2016年03月15日

コラムアーカイブ ユリイカ特集・岩井俊二

特集*岩井俊二
岩井俊二を生み出した環境
大根仁

 僕が最初に岩井さんの作品を見たのは、フジテレビの深夜ドラマ枠『La cuisine』(‘92
)の「オムレツ」か「GHOST SOUP」だったと思います。既存のドラマとまったく違う画面にびっくりしました。それで「岩井俊二」という名前を覚えたんですけど、当時はネットとかないからどういうひとかはわからなくて。
 九三年に、のちに岩井さんとロックウェルアイズを作ったソニーレコードの久保田修さんから「岩井俊二という天才とPVを作ったので見て」って渡されたのがTO BE CONTINUEDの『君とずっと…暮らしたい』で、岩井さんがカメラマンの篠田昇さんと組むようになった初期の作品だと思いますけど、これもすばらしくて、そこで岩井俊二がどういう背景のひとかがちょっとわかったんです。PVを撮りつつドラマを撮るというひとは当時そんなにいなかったので――僕の師匠の堤幸彦なんかもやっていましたけど――驚きましたし、何よりも見たことのない画質の高さ=ルックだったんです。
 そしてその年の夏、岩井さんの代表作である『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』のドラマ版が放映されて度肝を抜かれた。そういうひと多かったと思いますけど(笑)。あまりにも評判になったので、すぐ深夜で再放送されて、そのときもたまたま見ていたんですけど、この人は日本の映像史を動かすんじゃないかと思いました。その頃は僕も二五歳くらいで半分AD、半分ディレクターという感じで、ドラマの作り方や機材の使い方、業界のシステムとかもわかっているつもりだったので、自分たちがやっている環境とそうかけ離れてないところで、これだけ豊かなものが撮れるということに衝撃を受けました。そのときにどんなスタッフで、どんな仕掛けをしたらあんな画が撮れるのか、少し調べたんです。最大の特徴であるルックはビデオカメラで撮影して編集でフィルムタッチに加工するやり方で、それまでも佐藤輝さんとか同時代だと中野裕之さんとかそれこそ堤とかたくさんのひとが追求していたんですけど、まだビデオアート的な表現だったりPVの中での表現になっていて、要するに「カッコ良く見せる」ための手法だったんですけど、それをお茶の間にまで届く表現というか、ドメスティックな背景や人物で表現できていたのはちょっとした“事件”でしたね。「打ち上げ花火」のノリミチの家の居間から始まるファーストシーン〜友達が集まって〜海が見える道を駆け抜ける冒頭のシーンだけ見てそれを確信しました。というかまあただ見惚れたんですよね、撮影も芝居も編集も音楽もひたすら気持ち良くて。
 現場でどうやって撮っているのか知りたくて、当時ミュージッククリップとかの編集を多くやっていたベイサイドスタジオにいて、岩井さんの編集を担当していた茶園さんにわざわざ仕事を作って聞きに行きました。聞いたらやっぱり撮りの段階でカメラの調整をいじったりしてるんですよね。いまもそうですけどTVドラマって基本的にシステマティックな分業体制ですから、撮影は撮影、編集は編集と職分がはっきりしてるんです。岩井さんは、そのへんを打ち砕いたところがすごかったと思います。『Love Letter』とかにしてもそうだと思うんですけど、岩井さんの功績は、当時行き詰まっていた邦画やTVドラマの映像表現の可能性を広げてくれたということ。六〇年代、七〇年代は邦画でも美しい映像表現がいっぱいありましたけど、八〇年代後半以降、ちょっと停滞している感があったんです。あまり映像美に重きが置かれなくなったというか、TVドラマや邦画はカッコ悪い、CMとかPVの方がカッコ良い、という空気があった。それを岩井さんは覆してくれたんですよ。普通の若いスタッフが自分たちのやっている現場でこんなにかっこいい画が撮れるんだ、と思えるようになりましたから。それが岩井俊二の最大の功績だと思います。。現場のスタッフワークに自信を持たせてくれたんです、岩井さんは。



