まぁ、頑張りまっか

自分が気に入ったバンド/ミュージシャンの感想文付きディスコグラフィを作ります。 このブログで掲載しているものは実際に音源を購入した作品に限ります。 なお、無断転載はお断りします。

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Name: PARADISE LOST
Nation: 🇬🇧
Genre: Gothic Metal 
Years Active: 1988~
Band:
1988年結成のイギリスはウェスト・ヨークシャー州出身のゴシック・メタルバンド。
ヨーロッパのHR/HMシーンにおいて高い人気を誇るサブジャンル、ゴシック・メタルの先駆者として知られ、ヘヴィ・メタルの攻撃性とゴシック・ロック/ダーク・ウェイヴの陰鬱さを兼ね備えたサウンドは国内外で数多くのフォロワーを生んだ。
デス・ドゥームにゴシック特有の悲劇的なニュアンスを加えて発展させた90年代初期、伝統的なヘヴィ・メタルに接近しつつ80'sゴシック・ロック要素を増量して独自のサウンドを確立した90年代中期、エレクトロニック要素を血肉化してダーク・ロックに昇華した90年代後期~00年代中期という風に、時代ごとに大きな音楽的変遷を経てきた。
00年代後半以降はより普遍的なドゥーム・メタル様式を踏襲した本物のゴシック・メタルを創り上げ、現在もコンスタントに活動を続けている。
その実績に反して日本における人気は低いが、90年代にデビューしたイギリス出身のメタルバンドとしてはシーンに最も強い影響を及ぼした偉大なる存在である。
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オススメ曲: 
True Belief (4th収録)
Forever Failuer (5th収録)
Say Just Words (6th収録)
Faith Divides Us - Death Unites Us (12th収録)



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”Lost Paradise”


Album Type: 1st full
Style: Death Doom Metal, Proto Gothic Metal
Legth: 40:49
Released: 1990 
Review:
ゴシック・メタルというジャンルが未だ世に存在しなかった頃、英国はウェスト・ヨークシャー州出身の若者達を中心に結成されたParadise Lostのデビュー作です。
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まず、全体的な作風としては、禍々しい死臭混じりの土煙を撒き散らしながら非情なブルータリティを叩きつける厭世系デス・ドゥームであるため、2nd以降のバンド・イメージとは少々趣きを異にしているのが特徴と言えるでしょう。
さて、デス・ドゥームと言えば、昨今においてもアングラ主義HR/HM界の右翼に属するジャンルで有名ですが、実は同じ流派内部でも音像の質感に差異があります。
例えば、デス・メタル目線でドゥーム・メタルの特徴である重鈍さをアクセント的に踏襲したスタイル(同世代ではAsphyx、Autopsy)が元々の主流であった訳ですが、今回の主役Paradise Lostの場合はドゥーム・メタルを核に据えた上でデス・メタル様式(デス声、ディストーションを過剰に施したノイジーなギターなど)を取り入れたスタイルを採用しています。
後者に関しては、Paradise Lost自身や盟友My Dying Brideは勿論、Sempiternal Deathreign、Necro Schizmaらが生み出した所謂”ヨーロピアン・スタイル”と呼称されるもので、そのままゴシック・メタルやフューネラル・ドゥーム・メタルへと正統発展を遂げた結果、界隈の勢力図がガラリと塗り替えられることになったのですが、それは少し先のお話。
とにかく、ドン底まで力任せに振り下ろされる枯れた重鈍リフ、ミドル~スロー・テンポを基軸に粗暴な展開を魅せるリズム・セクション、化け物染みた負のエネルギーを吐き出すNick Holmes(Vo)の高低グロウルなど、表層的な過激さ=デス・メタルらしさという見方では長年のキャリアでも随一の出来栄えなので、後追いで今作を知った方々にとっては面喰らうこと間違いなしです。
その一方、英国産らしい翳りを持つアルペジオや微量の抒情成分を含んだソロを時折添えたり、クワイア風のアレンジ、ゴス・ホラー調のキーボード旋律、女声ソプラノ、不穏な鐘の音を実験的に導入したりと、”ゴシック・メタルのプロトタイプ”と思しき手法が見受けられる点は要注目。
そうした、80'sダーク・ウェイヴから着想を得たであろう細工は、90年代初期に勃興したデス・メタル勢との差別化を図る上で大きな役割を果たしました。
音像から想起される情景とは掛け離れた雰囲気のアートワーク(SF映画マニアであるNick Holmesの提案と思われる)や、録音状態の粗さなど作品自体の統一感には課題がありますが、当時の最重量級モダン・エクストリーム・サウンドは今聴いても迫力充分。
(Rating: 7.5/10)


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”Gothic”

Album Type: 2nd full
Style: Gothic Metal, Death Doom Metal
Legth: 39:24
Released: 1991 
Review:
80年代末期の闇より出でし魔物が短期間で産み落とした今作は、”ゴシック・メタルの旧約聖書”と語り継がれる正真正銘の歴史的作品であります。
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まず、音像の骨格には、聴く者を圧殺するが如き重鈍リフ、暴虐の獣性を吐き散らすグロウルなど、破壊的な表現を辞さないデス・ドゥーム手法が引き続き採用されています。
しかしながら、今作最大の特徴は、クラシック音楽由来の手法を増強し取り込んだことで既存のデス・メタル系譜には本来存在しなかった芸術性と、中世ヨーロッパの暗黒時代を彷彿とさせる世界観を創出した点に尽きるでしょう。
例えば、名刺代わりの代表曲#1. Gothicを始め、#2. Dead Emotion、#9. The Painlessなどの楽曲では、オペラティックな気高さや清廉さを感じさせる女声ソプラノと生のオーケストラ隊を駆使した荘厳シンフォ・アレンジを導入、Gregor Mackintosh(Gt)による格段と悲愴な音色になったギター・メロディも相まって、まるでゴシック文学のように浮世離れした退廃美を実現しています。
また、Nick Holmes(Vo)は無機質な非人間性を追求するデス・メタル式グロウルの典型に徹することから早くも脱し、感情表現を深めた人間的なグロウルを会得しました。
超現実的な音楽性にありながら、べっとりとした生々しい痛みを伴って聴き手の気分を沈ませるのは、彼の熾烈なパフォーマンスに寄る部分が大きいです。
更に、#8. Silentでは不器用ながらもメロディを追おうとした努力が窺えますし、作中随一の求心力を備えた80'sゴシック・ロック直系ギター・フレーズが咲く#3. Shatteredでは野太いバリトン・ボイスを披露するなど、今後の躍進を予感させる試みも注目すべきでしょう。
さて、エクストリーム・メタルという過激な音楽形態にクラシック要素やアートの香りを世界で初めて持ち込んだ異端教祖と言えばCeltic Frostの一択で間違いありませんが、Paradise Lostの場合はスローで重圧感のある音像とクラシカルなエレメンツの融合を図ったことで、悪魔的な閉塞感と神秘的な壮麗さが相互共鳴して生まれる劇場型コントラストを極端に発展させたのです。
彼らが今作で成し遂げた音楽革命さながらの試みは、所謂"ビースト&ザ・ビューティ"などのヨーロッパ的手法の雛型として数え切れないほど多くのバンドから模倣され、そのまま作品名を冠したサブジャンル=ゴシック・メタルを誕生させるに至りました。
HR/HM史に於ける文化的価値の高さは当然ながら、バンドの飛躍と桁違いの独創性を捉えた古典作品をお試しあれ。
(Rating: 8.5/10)


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”Shades Of God”

