HAKATA PARIS NEWYORK

今のファッションを斬りまくる辛口コラム

本業はファッション、グラフィックなどデザイン関連のクリエイティブディレクター。創る側の視点で今のファッション関連の事情を評論する。マスメディアはもちろん、業界紙誌も扱わないテーマに踏み込む。

売るために買う。

main 2024年もあっという間に二月が過ぎた。メディアは物価高の影響からスーパーでは安さを訴求したPBの売り行きが良いと喧伝しながら、コロナ禍が終息しても割高なコンビニの弁当や惣菜はよく売れていると報道する。つまり、生活防衛のために自炊をして食費をできるだけ切り詰める層と、手軽に食事が済ませられる中食に利便性を求める層があり、双方の市場が共存していることを示す。消費構造は一律では捉えられないことになる。

 そう考えると、スーパーや百貨店の売上げだけを基準に景気動向を判断することにどれほど意味があるのか。少なくとも、個人消費についてはミクロで、いろんな業種、業態の売れ行きを多面的に見て判断することも必要ではないか。

 一例をあげてみる。今年のバレンタインデーだ。かつては女性から男性にチョコレートを贈るのが慣例化し、「本命」や「義理」といった目的別の贈答スタイルが定着していた。ところが、時代とともに目的も大きく変わっていった。他人へのプレゼントから自分へのご褒美としてチョコレートを購入している女性が増えているのだ。

jade-shirokane そして、今年はそれが顕著になった。ある調査会社が行ったアンケートによると、女性がチョコレートにかける平均予算は2023年の1.3倍、金額で約1200円増えて、5024円だったそうだ。しかも、自分へのご褒美としてチョコレートを購入する女性が21.7%で、23年より大幅に増加。自分チョコの需要が増える一方、義理チョコに参加したくないと回答した女性は8割を超えたという。物価高が叫ばれているにも関わらずだ。

 義理チョコにかける予算がまるまる自分チョコに流れたのか。詳細なところはわからないが、義理より自分用を購入する方がグレードが上がるのは間違いない。だから、購入単価もアップし、平均価格が5000円を突破したと見ることができる。大手百貨店はこぞって国内外の有名パティシエが考案した高級品のコーナーを開設している。価格を抑えたい義理チョコより自分用を購入する女性が増えていくのは必然でもある。

 大手スーパーでもグレードアップした商品をエンド展開していた。東京白金の菓子メーカージェイズが作るタブレットチョコ(7~8cm四方)もその一つ。ブランド名は「メゾン・シロカネ」。キウイフルーツやオレンジ、ももなどの素材を組み合わせたグラフィカルなデザインが気に入り、価格も1枚180円と手頃だったため購入した。市販のチョコにはない趣のある味が家族にも好評だったので、輸入物のトリュフチョコでなくてもいいのかと感じた。

 一方で、ディスカウントストアの店頭に並ぶ包装に凝ったチョコレートはどうなのだろうか。義理チョコを意識したギフト目的なのはわかるが、バレンタイン市場の変化を見れば大々的に展開する時代は疾うに過ぎたはずだ。NBの定番も大量展開しているので、こちらは手作りチョコ用の材料も兼ねていると思うが、それならまとめ買いを誘う割引き策が必要ではないか。どちらにしても、イベントに併せて商品そのものを練り直したり、売り方を一考するなど、工夫を凝らさないと消費者を惹きつけられないことは確かだ。

choco-restaurant さらに近年の傾向として、単に既製のチョコを購入するのではなく、パティスリーでスイーツを楽しむスタイルも広まっている。パンケーキやフレンチトーストの延長線であり、これならバレンタインデーだけでなく、チョコメニューさえ準備できれば常時集客できる。スイーツビュッフェよりもグレード、客単価ともアップするだろう。「要予約」「限定○名」といったプレミア感を出せば廃棄ロスを抑制できる。SDGsが叫ばれる時代に合った手法だ。

 女性層は老弱を問わず、甘いものには目がない。特に若い女性は外で食事を楽しむ場合、美味しいものにはお金をかける傾向がある。人気店に行列ができるのも、SNSでグルメ情報がたちまち伝播していくからだ。何も富裕層だけが食事にお金をかけるわけではない。安さだけが中間層を集める決め手だとの先入観を改め、価格が高くても「体験」という価値を伝えるコト消費にシフトする。売り方はそうしたフェーズに入っているのは間違いない。