 八〇年代中盤から九〇年代にかけてって異業種監督とかがもてはやされて、邦画が沈滞してた時代だったんですよね。印象としては、伊丹(十三)さんが孤軍奮闘していたというイメージ。あと、周防(正行)さんが出てきたくらいかな。でも、伊丹さんにしてももともと俳優で文化人だったわけだし、周防さんもピンク映画で活躍されて、蓮實重彦さんのような映画批評家から注目されていた。それに比べると、岩井さんはどこから出てきたのか、文法のわからないところはありましたね。今では珍しくないですけど、カット割りで撮影しないとか斬新でした。カットごとに細切れに撮影するのではなく、ひとつ芝居を付けていろんな方向からカメラを回していく。それを特に何かをお手本にしたということもなく、かなり先駆的にやられていた。PVの撮り方をドラマに当てはめたというわけでもないんですよね。前に岩井さんと対談したときに、どうやってあの方法に至ったんですか?と訊いたけど、本人も覚えてなかった(笑)。僕もひとから、あそこどうやって撮ったんですか?と訊かれて、何となくああなったんです、としか答えられないことってよくありますから、そういうものなのかもしれないですけど。
 もちろん僕も間違いなく岩井さんの影響は受けています。深夜ドラマでキャリアを積んで、センスとテクニックが結びついたところで映画を撮るというやり方も岩井さんのまんまです。クオリティは遠く及びませんが(笑)。一昨年『モテキ』というドラマを撮ったときに、その第二話で、原作で主人公の幸世といつかちゃんって女の子が日本海にクラゲラーメンを食べに行くというエピソードがあるんですけど、さすがに日本海までロケに行く予算はないので近場で何かサブカル少女が小旅行に行きたがるスポットはないかって探して、『打ち上げ花火』のロケ地の銚子を思いついて、じゃあせっかくだからというのでカットの完コピをしたんです(笑)。そのとき久しぶりに『打ち上げ花火』を見直したんですけど、やっぱりすごかった。綿密な脚本で演出も見事だし、一カットとして無駄がない。ファンのひとがサイトでロケ地MAPを作られていてそれを参考にしたんですけど、なずなの家の前のシーンだけどうしてもわからなくて、現場で探したんです。それでこれかな?というのを見つけたんですけど、本当に何の変哲もないびっくりするくらいどうでもいい風景なんです。でもカメラを置いてみたらまさにあのシーンで、こういうのを拾い上げるセンスとか、本当に奇跡的な映像だと思いました。あとまあ思ったのは、やっぱり監督って、予算もスケジュールもタイトで、アイデアや気持ちで役者・スタッフ一丸となって乗り切るしかない状況の頃の作品が一番キラキラしてるんだなあということです。



 「打ち上げ花火」や「Love Letter」で岩井さんがブレイクした理由は、やっぱり『La cuisine』とか関西テレビの「DORAMADOS」とか深夜の三〇分くらいのドラマ枠で経験を積めたことが大きかったんじゃないでしょうか。七〇年代のピンク映画とか八〇−九〇年代のVシネとかある程度マーケットが確立してる中で変なことをやるのが許される場というのが、監督が育つための場所としてあったと思うんですけど、そのうちのひとつに深夜ドラマとかミュージックビデオがあって、そこで岩井俊二という個性が磨かれたと言えると思います。逆に今だとビデオでフィルムライクな映像を撮るのも簡単にできてしまうので、研究したり試行錯誤するということがなくなるんですよね。岩井さんがああいう表現ができたのも、彼の才能に加えてそういう技術的な時代背景があったからではないかと思います。
