「日ごとの糧は神から来る」
２０２４年４月１４日
テキスト 出エジプト記第１６章全体 １−２１節 番・番
【 イスラエルの人々の共同体全体はエリムを出発し、エリムとシナイとの間にあるシンの荒れ野に向かった。それはエジプトの国を出た年の第二の月の十五日であった。荒れ野に入ると、イスラエルの人々の共同体全体はモーセとアロンに向かって不平を述べ立てた。イスラエルの人々は彼らに言った。「我々はエジプトの国で、主の手にかかって、死んだ方がましだった。あのときは肉のたくさん入った鍋の前に座り、パンを腹いっぱい食べられたのに。あなたたちは我々をこの荒れ野に連れ出し、この全会衆を飢え死にさせようとしている。」主はモーセに言われた。「見よ、わたしはあなたたちのために、天からパンを降らせる。民は出て行って、毎日必要な分だけ集める。わたしは、彼らがわたしの指示どおりにするかどうかを試す。ただし、六日目に家に持ち帰ったものを整えれば、毎日集める分の二倍になっている。」
16:6 モーセとアロンはすべてのイスラエルの人々に向かって言った。「夕暮れに、あなたたちは、主があなたたちをエジプトの国から導き出されたことを知り、朝に、主の栄光を見る。あなたたちが主に向かって不平を述べるのを主が聞かれたからだ。我々が何者なので、我々に向かって不平を述べるのか。」モーセは更に言った。「主は夕暮れに、あなたたちに肉を与えて食べさせ、朝にパンを与えて満腹にさせられる。主は、あなたたちが主に向かって述べた不平を、聞かれたからだ。一体、我々は何者なのか。あなたたちは我々に向かってではなく、実は、主に向かって不平を述べているのだ。」
16:9 モーセがアロンに、「あなたはイスラエルの人々の共同体全体に向かって、主があなたたちの不平を聞かれたから、主の前に集まれと命じなさい」と言うと、アロンはイスラエルの人々の共同体全体にそのことを命じた。彼らが荒れ野の方を見ると、見よ、主の栄光が雲の中に現れた。主はモーセに仰せになった。「わたしは、イスラエルの人々の不平を聞いた。彼らに伝えるがよい。『あなたたちは夕暮れには肉を食べ、朝にはパンを食べて満腹する。あなたたちはこうして、わたしがあなたたちの神、主であることを知るようになる』と。」
夕方になると、うずらが飛んで来て、宿営を覆い、朝には宿営の周りに露が降りた。この降りた露が蒸発すると、見よ、荒れ野の地表を覆って薄くて壊れやすいものが大地の霜のように薄く残っていた。イスラエルの人々はそれを見て、これは一体何だろうと、口々に言った。彼らはそれが何であるか知らなかったからである。モーセは彼らに言った。「これこそ、主があなたたちに食物として与えられたパンである。】
およそひと月ぶりに、出エジプト講解説教に戻ります。先週で今年の教会の最大行事は終了したと言っても良いかもしれません。本日から、あらためて毎週毎週の主日と通常の諸集会や委員会活動に集中し、コツコツと歩んで参りたく願います。
最初におさらいしましょう。神は遂に、海を真っ二つに分けて、その渇いた海の底を渡って神の民を救出されました。こうして神と共に生きる自由、神を礼拝する自由、信仰に生きる自由へと解放されたのであります。前回は、神の民が正しくこのような宇宙的な驚くべき救いの御業を体験した者として感謝と賛美を捧げたこと、ミリアムの賛美の歌を学びました。
さて、民は荒れ野に導かれています。そこは正しく荒れ野、草木が茂らない不毛の地であります。一行は、「マラに着きました。しかし、そこの水は苦くて飲むことができなかった、のです。その時民は、モーセに向かって不平を言います。「何を飲んだらよいのか」エジプトの地、奴隷の家から脱出させていただいたヒーロー、大指導者であるモーセにひどい批判を浴びせるのです。しかしそれは第16章で言われているように、神ご自身に対して不平を言っていることなのです。ですから、これは神に対する重大な罪です。神に向かっての反抗です。神への忘恩です。それなら神は、そのような罪深い彼らに対してどのように向き合われるのでしょうか。