ブランドを所有するのではなく占有する感覚。

moncler-vottea 買い方の変化はZ世代にも表れている。従来、若者世代は収入が低いため、高額消費を牽引するまでにはならないとの見方が支配的だった。ただ、平成不況の中でもビームスやユナイテッドアローズなどのセレクトショップは、20代の若者世代に支えられ右肩上がりの成長を遂げた。お客の中には欲しいアイテムは無理しても購入するフリーターもいた。単価が高い高級ブランドには手が出ないが、値ごろなアイテムを購入するお客の絶対数が多いことで、セレクトショップでは高い売上げに繋がったわけだ。

 もちろん、若年層の総収入には限りがあるし、非正規雇用から抜け出せない層も少なくない。そんな中で賢く生活する術としてどこかに投資をすれば、どこかを削ることになる。賛否は別としてブランドのTシャツを購入する割に、年金保険料は納付の猶予を受けていると嘯く若者もいた。昨今では収入が伸びないことが非婚化、ひいては出生率の低下、少子化を招いているとも言われている。ただ、個人の人生設計やライフスタイルに国家や企業がどこまで介入できるのか。これについては別の機会に書くとして、話を若者の消費変化に戻そう。

komehyo 東京・渋谷の公園通りを上り、渋谷パルコの角を左に折れて宇田川町方面に歩くと、井の頭通りに下る路地坂がある。通称「スペイン坂」。かつてこの地にあった喫茶店のオーナーが開業するパルコから坂のネーミングを依頼され、自店の雰囲気にちなんで名付けたと言われている。ここはこれまでに何度も通り抜けているが、記憶に残っているのはガラス張りのDJブースくらいしかない。

 そんなスペイン坂の井の頭通り角に昨年11月、中古品売買大手のコメ兵が「KOMEHYO SHIBUYA」をオープンした。売場はフロアごとにテーマが設けられ、全国から厳選されたアイテムが並ぶ。ボッテガ・ヴェネタ、ディオール、グッチ、ロエベなどのバッグのほか、「メゾン マルジェラ」「モンクレール 」といった若者人気のブランドアパレルがラインナップ。スニーカーやアクセサリーも充実する。

 場所柄、明らかに若者をターゲットにした店舗になる。同社は若者向けに絞り込んだファッションアイテム主体の品揃えで、若者に人気のあるエリアで出店を進めている。有楽町にはすでにスニーカーの専門業態を出店したほど。そうした効果は歴然とあらわれ、2023年の客単価は19年対比で、29歳以下ではバッグが3.12倍、時計は7割も伸びたという。

 背景には、Z世代では「せっかく購入するなら再販価格が高いブランド品の方がいい」という価値観の変化がある。ネットオークションへの出品やフリマによる中古品の処分が簡単にできるようになったことで、新品を購入する前に中古価格を調べるためにわざわざコメ兵を訪れて調べる若者もいるとか。ブランド品であればクオリティも高い。再販価値は十分にあるから、高値で売ることもできる。ならば、所有するのではなく、占有する感覚で着用することは十分にあり得るだろう。

AIsatei もちろん、再販で現金化すれば、それは新たなアイテムの購入資金になる。その循環がうまくいけば、割高なブランド品の購入を後押しする。経済効果として捉えてもいいはずだ。現にメルカリの調査ではフリマアプリの利用者の63%が「中古品売買で得た資金を新品購入の原資に充てる」と答えたという。リサイクル専門誌は2012年から22年の10年間で2.9兆円と10倍に急増したリサイクル市場は、30年には4兆円まで伸びるとの見通しを立てている。

