December 31, 2100
☆彡初めての方へ☆彡
ご来訪ありがとうございますm(._.)m
桃蜜日記の管理人、karin_fと申しますo(^-^)o
ココでは桃蜜日記を読んでいただくにあたって、お願いしたい事を書こうかなぁ、と。
たいした事ではないのですが、初めてのご来訪の方は軽く目を通していただけると嬉しいです（〃▽〃）
�‥輒�日記は架空の日記です。
リアル日記ではありません。
��桃蜜日記では初期〜中期の頃はシリーズ物(エッチシーン多)を、最近は短編(時々エッチシーン有)をチマチマ書いています。
更新は不定期です。ごめんなさいm(__)m
�０豈�どの話もそれだけで解るように創ってるつもりですが、過去に書いた話も検索できるようになっています。
月別過去桃蜜記録→一覧を見る
で、見る事ができる・・・ハズです。
そして、トップページの下の方でキーワード検索もできるようになってますww
しかしながら、かなりの話数がありますし、最初の頃のは今以上に超駄文です(>_<)
ホントは最初の方全話、書き直したいくらいなんですが、シンドイんでやめときます…orz
�ず郤圈�karin_fはこんな小説を書いてますが、本人はいたってフツーな娘です。
なので、ストーカー的なコメント、夜のお誘いのコメント、非常識なコメントはその場で削除させていただいてます。
御了承くださいませm(__)m
また、メルアドを書いていただいている方も、ｕｐする前にメルアドだけ削除してますが、私が凡ミスをおかしてメルアドを晒す可能性もありますので、よほどの御用がない限りメルアドは書かない方が無難じゃないかなぁ、と思いますm(_ _)m
重ねてご了承くださいませm(_ _)m
あと、コメント欄にＵＲＬを貼っていただく方もみえます。
ＵＲＬはそのままＵｐしていますが、閲覧はご自身の責任のもと行ってください。
お願いしますm(__)m
�ヅ輒�日記はkarin_fが自己満足で書いている世界です。
なので苦情とかは勘弁してください、ごめんなさいm(__)m
あくまでフィクションの世界なんで、単純に楽しんでいただければ幸いです（≧▽≦）
以上、長くなってすみません(^-^;
まぁ、常識範囲内で楽しんでいってくださいませm(__)m
あ、苦情以外のコメントは大募集中でございますです！！
よろしくお願いします（*＾＾）
では、本編へどぉぞ♪
karin_f
桃蜜日記の管理人、karin_fと申しますo(^-^)o
ココでは桃蜜日記を読んでいただくにあたって、お願いしたい事を書こうかなぁ、と。
たいした事ではないのですが、初めてのご来訪の方は軽く目を通していただけると嬉しいです（〃▽〃）
�‥輒�日記は架空の日記です。
リアル日記ではありません。
��桃蜜日記では初期〜中期の頃はシリーズ物(エッチシーン多)を、最近は短編(時々エッチシーン有)をチマチマ書いています。
更新は不定期です。ごめんなさいm(__)m
�０豈�どの話もそれだけで解るように創ってるつもりですが、過去に書いた話も検索できるようになっています。
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で、見る事ができる・・・ハズです。
そして、トップページの下の方でキーワード検索もできるようになってますww
しかしながら、かなりの話数がありますし、最初の頃のは今以上に超駄文です(>_<)
ホントは最初の方全話、書き直したいくらいなんですが、シンドイんでやめときます…orz
�ず郤圈�karin_fはこんな小説を書いてますが、本人はいたってフツーな娘です。
なので、ストーカー的なコメント、夜のお誘いのコメント、非常識なコメントはその場で削除させていただいてます。
御了承くださいませm(__)m
また、メルアドを書いていただいている方も、ｕｐする前にメルアドだけ削除してますが、私が凡ミスをおかしてメルアドを晒す可能性もありますので、よほどの御用がない限りメルアドは書かない方が無難じゃないかなぁ、と思いますm(_ _)m
重ねてご了承くださいませm(_ _)m
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�ヅ輒�日記はkarin_fが自己満足で書いている世界です。
なので苦情とかは勘弁してください、ごめんなさいm(__)m
あくまでフィクションの世界なんで、単純に楽しんでいただければ幸いです（≧▽≦）
以上、長くなってすみません(^-^;
まぁ、常識範囲内で楽しんでいってくださいませm(__)m
あ、苦情以外のコメントは大募集中でございますです！！
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では、本編へどぉぞ♪
karin_f
November 18, 2012
『真冬の夜の出来事。』
寒くなってきたな。
…クリスマスが近いな。
……あなたは今、なにしてるかな？
「お疲れ様でした〜」
そう告げて、職場を出ると思わず身体が身震いするほどの寒さ。
鼻に吸い込まれた冷たい空気と目にうつる漆黒の空が冬本番を感じさせる１２月。
もうすぐ今年も終わり。
でも彼からの連絡は相変わらずナシ。
…いや、わかってますけどね。仕事で忙しいことくらい。
彼のお仕事は日祝年末年始なんて関係なくて。
おまけに仕事大好きな彼は仕事が山のようにあると周りのことが頭の中から抜け落ちてしまう。
…当然私のことなんて、今の彼の頭の中にはさっぱりナイんだろう。
「…ま、いいけどね」
…私だってそれなりに忙しいし。
遊んでくれる友達だっていますしね。
………でも。
…なんでかな。
いつもは別に平気なのに、この季節だけは何故かすごく寂しくなる。
会いたいな。
電話したら迷惑かな？
迷惑だろうな。
……私のことなんて、もうどうでもいいのかな？
「…バカらしい」
…１０代女子じゃあるまいし。
彼が仕事人間なことも、その仕事が忙しいことも、特に年末年始は忙しくてきっと連絡が来なくなることもすべて承知の上で付き合い始めたくせに。
これくらい聞き分けて、堪えられなくて、彼の彼女が務まるかっ！
…そう心の中で唱えて、寒さに震えながら帰途につく。
でも、冬の寒さは身体も心もすぐに冷たくして、
……今気合いを入れたばかりなのに、もう心が折れ始める……
「……ツライなぁ」
「…なにがですか？」
「ッ……きゃぁっ！」
つい漏れた独り言に答えるような声が突然真後ろから聞こえて、思わず飛び退く私…
「きゃあ、って…久しぶりなのにチカン扱いですか」
声の方を見るとそこには、キャップを目深にかぶって、口元までマフラーで隠した男の姿。
それこそ明らかにチカン的な不振人物な姿だけど、
……私には、すぐに誰かわかる……
「なっ…なんでっ…？」
「なんで、もなにも…仕事場の前で待ち伏せて、さっきからずっと後ろ歩いてたのになんで気づかないんですかねぇ」
…行動もチカン的ですけど。
なんて今の私にはどうでもよくて…
「いや…そ、じゃなくてっ…なんで、ココに…いる、の？」
…仕事、忙しいはずでしょ？
こんなトコで待ち伏せてる暇なんてないはずでしょ？
…っていうか…誰かに見付かったら困……
「…会いたかったからに決まってるでしょ」
彼の声が、私の思考を停止させる。
……え？
「ったく、なんなんですか。なんで電話とかしてこないんですか。…会いたいとか話したいとか思ってんのはオレだけ？」
「えっ、ちょっ……え？！」
…彼の口から出てくるのは、私が思っていたまんまの言葉で……
「……オレにもう愛想尽きた？」
「っ…まさかっ！」
…そんなはず、あるわけないっ…
「…じゃあなんで電話とかくれないの？」
「だっ…てっ、忙しいんでしょっ？！」
…彼のスケジュールが殺人並に忙しいのは知ってる。
だから、電話も…メールすら、用がない時はやめようって…
「忙しいのは忙しいけどさ…暇ができりゃあ電話やメールもできないまま寝落ちしちゃうくらいだけどさ。そこはあなたが連絡してくれりゃ起きるし…」
「…だって私のせいで睡眠時間削らせたくないしっ」
「睡眠時間よりあなたが足りないの」
…まぁ、身体は言うこと聞かずに寝ちゃうけど。
そんなことを言いながら、彼の手がのびてきて、私の身体を抱きしめる……
…ちょっ…
「だめっ…人目がっ…！」
「…こんな路地であるはずないでしょ、んなもん」
黙って抱かれてなさい、と、離れようとする私の身体を、そうさせないようにギュッと強く抱きしめて。
「…会いたかった」
なんて、ホントにほっとしたように耳許で呟くから…
……我慢してた想いが、一気に零れ落ちる……
「わ、たしだって…ッ」
「…ん？」
「私だって、会いたかったっ…」
「…うん」
「でもっ…忙しいこと知ってるからっ…我慢してっ…」
「…我慢なんてしなくていいって…」
「ゃっ…だって…こんなコト思ってるの、私だけかな、って…」
「んなわけないっしょ」
…オレが今日ココに来るのにどれだけムリしたかご存じ？、なんてジョーダンっぽく聞かれて、抱きしめられながら、コクコクと頷く。
…もちろんわかってる。
きっと、ココに来る前も、この後も、いろんなとこに頭を下げるんでしょ？
「…今なにしてんのかな、とか、オレが連絡途絶えてる間に他の男にかっさらわれてないかな、とか……オレの精神的にもう限界だったから」
だから、会いに来た。
その言葉は、優しく、私の耳にとけていく……
「…これからもさ、少なくとも年明けまではオレから連絡するのは難しいかもしんないけど」
「うん」
「でも、あなたはかけてきて？夜中でもなんでもいいから。そしたら寝てても必ず起きて出るから」
「…ん」
「あなたが足りなくなると、オレ笑えなくなるから」
そしたらなんてったって仕事に影響出るし。
そんなコトを言いながらマフラーをゆるめて、チュッ、と軽いキスをくれる彼……
「っ……だから人目っ…」
「…大丈夫だって。もし撮られても、オレの彼女です、って発表しますしね」
…そんなコトできるはずないのに。
それでも、私には嬉しすぎる言葉……
「…オレ、もう行かなきゃ…」
「…うん、だろうね…」
…きっとあの角のむこうに迎えの車が停まってるんでしょ？
「…家まで送ってけなくてゴメンね」
「大丈夫、ありがとう」
…来てくれてありがとう。
安心させてくれてありがとう。
「…あんまりムリしないでね？」