Album Type: 3rd full
Style: Gothic Metal, Death Doom Metal
Legth: 52:56
Released: 1992
Review:
普遍的なバンド・サウンドを堂々と押し出した燻し銀な作風の力作3rdです。
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今作を語る上で重要なのは、前作からクラシック・インスパイア的要素(儚くも厳かな気品を発する女性Voやオーケストレーションの導入)を削ぎ落とした代わりに、前作の流れを汲む陰鬱&耽美な音世界をギター隊の手腕で表現することに成功した点にあります。
とりわけ、これまでの一部の楽曲においても正統派メタルと英国ゴシック・ロックを異種配合させたかのような独特のメランコリック・フレーズを編み出してきたGregor Mackintosh(Gt)の潜在能力は、今作で覚醒したと言えるほどの活躍振り。
ゴシック・メタルというジャンル内では希少価値が相当高いソロイストとしての才覚を世に知らしめた事実も見逃せません。
また、前2作でデス・メタリックな力技の転調を好んで用いてきたMatthew Archer(Dr)によるドラミングは、元来の重心の低さを維持しつつ剛直に構えるジャーマン・メタル様式に幾らか接近した印象を受けます。
結果として、Gregor Mackintosh(Gt)が随所で炸裂させる暗いドラマ性を宿したメロディが際立つよう作用しており、クライマックス付近に設置されたブリッジからの悲劇的な曲展開はParadise Lostのキャリアを通しても上位に食い込む仕上がりです。
芯の通ったリズム+重いリフの連撃から極自然に絡み付いてくる澱んだメロディや鋭く研ぎ澄まされたソロが実に渋い#1. Mortals Watch The Day、終盤に作中屈指の絶望感を噴出させる#4. Daylight Torn、スピーディに動き回るドラミングと攻撃的な刻みの応酬から俄かに悲惨な心象風景を描き出す#5. Pity The Sadness、引き摺るようなリズムの上に乗る野卑なスラッジ・リフと咽ぶメロディが魔のコントラストを生む#8. The World Made Flesh、耽美なメランコリーを血が滾るエネルギーに変換した代表曲#9. As I Dieなどは、そうした変化がプラス方向に働いた好例でしょう。
そして、前作でグロウルに人間的な感情表現を開花させたNick Holmes(Vo)は発声の細かな強弱や抑揚に磨きがかかり、ボーカリストとしてもう一段階成長したことをアピールしています。
HR/HM界に絶大な影響を与えた歴史的作品に挟まれるという過渡期の状況下で発表された作品ということもあり、日本では普段以上に地味な評価を下されがちですが、純粋な完成度では前作より上位にランクインする隠れた名盤です。
(Rating: 9/10)


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Album Type: 4th full
Style: Gothic Metal
Legth: 50:32
Released: 1993
Review:
本人達が無自覚の内に、Black Sabbathから脈々と連なる英国メタルバンドらしいデカダンな風格すら備わってきたParadise Lostの4枚目となる今作は、ゴシック・メタルをエクストリーム・メタルの監獄から解き放った記念碑として名高い歴史的名作です。
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まず、今作最大の特徴は、Nick Holmes(Vo)が遂にグロウルを捨て去り、内に秘めた憎悪や苦悩を自己犠牲を思わせるほど不器用に、しかし情熱的に歌い上げるスタイルへとシフトした点でしょう。
もっとも、低音~中音の普通声に荒々しいエッジを施したハーシュ・クリーンを主に使用している上、力強さや節回しがスラッシュ系の吐き捨てシャウトと遠からずな質感なので、"メロディ・オリエンテッドなボーカリスト"にまで化けた訳ではありません。
しかし、虚仮威しではない人間らしい情念の揺れ動きを常に追い求めてきたNick Holmes(Vo)にとって、"積極的に歌うこと"は極めて大きな進歩となりましたし、音楽面のバリエーションは勿論のことゴシック・メタルの多様化にも直接的な影響を及ぼしたことは明記しておくべき事実です。
また、今作における楽器隊のパフォーマンスはアンサンブルの説得力が増した前作の旨味を引き継いだものですが、エクストリーム・メタル色は大分薄まってきており、代わりに正統派メタル由来の普遍性と壮大なドラマ性をドゥーム・サウンドに組み込んでいます。
演奏の過激さが薄れたことで、前作で排除されていたオーケストレーションや女声ソプラノの再導入にゴシック・ロックが持ち得る官能美が加味されている点がユニークですし、精神的な重圧感が反比例のように増している点も強く印象に残ります。
これら勇猛果敢な変化により、陰鬱&耽美&情熱の3要素が時に交差し時に拮抗するという綱渡り的バランス感覚が、Paradise Lostの音像内で成立したことも見逃す訳にはいかないでしょう。
映画音楽風の物々しい幕開けから勇壮なスロー・リフと嗄れた歌声が武骨に響き渡る代表曲#1. Embers Fire、終末世界さながらのドゥーム・リフと荘厳なタッピング・メロディの応酬が映える#4. Joys Of The Emptiness、灰色の濃霧を想起させる陰湿なフレーズと躁鬱気味のボーカルが苦々しい#10. Weeping Words、心に穴を開ける漆黒のメランコリーと恐ろしく失意に塗れたバリトン・ボイスが至高の退廃美を織り成す指折りの名曲#10. True Belief、穢れなき女声ソプラノと艶かしく交わる王道ゴシック・ロック・チューン#12. Christendomなど、全編を通して聴きどころ満載の素晴らしい仕上がりです。
今作以降のNick Holmes(Vo)は、14th”The Plague Within”まで20年以上に渡ってグロウルを封印することになるので、彼が如何に新しいボーカル・スタイルへ手応えを感じたかが分かりますね。
グランジ、シューゲイズ、ブリットポップ、ヒップホップ、ハウスといった時流に飲み込まれ史上最悪の低迷期に陥っていた当時の英国メタル界に新たな命を吹き込んだ重要作を挙げるとするなれば、完成度の高さや後続への影響力も含めて自分は今作を推したいです。
2ndが"ゴシック・メタルの旧約聖書"ならば、今作は"ゴシック・メタルの新約聖書"と言い表せることでしょう。
(Rating: 10/10)


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"Draconian Times"

Album Type: 5th full
Style: Gothic Metal
Legth: 48:59
Released: 1995
Review:
黄金期の真っ只中にいる彼らが2年の年月を費やして創り出した今作は、バンド史上最も大きな商業的成功を収める至った作品にして、今尚"Paradise Lost最高傑作の一つ"と語り継がれる金字塔です。
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まず、全体的な作風については、"脱エクストリーム化"を決定付けた前作の音像を更に発展させたもので、そこに独創的なキャッチーさを会得したことが今作の大きな魅力となっています。
例えば、グラム・メタル風の豪快なドラミングをParadise Lostが元来持ち味としてきた重苦しいアンサンブルへと取り込んだ結果、楽曲ごとのリズムに振れ幅が生まれ、聴き手を惹きつけて離さない鮮烈なコントラストが顕著となりました。
いつになく明るい光を纏ったギターの音色がゴシカルな美旋律と邂逅する#2. Hallowed Land、シンプルな曲構成の上に乗る簡素なサビと縦ノリのリフが死期の脈動を見せる大合唱必至アンセム#3. The Last Time、3rd収録Pity The Sadnessや4th収録Widowで培った疾走+悲哀の流れを汲む王道メタル・チューン#5. Once Solemn、ハード・ロック直系のワウペダル術を活かした古典的フレーズが温かみのある暗黒粒子音へと変換される#9. Shades Of Godなどは、今作のどこか精神的に不安定で鬱屈としたキャッチーさを象徴する好例でしょう。
他バンドとは一線を画すコンポーズ・センスの目立つ場面が増えたことで、真紅色に瞬きながら闇に溶け込むThe Cure風の静謐なメロディや痛みが伴う悲愴なソロの数々を往年のNWOBHM顔負けの煽情力を以って展開していくGregor Mackintosh(Gt)の存在感は、最早"ゴシック・メタル界のギター・ヒーロー"と賞賛するに相応しいほど抜き出ることになりました。
同時に、相棒Aaron Aedy(Gt)が緩急巧みに弾き出す濁った重金属リフや夢想的な哀切を帯びたアコギとの絡み合いは、機械的なグルーヴが支配していた90年代の時流とは正反対の質感であり、そこに英国メタルの救世主たるParadise Lostの気高い矜持を感じざるを得ません。
そして、他者とは決して分かち合えぬ絶望をメラメラと燃え滾る生命感で歌い上げるNick Holmes(Vo)は、この時点でハーシュ・クリーンの代表的な使い手にまで成長しています。
前作では多少力んでいた感の否めなかった彼のボーカルですが、しっとりとしたバリトン・ボイスを挟みつつ、以前のグロウルを遥かに上回る危うい気迫と緊迫感を備えた絶唱を繰り広げる姿には胸を打たれること間違いなし。
特に、陰鬱&耽美&情熱──Paradise Lostを構成する三大要素を最良の形で凝縮した超名曲#4. Forever Failureでのパフォーマンスは神懸かりです。
終盤に向かうにつれて徐々に暗くなるアルバムの流れは、Joy Division登場以降のゴシック音楽文化を彷彿とさせる一種の伝統芸能ではありますが、それ以上に罪を背負って闇の中で彷徨うような孤高の芸術性を損なうことなく、ゴシック様式あるいはドゥーム様式の典型に陥らない大衆性と多様性を手にした点が、Paradise Lostにとって非常に重要な意味を持ったことは今や明白でしょう。
ゴシック云々を抜きに、全てのメタルヘッズにオススメ出来る奇跡の傑作です。
(Rating: 10+/10)