 かつては「中古品ばかりが売れると新品の販売に影響が出る」と憂う向きもあった。しかし、「売れる中古品は再販でも価値があるもの。そのためには価格が高くても新品のブランド品が売れることが前提」という風に考えを変えるべきなのだ。平成不況の時代はコストパフォーマンスの良い商品と言えば、安くてオシャレなアイテムだった。それが令和の現在では、再販価値の高いものに変化した。そのためには原価率を上げた上質なもので、いかにブランド価値が高いものをいかに作っていくかにかかっている。

sastinale-jewelry2 宝石・貴金属や高級時計は元々の価格が高いので、再販でも高値で販売することができる。ただ、業界の関係者からは、「海外ブランドのジュエリーは石のカッティングセンスがいいので、地金の台だけ溶かしてデザインを変えれば再生価値につながる」と、聞いたことがある。今では「サスティナブル・ジュエリー」というカテゴリーがあるほど。これも再販価値を生むかもしれない。

watch maintenance 機械式の高級時計はメンテナンスすれば、再販は可能だ。国内メーカーの販売代理店の部長はかつてこう嘆いていた。「セイコーがクォーツなんて開発するから、時計屋が潰れるようになった」と。熟練技能士の雇用や育成がままならず、分解掃除の技術も伝承できなくなったということだ。再販市場が拡大すれば、日本人の技術者も必須になる。先日、高級時計のシェアリングサービスを謳った事件が発生した。防ぐには商品にシリアルナンバーをつけ、ブロックチェーンで管理することで所有者を明確にし、再販時にも確認できる仕組みが必要だろう。

 国連が設定した2030年までの目標、SDGsが叫ばれる中で、サーキュラーエコノミー(循環型経済)が浸透し、若者の間ではリセール消費は当たり前になった。中古市場を時系列で推計するリサイクル通信は、2022年度の市場規模は2兆9000億円としている。カテゴリー別では衣料・服飾品が5200億円、ブランド品3100億円とみる。今後も成長が続くとみており、30年には4兆円に達すると指摘する。

 リユース市場をアングライメージで見つめるのではなく、むしろ中古品市場の活況は再販価値をもつ商品作りがカギになる。そういう考え方に変えるべきなのだ。そのためには原価率が高くコストをかけた上質な商品を生み出す努力をすることが重要。若者には購入額に限界があるとは言えるが、消費そのものの動向から目が離せないのも確かである。




服に生き返らせる。

recycle-yarn 2023年12月、EU(欧州連合)は、持続可能な製品のための「エコデザイン規制」の見直しについて暫定合意した。内容はアパレル事業者が売れ残った衣服や付属品などの廃棄を禁じるものだ。フランスも2020年2月、「循環経済法」を施行し、売れ残った衣類などについて企業が焼却や埋め立てによって廃棄することを禁止している。

 では、どう処分すればいいのか。フランスでは衣類などの売れ残り品は、原則として「リサイクル」か「寄付」をしなければならない。世界的に脱炭素の潮流が加速度を増す中、EUが規制に踏み込んだことで、日本も対岸の火事と見過ごすことはできなくなるかもしれない。

 日本では、1980年代のDCブランド全盛期には、期末のセールでも売れ残った商品は「焼却処分」していた。売れずに在庫として残ることによるブランドの毀損を避けるのと、期末には在庫が「資産」とみなされ課税されるからだった。ところが、2000年代以降、CO2を排出する焼却は地球温暖化、脱炭素社会の流れに逆行することから許されなくなった。

H&M 一方で、2000年以降はファストファッションが台頭し、市場規模を超える大量の格安商品が流通したため、1980年代にプロパーで7割程度あった商品の消化率が5割程度まで落ち込んだ。さらに欧米に倣ってアウトレットやオフプライスストアといった在庫処分の業態が開発され、売れ残り在庫をできるだけ現金化する流れになった。ただ、元々知名度があり、製造コストをかけて原価率が高い商品ならともかく、端から安く作ったものをさらに安く売ったところで、消化に限界があるのは確かなことだ。

recucle yarn2  トレンド性があるとか、知名度のあるブランドは、タグを切って二次流通業者にわたるケースもあるが、できるだけ早く現金化しなければならない。バッタ屋などは自ら値引き販売すれば数十円~数百円でも換金できると考えるので、どうしても在庫を引きづってしまう。だが、キャッシュインが進まないのは、やはり問題だ。売れないものは売れないから結局、廃棄せざるを得なくなる。元々、日本ではそこまで売れ残る商品は数%と言われていたが、ファストファッションの台頭以降はこうした商品が増えていると思われる。