「そっちこそ。ツラくなったり、寂しかったら電話してくださいよ？」
「うん。……ありがとう」
…離しがたい手。
でも、彼にはたくさんのヒトが待ってるから。
…ゆっくりと手を離すと、途端に冷たさを感じる……
…でも、もう心は冷たくないよ？
「…じゃあ」
そう言って、またマフラーを口元の上までしっかり巻いて、
彼は夜の闇へと消えていく……
…今度、直で彼を見れるのは年明けかな。
でも、私はテレビさえつければいくらだって彼を確認できるし。
真夜中でも電話していいってお許しも得たしね。
「…よし、帰るかっ」
さっきまでの鬱々した気分が嘘のよう。
漆黒の空に笑顔でそう呟いて、
私はあったかい心を抱えながら再び帰途についたのだった……
December 25, 2011
短編『ペアリング』
クリスマスイブが土曜日で、クリスマスが日曜日。
おかげでデパートは見事なまでに大混雑。
カップルに家族連れに友達同士……
……そんな中、私は…というと……
「ほら、どれがいい？」
「いや…どれ、って言われても…」
…某ジュエリーショップで、困っていた…
「どれ、って聞く前にもうちょっと事前情報をちょうだいよっ！じゃなきゃ選びようがないじゃないっ！」
と、隣で片肘をつきながらショーケースを見てる男にツッコミを入れる私。
街中がメリクリ一色で、同い年の男女が仲良くジュエリーショップ…
たぶん誰がどう見ても恋人同士だと思うであろう私達。
…でも、残念ながら私達の関係は、『学生時代からの腐れ縁』に他ならない……
「…事前情報って？」
「だから…どんなコなのかとかっ！可愛い系かキレイ系かとか…それだけでも違うでしょ！？」
…事の始まりはつい昨日のコト。
突然電話してきたこいつが言い放った一言…
『明日、好きなコに告白したいからペアリング買いたいんだけど、おまえどーせ暇だろ？ついてきて？』
……一瞬耳を疑ったわよ、ホントに。
クリスマス当日にプレゼント用意すんなよ、とか、
告白するのにプレゼントがペアリングなんて重すぎだろ、とか、
私にだってクリスマスの予定くらいあるかもしれないじゃん、とか、
ツッコミどころはたくさんあったけど、それより何より、彼にそういう想い人がいたことがショックで……
……たいしたツッコミもできないまま、ついてきちゃったわけですが……
「あ〜…どっち系でもない。とりあえず選べ」
「いやいやいやっ…そんなので選べるかっ！」
ムチャを言うな、と心から思う。
「おまえなぁ…何のためにわざわざおまえを呼んだと思ってんだよ」
…いや、そんなコト言われても。
私だって来なきゃよかったと思ってるわよ。
…何が悲しくて聖なるクリスマスに好きな男と一緒に、その好きな男と見知らぬ女の遣うペアリングを探さなきゃなんないのさ、って…
「とにかく好きなの選べよ…あ、ほら前に言ってたじゃん。ココの店のペアリングに憧れてたとかなんとか…」
…えぇ、言ってましたよ。
っていうか、現在進行形で憧れてますよ？
……それを知っててなんでわざわざ私をペアリング選びに駆り出すかなぁ？
「…あ、コレとかどう？」
「…いいんじゃないの？」
「こっちは？」
「いいと思うよ？」
「…全くやる気ねぇな、おまえ」
…やる気なんて持てるはずないでしょうよ。
……いっそのこと、うまくいかなきゃいいとさえ思ってるのに。
「…っていうか…クリスマスにペアリング持って告白してフラれたら散々だよね」
…それは、私の中のどす黒い願望だけど…
「十中八九フラれねぇ自信があるから買ってんだっつの。縁起でもねぇこと言うなよ」
…あ、そうですか。
そんなに自信があるんですか。
……なんか私、すごいミジメかも。
「いかがですか〜？ご試着もできますよ？」
…って、なんで今、そんな高いテンションでやって来るんだ！？店員っ！
「へぇ〜、試着できるんだ？どれにする？」
「えっ！？試着？！」
彼の手が、ごく自然に私の肩に回ってドキンと胸が高鳴る…
なに！？この肩に回った手はっ…
ってか、試着って…私がしても意味ないでしょ！？
「こちらなんかいかがですか？」
店員さんがそう薦めてきたのは見た目スッキリとシンプルなデザインのペアリング。
でも内側にキレーな石がはまってて、実は凝ってるカンジがすごく私好み。
…って、だから。
私好みなんて意味ないんだっての…
「どう？」
「……私は、好きだけど」
彼に尋ねられて、とりあえず答える。
…でもコレはあくまで私の意見で、あんたの好きな人はどうか知らないよ？
「じゃあすみません、コレ試着させてください」
「はい、かしこまりました」
「えっ、ちょっ…」
…私の意見を聞いて、即答で試着をお願いする彼。
その彼の言葉を聞いて、私達の指を交互に見て、合いそうなサイズをすぐさま出してくる店員さん。
…流れについていけず、あたふたする私。
「どうぞお試しになってください」
そう並べられたペアリング。
大きい方は彼の右手の薬指にスルリと填まって…
「ほら、おまえも填めてみ？」
なんて、まるで彼女に言うように優しく急かされて…
……なんか、勘違いしそうになるのをグッとこらえる。
…コレはきっと店員さんにアレコレ詮索されないための小芝居なんだから。
…この指輪は、私の知らない別の女のモノになるんだから。
「…あの…もしかしてお気に召しませんでしたか？」
…私が動かないのを訝しげに見る店員さん。
…変に思われちゃうから嵌めなきゃ、と、小さい方の指輪がやっと私の右手の薬指におさまる…
「……キレー」
…思わず出た一言。
アクセサリーなんて好きな方じゃないから滅多にしないけど、
いざつけてみるとやっぱり嬉しくて、私も女のコなんだなぁ、なんて思ったりして……
「…うん、いいな」
なんて、私の右手の隣に彼の右手が並べられる。
お揃いの指輪を填めた自分の手と彼の手を見て、一瞬、この指輪が誰に渡されるモノなのかも忘れてドキドキしたりして……
「すごくお似合いだと思いますよ〜。コレ、今季入荷の人気商品なんです。いかがですか？」
ニコニコ笑顔の貼り付いた店員さんが私を見る…
…だから…
私に『いかがですか？』と聞かれても……
「…どう…かなぁ？」
…とりあえず、隣の彼にお伺いをたててみる。
「いいんじゃね？コレにしたら？」
…それは、『コレがいい』ってコトだよね？
「…じゃあコレで」
「ありがとうございます♪」
私の答えを聞いた店員さん、私達が填めていた指輪をサッサと回収して、サクサクと彼からお会計を徴収して、ニッコリと笑う…
「それではお会計お預かりいたします。お包みして参りますのでこちらにお掛けになってお待ちください」
って……
えっ！？ちょっと待って！
指輪のサイズ、それ、私のサイズだからっ…
「あのっ…」
と声をかけたけど気付いてもらえず、店員さんはサッサと奥に引っ込んでってしまう……
「どーした？」
「どーした？じゃないって！指輪っ、サイズっ！」
ポヤ〜ッと聞いてくる彼に慌てて説明。
「私、自分で言うのもなんだけど、結構指太いよ！？」
「いンじゃね？別に」
「いやいやいやいやっ！良かないでしょっ！だって指輪もらってサイズガバガバだったら、女のコ引くよ！？」
いくらサイズ直しができるからって、あまりにサイズが違いすぎるのもどーなのって思うんだけど…
…そんな私の思いをよそに、彼がいきなり爆弾発言をかます…
「別にちょうどいいんだから引かねぇだろ。渡すの、おまえなんだし」
…………思考回路停止。
「……は？」
…今、なんて言った？？
「…すっげ、マヌケ顔してっけど？」
「いや、だって…言ってるコトがよくわかんない…」
……頭がこんがらがる。
「…私に、なに…渡す、って？」
「指輪」
彼に即答されて、更に頭がグルグル…
……指輪、って言ったよね、今。
指輪、って…今までつけてたペアリングのコトだよね？
…え？えぇ？？えぇえ？？？
「…あのっ…キチンとわかるようにネタバラシをっ…」
ジョーダンなのか本気なのか？
それさえもよくわかんない……
「ネタバラシもなにも…最初から言ってるだろ。『好きなコに告白するためにペアリング買う』って」
…はい。それは最初から聞いてますよ？
「あの…可愛い系でもキレイ系でもないコ、でしょ？」
「そうそう」
…それは聞いたけど…
「…それ、って……誰？」
やっと絞り出した声がかすれる…
…緊張しすぎてうまく呼吸ができない。
……彼に全神経が集中して、周りの雑音が全く聞こえなくなる……
「…なに泣きそうな顔してんだよ」
「だっ…て、っ…」
…だって。
こんなコト、想像すらしてなかった…
…もしかしたら、今まで散々シットし続けてきた『彼女』が…
……私かも、なんて……
「……十中八九フラれないって言っときながらこんなコト聞くのもなんだけど」
…ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ、彼の声も緊張してるカンジがするのは……気のせいかな？
「…なに？」
「今ならまだペアリングキャンセルできるけど…どうする？」
……どうする？、って……
「…私、まだキチンと聞いてないんだけど」
…あんたが、誰が好きか、って…
「今夜指輪填めながら言うって………おまえが好きだ、って」
…今言ってるじゃんっ！、なんてツッコミを入れる余裕もないくらい、全身の体温が上昇する。
……ウソ。
…ホントに？
……私でいいの？
「…私が…あのペアリングつけてもいいの…？」
「当たり前だろ。じゃなきゃ何のためにこんな当日におまえを駆り出したと思ってんだよ」
…嬉しい。
どうしよう…
「…どうしよう、私…泣きそう…」
「…とりあえず、この店出るまではガマンしとけ」
…そんなコト言われたって、と思う私の耳許に彼が唇を寄せる…
「…あとでオレの胸でたっぷりなかせてやるから」
「ッ…！」
その夜は…
…ずっと好きだった彼と、
憧れだったペアリングを填めあった、
忘れられない聖なる夜になりました。
『ペアリング』 end
December 18, 2011
短編『お持ち帰り〜お持ち帰りファイナル〜』
『好き』と意思を伝えない内からヤルことだけヤッちゃってて。
『彼の誘い方がうまいから』とか、『断る理由が見つからないから』とか、
自分に言い訳しながら、あれからもズルズルと『そーいう関係』だけ続けてて。
…彼も私の気持ちを詮索してこないし。
なんかハッキリさせてないこの状態がすごく心地好くて…
…だから、正直、この『ぬるま湯状態』をこのままずっと続けていけるんだと思ってた。