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"One Second"

Album Type: 6th full 
Style: Dark Rock, Gothic Metal
Legth: 54:58
Released: 1997
Review:
英国HR/HM界を代表するバンドとしてメジャー・フィールドで戦う宿命を背負った彼らが、いよいよ前人未到の音楽領域へと足を踏み入れた急進的な作風の傑作6thです。
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まず、今作最大の特徴は、メタルの範疇から逸脱したエレクトロニック手法を全編で積極導入し、これまでとは全く別の角度から斬新なゴシック・サウンド、欧州音楽界で言うところのダーク・ロックを創り上げた点にあります。
そう、このアルバムを支配するのは、"耽美派シンセ・ポップの皇帝"Depeche Modeから多大な影響を受けたであろう、モダンに洗練されたメランコリックなキーボードの美旋律、やけに金属的な響きのビート、分厚い重低音の弾幕を張るデジタル・ベースといった電子音楽要素であり、過去作で聴けた煽情力抜群のギター・ソロを始めとする伝統的なHR/HM要素は極力抑えられています。
また、ザクザクとテンポ良く刻んでいく硬質な80'sリフ・ワークこそ微かに残ってはいるものの、どちらかと言えばインダストリアル風の無機質さを強調しているため、Paradise Lostの持ち味である静と動のコントラストを巧みに活用したダイナミックな曲展開の感触も、過去作で顕著だったクラシック調のものからエレクトロニック・ダーク・ウェイヴ調のものへと変貌を遂げています。
それに加え、Nick Holmes(Vo)はトレードマークであるハーシュ・クリーンを封じ、予想以上に広くなった音域でSimon Le Bon(Duran Duran)すら彷彿とさせる艶っぽい歌声を披露しているのも目新しいポイントでしょう。
要するに、90年代後期におけるゴシック・メタルの形式化進行を尻目に随分と思い切った方向転換を図った訳ですが、これがParadise Lostの更なる飛躍に繋がったことは今作の収録曲を聴けば明らかです。
例えば、憂いを帯びた鍵盤のループに哀愁と色気を漂わせる美声を乗せた#1. One Second、ゴシック界最強クラスのインパクトを誇るイントロで華麗に煽情しながら貴族的なバリトン・ボイスと情熱的な高音ボイスが"1人デュエット"を繰り広げる一撃必殺チューン#2. Say Just Words、オーケストレーション風の壮大な電子音と機械的なリズム・パターン、人間らしい情念が宿ったボーカルが未知の化学反応を生む#4. Mercy、哀しみを押し殺すような歌声を聴かせつつドゥーム・リフが鳴り響くや否や厭世観が吹き出す#10. Disappearなど、モダン・ゴシックとも形容出来る世界観を提示してくれます。
Paradise Lostを構成する三大要素(陰鬱&耽美&情熱)の魅力を充分に残しつつエレクトロニック・ミュージックの持つ未来感を加えたことで、人間の脆さをスタイリッシュに描写する表現力をも会得したのです。
なお、今作発表以降、多くの有力ゴシック・メタルバンドがParadise Lostの後を追ってエレクトロニクス方面へと一時的に傾倒するムーブメントが巻き起こったので、その先進性は推して測るべしでしょう。
意図せずとも、結果的にオリジネーター自らの手でゴシック・メタルの多様性を押し広げることとなった新境地の傑作であります。
(Rating: 10/10)


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Album Type: 7th full 
Style: Electronic Darkwave, Dark Rock, Synthpop
Legth: 53:00
Released: 1999
Review:
前作で誰にも動きを封じられないイレギュラーと化したParadise Lostが、世界中で賛否両論の嵐を巻き起こしたHR/HM完全脱却作7thです。
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一級シンセ・ポップよろしくシックに洗練された電子音を自由自在に操るダーク・ロックを基軸に、彼らのアイデンティティであるゴシック/ダーク・ウェイヴ由来の哀感や陰影を存分に落とし込んだ今作のサウンドは、前作という伏線を踏まえた上でも非常にドラスティックな変革を迎えたものと言えるでしょう。
前作をギリギリのところでHR/HMの括りに押し留めていたギターのヘヴィネスは跡形もなく消失、代わりにスマートなエフェクトを施した幻想フレーズを多用するなど、従来の攻撃的なプレイからは大きく距離を置いているのが印象的です。
そんな今作の主導権は、ほんの少し前まで"ゴシック・メタル界のギター・ヒーロー"として活躍していたGregor Mackintosh(Gt/Key)によるエレクトロニック・アレンジに譲渡されているのが特徴で、彼が奏でる新鋭シンセ・フレーズ──シンセ・ポップ調の冷ややかでロマンティックな音色から、フューチャー・ポップ調の近未来的な音色、ゲルマン系ダーク・ウェイヴ調の退廃的な音色まで──を最大限にプッシュしています。
随所で導入されるストリングスの類も決してクラシカルにはならず、徹頭徹尾スタイリッシュな美旋律への拘りを見せている辺りに、バンドの覚悟のほどが窺えますね。
また、まるでテクノ系ドラム・マシーンが正確無比に打ち込んだような無機質さを持つLee Morris(Dr)のドラミング、いつになくタメ感を重視した図太い低音を響かせるSteve Edmondson(Ba)のベースといった、ダンサンブルなリズム・セクションも今作のメタル離れを確実に後押ししていると言えるでしょう。
そして、ここに来て"メロディ・オリエンテッドなボーカリスト"として勝負出来るレベルにまで成長したNick Holmes(Vo)は、その佇まいに英国紳士らしいダンディズムとニヒリズムが花開き、過去最高に透明感のあるブルーな美声で聴き手を魅了します。
初期からは想像も出来ない音楽性に行き着いてしまった今作ですが、メタリックなギターに頼らずとも気が滅入るほどの"重さ"が作品を暗く染めている点は、方法論こそ違えど彼らの根幹が不変であることを証明しているのではないでしょうか。
エレクトロニック・ゴシック/エレクトロニック・ダーク・ウェイヴという欧州人専用ジャンルに該当する作風が故に、その手の音楽に縁も所縁もない日本では不遇な扱いを受けた作品(逆に界隈の聖地ドイツではチャートTOP5入りの快挙)ではありますが、この完成度の高さは恐るべしです。
彼らの根底に宿るものに惹かれた方にとっては、きっと新たな扉を開いてくれるであろうキャリア最大の異色作。
(Rating: 9.5/10)




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"Believe In Nothing"

Album Type: 8th full
Style: Dark Rock
Legth: 45:53
Released: 2001
Review:
Paradise Lost三大要素を担う"情熱"がボロボロに欠けてしまった鬱作品8thです。
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基本的な作風としては、前作で一つの頂点を極めたエレクトロニック手法をアクセント程度に引き継ぎつつ、そこそこヘヴィなディストーションを施したギター・サウンドと普遍的なアンサンブルを再び取り戻したダーク・ロック路線に仕上がっています。
とは言っても、このギター・サウンドの質感は中々の曲者で、グランジ勃興以降の英国オルタナティヴ・ロックとの親和性が高い、適度な柔らかさと太さを兼ね備えたものとなっています。
また、Gregor Mackintosh(Gt/Key)とAaron Aedy(Gt)が展開するギター・プレイは、90年代ブリットポップを思い出さずにはいられない骨太リフ、ドライヴ感のあるパワー・コード、空間系エフェクトを駆使した浮遊フレーズが大半を占めているため、過去作で実現していた悲愴なヘヴィネスとはほとんど異なった方向性を示しています。
しかしながら、今作の明暗を分ける最大のポイントはこうした音楽性の表面的な変化ではなく、感情表現が不感症のように乏しくなってしまったNick Holmes(Vo)のボーカル・パフォーマンスにあると自分は考えます。
どれだけ良質な抒情成分に富んだメロディをなぞっても、ショッキングなまでに一本調子で、無気力、不安定、つまり、前2作で実践していた"感情の昂りを意図的に抑える"ゴシック式ボーカル・スタイルの典型とは明らかに異なる真正の鬱歌唱に陥ってしまった今作の彼の姿からは、かつてのように燃え滾る情熱を感じ取ることが出来ません。
おそらく、彼が抱える心の病の悪化が原因の一つと推測出来ますが、ブルーを通り越して虚無に陥った歌声は、本来ならポジティヴな雰囲気すら漂わせるサウンドを焦燥に駆られた空元気へと変えてしまっています。
無論、この虚無感をどう受け止めるかは聴き手に委ねられており、実際自分は今作のある種サイケデリックな世界観に魅せらましたし、久々の王道ギター・ソロを含めたオルタナ色も中々マッチしていると思います。
ただし、音楽性を変えながらも前作までは確実に存在していた熱量が失われているのは紛れもない事実で、アレンジの幅も普段と比べると残念ながら見劣りします。
従って、2ndをやや下回るぐらいの評価が妥当と自分は判断しましたが、他では聴けない本物の裏鬱サウンドを良質なメロディで聴けるという意味では、試す価値があるのではないでしょうか。
ゴシック・メタル始祖の称号に恥じぬ暗い作品を発表し続けてきたバンドではありますが、後味の悪さ及び精神汚染度に関しては今作が最高値です。
(Rating: 8/10)