 世界的に見ると尚更、格安品の売れ残り在庫は増加の一途を辿っている。そのため、フランスは在庫処分の次のプロセスにまで踏み込めるように法規制したわけだ。当局は衣料品廃棄の計画において売れ残り在庫は原則、焼却も埋め立てもできないという厳しいものとした。2030年までには「経済活動による廃棄物は5%、家庭の廃棄物は住民1人当たり15%削減」の目標を掲げ、企業だけでなく一般消費者にも廃棄を減らす生活を奨励した。脱炭素社会が世界中に広がったことを考えると、日本も同様な流れになるのは想像に難くない。

 フランスはリサイクルや寄付によって処分することを義務付けた。日本でもいろんなリサイクル方法が試みられているが、寄付が浸透するかは不透明だ。なぜなら、アパレル商品には好き嫌いがある。売れ残り在庫は消費者に好まれず、購入に至らなかったもの。寄付という行為でタダだからといって、皆が欲しがるかと言えばそれも疑問だ。「四の五の言わず、貰っておけばいい」と言うのは、あまりに横暴で善意の押し付けになりかねない。

 ある児童養護施設の職員が語っていた。「子どもたちの感覚は普通の家庭の子と何ら変わらない。好きな服を着たいし、好きなものを持ちたい。なるべくそうさせてやりたい」と。今の日本なら当然かもしれない。そこで、文化や習慣が違い、貧困で着るものにも事欠く海外への寄付になると、どうなのだろうか。ただ、SDGsの第一目標である貧困を無くすには、世界の富をみんなで分け合うことであって、寄付をしたからといって無くせるものではない。


紙のリサイクルを応用した再生装置

 もちろん、着るものにさえ困っている人たちへの寄付を否定するつもりはない。ただ、これも簡単ではない。まず、送料がかかることだ。それでなくても石油価格の高騰で、運賃は値上がりしている。寄付をするなら、送料まで支援できるのか、である。さらに税関の手続きにも手間がかかる。荷物の内容を明示するリスト作成がそうだ。

 まず海外に出荷する商品の写真、繊維組成の明細(布帛、ニット、カットソー)、混紡率といった資料を用意しなければならない。そして箱ごとの枚数や重さを計量して書類に明示することも必要になる。また、繊維の組成別に商品を仕分けすれば、その分箱の数が増えるため送料に跳ね返ってくる。コンテナ輸送になるから、一箇所の港に集めて500~1000箱くらい送り出さないと、コストは吸収できないと思われる。

 では、リサイクルはどうか。繊維製品のリサイクルは大きく分けて3つある。まず、廃棄物を粉砕または融解し、物質の特性を変えないまま、次のリサイクル品の原料とする「マテリアルリサイクル」だ。これには1.衣類をばらして布状にしたあと雑巾や油拭き用のウエスにする。2.布から繊維をわた状にほぐし自動車などの防音シートにする。3.合成繊維の布は洗浄・粉砕・溶解し、ボタンやファスナーなどの成形材にする、3つがある。

断裁 次に素材を分子レベルで分解し、精製した後に化学合成・再製品化する「ケミカルリサイクル」。これは異素材を除去し高品質のリサイクル品を生産でき、また石油由来の新品に近い品質を実現できる。だが、リサイクルの工程が複雑で、処理プロセスの高コストになるというデメリットがある。3つめが衣料を可燃ごみと一緒に焼却し、発生した熱を発電や暖房に再利用する「サーマルリカバリー」。ただ、廃棄物を新たな製品に再生するわけではないことから、リサイクルとはみなされず、焼却によってCO2を発生させてしまう。

ドライファイバーテクノロジー もちろん、日本企業の中は、高品位な繊維原料への再資源化する技術開発にも取り組んでいる。セイコー・エプソンが2025年に衣料品から繊維を再生する事業を開始する。同社は紙に印刷するプリンターのメーカーだが、衣料に衝撃を与えて繊維を取り出す再生装置を開発し、アパレルメーカーなどに供給する計画という。

 従来のように衣類を細かく断裁して繊維を取り出す手法では、繊維の強度を保つために綿を加えるため、繊維の再生率は10%程度にとどまっていた。そこでセイコー・エプソンは紙のリサイクル技術を応用した手法で、まずは50%を超える再生を可能にすることからスタートする。もちろん、将来的には100%リサイクルが目標だ。

