、おめでとう。だけど出来ることならそんな言葉よりも、あのときのおれの背中をそっと抱きとめてやりたい。なんて、そんなことを思うよ。そして、この十年のうちに出会ってくれた何百人もの友人に、ありがとう。  

Posted by hirojitunes at 17:19

2008年07月08日

七夕神社

月かげの 山のは 近くかたぶけば
ほのぼの しらむ 東のそら


今夜は地元清水の七夕祭りに行ってきた。
清水駅前のアーケードに軒を連ねる商店街の端から端まで、夏祭り特有の出店でごった返していた。宵が降りるにつれて出店に吊られた裸電球がこうこうと輝きはじめ、次第に夏の夜の匂いがあたりを覆い始めるのだった。
りんご飴をかじりながらにぎやかな群衆のなかをそろそろ歩いていると、その中に混じって「七夕神社」なるものがあった。おそらく普段はフリースペースとして使われているだろうテナントが神社の面構えに見立ててあり、そこには無数の笹と短冊が用意されていた。実に久しく七夕というイベントから遠ざかっていたのもあって、ようし、と意気込んでぼくも短冊を一枚したためてお参りをした。二礼二拝二拍手してください、と説明書きがあり、つつましやかなご神体を前に、ぱんぱん、と手を合わせた。

そしておみくじをひく。ぼくは昔っからこのおみくじというやつが大好きだ。ぼくはこれを神様からの手紙だと思っている節があって、いつも神妙な心持ちになったつもりで百円玉を払う。そしておみくじに書いてある歌を詠むのが、何よりも楽しみなのだ。

「月影の山の端近く傾けばほのぼの白む東の空」

これは、夜明け前ということかな。一読、二読したあとに、月が西の山に沈みかけながら、背を向くとそちらには朝の気配がやって来ている風景が目に浮かぶ。運勢書きを読み上げるよりも、こちらを詠む方が遥かに伝わるものがある。
ちなみに待ち人の欄には「きたる 早し」と書いてあった。なんて心強い響き。

空には雲がかかっているけれど、心の霞はどんどん晴れていくような最近です。夜明けまでは、すぐそこだ。  

Posted by hirojitunes at 16:15

2008年07月06日

海 東京 さよなら

それはきっと、ぼくや君が死んでなくなってしまっても、
ただじっと、同じかたちのままそこにとどまっているんだよ。

地層のように堆積した遥かな時間の残骸のどこかで、
ただじっと、それは安らかな夢を見つづけるんだ。

ぼくらの墓標のそばで、
いつか君に教えてもらった音楽が聴こえてくる。

ぼくや君が死んでなくなってしまっても。

0706

  

Posted by hirojitunes at 00:45

2008年07月01日

君の犬

小学生のまだ低学年の頃、下校途中にある家の犬に挨拶をするのが日課だった。
わんわん、こんにちはー、って。でもその日はなんだか犬の様子が違って、
よく見てみると、犬は離れたところにある餌の容れ物に近づきたいんだけど、
その犬を繋いでる鎖が柱にぐるぐるに巻き付いてしまっているせいで、
どんなに頑張っても鎖の距離が届かなくって、とても悲しそうな顔をしていた。
だからぼくはなんとか犬を助けてやりたい衝動に駆られて、
その柱に絡まった鎖を元に戻そうとあれこれ考えた末に、
石を投げて犬を誘導することを思いついたんだ。
犬のうしろに石を投げると犬がこわがって前に逃げるから、
それを繰り返していけば絡まった鎖もほどけると思ったんだよね。

ぼくが石を投げるたびに犬はうまいこと徐々に歩みを進めていって、
あと何回か繰り返せば鎖がほどけそうだった。
そしたらおもむろに家主さんが出て来て、
「なんてことするの!かわいそうじゃない、こんなに震えて!」
ってものすごい剣幕で叱られてしまったんだ。
違うんだよ、そうじゃないんだよ、って説明したかったけど
そのときのぼくはもう何も喋れなくなってしまって、
逃げるようにうちまで走って帰ってしまった。

今日家の周りを散歩していたら、なぜだかそんなことを思い出した。
あの、胸にささるような感じ、今でもたまにあったりする。
そしてやっぱりぼくは何も言えなくなってしまう。

あのとき、ちゃんと自分の気持ちを説明することが出来ていたら、
いったいどんな風になっていただろう。  

Posted by hirojitunes at 00:03Comments(1)TrackBack(0)