 ミュージックビデオというのも曲は決まっているし尺も予算もあらかじめ決まっている中で作られるわけです。CMにしてもそうだし、『La cuisine』だったら食べ物をテーマにしなくちゃいけないとかみんな枠が決まっていて、そういった規制があったほうが意外と監督って力を発揮するんですよね。何でも自由にできるとなったら、逆にうまくディレクションできなくなることが往々にしてあるんです。『Love Letter』以降、変な話ですけど、成功して自由になり過ぎちゃったと思うんです。『スワロウテイル』にせよ『リリイ・シュシュのすべて』にせよ、すさまじい映画で今観てもさすが岩井さんというのはあるんですけど、映画としてのバランスがよいかと言うと微妙ですよね。それはやっぱりプロデューサーの不在もあるでしょうけど、岩井さんが自由にやれすぎたというのはあると思います。そうするとセンスが裏目に出ると言うか、かっこいいシーンをどこまでも撮れて落とせなくなっちゃうんですよね。脚本、演出、撮影、編集、音楽etc.全部自分でやらないと気がすまないというのは、それだけ自分の見たいビジュアルがはっきりとあるんでしょうね。僕も映像を撮っていてその気持ちはよくわかるんですけど、やっぱりどこかで止めないといけないと思うんです。他人の目を入れることで客観性が出るというか、自分の見たいものってともすれば自分だけの世界に閉じちゃうんです。
 僕は岩井さんは日本のデビッド・フィンチャーになってもおかしくなかったと思うんです。メジャー映画としてエンターテインメントもやれば社会派もやる、しかも圧倒的な映像センスで。そういう監督ですよね。そういう方向に行かなかったのは、良くも悪くも岩井さんにある“チャイルディッシュ”な資質だと思うんです。岩井さんで大人をちゃんと撮った映画ってないですよね。『打ち上げ花火』は小学生の夏の思い出だし、『リリイ・シュシュのすべて』は中学生から高校生にかけてのモラトリアムだし、『Love Letter』にしてもいちおう大人の女性が主人公だけど、彼氏が死んでしまったショックによるモラトリアムから立ち直る話ですよね。少年少女を描くのが抜群にうまいので、誰も言わないと思うんですけど、やっぱり岩井さんの撮る大人の映画って観てみたいんです。少年少女が主人公でもいいだけど、例えばエドワード・ヤンにおける「ヤンヤンの夏休み」のような作品をキャリアのどこかで撮るべきだったのではないかと、僭越ながら思っています。ちょっと大げさですけど「誰が岩井俊二を大人にさせなかったのか?」は、00年代以降の邦画界の大きな問題だと思っています。具体的に言えば「リリィシュシュ〜」の次に何を撮らせるかっていうことをね、本人含め周りがもっと熟考すべきでしたよ。とはいえ岩井さんは過去の人じゃないし、現役バリバリで映画を作ってらっしゃるのでむしろこれからとんでもない作品を生んでくれると信じています。
 とか言いながら、自分も『モテキ』なんてまさにモラトリアム全開映画を作っているので何にも言えないんですけど(笑)、そこからいかに大人になるかは今後考えていくべきじゃないかと思っています。
(おおね ひとし・映像ディレクター)