のに。
……現実はそんなに甘くない……
「………は？」
いつもの飲み屋にお互い仕事が終わってから待ち合わせて、いつも通り飲み始める私達。
…しかし今日の彼は、いつもと違うコトを口にする…
「…だから、異動するんです、オレ。」
「異…動？！」
…異動、って……
「社員食堂勤務に異動なんてあるの！？」
「そりゃあ、ありますよ。ウチの会社、委託で茅原さんの会社の社食に入ってるんですけど、そんなトコが他にいくつもあって…まぁ、定期的に」
「って…！キミ、ウチの会社の人間じゃないの！？」
初耳なんだけどっ！
てっきり、ウチの会社のヒトだと思ってたしっ…！
「違いますよ。オレの会社、『カモノハシフードサービス株式会社』だもん」
なんだ、そのふざけた名前はっ…
…なんてどーでもいいツッコミしてる場合じゃないっ……
「…異動先、って…遠いの？」
「ん〜……まぁまぁ…」
…『まぁまぁ』の距離感がよくわからない。
「……こうやって、毎日仕事帰りに気軽に会える距離？」
「ん〜……お互いが会う気になれば週末くらいは会える距離、かなぁ…」
…それって…もしかして結構遠かったりする？
「えっ、と……そう、なんだ…」
…会えなくなるのが嫌、なんて私が言えるハズない。
っていうか、そもそも私は恋人でもなんでもないわけだから、そんなコト言える権利もないわけで…
…曖昧に返事をすると、目の前の彼が残っていたジョッキの中身を一気に空ける…
「ハッキリ言います。これを機会に、ハッキリしませんか？」
何を？、なんて聞くほど頭は悪くない。
…ハッキリしなきゃいけないのは、私達の関係…
「…茅原さんとこーいう関係のまま続けてくのは正直、そろそろしんどくなってきてて…」
…私にとって心地よかった関係が、彼にとって『しんどかった』と聞いてかなりショック…
「…最初は、オレも男だから、好きな人を抱けるのは嬉しかったし…いっそのこと、オレなしじゃ生きていけないくらいのカラダにさせてやるぞくらい思ってたけど」
突然出てきたピンクな会話にドキンとする…
そんな私をヨソに、進んでいく彼の会話…
「…でも、結局茅原さんは茅原さんで。何回カラダを重ねても変わらないし…」
…変わってないかな？
いや、私かなり変わったよ？
……だって、今は、キミとこうやって会うのが１日の内の一番の楽しみになってるんだもん…
「…もう、正直しんどいんです。カラダだけの関係が…って、なんかオレ乙女みたいだけど。…だから、そろそろ引導を渡してください」
空のジョッキを持つ彼の手がかすかに震えてる…
……引導、って……
「…なんか、このままお別れするみたいに聞こえるんだけど」
「…お別れします。コレも乙女発言だけど…カラダだけの関係はもうツライんで」
「…私、カラダだけのつもりなんてなかったけど。…だって私、嫌いな人と寝るような女じゃないよ？」
「嫌われてないのは知ってます。…でも、一番好きでもないでしょ？」
…頭を上げて、まっすぐに見つめられる…
……一番好きでもない、って…なんでキミが決めるの？
「だって…茅原さん、今まで何一つオレのコト聞いてこなかったじゃないですか」
「…え？」
…言ってる意味が、わからない。
そう思ったのが伝わったのか、彼が困ったように小さく笑う……
「…茅原さん、オレの住んでるトコ知ってますか？」
「……知らない」
…だって、聞いてないし、行ったコトないもん…
「…オレの誕生日は？」
「…知らない」
「オレが委託で茅原さんの会社で働いてるコトすら知らなかったんですもんね」
「……う、ん」
…それは…イケナイコト？
「……オレのこと好きじゃないから、興味がわかなかったんでしょ？」
…そう言った彼は、すごく悲しい顔して笑ってて…
「…つまり……私がなにもキミのコト聞かなかったから…好きじゃない、ってコト？」
私の問いに返事をしない彼。
でも、その表情は明らかに『Ｙｅｓ』と言ってる……
……なによ、それ。
そりゃ、私は彼になんにも言ってないけど。
なんにも聞いてないけど。
…でも、それだけで、なんで…
……大事な気持ちを否定されなきゃなんないのよ……
「………ル」
「…え？」
俯いたまま低い声で呟いた私に、彼が聞き返す…
「茅原さん、今なんて…」
「おじさん、ビールっ！！」
店内に響き渡るくらいの声を張り上げると、いつもの飲み屋の店長が、
「あいよ〜」
といつもの返事をしてジョッキを持ってきてくれる…
「え…あの…茅原さん？！」
少し戸惑いながら私の名前を呼ぶ彼を無視して、そのジョッキを一気にあおる私…
…幸い、他の客は居らず、私達以外はいつもの気のいい店長しかいない店内。
………茅原真那、想いの丈を叫びます。
「ふざけんなっ！なんでなにも聞かなかったからって私の気持ち全否定なのよっ！だって毎日そばにいるのが嬉しくて毎日そばにいるのが自然になってて、それだけで満足だったんだもんっ！他になにか聞く気が起きないくらい幸せだったんだもんっ！！」
「かっ…茅原さん！？ちょっ、待っ…」
…待てるわけないでしょ！？
ビールというガソリンが入った今、全速力でぶっぱなすっつーの！！
「だいたいなんなのよっ！知らない間にお持ち帰りして…あ、違う、持ち帰ったのは私か！？いや、でも知らない間にエッチしちゃってて！」
「茅原さん！それ、人聞き悪いからっ！」
「うっさい！それから私の心の中にグイグイ入ってきたクセに、異動が決まった途端サヨナラ！？一番好きじゃなかったのはそっちの方じゃないっ！！」
気がついたらボロボロと泣いていて、ずっと掴んでいた空のジョッキを乱暴に置いてその手で涙をぬぐう…
「…茅原さん」
ボー然と私の名前を呟く彼に、どうしようもなく苛立つ…
…好きなのに。
もう、どうしようもなく好きなのに。
…あんなにカラダを重ねたのに、なんでわかってくんないのよ…
「…伊織のバカっ…」
完全な涙声でそう吐き捨てて、バッグの中から財布を出して、一万円札をバンッとテーブルに叩きつける。
「おじさんっ！お代ココ置いとくっ！余った分は次来た時の飲み代にするから預かっといて！」
「あいよ〜」
…さすが飲み屋の店長。
こんな修羅場なトコ目の当たりにしてもいつもと同じ返事。
その返事を聞いて、バッグと上着を持って飲み屋を飛び出す私……
「ちょっ…茅原さんっ！」
後ろで彼の声が聞こえるけど知るもんかっ！
イイ大人が泣きながら走るなんて情けないけど知るもんかっ！
って……
「…っ…」
…ビールをイッキしてから走るもんじゃない。
１００メートルもしないウチにクラクラして足が止まってしまう……
「茅原さんっ！」
…あ、もう追いつかれたっ…
「大丈夫ですか？！」
フラついた私の身体を支えながら、そう聞いてくる彼。
…支えてくれる手が熱い…
「…離してっ」
…私、怒ってるんだから。
「嫌です。…ちょっとこっち来て」
「えっ…なに？！」
彼に引っ張っていかれたのは、誰も来ないような路地…
「…なによっ」
「頼むから、そんなスキだらけの顔でひとりで出て行かないでください…知らない男に連れてかれたらどーすんですか…」
…そんなコドモみたいな心配するために追っかけてきたの？
…なら、ほっといてよ…
「…お別れするなら、私が誰に連れてかれても関係ないでしょ！？ほっといて……ンッ」
…途中で途切れる言葉。
アゴを捕らえられて、重なる唇。
舌を絡められて、溺れそうになるけど、それをどうにか振り切って彼から離れる…
「なっ…なんで別れるのにキスなんかっ…」
「お別れするのはやめます」
「なんでっ…」
…お別れします、って言ったのはキミじゃない。
「…オレ、勝手に誤解してました。オレばっかりが茅原さんのコト好きだと思ってた」
…間近で私を見つめる彼の目が、すごく真剣…
「…オレばっかり好きなのがツラかったから、異動を機会にお別れするつもりだったけど…オレばっかりじゃないなら、話は別です」
…言葉は優しいのに、抱きしめる手の力は逃れられないほど強い。
「……茅原さん、オレのコト、どう思ってる？」
……初めて聞かれた。
今まで、彼がこんな風に聞いてきたのは、ただの一度もなかったから…
今まではそれが気楽で嬉しかったけど……
…今は、聞いてくれたことが嬉しい…
「……一番、好き」
「…誰が？」
「……伊織が」
「もっかい言って？…誰を、どう思ってるの？」
…そんな不安げな顔しないで？
これからは何度でも言うから…
「…伊織が好き。いつの間にか…一番好きになってた…」
今まで言わなかった想いを伝えると、彼が泣きそうな顔で笑う。
その頬に触れるとまた強く抱きしめられて……
「…じゃあこれからは茅原さんはオレの彼女、ね？」
耳元で響いた声に、ドキンと心臓が跳ねる……
「…茅原さん。今日はオレが茅原さんをお持ち帰りしていい？」
なんて、少し遠慮がちな彼の声が聞こえて…
…もちろんいいよ、と答えようとして、ふと止まる…
「いいけど……伊織のおうちってどこなの？」
「…初めてオレのコト聞いてくれましたね」
って…
なんでそんなコトで嬉しそうなのよ？
たぶんこれからはウザいくらい色々聞いちゃうよ？
……彼女、になったんだし。
たとえ異動になって遠距離恋愛になったとしても大丈夫なくらい根掘り葉掘り聞きまくって…
「ウチはココから徒歩５分です」
………え？
「ごっ、５分って…！そんなに近いのっ！？」
こっから５分ってコトは、ウチからもそう離れてないけどっ！？
「まぁ、近いですね」
「えっ？！じゃあ、異動になったら引っ越すの！？」
「いや？引っ越しませんよ？ただ、新しい職場はかなり遠いんで大変ですけど」
朝早く出て夜中に帰宅的な感じになりそうで…なんて私を抱きしめながら、そんなコトをシラッと話す彼。
…ちょっと。
私、もっと遠くなのかと本気で思ってたんですけど！？
「お互いが頑張れば会える距離とか言っときながら、お互いの自宅が１５分圏内ってどーいうことよっ！？」
思わずついさっきまでのラブラブな雰囲気を吹き飛ばし、
ついでに彼の腕をふりほどいて文句を言う私にニッコリと笑う彼。
「仕事の日は会えないだろうし、休みの日はどんなに近くったって、お互いが会おうと思わなきゃ会えないし……別に間違ってないでしょ？」
…いや、そりゃたしかにそうかもしれないけど…
「だからって思わせぶりなっ！私ホントに心配したのにっ…もうなかなか会えないって…」
「…茅原さん、『好き』って言ってから急に可愛いコト言うようになりましたね」
「かわっ！？………だめ？」
…だって、もう彼女なんでしょ？