2008年06月30日

ハローグッバイ

失うほどに得るものがあるんだってわかるようになってきたのは、最近のこと。
そして得るほどに失っているものも、確かにあるんだなって、思う。

ただ、ぼくらの身から出入りしていくその「何か」があったとしても、
それにいつも気づけるかどうかはわからない。
なくなってしまってからずいぶん経ったあとに、そのことに気づくこともある。

ぼくが君の中から出て行ってしまったことに、君はいつ気づいたんだろう。

だけどぼくはいつか今とは違うかたちをして、
ふたたび君のもとに飛び込んでいける日が来るといいなと、こっそり思っている。
そう、あれから一年経ってようやく思えるようになった。

ぼくはめぐりめぐって、まだまだ生きていこう。

sakura  

Posted by hirojitunes at 21:56Comments(0)TrackBack(0)

2008年06月29日

悪魔と踊る

この身体から逃れることが出来たなら。そう、何度思ったか知れない。
そう簡単には逃れられないと、知りながら。
人生の一方で身体の快楽を享受しながら、
また一方では身体による苦痛を引き受けなければならないことに、
僥倖とも絶望ともつかぬ感情を抱く。

僕はこれからも、何度でもこの身体によって引き裂かれていくのだろう。
ただそんな終わりのない予感だけが、
ある特別な重量をたたえて梅雨の上空に垂れ込めている。

akuma  

Posted by hirojitunes at 13:22Comments(0)TrackBack(0)

2008年01月13日

時計のない公園で

不規則に回転しながら、枯葉がひとつふたつ、地面に落ちていった。やがて大きな風を受け、無数の茶色い葉が、回転のたびにちらちらと光を反射させながら、頭上の木の枝からやってきた。
そのまま風景のどこにも焦点を合わせず、ただそこに拡がる視界いっぱいを眺めていると、枯れ木の枝や、常用樹のまだ青々しい緑らが、とてもおおきな韻律にしたがって、そよそよさわさわとさんざめいているのだった。


ふと、足もとに、ひいらりひいらりと枯葉が落ちてくるのを眺めていると、言い知れぬ旅情が胸の内に湧き上がってくるのを感じた。旅情ーーーそれは、自分がこれまで生きのびてきたことに対する旅情、とでも言うべきものだった。

僕には時々、自分が自分の歴史を背負ってることが、まるで現実味の無い絵空事のように思える節があった。そんなときはきまって、周囲の人々の会話や声が、まったくの異国語のように、ただのさざめきとしてしか耳に届かなくなるのだった。この世界の前提の脆さを思った途端、それまで僕をそこに繋いでいたあらゆる身体的な感覚が、そろそろと剥がれ落ちていくのがわかった。
その状態から脱するためには、僕は僕の知覚できうる世界の拡がりを、ただ一心に想像するしかなかった。駅前の商店街のあの賑やかな気配を、地平線いっぱいにひしめく住宅街を、東京の曇った上空を、水滴のような地球の丸みを、黒々と深い宇宙のしずけさを、ひとつひとつ身体のなかに再構築していくーーー

そして、その意識の暗がりのなかで、きまって僕はひとつの視線に気づくのだった。この手足にまといつく、世界からの不気味な視線に。日常の背後にまといつく、僕という自意識に。


僕はいつまでも、枯葉とその影の織りなす流れの不思議な美しさを、頭のなかで再生することが出来た。それは一瞬のようでいて、途方もなく遥かな時間だった。
猫のように丸まった背中が、傾きかけた陽射しにあたためられゆくのを感じながら、もうしばらくこの風景に座っていようと思った。  

Posted by hirojitunes at 17:46Comments(0)TrackBack(0)

2007年09月24日

美しい朝

君を抱く
よろこびを抱く
かなしみを抱く


冬の朝
みちばたに張った
薄氷を
そうっと剥がして
たいせつに
持ち帰った

あれは
ひとりでに
ぱりんと
割れたのだったか
それとも
その冷たさに
堪えきれず
自ら落として
しまったのか


どうして
そんなことを
今頃になって
思い出すのだろう


あのとき
割れてしまったもの
手放してしまったもの
そのかすかな震えを
忘れないように

地面に
沁み入っていく
氷のように
しんとした冷たさで
消えてしまわないように


ただそんなことを
思いながら

今は君を抱き
抱きしめられている  

Posted by hirojitunes at 10:51Comments(0)TrackBack(0)