  
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2014年03月20日

コラムアーカイブSASUKE



2012年暮れに放送されたSASUKE RISINGについてテレビブロスで書いたコラム。

■ 12月27日。
 襟を正してテレビの前に座りチャンネルはTBS。そう今日はいよいよあの日本全国の仕事そっちのけ筋肉バカたち・・・もとい筋肉猛者たちが大集結するSASUKEが復活する日。しかも「各エリアオールリニューアル!」「サスケオールスターズ全員引退!?」と、SASUKEマニアにとって聞き逃せないフレーズが事前告知によって知らされている。あの金比羅丸船長長野誠が、ミスターSASUKE山田勝己が引退?ありえねえ!!が、ここ数年視聴率は芳しくなく新しいスターも登場していなかったSASUKEにとってこれは苦渋の判断とはいえ仕方のないことかもしれない。「SASUKE RISING」とその名も改められた番組名に期待と不安、そして「なんでオレはこんなバカみたいな番組にハマっちゃったんだろう?」という気持ちで観始めた。今回第28回大会を迎えたSASUKEの醍醐味はたくさんあるが、まずは1stステージに参加する泡沫参加者=目立ちたいだけの素人&ハンパな芸能人たちが早々にずっこけていく姿である。今回は素人系では元自衛官の僧侶・現役の忍者・吉野家店長・13歳中学生あたりが、芸能人系ではイチローのモノマネ芸人ニッチロー・杉村太蔵・ロックバンド撃鉄の天野ジョージ・シングルファザー俳優大浦龍宇一あたりが良い味を出し、一様に期待通りのズッコケっぷりで笑わせてくれた。中でもゴールデン・ボンバーのドラム・樽美酒研二の参加は、番組サイドからのオファーによるものなのか自らによるものなのかわからないが「絶妙」としか言い様のないトピックであった。ゴールデン・ボンバーのことは一度も面白いと思ったことはないが、紅白出場というおそらくこのバンドのピーク時においてのSASUKE参加、しかもメンバーの中で一番の色モノを出してくるあたりは「わかってるなあ」と、関心せざるをえない。あ、バンドでいえば撃鉄のベース田代タツヤはマーシーの息子だそうで今回はボーカル天野だったけど次回は是非参加してもらいたいですね。さて、そんな1stステージも後半は、家族に迷惑かけっぱなしの筋肉バカ・・・もとい、SASUKEというモンスターに人生を賭けたマッスルウォリアー=常連&オールスターたちの登場によってバラエティ色が薄まりガチバトルになっていきます。そしてまさかのSASUKEオールスターズ全員脱落・・・何度も引退を宣言しては撤回&復活してきたSASUKEの狼中年ことミスターサスケ山田勝己も、SASUKE最強のチャンピオンであり史上2人目の完全制覇者&第50金比羅丸船長・長野誠も2枚目のそびえる壁をクリアすることができなかった。SASUKEマニアにとって、この2人が同じ障害物の前でSASUKE人生に幕を降ろすことになってしまったことは感慨深い。かつてはオールスター同士競い合っていたが、ここ数年山田と長野の差は開くばかりであった。バイト〜失業を繰り返しながら自宅庭にSASUKEセットを作り、冷笑を浴びながら加齢と筋肉の衰えに抗い参加し続けた山田は2005年の14回大会以来ずっと1stステージで敗退。一方長野はファイナルステージ進出5回・最優秀賞8回の記録を持ち、本業(漁師)では漁船金比羅丸を50トンの大型船に買い替えるという、まさにチャンピオンにふさわしい姿を堅持していた。そんな明暗が別れていた2人が同じ壁の前で膝を崩し、SASUKE人生を終えてゆく姿に泣けずしてなにに泣けるというのだ。あまたのスターたちを生み出してきたSASUKEではあるが、オレたちにとってSASUKEの歴史は宿命のライバル山田勝己と長野誠によって支えられてきたと言っても過言ではないのだ。ちなみに長野の船の操縦席には家族の写真と共に山田との2ショットが飾られているという。何それ!超良い話じゃん!!オレはそれまで飲んでいた氷結レモンを、よりアルコール度数の高い氷結ストロングに変え、山田と長野の勇姿に乾杯した・・・おつかれさん、良い夢いっぱい観させてもらったぜ、山田さんアンタこれからどうするんだい?無職なんだろ・・・そうだ、長野の船に乗せてもらって漁師になったらどうだい?これからはさ、大海原という障害物に2人で挑んでいくのも悪くねえぜ・・・ここでふと気になってTwitterを開いてみた。まず自分のタイムラインを見ると・・・SASUKEを観てるヤツなんか誰もいない・・tweetしていたのは掟ポルシェとせきしろ・・・ブロス臭が漂うのみ。あれ?盛り上がってるのオレだけ?と、SASUKE・長野・山田で検索すると、出てくるわ出てくるわ全国の同士たちの涙と感動のtweetが!!いやあ、みんな同じ気持ちで観ているんだなあと、気を取り直して続きを観た。正直、長野と山田含むオールスターが脱落となると観るべきものはない。ここ数年長野を超えてファイナル制覇2回の偉業を成し遂げ、今回も危なげなく3rdステージまで進出した靴の営業マン・漆原は間違いなく長野に代わるSASUKE新チャンピオンであろうが、いかんせんキャラが弱い。無職の山田、漁師の長野に比べて靴の営業マン(しかも女子高生のローファーで有名なHARUTA勤務)って・・・いやまあギャップという点においては悪くはないんだけどさ・・・。とーこーろーがー!!!出て来たんですよ!ニューカマーが!!その名も朝一眞!!植木職人!!照英をアニマル化したようなルックスとデカい声、さらに上半身裸の背中一面にマジックで太書きされた「SASUKE魂」!!成績は3rdステージ進出の総合3位。30歳という年齢は若干気になるが、まさしく新しいSASUKEバカの登場だ。山田勝己の遺伝子を継ぐ者として申し分ない。今回山田は新世代へのメッセージとして「もっとSASUKEを好きになって欲しい。まだまだ若い子に伝えなあかんことがある」という言葉を残した。それを涙ぐみながら聞いていた朝一眞(名前がまた最高)よ!!まずは山田に弟子入りしてくれ。そして次の大会に師弟2ショットで登場してくれ!!それこそが今回視聴率8.6%という残念な結果に終わってしまったSASUKEの、本当のRISINGとなるはずである!!
  