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"Symbol Of Life"

Album Type: 9th full
Style: Dark Rock, Industrial Gothic Metal
Legth: 41:38
Released: 2002
Review:
新たにインダストリアル由来のヘヴィネスを増量したモダン・ダーク・ロック作9thです。
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まず、全体的な作風を述べるなら、"ヘヴィ・ロックの始祖"Killing Joke影響下にある方法論──マシーナリーな重金属音とクレイジーな電子音で無慈悲に攻撃を仕掛けるインダストリアル要素、トライバルなリズム・パターンを大胆に活用したポスト・パンク要素、ミステリアスさを醸し出すオリエンタル要素、陰性の抒情美を横溢させるダーク・ウェイヴ要素に、ドイツ風のSF的アトモスフェアを全身に纏ったものと書き表すことが出来るでしょう。
ここ数作ではヘヴィネスと意図的に距離を置いていた彼らですが、今作ではHR/HMの領域に舞い戻ったと言っても差し支えない、鋭利にギラついたギター・サウンドを前面に押し出しているため、その破壊力は格段に向上しています。
ただし、5th以前のようにGregor Mackintosh(Gt/Key)によるギター・メロディが楽曲を先導している訳ではなく、あくまで機械的な反復を繰り返すリフ・ワークが中心に据えられており、メロディの大部分をダーク・エレクトロニクスが引き受けている点には依然変化が見られません。
一方、本家Killing Jokeさながら中近東リズムに則った特有のズレを硬質なアンサンブルに応用したLee Morris(Dr)が叩き出す民族的なドラミングは今作において一際目立つ美点で、過去のParadise Lost作品群には存在しなかった"しなやかなタメ感"をもたらすことに成功しています。
そして、前作では病的なほど空虚なパフォーマンスに陥っていたNick Holmes(Vo)は、新たにJaz Coleman(Killing Joke)からヒントを得たであろう、激情に目覚めたサイボーグのような気迫を放つドスの効いたハーシュ・クリーンで、以前とはまた趣を異にする黒い情熱を注入しています。
幾分スタイリッシュに加工された苦悩や悲哀を歌い上げるクリーン・ボイスや対象の広がった歌詞にも、7thで開眼させた英国紳士らしいダンディズムとニヒリズムが確と宿っていますし、何よりここに来て再構築された感情表現でParadise Lost三大要素の均衡を取り戻した点は、彼の奇跡的な復活を意味するのではないでしょうか。
ボリュームに若干の物足りなさを覚えるという欠点こそありますが、終盤までのテンションは全盛期近くまで引き上げられている作品です。
(Rating: 8.5/10)


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"Paradise Lost"

Album Type: 10th full
Style: Gothic Metal, Dark Rock
Legth: 47:03
Released: 2005
Review:
自身が築き上げた巨大な牙城を打ち壊すことすら厭わない音楽的変遷の末、Paradise Lostの第二の黄金期到来を告げるセルフ・タイトル作10thです。
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まず、全体的な作風としては、久方振りにGregor Mackintosh(Gt/Key)印のメランコリック・ギターを随所に盛り込んだ生演奏を主軸とする普遍的なアプローチを採用しつつ、ダーク・ロック系のオルタナティヴな作曲術を反映させた"中期回帰+α"路線と言えるでしょう。
前作において、インダストリアル直系のマシーナリーな感触が認められたギターとベースの音作りは幾分か温かみと丸みを取り戻していますし、ありとあらゆるスタイルを器用に捌いていた前任者と打って変わり、新メンバーJeff Singer(Dr)は基本に忠実なドラミングに徹しているので、Gregor Mackintosh(Gt/Key)による悲愴なギター・メロディがより際立って聴き手の心を掴みます。
一方、6thや7thで血肉化させたエレクトロニクスの恩恵を無駄にせず、電子ダーク・ウェイヴ由来のSF映画的オーケストレーション・アレンジでもって90'sゴシック・ロック式のバンド演奏を包み込み、その抒情美を増幅させているのも今作の特徴です。
また、Nick Holmes(Vo)は高貴なダンディ・ボイス、ブルーで物憂げな美声、エフェクトを効果的に噛ませたサイボーグ・ボイス、エモーショナルな中高音ハーシュ・クリーンを安定して使い分け、高いクオリティを実現する際に失われがちなサウンドの人間味を強く引き立てます。
浮世離れしたメランコリーが映像的な音空間の中で淡く輝く#2. Close Your Eyes、オルタナ式浮遊フレーズとケルティックなアコギが耽美な化学反応を生む新機軸#7. Laws of Cause、澱んだドゥーム・リフに幽玄なメロディが絡み付きながら咽び泣くギター・ソロと狂おしい熱唱で締め括るParadise Lost三大要素(陰鬱&耽美&情熱)が満載の佳曲#12. Over The Madnessなどは今作の作風の好例と言えます。
5th~9th集大成を思わせるバラエティを人並みならぬキャリアで培った整合性を活かして組み立てたサウンドは、暫く退いていたゴシック・メタルの頂点に今一度君臨する可能性を示唆しました。
突き抜けた必殺曲の類はありませんが、"セルフ・タイトルを冠する10作目"に込められた想いの強さは本物でしょう。
(Rating: 9/10)


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"In Requiem"

Album Type: 11th full 
Style: Gothic Metal
Legth: 45:08
Released: 2007
Review:
再びメタル・モードに突入したParadise Lostが全身全霊を注ぎ込んだ傑作11thです。
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まず、今作の大きな特徴として挙げられるのはHR/HM様式のバンド・サウンドを過去作には見られなかった切り口を交えてプッシュさせたことでしょう。
80'sゴシック・ロック調の縦ノリな刻み、鉛色に濁ったハードな重金属リフは勿論、死臭が薄っすらとこびり付いた暗黒リフを弾き出すAaron Aedy(Gt)の攻撃的なプレイや、重低音の威力とうねりを一層強烈にするSteve Edmondson(Ba)のベース、小綺麗に纏まっていた前作とは一変して荒々しい叩きっぷりで楽曲に適度なキレを与えるJeff Singer(Dr)のドラミングなど、現代的な音作りで蘇ったドゥーミーなアンサンブルはここ数作で最もメタルらしいヘヴィネスを実現しています。
こうした重々しいサウンド・アプローチを深淵なる境地へと導くのは、やはりGregor Mackintosh(Gt/Key)に他なりません。
中近東調の魔性を封じ込めた旋律を新機軸として加えつつ、全編で絶大な存在感を発揮する灰色のメロディや劇的なソロ・ワークの大波は、まるで古の神話世界さながらの荘厳なドラマ性に当世風のデフォルメを加えたかのような趣です。
6th以降の作品で頻用されていた空間系エフェクトを施した浮遊フレーズの輪郭を明瞭化させた点も、バンド・サウンドに重きを置いた作風に合致していると言えます。
とはいえ、7thでHR/HM様式に頼らない"重さ"を会得した彼らであるからして、ここ数作をヒントに改良を加えた重厚なオーケストレーション・アレンジを操り、儀式めいたアトモスフェアをヘヴィ・メタルとは異なった角度から立体的に投影することにも成功しています。
この辺りの絶妙なバランス感覚は、自身が定めた音楽性へ振り切れがちだったかつての彼らにはあまりなかったもので、第二の黄金期(10th以降の作品群)の特徴でもあります。
そして、Nick Holmes(Vo)のパフォーマンスもまた非常に高レベルで、諦念を帯びた穏やかな歌声、貴族的な華と絶望感を併せ持つバリトン・ボイス、グルーヴ・メタラー顔負けの威圧感を放つ咆哮型シャウト、ありったけのエネルギーを乗せた伝家の宝刀ハーシュ・クリーンを場面に応じて使い分けていきます。
活動歴約20年目にして、遂にAaron Stainthorpe(My Dying Bride)やTilo Wolff(Lacrimosa)らに代表される"ゴシック・メタル界のストーリー・テラー"とでも言い表せる王者の覇気がその身に宿ったように感じました。
密教ような空気感で東洋的荘厳さを生む#1. Never For The Damned、一度聴いたら忘れられないキャッチーなコーラスを悲愴なソロと対比させた野心的なアンセム#3. The Enemy、時の流れが減速したかのように錯覚してしまうメロディ重ねの妙技が光る#4. Praise Lamented Shade、ダーク・ウェイヴ系の耽美な交響音と悟りの域に達したボーカルが揺らめく#11. Your Own Realityなど、キャリア史上最高のバランス感覚で持続する鎮魂歌のオンパレードは他の同系統のバンドを圧倒する次元にあります。
数年の音楽的冒険を経て、ゴシック・メタル史に燦然と輝く新たな金字塔がここに誕生したのです。
(Rating: 10+/10)