神は、モーセに一本の木を示されます。そして、その木を水に投げ込ませます。すると、水は甘くなったのです。神の民は、圧倒的な奇跡にあずかり、救い出されたにもかかわらず、神の恵みと恩義を忘れるのです。それは、エジプト人より言わばたちが悪いのではないでしょうか。ところが神はそのような者に、戒めと懲らしめを与えられたのではありません。なんと水を甘くしてあげたのであります。あまりにも愚かで恩知らずな者に対して、神はなお恵みと憐れみをもって向き合い続けて下さったのであります。そして、まさに「その所で主は彼に掟と法とを与えられ」たのであります。このような不信仰で愚かな者のためにこそ、神はその親心をもって掟と法、つまり十戒を与えて下さったのであります。
さて、これを確認した上で、第16章に入りましょう。今、学びました物語の枠組みがまさに同じように展開されることに気づかれるだろうと思います。
「荒れ野に入ると、イスラエルの人々の共同体全体はモーセとアロンに向かって不平を述べ立てた。イスラエルの人々は彼らに言った。「我々はエジプトの国で、主の手にかかって、死んだ方がましだった。あのときは肉のたくさん入った鍋の前に座り、パンを腹いっぱい食べられたのに。あなたたちは我々をこの荒れ野に連れ出し、この全会衆を飢え死にさせようとしている。」もう、あまりにあまりにも酷い言葉ではないでしょうか。まるで愛情をいっぱい受けて育てられた子どもが、「ああ、こんな家に生まれて来るんじゃなかった。もう、死んだ方がましだ。何故、産んだんだ」と、面と向かって親に文句を言うようなことのように思われます。
神の民イスラエルがモーセに言ったこと、それは神に言ったことを意味するのであります。彼らは、神に対して不平をぶちまけているのであります。しかも、言うにことかいて、神の御手によって殺された方がましだとさえ言いました。これは、言ってはならない最後の言葉ではないでしょうか。いったい、主なる神は、神の民を殺すことがおできになるでしょうか。エジプト人やファラオに対して、神は主なる神でいらっしゃることを明らかにされます。それは、第７章でこう語られたことを思い出します。「わたしがエジプトに対して手を伸ばし、イスラエルの人々をその中から導き出すとき、エジプト人は、わたしが主であることを知るようになる。」エジプト人は、神の怒りの御手、裁きの力強い御手をもって主なる神を知らされました。一方で、約束されたイスラエルは、救いの力強い御手をもって、神が主でいらっしゃることを知らされたはずであります。その神の力ある、きよい御手に対して、自分たちを殺すため動かして欲しかったまで言うのです。この上なく罪深い発言であります。
それなら神は、彼らにどう応答するのでしょうか。人の親であれば「この親不孝者、この家から出て行きなさい」となるのではないでしょうか。ところが神は、違います。「わたしは、イスラエルの人々の不平を聞いた。彼らに伝えるがよい。『あなたたちは夕暮れには肉を食べ、朝にはパンを食べて満腹する。あなたたちはこうして、わたしがあなたたちの神、主であることを知るようになる』と。」実に、主なる神の応答は、憤りをもって見放すのではありません。むしろ、晩御飯に肉料理、朝ごはんにはパンを、心行くまで食べさせて下さるというものであります。そのようにして徹底的に恵みと憐れみに富まれたイスラエルの神、主を知らせて下さるのであります。
聖書の神さまは、この出エジプト物語において、人間という存在がどれほど罪深い者であるのかという現実に徹底的に直面なさいます。確かに、それはあのファラオにおいて明らかにされました。彼は１０の災いを受けてなお心を神に開かず、いよいよかたくなになって行きました。神は、そこで、ご自身に敵対する人間の頑迷さ、神を認め、神を畏れ、神に従おうとしないその傲慢さを深く学ばれたのであります。しかも実に、人間の傲慢、愚かさ、罪深さをよりにもよって、出エジプト記の後半において、神の民イスラエル自身から学ばれるのであります。