……それともいきなりデレるなんて興ざめ？
「ダメじゃないです。それどころか、一刻も早くお持ち帰りしたくなった」
そう言った彼が私の手を引いてサクサク歩きだす…
「ひゃっ…ちょっ、待っ…」
「待てません、早く茅原さんを抱きたい」
…直球の言葉が恥ずかしくて。
……でも、すごく嬉しい。
「…−−−−−ね」
「？なんか言いました？」
「うぅん、なんにも♪行こ？」
…これからもたくさんたくさん、『お持ち帰り』してね。
『お持ち帰り』all end。
November 21, 2011
短編：『流星群』
…あの頃、彼と見に行ったのは何座流星群だったっけ？
そんなコトを考えながら部屋のベランダから空を眺めるけど、
明るい都会の空では流星群どころか、星もまばらしか見えなくて。
流星群のやってくる今夜。
見えない空では願い事すらできないけど、
……私の願いは、あの頃からただひとつだけ……
『−−今夜から明日の朝にかけて、流星群はピークをむかえるでしょう−−』
夕方のニュースでそんな項目が流れて、
夜になってからベランダに出て、空を見上げてみる…
「……ないなぁ」
時間がまだ早いからか、
それとも、街中では見えないのか、
…そう思った時にポケットの中で鳴り始めた携帯電話。
「…うそっ」
着信画面の名前を見て、私は慌てて通話ボタンを押す。
『よぅ、久しぶり』
「…久しぶりっ」
聞こえてきた声は、あの時と全然変わらない…
『そんなベランダから星見るくらいなら、久しぶりにオレと流星群見に行かね？』
『ベランダ、って……えっ！？』
驚いて、ベランダから身を乗り出して下を見ると、そこには車の中から携帯片手にヒラヒラと手を振る彼の姿……
……久しぶりのその姿に、胸がふるえる……
「ッ…行くっ！１０分で支度するから待っててっ…！」
こーいう時の私ってスゴイと思う。
あっという間に準備して、勢いよくウチを飛び出して、
…１０分かからず、彼の車の助手席に飛び乗る……
「っ…はぁ、はぁっ…ひさしぶりっ…」
「そんな急がなくてもキチンと待ってるっつの」
ハァハァ息切らしてる私に、バーカ、なんて軽口たたいて、車は当たり前のように出発する……
…助手席から見る彼の横顔…
……嬉しくて、なんかドキドキする。
「…なんで急に来たの？仕事忙しいとか言ってなかったっけ？」
「忙しいよ〜、明日も８時半出勤だし」
「ならなんで…」
「流星群のニュース聞いたから」
運転しながら答えた彼の言葉に、心臓が掴まれる……
「そーいや昔おまえと流星群見に行ったよな、って思い出して。なら今夜もおまえ誘って行こうかなって…」
…流星群。
私もその言葉を聞いて、キミの事を思い出してたよ？
…なんて、言えるハズもなく。
他愛のない会話をしながら走ること約１時間……
辺りは街灯なんてひとつもない山の上。
……前に、２人で流星群を見に来た場所……
「…エンジン、うるさいから切るぞ」
「…ん」
…エンジン音がなくなるとホントに静かで。
目の前のフロントガラスのむこうには暗くて黒い空に星がいくつか瞬いてるのが見える……
「…星はあるけど…流星群は見えないね」
「…そだな」
…あの時とおんなじ。
「…前の時は結局流星群見れなかったんだよねぇ」
「あ〜、そうそう。寒い中、３時間も粘ったのにな」
そう言って笑う彼の笑顔に、たまらなく嬉しくなる。
「そうそう、今夜はそれほどでもないけど、あの時はすごく寒かったよねぇ」
「あ、それで、エンジン切ってたからエアコン入れられなくてオレがガタガタ貧乏揺すりしてたらさ…」
彼がそこまで話した瞬間に、一緒に吹き出す私達。
…言葉にしなくても通じあってる想い出。
……彼が寒さでガタガタ震えてたら、たまたま巡回中だったおまわりさんがやって来て……
『あ〜、なんだ。星見てただけかね？車が揺れてたからてっきりシテるもんかと…』
って、誤解された……
「あの後もおまわりさん、帰るまでさんざん念をおしてったよね〜…『くれぐれもこんなトコでシないように』って。そんなに『仲良しカップル』に見えたのかな？私達」
「そーなんじゃね？まぁ、男と女がこんな時間に星見てるなんて、どー考えても『仲良しカップル』だろーよ」
…そうだよね。私だってそう思うよ？
…でも、実際、私達はカップルじゃない……
…こうやって、男と女がこんな時間に仲良く流星群待ってるのに…
……私達は、付き合ってない……
「もう、いっそのことさ…今夜もし流星群が見れたら……付き合っちゃう？」
……つい私の口から滑り出した言葉。
出てしまったのは、私がずっと望んでいた願い。
…しまった。言っちゃった…
あ、でも…絶対本気だと思ってないだろうから、今ならジョーダンで流せ
「いいよ」
る……ん？
「……え？」
…今、なんて言った？
「だから…いいよ、って」
「…なにが？」
「…今夜流星群が見れたら、付き合おう」
……コンヤリュウセイグンガミレタラツキアオウ……？？？
「えっ……えぇええぇっ！？！？」
「うっさい、叫ぶな」
なんて人差し指を耳に突っ込んで私を非難するけど…
いや、だってッ……
「流星群が見れたら……付き合うの？私達？！」
「なんだよ、さっき言ったのはジョーダンかよ？」
「いや…あの……えっと…」
…ジョーダンにしてしまおうかと思ったけど、ジョーダンではないです。
……そう…言ってもいいの？
「……いや…ジョーダンじゃ……ない、デス」
…こんな展開、予想どころか妄想すらしてなくて、
小さくて静かな車内に響き渡りそうなくらいドキドキしてる……
「…なら問題ないだろ？もし今夜、流星群が見れたら……」
付き合おう。
……それはいったい、どういう意味なんだろ？
いや、確かに言い出しっぺは私だけど、
彼が何を考えて話に乗ってきたのかがわからない……
ホントに流星群が見れたら付き合ってくれるの？
それとも引っ張るだけ引っ張って『やっぱりジョーダンでした』ってオチ？？
…なんか気まずくて、何も話しかけられないまま、時間だけが過ぎていく…
……フロントガラスのむこうの空をジッと見つめるけど、流星群はまったくその気配すら見せなくて……
「…来ねぇな」
どれだけ無言の時間が経った頃か…
ふいに呟いた彼の言葉に、ビクッと身体が震える……
…もしかして、もう『帰る』とか言う？
もしこのまま帰ったら…
……また、今まで通りの関係……だよね……
「あのっ…もうちょっとだけ、待ってみない…！？」
「……ん…そだな」
……彼が何を考えてるかわからないけど。
でも、もしここで流星群が見れたら、何か変わるかもしれない……
そう思うと、自然と手を組んで祈る形をつくってしまう……
…お願い。
来て。来て。来て……
「……やっぱ、来ねぇな」
「……うん…」
…どうしよう。
明日も８時半出勤だって言ってたし、そろそろ限界だよね？
……でも……
と、チラッと横目で隣の彼を見ると、むこうを向いていて表情が見えない……
………あ、そうだ。
彼が今、むこうを向いている間に、『今こっちで流れたよ』ってウソをついちゃえば……
……そしたら、流星群が見れたことになるんじゃない？
「……っ」
「あ」
『今こっちで』と言おうと息を吸い込んだ瞬間、彼の声。
「…え？」
「今、流れた」
「ッ…うそっ！？」
彼の言葉に、彼の見ている方を向くけど、そこはもう真っ暗な空で……
「残念。見るのが遅かったな」
「そんなぁっ…」
…流星群見たかったな。
……でも、彼は見たんだよね？
…ってことは……
「……どうする？」
彼がこっちを振り向いて、私に問う…
「…え？」
「流星群、オレは見たけどおまえは見てない。…コレは無効？有効？」
まっすぐ見つめられて、胸がギュウッってなる…
…やっぱり、２人で見てないと無効？
……確かに私は見てないけど…でも……
「あのっ…」
…流星群サマ、お願いです。
見てないくせに勝手なお願いだけど、
……私の願いを叶えてくださいっ……
「有効にしてっ…！だって私っ…ずっと、あのっ……好き、だったのっ…」
…静かな車内で響く私の声。
絞り出すように精一杯で告げた告白は、最後の方は涙声になってしまって……
…思わずうつむく…
……ここで泣くのは反則だ。
ここで泣いたら、彼が断りにくくなる……
「…７５点」
「………は？」
…ビクビクしながら待っていた答えは、想像してなかった答え……
「な……え？…７５、点？！」
……なにが？
「どーせならオレの名前を入れてコクれよ。誰かわかんねぇだろ、それじゃあ」
「わっ…わかるでしょおっ？！ここには私とあんたしかいないんだからっ！」
…なんでヒトが必死に告ったのに、点数つけてんのよっ！？
「…まぁ、でも及第点は７０点だから合格、な」
「だからなんで点数……え？……合、格？」
…合格、って…どういう意味？
そう思ってる間にアゴに指をかけられて、クイッ、と上を向かされる…
……そして……
「…ンッ」
…触れるくちびる。絡まる舌。
まるで味わうように、ゆっくりねっとりとキスされて、
…離れていくくちびる。
「……っ」
「…オレも、ずっと好きだった」
−−−が、と耳元で囁かれる私の名前…
……うそ？ホントに？
信じられない、と彼の顔を見る私に、もう一度啄むようにキスする彼。
「…んじゃ、約束通り付き合うか…流星群見たし」
「……私は見てないけど」
「それでも有効なんだろ……って…あっ！」
「え？！……わぁっ！」
彼の指差すまま、フロントガラスに目を向けると、
そこには幾つも光り輝いて消えていく流星群の姿……
「…すごい、キレー…」
「あぁ……うわ、オレ初めて見た…」
感動…、と隣で呟く彼に、あれ？、と思う…
「初めて、って…さっき見たんじゃなかったの？」
「……あ」
明らかに『しまった』という顔をする彼。
…もしかして、私が考えてたみたいにウソをついた？
「もしかして、さっきの『見た』ってウソ？」
「あー、ほらっ！過去は気にすんなっ！それより流星群流れてる間に願い事言っとけ！ほらっ！」
…いや、そんなこと言われても、ね…
「願い事、って……もう叶っちゃったもん…そっちこそなんか願ったら？」
…私の願いは昔から、キミと両想いになること、だったから……
「…オレも、願いは今叶ったから」
…それは、私と一緒の願いだったってことかな？
「…まぁ、じゃあ…仕事が忙しくてなかなか会えないけど、おまえが浮気しないように祈っとくか」
「なっ…絶対しないからっ！…っていうか、なるべく会えるようになるように祈るのが先でしょ？」