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"Faith Divides Us - Death Unites Us"

Album Type: 12th full
Style: Gothic Metal
Legth: 46:02
Released: 2009
Review:
黄昏の玉座に腰を下ろしたゴシック・メタルの主神が、宗教と信仰の陰を白日の下に晒す黙示録トーンで語りかけた作品12thです。
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まず、Gregor Mackintosh(Gt/Key)とAaron Aedy(Gt)両名の7弦ギター解禁によって、初期とはまた異なるブルータリティを手にした点は今作の大きな特徴です。
ただし、7弦ギターを導入したと言えど、巷で溢れ返っていたメタルコアやジェント風の小綺麗な音作りには陥っておらず、あくまでも90'sドゥーム様式をそのままアップデートさせたかのような陰湿な粘り気を肌で感じられる職人気質な音作りが施されています。
こうしたサウンド面の進歩も手伝って、"ゴシック・メタル界のギター・ヒーロー"ことGregor Mackintosh(Gt/Key)による熟練のパフォーマンスは過去最高の冴え渡りを魅せており、聴き手を灰色の炎で焼き尽くす必殺のメランコリック・メロディを筆頭に、神話的スケールで悲壮に弾き出される煽情力満点のソロ・ワーク、オリエンタルな渇きを強調した妖しい節回し、80'sゴシック調のジメジメとした不穏さを孕んだ浮遊フレーズ、静謐な空間を利用して情趣的に紡がれる幽玄なアルペジオ、荒れ狂う嵐さながらのデス・メタリックなトレモロなど、全編を通して主役級の活躍を発揮しているのが非常に印象的です。
楽曲終盤で一気に天へと突き抜けるようなカタルシス表現をギター・メロディが担っていることや、キーボードを裏方に徹させた辺りは3rdの構成術を想起させますね。 
また、ギター・メロディの間を縫って狡猾に這い回るSteve Edmondson(Ba)のベース、Aaron Aedy(Gt)による地を揺るがすが如き極太ドゥーム・リフ、怒涛のスネア叩きが衝撃を起こすドラムで、柔軟さと硬さを併せ持ったグルーヴを更に強化した結果、巨大な躍動感が楽曲にもたらされた点も印象深いです。
そして、前作で"ゴシック・メタル界のストーリー・テラー"にまで成長したNick Holmes(Vo)は、グロウルと同種類の獰猛さと老練な凄みが同居した咆哮型シャウトを緩急自在に取り入れ、メロディックなギターと対比するように普段よりも直線的なパフォーマンスを披露しています。
エッジを薄く鋭く研ぎ澄ますことで咆哮型シャウトと差別化された切り札のハーシュ・クリーンが信じられないほどの悲哀と苦悩の念を乗せた負の炎と化して迫る様や、ヴァースで使用されるナイーヴに濡れた美声も含めて、彼の表情豊かなボーカル・ワークはギターが主役の今作でも輝いています。
名曲Forever Failureに負けずとも劣らない濃度でバンドの三大要素が注ぎ込まれた渾身のゴシック・アート#5. Faith Divides Us - Death Unites Usでの絶唱には涙を禁じ得ないレベルです。
前作の宗教感に加え、どこか超自然的な重圧を宿すまでに進化したParadise Lostの威厳に終始目を見張らされる逸品であります。
(Rating: 10/10)



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"Tragic Idol"

Album Type: 13th full
Style: Gothic Metal
Legth: 46:05
Released: 2012
Review:
第​​二の黄金期を迎えたバンドの熱量はそのままに、より古典的な音像を現代の俯瞰的な手法でキャッチーに再構築した作品13thです。
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全体的な作風としては、前作で解禁した7弦ギターを活かした体積の大きいヘヴィネスを基盤に、オーセンティックなヘヴィ・メタルの魅力を抽出して一体化させたものであると言えるでしょう。
まず、今作の制作にあたってトラディショナル・ドゥーム・メタルや正統派メタルを聴き漁ったというメンバーの発言は本作品を紐解く上で鍵となっており、例えばキーボードの使用頻度が1st、3rdと同程度まで抑えられた点や、稀代の録音技師Jens Bogrenが前作以上にアナログ的な温かみのあるミキシングを施した点などに、古典的な音像からの影響が窺えます。
そうした志向性にあって"ゴシック・メタル界のギター・ヒーロー"ことGregor Mackintosh(Gt/Key)は、彼岸へと向かう類の重苦しさに頭を押し潰されそうになるような従来の趣とは少し異なった、暗闇の底にあっても僅かな救いの手を掴まんとするヒロイック・メロディを炸裂させていきます。
"スローモーションのNWOBHM"とでも表現出来る狂おしいほどエネルギッシュな悲壮(悲愴ではなく)さは、誤解を恐れずに言うなら歴史的名作4thと代表作5thの間のミッシングリンクを埋めるものに成り得たでしょう。
また、シューゲイズ由来のアトモスフェリックな光を纏った幻想フレーズが揺らめく#3. Fear Of Impending Hellや、メロデス式の曇ったトレモロや節回しが活きる#6. In This We Dwellといった挑戦的なアプローチも見受けられるなどギターひとつ取っても中々のバリエーションで、しかもどれも一度聴いただけでGregor Mackintosh(Gt/Key)のそれと分かる強烈な個性が揺らいでいない点も高く評価したいです。
さて、元来Paradise Lostはあからさまに物悲しいフレーズを使わずとも人間や宗教の暗部を描き出せる稀有なバンドであった訳ですが、同時にそこには秘められた救済が常に横たわっていたのだと今作を聴いて改めて実感しました。
つまり、陰鬱&耽美&情熱+"秘めたる救済"がParadise Lostの真の構成要素であり、自己憐憫に埋没してしまった有象無象のバンドとの決定的な違いだとも言えます。
今作はそうした性質が分かりやすい形で表層化した作品であるため、入門編としても非常に適しているのではないでしょうか。
粒揃いの佳曲が連なる中、タイトル・トラックの#8. Tragic Idolは伝統派英国メタルがまだまだ死んでいないことを宣言するかのような生気を帯びた名曲です。
(Rating: 10/10)



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"The Plague Within"