繰り返しますが、それ故に神が人間にどうしても与えようと憐れみをもって、賜った宝物が掟と法に他なりません。つまり、十戒であります。レビ記に詳しく記された、神と人との間、人と人との間の法典であります。それを律法と呼びます。律法は、このようにして生まれ、神が人に送って下さったものであります。確かに15章で神がお語りになられたように「もしあなたが、あなたの神、主の声に必ず聞き従い、彼の目にかなう正しいことを行い、彼の命令に耳を傾け、すべての掟を守るならば、わたしがエジプト人に下した病をあなたには下さない。」はその通りです。しかし、実際には、神の民は主なる神の命令に耳を傾けませんでした。いえ、聞いています。聞いてはいますが、理解せず、理解しないので守らないのです。重んじないのです。ところが、何ということでしょう。彼らはそれでもなお最終的には、病を癒され続けて歩むのであります。
人類の歴史は、先ほど確認しましたように、神と人とで織りなされるものです。人は、神に不誠実を続けます。しかし、神は、このような人間と向き合い続けて下さいます。対話し続けてくださりながら罪深く、愚かな人間を学習したもうのであります。だからこそ、法と掟をお与えになられるのです。確かに、法と掟を守れば癒しを与えると読めます。しかし丁寧に読みましょう。文脈から読めば、誤解できないだろうと思います。民は、法と掟を順守しないで、不平ばかりを言ったのです。それにもかかわらず、神は、私どもに夜には肉料理、朝にはパンを、そして水を与えて下さったのであります。つまり、民の不真実、不誠実、不信仰にもかかわらず、私どもが律法を正しく重んじなかったにもかかわらず、神はなお心優しく、憐れみと恵みとで向き合って下さるのであります。これが聖書が証しする神の真実であります。これが昔も今も、聖書の神の真のお姿なのであります。そしてこの憐れみと優しさで、私どもの罪、不信仰、鈍感さに向き合い抜くそのところで、どうしても御子イエス・キリストが十字架について、私どもの罪を償わせる必要が生じるのです。父なる神は、御子を犠牲にしても、私どもを赦し、私どもを生かし、幸せな人生、生活、神と共に生きる人生を与えたがっていらっしゃるのであります。
最後に、今朝の説教題にした、天から与えられた食物、マナの物語から学びたいと思います。私どもは、特に昨年から今日に至るまで隣地取得のためにもがき続けています。一昨年、最大の究極の祈りの戦いは、取得できる最低限の献金が与えられることでした。私どもは掛け値なしに、自分自身の経済生活を優先せず、神を第一にした、ある冒険のような献金をしたのだと思っています。ところが、お金があっても購入できないままであります。途方に暮れるような思いを抱いたこと、幾たびでしょうか。「神さま、いったい、あなたはどちらの味方なのでしょうか。」そのようなつぶやく思いがよぎったこともあります。
さてしかし、問題は正にそこに隠れているように思います。古の民は、荒れ野に導かれて歩みました。そこはまさに、自分たちの生命を維持する最低限の水や食料を、自分の力で工面できない場所なのです。つまり、神はあえて、自分たちの知恵や力、努力や才覚でどうにかできる状況ではないところへ導かれたという事であります。そしてそれは、今日の私どもへの教訓でもあるのであります。
主イエスは、私どもに主の祈りを与えて下さいました。それはあの時の法と掟の代わりのような意味もあります。その主の祈りの第四祈願は、「日用の糧を、今、与えて下さい」です。「私たちが生きて行くために必要なすべてのものは、あなたから与えられるものです。どうぞ、明日ではなく今日この日を生きるための必要を満たして下さい」そのような祈りです。