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2013年02月01日

コラムアーカイブ 川勝さん。

aa8d598d.jpg昨年、毎日新聞に書いたもの。
あるテーマに沿って本を三冊紹介するコラムで
毎日新聞の担当の方(とても良い方でした)から「川勝さんをテーマに」と。
少ない文字数で、新聞という大きなメディアで、どう川勝さんのことを伝えるか
何度も何度も書き直しました。
和田誠さんに書いてもらったイラスト、嬉しかったなあ。


【1980〜90年代の東京には確実に【ポップカルチャー大学】というキャンパスが実在した。教室は映画館・ライブハウス・クラブ・芝居小屋・雑誌・TV・・・・ありとあらゆる場所とメディアにあった。川勝正幸さんはそのポップカルチャー大学の教授であり、僕は学生だった。【川勝さんが編集者・ライターとして紹介する映画や演劇、ミュージシャンやアーティスト】=【ポップカルチャー】に触れてその道を目指した川勝ゼミ生たちは皆、いつか自分の作品を川勝さんに紹介してもらうことを夢見た。ゼミの劣等生だった僕だが、初監督映画「モテキ」を川勝さんに誉めていただいたことで卒業証書を受け取ったと勝手に思っている。「勝手に」と思わざるをえないのは、川勝さんが今年の1月に急逝されてしまったからだ。これからは誰に誉めてもらうことを、自分たちの作品の基準にすればよいのか?これからは誰のレコメンドを信頼すればよいのか?希代の目利きを失った僕たちは途方に暮れている。
 「21世紀のポップカルチャー中毒者」は、2001年以降に川勝さんが取り上げた映画・TV・音楽・アートなどをまとめたカルチャーコラムや、各ジャンルの表現者たちとの対談などをまとめた一冊。驚くべくはそれらの全てが雑誌・紙媒体で発表されたものでWEB媒体はゼロ。21世紀=ネット時代になっても自身のホームである場所を離れなかった川勝さんのフェアな姿勢と頑固さが伺い知れる。紹介された作品は幅広く、記憶に新しいものばかりなので川勝入門としてふさわしい一冊。
「丘の上のパンク〜時代をエディットする男・藤原ヒロシ半生記」は、ストリートカルチャーのカリスマ・藤原ヒロシ氏の半生を追ったルポルタージュを装っているが、音楽・ファッション・ストリート界で藤原ヒロシが関わってきた膨大な数の人を取材し、証言を得ることで、‘80年代以降のカルチャー全般を浮き彫りにする壮大なドキュメンタリー本となっている。副題である「時代をエディット(編集)する男」とは実は川勝正幸本人だったのではないか。
残りの一冊は川勝さんが今も天国で編集しているはずの「21世紀のポップカルチャー中毒者パート2」とさせていただきたい。この本に紹介されるような作品を作り続けることが、僕らポップカルチャー大学川勝ゼミ生の、卒業してもなお続く川勝さんへのレポート提出なのだ。】


川勝さんイラスト



ポップ中毒者の手記(約10年分) (河出文庫)ポップ中毒者の手記(約10年分) (河出文庫)
著者:川勝 正幸
河出書房新社(2013-01-09)
販売元:Amazon.co.jp


巻末の小泉今日子さんのインタビュー、泣けた。
取材・構成の辛島いずみさんの仕事にも。  
Posted by hitoshione at 19:24Comments(4)脳天日記

2013年01月28日

コラムアーカイブ

都築響一さんのメルマガで、昔書いたコラムをアーカイブとして再掲載していたのが
面白かったのでマネしてみます。
2年前くらいにモバイルブロスというテレビブロスの携帯サイトに書いたものです。
文字数が緩やかで書いてて楽しかった。