「確かに。……精進シマス。オレも会いたいし」
「…ん。じゃあ、浮気しないで待ってるね」
…星に願いを。流星群に祈りを。
……これから願うことは、
ずっと、キミと一緒にいられますように……
『流星群』END
November 10, 2011
短編：『お持ち帰り〜一昨日の記憶〜』
一昨日の夜のコトを思い出したくて、誘ったのは私の方。
…なのに、飲み屋から我が家に行く間中、ギュッと手を繋いで私を引っ張っていったのは彼の方で。
『逃げられたらイヤだから』って。
だから、誘ったのは私なんだから逃げるはずなんてないのに…
…でも、そんな彼がなんだか可愛くて、嬉しくて、
しっかり繋がれた手は解かずに、ウチまでの道を歩いた……
…玄関の鍵を開けて、クツを脱いで部屋に入った瞬間に腕を引かれて抱き込まれる私の身体…
「んっ…」
そのまま合わさる唇…
…逃げようと思えばすぐ逃げれそうなくらいの力加減で、
それが物足りなく感じてしまう……
「あのっ…ちょっと待ってっ…シャワーとかっ…」
「ダメ。…一昨日はシャワーなんか使わなかったから」
私の言葉だけの拒絶をスルーして、ゆっくりとベッドに押し倒される…
「……茅原さん」
…彼の吐息が耳をくすぐって。
少し乱暴に服を脱がされて。
「…あ、オレのつけた跡、まだ残ってる…」
嬉しそうに彼が呟いて、一昨日つけた跡をペロリと舐め上げる……
「ッあ…」
ぞくっ、と背中を走る快感…
…どうしよう…
たったこれだけなのに…
……おぼれそう……
「ねっ…キミも服、脱いでっ…」
私だけ中途半端に脱がされてるのがイヤで、彼の着ているシャツを引っ張ると、
お望みとあらば喜んで、なんて言いながら勢いよくシャツを脱ぐ…
……うわぁ。
顔だけじゃなくて身体まで私好み……
「…なにジッと見てんスか？」
「えっ…あ……いいカラダだなぁ、って…」
…って！なに正直に言ってんだ、私っ…
「そりゃどーも……じゃあ、オレにも『いいカラダ』見せて？」
「えっ？…っきゃあ！」
彼の言葉の意味を聞く前に、背中に回った彼の手がプチッとブラのホックを外して、もう片方の手でスルリと抜き取って床に放る…
…なに！？カミワザ並の早さなんですけどっ…
「なっ…慣れてるっ…！」
「慣れてる、って人聞きの悪い。年相応、人並みの経験値ですよ…ほら、いいから見せて」
そう言って私の手首をつかんで左右に拡げられる……
ジッと見てる彼の視線が痛くて、恥ずかしくて、
思わず視線を逸らすと、彼がフッと笑う…
「…なに笑ってんのよ」
「いや、やっぱそーやって恥ずかしがるトコ、ツボだなぁと思って…一昨日もそう思ったから」
私の胸を円を描くように撫でながら、彼が言う。
私は、キミのその笑顔がツボです。
…なんて、恥ずかしくて絶対言えないけど…
「…なに考えてるんですか？」
「別に、なにもっ…」
…キミの事考えてました。
なんて、それこそ口が裂けても言えない……
「…オレがこんなにがっついてンのに…ずいぶん余裕ですね…」
「そんなっ…余裕なんてなっ…アッ！」
話してる途中でビクンッと身体が震えたのは、彼が私の両乳首をキュッとつねったから…
「…余裕なんて無くしてあげますよ」
「ひぁっ…やっ…ぁ、んっ…」
彼の口が痛いくらいにつねられた私の乳首に吸い付いて、優しく舌で転がしはじめる…
「アッ、それダメ、ぇっ…」
「『ダメ』じゃなくて『イイ』でしょ？…一昨日はこうしただけで茅原さん、グショグショに濡らしたんですよ？」
意地悪なコトを言われながら、チュバッ、と音をたてながら吸われる度に、身体の芯が熱くなってきて…
……たぶん…もう…彼の言う通り……
……アソコ…濡れてる……
「…ッ、ねぇっ…もっ…シテっ…」
我慢できなくてズルリと自ら下ろした下着はいやらしく湿っていて……
「自分から脱ぐなんて、やっぱやらしいね、茅原さん」
なんて言われても、更に濡れてしまう私…
「やらしいついでにしっかり足開いて」
私好みの笑顔が、卑猥な命令を口にする……
それだけで、期待と快感が一気に身体中を駆け巡って…
…私は、彼の前で、両足を拡げる…
「…ほら、やっぱりグショグショ…」
「んっ…ふ、ぅっ…あっ」
彼の指が躊躇いなく私のアソコに突き立てられる…
第２関節まで入った指が、何度も抜き差しされて、その度に、グプッ、グチュッ、って恥ずかしい音が響く…
「あっ…は、あっ、んッ…」
「すげぇ溢れてる……気持ちイィ？」
「んっ…ぅんっ…いいっ…きもち、いっ…」
いつの間にか指は１本から２本に増やされて、
バラバラに掻き混ぜられて…だんだん高みに追い上げられていく……
「ッ…ごめん、茅原さんっ…ガマンできないっ…」
「えっ…あっ…」
もっと奥に、もっと熱いモノが欲しいと願っていた矢先に、彼の声が聞こえて、今まで掻き混ぜていた彼の指が引き抜かれる……
「ぁっ…抜かないでぇっ…」
「…ん…代わりにコレ、入れさせて」
と、アソコにあてられた固くて熱い待ち焦がれていたモノに、期待で思わず身体が震える…
「んっ…欲しぃっ…」
「……あ、でもその前に」
「…え？」
…今すぐにでも一番奥まで入れていっぱいにしてほしいのに、入口に脈打つモノをあてがったまま『待った』をかける彼……
「…な、に？」
…早くほしくて。
彼に問いながら、思わず彼のアレに擦り寄せるように腰をくねらせてしまう……
「ッ…ダメだって、茅原さん……スル前に…オレの名前呼んで？」
私のいやらしい腰の動きに苦笑しながら、彼が発した言葉…
「……え？」
……名前？
「一昨日は…っていうか、今まで一度も呼ばれてないから…」
呼んでほしい、と言われて…
…少し戸惑った後、口にする…
「……吉野、くん？」
「名字じゃなくて名前で呼んで。あと『くん付け』いらない」
…サクッと繰り出されるダメ出し。
「………伊織、」
「ッ…もう一回…」
…彼の指が、よくできました、というように私の頬を優しく撫でる……
「…伊織」
「……もっかい」
「…伊織？」
「…もっと」
「いお…っあぁ！」
言われるまま、彼の名前を口にしていた途中で、いきなり貫かれる身体……
「ゃっ…いきなり、ダメぇ…ッ」
「っ…ごめん、茅原さんに名前呼ばれただけでイキそうになっちゃったから…」
なんて言いながら、最奥まで穿ったアレをゆるゆると動かし始める……
「は、ッ…あんっ…ふぅっ…ん」
「…いきなりダメって言った割に…痛いくらいにオレのを締め付けてきてるけど？」
「やっ…そ、ンなコトっ…ンンッ…」
…そんなコト………きっとある。
だっていきなり入れられたのに気持ちいいんだもん。
…一昨日の記憶はないのに、身体が覚えてる。
肌が馴染んで。鼓動が重なって。胸がいっぱいで。
「は、ッ…んっ、あ、ぁっ…」
ゆっくりと律動を開始した彼の腰が、だんだん激しくなっていく……
ズッ、ズッ、と内壁を擦り上げる感覚が、たまらなくイイ……
「っ…い、おりっ…伊織ぃっ…」
「…、茅原、さん…ッ」
「あっ…それ、やだっ…」
…思わず零れた拒絶の言葉に、彼の動きがピタリと止まる…
「オレとのセックス…嫌、ですか？」
「あっ…じゃなくてっ…！」
…エッチが嫌なわけじゃなくて…
「私もっ…名前で呼んでっ…」
…茅原さん、じゃなくて…
真那、って…
「……呼んでいいの？」
「…んっ…呼んでっ…」
…聞きたいの。
あなたの口から、真那、って……
「……真那」
「ッ…」
…彼が私の名前を呼んだ瞬間、胸がキュンとする…
「っ…今、すごい締め付けた……真、那…」
「ンッ…ぁ、は…ぅんっ」
…再び動き出す彼の身体。
「…ッ、真那っ…」
…あ、なんか……
……ちょっとだけ…一昨日のコト…思い出したかも……
…そう思ったのはほんの一瞬で、
その思いはすぐに彼から与えられる快感によって掻き消されてしまう……
「はっ、あっ、あっ…」
…残ったのは、『一昨日の記憶』じゃなくて、『今ある快感』……
「…好きです、茅原さんっ…」
…『真那』って呼んで、って言ったのに…いつの間にか『茅原さん』に逆戻り。
…でも、
……そんなトコすら、私の快感を助長させる……
「…っ、伊織、ッ…すきっ…」
「……ッ、そんなコト言われたらっ……」
…つい口をついて出た言葉に彼は驚いて、そして、更に激しく私を揺さぶる……
「んッ…ぁ、アっ…あっ…」
「っ…はっ…ぁッ…」
揺さぶられる中で目が合って…
…自然と唇を寄せる…
上も、シタも、深く深く繋がって……
ズチュ、グチュッ、って音が部屋中に響いて…
……もう、限界……
「ぁっ…もぉっ…だめぇっ…」
「ンッ…オレも、ダメ…っ」
…キスの隙間にお互いの意思を確かめあって、
その後、また何度もキスをする……
何度もナカを掻き回して、突き上げられて、グチャグチャになって、
……そして……
「…んアぁっんっ！」
「ぅっ…！」
……私達は、絶頂に達した。
「……一昨日のコト、思い出しましたか？」
…エッチの後、ふいに彼から聞かれた一言。
その言葉で改めて、一昨日のコトを思い出すためにシタんだった、と思い出す……
「えっと……あんまり…思い出さなかった…」
ごめんなさい、と素直に謝ると、別に謝ることなんかないですよ、と言われる……
「んじゃ、もう一つ質問。…オレとのセックス、どうだった？」
…突き付けられた質問に、ドキッとする。
…どう、って……言われても……
「………よかった、よ」
「…病み付きになるくらい？」
間髪入れずに聞かれて、言葉に詰まる……
…正直に言えば、病み付きになるくらいよかった。けど、
……そんなコト言えない。
「…茅原さん？」
「……ノーコメントで」
「ノーコメント、ねぇ…」
なんて不敵な笑みを浮かべる彼。
……もしかして、全部見透かされてる…かな？
「…まぁ、いいですけどね。茅原さんがオレに『病み付き宣言』するまで、これからもガンガン攻めてくつもりなんで」
…私の好みの顔が、これまた好みの笑顔をつくってそう言う彼。
「っ…そんな宣言しないからっ！」
とは言ってはみたものの……
……果たして私が彼に『病み付き宣言』をするのはいつの日か……
……それは、神のみぞ知る話……
October 27, 2011
短編：『モチベーション』
…社会人になって、あっという間に数年が過ぎて。
私としてはご飯が食べていけるだけの働きを細々としていければ充分なのに、
先輩に『そろそろ別の資格も取ってみれば？』なんて促されて……
…でも……
「…正直、まったくモチベーション上がんない」
…成り行き上、私が受けることになってしまった試験まであと１週間…