私どもは、とりわけ現代人は水も食事も住まいも衣服も、お金があれば何とでもなると思っています。つまり、すべては経済の力によるものだと思っています。だからこそ学歴が必要だ。だからこそ努力が必要だ。だから知恵が必要だと考えています。まるで、お金とお金を得られる最短の道を神のように考えるのです。うっかりするとキリスト者もその罠にはまるかもしれません。しかし今、私どもが学習させられているのは、実に、お金は万能ではないということではないでしょうか。日ごとの糧はもとより教会の土地もまた自分の能力や努力によるのではなく、実に神からの賜物だということを学習させられているのではないでしょうか。健康も生命も、神からの祝福だと言う事であります。思い上がってはならないのです。６節で神は天からの食糧、マナを与えるご目的をさらりと示されました。「夕暮れに、あなたたちは、主があなたたちをエジプトの国から導き出されたことを知り、朝に、主の栄光を見る。」私どもは夜に神に救われた者としての感謝を味わい、朝、目覚めれば、主なる神が今朝もまた私と共に生きて下さること、主の栄光を仰ぎ見るためであります。そのような信仰に基づいた実感ある生活を送りたいのです。毎晩、毎朝、ああ天の父なる神は、主イエス・キリストの父なる神は、私の２４時間をご覧になっておられるのだ。私の人生、生活に必要な糧を、腐らせることなく、十分に与えて祝福して下さるのだと、実感して生き、死にたいと願います。神は、父として子どもの私のことを、一番に顧みてくださるのだと、感謝して過ごしたい、決して、今の生活を当たり前のことだとか自分の知恵や能力の実りだと思い上がるのではなく感謝して歩みたいと思います。同時に私どもは今朝、改めて主イエス・キリストの父なる神に、地上を旅するために必要な日ごとの糧を何でも求めてよいのですから、大胆に求めてまいりましょう。
祈祷
あなたは忘恩のイスラエル、不従順を重ねる神の民に、心行くまで甘い水とマナを与えられました。その上で、この道を歩めと律法を与えても下さいました。天の父よ、今、私どももまた、同じようにあなたにつぶやき、あなたを悲しませているかもしれません。何より、自分の力で今日まで生きて来れたかのような考えにまとわりつかれ、思い上がっているかもしれません。どうぞ、必要なものはあなたから与えられることを、忘れることがありませんように。今日、必要な日用の糧を与えて下さいと、信頼して祈り働く者とならせて下さい。
２０２４年４月１４日
テキスト 出エジプト記第１６章全体 １−２１節 番・番
【 イスラエルの人々の共同体全体はエリムを出発し、エリムとシナイとの間にあるシンの荒れ野に向かった。それはエジプトの国を出た年の第二の月の十五日であった。荒れ野に入ると、イスラエルの人々の共同体全体はモーセとアロンに向かって不平を述べ立てた。イスラエルの人々は彼らに言った。「我々はエジプトの国で、主の手にかかって、死んだ方がましだった。あのときは肉のたくさん入った鍋の前に座り、パンを腹いっぱい食べられたのに。あなたたちは我々をこの荒れ野に連れ出し、この全会衆を飢え死にさせようとしている。」主はモーセに言われた。「見よ、わたしはあなたたちのために、天からパンを降らせる。民は出て行って、毎日必要な分だけ集める。わたしは、彼らがわたしの指示どおりにするかどうかを試す。ただし、六日目に家に持ち帰ったものを整えれば、毎日集める分の二倍になっている。」
16:6 モーセとアロンはすべてのイスラエルの人々に向かって言った。「夕暮れに、あなたたちは、主があなたたちをエジプトの国から導き出されたことを知り、朝に、主の栄光を見る。あなたたちが主に向かって不平を述べるのを主が聞かれたからだ。我々が何者なので、我々に向かって不平を述べるのか。」モーセは更に言った。「主は夕暮れに、あなたたちに肉を与えて食べさせ、朝にパンを与えて満腹にさせられる。主は、あなたたちが主に向かって述べた不平を、聞かれたからだ。一体、我々は何者なのか。あなたたちは我々に向かってではなく、実は、主に向かって不平を述べているのだ。」
16:9 モーセがアロンに、「あなたはイスラエルの人々の共同体全体に向かって、主があなたたちの不平を聞かれたから、主の前に集まれと命じなさい」と言うと、アロンはイスラエルの人々の共同体全体にそのことを命じた。彼らが荒れ野の方を見ると、見よ、主の栄光が雲の中に現れた。主はモーセに仰せになった。「わたしは、イスラエルの人々の不平を聞いた。彼らに伝えるがよい。『あなたたちは夕暮れには肉を食べ、朝にはパンを食べて満腹する。あなたたちはこうして、わたしがあなたたちの神、主であることを知るようになる』と。」