モバイルブロス2010年11月「ブラックメール」
11月26日に拙作ドラマ「モテキ」のDVDボックスがリリースされます。深夜ドラマとはいえそこそこは評判になったし当サイトでも特集を組んでいただたりしたのでご存知の方も多いかと。昨年から今年にかけてほぼこの「モテキ」の仕事しかしてこなかったオレとしては一応このDVDリリースで作品のフィニッシュとなることは万感せまるものがあります。けっこう色んな人に誉められたけど、いやあぶっちゃけ良くやったと思うオレ。うん、胸を張って面白いモノを全力で作りましたと言えますよ。DVDはマジで手塩にかけて育てた娘を嫁に出す思いです。そもそもこのドラマ、企画の成り立ちが相当にいびつでして。最初はテレビ東京ではなく、業界のエリート官僚の集まりとされている某広告代理店からのスタートでした。「ウチで放送枠と予算を作るんでひとつ派手にバア〜ン!とモテキ花火打ち上げましょう!!」みたいなこと言ってたな最初の打ち合わせで。そんじゃ早速脚本とキャスティングを進めましょうと準備をし始めたのが去年の夏前くらい。12月には脚本の半分くらいと書き上げ森山未來をキャスティングしたものの、待てど暮らせど肝心の放送枠が決まらない。こりゃヤベえなあと思いつつも準備を進めている内に年が明けて・・・当初は4月クールの予定だったからそんな時期になって放送枠なんか取れるわけがない。どうすんだよおい!脚本もどんどん出来てるし主役も決まっちゃってんぞ!と、こちらが焦りまくってるうちに・・・・バックれました、その人たち。お詫びの一言もなく「放送枠取れませんでしたー」って。いやあ途方に暮れましたね。長年この仕事をやってきて何回かこういう経験はあったけどここまで準備して企画が頓挫したのは初めてでした。あえて露悪的な喩えをすると、妊娠8ヶ月もう堕胎できない状態で「やっぱ結婚無しね、バイバ〜イ」と彼氏に逃げられた不幸な女の気分。それからすったもんだあって最終的にはオレがテレビ東京さんに「このお腹の子の父親になってくれませんか?」と泣きついたんす。テレビ東京さん、優しかったす。「いいよ、産もうよ、お金は無いけどその子を立派に育てて幸せになろうよ、お金は無いけどね」とは言わなかったし、そんなに「金無い」主張はしなかったけどほぼそんなニュアンスで「モテキ」という子を受け入れてくれました。燃えましたねオレ。オレは才能もオリジナリティも無いけど、ネガティブな状況を負のパワーに変換して仕事をすることにだけは長けている。途中で逃げ出したあの糞野郎共を絶対見返してやる!良い作品にして後悔させてやる!みんなに愛されるドラマに仕上げてやる!!そんでいつか絶対あいつらを目の前で謝罪させてやる!!もちろんそんなオレの気持ちや力だけではなく、すべての役者・スタッフのパワーが集結して出来上がったのが「モテキ」です。オレは元々そんなに暗い性格じゃないので結果オーライならどんなに酷いことをされても忘れてしまう。事実、その糞野郎共がバックれてくれたおかげで自由な制作環境で「モテキ」が作れたとも思う。糞野郎共が目論んでいた局や予算だったらもっと口出しするヤツが多くてあの形で「モテキ」が出来上がることもなかったはずだ。だからもうあいつら糞野郎共のことをどうこう言うつもりはない。むしろ心のどこかで「バックれてくれてありがとう」とも思っている。が、問題はヤツらにはおそらく「悪気」も「悪意」もなかったであろうということだ。自分たちの発案でやるはずだった企画が流れたことに関して何も思っていない。「仕方ないっすね〜」なのだ。悔しさも懺悔の気持ちも無いのだ。だってヤツらにとって「モテキ」企画が流れても給料にもボーナスにもなんの影響も無いもん。ところがオレはそうはいかない。1年以上かけてやるはずだった仕事が目の前から消えたとなりゃ事務所の所属しているとはいえ歩合で食ってるオレにしてみりゃその期間無職無収入だ。オレだけじゃない、役者もスタッフもやるつもりで空けていたスケジュールが丸々空いてしまうのだ。そういうことをまったく考えていないのだよ、ヤツらは。「いやあモテキ来なかったすね〜」なんつってどこぞの酒場でヘラヘラしているのだ。どこの業界も似たようなものかもしれないが結局能力も無いのに会社なり組織の既得権益でのうのうと生きてやがるヤツらがうようよしているのだ。そして繰り返すが恐ろしいことにあいつらには「悪気」も「悪意」も存在しない。この世で起きているありとあらゆる問題の根幹は実はそこにあるんじゃないかとオレは思っている。