Album Type: 14th full
Style: Gothic Metal, Death Doom Metal
Legth: 50:27
Released: 2015
Review:
新旧のParadise Lostの音楽要素を統合しつつ、更なる飛躍を遂げた会心作14thです。
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今作最大の特徴としては、最初期の彼らの作品群において主軸に据えられていたデス・ドゥーム要素の復活が挙げられるでしょう。
エクストリーム・メタルの枠組みから飛び出して随分と久しい彼らがここに来てデス・ドゥーム要素を再導入した原因については、Gregor Mackintoshの別プロジェクトVallenfyreの活動本格化やNick HolmesのBloodbath加入によるもの(両者共にオールドスクール・デス志向)と容易に推測出来ますが、肝心の音像自体は所謂"原点回帰"とは別の様相を示しています。
まず、近作で積極的に展開してきた正統派メタル由来のエピックなメロディを始め、伝家の宝刀である痛哭のメランコリック・メロディ、Candlemassを代表とするトラディショナル・ドゥーム直系の太く粘着質なグルーヴィー・リフ、ギター隊のオーセンティックなユニゾンを活かした重厚な厭世表現など、デス・メタル由来の乾いた暴力的なリフで圧力をかけていた初期とは趣を異にする豊潤なパフォーマンスが繰り広げられています。
また、前作で最低限に抑えられていたキーボード/ストリングスは荘厳で強圧的な交響アレンジあるいは生のストリングスに姿を変えて取り入れられ、デス・ドゥーム特有の禍々しい暗黒性にゴシックの妖気を付加させた点も見逃せません。
一方、近作の一部で効果的に採用されているサビが最初と最後に来る特殊な曲構成をエクストリームな緩急をもって再構築したり、Adrian Erlandsson(Dr)によるAt The Gatesさながらの激烈デスラッシュ・ビートを#8.Flesh From Boneに持ち込んだり、スオミ的な悲哀旋律を#10. Return To The Sunのヴァースに取り入れるなど、過去作になかったタイプのアプローチを違和感なく咀嚼して身につけた点にも、ベテランの座に甘んじない大胆不敵さが窺えます。
そして、歴史的名作の4th以来、22年ぶりとなるNick Holmes(Vo)の新しいグロウルも文句無しに素晴らしいです。
あまりある獣じみた邪気を血生臭く発散していた初期の咆哮スタイルとは全く異なり、今作では死の淵にある年老いた魔王の断末魔のような呪詛スタイルで業の塊を吐き出しています。
加齢による声量の衰えをプラスに変えるほどの表現力は並の歌い手では実現不可能な境地にありますし、長年グロウルを封印し普遍的な歌唱表現を深めてきた彼だからこそ、"グロウルでなければ出来ない表現"を逆説的に熟知しているのでしょう。
次作への伏線となるキャリア最重量の滅亡曲#5. Beneath Broken Earthでのパフォーマンスには思わず慄然とさせられ、悲壮極まるデス・アンセム#1. No Hope In Sightや#9. Cry Outでは生きるために負け戦に挑む人間の業が故の気高さのようなものを胸に突きつけられた気持ちになりました。
単なる原点回帰ではなく、新旧の音楽要素を飲み込みながらゴシック美学へと昇華させることで前進を果たしたParadise Lostの傑作であります。
(Rating: 10+/10)



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"Medusa"

Album Type: 15th full
Style: Death Doom Metal, Gothic Metal
Legth: 42:41
Released: 2017
Review:
キャリア史上最重量級のヘヴィネスを封じ込めたレトロ志向な作品15thです。
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10th以来、さりげなく新機軸アプローチを交えながら持ち前の悲壮なゴシック・メタルへと昇華させるという絶妙なバランス感覚を獲得したParadise Lost。
しかし、今作では全編でデス・ドゥームに焦点を合わせて邁進するという久しぶりに振り切った音像を提示することになりました。
前作の滅亡曲Beneath Broken Earthをレコーディングした時点でその方向性に確かな手応えを感じていた彼らであるからして、デス・ドゥーム要素の全編復活は自然な流れであると言えます。
とはいえ、やはりParadise Lostが初期の焼き直し的な甘い作品を発表することはなく、毎度ながら過去作とは異なった観点からオカルティックなデス・ドゥーム音像を創り上げました。
まず、今作で披露されているサウンドは、1stのようにデス・メタルとの境界が曖昧だった頃の力技的展開を乱発するタイプのデス・ドゥームではなく、CandlemassやPentagram、延いてはBlack Sabbathに代表されるトラディショナル・ドゥームから直接的に派生したデス・ドゥームなので、近作の持ち味であった正統派メタル由来の劇的なメロディ展開も作品の厭世観を損なわない程度に踏襲されています。
ブルージーなささくれを帯びた70'sハード・ロック調の埃っぽいギター・フレーズを聴かせたり、アナログ風ノイズを帯びた古びた音色の鍵盤を噛ませるなど、ヴィンテージ的と言っても過言ではないアプローチが随所で見受けられる点も特筆に値するでしょう。
つまり、今作は当時としてはモダン志向だった1stとは違い、彼らが初めて作品を発表する前に活躍していた先人達から色濃く影響を受けたレトロ志向な作風であるので、あくまでもそうしたニュアンスにおいてのみ原点回帰作と表現出来ます。
また、音圧の強まったとぐろを巻く野太いベースとヌメリとした不気味な音作りが恐ろしいハードコアなドラムからなる腐臭を伴ったリズム隊を基盤に、退廃世界の邪な不協和音を具現化したドゥーム・リフや獰猛なスラッジ・リフ、野卑な躍動感を持つスウェディッシュ・デス系リフを落とし込み、更には聴き手に畏怖の念を植え付けるNick Holmes(Vo)の老獪なパフォーマンスを被せることで、不浄な音の一発一発が持続的に母なる大地を毒していくという正しく欧州流デス・ドゥームなヘヴィネスを形成しているのも今作の大きな魅力。
ドゥーム・メタルに70'sロック的アプローチを取り入れると往々にしてストーナー・メタルのような胡散臭さが生じてくる訳ですが、より真に迫る呪術的なオカルト音像を追求した点はゴシック・メタルの始祖たるParadise Lostらしい矜持を感じます。
その上で、永遠の闇の中から俄かに漏れ出た今にも消えそうな希望を掬い出さんとする趣のヒロイック・メロディを前述の醜悪なドゥーム・サウンドと対比的に添え、陰影に富んだコントラストを作品に付与した点には英国人らしい繊細でアーティスティックな美意識を見出せることでしょう。
古来よりヨーロッパ芸術が標榜してきた"光があるからこそ闇が映える"という理論をレトロ志向なデス・ドゥームでやってのけた秀作であります。
(Rating: 10/10)



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Band: PARADISE LOST
Genre: Gothic Metal, Death Doom Metal
Nation: 🇬🇧
Thematic Years: 2012~2017



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"Tragic Idol"

Album Type: 13th full
Style: Gothic Metal
Legth: 46:05
Released: 2012
Review:
第二の黄金期を迎えたバンドの熱量はそのままに、より古典的な音像を現代の俯瞰的な手法でキャッチーに再構築した作品13thです。
IMG_2923
全体的な作風としては、前作で解禁した7弦ギターを活かした体積の大きいヘヴィネスを基盤に、オーセンティックなヘヴィ・メタルの魅力を抽出して一体化させたものであると言えるでしょう。
まず、今作の制作にあたってトラディショナル・ドゥーム・メタルや正統派メタルを聴き漁ったというメンバーの発言は本作品を紐解く上で鍵となっており、例えばキーボードの使用頻度が1st、3rdと同程度まで抑えられた点や、稀代の録音技師Jens Bogrenが前作以上にアナログ的な温かみのあるミキシングを施した点などに、古典的な音像からの影響が窺えます。
そうした志向性にあって"ゴシック・メタル界のギター・ヒーロー"ことGregor Mackintosh(Gt/Key)は、彼岸へと向かう類の重苦しさに頭を押し潰されそうになるような従来の趣とは少し異なった、暗闇の底にあっても僅かな救いの手を掴まんとするヒロイック・メロディを炸裂させていきます。
"スローモーションのNWOBHM"とでも表現出来る狂おしいほどエネルギッシュな悲壮(悲愴ではなく)さは、誤解を恐れずに言うなら歴史的名作4thと代表作5thの間のミッシングリンクを埋めるものに成り得たでしょう。
また、シューゲイズ由来のアトモスフェリックな光を纏った幻想フレーズが揺らめく#3. Fear of Impending Hellや、メロデス式の曇ったトレモロや節回しが活きる#6. In This We Dwellといった挑戦的なアプローチも見受けられるなどギターひとつ取っても中々のバリエーションで、しかもどれも一度聴いただけでGregor Mackintosh(Gt/Key)のそれと分かる強烈な個性が揺らいでいない点も高く評価したいです。
さて、元来Paradise Lostはあからさまに物悲しいフレーズを使わずとも人間や宗教の暗部を描き出せる稀有なバンドであった訳ですが、同時にそこには秘められた救済が常に横たわっていたのだと今作を聴いて改めて実感しました。
つまり、陰鬱&耽美&情熱+"秘めたる救済"がParadise Lostの真の構成要素であり、自己憐憫に埋没してしまった有象無象のバンドとの決定的な違いだとも言えます。
今作はそうした性質が分かりやすい形で表層化した作品であるため、入門編としても非常に適しているのではないでしょうか。
粒揃いの佳曲が連なる中、タイトル・トラックの#8. Tragic Idolは伝統派英国メタルがまだまだ死んでいないことを宣言するかのような生気を帯びた名曲です。
Music Video: #4. Honesty In Death
Favorite Track: #8. Tragic Idol
Rating: 10/10