2007年08月03日

黒天狗

電信柱のうえに立って、西を見ている。
黒いマントを羽織って、まるで天狗になった心持ちで
君の住む町を遠く見渡す。

世界には、まだ知らないものがたくさんある。
それでいて、すでに知った気になって
それ以上知ろうとしないものも、
本当にたくさんある。

ぼくは、君を、知りたい。

電信柱のうえから見渡せる君の町のその向こうに
だいだい色のひかりが見える。
それを見ているぼくの羽織ったマントには
漆黒の夜がはためいている。

夜が来たなら、ばさばさと大袈裟な音を立てて、
君の町の空を目指す。

0716  

Posted by hirojitunes at 23:07Comments(0)TrackBack(0)

2007年07月09日

夢で逢いましょう

ぼくらはきっと、どこまでいっても
わかりあうことは出来ないんじゃないかな。
ふとした時に、そんなことを思う。
わかりあえないことだけわかって、
そしてふとんを頭までかぶって眠る。

ひとつになろうとして、時々ぼくらはひっついて眠る。
ぼくの額に君のまつげがあたって、
まばたきのたびにくすぐったい。
そんなしあわせを君に悟られまいと、
ぼくは黙ったままこのふわふわした気持ちを抱く。

ぼくらはわかりあうことが出来ないから、
だから少しでも君をわかりたいと思えるのかもしれない。
そんな単純なことだけわかって、
今夜は君とふとんを分け合って眠る。
  

Posted by hirojitunes at 00:39Comments(0)TrackBack(0)

2007年06月30日

ブルー・ラヴァー・ブルー

別れ際になると、離れがたさのあまりいつまでも
そこにとどまってしまうような子どもだった。
放課後はいつも、いちばん最後まで教室に残っていた。
日が暮れても、まだまだ遊んでいたかった。

誰かと一緒にいた時間を反芻するひとりの時間も好きだけれど、
ぼくはやっぱり誰かと一緒にいる時間をたいせつに思う。
でも、とってもたいせつだとわかっているのに、
その気持ちはなかなか伝えられない。

もっと君にやさしくしたいと思っていても、いざ向かい合うとうまくいかない。
君を前にすると、どうしてだろう、頑なになってしまったり、
そっけなくなったり、思わず気が立ってしまうことだってある。

それでいて、別れ際になると、それまで果たせなかった思いが
満ち潮のようにぼくの足もとにたまってゆく。
あの時ああすればよかったな、もっとやさしくできたのにな、なんて、
気がついたときにはいつだって背中を見送ったあとだ。

いくつもの果たせなかった瞬間にさよならも言えないまま、
ほこりだけが積もっていく。

0630  

Posted by hirojitunes at 00:54Comments(0)TrackBack(0)

2007年06月26日

朝が来て、それから

日曜の朝、君を起こさぬようにしずかに朝ご飯をつくる。
じゃがいもとキャベツとベーコンの入ったコンソメスープ、
半熟の目玉焼き、トースト、冷たいどくだみ茶。
あたたかな蒸気が部屋じゅうに立ちこめ、やがて君も目を覚ます。

お腹を膨らませたぼくらは、もう一度ふとんに潜り込む。
冷房の効いた部屋のなかで、絡まり合って、そして次第にほどけていく。
しあわせで、でもどうしてだろう、少しだけかなしい。

うすく、うすく、目をつむる。

0626-2  

Posted by hirojitunes at 01:04Comments(0)TrackBack(0)

GREENFIELDS

ぼくの頭のなかにはちいさな庭みたいなものがあって、
そこには一面に広がるゆたかな苔やら、まだつぼみのやわらかいばらの花やら、
だいだいの成る木やら、たくさんのみどりが生えている。
毎朝、出かけるついでにそれらを眺めるのが好きで、あぁ、植物ってかわいいなぁとうっとりしてしまう。
そして、土が乾いた頃合いを見計らってはときどき、じゃぶじゃぶと水をやったりする。
すくすく育つといいなぁ、いつか花が咲くのかなぁ、なんて思いながら。

ぼくが「好き」だとか「愛」だとかいう言葉を発するときの心持ちというのは、
なんだかこのみどりと向かい合っているときのそれにとても似ている。
ぼくは君に、水をじゃぶじゃぶ、あるいはちろちろやるような仕方で、やさしくしたい。

じょうろの水が足りなくなってしまったり、
だいだいの木に成った実をついぱくぱく食べてしまうこともあるけれど、
健やかに育ってゆくみどりを見守るのが、ぼくは本当に楽しいんだ。
そしてその庭を育んでいける器量を、ゆっくりゆっくり培っていきたいと思っている。

0626-1  

Posted by hirojitunes at 00:29Comments(0)TrackBack(0)