 原理は以下になる。水を使わずに衣類を物理的にほぐして繊維を取り出す「ドライファイバーテクノロジー」を応用する。同社はすでに乾式オフィス製紙機「ペーパーラボ」にこの技術を搭載しているほか、神林事業所やインドネシア・エプソン・インダストリーに大型設備を設置し、古紙から緩衝材やインク吸収材などを製造している。繊維分野では、パートナーシップを締結するデザイナーブランド「ユイマナカザト」が古着をリサイクルした不織布シートをコレクションの一部に使用するケースがあった。

 今回はHKRITA(香港繊維アパレル研究開発センター)と共同開発契約を締結し、ドライファイバーテクノロジーを応用した、新しい繊維リサイクルのソリューション提供を目指す。繊維のマテリアルリサイクルでは、2種類以上の繊維が混紡された合成繊維を分離するのは、技術的に難しいとされている。特に主流の反毛機を使用した解繊では、強撚素材やストレッチ素材の処理が困難だった。ドライファイバーテクノロジーはこれらに対応していくもので、廃棄衣料を再び繊維として活用し、循環型ソリューション社会の実現を目指していく。

 アパレル各社でも繊維リサイクルはすでに動き出している。ZARAを展開するインディテックスは、グローバル化学メーカーのBASFと協業し、リサイクルによるナイロン100%商品の販売をスタートした。繊維廃棄物をリサイクルしたBASFのループアミドを生地、ボタン、ファスナーなどに使用。2030年までにすべての繊維製品で、環境負荷を抑えた素材に切り替える計画だ。サステイナビリティー担当のトップは、「協業は新しいテクノロジーを使った循環型ソリューションの第一歩」とし、引き続き両社での取り組みを拡大していくという。

recycle4 海外アパレルのこうした取り組みは、サイトを見るとよくわかる。掲載商品のマテリアルの項目には、使用する繊維がリサイクルであれば、明確な表示がなされている。昨シーズンくらいからは、「Matière(素材): 30% Laine - Recyclée」とか、「Doublure(裏地): 100% Polyester recyclé」とかの表記が当たり前になった。一方、日本のアパレルもリサイクルには取り組んでいるとは思うが、素材に堂々と使用していると公開しているところはまだまだ少ないようだ。

 裏を返せば、グローバルアパレルではもはやマーケットを制圧し、売上げトップになることだけが企業使命ではないということ。少なくともステークホルダーから信頼されるには、繊維の100%再生を目指すことも重要になる。機器メーカーによって少しずつ技術が開発され、それをアパレル各社が活用すれば、製品にもリサイクル素材が使用されていくだろう。そして、個々の消費者に理解されて浸透すれば、もはや販路の一部を押さえるプラットフォーマーのLINEヤフーや楽天も、中古品販売を超えるアクションを起こさないわけにはいかなくなる。

 企業活動を続けていく上で、世界をより良く、持続可能なものに変えていく上で、リサイクルについて自らコミットメントするのは当然だろう。売場に積まれた大量の売れ残り在庫を前に、これらの再生にどう取り組むのか。某グローバルSPAのトップからも、ぜひ伺いたいものである。


メガFCで生き残る。

kintetsu-depart-main1 新型コロナウイルスの感染拡大が終息し、最高益を稼ぎだす都市百貨店がある一方、地方百貨店の衰退が止まらない。全国の百貨店は1999年の311店舗をピークに現在は180店まで減少した。24年間で131店、約4割も減った計算になる。すでに百貨店が1店舗しかない県が14、1店舗もない県が3もある。今後生き残れる百貨店は人口が100万人以上の都市と言われるが、それも百貨店という形態を維持し続けられるかと言えば、甚だ疑問だ。

kintetsu depart そんな中、近畿地区で知名度のある「近鉄百貨店」が新たな展開に乗り出している。フランチャイズ(FC)事業の拡大である。業種はコンビニエンスストアを皮切りにベーカリー、カフェ、グロサリー、眼鏡、生活雑貨、ドラッグストアと多岐にわたる。2023年度にはFC事業だけで売上高150億円、人員体制150名を達成。利益率も高く、営業利益は10%を超える。

sky-terracetokyomercato-hp伊勢十ペコリシャス 顔ぶれは以下になる。奈良市に本拠を置くレストラン、ベビーフェイスの「ベビーフェイススカイテラス」。ピッツァ、エスプレッソ、グロッサリーの3通りが味わえるイタリアンレストラン「トウキョウメルカート」。東京神田に本店を構える松阪牛専門焼肉店「洋食屋伊勢十」。洋菓子の不二家が新規開発した業態「ペコリシャス」やHCのカインズともFC契約を結ぶなど、現在では22業種59店舗を展開する。今後も衣料品や靴、アクセサリーなどファッション分野なども含め、業種、店舗の拡大を進めるという。