 てな話とはまったく関係ないんだけど昨日知り合いの女性編集者とモツ鍋食いながら飲んでたのね。そのコは「モテキ」の大ファンで「自称いつかちゃん」なんだけど東大出身25歳でサブカル好き(以降・仮名いつかちゃん)。見た目は可愛いんだけどどうにもモテない。以下オレとの会話。
「どうすか?恋愛は?モテてる?」「いやー全っ然モテないすねー、どうでもいい男にはモテてるんすけどねー」「へーそうなの?」「タイプじゃないんですよねー」「どんな男?」「2コ上のD通マンにこの間告白されました」「すごいじゃん、どんなヤツ?」「KO大学出てて都心の実家のそばのマンションで一人暮らししてるらしいです、でもご飯と洗濯は実家だそうです」「完全にお坊ちゃんじゃん、世の中的には超優良物件だぜそれ」「いやーでもさむいんですよ色々と」「どんな?」「まず合コンで知り合ったんですけど次のデートの誘いが【フェラーリの新車試乗会に行かない?】って」「(爆笑)マジで!?」「マジですよ、なんでも家族で海外旅行した時にカードで300万使ったらフェラーリからインビテーションが来たらしいんですよ」「なにそれ?行ったの?」「行かないですよそんなの!で、けっこう誘いがしつこかったから一回デートしたんですよ」「どんな?」「まず渋谷の109の向かいの映画館で【ナイト&デイ】観て」「トム・クルーズとキャメロン・ディアスの大味映画でしょ?」「そうそう、超つまんなくて、アタシ速攻寝ちゃって」「で?」「それで映画館出たら【いやーすごいおもしろかったねー】とか言って」「うんうん」「そんで【道玄坂の上にある店予約してあるから行こう】って」「まあそうなるよね流れ的には」「で、すごいのがタクシー拾ったんですよ!109前から道玄坂上ですよ!歩いて3分ですよ!!」「うわっ!」「アタシの会社なんか今タクシー代全然出なくて仕事が夜中になった時は会社のソファーに寝たりしてるのにこいつらは1メーターどころか200メートルの距離を・・・って悔しくなっちゃって」「そりゃそうだ・・・」「で、店出て歩いてたら【キスしていい?】とか言ってきて。わざわざ聞いてくるのも腹立つじゃないですか?その辺のリスクヘッジだけはちゃんとしてやがるんですよアイツらはっ!」そこまでは笑って聞いていたオレだったが目の前にいるそのコが「モテキ」のいつかちゃんに見えてきた。しかもあの可愛いいつかちゃんがバブル野郎にモテ遊ばれてる・・・かどうかはわからんし、そもそもそんな輩の誘いに乗るのもどうかと思ったがとにかく義憤に近い怒りが沸々してきた。「それからもメールとかけっこうしつこくてほんと嫌・・・しかもミッドタウンのイルミネーション見に行こうとかヴィトンのレセプションパーティー行こうとかベタなのばっかりで。行かねえよバカ!みたいな・・・アタシはドアーズのドキュメンタリー映画とか行きたいんですよぉ」「・・・・」ドアーズのドキュメンタリー映画にデートで行くのも如何なものかと思うが、どうにもその野郎が許せずオレは行動に出た。「・・・いつかちゃん」「え?」「携帯貸して」「え?」「そいつからのメール見せて」「・・・どうするんですか?」「そういうヤツは徹底的にバカにして笑い飛ばすことだよ」「・・・はい」
所謂ブラックメールというやつだ。オレはそのコに成りすましてメールを打った。【今、担当してるコラムニストとモツ鍋なう。つまんないですなう。鍋も私も煮つまってるなう】さらにさっきまで聞いた一連の出来事をオレの12500フォロワーに向けてツイートした。あっと言う間に50mention。「なにそいつ!?」「さむっ!」「今どきそんなバブリ〜やついるの!?」「SSI!(さっさと死ねばいいのに!)」などなど同調する返信ばかりでいつかちゃんも大喜び。「すご〜い!」とか言ってるうちに返信メールが来た!【モツ鍋良いなあ〜モツ鍋といえば中目黒の鳥小屋と恵比寿の蟻月が有名だよね。行ったことある?】うわベタ!モツ鍋=鳥小屋&蟻月って今どきTOKYOWALKERでも扱わないわ!しかもさりげなく誘ってやがるし!すかさず返信【蟻月は行ったことあるけど変な人とだったから良い思い出ないな〜鳥小屋行ってみたいです♪】すぐに返信が来て【じゃあ今度鳥小屋行こう!あんまり飲みすぎないようにね】リアクション早っ!ここで10分くらい寝かして返信【ちょっと酔っ払ったみたいでトイレに避難中!しつこいメールでごめんね。このまま二軒目に連れていかれそう。終電までには帰りたいにゃ〜】またすぐ返信が来て【むしろ終電逃してタクシーで帰った方が楽なんじゃない?タクシー代は出ないの?】出たタクシー!こいつどんだけタクシー乗ってんだよ!?怒りを抑えつつすぐに返信【タクシー代なんか出ないよ〜なんか六本木連れてかれるみたい・・・】で、またすぐに返信【マジで!?もし終電逃して朝まで時間潰したくなったら連絡ちょうだい、付き合うよ(笑)】これポイントですよ、優しさをアピールしているけど決して強要はしない、あくまで相手が頼んできたらそうするというリスクヘッジをここでもかましているわけです。いい加減気分が悪くなってきたオレといつかちゃんは次のメールで最後にした【なんとか逃れて終電間に合いました。何回もウザいメールごめんなさい、また連絡しますね。モツ鍋連れてってください】で、返信が来て【上手く逃れて良かったね。ウザいなんて思ってないから気にしないでよ。モツ鍋行こうね。】
ちなみにここまでのメールのやりとりはほぼツイート実況していたのでオレのメンションはちょっとした祭り状態で99%がそのさむいやりとりにワッショイワッショイだった。