夕方になると、うずらが飛んで来て、宿営を覆い、朝には宿営の周りに露が降りた。この降りた露が蒸発すると、見よ、荒れ野の地表を覆って薄くて壊れやすいものが大地の霜のように薄く残っていた。イスラエルの人々はそれを見て、これは一体何だろうと、口々に言った。彼らはそれが何であるか知らなかったからである。モーセは彼らに言った。「これこそ、主があなたたちに食物として与えられたパンである。】
およそひと月ぶりに、出エジプト講解説教に戻ります。先週で今年の教会の最大行事は終了したと言っても良いかもしれません。本日から、あらためて毎週毎週の主日と通常の諸集会や委員会活動に集中し、コツコツと歩んで参りたく願います。
最初におさらいしましょう。神は遂に、海を真っ二つに分けて、その渇いた海の底を渡って神の民を救出されました。こうして神と共に生きる自由、神を礼拝する自由、信仰に生きる自由へと解放されたのであります。前回は、神の民が正しくこのような宇宙的な驚くべき救いの御業を体験した者として感謝と賛美を捧げたこと、ミリアムの賛美の歌を学びました。
さて、民は荒れ野に導かれています。そこは正しく荒れ野、草木が茂らない不毛の地であります。一行は、「マラに着きました。しかし、そこの水は苦くて飲むことができなかった、のです。その時民は、モーセに向かって不平を言います。「何を飲んだらよいのか」エジプトの地、奴隷の家から脱出させていただいたヒーロー、大指導者であるモーセにひどい批判を浴びせるのです。しかしそれは第16章で言われているように、神ご自身に対して不平を言っていることなのです。ですから、これは神に対する重大な罪です。神に向かっての反抗です。神への忘恩です。それなら神は、そのような罪深い彼らに対してどのように向き合われるのでしょうか。神は、モーセに一本の木を示されます。そして、その木を水に投げ込ませます。すると、水は甘くなったのです。神の民は、圧倒的な奇跡にあずかり、救い出されたにもかかわらず、神の恵みと恩義を忘れるのです。それは、エジプト人より言わばたちが悪いのではないでしょうか。ところが神はそのような者に、戒めと懲らしめを与えられたのではありません。なんと水を甘くしてあげたのであります。あまりにも愚かで恩知らずな者に対して、神はなお恵みと憐れみをもって向き合い続けて下さったのであります。そして、まさに「その所で主は彼に掟と法とを与えられ」たのであります。このような不信仰で愚かな者のためにこそ、神はその親心をもって掟と法、つまり十戒を与えて下さったのであります。
さて、これを確認した上で、第16章に入りましょう。今、学びました物語の枠組みがまさに同じように展開されることに気づかれるだろうと思います。
「荒れ野に入ると、イスラエルの人々の共同体全体はモーセとアロンに向かって不平を述べ立てた。イスラエルの人々は彼らに言った。「我々はエジプトの国で、主の手にかかって、死んだ方がましだった。あのときは肉のたくさん入った鍋の前に座り、パンを腹いっぱい食べられたのに。あなたたちは我々をこの荒れ野に連れ出し、この全会衆を飢え死にさせようとしている。」もう、あまりにあまりにも酷い言葉ではないでしょうか。まるで愛情をいっぱい受けて育てられた子どもが、「ああ、こんな家に生まれて来るんじゃなかった。もう、死んだ方がましだ。何故、産んだんだ」と、面と向かって親に文句を言うようなことのように思われます。