 そもそも百貨店とは何か。衣食住などに関わる多種多様な商品を対面で販売する大規模小売店舗を指す。国内外の高級ブランドや老舗の味も扱うため、店内は高級感があって長い歴史に裏打ちされた暖簾と信用を旨とする。ただ、米国のように商品を買い取ることはせず、メーカーなどに場所貸しして販売員を派遣させるスタイルだ。商品が売れてから初めて仕入れる「消化仕入れ」を基本に、在庫負担のリスクを抑えるビジネスモデルを採用してきた。

 バイヤーが独自で商品を開拓し、販売まで行う自主編集売場もあるが、売場の大部分はブランドのインショップ、いわゆるハコ貸し、不動産業に近い形態が占める。そのため、荒利益から派遣社員の給料や在庫引き取りなど経費が差し引かれるため、利益率はそれほど高くない。それでも、一般大衆の年収が右肩あがりに伸びていた時代は安定したが、バブル崩壊で中間層が没落すると一気に売上げを下降させるところが増えた。その多くが地方百貨店になる。

 当然のことながら、ブランドは売上げが減少すると、撤退する。それがまた百貨店の売上げを減少させるという悪循環を引き起こす。地方では郊外に大型のショッピングセンターがあり、百貨店に行かなくても日常の買い物にはほとんど困らない。さらにECが浸透したことで、全国各地のありとあらゆる商品が地方に居ながら購入できるようになった。期待のインバウンドも大都市の百貨店に集中しており、地方に広く波及するまでには至っていない。売上げが下がり、インバウンドのおこぼれに預かれないところが閉店している状況だ。

 2022年度1年間の全国百貨店の売上げは、前年を13%余り上回り、新型コロナウイルス流行前の約9割にまで回復した。大都市圏で人口集積が高いエリアに出店する百貨店では最高益を上げたところもある。日本橋の三越、新宿が拠点の伊勢丹、SC事業にも積極的な高島屋や松坂屋、関西ではダントツの阪急がそうだ。

 大手百貨店は、小売店を介さず直接消費者に商品やサービスを販売するD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)にも本腰を入れる。「明日見世」を展開する大丸東京店、「b8ta」を導入した阪急うめだ本店、「ミーツストア」を開店した高島屋新宿店。どれもその場で商品を売ることはせず、体験や接客を通じてサイトに誘い、購入してもらう。大手百貨店自ら売れるものを探しに行くスタイルで、売上げが回復した余裕を窺わせる。


地域三番店の生き残り策としてのFC加盟

 一方、単なる場所貸しだけでなく、収益を上げる手法としてFC事業を選んだのが近鉄百貨店だ。関西という大都市圏に店舗を構えるも、あべのハルカス近鉄本店(2022年度売上高1136億円、全国第10位)は、阪急うめだ本店(同2610億円、同2位)、高島屋大阪店(同1319億円、同7位)に次ぐ地域三番店。近鉄系列では奈良店、上本町店が続くが、これらは地方百貨店であるが故、売上げ上位には遠く及ばない。

 近鉄百貨店は現状のポジションに甘んじているわけではないだろうが、暖簾と店舗を存続させていくためにFC事業も経営戦略に加えた。百貨店としては、FCブランドのポートフォリオを確立できるだろうし、様々な業態を展開することでリスクヘッジも可能だ。経営陣はそれらも含めて懸命な判断と捉えたのではないか。

 FC事業はフランチャイザー(FCザー)の本部がそのノウハウをパッケージ化して、フランチャイジー(FCジー)の加盟店に提供する。その内容は商標、看板、店舗デザイン、ユニフォーム、メニュー、教育・訓練プログラム、運営マニュアルなどになる。代表的な業種はコンビニや外食だ。近鉄百貨店も取っ掛かりはそれらを選択しているので、まずはFCに慣れようという思惑が見て取れる。