ささやかな復讐は終わった・・・・かに思えたのだが、翌日昼過ぎいつかちゃんから電話が来た。「大変です!大根さん!!」「ん?どうしたの?」「あのD通野郎から【大至急話したいことがあるから電話して欲しい】って!」「そんで?」「なんか怖いからほっといたんですよ、そしたらまたメールが来て【僕、大根さんのツイッター、フォローしてるんだよ】って!!」「マジでえ!?」「マジですよ!どーしましょう?」「・・・・どうしようねえ?」「んー、つーかでもこれで完全に縁切れるんで逆に良かったっす!!電話もしないしメールもシカトします!」「だよね!!」
ざまあみろ!頑張れ!いつかちゃん!!そして売れろ!届け!!「モテキ」DVD!!!全ての恋愛燻り仲間に向けて!!!!!!!!!!!!

と、ここまで読んでいただいた皆さんの中でこう思った人はいないだろうか?「ん?その男は確かにサムいけどそんなに悪い人間じゃないんじゃない?」「むしろ、いつかちゃんのことけっこう本気で好きなんじゃない?」「メールのやりとりなんか優しいじゃん」
そうなんですよ、たぶんこの男は人間的にはそんなに悪くないしむしろ天然お坊ちゃんに近い部分もあるかもしれない。ただ問題はそこなんですよ。この男にはおそらく「悪意」も「悪気」も無い。ただ気づいていないのだ。フェラーリの試乗会もナイト&デイも鳥小屋や蟻月や道玄坂昇るだけでタクシー乗ることもタクシー代出ないの?もそこに対する相手がいることに気づいていないのだ。自分の住む世界と趣味嗜好が全てでありそれに疑いが無く、他者と何かを分かち合う気持ちが無いことに気づいていないのだ。世の中には二種類の人間がいて・・・なんてロジックは大嫌いだが「気づく人間」と「気づかない人間」は確実に分かれる。そしてこの世の概ねの判断や選別は「気づかない人間」によって成されるのだ。】




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Posted by hitoshione at 16:49Comments(3)脳天日記

2013年01月06日

メロン牧場 花嫁は死神 THE MOVIE



1月11日(金)からテレビ東京系にて「まほろ駅前番外地」が始まります。
連続ドラマをやるのは2年半ぶりですが、テレビ東京&もちろん深夜という
ホームグラウンドなので気負いなく自由にやらせていただきました。
一話のあらすじは
【東京のはずれ、まほろ駅前で便利屋を営む多田啓介(瑛太)のもとに、行天春彦(松田龍平)がいつからか住み込む様になった。雇ったわけではないがいつのまにか二人三脚で便利屋の仕事をこなしていた。
そんなある日、男が依頼にやって来た。男の名はスタンガン西村(永澤俊矢)。まほろプロレスという団体の代表で、自分の引退試合の相手を務めて欲しいという。依頼料として入場料全額を渡すと言われた多田は、つい依頼を引き受けてしまうが…】
というもので、原作にはないオレが脚本を書いたオリジナルストーリーなのですが
厳密にはまったくのオリジナルではなく元ネタがあります。

電気グルーヴのメロン牧場―花嫁は死神〈4〉
電気グルーヴのメロン牧場―花嫁は死神〈4〉


これです。
「メロン牧場」はロッキンオンJAPANで長期連載している電気グルーヴの馬鹿話。
長年座右の書として朝、ウンコをする時に必ず読んでいるのですが
いくつか「映像化してえなあ」と思っていたエピソードがあって
中でも数回登場する、ピエール瀧さんが遭遇した静岡のインディーズプロレスラー「スタンガン高村」の話は大好物でした。
で、今回使わせていただいたと。
もちろん電気グルーヴのお二人には許可を取っていますし
スタンガン高村さんにも直接会いに行って取材をしてきました。

というわけで「まほろ駅前番外地」第一話は
「メロン牧場 花嫁は死神 THE MOVIE」でもあるのです。

我ながら良く出来た第一話だと思います。
是非、ご覧ください。

感想、叱咤激励、誹謗中傷などありましたらこちらにどうぞ。
h-one@pop06.odn.ne.jp




  
Posted by hitoshione at 13:18Comments(5)