……私は完全にやる気を失っていた……
「なに言ってんだよ、あと１週間なんだろ？無駄口たたいてねぇで頑張れよ」
「…隣でマンガ読んでるあんたに言われたくない」
…ヒトが試験対策本を読んで頑張ってるってのに…
…なんでこいつは毎度毎度、ウチにマンガ読みにくるんだっ…
…なんてコッソリ思ったつもりがどうやら口に出ていたらしい…
「おまえんち、マンガの蔵書ハンパないじゃん。お隣りさんなんだから温かく迎え入れろよ。つーかおまえはサッサとサクサク頑張れ」
って…！態度がデカイっ！！
……まぁ、そんなトコロも好きだけど。
…なんて乙女ってる場合じゃなかった…
「頑張れって言われても頑張れないのっ！『将来のため』って言われても、この資格取ったからってスグ給料が上がるわけでなし、誰かがなんか買ってくれるわけでもなし！そんなんでやる気出せってのが無理な話でしょうよっ！？」
「…結局、物欲かよ」
「あぁ、そうよっ！人間なんてね、所詮、物欲絡まなきゃやる気になんてなんないわよっ！」
「うわ…開き直りやがった」
…そうよ！開き直ってやる！
だいたいもともと出世欲のカケラもない私がなんだってこんな難試験受けなきゃなんないのよっ…
「…先輩に言われたからだろ？だったらその時点で断りゃよかったのに」
「う゛っ…」
…おっしゃるコトはごもっとも。
…でも、だってね？
「…その時はこんな難しい試験だなんて思ってなかったんだもん」
…自分の仕事の延長線上にある資格だから、サックリいけるとタカをくくってたのに。
いざフタを開けてみたら意味不明な単語が羅列してて……
「…私、やる気になれば出来るコなのよ。でもそのモチベーションが上がんないんだもん。だからどーしよーもないんだもん」
…ってなモンで。
「……じゃあどうすりゃモチベーションが上がるんだよ？」
さっきまで隣に座ってたくせに、いつの間にかベッドでゴロリと横になってマンガ読んでる……
…少しは意識しなさいよ。
…ソコ、私のベッドなのよ？
「…どうすりゃ…って？」
「お隣りさんのよしみとして、おまえが試験に合格するためなら、オレも一肌脱いでやろうかと」
なんかオレにできるコトある？、って寝ながらマンガ読んでるヤツに言われてもねぇ…
「…合格したらフランクミュラーの時計買ってくれる、とか？」
「アホか。なんでおまえの試験合格のためにオレが百万単位で身銭切らなきゃならんのだ」
…いや。まぁ、ジョーダンですけどね。さすがに。
「もっと現実的に考えろよ。自分がどうすりゃモチベーションが上がるのか」
現実的に、ねぇ。
…一番確実にモチベーション上がるので、
しかもあんたにしかできないコトがひとつだけありますよ？
「……欲しいものがある」
「…百万単位どころか、十万単位も無理だぞ？オレおまえんちにマンガ読みにくるくらいビンボーだから」
「…お金は…かからない」
っていうか…
お金で買えるモンなら、一目散に買ってるっつの……
「金のかからないモノ？なに？」
「試験合格したら……あんたが欲しい」
…………言った。
ついに言ってしまった…
…長年想っていた言葉を、ついに……
……どうしよう。怖くて寝転がるあいつが見れないっ……
『ジョーダンだろ？』って笑われる？
『アホか』ってバッサリ却下される？
『キモッ…』って引かれる？
「ん、わかった。合格したらな」
覚悟して待っていた言葉は、どの想像とも違っていて…
……え？…今、なんて言いました…？
「……は？」
「ホラ、さっさと勉強しろよ。モチベーション上がったんだろ？」
いや。
いやいやいやいやっ！！
モチベーションなんて消え去って、頭ん中、ハテナマークでいっぱいですけどっ……
「なっ…なに！？どういうコト！？」
「なにがだよ」
「いやっ…だからっ！『わかった』ってなに！？絶対わかってないでしょっ…！」
私は『あんたが欲しい』って言ったのよ！？
それが『わかった』って……
「わかってるっつの。オレが欲しいんだろ？おまえが合格したらノシつけて、やるよ」
いや、あんたさえいればノシなんていらないんだけど。
…じゃなくてっ！！
「あっ…さてはあんた！私が絶対合格しないって思ってるんでしょっ！！」
「いや。合格するんだろ？『やる気になれば出来るコ』なんだから」
…そうですよ？『やる気になれば出来るコ』ですよ？
…じゃあ、なに？
……私のモノになっちゃって……いいの？
「…試験合格したら…ホントに…私のモノにするよ？」
「合格したらな」
…パタン、とマンガを閉じて、初めてこっちを見て笑う……
…その笑顔に、どうしようもなく、鼓動が跳ねて…
「…モチベーション上がった？」
「っ……最大級にっ！」
「じゃあ最大限頑張れ……あ、ちなみにもし落ちたら、罰としておまえはオレのモンな？」
そう言って、また何もなかったようにマンガを読み出すあいつ…
試験は１週間後。
合格発表は２ヶ月後。
…マンガを読んでた彼が私のモノになるのか、
…試験対策本を読んでた私が彼のモノになるのかは、
……また別のお話……
『モチベーション』END
October 05, 2011
短編：『お持ち帰り〜お持ち帰りアゲイン〜』
…それは、『酒豪』と呼ばれる私が初めてお酒で記憶をなくして、
知り合ったばかりの男のコを『お持ち帰り』してしまったのが、事の始まり……
……一夜をともにした、どストライクと言っていいくらい好みのタイプの彼が、実はウチの会社の社員食堂の従業員で、
…正体を明かされて、
…飲みに誘われて、
……やたら雰囲気のいい居酒屋の半個室に連れていかれて、現在に至ります……
「んじゃ、とりあえずカンパイ♪」
「……乾杯」
…テーブルを挟んで目の前にいる彼のジョッキに自分のジョッキをあてて、そのまま中身を流し込むようにビールを飲む私。
「やっぱりいい飲みっぷりっスね」
なんて言う彼のジョッキもすでに半分なくなってるんだけど…
「あのっ…別に私、のうのうと飲みに来たわけじゃっ…」
「わかってますよ、たくさん文句を言いたいんでしょ？どうぞ？」
…って、そんな笑顔で言われると戦意喪失するんだけど……
「あの…とりあえず、自己紹介してくれない？」
…言いたい文句はたっぷりあったはずなのに頭の中が真っ白になってしまって…
…仕方ないから、一番知りたかった事から聞いてみるコトにする。
「自己紹介…ん〜……吉野伊織です。トシは茅原さんの２コ下で、調理師学校卒業後、現在は社食の従業員として勤務中。好きな食べ物は和食系で、好きな人は茅原さん。あとはえっと〜…」
「もういい！充分！」
…サラリと『好きな人』とか言わないでよ…
…まだ飲みはじめたばかりなのに、顔赤くなっちゃう……
「じゃあ、今度は茅原さんがしてください」
「…は？」
「自己紹介♪」
ビールを飲みながらニッコリ笑う彼…
…自己紹介、って…
……そっちは私の事、結構知ってそうだけど……
「…茅原真那です。高校卒業後、今の会社に就職しました」
…それだけ言ってまたビールをあおると、目の前の彼がキョトンとした顔をする。
「…自己紹介、それだけ？」
「…他に何を知りたいのよ」
…私の名前もトシも住所だって知ってるクセに。
「ん〜…好きな食べ物とか？」
「酢豚とモズク」
「好きな色は？」
「淡いピンク、かな」
「じゃあ、好きな男は？」
「っ…」
流れに乗って聞かれた質問に思わず答えそうになって、慌てて口をつぐむ私…
…『好きな男』と聞かれて、真っ先に思い浮かんだのは、何故か目の前の彼。
…しかも、やけに熱っぽい顔で、
『好きだ…茅原さん…』
と呟いたシーン……
…コレってもしかして、あの夜の記憶？
……だとしたら……
…覚えてないのがすごく勿体ない気がするんだけど…
「…茅原さん？」
「えっ…あっ……いないっ！好きな男なんていないからっ！」
彼の声に一気に我にかえる私…
ってか…私、なに考えてンのよっ…
「いないんならよかった。まぁ、あの夜『スルのは久しぶり』って言ってたから、彼氏はいないと踏んでたんですけどね」
好きな男がいないならその分オレのチャンス幅は広がるわけだし、なんて独り言のように呟く彼に、ドキドキが止まらない……
…やっぱりどう見ても彼のルックスは超好みのタイプで。
その男がこんなにあからさまに口説いてきてるなんて……
…ドキドキしない方がウソでしょ？
「…あのさ、なんで私なの？」
そんなドキドキを隠しながら、思った疑問を口にする。
「…え？」
「あ、いや…あの…前々から好意持ってた的な事言ってたけど、実際キミとの接点なんて私が社食に行った時のほんのわずかな時間でしょ？なのになんで…」
…まぁ自分で言うのもなんだけど容姿は十人並みだし、
私より若いコなんてザラにいるし、
第一、彼くらいの容姿なら、職場だけじゃなくてそこら中でモテてそうなのに……
「ん〜……なんで、って言われてもなぁ…」
なんて考えながら、新しく来た２杯目のビールに口をつける彼…
…当然私も２杯目突入ですけどね…
「なんでとかないんだよなぁ…気がついたら茅原さんと話すのが楽しくなってて、気がついたら可愛いなぁとか思ってて、気がついたら好きだったっつーか…」
…だから、なんでそんな事態にっ！？って聞いてるんだけどっ…
「あ〜、ホラ、あれですよ！茅原さんもオレの顔がタイプとか言ってたじゃん！」
「えっ！？」
まさかの話しの振られ方に驚く私。
えっ？！なんでそこで私！？
「アレと同じですよ、オレにとって茅原さんの全部がタイプだったんです」
って…！
…ビール片手に、なにサラッと言ってんのよっ…
「……酔ってるでしょ」
「まさか。まだ２杯目ですよ？この間ン時、何杯飲んだと思ってンすか」
…たしかに。
お互い２杯くらいどうってコトないよね……
「…本気で好きなんです、茅原さんが」
…真っすぐに向けられた視線。
さっきの軽口の時とは違う真剣な顔に、また記憶がフラッシュバックする……
『好きです…茅原さん…』
そう言った彼の顔、彼の声…
「…茅原さん？」
…やっぱり、すごく勿体ない気がする。
おぼろげに覚えているのは、
すごく大事に抱かれた感覚と、すごくヨカッタという記憶……
…それなのに、なんで私、忘れてんのよ？
……すごく、思い出したいのに……
「……茅原さん」
「…ッ！？」
…テーブルの上に置いていた私の手に彼の手が重なって、
……指が絡まる……
「なっ…！？」
「…茅原さんがそんな目でオレを見るのが悪い」
…そんな目、ってどんな目！？
なんて思うけど…
……声が出ない。