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"The Plague Within"

Album Type: 14th full
Style: Gothic Metal, Death Doom Metal
Legth: 50:27
Released: 2015
Review:
新旧のParadise Lostの音楽要素を統合しつつ、更なる飛躍を遂げた会心作14thです。
IMG_0429
今作最大の特徴としては、最初期の彼らの作品群において主軸に据えられていたデス・ドゥーム要素の復活が挙げられるでしょう。
エクストリーム・メタルの枠組みから飛び出して随分と久しい彼らがここに来てデス・ドゥーム要素を再導入した原因については、Gregor Mackintoshの別プロジェクトVallenfyreの活動本格化やNick HolmesのBloodbath加入によるもの(両者共にオールドスクール・デス志向)と容易に推測出来ますが、肝心の音像自体は所謂"原点回帰"とは別の様相を示しています。
まず、近作で積極的に展開してきた正統派メタル由来のエピックなメロディを始め、伝家の宝刀である痛哭のメランコリック・メロディ、Candlemassを代表とするトラディショナル・ドゥーム直系の太く粘着質なグルーヴィー・リフ、ギター隊のオーセンティックなユニゾンを活かした重厚な厭世表現など、デス・メタル由来の乾いた暴力的なリフで圧力をかけていた初期とは趣を異にする豊潤なパフォーマンスが繰り広げられています。
また、前作で最低限に抑えられていたキーボード/ストリングスは荘厳で強圧的な交響アレンジあるいは生のストリングスに姿を変えて取り入れられ、デス・ドゥーム特有の禍々しい暗黒性にゴシックの妖気を付加させた点も見逃せません。
一方、近作の一部で効果的に採用されているサビが最初と最後に来る特殊な曲構成をエクストリームな緩急をもって再構築したり、Adrian Erlandsson(Dr)によるAt The Gatesさながらの激烈デスラッシュ・ビートを#8.Flesh from Boneに持ち込んだり、スオミ的な悲哀旋律を#10. Return to the Sunのヴァースに取り入れるなど、過去作になかったタイプのアプローチを違和感なく咀嚼して身につけた点にも、ベテランの座に甘んじない大胆不敵さが窺えます。
そして、歴史的名作の4th以来、22年ぶりとなるNick Holmes(Vo)の新しいグロウルも文句無しに素晴らしいです。
あまりある獣じみた邪気を血生臭く発散していた初期の咆哮スタイルとは全く異なり、今作では死の淵にある年老いた魔王の断末魔のような呪詛スタイルで業の塊を吐き出しています。
加齢による声量の衰えをプラスに変えるほどの表現力は並の歌い手では実現不可能な境地にありますし、長年グロウルを封印し普遍的な歌唱表現を深めてきた彼だからこそ、"グロウルでなければ出来ない表現"を逆説的に熟知しているのでしょう。
次作への伏線となるキャリア最重量の滅亡曲#5. Beneath Broken Earthでのパフォーマンスには思わず慄然とさせられ、悲壮極まるデス・アンセム#1. No Hope In Sightや#9. Cry Outでは生きるために負け戦に挑む人間の業が故の気高さのようなものを胸に突きつけられた気持ちになりました。
単なる原点回帰ではなく、新旧の音楽要素を飲み込みながらゴシック美学へと昇華させることで前進を果たしたParadise Lostの傑作であります。
Music Video: #5. Beneath Broken Earth
Favorite Track: #3. An Eternity Of Lies
Rating: 10+/10



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"Medusa"

Album Type: 15th full
Style: Death Doom Metal, Gothic Metal
Legth: 42:41
Released: 2017
Review:
キャリア史上最重量級のヘヴィネスを封じ込めたレトロ志向な作品15thです。
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10th以来、さりげなく新機軸アプローチを交えながら持ち前の悲壮なゴシック・メタルへと昇華させるという絶妙なバランス感覚を獲得したParadise Lost。
しかし、今作では全編でデス・ドゥームに焦点を合わせて邁進するという久しぶりに振り切った音像を提示することになりました。
前作の滅亡曲Beneath Broken Earthをレコーディングした時点でその方向性に確かな手応えを感じていた彼らであるからして、デス・ドゥーム要素の全編復活は自然な流れであると言えます。
とはいえ、やはりParadise Lostが初期の焼き直し的な甘い作品を発表することはなく、毎度ながら過去作とは異なった観点からオカルティックなデス・ドゥーム音像を創り上げました。
まず、今作で披露されているサウンドは、1stのようにデス・メタルとの境界が曖昧だった頃の力技的展開を乱発するタイプのデス・ドゥームではなく、CandlemassやPentagram、延いてはBlack Sabbathに代表されるトラディショナル・ドゥームから直接的に派生したデス・ドゥームなので、近作の持ち味であった正統派メタル由来の劇的なメロディ展開も作品の厭世観を損なわない程度に踏襲されています。
ブルージーなささくれを帯びた70sハード・ロック調の埃っぽいギター・フレーズを聴かせたり、アナログ風ノイズを帯びた古びた音色の鍵盤を噛ませるなど、ヴィンテージ的と言っても過言ではないアプローチが随所で見受けられる点も特筆に値するでしょう。
つまり、彼らが1stを発表する前から活躍していた先人達から明らかに影響を受けた作風であるので、あくまでもそうしたニュアンスにおいては原点回帰作と表現出来ます。
また、音圧の強まったとぐろを巻く野太いベースとヌメリとした不気味な音作りが恐ろしいハードコアなドラムからなる腐臭を伴ったリズム隊を基盤に、退廃世界の邪な不協和音を具現化したドゥーム・リフや獰猛なスラッジ・リフ、野卑な躍動感を持つスウェディッシュ・デス系リフを落とし込み、更には聴き手に畏怖の念を植え付けるNick Holmes(Vo)の老獪なパフォーマンスを被せることで、不浄な音の一発一発が持続的に母なる大地を毒していくという正しく欧州流デス・ドゥームなヘヴィネスを形成しているのも今作の大きな魅力。
ドゥーム・メタルに70sロック的アプローチを取り入れると往々にしてストーナー・メタルのような胡散臭さが生じてくる訳ですが、より真に迫る呪術的なオカルト音像を追求した点はゴシック・メタルの始祖たるParadise Lostらしい矜持を感じます。
そして、その上で果てしない闇の中から漏れ出た今にも消えそうな希望を掬い出さんとするようなヒロイック・メロディを前述の醜悪なサウンドと対比するように添え、作品のコントラストを強調している点にヨーロピアンらしい意識が表れています。
古来よりヨーロッパ芸術が標榜してきた"光があるからこそ闇が映える"という理論をレトロ志向なデス・ドゥームでやってのけた秀作であります。
Music Video: #7. Blood And Chaos
Favorite Track: #1. Fearless Sky
Rating: 10/10



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Band: PARADISE LOST
Genre: Gothic Metal
Nation: 🇬🇧
Thematic Years: 2005~2009



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"Paradise Lost"