神の民イスラエルがモーセに言ったこと、それは神に言ったことを意味するのであります。彼らは、神に対して不平をぶちまけているのであります。しかも、言うにことかいて、神の御手によって殺された方がましだとさえ言いました。これは、言ってはならない最後の言葉ではないでしょうか。いったい、主なる神は、神の民を殺すことがおできになるでしょうか。エジプト人やファラオに対して、神は主なる神でいらっしゃることを明らかにされます。それは、第７章でこう語られたことを思い出します。「わたしがエジプトに対して手を伸ばし、イスラエルの人々をその中から導き出すとき、エジプト人は、わたしが主であることを知るようになる。」エジプト人は、神の怒りの御手、裁きの力強い御手をもって主なる神を知らされました。一方で、約束されたイスラエルは、救いの力強い御手をもって、神が主でいらっしゃることを知らされたはずであります。その神の力ある、きよい御手に対して、自分たちを殺すため動かして欲しかったまで言うのです。この上なく罪深い発言であります。
それなら神は、彼らにどう応答するのでしょうか。人の親であれば「この親不孝者、この家から出て行きなさい」となるのではないでしょうか。ところが神は、違います。「わたしは、イスラエルの人々の不平を聞いた。彼らに伝えるがよい。『あなたたちは夕暮れには肉を食べ、朝にはパンを食べて満腹する。あなたたちはこうして、わたしがあなたたちの神、主であることを知るようになる』と。」実に、主なる神の応答は、憤りをもって見放すのではありません。むしろ、晩御飯に肉料理、朝ごはんにはパンを、心行くまで食べさせて下さるというものであります。そのようにして徹底的に恵みと憐れみに富まれたイスラエルの神、主を知らせて下さるのであります。
聖書の神さまは、この出エジプト物語において、人間という存在がどれほど罪深い者であるのかという現実に徹底的に直面なさいます。確かに、それはあのファラオにおいて明らかにされました。彼は１０の災いを受けてなお心を神に開かず、いよいよかたくなになって行きました。神は、そこで、ご自身に敵対する人間の頑迷さ、神を認め、神を畏れ、神に従おうとしないその傲慢さを深く学ばれたのであります。しかも実に、人間の傲慢、愚かさ、罪深さをよりにもよって、出エジプト記の後半において、神の民イスラエル自身から学ばれるのであります。
繰り返しますが、それ故に神が人間にどうしても与えようと憐れみをもって、賜った宝物が掟と法に他なりません。つまり、十戒であります。レビ記に詳しく記された、神と人との間、人と人との間の法典であります。それを律法と呼びます。律法は、このようにして生まれ、神が人に送って下さったものであります。確かに15章で神がお語りになられたように「もしあなたが、あなたの神、主の声に必ず聞き従い、彼の目にかなう正しいことを行い、彼の命令に耳を傾け、すべての掟を守るならば、わたしがエジプト人に下した病をあなたには下さない。」はその通りです。しかし、実際には、神の民は主なる神の命令に耳を傾けませんでした。いえ、聞いています。聞いてはいますが、理解せず、理解しないので守らないのです。重んじないのです。ところが、何ということでしょう。彼らはそれでもなお最終的には、病を癒され続けて歩むのであります。
人類の歴史は、先ほど確認しましたように、神と人とで織りなされるものです。人は、神に不誠実を続けます。しかし、神は、このような人間と向き合い続けて下さいます。対話し続けてくださりながら罪深く、愚かな人間を学習したもうのであります。だからこそ、法と掟をお与えになられるのです。確かに、法と掟を守れば癒しを与えると読めます。しかし丁寧に読みましょう。文脈から読めば、誤解できないだろうと思います。民は、法と掟を順守しないで、不平ばかりを言ったのです。それにもかかわらず、神は、私どもに夜には肉料理、朝にはパンを、そして水を与えて下さったのであります。つまり、民の不真実、不誠実、不信仰にもかかわらず、私どもが律法を正しく重んじなかったにもかかわらず、神はなお心優しく、憐れみと恵みとで向き合って下さるのであります。これが聖書が証しする神の真実であります。これが昔も今も、聖書の神の真のお姿なのであります。そしてこの憐れみと優しさで、私どもの罪、不信仰、鈍感さに向き合い抜くそのところで、どうしても御子イエス・キリストが十字架について、私どもの罪を償わせる必要が生じるのです。父なる神は、御子を犠牲にしても、私どもを赦し、私どもを生かし、幸せな人生、生活、神と共に生きる人生を与えたがっていらっしゃるのであります。