…手が振りほどけない。
目が、離せない……
「…そんな顔されたら、オレ、期待しますよ？」
…そう言われて、ドキン、と高鳴る胸。
…あの時も私、こんなにドキドキしたのかな？
この手に触られたんだよね？
どうしよう。
…どうしても思い出したい。
「…茅原さん？」
「私…あの夜のコト、思い出したいの」
…彼を好きとかはよくわかんない。
でも、こうやって触れられてるのは全然イヤじゃなくて。
むしろ、体温が上がるくらいで……
「……茅原さん、酔ってる？」
「……まさか。まだ２杯目だよ？」
…さっきそう言ったのはキミの方じゃない。
「いや…だって……あの夜、って…あの夜っしょ？」
「……ん」
「…どうすれば思い出す？」
「……手、触られた時にちょっと思い出したから…もっと…あの…」
…男のヒトを誘うコトなんてそうそうないから、意図が通じるか不安だったけど、
彼が絡めていた指をギュッと握るから…
……伝わったんだと感じる……
「……茅原さん。あの夜も聞いたけど…ソレ、誰にでも言ってないよね？」
「いっ…言うわけないでしょっ！わっ、私だって戸惑ってるんだからっ！なんで私こんなコトしてんだろ、って…」
…ホントになんでだろ？
そりゃ前々からアイサツする間柄ではあったけど、
顔だって、名前だって、あの日に初めて知ったようなヒトなのに…
…こんなに触れた手が離れ難いのが不思議。
……こんなに彼を求めてるのが、すごく不思議……
「…ヤバイ。その顔、超ツボ…」
「えっ……ンッ」
彼が、ガタッとテーブルに手をついて立ち上がったかと思ったら、
そのままテーブルを挟んで目の前にいた私の唇を奪う……
「ッン……」
…いくらこの席が半個室だからって、すぐ真横は人が通る通路なのに…
……どうしよぉ。止められない……
「っ……ぁ」
「……思い出した？オレとのキス」
たっぷりと舌が絡まって離れる唇……
…頭は覚えてなくてもカラダが覚えてるのか、たったこれだけのキスで更なる続きを欲してしまう……
「あのっ……もっと…」
「茅原さん…コレ、ドッキリとかじゃないよね？」
すげぇオレのいいように進んでンだけど、と彼が私に疑いの眼差しを向けるけど…
…ドッキリなんだとしたら、引っ掛かってるのは確実に私でしょ？
……だって、こんなにハマってる……
「…まぁ、たとえドッキリだとしても、茅原さんの誘いなら迷わず乗るけどね」
彼はそう言って２杯目のビールを飲み干すと、手早く帰り支度を始める…
「…どこにします？思い出したいんなら、やっぱり茅原さんち？」
「あ、うんっ…そぅ…なるよねぇ…」
なら早く行きましょう、と伝票を持って立ち上がる彼…
…いやいやっ、行動早くないっ！？
「あのっ…別にもうちょっと飲んでからでもっ…」
だってまだ２杯目、と言う私の手を引っ張って、半ば強引に彼に連れ出される…
「そんなノンビリ待てないです…ってか、また記憶無くなるまで飲まれたら困るんで」
いや、そりゃ確かにそうなんだけどっ……
「…今夜はたっぷりオレを感じて、覚えていてくださいね」
耳元でそう囁かれて、引かれる手……
…たしかに『思い出したい』って誘ったのは私だけど、今さらちょっと後悔……
…だって…
もう一度抱かれたら…たぶん……
……忘れられなくなる。
「…そうなったらどうしよぉ」
「え？なんか言いました？」
「うぅんっ…なんにもっ…」
「そうですか？…やべぇな、オレ浮かれて幻聴まで聞こえてきたのかめ」
なんて言いながら鼻歌なんか歌ってる彼に手を引かれたまま……
……私は彼によって、私のウチに『お持ち帰り』されたのでした……
September 25, 2011
短編：『お持ち帰りAnother another』
…別に、２４時間３６５日思い出してたわけじゃない。
医師という仕事柄、やる事も考える事も、公私に関わらず満載だったし、
たまにポッカリ空いた日はフツーに友達と飲みに行ったりするし……
…ただ。
寂しい時とか、嬉しい時とか、夜眠る前とか。
…そんな時に傍にいてほしいのは、やっぱり…
……忙しさにかまけて別れてしまった、彼女だけ……
『お持ち帰りAnother another』
「やっと終わったな…引っ越し」
…秋晴れで心地好い気候の午後、段ボールが山積みされた新居のリビングで大の字にねっころがって一息つくオレ。
引っ越した新居は２ＬＤＫで前のボロアパートとは雲泥の差。
…そしてなにより違うのは、一人暮らしから二人暮らしになること……
「ねぇ、これってキッチン用品だよね？」
そう言いながら、寝室になる部屋から段ボールをひとつ持ってきたのがオレの二人暮らしの相方。
…ささいなキッカケで一度別れて。
偶然再会したのをキッカケに半ば強引に我が家に『お持ち帰り』して。
……とうとう同棲までこぎつけた相手。
「ん？…あぁ、ホントだ。きっと紛れ込んだんだな」
よいしょ、と起き上がりながら彼女の持ってきた段ボールを確認すると、彼女が心配そうな顔でこっちを見る…
「大丈夫？」
「ん？」
「やっぱり当直明けで引っ越しなんてスケジュール詰めすぎだったんじゃない？相当疲れてるでしょ？」
段ボールを脇に置いてオレの真ん前にしゃがむ彼女。
確かに、今朝まで仕事してた。
寝不足なのは否定しないけど…
……でも。
「少しは無理しないといつまでたってもおまえと暮らせないからな」
おかげさまで仕事は順調な上に多忙。
そんな仕事の予定を優先してたら引っ越しなんてできない。
…それでまたすれ違いで別れるなんて事になったらたまったもんじゃない…
「まぁ明日は休みだし、ゆっくりするから…って…おいっ？！」
話してる途中でいきなりオレの腕を引っ張り立たせる彼女。
「ちょっ…どこ行…」
そのまま彼女はズンズンオレを引っ張って歩いていって…
…着いたのは寝室。
この引っ越しで買った数少ない大物家具のひとつのベッドがドーンと鎮座していて…
……そのベッドに突き飛ばされる……
「ちょっ…！？なんだよっ…」
「ちょっと眠ったら？荷物の片付けは私が少しずつやっとくし…」
…オレをベッドの上に転がしてそう言う彼女…
周りは段ボールが散乱してるのに、ベッドはキレイに整えてあって、
オレのためにしてくれたんだと嬉しく感じる……
「夕飯の時間になったら起こすから、今日は何か食べに行こうね」
おやすみ、と寝室を出ようとする彼女の手を起き上がって掴み、
そのまま引き込む……
…ベッドに倒れ込むオレと彼女の身体…
「なっ…なんでっ？！」
「…このベッドでひとりで寝るのやだから」
こどもみたいな理由を告げて、オレの身体の上に倒れ込んだ彼女の髪を優しく撫でる…
…引っ越しをするにあたって、家具を全部買い替えようと言ったオレに反対した彼女。
『家具はどうしても足りないものだけ！お互いのウチで今まで使ってたもので充分間に合うからっ！』
…そんなしっかり者な彼女の反対を唯一押しきって買ったのがこのベッド。
ふたりで寝るには今までのシングルベッドじゃ狭すぎるから…
「…なんのためにこんなデカいベッド買ったと思ってんだよ？」
耳元でそう言ってギュッと柔らかい身体を抱きしめると、んっ、と少しだけ身動きする彼女…
「でもっ…私、荷物片付けなきゃっ…」
「…明日やりゃいいじゃん」
…真新しいシーツの感触。
ちょうどいいベッドの弾力性。
抱きしめる彼女の、安心する柔らかさと匂い。
……これからは、ずっと、こうやって一緒にいれるんだな……
「んっ…ホントにダメだってばぁっ……って……寝て、る…？」
…なんだかんだ言って、彼女の言う通り相当疲れてたらしいオレ。
いつもなら『ベッドに彼女と』なんてシチュエーションなら、間違いなく手を出してるハズなのに、
…仕事からの解放感と、彼女が傍にいる安心感で一瞬にして夢の中……
「……おやすみ」
…オレの腕の中から出ようとせずに優しくそう告げた彼女の声を夢うつつで感じながら……
……これからの彼女との生活に思いを馳せて、
眠りについたのだった……
September 18, 2011
短編：『お持ち帰りAnother』
「あのっ…私、明日仕事だから、先に失礼するわ」
…ホントは休みのクセに、嘘をついてまで友達を置いて抜け出したのにはもちろん理由がある……
……まさか、今さら、彼に会うなんて……
『お持ち帰りAnother』
「……はぁ」
一人、飲み屋を出て、ようやく一息つく私。
まだ心臓がドキドキいってる。
お酒が原因じゃなく、顔が熱い……
「…はぁ……なんで今さら、こんなトコで……」
「…そんなに会いたくなかった？」
「えっ！？」
聞こえた声に驚いて振り返ると、そこにはさっきまで飲み屋で一緒だった彼が立っていた……
…女友達と飲んでいた、いつもの飲み屋で、
たまたま友達が発した一言が隣の席の男のコとまるかぶりして、そのまま意気投合してそっちの２人組と一緒に飲み始めた……
……んだけど……
…その男のコの連れが、何故か彼で……
「…久しぶり」
そう言う声は昔と全然変わってない……
「……お久しぶりデス」
「なんで敬語だよ、フツーにしゃべれって」
彼はそう言って笑うけど…
フツー、なんてわかんないよ。
…元カレと突然再会した時の『フツー』なんて持ち合わせてないもん……
「元気そうだな」
「…うん」
…彼と別れてからどれだけになるだろう……
とりあえず、カラッポになった心を紛らわすために仕事に打ち込んで、仕事に追われて、気付いたら結婚もせずにこんな歳……
「…なんで…出てきたの？お友達もいたんだし、まだ飲んでればよかったのに…」
「オレも明日、勤務なんだよ」
……勤務、か…
「…なれたんだね、お医者さん」
「…あぁ。やっとこさだけどな」
そう笑う彼に胸が高鳴る……
…私と付き合ってる頃、彼は研修医になったばかりで、
朝から晩まで、すごく忙しかった…
…私も今の職場で初めて大きな仕事を任されるようになって、
だんだん二人で会える時間が無くなって、
小さな事ですれ違って、
でも仲直りする時間すらなくて、
……そのままフェードアウトするように別れてしまった私達。
…それから、想いにフタをして、やっと最近、忘れられるようになってきたのに……
「…よかったね、夢が叶って……じゃ、私、そろそろ…」
「…あ、そうだ」
…このまま側にいたら、フタをした想いがまた溢れてしまいそうだから早々に帰ろうとしたのに、何故か呼び止められる……
「……なに？」
一刻も早く離れたい、そう願ったはずなのに、
呼び止められて嬉しいと感じてしまう矛盾……