 加盟店の近鉄百貨店は本部からノウハウを提供してもらう代わりに、固定または売上げに応じてロイヤリティを本部に支払わなければならない。また、開業に必要な資金や人材を確保する必要もあるから、近鉄側から社員を送り込んだと思われる。それでも、低リスクで起業できて単なる場所貸しより利益が出る。なおかつスピーディに事業拡大ができるのだから、手応えを感じているのも頷ける。

 もちろん、お客は近鉄百貨店の店舗内にある業態なら安心するし、ハンズやカインズのように全国的な知名度があれば、直営だろうとFCだろうと利用する上では何ら問題ない。ただ、FCは良いことばかりではない。デメリットもあるのだ。

 例えば、パッケージ内容がFCザーによって様々で、初期投資や開業におけるサポートにも程度差がある。教育や訓練のプログラムもシステム化されているところ、スーパーバイザーという人任せのところもある。本部の経営方針が変われば、好調な売れ行きメニューや商品であっても、姿を消す場合がある。全ての業種で順調に利益が生み出せるわけではないのが、FCなのである。

 また、FC企業が提供するパッケージは平準化されているため、運営段階で店舗ごとで内容を変えることは許されない。FCジー側がオリジナルのメニューや商品を開発することも、独自でサービス内容を変えることも不可能だ。かつてダイエーが提携したほっかほっか亭は、経営不振でエリアFCジーのプレナスに株式を売却した。これによりプレナスの方が力を持ち、商標権などの取り扱いで訴訟に発展したケースもある。ただ、これは極めて異例なことだ。

 逆にFCザーがシステムに則り、商品やメニュー、マネジメントまでを教えてくれると、近鉄社内の人材育成やキャリアパスと、どうバランスを取るかの問題も出てくる。あくまで近鉄の社員が段階を踏んで成長するのが重要とすれば、ジョブローテーションとの整合性や将来的な人材配置まで想定しなければならない。仮にそれらができなかったら、高い離職率につながるリスクもある。つまり、FC業態を横断して交流し、学ぶ機会や世代間を超えた人事交流も不可欠なわけだ。もちろん、これらは近鉄百貨店も十分承知の上だと思う。

childwoman_1ビュルデサボン 今後はファッション業態も視野に入れるということだが、安定した売上げを維持するにはブランドはもちろん、アイテムや店作り、MD、販売手法といったノウハウが必須になる。ある程度、知名度があるブランドFCはそれらを確立しているが、関西地区ではすでに出店済みなものが多く、バッティングの問題が頭をもたげる。FCジーになりたくてもなれない場合があるのだ。

 こんな事例もある。チャイルドウーマンやビュルデサボンなどをFC展開するアンビデックスは、2023年の3月に3社に分社化。チャイルドウーマンはオクモ社、ビュルデサボンはクロスワード社の傘下となった。FC事業は継続しても、ブランドに対する方針が変わるかもしれないし、FC契約の内容が変更されることは十分にあり得る。

 FCジーにとって売れている時は良いが、売れなくなって契約を解消したくてもFCザー側が契約を盾に拒否しないとも限らない。業界では良好だった関係が拗れたという話はよく聞くことだ。FCは出店する前から事業モデルが決まっているため、FCザー側は「このお店は収益が出ます」と自信を持って勧めてくる。加盟店が欲しいから、そう言うのは当然だ。しかし、売上げは実際に出店してみないとわからない。

 あるメガFCジーの経営者は、かつてこんなことを語っていた。「FC本部が月商1000万円で収支損益を試算し提案してくれるなら、FCジー側として同800万円くらいに下振れさせて計画し直す。FC事業部にはその売上げ目標にもう20%のストレスをかけ、再度540万円で運営計画をたてるよう指示を出している」と。

 この経営者はFCでいろんな修羅場を潜ってきたからこそ、これがたどり着いた事業の要諦とでも言おうか。経営者としてはいたってマイナス思考だと言えるが、FC事業にはそのくらいの危機管理も必要かもしれない。さて、メガFCジーを目指す近鉄百貨店はどうなのだろうか。


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