最後に、今朝の説教題にした、天から与えられた食物、マナの物語から学びたいと思います。私どもは、特に昨年から今日に至るまで隣地取得のためにもがき続けています。一昨年、最大の究極の祈りの戦いは、取得できる最低限の献金が与えられることでした。私どもは掛け値なしに、自分自身の経済生活を優先せず、神を第一にした、ある冒険のような献金をしたのだと思っています。ところが、お金があっても購入できないままであります。途方に暮れるような思いを抱いたこと、幾たびでしょうか。「神さま、いったい、あなたはどちらの味方なのでしょうか。」そのようなつぶやく思いがよぎったこともあります。
さてしかし、問題は正にそこに隠れているように思います。古の民は、荒れ野に導かれて歩みました。そこはまさに、自分たちの生命を維持する最低限の水や食料を、自分の力で工面できない場所なのです。つまり、神はあえて、自分たちの知恵や力、努力や才覚でどうにかできる状況ではないところへ導かれたという事であります。そしてそれは、今日の私どもへの教訓でもあるのであります。
主イエスは、私どもに主の祈りを与えて下さいました。それはあの時の法と掟の代わりのような意味もあります。その主の祈りの第四祈願は、「日用の糧を、今、与えて下さい」です。「私たちが生きて行くために必要なすべてのものは、あなたから与えられるものです。どうぞ、明日ではなく今日この日を生きるための必要を満たして下さい」そのような祈りです。
私どもは、とりわけ現代人は水も食事も住まいも衣服も、お金があれば何とでもなると思っています。つまり、すべては経済の力によるものだと思っています。だからこそ学歴が必要だ。だからこそ努力が必要だ。だから知恵が必要だと考えています。まるで、お金とお金を得られる最短の道を神のように考えるのです。うっかりするとキリスト者もその罠にはまるかもしれません。しかし今、私どもが学習させられているのは、実に、お金は万能ではないということではないでしょうか。日ごとの糧はもとより教会の土地もまた自分の能力や努力によるのではなく、実に神からの賜物だということを学習させられているのではないでしょうか。健康も生命も、神からの祝福だと言う事であります。思い上がってはならないのです。６節で神は天からの食糧、マナを与えるご目的をさらりと示されました。「夕暮れに、あなたたちは、主があなたたちをエジプトの国から導き出されたことを知り、朝に、主の栄光を見る。」私どもは夜に神に救われた者としての感謝を味わい、朝、目覚めれば、主なる神が今朝もまた私と共に生きて下さること、主の栄光を仰ぎ見るためであります。そのような信仰に基づいた実感ある生活を送りたいのです。毎晩、毎朝、ああ天の父なる神は、主イエス・キリストの父なる神は、私の２４時間をご覧になっておられるのだ。私の人生、生活に必要な糧を、腐らせることなく、十分に与えて祝福して下さるのだと、実感して生き、死にたいと願います。神は、父として子どもの私のことを、一番に顧みてくださるのだと、感謝して過ごしたい、決して、今の生活を当たり前のことだとか自分の知恵や能力の実りだと思い上がるのではなく感謝して歩みたいと思います。同時に私どもは今朝、改めて主イエス・キリストの父なる神に、地上を旅するために必要な日ごとの糧を何でも求めてよいのですから、大胆に求めてまいりましょう。
祈祷
あなたは忘恩のイスラエル、不従順を重ねる神の民に、心行くまで甘い水とマナを与えられました。その上で、この道を歩めと律法を与えても下さいました。天の父よ、今、私どももまた、同じようにあなたにつぶやき、あなたを悲しませているかもしれません。何より、自分の力で今日まで生きて来れたかのような考えにまとわりつかれ、思い上がっているかもしれません。どうぞ、必要なものはあなたから与えられることを、忘れることがありませんように。今日、必要な日用の糧を与えて下さいと、信頼して祈り働く者とならせて下さい。