「…おまえの荷物とか、まだウチにあるんだけど……これから取りに来ない？」
……ドキン、と跳ねる心臓……
「そ、んなの…捨ててよ…」
「…捨てれなかったから、まだウチにあるんだよ」
…捨てれなかったのは、もしかして……
…そんなバカな期待が勝手に沸き上がってきて…
慌てて打ち消す……
「…取りに来いよ」
「……わかった」
…荷物を取りに行くだけだから。
自分の中でそう言い訳して、彼について歩き出す……
昔は３０ｃｍもなかった二人の距離が、
今は１ｍも離れてて……
思わず近付きたくなる衝動を抑えながら彼のウチまで歩いていく……
「……あ」
…しばらく歩くと、見知ったアパートが見えてくる…
私と付き合ってた時に彼が住んでたアパート……
「…え？もしかして…まだココに住んでるの？」
「住んでるよ、まだココに」
…お医者さんになったんだから、もっといいトコで暮らせるはずなのに……
「…まぁ、相変わらず汚いけど…どうぞ」
「あ…えっと……おじゃまします…」
…中は８畳フローリングにキッチンだけの昔と変わらない部屋…
…部屋の空気感も、家具の配置も昔と一緒で……
……胸が、苦しくなる。
「その辺座れよ」
そう進められて思わず座ったのは昔来る度に座っていたベッド……
…って！私なに元カレのベッドに座ってんのよっ！？
…でも、今さら床に座り直すのも変だし……
……諦めて、ベッドに座ったままでいる。
「…おまえがココに来るのもホントに久しぶりだよな」
彼も昔と同じように、私の隣に腰かけてきて……
…どうしよう。なんか変に緊張する。隣が見れない……
「あっ…あのっ…荷物って…」
いたたまれなくて、つい、ココに来た目的を切り出してしまう……
荷物を受け取ったら帰らなきゃいけないのに。
彼と離れれば、この胸の痛みからは解放される。
でも、離れてしまったら……また会えなくなる……
グルグルと頭を巡るまとまらない考えがピタリと止まったのは、思いもよらない彼の一言を聞いたから……
「…荷物なんてない、って言ったら…怒る？」
「……え？」
…一瞬、意味がわからなかった…
私の荷物がない？
…だって…私、荷物を取りにココに来たんだよね？
「…ウソ、ってコト？」
「……ごめん」
…チラリと隣を見ると彼とバッチリ目があってしまって、
慌ててまた視線を戻す……
…私の荷物があるっていうのはウソだった…
……でも、なんで？
「…なんで…ウソなんかついたの？」
…声が、思わず上擦る…
「……あのまま、帰したくなかったから」
期待していた言葉が返ってきて、胸が騒ぐ……
「ずっと、忘れたことなんてなかった…だけど、医者になってから連絡取ろうと思ったら携帯番号も家も変わってて…」
…そうだった。
彼と別れてから、携帯もウチも変えた…
期待して待ってる自分が嫌だったから。
期待して待って、来なかった時にまた落ち込む自分が嫌だったから。
「…ずっと会いたかった。だから、ウソをついてでも、あのまま帰したくなかったんだ…」
ごめんな、ともう一度謝られて、思わずブンブンと首を横に振る私…
謝ることなんか何もないっ…
…だって、私だってっ…
「わ、たしもっ…ずっとっ……」
…涙が零れ落ちて、言葉が詰まる…
…彼の言葉が嬉しくて仕方なくて……
「…こっちむいて」
「っ…泣、いてるからっ…やだっ…」
…きっと私、グチャグチャな顔になってるっ…
「…バカ。泣いてるから向いてほしいんだよ」
そう言った彼の手が私の頬を包んで、無理やり自分の方に向かせる……
…至近距離で彼と目があって。
久しぶりの距離感。
「…こっち向いてくれなきゃ、涙拭えないだろ？」
彼の指が、手のひらが、私の頬を濡らす涙を拭う…
昔と変わらない、あったかくて大きな手……
「……好きだ」
…胸に響く一言。
「…わ、たし、もっ…好きっ…」
ずっと忘れられなかったの。
ずっと後悔してたの。
あの頃に戻れたら、って何度も願ってたの。
「……よかった」
彼の安堵した声が聞こえて、そのまま手を引かれて抱きしめられる…
…昔はすっかり馴染んでいて当たり前だった、彼の体温と匂い。
でも今は懐かしくて、ドキドキする……
「…んっ」
彼の唇が私の唇を捕らえる…
最初は遠慮がちについばむように…
でもそのうちだんだん舌を絡めて深く深く唇を重ねていく……
「ッ…はっ…ぁっ」
息が苦しくて思わず顔を背けるけど、また激しく奪われて、ベッドにそのまま押し倒されて……
…そんな余裕のないキスが嬉しく感じる……
「…止めるなら今だぞ？」
…キスの合間にそんなことを言われて……
……ばか。
こんなとこで止めれるわけないじゃない……
「…止めないで」
「…言ったな？」
覚悟しろよ、と自分の上着を脱いだ彼が、私のワンピースも脱がしていく……
「…別れてから、オレ以外のヤツと付き合った？」
…ブラジャーがスルリと抜き取られて、あらわになった私の胸をフニッと掴まれる……
「あっ…ん」
「…オレ以外のヤツに…触らせた？」
…強弱をつけて、下から上へと持ち上げるように揉まれる胸……
「…誰もっ…触らせてなっ…ぃっ…ンっ」
「…ホントに？」
「うんっ…ゃあっ…」
…彼の指が、私の両方の乳首をクリクリと摘む…
少し痛いくらいがイイことを彼は覚えてるみたいで…
キュッと強く摘まれる度にあられもない声が出てしまう……
「…よかった。新しい男ができてたらどうしようって…ずっと思ってた…」
「っ…そっちこそっ……別れてから…彼女、いたの…？」
…私だって、ずっと思ってた…
もう、新しいヒトができちゃったのかな、って……
「…できるわけないだろ？好きな女すら忙しさのせいで手放しちまったのに…」
…それは…私のコト、だよね？
「あの…でも…」
「…ん？」
「…なんか…昔より身体が…たくましくなったみたいな…」
…昔はもっと細かった感じだったのに…
上半身裸になった彼に目をやると、筋肉がキレイについていて……
……ドキドキする身体になってて……
「…あぁ、相変わらず激務だからな。ある程度鍛えなきゃやってらんねぇし…」
…って…
彼がこんなにステキに変わってるのに…
……私、どうなのよ……
「あの……ごめんね」
「…は？」
「いや…私……前よりちょっと太ってるかも…」
…もうほぼ全裸に近い格好だからお気づきでしょうけどね……
……昔と違いすぎて引いた…とかない？
「ビックリした…このタイミングでおあずけされるかと思った…」
「…んひゃっ…」
…彼の舌が、私の胸を舐め上げる……
「…激太りしてようがなんだろうがいいよ」
「えっ！？私そんなっ…ンッ…太っ…た？」
「そうじゃなくて……おまえならなんでもいいってコト」
チュパッ、と乳首に吸い付かれて、舌で刺激される…
もう一方の胸も何度も絶え間無く弄ばれて……
……ガマンできなくなる。
「ねっ…こっちもっ…」
…もっと大きな快感が欲しくて、自分から残り一枚の布を脱ぎ捨てる……
完全な全裸になって彼を見上げると、苦笑した顔が目に入る……
「…いやらしい誘い方覚えたな」
「んぁっ…」
待ち望んでいた場所に彼の指が這う……
「…すげぇ濡らしてるけど」
「んっ…ぁっ、やっ…」
…彼が言う通り、彼が私のアソコに指を入れて掻き混ぜると、泡立ちそうなくらいグチュグチュと粘液の音がして……
恥ずかしくてたまらない……
「…久しぶりに味わわせて」
「えっ…な…アッ！」
なに？、と聞く間もなく、私の両足を大きく開いて、躊躇なく彼の舌が私のクリを舐める…
「ぁっ…ゃ、あ…んンッ…」
舌でクリを責められて、アソコには２本の指が突き立てられて……
吸われて、いじくられて、擦られて……
……追い上げられる……
「だめッ…もぉ、イッ…」
「…まだイクなよ」
もうすぐでイキそうだったのに…
…スルリと離れていく彼の指と舌……
「……あ」
…突然放り出された喪失感で涙目になる私の前で、彼は私の蜜で濡れた口許を手で拭う……
「…ひとりでイクなよ」
…彼の低い声が聞こえてきて、その刹那、さっきまで彼の指が入っていた場所に、
固くて大きなモノが突き付けられる……
「…ッア」
「……入れるぞ」
私の答えを待たずに埋め込まれるカタマリ。
ナカを擦り上げるようにして入ってくるアレを、無意識の内にキュッと締め付けてしまう……
「っ…キツぃっ…」
「んッ…あ、ぁ、ぁっ…」
「…一気にっ…入れ、るぞっ…」
「あぁっ…！」
…両膝を持たれて、一気に最奥まで穿たれる……
「ぁ…あっ…」
…無意味に漏れる声…
ナカでドクドクいってる彼のアレの感触が懐かしくて、嬉しくて…
上にいる彼を見つめると、キスが降ってくる……
「…そんな顔されると…動きたくなるんだけど」
…彼の手が、私の汗で張り付いた髪をかきあげる……
「…うご、ぃて…」
「バカ、まだ馴染んでねぇだろ…」
「い…ぃの…おねがぃ…」
私の言葉を聞いて、彼がゆるゆると腰を動かし始める……
「あっ…ぁ、ゃ…あ…ッ」
…久しぶりの感覚。
…久しぶりの快感。
……痛くて、苦しくて、
でも、たまらないくらい気持ち良くて……
「あっ、アんッ、んっ…」
彼に向かって手を伸ばすと、私の意思がわかったようにキスをくれる…
…もう会えないと思ってた彼が、今はこんなに近くにいる……
「ッ…」
「はぁっ…あっ…もぉっ…だめェッ…」
もうイク、そう思った瞬間に一際深く貫かれて……
「…ゃぁああ…んンっ！」
「……ゥァッ！」
……私達は達したのだった……
「…あのさ」
「ん？」
…エッチのあと、別れてからの日常をお互いに話し合ってた時に、
ふいに彼が話しを切り出す……
「なに？」
「…おまえとも無事再会できたし、いいかげんココ引っ越そうと思うんだけど」
…引っ越し？
「…そうなんだ」
「…でさ、よかったらそこで一緒に暮らさねぇ？」
すごく何気なく言われて、思わず聞き逃しそうになる……
「……え？」
…今、なんて言った？
「…もう、すれ違いで別れるとか絶対嫌なんだよ。一緒に暮らせば忙しくても会えるだろ、だから…」
嫌か？、と聞かれて、ブンブンと力いっぱい首を横に振る……
ウソ。夢みたい。ホントに？
「……いいの？」
「…オレがそれを聞いてるんだろ？オレとまた付き合って…一緒に暮らしてくれる？」
そう小首を傾げて笑う彼の顔は昔と全然変わらない…
「…はい」
…嬉しさで泣いてしまった私の涙を、彼がまた拭ってくれる……
…小さなすれ違いと忙しさで別れてしまった私達。
たくさん遠回りしたけど、
…これからは、ずっとずっと一緒にいようね。
『お持ち帰りAnother』 End