Album Type: 10th full
Style: Gothic Metal, Dark Rock
Legth: 47:03
Released: 2005
Review:
自身が築き上げた巨大な牙城を打ち壊すことすら厭わない音楽変遷の末、Paradise Lostの第二の黄金期到来を告げるセルフ・タイトル作10thです。
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まず、全体的な作風としては、久方振りにGregor Mackintosh(Gt/Key)印のメランコリック・ギターを随所に盛り込んだ生演奏を主軸とする普遍的なアプローチを採用しつつ、ダーク・ロック系のオルタナティヴな作曲術を反映させた"中期回帰+α"路線と言えるでしょう。
前作において、インダストリアル直系のマシーナリーな感触が認められたギターとベースの音作りは温かみと丸みを幾分か取り戻していますし、ありとあらゆるスタイルを器用に捌いていた前任者と打って変わり、新メンバーJeff Singer(Dr)は基本に忠実なドラミングに徹しているので、Gregor Mackintosh(Gt/Key)による悲愴なギター・メロディがより際立って聴き手の心を掴みます。
一方、6thや7thで血肉化させたエレクトロニクスの恩恵を無駄にせず、電子ダーク・ウェイヴ由来のSF映画的オーケストレーション・アレンジで楽器隊の王道ゴシック・ロック的演奏を包み込み、その抒情美を増幅させているのも今作の特徴です。
また、Nick Holmes(Vo)は高貴なダンディ・ボイス、ブルーで物憂げな美声、エフェクトを効果的に噛ませたサイボーグ・ボイス、エモーショナルな中高音ハーシュ・クリーンを安定して使い分け、高いクオリティを実現する際に失われがちなサウンドの人間味を強く引き立てます。
浮世離れしたメランコリーが映像的な音空間の中で淡く輝く#2. Close Your Eyes、オルタナ式浮遊フレーズとケルティックなアコギが耽美な化学反応を生む新機軸#7. Laws of Cause、澱んだドゥーム・リフに幽玄なメロディが絡み付きながら咽び泣くギター・ソロと狂おしい熱唱で締め括るParadise Lost三大要素(陰鬱&耽美&情熱)が満載の佳曲#12. Over The Madnessなどは今作の作風の好例と言えます。
5th~9th集大成を思わせるバラエティを人並みならぬキャリアで培った整合性でもって組み立てたサウンドは、暫く退いていたゴシック・メタルの頂点に今一度君臨する可能性を示唆しました。
突き抜けた必殺曲の類はありませんが、"セルフ・タイトルを冠する10作目"に込められた想いの強さは本物でしょう。
Music Video: #5. Forever After
Favorite Track: #12. Over The Madness
Rating: 9/10


28688B78-3E89-40B7-8948-4FF8D94BCB23
"In Requiem"

Album Type: 11th full 
Style: Gothic Metal
Legth: 45:08
Released: 2007
Review:
再びメタル・モードに突入したParadise Lostが全身全霊を注ぎ込んだ傑作11thです。
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まず、今作の大きな特徴として挙げられるのはHR/HM様式のバンド・サウンドを過去作には見られなかった切り口を交えてプッシュさせたことでしょう。
80'sゴシック・ロック調の縦ノリな刻み、鉛色に濁ったハードな重金属リフは勿論、死臭が薄っすらとこびり付いた暗黒リフを弾き出すAaron Aedy(Gt)の攻撃的なプレイや、重低音の威力とうねりを一層強烈にするSteve Edmondson(Ba)のベース、小綺麗に纏まっていた前作とは一変して荒々しい叩きっぷりで楽曲に適度なキレを与えるJeff Singer(Dr)のドラミングなど、現代的な音作りで蘇ったドゥーミーなアンサンブルはここ数作で最もメタルらしいヘヴィネスを実現しています。
こうした重々しいサウンド・アプローチを深淵なる境地へと導くのは、やはりGregor Mackintosh(Gt/Key)に他なりません。
中近東調の魔性を封じ込めた旋律を新機軸として加えつつ、全編で絶大な存在感を発揮する灰色のメロディや劇的なソロ・ワークの大波は、まるで古の神話世界さながらの荘厳なドラマ性に当世風のデフォルメを加えたかのような趣です。
6th以降の作品で頻用されていた空間系エフェクトを施した浮遊フレーズの輪郭を今作で明瞭化させた点も、バンド・サウンドに重きを置いた作風に合致していると言えます。
とはいえ、7thでHR/HM様式に頼らない"重さ"を会得した彼らであるからして、ここ数作をヒントに改良を加えた重厚なオーケストレーション・アレンジを操り、儀式めいたアトモスフェアを異なった角度から立体的に投影することにも成功しています。
この辺りの絶妙なバランス感覚は、自身が定めた音楽性へ極端なまでに振り切れがちだったかつての彼らにはあまりなかったもので、第二の黄金期(10th以降の作品群)の特徴でもあります。
そして、Nick Holmes(Vo)のパフォーマンスもまた非常に高レベルで、諦念を帯びた穏やかな歌声、貴族的な華と絶望感を併せ持つバリトン・ボイス、グルーヴ・メタラー顔負けの威圧感を放つ咆哮型シャウト、ありったけのエネルギーを強かに乗せた伝家の宝刀ハーシュ・クリーンを場面に応じて使い分けていきます。
活動歴約20年目にして、遂にAaron Stainthorpe(My Dying Bride)やTilo Wolff(Lacrimosa)らに代表される"ゴシック・メタル界のストーリー・テラー"とでも言い表せる王者の覇気がその身に宿ったように感じました。
密教ような空気感で東洋的荘厳さを生む#1. Never For The Damned、一度聴いたら忘れられないキャッチーなコーラスを悲愴なソロと対比させた野心的なアンセム#3. The Enemy、時の流れが減速したかのように錯覚してしまうメロディ重ねの妙技が光る#4. Praise Lamented Shade、ダーク・ウェイヴ系の耽美な交響音と悟りの域に達したボーカルが揺らめく#11. Your Own Realityなど、キャリア史上最高のバランス感覚で持続する鎮魂歌のオンパレードは他の同系統のバンドを圧倒する次元にあります。
数年の音楽的冒険を経て、ゴシック・メタル史に燦然と輝く新たな金字塔がここに誕生したのです。
Music Video: #3. The Enemy
Favorite Track: #4. Praise Lamented Shade
Rating: 10+/10


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"Faith Divides Us - Death Unites Us"

Album Type: 12th full
Style: Gothic Metal
Legth: 46:02
Released: 2009
Review:
黄昏の玉座に腰を下ろしたゴシック・メタルの主神が、宗教と信仰の陰を白日の下に晒す黙示録トーンで語りかけた作品12thです。
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まず、Gregor Mackintosh(Gt/Key)とAaron Aedy(Gt)両名の7弦ギター解禁によって、初期とはまた異なるブルータリティを手にした点は今作の大きな特徴です。
ただし、7弦ギターを導入したと言えど、巷で溢れ返っていたメタルコアやジェント風の小綺麗な音作りには陥っておらず、あくまでも90'sドゥーム様式をそのままアップデートさせたかのような陰湿な粘り気を肌で感じられる職人気質な音作りが施されています。
こうしたサウンド面の進歩も手伝って、"ゴシック・メタル界のギター・ヒーロー"ことGregor Mackintosh(Gt/Key)による熟練のパフォーマンスは過去最高の冴え渡りを魅せており、聴き手を灰色の炎で焼き尽くす必殺のメランコリック・メロディを筆頭に、神話的スケールで悲壮に弾き出される煽情力満点のソロ・ワーク、オリエンタルな渇きを強調した妖しい節回し、80'sゴシック調のジメジメとした不穏さを孕んだ浮遊フレーズ、静謐な空間を利用して情趣的に紡がれる幽玄なアルペジオ、荒れ狂う嵐さながらのデス・メタリックなトレモロなど、全編を通して主役級の活躍を発揮しているのが非常に印象的です。
楽曲終盤で一気に天へと突き抜けるようなカタルシス表現をギター・メロディが担っていることや、キーボードを裏方に徹させた辺りは3rdの構成術を想起させますね。 
また、ギター・メロディの間を縫って狡猾に這い回るSteve Edmondson(Ba)のベース、Aaron Aedy(Gt)による地を揺るがすが如き極太ドゥーム・リフ、怒涛のスネア叩きが衝撃を起こすドラムで、柔軟さと硬さを併せ持ったグルーヴを更に強化した結果、巨大な躍動感が楽曲にもたらされた点も印象深いです。
そして、前作で"ゴシック・メタル界のストーリー・テラー"にまで成長したNick Holmes(Vo)は、グロウルと同種類の獰猛さと老練な凄みが同居した咆哮型シャウトを緩急自在に取り入れ、メロディックなギターと対比するように普段よりも直線的なパフォーマンスを披露しています。
エッジを薄く鋭く研ぎ澄ますことで咆哮型シャウトと差別化された切り札のハーシュ・クリーンが信じられないほどの悲哀と苦悩の念を乗せた負の炎と化して迫る様や、ヴァースで使用されるナイーヴに濡れた美声も含めて、彼の表情豊かなボーカル・ワークはギターが主役の今作でも輝いています。
名曲Forever Failureに負けずとも劣らない濃度でバンドの三大要素が注ぎ込まれた渾身のゴシック・アート#5. Faith Divides Us - Death Unites Usでの絶唱には涙を禁じ得ないレベルです。
前作の宗教感に加え、どこか超自然的な重圧を宿すまでに進化したParadise Lostの威厳に終始目を見張らされる逸品であります。
Music Video: #5. Faith Divides Us – Death Unites Us
Favorite Track: #8. Last Regret
Rating: 10/10

 

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